フェバル〜青年ホクヤの軌跡〜   作:Cr.M=かにかま

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プロローグ
1.故郷に別れを


最近、何だか妙に身体の調子がいい。

ちょっと気合を入れたら動かせない物を動かせたり、気分がいいと身体が軽くなって普段よりも早く走れるような気がする。

それと、妙な夢を見ることも多くなった。

俺、ホクヤ・フェルダントは今日もまた変わらぬ風景を見ながら黄昏ている。

 

紫色の空、金属の山と砂漠に囲まれた大地、時折空から降ってくる俺たちが「ギフト」と呼んでいる高文明の機械や鉄屑。

昔、大体三十年前くらいか。

五百年に渡って大きな戦争が続いていたこの土地の物資は枯渇寸前であと百年保てば奇跡といわれるほどギリギリの状態である。

そんな時、俺がまだ子供だった頃に降ってきたギフト。

どこからやって来たのかわからない、何で降ってくるのかもわからない。

とりあえずギフトが降ってきてからは物資の問題は解決したのだが、食糧の問題が残っていた。

もう生き残りもそんなにいるわけではない、食べられるものは既に食べ尽くされている。

保存してある先人達からの贈り物も残りわずか、水も満足に入手できないから風呂も中々入れない。

 

俺はさっき降ってきたギフトに座りながらそんなことを考える、それでも空の色は変わらず紫色だった。

 

「.....このまま何もせずに死ぬのかな、俺」

 

両親は他界、二人いた姉も片方は既に自殺、友人達も生活がギリギリ、俺もかなりギリギリなので人のことを言えた柄ではない。

気分転換にオカリナを吹こうとオカっち(オカリナの名前)を取り出したときだった。

 

−−−ドクン。

俺は胸に激しい動悸を感じ取った、今までにない激痛だった。

姉の料理を食べたときの痛みとも殴られたときの痛みとも人を初めて殺したときの痛みともまた違う。

気がつけば激しく汗も掻いていた、まだ出る水分があったとは自分でも驚きだった。

 

−−−ドクン。

 

「ホクヤ、ね?」

 

「.....ア?」

 

動悸のせいで反応が遅れてしまったが、背後から俺を呼んだであろう声に振り返る。

そこには見たこともない女性が立っていた。

三角に尖った大きなツバのある黒い帽子を被り、露出度の高い黒いローブを着た金髪の女性だった。

右手には杖のようなものを所持している。

 

「ちょっと聞いてる?あなた、ホクヤ・フェルダントで合ってる?」

 

「あんた、誰だよ?ていうかどっから来たんだよ、この辺の奴じゃないだろ」

 

「合ってるみたいね。たしかに私はこの星の者ではないわ」

 

(この星?)

 

「突然だけど、貴方には死んでもらうわ」

 

「は?」

 

俺が思わず間抜けな声を出してしまった次の瞬間、金髪の女の持つ杖の先端から刃が出現し俺の喉元を貫いた。

 

−−−ドクン。

そのはずだった。

それは俺も金髪の女性もそう思っていた、しかし刃が俺の喉元を貫くことはなかった。

 

「まさか、間に合わなかった...?」

 

金髪の女性は杖を手放し、膝から崩れ落ちてしまう。

カランカラン、と杖が音を立ててギフトの上から地面に静かに落下する。

何が何だかわからんが、助かったのか。

 

「おい」

 

「ひゃい!?」

 

ガシッ、と俺は女性を逃すまいと肩を力強く掴む。

あんたに恨みはないが、聞きたいことが山ほどある!!

 

「教えてくれ、俺に何が起こってるんだ!?」

 

「ぇ、えっと...」

 

何故彼女に俺の身体に起こってることを尋ねたかって?

感だよ、感。

 

女性は戸惑いながらも早口に自己紹介を始める。

彼女はエーナと言いフェバルという星々を渡り歩く旅人らしい。

 

「そして、貴方もフェバルになった。いえ、なりかかっているというのが正しいわね」

 

「俺が、フェバルに?」

 

「.....私はフェバルになる人たちを救うためになる前に何とかしている。強引な手段だけどね、さっきみたいにね」

 

さっきみたいに、とはおそらく人を殺すということだろう。

そんな話をしていると俺の身体が透け始めてきた。

白い光の粒子が天に昇っていくのがわかる。

 

「貴方はこれから永遠に星々を旅することになる。フェバルは不死身、死ぬことのできない身体になるの、そうなる前に私は、【星占い】でこの運命から救おうとしたのだけどごめんなさい、貴方をもっと早く見つけていれれば」

 

「エーナさん、気にしないでくれ。俺の人生なんだ。あんたが謝ることなんて何一つない、それに言っちゃなんだけど結構楽しそうだし」

 

「.....貴方は優しすぎる、殺そうとしたことを責めなかった」

 

「あんたなりの理由があったんだ、悪意があったわけじゃないんだろ?それに異世界ってのにも興味がある。もうここは死んだ土地だ、いつか旅立つ予定だったんだ」

 

あぁ、何言ってんだろな俺。

こんなの柄じゃない、エーナさんも何かポカンとしてるし、呆れられたかもしれないな。

シリアスなんて俺には似合わない。

もっと楽観的に、いこうとしたら大地から体が離れていた。

どうやらエーナさんの言った通りみたいだ、俺はもうここにはいられない。

 

「エーナさん。もしどこかでお会いしたときは色々と教えてください、何分ここ以外は不慣れなもので」

 

「.....ふふふ、変な人。そうね、貴方の知らないこともいっぱいあるものね」

 

「楽しくやりますよ、それが俺のスタンスですか」

 

ら、と言おうとしたらゴォ!と勢いよく体は空に飛んでいった。

ちょ、最後まで言わせてよ!

段々と紫色の球体が遠ざかっていく、多分あそこが俺の今までいた星なんだな。

 

さよなら、故郷。

さよなら、皆。

 

俺は目尻に涙を浮かべつつも精一杯笑いながら星屑の道に従い暗い中小さな輝きを放つ星々と共に故郷に別れを告げた。

 




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