インフィニット・ストラトス~悪魔は乙女と踊る~   作:ラグ0109

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#29 タヌキと乙女と一人の男

「ぐ…腹、いてぇ…」

「気持ちは分からんでもないが、シャキッとしろ…此処の理事長は海千山千の大妖怪だからな」

「だから、いてぇんだよ…ったく…」

 

翌朝、俺と千冬は束にキツーく部屋に閉じこもる様に厳命して、俺と千冬はスーツに袖を通して校舎にある理事長室へと向かう。

理由は勿論、篠ノ之 束及びクロエ・クロニクルの今後の扱いについてだ。

IS関係者は、基本的に束の人となりと言うものを理解している為、学園に住み着くと言った束の行動を拒否し、排除すると言うことは出来ないと言うことは重々承知しているだろう。

問題は、世界各国の首脳陣がこの事態をどう思うのか…と言う事だ。

篠ノ之 束を制するものは、この世界を牛耳るも同然だと言っていい。

なんせ、唯一のISコアを製造することができる技術者だ。

その価値は金なんかで図ることはできない…それだけ、ISは特異な存在だからな。

…思えば、図らずとも束と恋仲となることで、世界の中心に触れているような状況が出来上がっているな。

ダンマリ決め込んでる魔法使い的には、満足のいく内容ではあるか…?

 

「まぁ、お前もよく知っている人物だ…そう気負うこともないだろう。最早、賽は投げられた」

「そりゃそうなんだがな…束が大人しく部屋で過ごしていると思うか?」

「…正直、無理だと思う。箒は懲罰房で反省中で、元々消極的にしか接触をしていないから問題ないとして」

「一夏だろうなぁ…」

 

俺は静かに胸の前で十字を切り、今頃酷い目に合っているであろう一夏に対して祈りを奉げる。

束の消極的な行動…と言うのは、本人に接触しないと言う意味であって、断じて箒に興味が無い訳ではないし、本人も海の底より…もっと言うと、マントル深くまで愛している。

何が言いたいかと言うと、『変態』レベルで愛しているのだ。

千冬の使用済み下着を持ち去ろう…いや、持ち去っているくらいだ。

恐らく今頃一夏の部屋で、しっかりと堪能していることであろう。

 

「…とりあえず、今は目の前の事に集中しよう」

「そだな…」

 

朝も早く、本日は休校日と言うこともあってかグラウンドから聞こえてくる部活動中の生徒の声以外に物音は無く、校舎内はしん、と静まり返っている。

いつも騒がしい生徒達で溢れている校舎も、人が居なければまるで別世界に足を踏み入れたかのように静謐さで満たされている。

そこに寂しさや郷愁と言った感情が湧くわけでもなく、本来はこうあるべき…と言わんばかりだ。

理事長室に辿り着いた俺たちは、千冬が先に立って扉をノックする。

 

『どうぞ』

「失礼します」

 

中から聞こえてきたのは男性の…それも俺が良く聞く声だった。

…確か、この学園の理事長は女性だったはず…どういう事だ?

俺が首を傾げていると、千冬は静かに扉を開けて中に入っていく。

俺もそれに倣って理事長室へ入ると、応接用のソファーに見知った顔を見つける。

 

「遅かったですね、織斑先生、ミュラー先生?」

「千冬」

「はぁ…お前が此処に居ると言うことは、用件も分かっていると言う事か…更識?」

 

更識 楯無…IS学園を統べる生徒会長は、綺麗な足を組んでソファーに座り、優雅な仕草でティーカップを手に取って紅茶を飲んでいる。

その顔は何処か満足げで、自分の思った通りに行動してきたことがどこか嬉しいようだ。

 

「えぇ、この学園にやってきた核爆弾とおまけ…その処遇についてですよね?」

「そのおまけの方もやべぇけどな…。で、おっさん…そこの席に居るのが本当の立ち位置ってことか?」

「まぁ、そんなところですよ。ですが、薄々気付いていらしたんでしょう?」

「どうだかねぇ…そこまで頭良いわけでもねぇからな」

 

