インフィニット・ストラトス~悪魔は乙女と踊る~   作:ラグ0109

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#41 難題と日常と

――紅椿。

現行最強を目指して開発されたこの()()()()ISは、今世界中で躍起になって開発している第三世代型を置いてけぼりにするほどの性能を秘めている。

それは最早この世界においてどのような財宝よりも輝かしく、そして人々を魅了するに余りあるポテンシャルを秘めている。

こんなものを小娘の専用機として与えようと言うのだから、天井からつるされている天災殿は考えが甘い…。

 

「アモーン、どーして束さんは吊るされなきゃいけないのさー!?」

「じゃかしぃわい!とんでもねぇ爆弾作りやがって!」

 

意気揚々と紅椿の性能のレクチャーを束から聞かされた俺は、片付けた筈の頭痛の種が再び戻って来たのを感じ取り、これ以上作業を進めさせる訳には行かないと言わんばかりに素早く束の身体を縛り上げ、駿河問の状態で天井に吊るし上げた。

此奴の場合、ただの縛り方では簡単に抜け出してしまう可能性があるからな…。

 

「爆弾だなんて酷い言い草だね!?こんなにも箒ちゃんピッタリなISなのに!!」

「だから爆弾なんだろうが!ガン○ムに初めて乗ったセ○ラ状態になるっつーの!」

 

訓練の成績を見る限り、現時点の箒のIS実戦訓練での評価はB+と言ったところだ。

これは本人自体にISに対する想いが何処か希薄な部分がある所為で、真面目に取り組んではいるものの身に入ってきていないのが原因なのではないか…と思っている。

理由は言うまでも無く、今吊るされている束が原因だろう。

聞くところによれば、束がISを開発して大々的に世界にアピールした直後、篠ノ之家が政府の重要人物保護プログラムの対象になってしまったそうだ。

世界のパワーバランスを簡単に突き崩してしまうIS…その開発者たる束の弱みであるであろう家族を()()()保護するのは政府としては当たり前の措置ではあるものの、当時小学4年生…多感な時期である箒にとっては恨みたくなるような境遇に陥ってしまったことになる。

また、束も束で接触できるにも関わらず接触することを怠ってきたために弁解するチャンスを放棄してしまい、姉妹仲は崩壊した状態になってしまった。

そんな事もあり、箒自身のISに対する想いは非常に複雑だ。

――家族を離れ離れにした存在。

―――嫌っている姉の作った存在。

――――そして…想い人と再び巡り合わせてくれた存在。

そんな、複雑な心情が中で渦巻いているなら、ISの訓練に身が入る訳がない。

そも、一夏と一緒に居ると言う為だけにISを利用しているならば猶更に。

大方、嫌いな姉に恥を忍んでISを強請ったのも一夏の周囲に専用機持ちが多かったからって所だろうよ。

さて…どうしたものか…。

 

「なぁ、束…お前自分の事を天才だって言って憚らねぇよな?」

「もちのロンさ!なんて言ったって束さんは誰にも作れないISの産みの親なんだからね!私以外の凡俗が立ちはだかった所で、この束さんに勝てるわけないじゃん!あ、勿論ちーちゃんとアモンは別だけどね…グヘヘ…」

「…お前は誰にも止められねぇわな…けどよ、箒はどうだろうねぇ…?」

「…何が言いたいのさ?」

 

束は確かに天才かつ人災故に天災である。

彼女は他に誰も思いつかないような独自の発想を以て常に人類の一歩先を見通し、結果として文明レベルから見ても異質としか言いようのないISの開発に成功する。

そんな存在に人類が対抗するのは生半可な事では不可能であり、事実として各国から指名手配されているような状況かで尻尾すら掴ませず、そしてありとあらゆる非人道的研究の全てを握りつぶしてきた。

故に…故に、彼女は()()()()()()()としてしか物事を見れなくなってしまっている。

そして、身内の評価は激甘なのだ…。

 

