ARMORED CORE for Answers "IF"   作:天杜 灰火

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 好きなように書いて、好きなようにエタる。誰のためでもなく。
 それが、俺らのやり方だったな……(最低

 そういうわけでひとつ、新しい書き方の練習としてACの短編を。
 フロム脳、というほど高尚なものではないですが、一部独自設定が含まれております。ご注意くださいませ。


ラインアーク襲撃・IF

『ミッション開始。ラインアークの防衛部隊を排除する。

 ……さて、どれほどのものかな。じっくり拝見させてもらうぞ、お前の有用性をな』

 

 とある新米リンクスのオペレーター、セレン・ヘイズが、ミッションの始まりを告げる。

 それを受けたリンクスは、静かに愛機のブースターをふかし始めた。

 今は亡きレイレナード企業の標準機『AALIYAH』のフレームに、マシンガンとブレード、あとは背部にブラズマキャノンを装備した機体だ。

 比較的軽量のフレームには瞬発力重視のブースターが装備されており、武装も近距離で真価を発揮するようなものばかり。

 彼の乗機——『ストレイド』は、接近戦を想定した高速戦闘機であった。

 まずリンクスは、空中にホバリングしてラインアーク全体を見渡すようにカメラアイを右往左往させた。

 敵戦力はMTとノーマル。ネクストの敵ではない。

 敵部隊がリンクスに気付き、攻撃を仕掛けようとする。

 しかしそれよりも、リンクスは疾く動いていた。

 クイックブースト。

 それも通常のクイックブーストではない。

 

『……!』

 

 リンクスとスクリーンを共有し、リアルタイムで戦場を見ていたセレン・ヘイズは、声に出すことなく驚愕の声をあげた。

 ——クイックブーストの出力が、恐ろしく高いのだ。

 ありえない出力である。通常の数倍は出ていると考えて良いだろう。

 爆発的なパワーを誇る特殊なクイックブーストは、オペレーターであるセレンの脳裏にかつての英雄たちの姿をよぎらせた。

 ——砂漠の狼と恐れられたイレギュラーネクスト、アマジーグ。

 ——リンクスとしてひとつの完成系であるとさえ言われた白い閃光、ジョシュア・オブライエン。

 

 ——そしてリンクス戦争の発端にして同戦争を終結させた最強のリンクス、アナトリアの傭兵。

 

 ストレイドの搭乗者であるリンクスは、まさしく彼らの再来(イレギュラー)であった。

 

『っ、敵ネクスト確認しました!』

『なに!? 来たか……! 

 全部隊に通信! 敵ネクストの侵攻を——』

 

 ストレイドは通常よりも巨大な炎を撒き散らしながらクイックブーストを繰り出し、MT部隊との距離を詰める。

 そのままブレードで一閃。真っ二つになったMTが爆発を起こす。

 ストレイドはその流線型のボディで爆炎を切り裂くと、マシンガンを乱射。背部武装のブラズマキャノンも起動させ、次々と周囲の敵部隊を殲滅させていく。

 

『くそっ、化け物め!』

 

 遠くからノーマルによる攻撃が飛んでくるが、ストレイドはクイックブーストで容易く回避してしまう。

 周囲の部隊は既に全滅している。およそ数秒の出来事だった。

 ストレイドは、ふわりと浮かび上がったかと思えば、圧倒的出力のクイックブーストの硬直をさらなる爆発的クイックブーストで解除するという人間離れした行為を以って次のMT部隊に肉迫していく。

 ネクスト相手に固まっていては殲滅されるのが関の山。散開することによって全滅を防ぎ、攻撃のチャンスを作る——その作戦が、リンクスに通用することなどなかった。

 ストレイドはもともと軽量なフレームに高出力なブースターをあわせた高速戦闘機だ。それにイレギュラー特有のクイックブーストがあわされば、その機動力はかのステイシスに決して見劣りしない領域にまで昇華される。

 縦横無尽に天地を駆け回るネクスト相手では、MT部隊はあまりにも無力だった。

 

 そこからの戦闘を、記す意味はないだろう。

 MT部隊は完膚なきまでに蹂躙された。ストレイドにかすり傷ひとつ負わせることなく、全滅した。絶望的な悪戦は、MT部隊にとってはまさしく悪夢にも等しいものだった。

 ネクストの圧倒的な性能に加え、新米離れした化け物リンクス。この二つの要素があわさってしまった以上、彼らに勝ち目などあり得るはずがなかったのだ。

 

『敵増援を確認。……ノーマル部隊だ』

 

 オペレーターであるセレンもまた、リンクスの戦闘力にある種の恐れと期待のようなものを抱いていた。

 今まで数多のリンクスを見てきた彼女だったが、ストレイドの搭乗者であるリンクスは明らかに格が違った。

 どうやら、セレンはダイヤの原石などというレベルではない拾い物をしてしまったらしい。

 はたして、この輝きはどこまで増していくのか——。

 楽しみでもある。

 恐ろしくもある。

 セレンの胸中では、そんなゾクゾクとした狂喜が渦を巻いていた。

 

『先ほどのMTよりは手強いぞ。注意しろ』

 

 そう言いつつも、セレンもまさかリンクスがノーマル部隊ごときに遅れを取るとは思っていない。むしろ、先ほどのMTと同じようにあっさり撃破してしまうだろうとさえ予想していた。

