ご立派なアインズ様   作:みなみZ

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この投稿時間をペロロンチーノさんに捧ぐ…!!


(り)中編

ナザリック地下大墳墓9層のロイヤルスイート。その中の一室―――己の執務室にアインズはいた。

守護者統括のアルベドやアインズ当番のメイド。そして護衛たる八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)の姿もない。今この部屋は完全にアインズ一人であった。

 

 

『うーむ。先ほどは危うい所だったのう。まさか御主の一部となって一時間もせずに、ワシを使うことになるとは思わなんだな』

 

―――否、訂正する。この部屋にはアインズとナニの二人?が居た。

 

己の股間の逸物の言葉にアインズは溜息をつきながら先ほどまでの出来事を思い出した。

 

 

 

 

マーラ様の言葉で言うと、アインズは己の煩悩を見つめる、煩悩の旅に出た。

そして煩悩の旅路の果てに辿り着いたのは、自慰行為をアルベドに見られたという最悪の結末だった。

マーラ様丸出しのアインズを見た、アルベドは辛抱溜まらんとアインズに襲い掛かってきたのだ。

 

いかに、アインズが100レベルのプレイヤーだろうと、相手は同じく100レベルのNPC。しかもアルベドは戦士タイプのNPCである。

アルベドは即座にアインズとの距離を詰め、そのままの勢いでアインズを押し倒し、その上に跨った。完璧に騎乗位である。本当にありがとうございます。

 

同レベルの魔法詠唱者(マジックキャスター)と戦士のPVP。どう考えてもアインズに勝ち目はなかった。

 

以前にも似たような事があったが、その時は護衛である八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)や偶々居合わせた守護者であるマーレの力をもって、アルベドをアインズから引き剥がしたが、今はその頼れる護衛も守護者も居ない。

 

「ままままま、待て!落ち着け!アルベド!」

 

「いーえ!落ち着けるはずがありませんわ!アインズ様の、ここここ、こんなご立派様を見せ付けられて落ち着けられるはずがありませんわぁぁ!」

 

「とにかく、降りろ!やめろ!私のモノに触れるな!?ポジションを確かめるなぁ!?」

 

「ああ、ついに私は初めてをここで。しかも、アインズ様のご立派様で…アルベドは感無量です!」

 

これで私も双角獣(バイコーン)デビューですわ!!そんなアインズにとっては謎の言葉をアルベドは叫んだ。

アインズの貞操はもはや風前の灯であった。アインズが大切?に守り続けた童貞はついにここで奪われてしまうのだろうか。決して大切に守ってきたわけではなかったが、こんな形で貞操を失うことに男として、これはないだろうと思う。

幾ら最近自分の性癖が実はMなんじゃないか…?と思っていたアインズだが、アルベドの血走った目を見ると、とてもでないが、熟練者(ドM)でも無い限り、受け入れられないとアインズはマーラ様を己の秘所にターゲティングしているアルベドを見て思った。

 

ああ、俺の貞操はこのままアルベドに貪られるように散らしてしまうのか。

 

もはや、アインズの心境は時代劇で悪徳お代官様に手を出される街娘であった。

 

だが、アインズの貞操を守る最後の砦―――貞操帯はあったのだ。

我らが偉大なるご立派様は宿主の危機に、己が宿主に跨るアルベドの股間に向かい、猛然と己が体で前後運動を繰りだしたのだ。

その速さはまさしく風の如く―――否、光の如くの速さであった。

 

「はうっぅ!?」

 

マーラ様による渾身の連激をまともに急所に喰らったアルベドは嬌声を上げ、恍惚の表情を浮かべながら、ぷるぷるとその体を震えさせ、動かなくなった。

どうやら絶頂を迎えたようである。あの一瞬の内に的確にアルベドの性感帯を刺激し、絶頂へと導くその珍腕。

アインズはマーラ様に驚愕と戦慄を覚えた。

 

凄い…!凄すぎる…!さすがはマーラ様…!ご立派様は凄すぎるよ…!

 

恍惚の表情を浮かべながら、固まり続けるアルベド。その隙にアルベドの下から抜け出したアインズは急いで執務室から飛び出し、廊下を全速力で駆け抜け、己が護衛である八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)の下へと急いだ。

ちなみに走ってる間、アインズはマーラ様丸出しであった。傍から見ると清々しいまでに変質者である。

アインズがマーラ様丸出しで走っていることに気付いたときには、時既に遅く、10人近くの人造人間(ホムンクルス)のメイド達の悲鳴と嬌声が入り混じった歓声を聞いたときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グワッハッハッハァー!あれこそはワシが誇る必殺技の一つの地獄突きよぉ!いかなる相手だろうと、昇天させてみせるわ!グワッハッハッハァー!ちなみにワシは種族を問わず、女に対して攻撃威力が30パーセント増加するようになっておるからな』

 

「なんでお前は見た目はあれなのに、こんなに性能がいいんだよ…」

 

いや、逆なのか?性能がいいのに、見た目があれなのか?