更識から視線を離し、大きい黒檀のデスクに座る男性…轡木 十蔵を睨み付ける様に見つめる。

轡木は俺の視線に怯むことなく柔和な笑みを浮かべ、手を差し出してソファに座る様に促す。

 

「まぁまぁ、立ち話もなんですしどうぞ座ってください」

「わかりました」

「……」

 

千冬は素直に頷いて更識の対面に座り、俺はその隣に大人しく座る。

その様子に満足げに頷いた轡木は、ゆっくりと立ち上がってこちら側に歩み寄り、更識の隣へと腰掛ける。

 

「さて…篠ノ之博士とお連れの少女の取り扱いに関して、ですね」

「えぇ、理事長もご存じの通り、あいつは一度決めたらテコでも動きません。強制的に排除しようにも何をされるか分かったものではありません。ただ、他人に興味をもって動く人間ではないので、余程の限りの事が無ければこちらに牙を剥くこともないでしょう」

「でも先生、それはこの学園内部での話…諸外国からすれば、そんな事は関係ないですよ?」

 

更識は千冬の考えをさらっと否定し、事実を突き付けてくる。

そう、あくまでも学園内部では問題が無い。

しかし、諸外国…この場合は日本を含めた物言いになるが、それらの国家群には関係が無いのだ。

なんせ、身柄を確保して万が一にも手懐ける事が出来れば、ISコアを延々と吐き出す一大生産プラントを作ることだって夢ではない。

そうした場合、世界の覇権を牛耳ることだって夢ではないのだ。

…絵に描いた餅だけどな。

 

「つっても、ここはIS学園…絶対的な中立性を確保された一つの国家みてぇなもんだろ?もし、此処に政治的干渉が起きる様なら、それを跳ね除けることだって出来るはずだ」

「表向きではそれで構わないでしょう。しかし、先日の襲撃事件同様にテロが発生しないとは絶対に言いきれません。我々は明日を担う子供たちを預かっている身なんですよ」

「それこそ、束の奴に手伝わせれば良い。最低限の餌は学園に用意できてるからな」

 

轡木は先ほどまでの柔和な顔を崩し、鋭い目つきになる。

その反応は、俺が垂らした釣り針に食いついたことに他ならない。

内心笑みを浮かべそうになるのを必死に隠し、俺はそのまま言葉を続ける。

 

「タイミング的に見たって、一夏や千冬、何より妹である箒が心配でこの学園に来たって事は明白だろ。ちっと言い含めれば何とかなるんじゃねぇの?」

 

千冬は横目でジロ、と睨み付けてくるが、俺に任せる事にしたのか黙り込む。

更識の奴がニヤニヤとした笑みを浮かべているのが、少しばかり気になるな。

 

「最悪、ISによる襲撃が起きたところで、束がコアの起動に関するマスターキーを持っているのは明白だ。コア・ネットワークを構築したのはあいつだからな…相手は成すすべなくISを剥ぎ取られていくことだろう」

「ですが、IS委員会から要請が来た場合はどうするおつもりで?」

「委員会と言っても、所詮はコアの分配と管理を目的とした組織だ。以前、俺を襲撃してきたときのIS反応をチラつかせてやりゃ良い…更識、お前ヤりあったんだろ?」

「えぇ、逃げ足だけ速くて嫌になっちゃうわ」

 

ISコアには、基本的に識別ナンバーと言うものが割り振られている。

ここで基本的にと言ったのは、単純に当初生産されたのとは別に生産されたコアには識別ナンバーが割り振られていない所為だ。

俺の黒鬼にも振られてなかったしな…。

そして、コアはそのナンバー毎に変更できない反応を発し続ける為、そのデータさえあればどの国に割り振られているコアなのかが一目瞭然となっている。

これは、単純に国家間での裏口取引によるコア移動を封じ込める意味合いが強い。

それだけコアは軍事的、政治的に強い影響力を持っていると言う事だ。

 

