インフィニット・ストラトス~悪魔は乙女と踊る~   作:ラグ0109

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#36 汝、血を奉げよ

IS学園の地下には、地上に存在している施設よりも大きい規模の設備が整えられている。

それは学園の如何を整える為であり、またあらゆる脅威に対して即時対応できるようにする為でもある。

それだけ学園には価値あるものが多く存在していると言う事だ。

現行の技術力の粋を集めてもきっかけすら作ることができないISコア…それが諸外国よりも多く集まっている場所なのだから、、当然と言えば当然の備えである。

従って、教員1人1人の実力は言わずもがな、各国のエースパイロットに比肩する程の実力を持つ腕利きが集っている。

とは言え、そんな腕利きも訓練しなければ実力が鈍り本領を発揮することは叶わなくなる。

だが、地上のアリーナなどで訓練を行うとなれば、生徒達が委縮してしまう可能性がある。

あくまでも穏やかな学園生活を、という理事長の方針があるからだ。

では、どうするのか…それが、今俺が居る地下のIS訓練場だ。

地下空間と言う事もあってアリーナはこの1つしかないものの、規模としては1番大きい第一アリーナに匹敵するほどだ。

俺はアリーナの真ん中に立ち尽くし、煙草を吸って時間を潰す。

天井から煌々とした灯りが全体を灯しているので薄暗いと言う事は無く、むしろ昼間の様に明るく感じてしまう。

 

『アモン、本気でやるんだな?』

「本気じゃ無けりゃならねぇのさ。ここで心が折れるんなら、一夏は所詮その程度…俺やお前が鍛えるだけの価値はねぇ」

『…分かった。私も、腹を括ろう』

 

一夏が啖呵切った日から、千冬からは再三に渡って手加減を言い渡されていた。

弟を可愛がるがあまりの行動ではあるものの、今回に至ってはそれは余計なお世話と言うものだ。

一夏は覚悟を既に決めていて、俺はその覚悟を受け止めてやらなければならない。

 

「で、専用機持ちは全員居るのか?」

『あぁ、見るだけでも価値あるものではあるだろうしな』

「ハッ、一方的な蹂躙に価値があるものかよ」

 

千冬の言葉に鼻で笑いながら肩を竦める。

これから行われるのは決闘であって試合ではない。

ルールなんてあってないようなもの…どちらかが倒れるまで続く獣の争いそのものだ。

もしそれに価値があると言うのであれば、それは酔狂な人間だろう。

もしくは…それに興奮を覚える人間か…。

もっとも、それは俺と一夏には関係のない話だ。

奥に見えるゲートから、純白の甲冑を思わせるISを身に纏った一夏が勢いよく飛び出してくる。

後付武装を格納できない白式の武装は雪片弐型一振り…付け焼刃の技術しかない銃器を持たずに、真っ向勝負で俺に向き合うつもりらしい。

 

「俺相手に真っ向勝負か?」

「俺には此奴しか無いからな…兄貴を叩きのめしてみせるさ」

「あまりデカい口叩くもんじゃねぇぞ、一夏」

「っ!!?」

 

火のついた煙草を指先で弾いた瞬間に、黒鬼を身に着けて一夏の背後へと転移する。

時間にして刹那にも満たない時間だ。

俺は一夏に反応する事すら許さずに、後頭部を鷲掴みにする。

 

「どっこいしょと」

「ぐぁっ!!!」

 

そのまま地表に向かって瞬時加速をかけ、顔面からアリーナのコンクリートに覆われている床に叩きつける。

弾丸よりも速い速度での落下は容易く床をクレーター状に砕き、破片が宙を舞う。

そのまま2度、3度と頭を床に叩きつけた後に空中に放り出して、強烈な回し蹴りを一夏の無防備な胴体に叩き込む。

 

『アモン!試合はまだ!?』

「試合?これは試合じゃねぇよ…ガチの殺し合いだ。此奴が俺に喧嘩を売った。俺が此奴の喧嘩を買った。そうなったら俺のルールじゃ殺し合いになるんだよ」

 