天は二モツを与えず。アインズはマーラ様にニモツを与えなかった運営を本気で恨んだ。

 

マーラ様は見た目は凄くアレだが、その性能は破格のものだ。まさに世界の可能性の一つ、世界級(ワールド)アイテムに相応しい存在である。見た目以外は。

 

ちなみにあの後、アインズの救難信号に駆けつけた八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)の手により、アルベドは拘束された。もっとも前回マーレの手を借りた時とは違い、絶頂の余韻に浸っていたアルベドの拘束は容易なものであったが。ちなみに謹慎3日の刑に処した。

マーラ様を目撃したメイド達に決してこの事を公言してはならないと厳命を下し、事態の収拾を計った。

ちなみのちなみに、マーラ様を目撃したメイド達はその日惚けてばかりで、使い物にならなかった。

 

マーラ様を外せないアインズは、これからのマーラ様の対策について考えていた。

マーラ様が縮んだ状態ならばまだ問題ない。アインズが通常装備しているローブで隠れるし、冒険者モモンの場合でも、鎧を装備しているので問題は無かった。

 

問題はマーラ様が勃起したときだった。

 

「…………俺が道具上位創造(クリエイト・グレーター・アイテム)で作った鎧を貫通させるなんて…ましてや、伝説級(レジェンド)アイテムの鎧をも貫通させるなんておかし過ぎるだろ…」

 

そう、アインズが冒険者モモンの二つ名の由来となった漆黒の全身鎧を着た際に事件は起こった。

見た目問題ないな、と安堵したアインズはこれでナーベラルと二人で並んでも問題ないと、思った。

その際に、冒険者モモンの相棒である戦闘メイド(プレアデス)の一人であるナーベラル・ガンマの美貌を思い浮かべてしまったのである。そしてムラっとしてしまった。

 

以前のアインズならば全く問題は無かった。アンデッドであるために、性欲が極端に抑えられ、ナニが存在しなかった以前のアインズならば全く問題はなかったのである。

しかし、今のアインズは股間に『天魔・第六天』こと、マーラ様を装備している、今のアインズにとってそれは鬼門だった。

アインズの煩悩に反応し即座にご立派様になるマーラ様。

ご立派状態のマーラ様は何と、漆黒の鎧を突き破り、自らの圧倒的存在を主張したのである。

 

道具上位創造(クリエイト・グレーター・アイテム)は詠唱者のレベルに比例し、その強度を増す。

まして、レベル100である魔法詠唱者(マジックキャスター)であるアインズが作った鎧は、転移した世界における最硬と言われる金属、アダマンタイトにも匹敵する鎧である。

魔法的な要素は含まれて居ないが、世界最硬の鎧を貫くご立派様。改めてアインズは世界級(ワールド)アイテムの理不尽さを知った。

その後、アインズは宝物庫に行き、新たな鎧を掘り出した。伝説級(レジェンド)アイテムの鎧である。

アインズが扮するモモンは戦士となっているが、実際のアインズは魔法詠唱者(マジックキャスター)である。魔法詠唱者(マジックキャスター)であるアインズには戦士職の武具が装備できないのである。例外となるのは魔法で作った武具である。その為、アインズが宝物庫の鎧を装備するというならば、レベルそのままに、戦士職へとなることができ、尚且つあらゆる戦士職の武具を装備できる完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)を使わなくてはならない。

自らに完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)を使い、伝説級(レジェンド)アイテムの鎧を身にまとうアインズ。

 

アインズはこれでマーラ様の件は大丈夫だと思っていた。つまりは伝説級(レジェンド)アイテムの鎧ならば、マーラ様でも貫けないと。

 

アインズのその考えは理解できる。

何故ならば、伝説級(レジェンド)アイテムとはそれほどの価値があるからだ。

 

ユグドラシルではアイテムの級が決められている。

最上位に世界級(ワールド)、次に神器級(ゴッズ)伝説級(レジェンド)聖遺物級(レリック)遺産級(レガシー)と続く。

丁度真ん中に位置する伝説級(レジェンド)だが、決してあなどれない。

 

