インフィニット・ストラトス~悪魔は乙女と踊る~   作:ラグ0109

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悪魔と少女と恋物語
#20 日常にて


四月も既に後半戦…学園に咲き乱れた桜は全て散り終え、青々とした緑の葉桜が目に鮮やかに映る。

俺はグラウンドのベンチに腰掛け、千冬が指導している授業風景を眺める。

一夏とセシリア両名の専用機を用いて、専用機の待機状態からのISの展開、及び機動訓練と搭載兵装の実体化のデモンストレーションだ。

ISの待機形態は基本的に実用的なアクセサリーの形になる。

例えば、セシリアのブルー・ティアーズは機体色と同様のイヤー・カフスとなる。

他にも指輪や腕輪、髪留めだったりと様々な形態をとるんだが…何故か一夏の白式の待機形態はガントレットだった。

そう、騎士鎧の様な武骨さはないものの、あのガントレットである。

防具じゃん…。

俺は、ぼんやりとした面持ちで訓練風景を眺めている。

一夏は初めてと言う事もあって、待機状態からの展開に戸惑っている。

中々上手く展開はできなかったものの、気を取り直しての再チャレンジで無事に白式を展開する事が出来た様だ。

 

「…お前さ、暇なの?」

「え~、だって傍に居たいんだもん」

「さよけ…」

 

どういう原理かは分からないのだが、今俺の背中に束がしがみついている…上手く千冬や箒達からは見えない様にしているらしく、まだ気付かれてはいないんだが…。

俺は隣に座る銀髪の少女にも目を向けて、優しく頭を撫でてやる。

 

「でっかい子供のお守り、ご苦労さん…」

「…いえ。束様とアモン様には救われた恩義がありますので」

「…かてぇな、どういう教育してんだ?」

「え~、一緒に極道映画見たり時代劇見てただけだよ?」

「染まりやす…」

 

恐らく、束と御揃いであろう黒のエプロンドレスに、子供が持つのには少々装飾が華美な杖を握りしめている少女であるクーは、眼を閉じたまま一夏達の様子を見守っている。

自身の目が他人とは違う事を気にしての事だろうか、なんとも背中にしがみ付いている子供と違って大人な雰囲気を感じてしまう。

千冬が此方に顏を向けるのと同時に頭を撫でるのを止め、俺はメモを取っている風に見せかける。

 

「んもー、クーちゃんってばぁ…ママとパパでしょ?」

「応、誰がママとパパなのか言ってみろ?」

「ママが束さんで~、パパがあっくん!」

「所帯持ちになった覚えはねーよ」

「いえ…私は…」

 

束はどうやら、外堀を埋めるためにクーを連れて俺に会いに来たらしい。

俺、一応仕事中なんですがね…。

クーは静かに首を横に振った後に顏を俯かせ、口を噤む。

束には何を言っても無駄だと、悟っているかのような顏だ。

 

「束、お前俺に絡んでばっかいるけど、何が良いんだ?」

「え~、そんなの全部に決まってるじゃん。適当なのにこうして、構ってくれるし~、優しいし~、そこらの人間が裸足で逃げ出すくらい強いしね!」

「お、おう…」

 

束は臆面もなくはっきりと好意を述べてくる。

まるで、その好意を踏みにじられる事は無いと言わんばかりだ。

好きだとか愛しているだとか…そう言った言葉は、一方通行であることが多い。

互いに好きだと感じ、想い、伝わった時に一方通行ではなくなる。

では、拒否されたら?

