ご立派なアインズ様   作:みなみZ

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どんなアインズ様でも受け入れられる…そんな貴方にこそ、この話を捧げよう(発狂)
え?受け入れられない?―――お願い…受け入れて(懇願)
そして、今こそ凛然と輝け、R-15タグ!この作品のR-18入りを防ぎたまえ(祈り)

ちなみに作者のスマホは怒子藻。英雄でなくてすまん。。。


(M)完結編(前)

アゼルリシア山脈南の湖。広大な森と、豊かな湖。正しく自然豊かという言葉が似合う場所にある一人のスケルトンタイプのアンデッドがいた。

アンデッドはこの世界においては、決して珍しい存在とはいえない。街中でも墓地では、死者の念が集まり、アンデッドが産まれる。また、カッツェ平原においては、世界でも有数のアンデッドの多発地帯であり、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)。果てには伝説のアンデッドである死の騎士(デス・ナイト)までその存在が確認されている。

なので、場所的には珍しいが、アゼルリシア山脈南の湖にもアンデッドが居てもおかしくはない。

………アンデッドが居るのはおかしくはないが、そのアンデッド自体は非常におかしかった。

 

僧侶が纏うような白を基調とした黄金の宝飾が豪華に飾り付けられた袈裟を纏い、頭にはローマ教皇が被るような、これまた豪華な司祭冠(ミトラ)を頭に被っている。手には、数珠を持ち、首には輪袈裟とロザリオを下げている。

和洋折衷な宗教が交った意味不明な格好をしたアンデッドであった。

 

そんな意味不明なアンデッドは、一人静かに座禅を組み瞑想している。微動たりともしないとても静かな瞑想だ。神聖な雰囲気すら漂っている。

そのアンデッドの見た目から、傍から見れば即身仏のようにも思えた。

見事なまでに自然と一つに溶け込むアンデッド。小鳥達が囀りながらアンデッドの肩に止まる程だ。

 

ふと、そのアンデッドの髑髏の眼孔の中に光が生まれた。

その色は何とも透き通るような美しい、青。まるで蒼穹の彼方を表すかのような見事なまでの青の眼光であった。

アンデッドとが動き出したというのに、肩に止まる小鳥達は飛び去ろうとしない。美しく囀りを辺りに響かせる。

アンデッドは肩口に止まる小鳥達を愛おしむように、眺め―――呟いた。

 

 

「我…真理に至れり」

 

 

アンデッド―――アインズ・ウール・ゴウンは呟く。アインズが思い浮かぶのは、数々の修行を送る日々。

 

アインズはこのアゼルリシア山脈南の湖に到着し、直ぐに修行を始めた。一刻も早く、ご立派様を抑えようとしたのだ。アインズは日本に古来より伝わる修行を行った。

 

冷たい滝に打たれ、自らの煩悩を洗い流す修行をした。

野山を休み無くひたすら駆け回り、身体を鍛える修行をした。

静かな湖の手前で座禅に没頭し、自らの心を見つめる修行をした。

竹を切り、竹の中から赤子を見つける修行をした。

マサカリを担ぎながら熊に跨り、熊と相撲をする修業をした。

湖で熊に苛められている亀を助ける修行をした。

熊と熊と熊(命名、くまいぬ・くまきじ・くまさる)を連れ、人食い大鬼(オーガ)を退治する修行をした。

 

 

「数々の辛い極限の修行。だが、それは私を高く遠くへと導いた…」

 

何故、人は―――否、生命は性欲を持つのか?生き物であるのならば、誰もがもつ煩悩。性欲。アインズがご立派様を抑えるためにはどうしても抑えなければいけない本能。

かつてのアインズならば答えが出ない問題。だが、数々の辛い修行を乗り越えたアインズは、ある答え――真理に至った。

 

 

「何故生命は欲を持つか―――それは自らが永遠ではないからだ」

 

生命は永遠ではない。

古来より権力者達が求めたのは富と栄誉―――そして不老不死。だが、誰もがそれを手に入れたことはない。

アンデッドであれば、不老不死だ?

否、それも違う。アンデッドになれば、確かに不老の存在となれるだろう。だが、決して不死ではないのだ。

 

それは、スレイン法国の基礎を築いた、六大神の一柱である死の神スルシャーナの存在が証明している。

ユグドラシルプレイヤーであり、世界級(ワールド)アイテムを所有するまでのギルドの一員のオーバーロードであったが、後に来た同じユグドラシルプレイヤーである八欲王によって殺害されてしまった。

 

アインズと同等の存在であったであろう、スルシャーナですら死からは逃れられない。

ゆえに、生命は自らが生きた証を残そうとする。残そうとする為に、性欲を持ち、他者と交わり子を残そうとする。

それが自然の摂理。世界の摂理なのである。

 

「永遠では無い故に欲を持つというのならば―――私は永遠であろう」

 

だが、アインズは思う。自らは永遠であると。

元より、自分はアンデッド。不老の存在であり、寿命は存在しない。

問題は、自分が殺害されるという事。

アインズは、死霊魔法に特化したロールプレイの魔法詠唱者(マジック・キャスター)である。ユグドラシルプレイヤーの中では、装備抜きにした純粋な強さは、中の上程度。それにアンデッド故の、弱点もある。自分と同じようにこの世界に転移したユグドラシルプレイヤーと敵対した場合、殺害される可能性は大いにある。

 

だが、それが何だというのだ?

 

自分にはナザリック地下大墳墓がある。至高の仲間達と築いた、ユグドラシルプレイヤー、千五百人なる討伐隊すらも落とせなかった難攻不落の拠点。輝く至高の玉座。魔王の城。永遠なる我が家。

 

自分には数々の秘宝がある。至高の仲間達と九つの世界を駆け回り集めた秘宝。ユグドラシルのギルドの中でも最多を誇った世界級(ワールド)アイテムの所有数。仲間達が残していってくれた神器級(ゴッズ)アイテムの装備・消耗品。正しく世界を塗り替える事が可能な宝物殿。

 

そして何よりも―――自分には仲間達が残してくれたNPC達が居る。

 

全NPC達の頂点である守護者統括たるアルベドは全NPC達の中で最も高い守備力を持つ。三重の鎧となっているヘルメス・トリスメギストスを纏い、スキルと噛み合わせ超位魔法すらも三度耐える事ができる正に鉄壁。更には、世界級(ワールド)アイテムである真なる無(ギンネンガププ)を用いた、超広範囲攻撃も可能とするオールラウンダー。いかなる攻撃をも自分から守ってくれるだろう。

 

守護者であるシャルティア・ブラッドフォールン。一対一においては守護者最強の名に相応しい実力。神器級(ゴッズ)アイテムであるスポイトランスのえげつない能力に加え、眷属招来をで召還した眷属をスポイトランスによって回復するというチートに近い戦法。そして何よりも自らの分身を生み出す、エインへリヤルを駆使する姿は正しく守護者最強。

 

同じく守護者であるコキュートスは装備による物理攻撃に特化した前衛職。四本の腕に全て武器を装備した際の攻撃は凄まじいものだ。彼の創造者たる武人建御雷が愛用していた斬神刀皇を手に、いかなる存在であろうと切り捨てるであろう。

 

守護者であるアウラ・ベラ・フィオーラは個としては守護者最弱である。だが、アウラの強さは群にして個。百レベルのビーストテイマーであるアウラが操る群たる獣達は、守護者に相応しい。モンスターの使役・強化・弱体化、等々様々なスキルを駆使し戦うアウラはある意味万能の個と呼べる存在なのかもしれない。

 