 その予想は、やはり的中した。

 ノーマルとネクストでは、その性能に大幅な差がある。MTよりは高性能だとはいえ、それでも所詮はノーマルだ。ネクストに敵うはずもない。

 クイックブーストによって一瞬にして視界から消えるストレイドを、誰もが捉えられない。たとえノーマルが何機いようと、誰もストレイドを捕捉できない。

 ロックオンしたと思えば視界から外れ、次の瞬間には仲間の機体が撃破されている。爆発音の聞こえた方に銃口を向けても、既にストレイドはいない。そしてまた、仲間の悲鳴と爆音——。

 何度もそれを繰り返す。

 ノーマル部隊にとって、そのネクストは死神のようでもあり、また狩りをする獣のようでもあった。

 やがて、永遠にも感じられる悪夢が終わる。ノーマル部隊の全滅、という形を持って。

 圧倒的だった。

 結局、この戦闘でストレイドの被弾はゼロ。熟練のリンクスならば当然といえることであったとしても、彼はこれが初のミッションなのだ。

 

『……よくやったな。完璧だ。敵が弱すぎたとはいえ、新米にしては充分だ』

 

 滅多に人を褒めることをしないセレンだったが、それでも彼に対しては賞賛を惜しまなかった。

 本来ならば、この段階でやたら褒めるのは危険だ。賞賛は自信に繋がるが、やがてそれは驕りとなって、いずれ死を招く。そもそも、彼が行ったのは所詮ノーマルの殲滅。誇らせるようなことでもない。

 しかし——。

 このリンクスは、どこか違う。

 そんな常識の範疇に、このリンクスはいない。もっと恐ろしいほどの高みにいる。セレンは今回のミッションで、それを察知していた。

 

『お前は本物かもしれんな。まあ、まだまだひよっこだが』

 

 セレンはリンクスにしっかりと釘を刺すと、ふっと息を吐く。

 セレン本人は気付いていない。その顔に、かすかな微笑が浮かんでいることに。

 

『ご苦労だった。帰還し——』

 

 ——その時だった。

 

『いや、待て。これは……敵ネクスト反応!?』

 

 セレンの声と同時に、ストレイドがクイックターン。

 ラインアークとは反対の方向から、ひとつの白い閃光が迫ってくる。ストレイドのカメラアイが、その正体を捉えていた。

 敵ネクスト。

 ラインアークにおける最高戦力にして、リンクス戦争の英雄。

 

 

『——敵ネクスト、捕捉しました』

 

 

 女性の声。

 

『カラードランク三十一、ストレイドです。カラードのデータによると、極めて新しいリンクスであり、今回が初ミッションだと予想されます。……だけど、嫌な予感がするわ。気をつけて』

 

 ホワイト・グリントの搭乗者は、オペレーターの声に対して小さく頷く。

 ホワイト・グリント。ラインアークが抱える唯一にして最強のネクスト戦力である。その正体は、リンクス戦争において凄まじい戦果をあげた伝説的な戦士——アナトリアの傭兵。

 

『馬鹿な……奴は他のミッションを遂行しているはずではなかったのか!?』

 

 リンクス戦争から十数年が経った今、彼の実力は全盛期には遠く及ばないとされている。劣悪な適性しか持っていないながらも、現在のストレイドやアマジーグ、ジョシュアのように深くネクストと繋がることによって、誰よりも高出力なクイックブーストを使えたと言われているが、今ではそれも使用できていない。

 しかし、それでもなおカラードランク九という強力なネクストであることは間違いないのだ。しかもその九という数字も政治的な配慮によるもので、実際の実力は現カラードランク一、オッツダルヴァを上回るとさえ噂されている。

 その噂が本当にしろ偽りにしろ、彼が最強クラスのネクスト戦力であることを疑う余地はない。戦闘経験も、実力も、他のネクストとは一線を画する。

 常識的に考えて、初ミッションであるリンクスが敵う道理などない。それどころかまともな戦闘になるかどうかさえわからなかった。

 

『見逃してくれるとは思えんな……くそっ、企業連の連中め』

 

 ホワイト・グリントは既に戦闘態勢に入っている。ストレイドが退却するには、彼を突破しなければならない。

 だがラインアークを襲撃し実際に被害を出しているストレイドを、ホワイト・グリントが見逃すはずはない、というのがセレンの予想だった。

 

『……やる気か?』

 

 セレンの声に、ストレイドの搭乗者は肯定を返す。

 

『……まあ、お前の言う通りだな。やるしかない。

 排除しろとは言わんよ。隙を見て撤退しろ、良いな?』

 

 ストレイドのリンクスは、小さく頷いた。

 

『よし、行け。奴が今までラインアークにいなかったことは事実——なんらかのミッションを行っていた可能性自体は高い。つまり、敵も完璧な状態ではないということだよ。条件は同じか、ややこちらが有利なくらいだろう』

 

 セレンの推測は的中していた。

 

『残弾はあまりないわ。無駄撃ちはできないし、機体の損傷も重くはないけど、軽微とも言えない。……厳しい戦いね。でも、やるしかないわ』

 

 ホワイト・グリントのオペレーター、フィオナ・イェルネフェルトが言う。

 ホワイト・グリントは、つい先ほどBFF社製AF『スピリット・オブ・マザーウィル』撃破の任を終え、ラインアークに帰還している最中だった。

 そして今、ラインアークが目前に迫った時、ストレイドを発見したのである。

 スピリット・オブ・マザーウィルは強力なAFだ。

 正確無比かつ圧倒的な威力を誇る主砲に、空を埋め尽くすミサイルの嵐。加えて無数のノーマルがマザーウィルを防衛しており、撃破するのはさしものホワイト・グリントとはいえ容易なことではなかった。