そう思うと足が竦むのが人間だし、それが悪いとは思わない。

寧ろ、そう言った奥ゆかしさと言うのは見ていて飽きない。

だが、束は…珍しく、ドストレートに物事を言う。

人間関係が破滅的だったからこその在り方、と言えるだろう。

 

「箒とかセシリアも多少は強気に出るべきなんだろうがなぁ…」

「箒ちゃんがどうかしたの?」

「まだまだケツの青いガキってこった」

 

箒と言う名前を聞いた瞬間、束は興味津々と言わんばかりに背後から首を出して俺の顏を見つめてくる。

千冬が一夏に対してブラコンである様に、束は箒に対してシスコン気味だ。

心から大切にしていると言う気持ちは分かるし、事実そう思っていたから距離を開ける様な事もしていた。

無論、加減を知らないが故に関係は悪化、未だに仲直りが出来ていない様だ。

 

「ねぇ、あっくん…箒ちゃんは私を頼ってくれるかな?」

「どうだろうなぁ…ニッチもサッチも行かなければ頼るんじゃね?」

 

束は、消え入るような不安そうな声で俺に聞いてくる。

一応、連絡先の交換くらいは先日の一件で行っていたようで、来る日も来る日も箒からの電話を待っている様だ。

ただ…箒の中に蟠りが残っている以上、ある一点以外において頼ると言う事はしない様に思える。

 

「束、一つ頼まれてくれねぇか?」

「えっ!あっくんからお願い!?珍しい!!」

「耳元で喚くなっつーに…。もし、箒が力を欲する事があれば…遠慮なく力を与えてやれ」

「…それは、どうしてかな?」

 

束は、俺が力を…専用機を与えるなと言うと思っていたらしく、急にふざけた雰囲気を消す。

グラウンドで白式が墜落する様を眺めながら、ゆっくりと口を開く。

 

「大抵な、力を欲するやつってのは勘違いしている。力があれば、なんでも思い通りにできるってな。それは束…お前も経験あるだろ?」

「……」

 

『白騎士事件』…自身の能力を、知識を世界に知らしめ、夢を叶えようとした天才が起こした事件は、果たして夢を叶えるには遠かった。

寧ろ、遠ざけられ、望んでも居ない事に費やされる事になる。

束がISコアの生産方法明かさず、生産を止めて姿を消したのも、夢破れてしまったからに他ならない。

星を夢見た少女は…血みどろの未来を描くためにISを作ったわけでは無い。

 

「一度、箒は痛い目を見るべきだ。家族がバラバラになったのはお前の所為…なんて言っている様じゃな。そろそろ、束だって離れたくて離れてる訳じゃないことを知るべきだ」

「あっくんは…アモンは…」

「まっ!一手目でお前が間違えたのも事実なんだがよ。でもだ、まだまだ齢15のガキとは言え、そろそろ大人になって行かなきゃならねぇ。夢はいつか覚めちまうからな」

 

そう…いつまでも夢は見られない。

俺の様に。

 

「夢を見るなって…アモンはそう言うの?」

「少なくとも、色恋沙汰に夢はねぇよ。恋愛は戦争で、想いは先手必勝だ。いつかは振り向いてもらえると思ってたら、大間違いなのさ」

 

一夏は、確かにクソ鈍感のクソ朴念仁だが、人の心が分からない程莫迦と言うわけでは無い。

真っ直ぐな右ストレートでも叩き込めば、きっと思い悩むだろう…っつーか、そろそろ青少年らしく思い悩んでもらいたい。

まぁ、なんだ…被害者増える前に身持ちを固めろってこったな。

 

「…まぁ、良いけどね。箒ちゃんに専用機は渡すしさ…でも、その時の相手は」

「俺がする…甘えたをお仕置きするのは、汚~い大人のお仕事だからな」

 

けっけっけ、と笑いながら授業風景に視線を移すと、千冬からハンドサインが送られてくる。

内容は、此方に来い…なんだが、今はしがみ付かれているので動くことができない。

手早くハンドサインで動けない事を伝えると、千冬は深く溜息を吐きながら此方へと歩み寄ってくる。

 

「で、こないだの千冬との戦闘は為になったか?」

「開発元から専用機ぶんどって、データ反映してるとこだよ!凡人が造った旧世代機じゃ、あっくんの反応とか力とかには対応しきれないのは分かってたからねぇ~。でもでも、束さんも色々と忙しいから、もうちょい時間かかるかな!」

「何でもいいがな…手加減してても壊れかけるくらいだ、頑丈にしてくれよ?」

「モチのロンさ!」

 