守護者であるマーレ・ベロ・フィオーレ。気弱な態度からは想像もつかない殲滅力の持ち主。実力はシャルティアに次ぐ守護者第二位を誇り、広範囲殲滅においてはナザリック最強。ドルイドを極めたその力は、守護地であるジャングルにおいて、無双を誇る力を誇るであろう。

 

守護者であるデミウルゴス。個としての強さはアウラと並ぶ存在。だが、デミウルゴスの真価はその智謀。ナザリック随一の叡智を誇り、スクロールの作成から、周辺国を脅かす魔王の偶像の作成。等々、本当にアインズの助けとなっている。ある意味、アインズが一番頼りにしているNPCだ。

 

守護者であるヴィクティム。生け贄として生まれた天使は、死すとき強力な足止めスキルを発動する。そこに第八階層の最大戦力をぶつける事で、ナザリックの最終防衛ラインは形成される。必要不可欠な生け贄。

 

執事長たるセバス・チャン。鋼の執事であり、ナザリックの前衛としてはトップの実力を誇る竜人。デミウルゴスと同じように変身能力を持ち、その極限までに鍛えられし拳はいかなる敵であろうと打ち砕くであろう。

 

領域守護者であるパンドラズ・アクター…………は、うん。まぁ、いいや。

 

 

守護者以外にもナザリックには頼りになるNPC達が存在する。アインズにとって唯一無二の存在。頼もしき、そして愛おしき子供達。

 

彼らがアインズを守ってくれる。これは即ち、自分は不死という事の証明とすら言えるのだ。

 

「世界よ。誓おう。私は未来永劫に渡り―――永遠であると」

 

故に、アインズは世界に誓う。己は永遠であると。絶対であると。

そして絶対となった、アインズを世界をこう認識するであろう。

 

「永遠に存在し、絶対なる力を振るう私を人はこういうだろうな―――神と」

 

神。

この世界においては、六大神がその座にある天上の座。六百年前にこの世界に降臨し、淘汰されていた人類を救った救世主達―――だが、それが何だと言うのだ?

六大神とは元はと言えば、六人のユグドラシルプレイヤーである。アインズと同じ立場のただの人間だ。

六人のただの人間であった、ユグドラシルプレイヤーが後世にも神と語り継がれている―――。

ならば―――アインズとて、神と呼ばれる資格は十二分にある。

ユグドラシルプレイヤーはこの世界に絶大なる痕跡と影響を残している。

淘汰されていた人類種を救い、人類の守護者たるスレイン法国の基礎を築いた六大神。最後の六大神スルシャーナを殺害し、世界の支配者であった、ドラゴン達を絶滅一歩手前まで追い込んだ八欲王。世界を巡り、数々の伝説を残した十三英雄。

神と呼ばれ――王と呼ばれ――英雄と呼ばれたユグドラシルプレイヤー達。

 

ならば―――アインズも歴史に――否、世界に刻もう。

 

「六大神は神と呼ばれながらも、たったの百年しか存在できなかった。だが私は違う。私は未来永劫に渡り存在し、天下遍く我が名と威光を轟かせ続けよう。六大神等、神ではない。私こそが―――唯一の神なのだ」

 

今、此処に新たな神が誕生した。

悪徳の華の名を冠する神。その力と叡智。財力、戦力―――全てをもってして神の名に相応しき存在。

 

 

「天よ。我が力を照覧あれ。地よ。我が名を刻め。そして世界よ。ただただ祝福せよ。我こそはこの世で最初の―――そして最後の神である」

 

いと高き至高なる座に坐るは新しき神。

新たなる―――そして最後の神の名前は―――アインズ・ウール・ゴウン。

 

今、此処に新たなる伝説―――否、新たなる神話が誕生したのであった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所でアインズが神となると世界に宣言した時、股間のマーラ様は何をしていたか?

実は何もしていなかった。

 

修行の最初の頃は、何かと口を出してきたが、アインズが神を意識し始めた時から、段々とその口数は減っていき、今では全くと言っていいほど、口を出すことはなかった。

ただ、アインズはある疑問があった。

 

(最後の…言葉は何だったのだろう…?)

 

それは、自らが神へと昇華する間際の時。ご立派様はアインズとある言葉を発したのであった。

 

『小僧…否、新たなる神へと目覚めんとする者よ。まさかこの短い時間で此処までの答えに辿り着こうとするのは恐れ言ったわ…。このままお主が真なる神へと目覚めたときは、ワシは今後、お主に何も語らず、唯の世界級(ワールド)アイテムとしてお主の力となろう。だが…もしお主が神成らざる身となった時は、ワシは天魔・第六天として、第六天魔王マーラとして…人々が、悪魔が、ご立派様と崇めるモノとしてお主を導こうぞ…』

 

その言葉を最後に、天魔・第六天は沈黙を守っている。

もし、私が神と成れなかったら、魔王として導く…。どういう意味で言ったのであろうか?

 

「だが、それも最早懸念であるな…。何故ならば我が身は既に神の座へと至ったのであるのだから…」

 

だが、最早神と成ったアインズには関係のない事である。

世界級(ワールド)アイテム『天魔・第六天』は素晴らしい性能を持つ。正に世界級(ワールド)に相応しいアイテムなのだ。この胸の中にある紅玉の世界級(ワールド)アイテムと共に、これからもアインズと共に未来永劫あり続けようではないか。

それよりもだ。アインズにはある一つの懸念があった。

 

「私が修行を始めて、果たして幾年の時が流れただろうか…」

 

アインズが修行を始めてから決して、幾年の時は経っていない。

精々が、数週間である。だが、(ゴッド)となったアインズには最早時間の概念など、些細な問題であり、アインズが幾年経ったと言えば、例え数週間しか時間の経過が無くても、幾年もの時間が経過したのが正しいのだ。

 

「我が拠点であるナザリック地下大墳墓は唯一不変なモノだが、果たして…下界はどのような変化を迎えたのだろうか。リ・エスティーゼ王国やバハルス帝国は存在しているのだろうか…」

 

己が拠点であるナザリック地下大墳墓以外全てが下界と言い切る(ゴッド)アインズ。リ・エスティーゼ王国やバハルス帝国の存亡を本気で考えているのは流石は、(ゴッド)な視点である。

 

「どれ…少し調べてみるか…」

 

アインズがアイテムボックスから無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)を取り出し、ごそごそと袋の中を探り、目当ての物を引きずり出した。

出てきたのは、一メートル程の大きさの鏡。遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)である。

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)は指定したポイントを映し出すマジックアイテムである。

アインズは遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)を用い、下界の様子を伺う事にしたのだ。

 

「以前ならば、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)を用い、カルネ村を見つけるのに多大な時間を必要とした。だが―――今の私ならば」

 

アインズはそう呟くと、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を起動し、適当な場所にポイントを指示すると―――。

 

「ふっ…。流石は私だ。我ながら恐ろしくもあるな…」

 

アインズが見つめる遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)の鏡の中には、一つの大きな施設が表示されていた。

かつて、カルネ村を見つける際には、多大な時間を必要としたというのに、今のアインズはただ適当に示したポイントも求めた先となっている。運すらも味方につけているとは、流石は、(ゴッド)アインズ。かつて流れ星の指輪(シューティングスター)を手に入れるために、ボーナスをガチャに注ぎ込んだ事が嘘のようだ。

 

「これは…学園か?」

 

幾つもの大きな建造物が並ぶ施設。

中庭も存在し、そこには制服を纏った若い男女が多く存在した。

この時のアインズは知らないが、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)が示したのは、バハルス帝国の施設である、帝国魔法学院であった。

帝国魔法学院は、単なる魔法学院だけではなく、騎士や官僚の育成機関として、将来の帝国を担う人材(エリート)の輩出を目的とした、大規模な施設なのである。

 