回し蹴りが一夏に炸裂した瞬間、妙な手応えを感じた。

咄嗟に雪片弐型を構えて蹴りを受け止めたらしい。

普通の人間だったなら、すでに顔面がザクロの様にミンチになっている筈だが…ISの絶対防御は本当に絶対に守ってくれるらしい。

まるでボールの様に蹴り飛ばされた一夏は、床を二転三転と転がった後に腕の力を利用して高く跳躍して軽く咳き込む。

 

「甘っちょろい考えは失せたか?」

「あぁ、お陰様で…本当に手段問えなくなりそうだ」

「初めから言ってるだろうが…まずは此処まで近付いてこい。できるもんならな」

「言ってろクソ兄貴!!」

 

俺は大仰に腕を交差させてから迎え入れる様に開き、鬼面に覆われた顔で一夏を睨み付ける。

一夏は雪片弐型を両手でしっかり握り込み、刃を肩に担ぐ様にして構える。

腕で胴体をカバーし、最速で突っ込んで思い切り振り下ろす。

単純だが一撃必殺を狙うには最適解とも言えるだろう。

これが生身であるならば、狂人と言える。

しかし身に纏うものは天才が作り上げたIS…そこら辺の鎧よりも堅いものが一夏自身の体を守ってくれるのだ。

で、あるならば…後は度胸と技術がモノを言うんだろうな…相手が普通であるならば。

 

「征!く!!ぞぉっ!!!」

 

一夏は1度体を丸める様にして空中で踏ん張り、思い切りのいい瞬時加速を行う。

プロのそれと見比べても遜色ない速度は、確かに速い。

だが、反応できない訳ではない。

腕を広げたまま指を少しだけ曲げると、一夏は察知したのか無理矢理横方向へとスラスターを噴射させて軌道を変更し、俺への突撃コースを無理矢理捻じ曲げる。

俺はそれを一歩も動かず、頭すら動かさずに腕を軽く広げる動きをして追撃をかける。

一夏が察知したもの…それはハイパーセンサーで辛うじて見えるレベルまでに研ぎ澄まされたワイヤーブレードの群れだ。

両手十指から放たれるワイヤーブレードは、俺の繊細な指の動きに合わせて猟犬の様に、あるいは毒蛇の様に一夏を追い立てる。

一夏は体勢を整えて細かくスラスターとPICによる操作で機体を小刻みに動かし、絶えず襲い掛かるワイヤーブレードを懸命に切り払っていく。

 

「くっ…!」

「口だけで生きてると大変だなぁ…肝心要の時に何も出来やしねぇ。大見得切ったところでガキにできる事なんざ何もねぇのさ」

「違うっ!俺は俺が守ると決めたものを守る!絶対にだ!!」

 

挑発するように顔を向けずに一夏を焚きつける。

一夏はそれでも諦める事はせずに果敢に俺に向かって躍りかかってくる。

その距離は一向に縮まらないにも関わらずに。

 

「言うねぇ、言うじゃねぇか。だが、今のお前はなんだ織斑 一夏?俺に傷1つ付けられずに立ち往生してるテメェは、本当に守りたいもの守れんのか?」

「くっ…!!」

 

一夏は俺の言葉に反論できず、だがそれでも力を緩めることなく刀を振るい続ける。

それしか知らず、それしか理解できないが故に。

結局、一夏は俺に対して勝ち目が無い。

一矢報いる事すら出来ずに立ち往生してしまっているのが良い証拠だ。

 

「そろそろ終わりにするか…ガキの我儘に付き合うのが俺は一番嫌いなんでね」

「まだだ!!」

「そう、まだだよ一夏!!」

 

第三者の声が響いた瞬間、背中からとてつもない衝撃が走る。

たたらを踏む様に一歩踏み出して転ぶことは阻止するものの、ダメージはダメージ…思った通りに事態が動き始めていて俺は鬼面の奥でほくそ笑む。

俺が体勢を整えて反撃に出るのを防ぐ為か、矢継ぎ早に大質量の砲弾やら見えない弾丸やらが俺に向かって飛来してくる。

 

「火力支援!途切れさせるな!!」

「分かってるわよ!シショー相手に加減できるわけないでしょ!?」

「えぇ、えぇ、一夏さんの事情もデュノア()()の事情も分かりましたので…ここで果てていただきましょうか」

「なっ…これは俺と兄貴の決闘なんだぞ!?」

 