合点!と言わんばかりに片手で束がガッツポーズをした瞬間、千冬が凄まじい速度の踏み込みを見せて俺の目の前で急停止し、束の頭をがっちりと片手で掴んで持ち上げる。

 

「なんで!!」

 

千冬は、そのまま束の体を天高く掲げる様にして持ち上げ、流れる様な動作で地面に思い切り叩き付ける。

 

「貴様が此処に居る!!!!!」

「ちーtyぶべらばぁっ!!!」

「た、束様!?」

「束、安らかに眠る…と…」

「勝手に殺さないでくれるかな!?かな!?」

 

突然の凶行に、クーは驚いて目を見開いて黒い瞳を晒す。

背後から女生徒たちの黄色い悲鳴があがり、箒は箒で束が居た事に目を丸くして驚いている。

どうやら、謎のステルス現象は解除されている様だ。

だが、千冬には最初から見えていた様に思える…どうやら、このステルス能力は改善の余地あり、か?

 

「ちーちゃん!いきなり叩き付けるなんてひどいよ!」

「やかましい!授業中だ!アモンも、束と乳繰りあってる暇があるなら知識を頭に叩き込め!」

「乳繰りあってたわけじゃねぇよ…束がひっついてきただけだ…」

 

千冬は顏を真っ赤にして怒声を上げ、俺は俺でげんなりとした顔でため息を吐く。

煙草の1本でも吸いたいところだが、生憎と在庫が無いので吸うことが出来ない。

煙草は学園の売店で購入する事が出来ないので、ネット通販頼りだ。

最近お気に入りの銘柄は、『明るい海』と言う銘柄だ。

マイナー過ぎて取り扱っている店舗が少ないし、不味い。

 

「まったく…」

「いだだだだ!!!」

「た、束様から足を退けてください!」

「アモン、この小娘は…?」

 

千冬は束の頭をスニーカーでグリグリと踏みつけながら、千冬の足に縋りつくクーを見つめた後、俺の事を睨む様に見つめる。

まさかと思うが、俺の隠し子だとか思ってないだろうな…勘弁してくれ…。

 

「言わなきゃ駄目か?」

「隠さなければならない事か?」

 

さて、どうしたものか…クーは、外道の住処で嬲られていた存在だ。

おそらく、あの場所の事までは千冬は知らないだろう…。

適当にでっち上げておくか…。

 

「此奴はドイツを出る直前に知り合ってな、束の興味を惹いたんで預けてたんだよ」

「…束、本当か?」

「本当、本当だから足退けてっ!」

 

うむ、我ながら上手く誤魔化せたか…嘘は言ってないし。

千冬は漸く束の頭から足を退けて、深く溜息を吐く。

 

「束、私の邪魔をするな。アモン、行くぞ」

「うぅ…容赦ないよ…ちーちゃん…」

「…話なら、後で聞いてやる。いいな?」

 

千冬としても、束には聞きたいことがある…石化し、沈黙している暮桜の事を。

ISの髄の髄まで知り尽くしているのは、世界でも束だけだ。

そして、束の本来の目的も暮桜と千冬にあるようで、一度頷くと立ち上がって体についた砂埃を手で払う。

 

「ん、たっぷりとお話しようね、ちーちゃん♪」

「そうだな、たっぷりとな」

「こえーよ…」

 

束はそのままベンチに座ると、クーを膝に座らせてご機嫌な様子で俺と千冬、箒、一夏を眺めている。

あの様子だと他の人間の事は眼中にないだろう…他の人間が目に映る瞬間だけ、深淵の様に闇が深くなる一瞬がある。

 

「束に関しては諦めろ、あれは死んでも治らん」

「だろうな…面倒くせぇ奴だ」

「静かにしろ、馬鹿どもが見学しているだけだ!」

(((えぇ~~…)))

 

どう見てもVIP中のVIPが居ると言う状況下で、ISに携わる人間が浮足立つなと言う方が無理と言う話だ。

篠ノ之 束と言う人間の目に止まる事があれば…それはほぼ将来が約束されたと言っても過言では無い。

あのセシリアでさえ、鼻息荒くしてアピールしているくらいだ。

 