ふとアインズの視界に一組の男女の生徒が入る。

二人とも平凡な容姿だが、男は片目に眼帯を付けているのが特徴であった。

二人は非常に仲がよさそうだ。アインズの目から見ても、青春を謳歌しているように見える。

以前のアインズならば、憧憬の眼差しで見つめ、自分の寂しい青春時代を振り返り、ブルーになり、俺にはYGGDRASIL(ユグドラシル)があったし!仲間達と青春したし!なんて、強がっていたことであろう。

だが、今此処にいるのは、以前までのアインズではない。神の座を登り詰めた(ゴッド)アインズである。

 

「そうだ…有限なりし者達よ…。限りある生を謳歌するといい…。今日という日を舞い散る花のように生きるお前達にこの詩を送ろう…。いのち短し 恋せよ乙女――――えーと。あとは忘れた……」

 

澄み切った蒼穹の眼には、慈愛の念すら浮ぶ。

アインズは心の奥底から二人の幸せを願っていた。

そのまま遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)から二人の姿が外れるまで、慈しむように眺めるアインズであった。

アインズは、二人の姿が見えなくなった遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)のスクロールを続ける。

 

「どれ…そろそろ学園の中を見てみるか…」

 

ナザリックで学園を作る際、何か参考になるかもしれんからな。

そんな事を呟きながら、学院の室内をスクロールしようとして―――その手が止まった。

学院の室内を見ようとしたのだが、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)が学院の室内を示すことはなかった。遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)の調子が悪いのかと思ったが、アインズはふと、ある事を思い出した。

 

「そういえば…遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)は室内まで見る事はできなかったな…」

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)で見ることができるのは、あくまで外のみとなっている。

だが…。

 

「知らなかったのか…?神の眼からは逃げられない…!!!」

 

アインズは片手で己の髑髏の顔半分を覆い隠しながら、妙に身体をくねらせ、力強く宣言する。俗に言うジョジョ立ちと言えるのかもしれない。

誰に宣言しているのかはわからない。謎だ。そしてそのポーズをする意味もわからない。やっぱり謎だ。だが(ゴッド)アインズがすることに間違いは無い。つまりは、この宣言やポーズにも意味があるのだろう。多分。

そして発動するフローティング・アイ。

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)はそのままでは、室内を見ることができないが、フローティング・アイと合せる事によって、室内も見れるようになるのだ。

 

「ふっふっふ。我が眼からは誰も逃れる事はできない…。では見せてもらおうか。この世界の学園とやらをな…」

 

フローティング・アイの効果により、学院の室内も見ることが可能になった、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)を使う。

 

講義室・実務室・実験室・訓練所・休憩所…等々、粗方な施設を眺め、アインズは満足げに頷く。

 

「これがこの世界の学園のレベル…。ふ…。圧倒的じゃないか、我が学園は」

 

アインズが、見た限りでは、この世界の学園のレベルはそんなに高くないと思えた。

アインズの脳裏に、あるギルドメンバー達の姿を思い浮かべる。

ペロロンチーノとスーラータン。

この二人はナザリック学園を作ろうと、学園の施設の作り込みを行っていてた。

そのデーターはナザリック地下大墳墓の何処かにあるはずだ。

あの二人が作りこんだ学園ならば、この世界で最高の学園となるだろうと、アインズは確信する。

 

「さて…粗方施設は見たかな―――?」

 

学院の施設を見尽くしたと思った、アインズは遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)の使用を辞めようと思った時、ある部屋を見つけた。

 

扉は大きくない、恐らく部屋の中は広くは無いだろう。

だが、扉にはプレートが付いている。残念ながらアインズにはこの世界の文字は読めないので、何の部屋かは解らないが何らかの施設なのだろう。

 

「ふむ。見るのはこの部屋で最後にするか」

 

アインズは新たに見つけた部屋で学院の視察を終わりにする事を決めながら、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューング)をスクロールするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、この場に歴史家が居たならばこう言うのではないだろうか。

 

 

 

歴史にif(もし)は無い。if(もし)は無いが――――もし、アインズ・ウール・ゴウンがこの部屋を見ずに学院の視察を終えていたならば……後世の歴史は大きく変わっていただろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――」

 

 

 

 

 

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)が映す光景にアインズは言葉も出ずに心底驚愕する。

アインズは神である。この世界で唯一の神であるアインズを心底驚させる光景が遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)に広がっていた。

 

室内にドラゴンが居た?怪しげな儀式を行っていた?ギルドメンバーが居た?

 

否、どれも否。

ドラゴンが居た程度では、今のアインズは驚かない。むしろいい材料が出来たと、嬉々として狩るであろう。

怪しげな儀式をしていてとしても、エ・ランテルの共同墓地でズーラノーンの儀式を見ていたアインズは驚愕しない。

最後のギルドメンバーが居た、という事だったならアインズは驚愕と共に歓喜を覚え、直ぐにでも仲間を迎えに行くだろう。

だが、目の前の光景はそれではなかった。そして神であるアインズを驚愕させた光景とは―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今日も疲れたねー』

 

『うん。早く帰って身体を拭きたいよぉ』

 

『そうだねー。あっ、ねぇねぇ。アンタこんな所に痣が出来てるよ?』

 

『え!?やだー。こんな所に痣が出来るなんてぇ。この後、彼氏と会うのにー』

 

『そんな所を見せるなんて、この後、何するつもりなのよー!』

 

『えっ!?そりゃ…そんな事よ!』

 

『『『きゃー!!エッチー!!』』』

 

 

 

 

 

 

 

―――半裸の少女達であった。

 

 

 

 

 

もしアインズがこの世界の文字が理解できていたならば、部屋の扉に掲げれていたプレートの内容を理解できていただろう。

扉のプレートに書かれた文字―――それは『女子更衣室』と掲げられていたものだった。

 

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)が映し出す先には、十人程のうら若き少女達の半裸の姿。

露もない少女たちの姿をガン見する(ゴッド)アインズ。

するとアインズの心の動揺を表したのか、澄み切った蒼穹のような双眸が曇る。

何があったというのだ、(ゴッド)アインズ。落ち着くのだ、(ゴッド)アインズ。

 

「ゆ、許せん!許せんぞ!嫁入り前だというのに、そんな所に出来た痣を男に見せるなんて!?おおおおお、お父さんは許しません!!」

 

いつから痣を作った少女はアインズの娘となったのだろうか?アインズは天涯孤独の身。ましては童貞である。娘も義娘もいるはずがないのだが。

それともあれであろうか?この世界の人類は全て自らの子供という意味なのだろうか?

会話したこともない初めて見た少女を自らの娘と呼ぶアインズ。

流石は、(ゴッド)アインズ。半端ではない博愛っぷりだ。涙が出てきそうになってきた。

 

『あんた…また胸が大きくなった?』

 

『―――うー…そうかも』

 

「け…けしからん!なんというけしからん身体だ!!実にけしからんぞ!!全くもってけしからんぞ!!」

 

(ゴッド)アインズは大事な事なので、けしからんを四回言った。

アインズがガン見する先には、豊満な体をもつ少女の姿があった。

だが、少女というが何という破壊力(おっぱい)。アインズが知る中で最強の破壊力(おっぱい)を誇るユリ・アルファを上回るであろう、ぼいんぼいんな―――おっぱいだった。ぼいんぼいんな―――おっぱいだった。

大事な事なので、二回言わせてもらった。巨乳好きなシャルティアが見れば、大興奮間違いないであろう。

 

『こんなに凄いの…羨ましい!少し寄こせ!』

 

『きゃ!?いきなり後ろから揉まないでよぉ!?』

 