何故ならば、最上位の世界級(ワールド)は勿論の事。位の二番目に当たる神器級(ゴッズ)アイテムを手に入れることすら至難にあたるからだ。

神器級(ゴッズ)アイテムを作るにはハイレアドロップのデータクリスタルが複数が必要であり、おまけにそのデータクリスタルを受け入れる器を作るには、超希少金属も必要となる。

その難易度の高さから、レベル100のプレイヤーでも、神器級(ゴッズ)アイテムを一個も持っていないプレイヤーも珍しくなかったのだ。

 

つまり、ユグドラシルプレイヤーですら、手に入れたアイテムの最上位が伝説級(レジェンド)だったというのもおかしくないのだ。

 

まして、この転移した世界においては伝説級(レジェンド)アイテムはもはや、文字通り伝説の中でしか登場しないアイテムであろう。

 

それだけの価値を持つ、伝説級(レジェンド)アイテム。

 

しかし、ご立派様はそれすらも貫いた。改めてアインズは世界級(ワールド)アイテムの理不尽さを更に知った。

 

 

 

 

 

 

ユグドラシルのアイテムには隠された性能がある場合がある。

ある特殊な状況下で力を発揮する、完全なる狂騒や、今から少し先の未来でその真なる力を発揮するゴブリン将軍の角笛などが例の一つだ。

 

そして世界級(ワールド)アイテム『天魔・第六天』にもマーラ様が自己申告した女に対して攻撃威力が30パーセント増加以外にも、隠された性能があったのだ。

 

そもそもこの、『天魔・第六天』のモチーフとなったのは、100年以上前のとある、ゲームに登場する魔王である。

あるユグドラシルスタッフはこの魔王の著しい愛好者であった。そのスタッフの提案により、その魔王のモチーフになったのだが、彼にはある思いがあった。

 

 

 

『ご立派様をたかが伝説級(レジェンド)アイテムで隠す?ふざけるな!ご立派様の威光を隠したいというのならば、最低でも神器級(ゴッズ)アイテムの防具を持ってこい!』

 

 

実に熱い台詞である。

このスタッフの情熱の台詞により、『天魔・第六天』にはある設定が加えられた。それは神器級(ゴッズ)アイテム未満の防具を装備すると、破壊されるというカースドナイトもびっくりな設定であった。

 

更にはもう一つの隠し設定がある。

プレイヤーは課金により、装備箇所を増やすことができる。しかし装備箇所には上限があるのだ。廃人プレイヤーのアインズは勿論の事、その上限に達していた。

だが、『天魔・第六天』を装備したものは新たに、装備箇所に『股間』が加えられるのだ。

しかも『天魔・第六天』には炎系統攻撃吸収がある。この事を考慮し、その他の装備をしっかりと整えれば、ユグドラシルでは不可能と言われていた、弱点無効化も夢ではないのだ。

 

これは言うまでも無く、反則級の性能である。

この性能のおかしさは、ひとえにこのスタッフのご立派様への愛とも言えるだろう。

流石はご立派様。その登場から100年以上の時を経ても未だ衰えぬ人気・実力。正しく魔王である。

 

ああ、ご立派様よ…永遠なれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそんな、『天魔・第六天』の隠された能力を知らないアインズは、これからの対応を考える。

神器級(ゴッズ)アイテムの防具を装備して確かめてみるかとも思ったが、それは辞めておいた。

アインズが今までモモンとして装備していた武具でも、この世界においては最高の装備になるのだ。今以上の装備―――神器級(ゴッズ)アイテムを持ち出すのは得策とは思えなかった。

それと、神器級(ゴッズ)アイテムは非常に貴重である。ご立派様ならばその貴重な神器級(ゴッズ)アイテムの鎧でも貫きそうで怖かったという不安もあったが。

 

 

ちなみにその後、アインズはまた煩悩の旅を行い、何とかマーラ様を収めた。今回の旅路の果てがマーレだったのは永遠の秘密にしようとアインズは心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

アインズが苦心して作り上げた『大英雄漆黒のモモン』の姿が『大英雄ご立派なモモン』になる姿が脳裏を駆け巡った。そんなの受け入れれるはずがない。何とかしなくてはいけなかった。

 

「やはり…あれしかないか…」

 

アインズがある覚悟を決めた時、執務室の扉にノックが響き渡った。そして直ぐに来訪者の声が聞こえてくる。

 

「デミウルゴス、参りました」

 

「入れ」

 

「はい。失礼致します」

 

