川崎沙希の距離感   作:満福太郎

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この話しで一区切りです。
読んで下さった方ありがとうごさいます。


11.川崎沙希の青春の行方

あれから1週間。あたしは比企谷を避けている。

どんな顔をして会えばいいかわからないし泣いてしまうかもしれない。

振られてからというもの毎日かおりがウチを訪ねてくる。

毎日たわいもない話しで盛り上がる。

かおりは何も聞いてこないし態度もいつも通り。

そんなかおりの姿が今のあたしにとって救いだ。

今まで一人で生きてきたけれど友達っていいものだなって改めて思う。

 

かおり「ねぇねぇ!明日買い物行こうよ!冬服見に行こう!」

 

沙希「そうだね。あたしもそろそろ欲しいって思ってたから。」

 

かおり「じゃあ決まり!んじゃちゃんと朝起こしてね!」

 

沙希「え?また泊まる気?」

 

かおり「ダメなの?」

 

沙希「ううん。ダメじゃない。」

 

かおり「ふふっ。じゃあまた明日ね!」

 

正直この気持ちのままじゃ息が詰まる。

比企谷は明日何するのかな?やっぱり由比ヶ浜とデートなのかな。

振られてから聞いた話しだけど先月比企谷を街で見かけたという友達がいた。

まぁ友達と言っても顔見知り程度の子だけども。

お団子ヘアーの可愛い子と一緒だったよって。

間違いなく由比ヶ浜だろう。

日にちを聞くとあの着信の翌日だった。

今までやってきたことが空回りだったんだと思うと悲しくなる。

世の中の人ってこういう時どうやって乗り越えるんだろうか。

明日かおりと買い物行くことで少しは気晴らしになればいいけど。

 

 

~~~

 

かおり「見て!これめっちゃかわいい!」

 

沙希「ホントだ。かおり似合うと思うよ?」

 

かおり「沙希もこれいけるんじゃない?」

 

沙希「あ、あたしは似合わないよ!」

 

かおり「着てみたらいいじゃん!」

 

沙希「あたしは普通のでいいの!別に誰に見せる訳じゃないんだから。」

 

かおり「…。そっか。」

 

沙希「あ…。その…。」

 

かおり「あたしちょっとお手洗い行ってくるから!荷物見といて!」

 

沙希「う、うん。」

 

しまった。かおりにはあまり落ち込んでるところ見せないように気を付けてたのに。

気を遣ってもらうのも悪いからね。

 

???「あれ?沙希さん?」

 

沙希「ん?あ…。小町ちゃん。」

 

小町「奇遇ですね!沙希さんもお買いものですか?」

 

沙希「う、うん。」

 

なんか気まずい。比企谷とのことは知らないと思うけど。

 

小町「あ、あれからお兄ちゃんとはどうですか?」

 

やっぱりこういう話になるよね…。

 

沙希「あ、まぁ。ぼちぼち…かな?」

 

小町「沙希さん?」

 

沙希「あ!あたし比企谷から誕生日プレゼントもらったの!小町ちゃんが大志に聞いてくれたんでしょ?ありがとね!」

 

小町「え?それは良い話しですけど…。あたしお兄ちゃんに…」

 

かおり「おーい!沙希!行くよー!」

 

沙希「ご、ごめん!友達呼んでるからまた今度ね?」

 

小町「あ、はい!またお話しできたらうれしいです!」

 

沙希「うん。じゃあね!」

 

小町(あれ?あたし沙希さんの誕生日お兄ちゃんに言ったっけ…?)

 

かおり「知り合い?」

 

沙希「うん。ちょっとね。」

 

かおり(あの子どっかで…?)

 

沙希「今からどうする?」

 

かおり「もう結構買ったからどっかでお茶して帰ろうか!」

 

沙希「賛成。」クスッ

 

 

~~~

 

かおり「結構長居しちゃったね。」

 

沙希「そうだね。あ、なんか天気悪くなってきた。」

 

かおり「あー。もしかしたら雨降るかもね。」

 

沙希「急いで帰ろっか。」

 

かおり「振ってきてからじゃ遅いからコンビニで傘買ってくる!ちょっと待ってて!」

 

沙希「あ、待っ…。早っ。」

 

ふー。今日は楽しかったな。少しは落ち着いたかも。

でも当分恋愛はいいかな。

初めての青春は残念な結果に終わったけれどやっぱり心残りだな。

振られてもいいからちゃんと好きって言いたかった。

 

沙希「あ、降ってきた。」

 

まるであたしの心模様の様に雨が降る。

 

沙希「あ…。あれって。」

 