ぼいんぼいんな少女の後ろから、別な少女が忍び寄り、がばっとぼいんぼいんな胸を揉む。

最初は驚いたぼいんぼいんな少女だったが、後は、されるがまま揉ませている。どうやら揉まれ慣れているようだ。そして揺れるおっぱい。たゆんたゆんなおっぱい。

 

「おっふっ…た…たゆんたゆん…やでぇ…」

 

謎の言葉、おっふっを言うアインズ様。

何だ?おっふって何なんだ?そして何故に関西弁やねん。もう意味わからへんわ。

 

 

アインズはそのまま食い入るように遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を凝視する。

青かった眼光がどんどんと曇り続ける。もはや、どす黒い。

 

「はっ!?い、いかん!?こ、これでは、ただの覗き魔…変態ではないか!?」

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)が視線で割れんばかりの勢いで凝視していたアインズはふと、己の過ちに気付いた。

頭を大きく横にニ、三度振り、自らの心を正そうとする。

 

「私は、この世界における、唯一の神。神が覗き魔等…このような事をしてはならん!!――――ああ…でも…もうちょっとだけ…いや、だめだ!!…でも、先っぽだけだから…」

 

 

アインズはそんな事を呟きながら、己の骨の手が、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)をスクロールしようか、しまいか彷徨っている。

もしかしたら(ゴッド)アインズは意志が弱いのかもしれない。そして何が先っぽだけなのだろうか?神々の言葉だろうか?激謎だ。

 

 

自らの意志と激しく葛藤するアインズだったが、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)に、新たなとんでもない光景が飛び込んできた。

 

『あー。下着も汗でぐしょぐしょだよぉ』

 

健康的に日焼けした身体を持つ一人の少女が自らの秘所を覆う下着をつまんでいる。

そのどこか挑発的な行動にアインズはごくりと出もしない唾を飲み込む。

 

『代えの下着用意しててよかったー』

 

「―――!?!?」

 

何だ…!?この少女は…一体何をするつもりなのだ…!?!?

(ゴッド)アインズは遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を握り締め、己の眼前へと引き寄せる。うん。これで更によく見える。握り締めた遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)がピシリと罅が入るかの様な音がしたのはきっと気のせいだろう。多分。

 

『下着交換しよっと!』

 

「な…んだ……と」

 

少女が自らの秘所を覆う下着に手をかける。

アインズの全神経が目の前の情報のみに集中する。眼光はもの凄い勢いで曇り続ける。もはや、だめだ。

 

そして―――少女は―――アインズの―――目の前で―――その下着を―――。

 

脱いだ。下着を脱いだ。

大事な事なので二回言った。脱いだのだ。

本当に本当にありがとうございます。

 

「神様ぁぁぁぁ!!誠にありがとうございますぅぅぅぅぅ!!!!」

 

(ゴッド)アインズは、何故か自分自身に対する感謝の雄叫びを上げながら、目の前の光景を存在しない己の脳に刻みつけていた。

 

ちなみに、アインズの肩に止まっていた小鳥達は驚き飛び立っていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「け…結局最後まで見てしまった……」

 

結局、全ての少女が更衣室を出るまで、アインズはしっかりじっくりねっとり最後まで見てしまった。傍から見れば、言い訳の仕様が無い、実に清々しいまでの覗きっぷりである。

 

「な、何故だ…!?私は神成る身となり、欲を捨てた…なのに、何故あのような事をしてしまったというのだ…?」

 

アインズは激しく困惑する。

自分は、永遠であると誓い、真なる神となり、その身に潜む欲を捨てた。

ゆえに、先ほどの行動がまるでわからない。欲が無い自分が何故、覗きのような行動をしてしまったというのだ…?もしや、自分はまだ神の座まで至っていないというのか?

 

いや、そんなはずはない。自分は確かに最後の修行を終えた時に、とてつもない万能感を得た。

あれが、神の力ではないというのならば、何だと言うのだ?

 

 

 

 

『グワッハッハッハァー!』

 

「!?」

 

悩み続けるアインズの脳裏に一つの雄叫びが轟く。

この頭に直接響く、伝言(メッセージ)に似たような感覚。そしてこの雄叫び。間違いない。

 

「お前だな…天魔・第六天…!!」

 

アインズの叫びに呼応するかのように、アインズの股間から、にょきっと一つのイチモツがタケノコの様に生えてくる。

 

『おう!その通りじゃぁ!めっちゃ久しぶりじゃのう!』

 

そしてイチモツは宿主(アインズ)に対して話しかけてきたのだ。

この光景を常人を見たら、己の目を疑うか、己の頭の異常を疑うだろう。だが、これこそ、アインズの股間に宿り、YGGDRASIL(ユグドラシル)において、200しか存在しないユニークアイテムの一つ。世界に匹敵する可能性を誇る世界級(ワールド)アイテム―――『天魔・第六天』なのだ。

 

だが、今のマーラ様は以前とは違う。

以前のマーラ様ならば、びんびん常態か、ふにゃちん常態かのどちらかだと言うのに、今のマーラ様はその中間。言うならばそう―――半勃起状態だ。

 

「そうか…先程はお前の仕業か…天魔・第六天…!!」

 

半勃起な状態のマーラ様にアインズ怒気を交えた声を上げる。

 

『ん?何のことよな?』

 

神の怒気に対して、マーラ様はどこ吹く風な感じで答える。神の怒気にも恐れないとは…流石は第六天魔王マーラ様である。

そして(ゴッド)アインズもナニと会話するとは流石である。恐らく神史上初の快挙であろう。

 

「とぼけるな!!先ほど私が女子に劣情をしたのは、お前のせいなのだろう?何故だ?お前は私が神になったならば、ただの世界級(ワールド)アイテムとして私と共にあるとお前は確かに言った。それなのに、何故神なる身となったこの私の邪魔をする?」

 

『ははぁん。なるほど、そうきたか。だがな、小僧。一つ勘違いしておるぞ』

 

「勘違い…だと?」

 

訝しげなアインズの声に、マーラ様は己の身体を前後に振りながら答えた。

 

『そうじゃ。ワシは先ほどから―――というか、お主が修行を始めてから何もしておらん』

 

「な…何だと?」

 

『だから、ワシは何もしとらん。お主が勝手に小娘達に欲情しただけよ。まぁ、ワシを宿した故に、お主は失われた性欲を取り戻した。そういう意味ではワシのせいではあるわな』

 

アインズは心の奥底から驚愕する。つまりはあれか?マーラ様は関係なく、勝手に自分が少女達に興奮し、欲情したというのか?

 

―――否、そんな事はありえない!何故ならば―――!

 

「ありえない…!!私は神の座へと辿り着いたのだ…。この世界で唯一の神がそのような欲情を抱くなど…ありえない…!!」

 

『ふむ…。小僧、お主勘違いをしておるぞ?』

 

「何が勘違いだというのだ!?」

 

『お主は神ならば欲情しないと思っているようじゃが…神でも普通に欲情するぞ?人間に対しても』

 

マーラ様はまるで幼子に諭すかのような穏やかな声で、(ゴッド)アインズの勘違いを指摘する。

 

「ば…馬鹿な!完全たる神が不完全なる人に欲情するなど―――!?」

 

マーラ様の指摘に、アインズは焦るように、声を荒げた。

だが、その気持ちはわかる。何故ならば、マーラ様の指摘は今のアインズには致命的なのだ。

アインズは、己に住まう欲から離脱する為に、永遠であろうとし、神の座へと登り詰めた。

だというのに、自らが登り詰めた至上の座においても、欲情からは逃れられないというのは、アインズにとってとうてい受け入れれるものではなかった。

 

『天空神ゼウス』

 

「―――?」

 

焦るアインズに、マーラ様はある一人の神の名前を告げる。

 