 アナトリアの傭兵がひとつでも判断を間違えていれば、弾が足りず、無念の撤退を遂げていたかもしれない。

 そんな強力なAFを撃破したかと思えば、次はネクストの襲撃——。

 アナトリアの傭兵は、過酷な連戦を強いられていた。APの損傷は四十%に近く、弾も多くはない。いくらストレイドが新米だとはいえ、油断できる道理はなかった。

 

『ストレイド、接近してきます。戦闘準備に入って』

 

 ホワイト・グリントはオーバードブーストを停止させると、向こうからクイックブーストで迫ってくるストレイドに照準を合わせる。

 傭兵と因縁深きレイレナード社の標準機をベースとしたストレイド。白いカラーリングが施されたホワイト・グリントとは対照的な漆黒のフレーム。

 

『準備は良いな』

『行きましょう』

 

 傭兵は、言い知れぬ威圧感をリンクスから感じていた。

 リンクスもまた、傭兵から恐ろしいまでのプレッシャーを感じていた。

 どちらも常識を超えた超越的な存在であるからこそ、その脅威を克明に感じ取れているのである。

 二人の思考は同じ。

 ——目の前のネクストは、恐ろしく強い。

 

『——敵ネクスト、ホワイト・グリントと交戦に入る!』

『——敵ネクスト、ストレイドを排除してください!』

 

 今ここに、イレギュラー同士の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 まず先手を仕掛けたのはストレイドだった。

 ストレイドの左腕部に、輝きを伴った高出力ブレードが顕現。ホワイト・グリントを斬り裂こうと迫る。

 しかしホワイト・グリントともあろうネクストが、そんな単純な攻撃に被弾するはずもない。左方向へのクイックブーストでブレードを回避。

 傭兵はそのまま海上へと向かう。道路のある場所では、戦闘の余波によってラインアークに被害が出る可能性があるからだ。だからこそ、海上へとおびき出し、そこで存分に戦う。道路部分から脇に逸れた海上ならば、お互い全力で戦うことができる。道路にいたとしても、ホワイト・グリントの性能は活かせない。

 逃げられる可能性も傭兵は考慮していたが、それはそれで構わないと考えていた。

 セレンは決して逃がしてくれないと予想していたが、実際は違う。ホワイト・グリントの損傷は彼女が考えているよりもずっと大きく、むしろ退却してくれるのなら傭兵たちにとっては御の字と言ったところですらあった。

 しかしストレイドもまた、傭兵という存在に興味を示していた。

 セレンの指示を無視し、傭兵を追って海上へとクイックブースト。お互い海面にブーストで浮かび、向き合う。

 ホワイト・グリントが両腕部のライフルをストレイドに向けた。トリガーを引き絞り、連射。ダブルトリガーの火力は侮れず、中距離での撃ち合いであればホワイト・グリントは無双の強さを誇る。

 無論、ストレイドもそれを理解している。クイックブーストによってホワイト・グリントのロックを振り切り、視界から外れ、近距離戦へ持ち込もうとする。

 しかし、ホワイト・グリントもストレイドの目論見など見抜いていた。回り込まれることのないようバッククイックブーストで後退し、サイドクイックブーストでストレイドを追い、常に視界の中にリンクスを入れている。

 中距離を維持するホワイト・グリントと、傭兵を追うストレイド。

 現状ではややホワイト・グリントが有利ではあるが、それでもまだ決定的な状況になったとは言えなかった。

 

『ストレイド、機動力に特化しています! 気をつけて!』

 

 ストレイドの脅威はその機動力と火力にある。

 マシンガンや減衰力の高いプラズマキャノンでプライマルアーマーを削り、無防備な機体にブレードを叩き込む——それがストレイドの戦闘スタイルである。

 瞬間火力が非常に高く、今のホワイト・グリントならばブレードの一撃で戦闘継続が困難になるほどのダメージを受ける可能性もあった。つまり、ストレイドには戦況をひっくり返すだけの一撃があるのだ。

 だからこそ、傭兵も油断はできない。

 

『まったく、お前というやつは……。

 ……まともに戦っていては勝ち目がないぞ! 懐に潜り込んで、高出力の武装を叩き込め!』

 

 まるで戦いを楽しんでいるかのようなリンクスに呆れつつも、セレンは彼にしっかりと指示を出す。

 プライマルアーマーでホワイト・グリントの銃弾を防ぎながら、ストレイドはクイックブーストで距離を詰めていく。

 より高出力なクイックブーストを使用できることもあり、機動力で言えばストレイドが勝っている。このまま行けば懐に潜り込むのはそう難しい話ではないだろう。

 ストレイドはブレードを閃かせ、傭兵に突撃した。距離はそれほど離れていない。ブレードの自動補正がホワイト・グリントを追う。

 その紫電の刃が、白い閃光を斬り裂こうとする、その瞬間——

 

『……! 待て、止まれっ!』

『今よ!』

 

 ホワイト・グリントの全身から、緑色の粒子が放出される。しかしそれは前触れに過ぎない。ストレイドもホワイト・グリントの作戦に気付くが、ここからではもう止められない。

 ホワイト・グリントは最低限のバッククイックブーストでブレードをかわすと、すぐさま前方向へのクイックブーストで距離を詰める。

 カシャッ、という音と共にホワイト・グリントのカメラアイに保護シャッターが降りる。各部装甲が展開し、ホワイト・グリントの纏うコジマ粒子が、まさしく爆発的なエネルギーの奔流となって周囲を包み込んだ。