「委員会すら脅す…形振り構わないやり方ですね?」

「ハッ、売られた喧嘩はキチンと買うのが流儀ってもんさ」

「随分と過激なやり口じゃない、ミュラーせんせ?」

「そら、でくの坊送り付けてきた犯人に言ってもらいてぇもんだな」

 

で、そんなコアの在処を問い合わせてしまえば、委員会としても困ったことになる。

仮にその反応がどこかの国の所属しているコアなのであれば、その国の委員会の役員が全力で差し止めを求めてくる。

そうでなくとも、所在がはっきり分からなければ委員会の存在意義に関わってしまう。

もし問い合わせに答えなければ、マスコミ各社に情報流すぞと脅してしまえば良い。

嫌なら、口出しするなと条件をつけて…そうすりゃ、責任をとりたくない責任者達は見て見ぬフリをせざるを得なくなるわけだ。

 

「で・も、せんせが其処まで過激な策を打つのって~、男と女の関係になったからでしょ?」

「そう言うの見越して、盗み聞きさせてたんだろ、更識」

「へ?」

 

俺は白けた顔をしながら、楯無を見つめる。

昨日の今日で俺と束の関係を知っている…となれば、寮長室が盗み聞きされていたのは確実。

しかし、束が大改装を施した後で盗み聞きをしていたのだとしたら、それは最早束の掌の上だと言うことに他ならない。

アッパラパーだが、あいつは無駄な行動をしない合理主義者だ。

恐らく、俺との関係も利用してこの学園に居座るつもりだな。

 

「ほう、そうですか…それはそれは…ここでミュラー先生に何かあっては、学園に何をされるか分かったものではありませんねぇ?」

「あれは損得抜きに欲望に忠実だ。下手に刺激したらそれこそ、全員の身がヤベェ」

「それはおまけについても適用されるわけね…」

「まぁ、その子については学園の生徒として迎え入れる事にしましょう。篠ノ之博士のお気に入りの子供とは言え、学園で保護するには所属させるしかありません。本人に力が無いのであれば尚の事」

 

…クロエの学園編入。

正直、かなりデリケートな問題ではある。

確かに、クロエに何かあると束は確実に保護しようと動くだろう。

つまり、クロエに首輪をつけることで束の制御をより確実にしたい狙いがある訳だ。

無論メリットが無い訳ではない…束の傍からしか見えない世界と、それ以外の世界とは見え方がガラリと変わってくる。

俺や束への負い目で生きているような状況よりも、自身の価値観をキチンと認識できるようになる…かもしれないからな。

腕を組んで考え込むと、千冬がおもむろに口を開く

 

「彼女はドイツ軍のモルモットにされていた過去があります。もし、この学園で生徒として過ごすことになれば、ドイツを刺激してしまう事にはなりませんか?」

「遺伝子強化試験体…その存在はあの国にとって機密の塊なわけだし…おじ様、私も賛成はしにくいわ」

 

確か、ドイツは第二次世界大戦だか何だかの時に、ユダヤ人を大量虐殺した過去があったんだったか…?

その虐殺も一方的なものから収容所での強制労働、果ては毒ガス等の人体実験…人間を弄繰り回す研究に関して、忌避感が国民の中にあっても不思議じゃないな。

ただ、そう言った部分は伏せておけば問題は無い…筈。

無論、クロエを知っている人間が学園内に居ないとも限らないが。

 

「俺としちゃ、生徒として迎え入れてやりてぇけどな…あいつはもっと物を知るべきだろ」

「おや、ミュラー先生は私と同意見ですか」

「まぁな…おっさんの思惑がどうあれ、クロエはまだまだ子供だ。子供は子供らしく遊んでりゃ良いし、考えるのは腹黒の役目だろ」

「生徒会長としては、学園に所属するのであれば、その子も含めて全力で守ることに異存はありません」

 

更識は最終的には中立、と言う立場を通す様だ。

千冬は、俺と轡木、更識の視線を真っ向から受けて考え込み、小さく頭を縦に振る。

 

「では、この話は束に通しておきます。そうすれば、クロエも納得するでしょう」

「分かりました。では、篠ノ之博士には外部顧問、と言う形で学園に滞在していただく方向で調整しておきます。編入手続きは一週間後にやってくるドイツとフランスの代表候補生と同時に行い、1組で面倒を見てもらう形になりますが…構いませんね?」

「その代表候補生…専用機持ちか?」

「そうよ、ミュラー先生。本当は分散すべきなんだけど、1人は軍属、1人は出資企業のお子様…前者は織斑先生も知っている子だし、後者はねじ込めと言われて断り切れなかったのよ」

 

軍属、ドイツ…いや、まさかな?