入室してきたのは守護者の一人であるデミウルゴス。普段デミウルゴスはナザリック地下大墳墓に在住してはいない。デミウルゴスは普段はアベリオン丘陵にてスクロールの材料となる羊達―――羊皮紙採取のための牧場を運営しているのである。そのデミウルゴスがナザリック地下代墳墓に戻るのは何か有事の際があった場合か―――。

 

「すまぬな、デミウルゴス。忙しいお前を急に呼び出してしまって」

 

己が主人(アインズ)に呼ばれた場合である。

 

デミウルゴスはアインズの言葉に顔を横に振る。

 

「何をおっしゃいますか、アインズ様。このデミウルゴス。アインズ様のお言葉となれば、何時如何なる時にでも、そして何処にでも馳せ参じる所存でございます」

 

「うむ。お前の忠誠ありがたく思うぞ。我が守護者デミウルゴスよ。これからもその忠義とナザリック随一の叡智で、到らぬ私を支えて欲しい」

 

「何をおっしゃいますか!アインズ様の叡智には足元にも及ばぬ私ですが、この身の全てを賭してアインズ様に尽くさせていただきます」

 

いや、足元にも及ばないのは俺の方なんだが。

いつも通りのデミウルゴスの勘違いをアインズは表面上ポーカーフェイスで流す。

 

「して…この度は私にどのような用件を…?」

 

デミウルゴスの言葉にアインズはくるりと向きを変え、デミウルゴスに背中を見せるようなポジションを取った。

これは別に格好付けたわけでもないし、演技でもない。ただ何かが間違って、唐突にマーラ様がご立派様モードになったさい、デミウルゴスに見られるのをアインズが嫌がったからだ。

 

 

「――――うむ。…実はだな」

 

「はい」

 

「――――――――じ、実はだな」

 

「はい」

 

「―――――――――――――――う、う、じ、実は……」

 

い、言いたくない。覚悟を決めたつもりであったが、中々口に出せなかった。

 

「アインズ様?」

 

主人の不振な態度にデミウルゴスは困惑した声をあげる。

 

ええい!覚悟を決めろ!俺!

 

『そうよ!男ならば覚悟を決めい!溜まりっぱなしは体に毒よな!』

 

お前がそれを言うか。

アインズの心労の原因であるマーラ様の激動が心に染みた。

 

「ふっふっふっふ。デミウルゴス…私は新たな力を手に入れたのだ」

 

「おお……!偉大なるアインズ様のお力が更なる高みに至ったと…!」

 

主人の新たな力の目覚めにデミウルゴスは賛辞と感嘆の念を惜し気もなくアインズに送った。

だが、その手に入れた力とはチ○コである。

チ○コに向かって賛辞と感嘆の念を送っているとは知らないデミウルゴス。アインズはデミウルゴスの創造者のウルベルトにお詫びしたい気持ちになった。

 

「う、うむ…この力を使いこなせれば私は新たなる領域へと進めるだろう…」

 

というか、その領域に進んでいいのだろうか。

その領域がどんな領域なのかはアインズには想像つかな過ぎる。

 

「素晴らしい…。よろしければアインズ様。その新たなお力がどういったものなのか、教えていただけますか?」

 

ここだ。ここからが勝負所だ。アインズは気合を入れるよう、ぐっと存在しない丹田に力を込める。そしたらマーラ様が反応した。アインズはシリアスができない自分の境遇に泣きたくなった。

 

「―――私が新たに得た力。それは新たな命を創造する事よ」

 

デミウルゴスはアインズの言葉の意味を考えた。命の創造と聞き、自分達(NPC)のような存在を創造することかと思ったが、主人は新たな力といった。自分達(NPC)の創造は新たな力ではない。既存の力だ。

ましてや、アインズが得意とするアンデッド召還でもないだろう。

 

新しい意味での命の創造…。命の創造!?

 

「――――――――――アインズ様…それは、まさか…!?」

 

心から驚嘆するデミウルゴスにアインズは一つ頷いて見せた。

 

「そうだ。私は自らの子供を作ることができるようになったのだ」

 

多分だけど。

アインズは心の中で付け加えた。だって、マーラ様は恐らく子供ができるって言ってたし。

 

ここで言葉を濁し、回答を避ける事もできた。

しかし、それをデミウルゴスがどう捉えるか。またそれがどのような結果に繋がるかアインズにはわからなかったのだ。

 

『ふふふ。目覚めた私の力は秘密だ』

『おお、では来る時にそのアインズ様の目覚めし力が振るわれるのですね…!このデミウルゴスその時を千秋の思いで待ち続けます!』

『皆、アインズ様には秘められし力があるのですよ。その力が猛威を振るうとき、世界はアインズ様に平伏すでしょう』

『わー!アインズ様凄いですぅ!!今こそその力が振るわれる時なのですね!!』

『えー。ご、ご立派様を何て説明すればいいんだ!?』

『マララギオン!!』

 