 ——アサルトアーマー。

 最近開発されたネクストの新機構である。ジェネレーターに秘められたコジマ粒子を解放することで、周囲一帯を無差別に攻撃することができる。その威力は並々ならぬものがあり、またコジマ粒子の性質によって、プライマルアーマーなどのコジマを利用した機能を一時的に無効化してしまう。

 加えて機能障害を引き起こす効果もあり、ネクストでもそれを防ぐことはできない。

 ストレイドの複眼めいたカメラアイが、狂気的に点滅する。ロック機能をやられてしまったのだ。

 

『AP、四十パーセント減少! くそっ、ホワイト・グリントめ……やってくれる……!』

『アサルトアーマー、直撃しました! 一気に畳み掛けてください!』

 

 ホワイト・グリントは、そのアサルトアーマーをカウンターの形でストレイドに叩き込んだのだった。

 凄まじい判断力としか言いようがなかった。

 ストレイドのAPは半分近くが消し飛び、プライマルアーマーも消滅している。コジマ粒子を放出したホワイト・グリントもまたプライマルアーマーを失っているが、これで一気に傭兵が有利となった。

 

『機能障害が直るまでひたすら避けるんだ、良いな。機能障害を起こしている上、プライマルアーマーのない状態で奴と撃ち合うのは危険すぎる』

 

 セレンに言われずとも、ストレイドだってそんなことは理解していた。

 ストレイドの周囲を衛星のように回りつつ銃撃をしかけるホワイト・グリント。時たま絡め手の分裂ミサイルがストレイドを襲う。

 ネクストの防御力はプライマルアーマーに頼るところが大きい。ましてストレイドのフレームであるAALIYHAは装甲が薄く、それをプライマルアーマーで補うという設計思想なので、今ホワイト・グリントの猛攻をまともに受ければあっという間に沈んでしまうだろう。

 凡人であれば、この時点で勝負は決していた。

 しかし。

 

『……なんて動き』

 

 劣勢に立たされてなお——いや、劣勢に立たされているからこそ。

 ストレイドの動きは、明らかに洗練されていた。

 左右、背後、空中から仕掛けられるホワイト・グリントの攻撃を、さばき続けている。

 傭兵はストレイドの動きに尋常ならざるものを感じた。

 リンクス戦争を終結させた英雄ともあろうものが——あの新米リンクスを、捉えられない。

 ホワイト・グリントのロックをすぐさま振り切り、ミサイルもマシンガンで撃ち落としてしまう。無駄撃ちすることができない傭兵は、その圧倒的な機動力を相手に攻めあぐねていた。

 

『あれが初ミッションのリンクスだって言うの……?』

 

 オペレーターであるフィオナもまた、動揺を隠せずにいた。

 初めてのミッションであんな機動をするリンクスなど、フィオナは見たことがない。

 今ホワイト・グリントに乗っている彼だって、最初のミッションはひどい有様だった。成功自体はしたが、それでもストレイドの動きに比べればまさしく天と地の差がある。ストレイドの動きは、熟練のリンクスにさえ匹敵するほどだった。

 

『! ストレイド、機能障害から回復! 攻撃してきます、注意して!』

 

 滞空しながら海上のストレイドを銃撃していたホワイト・グリントのコアを、マシンガンがかすめていく。

 同時に、ストレイドが緑色の粒子を帯び始める。プライマルアーマーが回復したのだ。

 一方のホワイト・グリントは、まだプライマルアーマーを纏っていない。アサルトアーマーのデメリットだ。コジマ粒子を一気に解放するアサルトアーマーは、通常よりも回復に時間がかかる。

 

『よし、回復したな? 攻撃に移れ、ホワイト・グリントはしばらくアサルトアーマーもプライマルアーマーも使えないはずだ』

 

 ストレイドがクイックブーストを連続で使用しながら、ホワイト・グリントに肉迫する。

 その速度は傭兵から見ても脅威という他なく、一瞬で距離を詰められてしまう。先ほどよりも、ストレイドの機動力は上昇していた。搭乗者であるリンクスが、異常な速度で成長しているのである。

 ホワイト・グリントの眼前まで迫ったストレイドは、再びブレードを振りかざす。傭兵はなんとか右方向へのクイックブーストでかわすも、背後から再び紫の閃光が牙を剥く。

 それをも回避したと思えば、ストレイドはホワイト・グリントの真正面でクイックターン。今度はストレイドからマシンガンとプラズマキャノンの弾幕が飛ぶ。

 さしもの傭兵といえど、この猛攻は凌ぎきれなかった。プラズマキャノンの直撃は避けられたものの、マシンガンを大量に被弾してしまう。APが大きく削れ、いよいよ一万を切るのも時間の問題となってきた。

 だがホワイト・グリントとてただでやられているわけではない。マシンガンの衝撃力は低く、それしきでネクストは怯まない。両手のライフルのトリガーを絞りながら、クイックブーストでストレイドのロックから逸れる。バックブーストで距離を取って、再びホワイト・グリントは自身の有利な距離を維持し始める。ストレイドの装甲に、ホワイト・グリントの弾痕が刻まれた。

