川崎沙希の距離感   作:満福太郎

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4.川崎沙希は困惑する

大学入学当日。

あたしは部屋の前でドアにもたれかかりあいつを待つ。

 

沙希「この服変じゃないかな。」

 

スーツ姿っていうのが馴染みがないから似合ってるかどうかはわからない。

まぁきっとあいつは一言も服装には触れないんだろうけど。

でもあたしは言ってやる。似合ってるよって。

 

八幡「悪い待たせた。」

 

部屋から出てきたあいつは意外にも本当にスーツが似合ってた。

あたしは少し見とれてしまう。

なんだよ。カッコいいじゃん。

あたしは軽く深呼吸する。

 

沙希「よく似合ってるじゃん。」ニコッ

 

八幡「そうか?」

 

良かった。ちゃんと言えた。

少しはあたしも成長してるらしい。

 

八幡「川崎も似合ってるじゃねぇか。」

 

沙希「!?」

 

お世辞なのかな?あたしが褒めたからついでに?

でも今はどっちでもいいや。

素直に嬉しい。

 

沙希「あ、ありがと…」モジモジ

 

きっと顔すごく赤くなってると思う。

 

八幡「じゃ、行くか。」

 

沙希「うん。」ニコ

 

大学までは徒歩なら20分くらいで行ける。

交通機関もあるけれどあたしたちは徒歩を選んだ。

まだ少し風が肌寒い。あたしたちは並木道を二人で歩く。

まだ隣を歩くのは恥ずかしくって1歩後ろからついていく。

相変わらず何も話さないやつだけど、今はいいや。

あたしの心はこの現状に満ち足りていた。

 

八幡「てか今日って式だけで終わりなんだろ?」

 

沙希「うん。たぶん終わったら解散だと思う。」

 

八幡「ふーん。」

 

20分なんてあっという間だった。

気付けば大学は目前だ。

ここであたしたちの新しい生活が待ってるのか。

 

沙希「ねぇあんたって今日予定あるの?」

 

八幡「いや?特には。」

 

あたしは勇気を出して問いかける。

 

沙希「じゃ、じゃあさ。終わったらご飯でも食べにいかない?」

 

八幡「アパートじゃなくてか?」

 

沙希「う、うん。せっかく入学したんだしお祝いも兼ねてどうかなって…。」

 

八幡「……。」

 

あ、あれっ?返事がない。

やっぱり迷惑だったのかな…。

 

八幡「そうだな。行くか。」

 

沙希「い、いいの?悩んでたけどホントはなんかあるんじゃ…?」

 

八幡「飯を炊いてた気がしたんだ。」

 

沙希「…はい?」

 

八幡「たぶん忘れてる。出る時スイッチ押した記憶がない。」

 

沙希「う、うん。」

 

八幡「帰ってもなんもないから丁度いい。終わったらこの門とこで待ってるわ。」

 

紛らわしい!ちょっと泣きそうだったじゃん!

心臓にわるいよもう…。

 

沙希「わかった。じゃ、またここに集合ってことで!」

 

八幡「なんかあったら連絡してくれ。」

 

沙希「わかった。」ニコッ

 

これは友達って言ってもいいのかな?

周りにはそう見えると思う。

っていうか友達の定義ってなんなの?

ご飯一緒に食べたら友達?

それともこの人は友達ですって宣言されないとダメなの?

っていう風に考えてたらいつのまにか式は終わっていた。

まったく頭に残らない入学式。ホント何やってるんだか…。

 

 

~~~

 

沙希「あれ?まだ居ない…?あたし結構遅れちゃったと思ったんだけど。」

 

沙希「もしかして先に帰っちゃったとか?」

 

いやさすがにそんなことする訳ない…はずなんだけど。

あたしはキョロキョロあたりを見回す。

すると人ごみのなかにあいつの姿を見つけた。

 

沙希「ちょっと門のところって言った…のに…?」

 

声をかけながら違和感を感じる。

誰?この女。

由比ヶ浜でも雪ノ下でもない。

ましてや高校では見たことない女と会話をしていた。

 

???「あれっ?比企谷の知り合い?」

 

八幡「ん?あぁ遅かったな。」

 

沙希「え?えっ?」

 

状況が理解出来ない。

誰?友達?勧誘?ナンパ?まさか彼女!?

突然の出来事に頭が破裂しそうになる。

いや、勝手に彼女がいないと思い込んでただけで実際確認してないし…。

 

八幡「お、おい。何固まってるんだ?」

 

沙希「あ!いや…えっと…。」

 

折本「どうもはじめまして!比企谷の中学の同級生の折本かおりです!」

 

沙希「あ…同級生。あたしは高校の同級生の川崎沙希です…。」

 

折本「なになに~?比企谷!?彼女?ねぇ彼女なの!?」

 

八幡「いや、友達だ。」

 

沙希「!?」

 

折本「なんだつまんない。じゃあ友達も一緒にどう?」

 

沙希「一緒?」

 

八幡「いや、なんかカラオケ行くらしいから一緒にどうかって誘われてんだけど。」

 

沙希「あー…あんた行ってきなよ!あたしはまたでいいからさ!」

 

八幡「いや。折本悪いな。川崎と予定あるからやめとくわ。」

 

折本「いやいや!予定なくてもどうせ来なかったっしょ?」ケラケラ

 

八幡「まぁな。行くか川崎。」

 

沙希「ほ、ホントにいいの?」チラッ

 

折本「あたしらは気にしないでいいよ~!こっちこそ邪魔しちゃってごめんね?」

 

沙希「……。」ペコッ

 

八幡「じゃあな。」

 

折本「またね比企谷!」

 

なんか頭ごちゃごちゃだけど…。

友達だ。あいつはそう言ってくれた。

それがすごく嬉しかった。

ほんとは折本?って人が気になったけど今はどうでもいい。

友達…。うん。あいつの中でのあたしは友達になった。

再会してまだ少ししかたってないけどすごい進歩だ。

帰り道のあたしの足取りはすごく軽く、すごく浮かれていたと思う。

 

女生徒「かおりー?行くよー?」

 

折本「今行くー!」

 

折本「ふーん?川崎さん…ね。」

 

 