何てなりそうで怖いのだ。この事態を避けるために、正直に自分が手に入れた力を説明したのだ。

 

アインズは首を後ろに回し、ちらりとデミウルゴスの姿を確認する。

デミウルゴスは誰が見ても断言できる程、明らかな歓喜の表情を露にしていた。

 

デミウルゴスにとってアインズとは最後までナザリック地下代墳墓に居てくれた慈悲深き至高の御方。

自らの創造主や、他の至高の方々が居ない今、デミウルゴスの忠誠の全てはアインズに向かっている。

しかし、デミウルゴスには一つの不安が心に深く根付いていた。

 

それは他の至高の御方方と同様に、自分達NPCを見捨て、その姿がお隠れになってしまうのではないか。

 

ナザリック随一の知力を誇るデミウルゴスにはその思いがどうしても心の底から離れなかった。

 

もし、アインズ様がお隠れになったら、自分達はどうすればいい?自分達の忠義は?自分達は至高の御方に尽くすことで初めてその存在価値が認めれるのだ。ゆえに、デミウルゴスは最後の至高の存在―――アインズが居なくなる事を心底恐れていた。

 

ゆえに、アインズに世継ぎができる。もし、アインズが居なくなっても自分達の忠誠の拠り所ができる。

これは、デミウルゴスが前々から望んでいた事であった。

そして、その望みが叶うと自らの主人の口から言われた瞬間、デミウルゴスは歓喜の頂点にいたのだ。

 

「ア、アンデッドであるアインズ様にお世継ぎを作れるようになったと…!!おめでとうございます!アインズ様!誠に!誠に!おめでとうございます!アインズ様!!」

 

デミウルゴスは自らの持てる身をもってして、最大限の賛辞をアインズに送る。

アインズはそのあまりの喜びように驚く。

そして、デミウルゴスがおめでとうと言っているのは、チ○コが出来たことだ。

アインズはデミウルゴスの創造者のウルベルトに土下座したい気持ちで一杯になった。

 

「して、御世継ぎのご予定は…!?正妻はやはり、アルベドかシャルティアでしょうか…!?」

 

ぶっほう!とアインズはデミウルゴスの言葉に噴出した。

 

「い、いやいやいや!落ち着け!デミウルゴス。そういった話は早すぎるぞ」

 

そう。いきなり結婚なんて、童貞(アインズ)にはレベルが高すぎた。というか、結婚といっても何をしていいか、さっぱりわからない。年齢=彼女いない暦だったアインズに、いきなり結婚とはどれだけの過程をふっとばしているのか。アインズとしては最初は健全なお付き合いから、しなくてはならないとの思いが強い。

 

「こ、これは失礼しました。このデミウルゴス、ついつい興奮し、我を忘れてしまいました…」

 

「ふふふ。デミウルゴスもそのように我を忘れるものなのだな…それと、ぬか喜びさせてしまったかもしれないが、子供ができるとはまだ確定していない」

 

だって、まだマーラ様を試してもいないし、ましてマーラ様自身も子供ができるかはわからないって言ってたし。

 

「な、なるほど…未知なる力の覚醒ゆえに、まだまだ未知なる部分が多いのですね…」

 

「うむ。すまないが、そういうことだ。それと私はこの後、一人でアゼルリシア山脈南の湖に行くことになる。私が不在であり、アルベドが謹慎中の今、デミウルゴスにナザリック運営管理を命ずる」

 

これがデミウルゴスを呼び出した理由の一つだ。アインズが離れ、アルベドが謹慎中の為、ナザリックの運営管理を一時デミウルゴスに任せる為だ。

 

「ナザリックの運営管理の件は謹んでお受けいたします」

 

アインズの言葉にデミウルゴスは頭を下げて、その命令を受け入れる。

しかしその後、頭を上げたデミウルゴスは己の目―――宝石の目を光らせながら言葉を発した。

 

「しかし、御身お一人で行かれるのを許せるはずがありません!どうか、近衛をお付けください!」

 

「それはできん。先ほど話した新たな力は、この儀式をしなければ、その力を使いこなせない。そしてその儀式は必ず一人で行なわなければならない」

 

デミウルゴスの懇願にアインズは首を振り、その懇願を断る。

一人で儀式を行い、成功しなければ子供は作れない。そこまで言われたならば、デミウルゴスは引くしかなかった。

 