『海神ポセイドン、美神アプロディーテー、女神テティス、調和神ハルモニア、光神ルー、太陽神スーリヤ、雷神インドラ、風神ヴァーユ、豊玉姫神』

 

その意図がつかめず、困惑するアインズに、マーラ様は次々と神の名前を告げていく。

 

『小僧よ。今告げた名前が何なのかわかるか?』

 

「―――かつての世界においての、神々の名前であろう?幾つかはYGGDRASIL(ユグドラシル)にも出てくる名前だ」

 

YGGDRASIL(ユグドラシル)は北欧神話がベースとなっている世界観であるが、他の神話における神や英雄、武具等も取りえていた。ゆえに、今マーラ様が告げた神々の名前も、全てではないが、幾つかはYGGDRASIL(ユグドラシル)にも出てくる名前であったのだ。

廃人プレイヤーたるアインズにとって、それは知らない名前ではなかったのだ。

 

『そうよ。お主の言う通り、神々の名前よ。だが、ワシが告げた神達はある共通点をもっている―――それが何なのか、わかるか?』

 

「共通点…?神話系統が一緒…?いや、違うな」

 

神話系統が一緒かと思ったが、明らかに日本神話系の名前の神もある。これは違うだろうと、アインズは自分の考えを即座に否定する。

かつてのギルドメンバーであった、設定厨であり厨二病でもあったタブラ・スマラグディナであったならば、答えられるかもしれないが、アインズには答えることができなかった。

 

 

『わからんようだな。ワシが今告げた神々達の共通点―――それは』

 

 

 

 

『人と交わり、子を為した神々の名前じゃ』

 

 

 

 

マーラ様は神々の共通点を答える。

そしてそれは―――欲を捨てるために、神となったアインズにとって致命傷にも等しい答えであった。

 

「な―――なんだと!?」

 

『神ほど自分勝手で気まぐれな存在はおらん。何せ、神を止められる者等、他の神しかいないのだからな。そして神の数は人と比べて、圧倒的に少ない―――。つまりは、神は自らの行いを咎められるなど、殆どないのじゃ。今まで神の戯れと気まぐれででどれだけの人が惑わされ、振り回され、血が流れ、屍が築かれていったか。そしてそれは異性関係でもそうじゃ。どれだけの女が、どれだけの男が神々のどろどろな嫉妬やねちっこい執着、身勝手な行為で不幸になったことか……』

 

どこか懐かしむような仕草を見せるマーラ様。え?イチモツがどうやって懐かしむような仕草をするって?そんなの知らん。

 

『神とはそういったものじゃ。自分勝手で気まぐれ。気まぐれで人を救い、気まぐれで人を―――否、世界をも破滅へと誘う。ある意味においてもっともやっかいな存在じゃ。何せ、この世で一番気まぐれで自分勝手な存在が、この世で一番力を持っている。悪餓鬼に核兵器を持たせるようなもんじゃ。恐ろしくて、生きた心地がしないわい』

 

マーラ様の言葉に、アインズの中の神の偶像が崩れていく。

何たる、言葉。とても受け入れられない話だ。だが、何故か納得してしまう。これが、釈迦を誘惑せんとした第六天魔王マーラ・パーピヤスの話力なのか。

 

「だ、だが!私はそうはならない!今までの神がそうだったとしても、私は、私は真なる神として、この世界をに君臨し続ける!」

 

だが、アインズはマーラ様の言葉を素直に受け入れられない。

何故ならば、アインズがマーラ様の言葉を受け入れてしまったならば、あの辛く極限の修行の意味が無くなる。

自分は神としてナザリック地下大墳墓に戻らなくてはならない。そうでなければ、またマーラ様に四苦八苦する生活に戻ってしまうのだ。故に、アインズはマーラ様の言葉を受け入れない。受け入れれる筈がないのだ。

 

『神…か』

 

だが、マーラ様はそんなアインズの心の内などお見通しとばかりに、ふっ…とニヒルな笑みを浮かべる。実にハードボイルド。その笑みに、アインズは特大な嫌な予感がする。何をするつもりだ?何をするつもりなのだ!?

 

身構えるアインズに、マーラ様は更に笑みを深くして言葉を発してきた。

 

『では神にならんとした、お主にこの言葉を贈ろうではないか』

 

そしてマーラ様は放つ。この現代に現れた最も新しい神を穿つ、神殺しの矢を。

その神殺しの矢の名前は―――。

 

 

 

 

 

『厨ニ病乙と』

 

 

 

 

 

「ぐっはぁぁあ!!??」

 

 

 

その瞬間、アインズの身体は衝撃を受けたかのように、身体を反らした。

マーラ様が放った神殺しの矢は、アインズの存在しない心臓を見事に撃ち抜いた。

心臓というか、もはや肺とか胃とか、その他の臓器も含めて撃ち抜かれた―――それだけの衝撃がアインズの全身を走り抜けていった。

 

 

『神となった時に感じた万能感?そんなのあれじゃ、厨ニ病になった瞬間の勘違いに過ぎんわ。お主は神となったと勘違いした厨ニ病患者じゃ。しかも自らを神と思うなど、末期患者もいいところじゃ』

 

死人に鞭を打つかの如く、追い討ちをかけるマーラ様。(ゴッド)アインズはもはや、風前の灯である。

 

「なななななな、何をいうか!?わわわわ、わ、私は…ちゅちゅちゅ、厨ニ病ちゃうわ!!ととととと、とっくに、そそそそそ卒業業したわぁぁぁぁぁ!!!??」

 

どもり過ぎてまるで、ラップのような(ゴッド)アインズの返答。いや、もしやこれは神々の新たなラップなのかもしれない。いや、無理があるか。つまりは動揺しまくっているのである。

 

マーラ様が放った必中の矢は効果てき面であった。

アインズは出るはずがない、汗がぶわっと全身から吹き出てくる感じを覚える。口の中がからからに乾いていく感じすらある。

否定しないといけない。否定しなければならない。これを否定しなければ、自分は修行まで行い、厨ニ病を再発させた痛すぎる男になってしまう。

認めてしまえば、あの黒歴史(パンドラズ・アクター)をも上回る羞恥心がアインズを襲い掛かってくるのは間違いない。

 

 

『病気というものは再発するものじゃ。小僧だけではない。誰しもが再発する可能性を持つのが病気じゃ。小僧の場合、それがたまたま厨ニ病だっただけの事じゃよ』

 

うんうん。わかるわかる。と、頷くかのようにマーラ様はイチモツを前後に揺らす。

そして菩薩のような…生暖かいような…複雑な感情が交った視線を宿主に送った。え?イチモツがどうやって、視線を送ったかって?そんなの知らん。

 

 

『所で、小僧。知ってるおるか?』

 

「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う俺は決して厨ニ病ではましては末期患者の筈が…って、な、何がだ?」

 

現実逃避していたアインズは、マーラ様の声に、現世に戻ってきた。

しかし、何を知っているかと聞いているのだろうか。アインズには嫌な予感しかない。また、厨ニ病の事を攻めてくるのだろうか。これ以上の攻めはもう、いっぱいっぱいです。

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)の事じゃ』

 

だが、アインズの予想に反して、マーラ様が語ったのは先ほどまで使用していた遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)であった。

マーラ様の意図が読めず、アインズは内心首を傾げる。

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)……がどうしたと言うのだ?」

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)は映像のみしか写さん。音関連は一切伝わらんという事を』

 

マーラ様の言葉にアインズは拍子抜けした。

どんな追い討ちが来るかと思いきや、正直どうてもいい常識を語られたからだ。

 

 

「当然だ。遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)は映像のみを映すだけで、音に関しては一切伝わらない…?」

 

アインズはユグドラシルプレイヤーであれば常識とも言える遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)の性能を自分で説明するうちに、ある事実に気付いた。