~~~

 

帰り道あたしとあいつはこ洒落た喫茶店へと立ち寄った。

 

沙希「ホントに良かったの?断って。」

 

八幡「そもそも行く気もなかったから構わん。」

 

沙希「でも可愛い子だったじゃん。」ムスッ

 

八幡「…。いいんだよもう。」

 

沙希「う、うん。それよりさっきあたしのこと友達って…?」

 

八幡「え?す、すまん!俺が勝手に思ってただけで!その…」

 

沙希「ううん。いいよ。なんか変な感じだよね。」

 

八幡「え?」

 

沙希「だって高校ではそんなにだったのに今さらって感じがして。」クス

 

八幡「まぁ、人生色々ってことだな…。」

 

沙希「なにそれ。」クスッ

 

たわいもない会話。

昔のあたしたちにしたら考えられないことだ。

今なら聞ける気がするあの事。

いや、今聞いておかなきゃならない。

私が前に進む為にも。

 

沙希「あの…さ。」

 

八幡「なんだ?」

 

沙希「あんたって由比ヶ浜と雪ノ下振ったってホント?」

 

ピタッ。あいつの手が止まるのがわかった。

 

八幡「……なんで知ってる。」

 

沙希「あんだけ教室で三浦が騒いでたら嫌でも耳に入るっての。」

 

一時期由比ヶ浜のやつが目を腫らしてた時があった。

それに対して三浦のやつがこいつにつっかかってたのはよく覚えている。

だからなんで知ってると聞かれても必然だったと答えるしかない。

 

八幡「…事実だよ。」

 

沙希「なんで?二人ともあんたにはもったいないくらいの上玉じゃん。」

 

八幡「あの3人で一緒に居ようと思ったらあれが最善だった。」

 

沙希「なんで?」

 

八幡「どちらと付き合ってもあの部は崩れる。」

 

八幡「あの二人の関係を俺は壊したくなかった。ただそれだけだ。」

 

沙希「後悔してないの?」

 

八幡「しそうになった。でもこれで良かったんだ。」

 

八幡「結果的に奉仕部はそれからも変わらずにいつもの関係が続いた。」

 

沙希「それってあんたが犠牲になっただけじゃん…。」

 

八幡「でも仲良くしてる二人を見るとあれで正解だったんだよ。」

 

沙希「ふーん…。じゃあ今は誰とも付き合ってないんだ?」

 

八幡「お前俺に彼女が居るように見えるか?見えるなら眼科に行った方がいいな。」

 

沙希「そっか。」クスッ

 

八幡「何だよ…。」

 

沙希「なんでもないよ。そろそろ帰ろっか!」

 

八幡「おぉ…?」

 

彼女はいない。私にもチャンスはある。

アパートまでの帰り道そんなことばかり考えていた。

1歩先にはあたしの好きな人。

相変わらず無言の帰路だったけれど、あたしはこれから先が楽しみになった。

そう。あんなことがあるまでは。

 

 

~~~

 

折本「あっれ~!?比企谷と川崎さんじゃん!」

 

アパートの2階から聞こえる聞き覚えのある声。

ふと見上げると折本かおりが2階の廊下から身を乗り出してこちらを見ていた。

 

八幡「お、折本!?」

 

折本「え?まさか二人もこのアパートな訳!?マジうけるー!」ケラケラ

 

全然気づかなかった。気付こうともしてなかった。

隣にこいつがいるってだけで他の住人のことまで見ていなかった。

 

八幡「折本…。このアパートに住んでんのか?」

 

折本「そだよ~。あたし二階ね?二人は何階?」ニコニコ

 

八幡「俺らは1階だ。」

 

折本「へー!もしかして隣同士!?すっごい偶然じゃん!」ケラケラ

 

汗が出そうになる。

なんだろうこの感覚は。

青春なんて甘いものばかりではない。

そんな言葉が脳裏をよぎる。

甘かった。このままあたしの青春はすんなり終わりそうもない。

 

折本「女同士よろしくね?川崎さん。」ニコッ

 

そう言って上から笑顔を向けてくる折本かおりの目は笑っていなかった気がした。

 

つづく

 


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