「そ、そのような事情が…かしこまりました。しかし、何かあれば直ぐにでも伝言(メッセージ)をくださいませ。何があろうと、直ぐさまに我々が駆けつけさせていただきます」

 

「うむ。わかっている。その時がきたら、すぐに伝える。では、今よりデミウルゴスにナザリックの運営管理を任せる。緊急事態があった際は、速やかに私に伝言(メッセージ)するように。それ以外の全権はお前に託そう」

 

かりこまりました。デミウルゴスは主に承諾の言葉を発する。

 

「そ、それとだ…私はこの力を得た代わりに…代償もあったのだ」

 

「代償とは…?」

 

「う、うむ。詳しい話はできないのだが、私はその代償により、普段とは違う行動をする場合がある。具体的には…そうだな。例えば、急に下腹部が膨張したり、それに伴い腹を押さえたり、前かがみになったり、マントで前を隠したりとかだな!」

 

は、はぁ…といまいち理解していないデミウルゴス。

それに畳み掛けるようにアインズはデミウルゴスに語り続ける。

 

アインズはそれとなく言ったつもりだったが、実はこれがデミウルゴスを呼び寄せた用件の本命だった。

アインズは守護者達を目の前にしてどうしても自らの今の説明できるとは思えなかった。

それは、第六階層守護者―――アウラ・ベラ・フィオーラとマーレ・ベロ・フィオーレの二人がいるからだ。

 

アインズは思う。自分はあの二人にしっかりと説明できるのかと。あの純粋無垢な二人を前にして、自分がチ○コができたなどと言えるのだろうか。

仮にあの二人にだまっていたとしよう。しかし、それは更なる悲劇を呼ぶ可能性がある。あの煩悩の旅の中で自分はあの二人に欲情してしまった。しかも二回目の煩悩の旅路の果てはマーレだったという落ちもある。

何も知らないあの子達の前に出て、何かの弾みでマーラ様がご立派様モードになった時の反応が怖い。

 

『ア、アインズ様!?そ、それはいったい!?』

『あ、あわわわわわわわ……』

『いや、お前達!?これは…その!?』

『もしや、そこに毒が溜まってるのですか!?マーレ!あたしはペスを呼んでくるから、あんたはアインズ様の治療を!』

『う、うん!ア、アインズ様!そ、その患部をお見せください!ま、ま、まずは触って撫でて確認しますので!!』

『やめろ!マーレ!!やめるんだマーレ!?うっ!?』

『マララギオン!!』

 

恐ろしい。想像するだけで恐ろしい。もはや、ぶくぶく茶釜さんに合わせる顔がない。

あの純粋無垢な幼子達にそんな目に合わせるなど絶対にあってはならない。

正直に言えば、この事はアルベドとシャルティアだけには知られたくなかった。

今でさえ、あんな露骨なアプローチを受けているのだ。これで自分にナニが出来たことが知られたら、今以上の攻勢が来るのは目に見えていた。だが、アルベドには早速バレ、このご立派様が巨塔である以上、その他のNPC達にバレルのは時間の問題に思えた。

ゆえに、自分とよく接するだろう、守護者達にだけにはデミウルゴスを通じて、マイルドに伝えてもらおうと思ったのだ。モモンとしてよく接するナーベラルには自分から後でわけを話しておこうと思っている。

正直、子供から何かまずい質問をされたとき、『そ、そういうのはお母さんに聞きなさい』と逃げているだけかもしれないが、アインズはナザリック随一の智謀を持つデミウルゴスならば、きっとうまく説明してくれると思ったのだ。

 

「そ、そのような事が今後ありえるということを、皆に伝えてほしいのだ」

 

「かしこまりました。では私の方から伝えておきます」

 

「うむ。頼んだぞ。デミウルゴス」

 

デミウルゴスの了承に、これでひとまず大丈夫だとアインズは安心したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『小僧。ワシ関連だと思うが、儀式とはなんぞな?』

 

デミウルゴスが執務室から退室してから、マーラ様はアインズに問いかけた。

アインズはデミウルゴスにこの儀式を行うことによって、力を使いこなせると言っていた。十中八九自分に関連する事だとは思ったが、どんな内容の儀式かはマーラ様には見当が付かなかったのだ。

 

「ふっ…それはお前を押さえ込む儀式よ…」

 

妙に自信に溢れた笑みを浮かべたアインズは、アイテムボックスから無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)を取り出し、ごそごそとある物を探す。

そして目当ての物を見つけたアインズはそのままの勢いで、いっきにそれを引きずり出した。

 