飛来してくる砲撃を避け、或いは格納しながら、止む無く俺は一夏から距離を開ける。

ゆっくりと腕を組んで、新たに現れた4機へと目を向ける。

 

『…これもお前の想定通りか?」

「どうだかねぇ…まぁ?思ったように事態が進むのは大変宜しい事だわな」

 

千冬へと言葉を返しながら、格納できた2発のレールカノンの弾丸にほくそ笑む。

一夏1人じゃ完封できるが、ヒヨッコとは言え専用機が4機も増えるとなると流石にそこまで甘くは無いだろう。

まぁ、勝つがな。

 

「一夏、先生は手段は問わないって認めていたんだよ?それに、これは僕の家の問題でもあるんだ」

 

シャルルは覚悟を決めたと言わんばかりに重機関銃『デザート・フォックス』を俺に向け続ける。

恐れもなく、かと言って破れかぶれと言う訳でもないその顔は、先日見せた時よりも遥かに覇気に満ちている。

 

「こればっかりはねぇ…発破かけたシショーもシショーだけど、今回ばかりは自業自得ってことで」

「まったく、先生は人が悪すぎますわ。必要な事なのでしょうけど、やり方と言うものがありますわ!」

 

鈴とセシリアは呆れたように、八つ当たりするように俺に向かって直接砲撃を叩き込んでくる。

ハイパーセンサーで確認できる限りでは笑っていない笑顔だな、ありゃ。

 

「織斑 一夏…1人で出来る事なんてタカが知れているんだ。私はそれを訓練生時代に思い知り、そして学んだ。ならば、貴様も学ぶべきだろう」

「…皆…」

 

ラウラはニヒルな笑みを浮かべて一夏へと目をやる。

部隊長は言う事が違うもの…暫らく見ないうちにちっこい体でデかくなったもんだな。

一夏は深く深呼吸した後、ゆっくりと此方へと目を向ける。

 

「そういうことらしい。俺はこのまま兄貴を熨す」

「構わねぇよ…1分が2分になったところで気にも止めねぇもんさ」

「「「「「ぶっ殺す!!!」」」」」

 

軽い挑発に皆一様に同じ言葉を吐き出して、一斉に俺を取り囲むように動き始める。

ラウラだけは後方に居るな…まずは頭から潰すのが得策か。

俺はゆっくりと歩き出し向かってくる4人に立ち向かおうとして、鈴の真正面へと転移し左腕を薙ぐ様にして振るう事でワイヤーブレードで拘束する。

 

「んなっ!?機体が…!!」

「まぁ、なんだ…弟子が師匠のやることにケチ付けるもんじゃねぇぞ?」

「横暴!」

「悪魔だからな」

 

鬼面の奥でニコリと笑えば、右腕も薙ぐ様に動かして拘束を強めそのままジャイアントスィングの要領で鈴を思い切り振り回し始める。

それだけで俺の周囲に配置されていたビットは動きを止め、一夏もシャルルも迂闊に近づけなくなる。

 

「そら、受け止めてやんなぁ!!」

「シショー!?!?」

「チィッ!」

 

後方に控えていたラウラに向かって、思い切り鈴を投げ飛ばす。

弾丸の如き速度で投げ飛ばされた鈴を見捨てる訳にはいかなかったラウラは、物体停止能力を用いて鈴の体を急停止させる。

俺の読み通りに動きが止まった2機の頭上に、さきほど借りておいたレールカノンの弾丸を2発出現させてそのまま叩き込む。

動きが止まっていた鈴とラウラは反応する事すら許されず、そのまま脳天に弾丸をお見舞いされてそのまま地上に墜落していく。

ここにきて死ぬ気でやらなければ勝ち目が無いことを悟ったセシリアは、ビットを鋭角に操作して直接俺の体に叩きつけようとしてくる。

ビットの精密操作に集中するためか、セシリアの動きが止まるものの、それをカバーするかのようにシャルルがデザート・フォックスによる火力支援で俺の接近を許さない。

神隠鬼現のリキャスト1分…地味にもどかしいものだな。

 

「でぇぇやぁぁぁぁ!!!」

「見えてねぇと思ってたのか!?」

 

ビットの動きに翻弄されていると踏んだ一夏は、上空からの唐竹割で俺を両断せしめんと迫るがハイパーセンサーの視界と隠せていない気配で察知した俺は体を右へとズラスことで容易く避け、逆に大振りで隙ができた一夏の髪の毛を掴んで