そう―――マーラ様や自分が言うように、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)は映像を映すのみであり、決して音声は伝わらない。

 

ならば―――あの女子更衣室で聞こえた少女達の声は何だったというのだ?もしやあの声は―――。

 

とある可能性に気付いたアインズは出もしない汗が吹き出るのを感じる。もし実際にアインズの身体から汗が出るのであれば、身に纏う豪華な袈裟は汗で水浸しになっていただろう。

 

『気付いたようだのぅ』

 

ダラダラと出もしない汗と戦うアインズに、マーラ様は静かに語りかける。

 

『そうだ。遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)では音声は聞こえん。それは如何なる魔法やスキルを組み合わたとしても無理じゃ。そして隠し設定もない―――ならば、何故聞こえたと思う?』

 

アインズの脳裏に女子更衣室での少女達の露な会話が脳裏に蘇る。

だが、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)では、何をしても音は伝わらない。

ならば答えは単純にして明快。

だが、その答えはアインズにとっては己を蝕む毒となる。というかもはや、即死レベルとなる。

 

「や、やめろ」

 

『お主が女子更衣室で聞いた小娘達の話し声の正体。それは―――』

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

アインズは絶叫し、マーラ様の言葉を遮ろうとする。

だが、マーラ様は悪魔。かつて釈迦の悟りを妨げんとした伝説の天魔マーラ・パーピヤスの言葉は決して止められない。

 

 

『お主のただの妄想じゃ』

 

 

「おっっふぉう!!??」

 

 

マーラ様の言葉にアインズは胸を押さえながら悶える。心臓を鷲掴みにされ、シェイクされた気分になった。もう死にたい。アンデッドだけど本当に死にたくなってきた。

 

 

『お主は遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で見た映像から、小娘達の会話を妄想したのだ。それをお主は真に小娘達の会話だと勘違いしただけに過ぎんのよ。そしてそんな事をしてしまった小僧にこの言葉を贈ろう』

 

そしてマーラ様は放つ。この現代に現れた最も新しい神を微塵切りにする、神殺しの魔剣を。

その神殺しの魔剣の名前は―――。

 

 

 

 

 

『童貞乙と』

 

 

 

 

「―――――」

 

 

 

その瞬間、アインズの身体は、全身を硬直させた。あまりの衝撃に身動きが取れないようだ。言葉も無く呻き声すら上げない。

マーラ様が放った神殺しの魔剣は、アインズの存在しない心臓を見事に切り裂いた。

心臓というか、もはや肺とか胃とか、その他の臓器所か、骨や血液や赤血球や白血球やビフィズス菌とかピロリ菌とかも含めて微塵切りにされた―――それだけの衝撃がアインズの全身を魂を駆け抜けていった。

 

『まあ、童貞の妄想力は凄いからのう。世界すら変える可能性を持つ、ある意味偉大な力じゃ』

 

「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!!」

 

『小僧、恥じる事はない。男は皆誰しも童貞として生まれてくる。誰しもが皆童貞だった過去を持つのだ。お主はただそれが現在進行形なだけの話しよ』

 

「ど、ど、ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわぁぁぁぁぁ!!!!」

 

『素直になれ。以前も言ったが、今のワシは御主の一部。ワシは御主。御主はワシよ。自分自身に嘘は付けんぞ。その上で煩悩の化身たる天魔マーラ・パーピーヤスたるワシの言葉を否定できるか?』

 

否定を繰り返し、どこまでも自らが童貞だと認めないアインズ。

それに対し、マーラ様は全てを見透かす賢者の、または堕落へと誘う悪魔の言葉を持ってして、アインズに問いかける。

うぐ。アインズは呻く。否定したい。己の全威厳と全尊厳を持ってして否定したい。でも否定できない。このマーラ様の全てを見透かすかの様な言動。否定の言葉が出ない。だってだってアインズは本当は…。

 

 

「――――童貞です…」

 

 

童貞なんだから。

 

先生…エッチがしたいです…。

 

その言葉を自らの口から出した瞬間、アインズは涙を流す。そして何故か最低な台詞が心をよぎった。

いや、アンデッドである自分が涙を流すはずがない。だから気のせいだろう。それでも何故だろう?視界が滲んでしかたがない。まるで本当の涙を流しているように思えて仕方が無い。仕方が無い……。

 

 

『小僧よ。良くぞ認めた。どんな存在だろうと、まずは認める事から始まりの一歩を踏めるのだ』

 

打ちひしがれるアインズ。

そんなアインズにマーラ様はどこまでもどこまでも、優しく優しく声をかける。

 

「…始まりの…一歩?」

 

マーラ様の言葉に俯いていた顔を上げるアインズ。マーラ様は肯定するかのようにイチモツを前後させた。

 

『そうじゃ。始まりの一歩―――つまりは童貞卒業よ』

 

卒業。

人は、どんな事でも卒業をするものだ。

学校しかり、仕事しかり、結婚生活しかり―――童貞しかり。

 

「ば、馬鹿を言うな!わ、私は煩悩などに流されない!」

 

だが、アインズは流されない。粉々に砕け散った、自らの心をもう一度再構築させ、マーラ様の言葉に反旗を翻す。アインズは心のどこかで理解していた。

 

此処が天下分け目の関が原の戦いだと。

ここで、マーラ様に負けてしまえば、自分は煩悩に流され、マーラ様を制御する事ができなくなるという事を。

 

「我はアインズ・ウール・ゴウン。ユグドラシルに延々と咲き続ける、悪徳の華の名を受け継ぐ者なり。その名に懸けて、私は煩悩などに負けるわけにはいかない……!!!」

 

ゆえに、アインズは吼える。己の名を。悪徳の華を掲げる偉大なるギルド、アインズ・ウール・ゴウンの名前を猛々しく吼え、自らを鼓舞する。

 

『グワッハッハッハァー!吼えるではないか、小僧よ…』

 

だが、アインズが合い間見えるは魔王。

釈迦を誘惑せんとし、悟りの道を閉ざさんとした魔王。

 

天子魔――他化自在天――第六天魔王波旬――天魔マーラ・パーピヤス―――そしてご立派様。

 

遥か古から遥か未来に至るまで語り継がれ、伝説に様々な名を轟かす正真正銘の真なる魔王なのである。

 

マーラ様はアインズの吠え立てる言葉を、高笑いを発しながら、容易く受け止める。

 

『では小僧に尋ねよう…なぜ、煩悩はいかんと思うのだ?』

 

「私はナザリック地下大墳墓に君臨する存在。愛しき子供達の為に煩悩に身を委ねるわけにはいかん…!」

 

『ふむ…愛しき子供達の為か…だが、ワシはこう思うぞ?愛しき子供達の為に、煩悩に委ねるべきだと』

 

「は?」

 

『確かに煩悩は大切な者達を傷つける大きな要因よ…。だが、煩悩は時に、大切な者達を幸福にするものでもあるのだぞ。』

 

「ど、どういう事だ?」

 

意外なマーラ様の言葉に戸惑うアインズに、マーラ様はチンピクさせながら答えた。

 

『まずは、アルベドとシャルティアじゃ。あの二人はわかりやすい程に、お主に異性としての愛を求めている。それなのに、お主は何故その愛に応えようとしない?』

 

「そ、それは……アルベトは私が戯れに設定を変えた為に、私に対して強制的に愛を持っている。それは偽りの愛と呼べるものであろう…。そしてシャルティアは私の親友たるペロロンチーノが想像したNPC。親友の娘と結ばれるのは、心情的に来るものがある…」

 

それに、あのあからさまな、愛情表現(アタック)に応えるのは童貞(アインズ)にはレベルが高過ぎるし…。

アインズは心の奥底でそっと呟いた。

 

『グワッハッハッハァー!小さい!小さい!何たる小さな悩みよのう!!』

 

マーラ様はアインズの言葉に、大きな高笑いを浮べ、その悩みを一蹴した。

 

「ち、小さいとはなんだ!!」

 

己の悩みを小さな事と断言されたアインズは憤慨の声を上げる。

アインズは真剣に悩んでいるのだ。シャルティアは親友たるペロロンチーノが創造したNPC。彼の思い入れが存分に詰まった存在である。そんな親友の娘とヤルといのは精神的にきついものがある。

そしてアルベトは、友であるタブラ・スマラグディナが創造したNPC。

その友が設定したアルベトの設定を、自分は勝手に変えてしまったのだ。ちなみにビッチである。から、モモンガを愛している。と。

例えるならば―――そう、アインズが創造したパンドラズ・アクターを、勝手に設定変更されたようなものである。あの身振り手振りを―――敬礼をやめるとか、ドイツ語を使わないとか、厨ニ病ではないとか―――。

 

―――あれ?これって最高じゃね?