 しかしその程度の距離などストレイドは一瞬で詰めてしまう。

 再び接近され、ホワイト・グリントは回避に専念することとなる。ストレイドの猛攻は、確実にホワイト・グリントを追い詰めていた。

 規格外だった。

 いくら手負いだとはいえ、ホワイト・グリントと互角に渡り合うネクストなど。それも、ストレイドは初ミッションなのだ。天才鬼才などという言葉で片付けられるレベルではない。

 ラインアークの上空で、白と黒のネクストが踊り合う。

 ストレイドはその瞬発力と引き換えにエネルギーの燃費を犠牲にした扱いにくい機体ではあったが、搭乗者であるリンクスはもはやそれを完璧に使いこなしつつあった。

 お互いのAPは、確実に削れていく。

 

『右腕左腕、共にこれが最後のマガジンです!』

 

 そしていよいよ、ホワイト・グリントの継戦能力の限界が訪れつつあった。

 

『ミサイルの弾数は左右合わせて残り四発っ。もう後がありません!』

 

 フィオナの焦燥した声と共に、ホワイト・グリントのプライマルアーマーが回復。アサルトアーマーが使用可能になった。

 アサルトアーマーをもう一度ストレイドに当てることさえできれば、傭兵の勝利は見えてくるだろう。しかしあの恐るべき怪物に、二度も同じ戦術が通用するのか——答えは否であると、傭兵は理解していた。カウンターアサルトアーマーは、きっともう通用しない。

 ストレイドの残弾も着々と少なくなってはいたが、ストレイドにはブレードがある。それに、ホワイト・グリントと比べればまだまだ余裕があった。まず間違いなく先にホワイト・グリントの弾丸が尽きるだろう。

 このままでは、勝ち目がない。

 そう判断した傭兵は、フィオナにひとつの提案を持ちかける。

 

『……え!? 機械制御を解除する!?』

 

 ホワイト・グリントには、他のネクストにはない機能がいくつかある。そのひとつが、操作の自動化・半自動化だ。

 ホワイト・グリントの搭乗者であるアナトリアの傭兵のAMS適性は極めて劣悪だ。そのため、ひとつひとつの操作をする度に非常に強い精神負荷がかかる。

 そして十年以上前、アナトリアの傭兵の精神は、アナトリア失陥の直接的な原因となった『とある機体との戦い』によって既に限界を迎えている。アナトリアの傭兵は、本来もうネクストに乗れる体ではないのだ。

 しかし、天才アーキネクトであるアブ・マーシュは、そんな傭兵の精神負荷を限りなく減らすため、ホワイト・グリントにひとつの機能を付けた。

 それが、操作の自動・半自動化、つまりは機械制御システムである。

 既に世界では自律型ネクストが存在している。ある程度の操作は自動化することができるのだ。無論、アナトリアの傭兵の技術と比べればいささか以上に見劣りする出来にはなるだろうが。

 そして、自動化できない操作——たとえばクイックブーストやオーバードブースト、アサルトアーマーもいった操作も半分から数割を自動化することによって精神負荷を和らげている。

 かつてアナトリアの傭兵も特別なクイックブーストの使用者であったが、操作を半自動化してしまえばネクストと深く繋がることができず、あれほどの出力を出すことはできない。それでも、戦えないよりはマシだと判断したのは他ならぬ傭兵自身だった。

 そうしてアナトリアの傭兵は、戦闘能力を大幅に低下させる代わりに、再び戦場へと舞い戻ったのである。アナトリアの傭兵が『全盛期よりも実力が落ちた』と噂されるのは、この機械制御システムによるところが大きい。

 しかし彼は、その機械制御システムを解除すると提案したのだ。

 

『……それがどういうことか、わかっているのよね?』

 

 アナトリアの傭兵はしずかに頷いた。

 機械制御システムを解除するということは、全盛期のアナトリアの傭兵の実力を解放するということでもあり——そして、傭兵に致命的な精神負荷を背負わせるということでもある。

 無論、傭兵もそれは承知の上だ。

 しかし、解除せねばあのリンクスには勝てないだろうということを傭兵は理解していた。

 傭兵の脳裏によぎるのは、戦友の姿。かつてのホワイト・グリントの搭乗者であった、友の姿——。

 傭兵は、あのリンクスから彼と同じ気配を感じ取っていた。

 

『……一分。それが限界よ。それ以上はあなたの精神が持たない。それまでに決着をつけてください』

 

 一分。短いようで、長い。

 アナトリアの傭兵はしずかに笑うと、フィオナの言葉に頷いた。

 そうして、傭兵は機械制御システムを解除する。体がネクストと一体化していく久しい感覚に、傭兵は身を任せた。

 

『お願い。どうか、無事に帰ってきて』

 

 次の瞬間。

 アナトリアの傭兵は——白い閃光と化した。

 独特の音と共に、ホワイト・グリントのサイドクイックブーストが発動。その噴射炎は、先ほどの数倍にも及ぶ。

 そのままストレイドをロックオン。ホワイト・グリントの腕部は傭兵の腕部と一体化する。傭兵の脳内に様々な情報が流れ込み、激しい頭痛が彼を襲った。しかし、それでも傭兵は止まらない。左右のトリガーを引き絞り、確実に当てていく。

 ストレイドは被弾を覚悟でブレードを振りかざすが、ホワイト・グリントと完全に一体化した傭兵ならば回避は容易だ。

 それどころか、傭兵はストレイドとすれ違いざまに銃弾を叩き込んだ。至近距離での銃撃。プライマルアーマーの内側からの銃撃には、さすがのコジマ粒子も対応できず、ストレイドの装甲に弾痕が出来上がる。