鼻面に思い切り膝蹴りを叩き込む。

 

「ガァッ!!!」

「一夏!?こんのぉっ!!!」

 

シャルルは瞬時加速を用いて一夏と俺の間に割って入り、勢いよくシールドに隠されたパイルバンカー『灰の鱗』を突き出してくる。

 

「とった!!」

「舐めんなクソガキが!!」

「いいえ!これで詰みですわよ!!」

 

突き出されたパイルバンカーの砲身を掴んで、思い切り握りつぶし破壊する。

だが、そのおかげで動きが止まった俺は、シャルル諸共にビット兵器による一斉射を浴びる事になる。

全天から放たれる射撃からは脱出不可能…シャルルも女とは思えない獰猛な笑みを浮かべている。

絶対防御があるからこそ許されるこの戦法は、しかし俺には通用しない。

俺は単一仕様能力を発動してセシリアの眼前に姿を現す。

 

「テメェも床の味を味わわせてやろうか…?」

「ひっ!?」

 

鬼面の下顎が開き、威嚇するように蒸気が溢れ出す。

セシリアは今まで感じたことのない威圧感に身を竦め、思わず身を竦める。

戦場に於いて致命的なその隙を晒したセシリアの顔面を掴んで後方へと投げ出す。

戦線に復帰した鈴とラウラの砲撃への盾とする為だ。

 

「きゃああ!!」

「セシリア!?」

「容赦ないってーの!!てえりゃぁぁっ!!!」

 

墜落していくセシリアのカバーに入る様に鈴が俺へと吶喊し、双天牙月を突き出し或いは薙ぎ払い距離を開けさせようとする。

ラウラはセシリアを受け止めて体勢を整えさせに入っているな…。

手を抜いてやっているとは言え、流石に手間がかかるな…質の良い実力をつけてきている証拠と言う事だろう。

俺は拡張領域内に収めていた一振りの大曲剣を呼び出し、双天牙月を受け止める。

 

「ったく、めんどくせぇ…」

「シショーが抵抗するからでしょ!?」

「弱ぇ奴らに指図されんのは嫌いだからな!」

 

その剣は、分厚く、重く、そして何よりも叩き潰すことに特化している。

その特徴は峰に備えられた五連ブースター…以前使った欠陥兵装を束に改造させた、人が扱う様にはできていない特化兵装『鬼喰(おには)み』だ。

俺は躊躇なく柄に備えられたトリガーを弾いてブースターを全開にして鈴を弾き飛ばす。

 

「行きなさい!!」

「止まるか!!」

 

鈴が弾き飛ばされた瞬間を狙って、セシリアはビットを一斉に俺に向けて突撃させる。

1つ1つが臨界寸前のエネルギー量を抱えているところを見ると…随分と思い切った戦法にシフトさせたな!

 

「落ちなさい!!」

「これも持っていけ!!」

 

セシリアは俺に接触する寸前のビットを次々と自爆させていき、ラウラはレールカノンの砲身が焼け付くことも厭わずに次々に弾丸を吐き出させていく。

リキャストまでのわずかなタイムラグを狙われて転移が儘ならない俺は、爆炎に包まれながらレールカノンの弾丸を切り払っていく。

 

「もらったぁぁ!!!」

「一夏!?」

 

一夏は今の今まで機会を伺っていたのか、地上すれすれをスライドするように飛行しながら手に持った重機関砲『デザート・フォックス』を俺に向かって撃ちこみ接近してくる。

シャルルの武装のロックを解除して借りやがったなあの野郎!

 

「これで、トドメだぁ!!」

 

一夏は十分に接近してから重機関砲を投げ捨て、最速で雪片弐型を展開。

腰だめに構えて零落白夜を展開、俺に向かって体当たりを行う。

俺はそれを切り払ってやろうと鬼喰みを高く掲げるが、その腕はいつの間にか接近していたラウラによって動きを止められる。

 

「やれ!織斑 一夏!!!」

「おおおお!!!」

 

頃合い。

俺は、態とその一撃を受ける。

零落白夜はエネルギーによる防壁をすべて無効化する。

黒鬼の装甲は、全てシールドエネルギーによって制御された液体金属で出来上がっている。

では、そこに零落白夜を叩き込んだらどうなるのか…?