 

ここまで考えてアインズは思った。

 

アルベドでは無くて、パンドラズ・アクターの設定を変えるべきだった……!!!!

 

何故、自分はアルベトの設定を変え、パンドラズ・アクターの設定を変えなかったのか…!!??時間が無かった?それは否。自分は、時間が許す限り、ユグドラシルにログインし続けていた。つまりは、パンドラズ・アクターの設定を変えようと思えば、いつでも変えれたのだ。だが、黒歴史(パンドラズ・アクター)を封印する意味で、宝物殿に設置し、会いに行く事は殆どなかった。それが裏目に出てしまった…!!

 

自分過去の行いに一人後悔するアインズ。

そんなアインズにマーラ様は静かに語りかけてきた。

 

『小僧…愛とはどんなものだと思う?』

 

「あ、愛?」

 

『そう―――愛だ』

 

マーラ様の意外すぎる言葉にアインズは素っ頓狂な声を上げ、戸惑う。煩悩とか色欲とかで攻めてくると思っていたのに、まさかの愛とは。

 

「きゅ、急に、あ、愛とは何だと言われても……す、素晴らしいもの?」

 

『そう、お主の言うとおりだ。愛とは素晴らしきものよ』

 

恋愛経験皆無なアインズのありきたり過ぎる言葉に、マーラ様はイチモツを上下に揺らしながら肯定してきた。

 

『愛とは真に素晴らしきものよ。人類の歴史―――否、全ての歴史とは愛の歴史と言っても相違いないとワシは思う。愛故に、男と女は愛し合う。愛故に、家族を、仲間を、群れを守ろうとする。愛故に、他者を傷付けてすら、何かを奪い取り、自らや群れを満たさんとする。歴史はその繰り返しじゃ。それを欲望や、煩悩という言葉でも言えるが、その根本的な想いは、自らや家族や仲間に対する愛なのじゃ』

 

アインズは突如マーラ様が語りだした壮大な愛の歴史に圧倒される。

だが、心のどこかで納得していた。

全ては愛故に…確かにそうかもしれない。自分が仲間達がどんどんと引退していく中、一人残りナザリック地下大墳墓の維持に努めた。

それは、愛故にだったのではないのだろうか?

辛い現実に満たされぬ自分を満たそうとした愛。同じく辛い現実を送っているだろう、仲間を満たしたいと思う愛。

それは愛と呼べるのではないのだろうか?

 

『お主は先ほど、アルベドの愛は、偽りの愛と言ったな。偽りが何だと言うのだ?例え、始まりは偽りであろうと、それを貫き通せば真実の愛となるのだ』

 

「――――」

 

アインズに心臓は存在しない。死の超越者(オーバーロード)なのだから当然の事だ。

だが、マーラ様の言葉はアインズの存在するはずがない心臓を確かに撃ち貫いた。

 

『そして愛は繋がり―――連鎖する。知っているか?NPC達がある恐怖を抱いているということを』

 

「NPC達が恐怖を…?」

 

この世界において、絶対的強者であるナザリック地下大墳墓に所属するNPC達が恐怖する事?

アインズにはそれが何なのかわからなかった。

 

『そうじゃ―――お主に置いて行かれかもしれないという恐怖じゃ』

 

「―――俺は決してそんな事はしない!!あの子達を置いて行くなど、何があってもする筈が無い!!!!」

 

『お主にその気はないのは十二分に理解しておる。それはワシだけでは無く、NPC達もじゃ。だが、かつて、自らの創造者に―――親に置いていかれたという経験(トラウマ)を持つ、NPC達は心の奥底で不安を抱くのは仕方がないことなのだ』

 

「―――」

 

『そしてNPC達は心の奥底で想っている。もし、お主に置いていかれた時にも、自分達が忠誠を捧げる存在、つまりはお主の世継ぎが欲しいと』

 

「―――」

 

NPC達がそんな事を心の奥底で想っていた事に気付かなかったアインズは、己の馬鹿さを恥じ、絶句するしかなかった。

 

『お主がアルベトとシャルティアを愛する事によって、その二人だけではなく、NPC全員を幸せにする事ができるのじゃよ』

 

むくむくとマーラ様の姿がかつての威光の姿を取り戻していく。

そしてマーラ様は纏めの言葉を発っした。

 

『アルベトとシャルティアの二人はお主に愛され嬉しい。他のシモベ達はお主の跡継ぎが出来て嬉しい。お主は愛する子供達が幸せになり嬉しい。尚且つ、童貞が卒業できて嬉しい。これが―――愛の連鎖じゃ』

 

「愛の…連鎖…」

 

愛の連鎖―――。アインズは呆然と呟いた。それに対して、マーラ様はぴくちんしながら応える。

 

『そう―――愛の連鎖じゃ。だが、この愛が連鎖が、繋がるか、途切れるかは―――お主にかかっている』

 

「私に…かかっている…」

 

『そうじゃ。だが、決して途切れさせてはいかん。何としてでも繋がらせなければならん。だが、安心せい。その愛を繋ぎ止める為に、ワシは―――この『天魔・第六天』はお主と供にあるのだから』

 

その時、マーラ様に後光がさした。

眩いばかりの後光がさすのをアインズは確かに感じた。

 

「ご立派様…!!」

 

ありがたや。ありがたや。霊験あらたかやで…。

出るはずも無い涙が出そうになる。マーラ様の言葉に、アインズはすっかり魅了されている。魅了状態(マリンカリン)にでもかかったのだろうか。

 

『そして、知れい。自分すら愛せない者に他者を愛する事等できん。故に先ずは自分を愛さなければいけないという事を』

 

「ええ。自分を愛します…!!」

 

『よし!!では、早速自分を愛せい!!』

 

「はい!早速愛します!!―――って、どうやってですか?」

 

一瞬正気に戻るアインズ。いきなり自分を愛せって言われても…どうすればいいのだ?