「いんやー?平々凡々の箒じゃそんなじゃじゃ馬扱いこなせるわけがねぇんだよなぁ…。一夏が初手から上手く扱えたってのは、本人に上昇志向があったからってのがデケェ。だがよ、箒は真面目に授業を受けちゃいるが、あくまでも一夏ありきでしかISに向き合えていねぇ気がすんだわ…」

「別にそれでもいーじゃん?それの何が問題だってのさ」

「そいつ、ナンバー的には470個目のコアを使ってるだろうが…箒を中心にしてドロッドロの政争が始まんぞ。基本的にゃ所属は日本って事になるだろうが、果たして最新鋭且つ頂点に位置するようなISを他の国が黙って見てるかねぇ…?」

 

紅椿は、聞く限りであれば現状この世界で頂点に位置するISだ。

予定されているワンオフ・アビリティや展開装甲と呼ばれる特殊装甲…これらは今この世界では机上の空論程度の産物であり、実際に造り上げる事が出来たものは束を除いて存在しない。

そんな機体を日本が独占する…ともなれば、各国はパワーバランスの均衡を崩すと言う名目で確実にちょっかいを出してくるだろう事は想像に難くない。

この機体をIS学園所属の機体として登録してしまう…と言う事も考えられるが、その場合実質的な上位組織であるIS委員会からのちょっかいが入ることが予想されるため、これも悪手。

最悪『ころしてでも うばいとる』…なんてことが起きかねない。

 

「そんなの、束さんが黙らせるに決まってるじゃん?」

「その結果お前さんは重犯罪者扱いになって、箒の肩身が狭くなるだけだっつの…。いい加減もうちょい視点合わせろ。束1人が中心って訳じゃねぇんだよ」

「束様…此処はアモン様の言うとおりにすべきかと。私は束様がどのような存在であろうと御傍に居ます…ですが、束様が苦労なされるのは…嫌です」

「……」

 

束が何か反論を言おうとする前に、今の今まで黙り続けていたクロエが静かに言葉を口にする。

それは正しく本心から出た言葉であり、真摯な想いが込められている。

これには束もバツが悪そうに視線を彷徨わせ、暫らくしてから大きく溜息を零す。

 

「はぁ~~…それで、どうすれば良いのさ?」

「娘にゃ弱いねぇ…束も人の子か…」

「…ぷいっ」

 

俺がニヤニヤとした笑みを浮かべて束を見上げると、心底不機嫌そうな顔で束は顔を背ける。

他人の説得に折れてしまった…と言うプライドが傷つけられる事態が不満で仕方が無いのだろう。

俺は軽く肩を竦めて束を縛り上げていた糸を解いてやり、天井から落ちてきた束の身体をしっかりと受け止めてやる。

 

「おーら、むくれてねぇで機嫌治せっつーの」

「束さんは悪くないです~、世界が悪いんです~」

「あー、はいはい悪くない悪くない」

「…クス」

 

まるで赤ん坊をあやす様に背中をよしよしと撫でながら束を宥めていると、傍らに居たクロエから笑い声が漏れ出す。

俺と束はハッとなってクロエの方へと向くものの、クロエはいつも通りのすまし顔を気取っている。

 

「なにか…?」

「クーちゃん、今笑わなかったかな~?」

「いいえ、滅相もありません。ところで、この地下施設への入り口が開けっ放しでしたので…」

 

クロエは至って平静に受け答えをし、この空間の出入り口を指で指し示す。

其処にはこめかみを若干痙攣させながら、精一杯の笑顔を浮かべて仁王立ちをしている千冬の姿があった。

…これは駄目かもわからんな。

 

「随分と楽しそうだな…束?」

「あ、ち、ちーちゃん…」

 

束はギギギ、とさび付いた金属関節の様にゆっくりと千冬の方へと顔を向け、引き攣った笑みを浮かべる。

この反応を見るに、この施設どころかISすらも相談なしで造り上げていたのだろう…。

ただでさえ厄ネタの多い状態で、更なる厄ネタを用意してますなんて言えるわけがないしな。

 

「貴様の後ろにあるものはISだと思うのだが…勿論、事細かに教えてくれるのだろう?…叩き出されたくなければ」

「アッハイ」

 