「おーい、セッシー…奴には関わるな」

「誰がセッシーですか、誰が!!」

「落ち着けって…酷い目見たくなきゃ絶対に関わるな…」

 

非常にフランクな感じでセシリアに話しかけてみるものの、どうやら渾名はお気に召さなかった様子…とは言え、俺の少し真面目な顔を見て、セシリアは息を呑む。

あの決闘騒ぎ以降、セシリアは多少俺の話を真面目に聞く様になった。

一夏とは比べるべくもないが、そこは大人と子供…フランクに話せと言う方が無理である。

 

「セシリア、アモンの言う通りだ。あの人は余程の事が無いと他人をゴミとかそれ以下にしか見ない…」

「本当ですの?」

「「本当だ」」

 

一夏とハモる様に言うと、セシリアは神妙な面持ちで小さく頷く。

恋する乙女と言うのは、惚れた相手には弱いもの…きちんと話だって聞くってものだろう。

それに対して仏頂面を緩めないのは、箒だ。

 

「…何故、あの人が居るんだ…」

 

ぽつりと零したその呟きは、とても重々しい呪いの様に聞こえた。

 

 

 

 

「さて、授業の続きを開始する。アモン、準備は良いか?」

「マム・イエス・マム」

「よろしい。では、開始してくれ」

 

俺、一夏、セシリア、そして箒が頭から煙を出す中、授業が再開される。

何故、煙を出しているかと言えば、全員授業に集中しなかったが為に、千冬から手痛い拳骨を頂いたからである。

…体罰、駄目、絶対。

さて、話を戻して…今の授業内容は拡張領域からの武装展開の見本、である。

俺は用意された打鉄を普通のスーツ姿のまま身に纏い、生徒たちの前に立っている。

 

「で、多少は遊んでも良いんだろうな?」

「あぁ、構わない。曲芸師ばりの出し方と言うのを()()()()たちに見せつけてやれ」

 

千冬のエリートと言う言葉に、セシリアが涙目で頭を抑えている。

セシリアの弱点の1つに、武器を呼び出す際にポーズを付けないと呼び出すことができないと言うものがある。

拡張領域からの呼び出しには、ハイパーセンサー越しに視界でのカーソル選択から呼び出す方法と、イメージを固めて呼び出す方法の2つがある。

前者はフォルダ分けされた選択肢を一々選択していかなければならず、展開までに時間がかかる。

対して後者は明確なイメージさえできれば、コンマ5秒以内に呼び出すことができるものの、イメージが固まらなければ呼び出すことができない。

セシリアは後者の方法で武装を呼び出したのだが、イメージを固める際に『自分がもっともカッコいいポーズで呼び出す』イメージを固めてしまっている為に、ポーズを取らなければ呼び出せなかった訳だ。

集団戦ならばまだしも、サシの戦いでは致命的な隙に繋がる。

一夏相手に其処を突かれなかったのは、単純に技量差があると言うだけだ。

 

「はいよー…んじゃ、始めますかね」

 

ゆっくりと右手を前にかざして近接用のナイフを呼び出す。

それを握り込んで感触を確かめた後に、ナイフを天高く投げ飛ばし、新たにナイフを呼び出す。

それを数回繰り返していき、ナイフジャグリングを開始。

生徒達から感心したかのような声が上がり、少しだけ嬉しくなる。

 

「嬢ちゃんたち、これだけじゃあ終わらねぇぞ?」

 

俺は右手でナイフジャグリングをしながら、舌打ちをしながら左手で指を振る。

生徒達の視線が左手の指に集中した所で、ナイフを一気に拡張領域に仕舞い込み、代わりに一振りの太刀を呼び出して右手でキャッチ。

素早く構えて大きく振りかぶって十文字に振り切る。

しかし、振り切った直後に持っているものは、薙刀に変化している。

高速切替(ラピッド・スイッチ)と呼ばれる技法だ。

ラピッド・スイッチは通常の呼び出しとは違って、あらゆる行動と同時進行で武装を呼び出す技法だ。

俺の場合は、素早くイメージを固めることが出来るので、カーソル選択との並行使用は行っていない。

 