『………白装束よな?』

 

そう。それは白装束だった。古来より日本にて修行僧や、もしくは死装束として死者を包む装束である。

 

「そうだ。白装束だ」

 

アインズは考えたのだ。マーラ様は自分の煩悩に反応し、その姿をご立派なモノにする。

ならば、自らの精神を鍛え、煩悩が発揮しない鉄の心にする必要があると。

 

その為に滝に打たれるのだ。

滝に打たれ、その穢れた煩悩に満ち溢れた己の心を洗い清めるのだ。

非現実的とか言うかもしれないが、大和魂(ジャパニーズソウル)が叫ぶのだ。

YOU!滝に打たれちまいなよ!!と叫ぶのだ。

それに、アインズにはある根拠があるのだ。

 

 

「『天魔・第六天』よ。お前は以前言っていたな?釈迦を誘惑し、その道を閉ざさんとした煩悩の化身…それがお前だと」

 

『おお。確かに言ったわな』

 

「つまり、お前は釈迦を誘惑しきれなかったいう事だな」

 

『小僧…お主、何が言いたい?』

 

マーラ様の声のトーンが低くなる。その返答に対して、アインズは堂々と自分の考えを発した。

 

「釈迦はお前の誘惑を跳ね除けた…ならば、私も開いてみせようではないか。悟りの道とやらをな」

 

『――――――』

 

アインズの発言にマーラ様は絶句したように言葉を止めた。

 

これは正直、釈迦を舐めまくってるというか、全仏教徒に喧嘩を売りまくっているというか、もはや正気を疑うレベルの発言であった。そこらに居る一般人が俺は神になる!!と宣言しているレベルである。

しかし、アインズがこの考えに至るのは理由があった。

 

アインズが―――否、鈴木悟が生きていた時代。2138年は巨大複合企業が国を支配する時代であり、一部の富裕層が天上人として君臨し、貧民層はある意味奴隷として生きる時代であった。

富裕層は貧民層という労働力に、余計な知恵―――思考能力を奪い、自らの手足として酷使する為に、義務教育制度を廃止させたのだ。鈴木悟は小卒という学歴だが、それでも彼の両親が多額の学費を払い、初等教育を卒業させてくれた結果である。中には、小学校すら行った事もない社会人も多くいたのだ。

 

そんな社会で貧民層として生まれた鈴木悟は正直に言うと、釈迦という存在をいまいちよく理解していなかった。

大昔にインドという国で有名な宗教を起こした人。これくらいの認識しかなかったのである。

 

もし、鈴木悟が世の中に絶望した時に、宗教に縋ったら違ったかもしれない。しかし彼が拠り所として見出したのはYGGDRASIL(ユグドラシル)であった。

 

そんな鈴木悟―――アインズにとって、釈迦という存在がどれだけ偉大な存在で、どれだけ絶大な功績をもたらしたかをさっぱり理解していなかったのだ。

そしてアインズは単純にこう思った。かつてマーラ様の煩悩を跳ね除けた人がいたんだったら、俺も修行すれば跳ね除けられるんじゃね?っと。

 

 

『―――――ぐふふふふ…グワッハッハッハァー!!』

 

アインズの発言を理解したマーラ様が上げたのは高らかな笑いだった。

しかしそれはアインズを愚弄する笑いではなく、ひたすら面白いものを見た者があげる笑い―――歓喜の笑いであった。

 

『面白い!面白いぞ!小僧!今までワシは様々な人間を見てきた!時には人類の指導者も!そして救世主も見てきた!だが、あの釈迦に並ぼうなどと、大言をほざく人間など何処にもいなかったぞ!!』

 

え?人類の指導者や救世主も釈迦に並ぶ発言しなかったの?

アインズは心の中でたらりと汗をかいた。

 

『あの釈迦に―――ゴータマ・シッダールタに並ぶなど、神の子イエス・キリストしか、その資格はないかと思っていたが…まさか、この世界で釈迦やイエス・キリストに並ぼうと挑むモノがいるとは…』

 

か、神の子イエス・キリスト?

釈迦って神様の子供に並ぶ存在なの?

アインズは心の中でだらだらと汗を大量にかいた。

 

『ワシはかつて、釈迦の悟りの道を閉ざさんと、ありとあらゆる事をした!

三人の娘―――アラティ(嫌悪)ラーガ(快楽)タンハー(執着)を送り込んだ!

娘達は100人の幼子から熟女まで魅力溢れる女に化けたが、それすらも退けた!天地を引き裂くような叫び声をあげてもまったく動じなかった!