つかつかと千冬は此方へと歩み寄って無造作に束の顔面を鷲掴みにし、ずるずると引きずりながら紅椿の元へと歩いていく。

俺はその様子を眺めてから、クロエに対してポツリと呟く。

 

「飯の用意しよ」

「承知しました」

 

 

 

「まったく…まっっっったく!厄介なものを作ってくれる!」

「あんまり飲むと明日に響くぞ、おい」

 

クロエを伴っての夕飯づくりは滞ることなく終えることが出来た。

俺が留守にしている間は鈴に指導してもらい、基本的な調理は一通りこなすことが出来る様になっている。

ただ、俺は大雑把にしか料理をしないのに対し、クロエの場合は計量器を用いて正確な分量で料理をしたりするので、その辺りで齟齬が合ったりする。

分量が正確ならば、まず失敗はしない筈なのでこれはこれで問題ない。

夕食を終えた後、クロエはそそくさと寮長室を出て行ってしまった。

なんでも、寮長室に寝泊まりするのも問題がある…と言う学園上層部の意向があっての事で、今は1人部屋で寝泊まりをしているそうだ。

そんなわけで、現在…俺は両手に華状態とは言え酔っ払い2匹に絡み酒を戴いている状態になっている。

千冬はタンクトップに下着だけの色気も欠片もない姿で俺の左腕をガッチリとホールドする形で抱き着き、日本酒をまるで水か何かの様にハイペースで飲み続ける。

 

「え~~ちーちゃん酷いでござるよ~?こーの束さんが作ったものに厄介なものなんてないんだぜ~、ぐへへ~」

「はいはい、だ~れも悪くねぇ悪くねぇ…」

 

束は束でこの後のお楽しみを既に期待しているかの如く、ブラウス1枚だけを羽織った状態で俺の足にうつ伏せの状態で上半身を乗せて足をバタバタとさせている。

こっちはこっちで規格外なのか酒を飲んでも酔っている素振りをみせない。

もっとも普段から酔っぱらっているかのような奇天烈っぷりを見せるのだが。

 

「やかましい、ただでさえお前の面倒で手いっぱいだと言うのに、ガキにあんなもの持たせられるわけないだろう?」

「ガキじゃありません~。箒ちゃんって言うプリチーな名前があるんです~」

 

…結局、紅椿はまだ渡さないと言う事で決着がついた。

専用機持ちになると言う事は生半可な努力で成せるものではない。

それは数多いる国家代表候補生の中でも、ほんの一握りの人間しか所有していない事からも窺い知ることができる。

特に突出したものを持っている訳でもない箒が現時点でポンと専用機を得た…なんて事が起きれば間違いなく人間関係に軋轢を生んでしまう。

もっとも、本人は一夏との繋がりを保てればそれで構わないのだろうが…。

ただ、教師と言う立場から見ると、将来的な問題も考えてそんなことを容認する訳には行かない。

よって、まずは面談をして本人の考えや覚悟を聞き出し、今月行われる学年別トーナメントの成績を以て仕様を決定し引き渡すことにする。

場合によっては、スペックを第3世代試験機レベルにまで落とす予定だ。

低スペックで突出した能力が無いともなれば、監視対象にはなるだろうが大分興味は薄まるはずだからな。

仮に箒が専用機持ちになると言う覚悟を持ち、トーナメント上位に食い込むほどの成績を残すのであれば…。

 

「まぁ、落ち着け…その話は決着ついただろうが。そういや、トーナメントの形式変えるんだったか?」

「あぁ、2on2のタッグマッチ形式だ。最低でも稼働可能なISが2機、会場内に居ればアクシデントにも対応しやすくなる。前回のクラス別対抗戦でも一夏と鳳が良い仕事をしたからな」

「何も無きゃいいが…あぁ、聞きそびれてたんだけどよ…V.T.って言葉に聞き覚えあるか?」

 

パリにてスコールが別れ際に寄越した単語…V.T.。このイニシャル染みたものは学園のデータベース上にも存在しておらず、終ぞ俺は正体に辿り着くことが出来なかった。

俺がこの単語を口にした瞬間、2人とも戯れるのを止めて真剣な表情で此方を見つめてくる。

 