 

『なに……!?』

 

 セレンが驚愕の声をあげる。

 ストレイドはクイックターンでホワイト・グリントへと向き直る。

 しかし——既にホワイト・グリントはそこにはいない。

 ストレイドの右方向からの銃撃。再びクイックターンでそちらを向くと、巨大なクイックブースト噴射炎が見えた。ホワイト・グリントはもうストレイドの視界から消えている。

 

『バカな、こちらのスピードについてきているというのか……』

 

 ホワイト・グリントは中量二脚の万能機だ。ストレイドもそれは同じだが、他の中量二脚よりも軽く、スペック上の機動力は明らかにストレイドが勝っているはず。まして、特殊なクイックブーストを使用しているストレイドには、ホワイト・グリントでは追いつけないはずだった。

 しかし——その前提は、あっさりと覆された。

 アナトリアの傭兵と、首輪つきのリンクス。両者のクイックブーストでは、その特殊性こそ同じだが、出力に差があった。永く戦場に身を置き、ネクストと深く繋がる術を感覚で理解しているアナトリアの傭兵の方が、よりネクストの性能を限界以上に引き出せているのだ。

 クイックブーストがホワイト・グリントの機体を吹き飛ばし、さらなる高出力のクイックブーストがその硬直をかき消す。

 

『くそ、奴も本気というわけか! 気をつけろ、ここからが本番だぞ!』

 

 ストレイドはブレードをおさめ、プラズマキャノンを起動。もはやあの白い閃光にブレードが触れる可能性は限りなく低いと判断してのことだった。

 ストレイドもまた、高出力クイックブーストでホワイト・グリントに突撃。マシンガンでプライマルアーマーを削り、プラズマキャノンによる大ダメージを狙う。

 その撃ち合いに、ホワイト・グリントは応じた。左右にクイックブーストを噴射しつつ、アサルトライフルとライフルによる銃撃がストレイドを襲う。

 お互い一歩も譲らない超高速戦闘。マシンガンをばらまきながらホワイト・グリントの頭上をストレイドが飛び越し、三次元的な戦闘を仕掛けるも、ホワイト・グリントは難なくそれに対抗。

 ホワイト・グリントは生半な軽量機ならば置き去りにしてしまうような高速移動でストレイドのロックを振り切り、左右のライフルを連射。並のリンクスであればその圧倒的な技量に翻弄されてしまうが、ストレイドもまた人間離れしたリンクスである。弾丸を脅威的な反射神経でかわし、クイックブーストで視界から消え、死角から反撃。飛んでくるミサイルは振り切るかマシンガンで撃ち落とす。

 

『すごい……二人とも、なんてスピードなの』

 

 もし、セレンとフィオナ以外にこの戦闘を見る者があらば、世界で一、二を争う戦力同士の徹底的な激突であると評するだろう。まさかそのうちの片割れがカラードランク最下位とは夢にも思うまい。

 

『AP、六十パーセント減少……!

 焦るな! 証明してみせろ、お前の可能性を!』

 

 ラインアークの海上にて、黒と白の閃光が瞬く。まるで流星が戦っているようにも、あるいは踊っているようにも思える戦いも、終わりの時が着々と近づきつつあった。

 

『機械制御解除から二十五秒経過、AP、六十パーセント減少! 背部分裂ミサイル残弾なし、パージします! ……っ、危険になったらすぐに撤退してください! あなたの無事が最優先です!』

 

 澄んだクイックブーストの音が戦場に響き渡る。両機の速度は何度も音速を突破し、常人では姿を捉えることすら困難なほどの高速戦闘へと発展している。高度は段々と上昇し、戦闘領域はいつのまにかラインアークの道路部分にまで戻ってきてしまっている。しかしそれを気にかけるだけの余裕など彼らにはない。

 ストレイドは道路へ着地してエネルギーを回復しながら。

 ホワイト・グリントは持ち前の良燃費を活かしてそのまま着地することなく。

 両機はさらに高度を上げていく。

 ラインアーク最上部を突破し、いよいよ戦いの舞台は遥かな空へと移行した。

 

『プラズマキャノン残弾なし、パージする! マシンガンの残弾もあとわずかだ!』

『五十秒経過、左腕残弾なし! これ以上は……!』

「……!」

 

 焦燥するオペレーターとは違い、リンクス二人は奇妙なまでに上質な高揚感を味わっていた。命を削り合う闘争の最中において、戦い続ける歓びこそが両者を支配しているのだ。このままどこまでも、いつまでも戦っていたいとさえ、二人は考えていた。

 しかし、それももう終わりが近い。

 APは両機ともに少ない。

 ストレイドは左腕部のブレードにエネルギーを充填。紫の閃光がストレイドの左腕を覆い尽くす。もはや、マシンガンだけではホワイト・グリントを削りきることはできないだろう。ストレイドがホワイト・グリントを撃破するには、ブレードを当てるしかなかった。

 残弾がもうほとんどないホワイト・グリントにも、ストレイドを仕留め切る手段はひとつしか残されていない。すなわち、カウンターのアサルトアーマーである。

 ストレイドのブレードも、ホワイト・グリントのアサルトアーマーも、直撃する可能性は極めて低い。

 しかし、それでも——それしか残されていないのだ。

 お互い、空中で静止。

 これからなにが起こるか。相手がなにを仕掛けてくるか。ストレイドもホワイト・グリントも、完全に見抜いていた。そして相手に自らの手が察知されていることにも、また。

 最後の勝負だ。

 この一撃で、すべてが決まる。

 