今じゃ隊長をやっているって話だし、学園に編入してくる必要も無いはずだ。

フランスの方は、なんて言うか…出資されてる側の悲哀を感じると言うか何と言うか…。

 

「えぇ、言わんことも分かりますが…まぁ、これも戦略の一つと言うことで納得しておいてください」

「なぁ、おっさん、タヌキとか言われてねぇか?」

「酷いですね…これでも学園の良心と言われているんですが…」

「「……」」

「本当ですよ?」

 

轡木の言葉に、千冬と更識は随分と白けた目を向けている。

どうも、裏ではやはりタヌキらしいな…このおっさん。

そうでなければ、千冬が『大妖怪』なんて言う訳が無いか。

そもそも、このIS学園…保有しているISの量がアメリカよりも多い。

これは、学園の生徒が過不足なくISに触れる為と言う建前があったからだ。

無論、普通に考えればこんな分配方法は許されないだろう…国力に直結するものだからな。

だが、長い目で見たとき、未熟な操縦者よりもキチンと訓練を受けた操縦者が乗ったISの方が遥かに有益であることは間違いない。

そうでなくとも難関校…ただ3年間を無為に過ごさせるわけにも行かない。

…なんてことを目の前のタヌキがごり押したんだろうなぁ…割と正論だから黙らせやすいし。

 

「まぁ、良心でもタヌキでもなんでも良いや…」

「いやいや、良くありませんよ?それはそうと…ミュラー先生、あまり女性を食べないでくださいね?」

「あ?」

「は?」

「ブッ…」

 

更識は轡木の発言に口元を扇子で隠しながら笑いを堪え、千冬は冷や汗をとめどなく流しながら目を丸くし、俺は俺で訝しがる様に眉を顰める。

穏やかな笑みを浮かべているのは、この部屋で轡木だけだ。

 

「職場恋愛を禁止していませんが、程々にしておかないと後ろから刺されかねませんから」

「や~だ~、ミュラー先生ってば手ぇ早~い」

「おう、その扇子は宣戦布告かなんかか?」

 

 更識の口元を隠している扇子には、デカデカと『ケダモノ』と達筆で描かれており、確実に俺をバカにしているような雰囲気を感じる。

落ち着け、高々小娘の言う事だ…ガチで取り合う程ガキでもない…。

 

「はっはっは、恋愛は大いに結構。人生には潤いが無くてはいけませんからね」

「か、からかわないでください!」

「いやー、無理だろう…そんな顔で言われても」

 

千冬は顔を真っ赤にしながらソファーの前に置いてあるテーブルを両手で叩きながら立ち上がり轡木を睨みつけるものの、その眼光にはいつもの鋭さが欠けている。

轡木は、そんな千冬を見て満足げに頷いて笑みを深める。

 

「っ、失礼しました!」

 

千冬は耐えられなくなったのか、逃げる様に理事長室を飛び出していく。

ありゃ、本当に恥ずかしかったんだな…。

 

「…ミュラー先生。私はね、彼女を幼いころから知っているんですよ。もちろん、篠ノ之博士もね」

「おじ様、その話初耳なんですけど?」

「いままで、話していませんでしたからね…」

 

轡木は何処か寂しそうな顔をするとソファーから立ち上がり、デスクの後ろにある大きな窓の前まで歩いて背中を向ける。

 

「ちょうど、織斑先生のご両親が行方不明になった辺りでしょうか…?そう、ISが発表される少し前…幼い少女だと言うのにも関わらず、彼女は抜き身の刀の様に鋭い気配を発し続けていました」