釈迦の周囲を暗闇に包み込んでも、見向きもしなかった!岩やありとあらゆる武器を釈迦に向かって雨の如く降らせたが、一つも釈迦には当たらなかった!

最後の手段として、ワシ自らが釈迦に向かい、武器たる円盤を振りかざしながら、突進したが、その円盤も、花輪とされてしまった!!これにはワシも敗北を認めたものよ!!』

 

釈迦のびっくり仰天エピソードの数々を聞かされたアインズはもはや、心の中は驚天動地だ。

釈迦って本当に人間?実はユグドラシルプレイヤーだったんじゃね!?アインズは本気で思った。

 

しかしそんなアインズの心境も知らず、ただひたすらにマーラ様はいきり立っていた。びんびんになっていた。

 

『面白い…!面白いぞ…小僧――いや!アインズ・ウール・ゴウンよ!宣言しよう!ワシは全力をもってしてお前を煩悩の道へと導こう!

かつてのあの男…釈迦と呼ばれる前のゴータマ・シッダールタに挑んだようにな!これは魔王マーラ・パーピヤスと魔王アインズ・ウール・ゴウンの勝負よ!どちらが勝つか、どちらが魔王として上か勝負じゃ…!!グワッハッハッハァー!!』

 

もはやびんびんどころか、ばきばきだった。

いきり立ちまくるマーラ様に圧倒されるアインズ。

しかし、アインズはこうも思ってしまった。

 

面白いと…。

 

この転移した世界においてアインズは常に勝者であった。

いるかどうかはわからないが、他のユグドラシルプレイヤーや、ナザリック地下大墳墓に所属する一部の配下―――以外においては、自分は負ける気がしないと思っていたのだ。

 

そんな時に自らと同格?なマーラ様との戦い。同じく、魔王を名乗る身であろう自分としてはこの挑戦状を正面から受け入れないければならないと、強く思ったのだ。

 

精一杯心を奮い立たせ、アインズは雄雄しく宣言する。

 

「ふ…いいだろう。天魔マーラ・パーピヤスよ。今この時。果たしてどちらが魔王の名に相応しいか…。勝負だ!!」

 

『グワッハッハッハァー!!愉しみじゃ!愉しみじゃよ!』

 

アインズの宣言にマーラ様は己をびんばきにさせながら、応える。

 

負けるわけにはいかない。これには己の今後の生活・尊厳・吟味等々全てがかかっている。

 

 

 

 

 

 

 

そう、自分は――――絶対マーラ様なんかに負けない…!!!!

 

 

 

 

 

 

アインズは己自身に絶対の誓いをたて、転移門(ゲート)を発動させ、己が修行の場へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所で、お気づきだろうか?アインズは先ほどのデミウルゴスとの会話で一つミスを犯した。

デミウルゴスに全権を委ねた事?デミウルゴスが反旗を企てたらどうするか?

否、デミウルゴスの忠義はナザリックでも随一のものと言える。かつてのシャルティアのように世界級(ワールド)アイテムで洗脳でもされない限り、それはないであろう。

 

ではアインズが犯したミスとは何だろうか。

それは単純な事である。

 

アインズは今回の話を、守護者の皆に話してくれというつもりで話した。

しかしデミウルゴスに頼んだ、伝える相手を『守護者達』では無く『皆』にという言葉を使ってしまった。

 

アインズは守護者の『皆』という意味で言った言葉。

 

果たしてデミウルゴスはどう捉えたのだろう?

 

まして、一時的に主人からナザリックの全運営権利を授かったデミウルゴスはどう捉えたのであろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――私だ。今から一時間後にナザリックの全NPC―――第八階層のNPC達、五大最悪のNPC達、グラント、紅蓮、ニグレド等を除いた者達を第六階層の円形劇場(アンフイテアトルム)に集合させよ。今後のナザリックの未来を担う重大な話がある。可能な限りのNPCを集めるのだ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どう…捉えたんだろうね?




ご立派さま『ナニ?小僧は童貞を卒業したかだと?愚かモノがぁ!そんな事をしたらこの話が18禁になってしまうではないか!!ワシは他の性感帯を刺激しただけよ!具体的に云うとクリ○リスだわな!グワッハッハッハァー!
ナニ?中編で終わらないのかよ。つまんないぞ-。だと?ふーむ。そいつは素直にすまん。実は前編・後編とする予定だったのだが、作ってるうちに文字数が多くなってしまったので、急遽、中編として出したのだ。
中編は犠牲になったのだ……作者の都合と早く投稿しなくちゃ……との都合で犠牲にな……』

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