『——行け!』

『——来ます!』

 

 両機のオペレーターが声をあげたのは同時であり、ストレイドが突撃を始めたのもまたそれと同時であった。紫電のエネルギーブレードが、リンクスの闘志を表すかのごとく激しく唸っている。

 それを迎え撃つ傭兵は、ストレイドが動く『その前』からコジマ粒子解放の準備を始めていた。ストレイドがいつ仕掛けてくるかという点さえ、傭兵は見抜いていたのである。

 

 ストレイドのカメラアイが、殺意すら伴ってホワイト・グリントを睨みつける。

 ホワイト・グリントの纏うコジマ粒子が、ストレイドを全力で排除しようと、破滅的な燐光となって周囲を駆け巡る。

 

 ラインアーク上空で、世界を破滅させる力同士がぶつかり合った——。

 

 

 ホワイト・グリントが制御を失い、ラインアークの道路部分へと堕ちる。両足で着地するも、止まることなく道路を滑走。手放された左腕のアサルトライフルがホワイト・グリントの横を跳ねるようにバウンドし、コア部分の横で爆発を起こす。

 それが引き金となったかのように、ホワイト・グリントの左腕部が爆発した。なんとか原型は保っているものの、いよいよ姿勢さえ制御できなくなり、傭兵(ホワイト・グリント)は膝を折る。

 

『っ、大丈夫!? APは……!』

 

 フィオナがAPの確認作業に入る。

 その一方で、ストレイドもただではすまなかった。

 ホワイト・グリントと共にラインアークの道路部分に墜落していたストレイドだったが、最後の激突に使用した左腕部は完全に消滅。その他部分も損傷がひどく、戦闘続行は極めて難しいといえる。

 しかし、それでもリンクスは戦おうとしていた。再び前へとブースターを噴かそうとする。

 それはまるで、自らがリンクスとして生きていることを証明するかのように。

 自らの魂の場所を、証明するかのように。

 

『やめろ、無茶をするなっ。APは残り十パーセントを切っているんだぞ!』

 

 セレンからの叱責を受け、リンクスはようやく機体の動きを止める。

 そのあと、リンクスはしずかに尋ねた。

 

『……ああ、奴か。少なくとも、無事ではないよ。まったく、お前もよくやる』

 

 そうしてストレイドのカメラアイは、もはや戦闘不能に近いホワイト・グリントの姿を捉えた。

 相打ち、だった。

 先に直撃したのはストレイドのブレードである。仕留めるまではいかなかったが、ブレードがホワイト・グリントのプライマルアーマーを減衰させ、アサルトアーマーの威力を弱めた。その結果、ストレイドのリンクスも戦場に散ることを避けられたのだ。

 

『充分すぎる戦果だろう。撃破まではいかずとも、痛手を負わせることには成功したんだ。あれほどの凄腕相手に、本当によくやった』

 

 安堵したような、珍しく優しい声でセレンが言う。

 

『撤退するぞ、お前も疲れただろう。ご苦労だった——あとはゆっくり休め。

 なに、安心しろ。企業連からは私がたっぷりぶんどってやる。……くっくっく、いい加減な情報をブリーフィングで流したことを後悔させてやるさ』

 

 歴戦の戦士でさえ冷や汗を流しそうな様子で、セレンが笑う。その昏い声を聞きながら、リンクスはしずかにストレイドのブースターを噴かせた。ホワイト・グリントに遭遇した時とは違い、ストレイドの背はラインアークとは反対側——つまり撤退方向へ向いている。敵部隊の反応はなく、安全な撤退ができそうだった。

 

 アナトリアの傭兵は、そうしてブースターに引きずられていくストレイドを見据えていた。

 

『ストレイド、撤退。防衛は成功です。……大丈夫?』

 

 心の底からほっとした、というような声を出すフィオナに対して、アナトリアの傭兵は無事を告げる返事を返した。

 

『APは残り十パーセント以下だったわ。本当に、強い敵だった』

 

 声に出さず、アナトリアの傭兵はフィオナに同意する。

 アナトリアの戦歴は長いが、ストレイドはその中でも上位に入るほどの強さであった。しかも、ストレイドはこれが初ミッション——次に戦場で会う時、あのリンクスはどれだけ成長していることだろうか。

 ただ、ストレイドは独立傭兵である。今は亡きレイレナードのフレームを使用しており、なおかつ武装もレイレナード中心であったことからアナトリアの傭兵も彼が独立傭兵である可能性は高いと予想していた。今度アナトリアの傭兵と首輪つきのリンクスが戦場で出会う時、次も敵同士だとは限らない。もしかすると、味方かもしれない。

 それは、セレンにも、フィオナにも、アナトリアの傭兵にも、当のリンクス本人にも、誰にもわからないことである。

 

『……なんだかあのネクスト、あなたに似ていた』

 

 フィオナが、つぶやく。

 

『ううん、正確には昔のあなたに似ていたの。強くて、恐ろしくて、いずれすべてを破壊してしまうような』

 

 ホワイト・グリントは再びストレイドが撤退していった方向を見る。もうストレイドの姿はないが、その威圧感がずっとホワイト・グリントを縛り付けているような錯覚が傭兵にはあった。

 

『……彼とはまた戦うことになるかもしれないわね』

 