アインズの疑問に九割近くの威光を取り戻した、マーラ様はにやりと笑みを浮かべながら答えた。

 

『簡単じゃ。手っ取り早く自分を愛する方法―――オ〇ニー(究極自己愛)じゃ!!』

 

これは酷い。さっきまでのいい感じの話は何所に行ってしまったのか。

でも、自信満々にそんな提案をしてくるマーラ様は流石です。

アインズはあんぐりと顎の関節が外れる勢いで口を大きく開けて、驚愕した。

そして叫んだ。

 

「何でそうなる!?さっきまで良い話していたのに、何故に急にオ〇ニーしろって話になってんじゃ!?」

 

『そんな事もわからんのか』

 

アインズの叫びに、やれやれといわんばかりに、左右にイチモツを振るマーラ様。

 

『オナニーこそ、自己に対する愛じゃ。己が満たされたいという、欲求だけで、自らの子供を―――三億人程殺すのじゃぞ?しかも一度の行為だけでだ。これで毎日一回したとしたら、一月で百億近い子供を殺す事になる。―――だが、それでも辞められない。自らの欲を満たすためには例え、何億の子供を殺そうとも辞められない。是、すなわち究極の自己愛である』

 

「究極の…自己愛…!?」

 

究極という言葉がアインズに響く。

先ほどまで末期の厨ニ病患者であった、アインズには究極という単語が非常に魅惑的に聞こえた。

 

『そうじゃ。究極の…究極の自己愛じゃ!!』

 

マーラ様も此処が急所だと理解したのだろう。

アインズの心に響きやすいように、わざわざ二回究極という言葉を使う。

 

『故に、お主はオ〇ニーしなくてはならない』

 

「だ、だけど…」

 

『どうした?何を躊躇う?先ほどまで見ていたあの光景を思いだせい』

 

その言葉にアインズは先ほどまで遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を用いて覗いていた、女子更衣室での情景を思い出す。あの刺激的な映像がアインズを襲う。

それに呼応して更にむくむくしちゃうマーラ様。パーフェクトマーラ様は目前だ。

 

「だ、駄目だ!あんな覗き見した映像で、オ〇ニーするなど…死の超越者(オーバーロード)として…というか、人として終わっている!!」

 

『素直になれい。お主は今、シコりたくて仕方が無い。ワシにはわかる。ワシは悟りを開かんとする釈迦を誘惑し、その道を閉ざさんとした煩悩の化身たる天魔マーラ・パーピーヤス。そして何より今は御主の一部。ワシは御主。御主はワシよ。自分自身に嘘は付けんわ』

 

俺は…マーラ様なのか。

何か以前もあったような気がするやり取りをするアインズとマーラ様。

 

だが、自分はマーラ様だという事実を知ったアインズは、己の煩悩に従う。

 

即ち、パーフェクトマーラ様の御降臨である。

 

『グワッハッハッハァー!ようやく素直になりよったな。さぁ、旅人よ。知恵の実を食べた希望と未来に溢れる旅人よ。煩悩の世界へと旅立つがよい』

 

やっぱり以前あったような言葉をマーラ様は叫ぶ。

そしてアインズは煩悩の旅にもう一度旅立つ。

先ほどの少女達の姿を。露も無いその姿を。瑞々しい肌を。おっぱいを―――全てを。

それに更に呼応し、股間のマーラ様は、メガフルパーフェクトマーラ様へと進化する。

 

そしてアインズは絶頂の最中叫ぶ。その言葉は奇しくもかつていた世界において、滅びの言葉として、古来より伝わる呪文。

 

 

 

 

 

「バルスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――ウ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

股間のマーラ様がマララギオンを出すその時、アインズは自らの大切な何かが滅んだのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アゼルリシア山脈南の湖。広大な森と、豊かな湖。正しく自然豊かという言葉が似合う場所にある一人のスケルトンタイプのアンデッドがいた。

アンデッドはこの世界においては、決して珍しい存在とはいえない。街中でも墓地では、死者の念が集まり、アンデッドが産まれる。また、カッツェ平原においては、世界でも有数のアンデッドの多発地帯であり、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)。果てには伝説のアンデッドである死の騎士(デス・ナイト)までその存在が確認されている。

なので、場所的には珍しいが、アゼルリシア山脈南の湖にもアンデッドが居てもおかしくはない。

………アンデッドが居るのはおかしくはないが、そのアンデッド自体は非常におかしかった。

 

僧侶が纏うような白を基調とした黄金の宝飾が豪華に飾り付けられた袈裟を纏い、頭にはローマ教皇が被るような、これまた豪華な司祭冠(ミトラ)を頭に被っている。手には、数珠を持ち、首には輪袈裟とロザリオを下げている。

和洋折衷な宗教が交った意味不明な格好をしたアンデッドであった。

 

 

そんな意味不明なアンデッドは、一人静かに呆然としている。乱れた袈裟。握り締めたイチモツ。

そのアンデッドの見た目から、傍から見れば、どう見ても賢者タイム突入中である。賢者タイムは非常に静かだ。

ある意味自然と一つに溶け込むアンデッド。小鳥達が囀りながらアンデッドの肩に止まる程だ。

 

だが、何故だろう?愛らしい小鳥達の囀りが、まるで『お前は良くやったよ!!』『良く頑張った!!感動した!!』と言っているようにしか、アインズには思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(危ない所じゃった)

 

 

 

アインズが賢者タイムに突入中の最中、股間のマーラ様は一人己の思考に没頭する。

 

 

 

(まさか、小僧がこんなに早く答えの一つに辿り着かんとするとわな…。不老のアンデッドであり、財力、力、戦力の全てを持つ身と、常人とは違う立場とはいえ、恐れ入ったわ。小僧の煩悩を揺さぶる誘惑の機会が早く訪れて助かったわ。勘違いや間違いでも、それが真だと、答えだと信じ続ければ、それは真理になる。そしてそれは時間が経てば経つほどに、より強固な物へとなる)

 

 

そう、もし、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を用いて、女子更衣室を偶然覗き見をしていなかった場合、アインズは本当の神へとなる可能性があったのだ。

あのまま、この煩悩の欠片も無い、アゼルリシア山脈の湖で、煩悩を刺激される事無く、自らの考えをより強固に、より高めた場合、それは最早、その人物にとっての真実となる。

 

アインズは確かに神への一歩を踏み出していたのだ。

 

 

(今回は、偶然が重なり、土壇場でどうにかなった。だが、次回似た様な事があった際、果たしてワシは小僧の神への道を遮る事ができるか…?)

 

答えはわからない。

第六天魔王天魔マーラ・パーピヤスでもわからない未来。

だが、だからこそ、面白い。

 

 

(面白い…!面白いぞ…!まさか、当初はこのようなギリギリの戦いになるとは思わなかった…!!このスリル。堪らなく面白い!小僧。お主がまた真理の道へと行かんとするならば、何度でも受けて立つ。このマーラ・パーピヤスの全身全霊をもってして、向かい入れよう!

滾る!滾るわ!この先のお主との戦いを思うと滾りが止められんわな!!願わくば!これが未来永劫、何時までも何時までも続くがいい!)

 

 

『グワッハッハッハァー!』

 

 

心中、歓喜の想いが溢れ出て、止まらないマーラ様。

その想いが止められなく、ついつい歓喜の雄叫びを上げてしまう。

 

 

そしてマーラ様の心中を知らないアインズはぼんやりと呟いた。

 

 

「やっぱりマーラ様には勝てなかったよ……」

 

 

その言葉に、マーラ様はにやりとニヒルな笑いを浮べ、叫ぶ。

 

 

『当然よ!ワシを誰と心得る!ワシこそは『天魔・第六天』全ての生命が崇め奉る、ご立派様じゃぁぁ!グワッハッハッハァー!』

 

 

アゼルリシア山脈の湖にマーラ様の勝利の雄叫びが響くのであった。

 




第六天魔王マーラ『グワッハッハッハァー!待たせたな!ついにワシ再登場じゃ!ご立派なアインズ様というタイトルなのに、話しの半分以上、ワシと小僧が出ていないというタイトル詐欺もこれで終わりじゃ!!
これで読者から突っ込まれることはないわな!一安心!
そして愛は世界を救う。おなにーは世界を救う。これを忘れるなよ。
更にそして長いようで短かった小僧の旅路も次回で終わりよ。お前達!今まで付いてきてくれて、感謝する!最後まで遅れずに付いて参れよ!え?いつ最終話を投稿するかって?そんなの知らん!グワッハッハッハァー!』

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