幽鬼うさぎも異世界から呼び出されたようですよ?   作:グリアノス

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最近執筆意欲が減退しているのでリハビリも兼ねてノリと勢いで書きました。

後悔は微塵もしていないが反省は少ししている。





拒絶。それは物語の始まり

やあやあお立ち合いの皆様。

 

皆様は「遊戯王デュエルモンスターズ」というカードゲームを知っているだろうか?

 

今を生きる子供達に留まらず幼少の頃から慣れ親しんだ大人まで、そして国境をも越えて数多くの人間を楽しませてきた娯楽。

 

その知名度はもはやカードゲームの王様、とすら言えるかもしれない。

 

名前は知っている。

 

小さい頃やってた。

 

今でもやっている。

 

こういった声は存外にも多い。

 

その中でも今でもやっているという方々は「幽鬼うさぎ」というカードをご存知だろうと思う。

 

高性能かつどの様なデッキにも組み込める万能性と可愛らしいイラスト、そしてその需要とは反比例する希少性から専門店へ赴いてもその高価な値段に再録を望むプレイヤーも大勢居る事だろう。無論、私もその一人。

 

さて、長ったらしい前口上はこの辺で終えるとしよう。

 

あらゆる形で認識されるこの娯楽は千差万別、無限大の多様性を持って広がり続ける「遊戯王」。

 

そしてその中で生み出されたカード「幽鬼うさぎ」。

 

これは一枚の「幽鬼うさぎ」が何の因果か意識と肉体を持って神仏集う「箱庭の世界」に招かれる物語。

 

──────お楽しみいただけたら幸いである。

 

 

 

 

 

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真っ暗な世界に唐突に光が差した。目が痛い。

 

辺りの静寂が破られた事で喧騒が聴こえてくる。耳が痛い。

 

─────うぅん、眩しい。

 

「おい見ろよこれ!」

 

─────ん、誰だろう……?

 

「ああ?なんか良いやつ出たのか?」

 

─────声が聴こえる。

 

「ほら、これって今滅茶苦茶高いやつだろ!」

 

─────何の事だろう?

 

「マジか!? ってお前これ幽鬼うさぎじゃねえか! 運良いなオイ!」

 

─────幽鬼うさぎ? 私の事なのかな?

 

「まあ確かに良い効果だよなぁ。このカード」

 

─────そっか。私はカードなんだ。

 

「お前、これ売ってくれよ!」

 

「アホか! 嫌に決まってんだろ!」

 

─────大事に……して欲しいなぁ……

 

「ちょっ、俺帰るわ。じゃあな!」

 

「おい待ってくれよ!…………くそっ、羨ましいなぁ」

 

─────これからよろしくね。ご主人様。

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして名も分からぬ青年は「幽鬼うさぎ」というレアカードを手に入れ、デッキ構築に腐心する筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

異変が起きたのはその夜の事。

 

皆が寝静まった深夜、リビングのテーブルに他のカードと共に置かれていたカードが淡い光を発するとそこからごてごてと色々な物を差し込んだ和服を着込んだ白髪の少女が現れた。

 

彼女の名は幽鬼うさぎ。何の因果か意識と肉体を持った唯一のカードである。

 

「─────ん、ここはどこ?」

 

たどたどしく言葉を発する少女はまだ自分に起きた異変を正しく把握していないようで、キョロキョロと辺りを見回す。しかし夜中というのもあってか、部屋の中を窺い知ることは出来ない。

 

「何も……見えない」

 

そういうと和服の袖から一枚の御札を取り出すとそこから青白い発光体を作り出すと周囲に浮かべる。

 

「うん、少し……明るくなったね」

 

幽鬼うさぎがそう呟くと、青年は何処かと辺りを見回す。自分が何故肉体を持ったのかは分からないが、一先ず主となった青年に挨拶位はせねばなるまいと思ったからだ。

 

この部屋には居ないとわかると他の部屋に向かおうとする幽鬼うさぎ。そして彼女が部屋を出ようとした次の瞬間、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。開け放ったのは懐中電灯を手にした青年で、その顔には不可思議な現象への恐怖が見てとれた。

 

幽鬼うさぎは探していた青年が見つかった事で僅かに表情を綻ばせるが、青年の口から幽鬼うさぎの言葉を遮って発せられたのは困惑と拒絶の言葉だった。

 

「あ、ご主「誰だお前は! 玄関は施錠していた筈だ! 一体どうやって入り込んだ!?」………っ」

 

─────私の事がわからないの?