「そいやっ!」

 

ぐるんと一回転しながら思い切り薙刀を振り下ろすと同時に次の武装…狙撃用のライフルを呼び出して、上空に向けて一発弾丸を撃ち込む。

弾丸は上空に張られているシールド・エネルギーに阻まれて消滅する。

ライフルをクルクルと回して弄びながら肩に担いで、実演を終えると、生徒達から拍手が沸き起こる。

 

「と、まぁこんな感じだ。練習すりゃ誰だってできる」

「遊び過ぎだ、アモン…だが、アモンの言う通り練習すれば誰にでも出来る技法だ。此奴を目標にしろとは言わんが、各自訓練を怠らない様に!」

「「「はい!!!」」」

「では、授業をこれで終える。織斑はグラウンドに作ったクレーターを埋め立ててから昼休みに入る様に!解散!!」

 

千冬が手を叩くと、生徒達はありがとうございましたと頭を下げて、昼休みへと入って行く。

俺は白式を身に纏った一夏へと近づき、クレーターの埋め立て作業を手伝ってやる事にした。

 

「お前、派手に墜落してたなぁ、おい」

「い、言うなよ…まさか、あんなに速く地面に墜落するとは…」

「白式は加速性が良いからな…変にスラスター吹かせばそうなるだろ?」

 

俺は白式の背後に浮かぶウィング・スラスターを見つめ、ニヤリと笑みを浮かべる。

まともな射撃装備を積んでいない白式にとって、このウィング・スラスターは文字通りの生命線となる。

大胆に、かつ繊細に機体を制御することが、白式を乗りこなすための近道となるだろう。

 

「とは言え、良い経験になったろ?」

「何事も経験しなくちゃ分からない…って言ってたのは師匠のアモンだからな。次は墜落しないさ」

「衝突はしそうだけどなぁ」

「しないってば!!」

 

一夏をからかう様に茶化しつつ、クレーターに盛られた土を丁寧に踏んで地均しをしていく。

機体の重量は優に1tを超える…適当に踏みつけているだけで簡単に慣らすことが出来るのは楽で良い。

 

「なぁ、アモンってさ…千冬姉の事どう思う?」

「どうって…なんだよ、姉ちゃん取られるとか思ってんのか?」

「いや…その…アモンになら、千冬姉任せられるかなってさ」

 

一夏は埋め立ての手を止めて、真剣な顔で俺の事を見つめてくる。

…俺が千冬と…ねぇ…?

 

「そりゃ、家事がキチンとできないくらいで、良い女は良い女だからなぁ…言い寄られれば悪い気はしねぇけどさ」

「じゃ、じゃぁ…!」

「けど、だ…俺意外にもマトモな男なんざ、いくらでも居る。根無し草だぜ、俺」

 

もっと言えば、必ずギャップが起こる。

千冬達は老いていく…それは避けようのない宿命だ。

しかし、俺はもう老ける事が無い…老けたくてもな。

置いて行かれると分かっていても、愛さずにいられないと言う気持ちは幾度も味わってきたが、果たして…千冬は置いていく事に耐える事ができるだろうか…?

 

「それでも、だよ。俺はアモンが義理の兄貴になってくれるの嬉しいしさ」

「んだよ~、お前兄貴欲しいのか?」

 

俺は白式の腕部を打鉄の肘でつついてケラケラと笑う。

なんだかんだ言ってもまだ子供…まだまだ青いねぇ…。

 

「ばっ!違うって!だから、千冬姉の事はアモンなら任せられると思ってさ!」

「…ま、それは千冬が俺の事を好きなら成立する話だろ?だから、この話はお終いだ。だけど、俺は…なんだ、一夏の事は弟分みてぇに思っているさ」

 

地面を丁寧に踏んで地均しを終えれば、俺は一夏に背を向けて歩き始める。

…そら、良い女に言い寄られれば悪い気はしない。

格別良い女であれば尚更に…。

俺は、千冬に言い寄られた時に拒むことが出来るのか…分からずにいた。


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