「その言葉…どこで聞いた?」

「パリでこの間の襲撃犯と出くわしたときにな。リップサービスなんだろうが、V.T.は生きているっつー言葉を残していきやがってな」

「『Valkyrie Trace System』…?あんな時代遅れまだ研究してたの?」

 

千冬と束は嫌悪感を露にしてしかめっ面になる。

Valkyrie Trace Systemが言葉通りのものだとして、考えられるのは…モンド・グロッソ出場者の中でも各部門優勝者の通称であるヴァルキリーの模倣。

となるとマンマシーンインターフェースとして積まれるものだろうから…。

 

「おおよそ、アモンの考えている通りのものだ。V.T.はモンド・グロッソにて栄誉に輝いたブリュンヒルデ及び各部門ヴァルキリーの動きを機械的に再現するシステムだ。勿論、それを扱う人間の事など考えず強制的に動かしてしまう為、()()()の様な挙動を行う。よって、制御が効かない代物になってしまってな。現在のISの認識のまま使用するとなると非人道的極まり無くなるため、IS委員会が研究の即時停止を命令した」

「そのあと、この束さんが研究施設をペシャッて潰したり、データと言うデータにウィルス貼り付けて消したりして丁寧に世間から失くしてあげたんだけどねぇ…無人機の件と言い何処の誰なんだろうねぇ…?」

 

表向きはキチンと命令に従って研究を止めていたが、どこぞの誰かがそのシステムの研究を続けていたって事か。

生きている…と警告をしてきた以上、恐らくこの学園に所属しているISのいずれかに積まれてしまっている可能性があるわけだな。

 

「千冬、今からISの一斉点検を行う事は可能か?」

「この学園管轄のISであれば問題ないだろうが、日本所属の専用機以外は皆渋い顔をされるだろう。なんせ条約違反の代物が自国の専用機に積まれていたとなっては外聞が悪すぎる。そんなことが露見すれば自国のISコアを取り上げられる可能性だってあるからな」

「~~っ!また腹が痛くなりそうなもんを…」

 

面子と外聞は国にとって重要なものだ。

それらがおざなりになってしまえば、国と国同士の対等な会話すらできなくなってしまうのだから。

 

「ま~ま~、あんなシステムなんて起動した所でこっちからシャットアウトしてあげればどうとでもなるし?もーまんたい、もーまんたい」

「って訳にもいかねぇんだよ。変に問題が起きれば学園の弱みに繋がって、こっちが不利になる…かといって強硬策にも出れねぇからなぁ…」

「お前とて、ここから出ていく羽目になるのは嫌だろう?」

 

千冬の言葉に束は満面の笑みを浮かべて、俺の首筋に思い切り抱き着いてくる。

 

「なら、気張れよ束?無人機の件と言いお前を出し抜いてきたやつらの謀の可能性があるからな」

「これも此処に居る為の必要経費か~…凡俗がどうなろうと構わないけど、それで居られなくなるんじゃ本末転倒だし」

 

束は珍しく素直に頷いた後に、何を考えたのか俺の耳に噛みついて舌をいきなり這わせてくる。

俺は背筋に走る悪寒に身体を思わずびくつかせて、片手で束の顔面を掴んで耳から離させる。

 

「何考えてんだ束!?」

「何って…そりゃナニでしょう?束さん我慢したのでそろそろご・ほ・う・び…欲しいなぁ~」

「ほう…勿論私もご相伴に預かれるんだろうな?」

「もちのロンさ!」

 

千冬も負けじと俺の身体に抱き着いてきて首筋にキスを落とし、普段からは想像もつかないような妖艶な笑みを浮かべる。

2人は俺の返答を聞くまでも無く衣服へと手を伸ばし――

 

 

――このあと滅茶苦茶以下略。




翌日、やたら肌に艶が出ていた千冬と束が寮内で仲良さそうに談笑しているところを目撃され、色々と騒ぎになったのは別の話である。
エロ?気が向いたらね(体力消費量が凄まじい為)

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