 

これは青年がカードのイラストをもっとハッキリと覚えていれば話は変わったのかもしれない。ただそれを責めるのは酷とも言える。この世界においてカードが実体化するなどいう非常識な事を誰が想像し、そして受け入れられるだろうか。

 

─────ご主人様……私は幽鬼うさぎだよ?

 

「…………今なら見なかった事にしてやる。今すぐ出ていけ!」

 

「ッ!?」

 

青年の容赦の無い言葉の刃が彼女の心を抉る。そしてそれは彼女にこの世界に居場所はないと思わせるに充分だった。

 

─────私は…………ここに居ちゃいけないんだ…………

 

「どうした早く行け! このままじゃただじゃおかないぞ!?」

 

「ご、ごめんなさい……ごめん、なさい……」

 

そう言って幽鬼うさぎは青年の家を飛び出して行った。外は外灯も少なく夜の闇に覆い尽くされている為に非常に暗い。しかし先程肉体を得たばかりの幽鬼うさぎにいく宛がある筈もない。

 

大きな瞳から大粒の涙が零れるが気にも留めずに走り続ける幽鬼うさぎ。

 

─────どうして? どうして私はカードのままいられなかったの?

 

どれくらい走り続けただろう。息を切らして空を見上げた幽鬼うさぎの目にはその傷心を嘲笑うかのように眩く輝いている星々が映る。

 

「ご主人様、私は……私は……」

 

─────私はカードのままで良かったんだよ? ご主人様と一緒に居たかったのに…………

 

「私は…………何処へ行けば良いの…………?」

 

幽鬼うさぎは溢れる涙をその悲しみのままに流しながら呟く。

 

─────ああ、このまま死んでしまえたら良いのに…………

 

「────あれ?」

 

いっそこのまま首を掻き切ろうと着物の帯に差してあった鎌に手を伸ばした時。幽鬼うさぎにとって見に覚えの無い手紙が帯に差し込まれていた事に気づいた。

 

「…………なんだろう。私はこんなの持ってなかった筈なのに」

 

─────そっか。ご主人様はこんな気持ちだったんだね。

 

この意図も差出人も届け方も一切が不明な怪しさバリバリの手紙を前に、先程青年が彼女を拒絶した気持ちを僅かばかり理解した幽鬼うさぎ。

 

このよくわからない状況を生み出した件の手紙をいっそ破り捨ててしまうべきかと思案するのも無理からぬ事である。

 

─────でも、することもないから開けてみようかな。

 

どうせ行く宛もないからと、半ば自棄になりながらも幽鬼うさぎは手紙の封を切る。

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 

その才能(ギフト)を試す事を望むなら、

 

己の家族を、友人を、財産を捨て、

 

我らの“箱庭”に来られたし』

 

──────箱庭ってなんだろう?

 

手紙を読み終えた幽鬼うさぎは思案に耽るが、唐突にその思考は中断させられる事となった。

 

当然だ。誰でもいきなり上空4000mに放り出されたら思考のひとつやふたつ止まって然るべきである。現に幽鬼うさぎの他に呼び出されたであろう三人と一匹は口々に叫んだりしている。

 

それでも幽鬼うさぎには己の中でひとつの感情が渦を巻いていた。

 

──────此処には私の居場所はあるのかな?

 

果たして元の世界で居場所を得られなかった幽鬼うさぎは箱庭でどう生きるのか。

 

物語の幕はここに上がる。

 

 

 

 




続きを書くかは気分次第。

それでは皆様、読んでいただきありがとうございます。


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