 それは、アナトリアの傭兵も予感していた。

 次に会う時には味方かもしれない。

 しかし、最終的には敵同士かもしれない。

 なぜなら——彼のような人間と、傭兵のような人間は、必ずぶつかり合うものなのだから。

 

 かつて、白い閃光と呼ばれたあの男のように。

 

『でも今は、あなたの無事が嬉しいわ』

 

 フィオナは、通信室で微笑む。その微笑は、傭兵にも伝わった。

 

『いつも私たちを守ってくれて、本当に感謝しています。あなたには、感謝してもしきれない』

 

 ホワイト・グリントのブースターを確認する。戦闘するのは難しいが、ラインアークに帰還する程度ならば不可能ではないだろう。

 機械制御システムをオンにする。ネクストとの一体感が薄れ、次の瞬間、気絶しそうなほどの激痛が傭兵の頭になだれ込んできた。

 

『大丈夫? ……今は、ゆっくり休んでください。もうホワイト・グリントは自動でラインアークまで戻れるわ』

 

 フィオナの優しい声に促されて、傭兵はゆっくりと意識を手放す。

 

 薄れゆく意識の中、傭兵は、守るべき女性の『ありがとう』という声を聞いた。

 それがあまりにも『あの時』聞いた彼女の声と一致していて——。

 

 傭兵もまた、小さな笑みと共に。

 休息の眠りについた。

 

 ——ラインアークに、海のさざめきが響き渡る。青い空は、どこまでも美しい。

 




 好きに書き、理不尽にエタる。それが私だ。
 というわけで、もしかしたら続くかもしれないですっ。

 いやまあ、続くとは言っても本編に出てきたミッションをちょこっと変えてそれを小説にする、といった形になると思いますが。
 ネタはたくさんあるんですよね。リリウムちゃんと一緒にエーレンベルグ襲撃したり、アンサングと一緒に超強化版アンサラー(ミサイルがコジマミサイルに、レーザーが妖しい緑色になって威力アップ、さらにコジマ粒子濃度が増加して傘の上にもレーザーが飛んでくる……みたいな)を撃破したり、乙樽が水没したあとにホワイト・グリントが再起動、(本編だと再起動→水没です)さらに再起動後のグリントがめちゃくちゃ強くなってたり、あのミッションであの人たちを撃破したあとにあの人がやってきたり……うふふうふふ。
 ACfaの超高速戦闘を文章で表現するのはなかなか難しいですが、がんばっていこうと思います。

以下補足。

Q,ストレイドやホワイト・グリントが使ってた高出力なクイックブーストって?
A,二段クイックブーストのことです。通常よりも大きい噴射炎と出力を誇るクイックブーストで、初期は敵専用の特殊なクイックブーストかと思われていましたが、一応プレイヤーも使えます。自由自在に使うにはそれなりの練習が必要ですけれど。
 ACfaでは使用者がいませんが、faの前作であるAC4ではアマジーグとジョシュアが使用してきます。どちらも軽量二脚の機動力に優れた機体を操るリンクスですので、周りがAC4やってる中あいつらだけACfaやってました。

 ちなみに二段クイックブーストを行うには少々特殊な操作が必要で、人間では二段クイックブーストを連続で使用することはほぼ不可能に近いです。
 しかしNPCはそんなもん知ったこっちゃねえと言わんばかりに二段クイックブーストを二段クイックブーストでキャンセルしてきます。初プレイ時は冗談抜きで『それがネクストの動きだと!? じゃあ俺はなんだ!?』ってなりました。

Q,ホワイト・グリントの機械制御機能って?
A,騙して悪いが独自設定なんでな。
 少なくともホワイト・グリントにそんな機能が搭載されているといった情報はありません。もっと言えばホワイト・グリントの搭乗者がアナトリアの傭兵(AC4主人公)であるというのも半ば独自設定です。本編のホワイト・グリントにはセリフがなく、『リンクス戦争において単独で企業を壊滅させた』程度の情報しかないです。
 しかし前作で起きたリンクス戦争において単独で企業を壊滅させた人間といえば二人しかいません。そしてそのうちのひとりは死亡しているはずなので、アナトリアの傭兵である可能性は高いと言われています。

 ですがアナトリアの傭兵もAC4の時点でかなりやばかったはず。普通に考えて、AC4から十年近い時間が経ったACfaまで現役リンクスでいられるとは考えにくい……ううむ、再起動とあわせてフロム脳が滾りますね……!

Q,なんでアナトリアの傭兵帰ってきたの?
A,これも独自設定ですね。公式とは違ってかなり早い時間に出撃しミッションを遂行、ちょうどストレイドがミッションを行っている最中に帰ってきた……といった感じです。
 最初のミッションであるこのラインアーク襲撃。本編ではブリーフィングにて『ホワイト・グリントは遠くでミッションしてるから問題ないよ☆』と言われますが、個人的にそのミッションはACfaのオープニングムービー、つまりはスピリット・オブ・マザーウィル撃破なのではないかな、なんて考えてみたり。……それとも公式でしたっけこの設定? 記憶が曖昧です。なるべく独自設定と公式設定は混同しないようにしているのですが……。
 とにかく、公式だとホワイト・グリントは弾が足りずに撤退したらしいですが、このお話だとホワイト・グリントは公式よりも早くに出撃して、ノーマルに一瞥もくれることなく全攻撃をマザーウィルに注ぎ、これを撃破しています。まあラインアークに帰ってきた時には結構やばかったわけですが……。


 こんなところか。(GA仲介役並感
 それでは、読んでいただきありがとうございましたっ。

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