答えは…。

 

「え…」

「あ、アモン…?」

「いいか、一夏…何かを守ると言う事は何かを排除する事。何かを排除すると言う事の答えが…こいつだ」

 

腹部に深々と突き刺さる雪片弐型…守る物が無くなる事で無防備になり、殺傷能力を如何なく発揮する。

零落白夜の本質はあらゆる障害を排除して断ち切ることにある。

刀身全体を零落白夜が覆ってしまう為に、絶対防御を突き破って刃を届かせてしまうのだ。

 

「ち、ちがう…お、俺は…!!」

「ガキに覚悟しろなんて言うつもりはねぇけどな…腹括るってぇのはこういう事なんだよ」

 

俺は一夏の額を指先で弾いて跳ね飛ばし、深く突き刺さったままの雪片弐型を引き抜いて放り捨てる。

引き抜いた瞬間にシールドエネルギーが復活し、裂かれた腹を液体金属の装甲が覆っていく。

 

「ったく、呆けてんじゃねぇぞガキども。勝負はテメェらの勝ちにしてやらぁな…だけど、自分たちが握ってるものの本質をキチンと見定めとけ。いざって時に生死を分かつんだからな」

「「「「「……」」」」」

 

ラウラを除いた全員が、呆然とした面持ちで俺の事を見ながら立ち止まっている。

ISは安全だ、という固定観念が崩れた瞬間だからな。

俺は脇腹を抑えたままピットへと入り、ハッチが閉じた瞬間にISの展開を解除して軽く背伸びをする。

 

「ちぃっと酷な授業だったかね?」

「やり過ぎだな…まったく。もう少し手段があったろうに」

 

千冬が憮然とした表情で俺の事を見つめ、血で濡れた俺の脇腹を見る。

傷跡は既に無く、切られた事が無かったかのようだ。

 

「だが…遅かれ早かれ苦悩する事か。知ってほしくない苦悩ではあるが」

「守るってことはそう言う事だろう。どちらかを天秤にかけて切り捨てる。成し得る奴だけがどちらも取れる」

 

千冬が差し出してきたタオルを手に取り、脇腹の血を拭っていく。

あっという間に白いタオルは朱く染まっていく。

絶対防御も場合によりけりだな…。

 

「アモン、お前は…」

「俺は無理だった」

 

千冬の問いかけが終わる前に、ピシャリと答えて黙らせる。

遥か昔も大昔…天秤にすらかけられずに守れず、生き恥を晒したのが俺だ。

生き恥を晒した結果が今だって言うのならば、それは必要な事だったのだろう。

…さて、あいつらはどうするかね…?

 

「んじゃ、千冬…1つ頼まれてくれねぇか?」

「何をする気だ?」

「そりゃお前…王手詰みへの更なる一手さ」

 

 

 

 

 

「…なぜ一夏は…」

「いっくんは優しいからねぇ~」

 

寮長室に2つの影…篠ノ之姉妹の姿がそこにあった。

寮長室に備えられた大型テレビに映し出されていたのは、地下訓練場でのアモン対専用機組の争いだ。

箒はスカートの裾を強く握りしめ、束は束でどこか楽しそうにアモンの戦いぶりを眺めていた。

 

「皆守りたい!ってまっすぐ一直線!アモンは代償を教える為に喧嘩を買った訳なんだけどさ」

「…人ではないのに?」

「人じゃあるなしは、関係ないんじゃないかな?」

 

束は箒の言葉にスッと目を細め、しかしチェシャ猫の様な笑みを浮かべる。

箒の中にある僅かな嫉妬心を知ってしまったから。

大好きな存在の隣に居たいと言う気持ちを知っているから。

 

「…姉さん、私も専用機を持っていたらあの場所に居る事ができたのだろうか?」

「できただろうね~。なんせ専用機持ち限定での課外授業って事だったし」

 

箒にとって悪魔のような魅力がある。

専用機を持つと言うだけで特別扱いされる…その事実が一夏との疎外感を感じてしまっていたが故に。

一夏の隣に居たい、必要とされたい…あの男よりも。

 

「姉さん…私は…」

「んふふ、だいじょーぶ!お姉ちゃんにまっかせなさ~い」


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