 

中学くらいの頃合いか…今でも時折そう言った雰囲気を感じるが、轡木の言葉が正しいければ今よりもやさぐれていたと思ってもよさそうだな。

俺と更識は轡木の次の言葉を待つように、静かに黙り込む。

 

「大人は誰も信用しない。私は私だけの力で生きていく。…どれほど手痛い目に合ったのかは定かではありませんが、少なくともあの時の織斑先生は誰も信用していないと言った感じでしたね。そんな、昔の姿を知っていると…今の織斑先生は本当に揶揄い甲斐があって良いですね」

「まるで、父親みたいな物言いをするんだな」

「パトロンみたいな真似をさせてもらいましたからね…勿論、直接的ではありませんが」

 

中学生の子供が、今の今まで普通に生活できる状況って言うのも確かに不自然か…色々と便宜を図ってもらったりしていたんだろう。

轡木が、其処までする理由は分からないがな。

 

「まぁ、そんな訳で…これでもミュラー先生には感謝しているんですよ。あの、たった1人の家族を守ることしか考えてこなかった織斑先生が、1人の女性として貴方に恋心を抱いているのですから」

「案外、俺も軽薄だからな…裏切るかもしれねぇぞ?」

「それもまた、人生のスパイスと言うものですよ。後始末はこちらでやっておきますので、ミュラー先生はもういいですよ」

 

俺はゆっくりと立ち上がり、理事長室を出る前に少しだけ振り向いて轡木の背中を見つめる。

 

「おっさん、千冬を教師に誘ったのはアンタか?」

「よく、お分かりで」

「アンタはタヌキで学園の良心だわ」

 

それだけ言うと、さっさと理事長室を出て、俺は廊下を1人寂しく歩いていく。

暫らく歩くと、校舎の下駄箱の前で千冬が1人で立っているのを見つける。

どうやら、俺を待っていてくれたらしいな。

 

「寮に戻っていたんじゃねぇのか?」

「お前が来るのが遅かったからな…。なぁ、アモン…その、私は…」

 

千冬は深呼吸をすると、不安げに此方を見上げてくる。

その様子は、やはりどこかいつもの一本筋の通った強さを感じさせない、何処にでもいる女性のそれだ。

 

「変わってしまったのだろう、か…?」

「なんだ、変わるのが怖いのか?」

「怖い…か…。そうだな、今まで…此処まで心を許した覚えは無かった。だから、戸惑っ…」

 

俺は、千冬が全てを生きる前に優しく抱きしめて、背中を撫でていく。

千冬は俺の胸元に手を添えて、しがみつく様に握り込む。

 

「お前に…そうされると…弱くなってしまう気がする」

「別に、悪いことじゃねぇよ。1人じゃ誰だって弱い。1人で弱けりゃ2人、それでも弱けりゃ3人だ。少し、気ぃ抜いておけ」

 

強い奴なんてどこにもいない…ただ、弱いところを見せないように必死になっているだけだ。

強いと思っているのは、弱さを忘れているから。

強いと言われるのは、弱さを見せないから。

誰しもが弱く、そして強い…だから、俺は人が嫌いになれない。

そして、こうして女を愛してしまうんだろう。

俺は千冬の顔を上に向かせ、優しく唇を重ね合わせる。

こんなに可愛いんだ…キスだってしたくなる。

長いキスを終えて顔を離すと、唾液の糸が伸びてプツリと切れる。

 

「っ…此処は一応職場だぞ…」

「誰も見てなきゃ良いだろうが…とりあえず、束のところに戻るぞ」

「あ、あぁ…」

 

頬を赤く染めた千冬から離れると、少しだけ寂しそうな声が上がる。

左手をポケットに突っ込んで歩き始めれば後を追うように千冬が慌てて駆け寄り、俺の手を掴んで指を絡めてくる。

一応、学園内には生徒が居るんだがな…俺は少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべて、顔を背ける千冬を眺めた。


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