 

~~~

 

かおり「ごめーん!遅くなっちゃって!って沙希?あれ?どこ行った?」

 

店員「あ、先ほどのお連れ様なら走ってどこかに行かれましたよ?」

 

かおり「え?」

 

店員「お荷物お預かりしてます。それと行ってくるって伝えて下さいって。」

 

かおり「…。」

 

店員「あの?お客様?」

 

かおり「あ!なんでもないです!荷物ありがとうございます!」

 

かおり(いってらっしゃい沙希。)クスッ

 

 

~~~

 

はぁはぁ。息が苦しい。なんであたし走ってるんだろう。

あいつに今さら会ってどうするんだろう。

でも見てしまった。出会ってしまった。

ただの偶然なんだろうけど体が勝手に動いてしまった。

雨の降る中。川沿いの堤防でようやくあいつに追いつく。

 

沙希「比企谷!!!」

 

八幡「え…?か、川崎!?お前びしょ濡れじゃねぇか!?」

 

街で比企谷を見かけてあたしは夢中で追いかけてきた。

比企谷はあたしに近寄ってくるが濡れてるのなんてどうでもいい。

 

沙希「それ以上来ないで!」

 

八幡「…!?」ビクン

 

沙希「はぁ…はぁ…。比企谷…聞いて欲しいことあるの…。」

 

八幡「いや、早く帰らないと風邪引く…。」

 

沙希「いいから!!ねぇ比企谷。あたしの声聞こえる?」

 

八幡「あ、あぁ…。」

 

沙希「そう。もう聞こえなかったとか言わせないから。」

 

八幡「ちょ、川崎落ち着けって…。」

 

沙希「うるさい!また逃げるの!?またごまかすの!?ふざけんな!!!」

 

沙希「あたしの言いたいことくらいちゃんと言わせろよ!!!」

 

沙希「よく聞け!比企谷八幡!!」

 

沙希「あたしは!あんたのことが!!好きなんだっつーーーの!!!」

 

沙希「好きで…好きで好きで好きで…仕方ないくらい大好き!!」

 

沙希「…。」

 

八幡「…。」

 

沙希「…ちゃんと聞こえた?」

 

八幡「…聞こえた。」

 

沙希「そう。じゃあいいや。ちゃんと言えたからこれで満足。」

 

沙希「ごめんね?由比ヶ浜がいるのにこんなこと言っちゃって。」

 

沙希「でももう言わないから。今までありがとね?じゃあ…。」

 

八幡「ちょ、ちょっと待て!?なんだその由比ヶ浜ってのは!?」

 

沙希「え?付き合ってるんでしょ?」

 

八幡「もうなんでもないって何回も言っただろ俺は!なんでそんな話が出てくる!?」

 

沙希「え?あれ?あんた由比ヶ浜とデートしてたんでしょ?それに電話も…。」

 

八幡「デート…?電話…?」

 

沙希「いや。もうごまかさなくてもいいから。怒ってる訳じゃないし。」

 

八幡「…あ。」

 

沙希「ほら心当たりあるんでしょ?」

 

八幡「あ、あれは違う!誤解だ!」

 

沙希「へー。誤解。じゃあなんなのさ?」

 

八幡「…。」

 

沙希「ほら言えないんじゃん。」

 

八幡「て、手伝ってもらってたんだ…。」

 

沙希「は?何を?」

 

八幡「その…。川崎の誕生日プレゼント選びをだな…。」

 

沙希「へ?」

 

八幡「何プレゼントしていいかわからんかったから…。」

 

八幡「川崎の誕生日聞いたついでに手伝ってもらえないかって…。」

 

沙希「え?小町ちゃんに誕生日聞いたんじゃなかったの…?」

 

八幡「小町?なんで川崎が小町のこと…?」

 

沙希「まぁその。いろいろあって…。」

 

八幡「…?つうか妹になんて恥ずかしくて聞けるか。」

 

沙希「じゃあ何?由比ヶ浜と出掛けたのはあたしのプレゼント買いに?」

 

八幡「…あぁ。」

 

沙希「で、電話は?かかってきてたじゃん。」

 

八幡「見られてたのか。あれは集合場所やら時間の連絡だ。」

 

沙希「何…それ…。あたしの勘違い?」

 

沙希「じゃ、じゃあこの前の水族館ではなんでごまかしたのよ!?」

 

八幡「…。」

 

沙希「告白されたらまずいことでもある訳?」

 

八幡「…。」

 

沙希「やっぱり彼女いるとか?」

 

八幡「それはない。」

 

沙希「なら改めて言うわ。好きです。付き合って下さい。」

 

八幡「…。」

 

沙希「…ダメならダメってはっきり言ってくれる方がありがたいんだけど。」

 

八幡「…川崎。お前折本と最近どうなんだ?」

 

沙希「かおり?かおりがなんの関係が…。」

 

八幡「…。」

 

沙希「…あんたまさか。あたしとかおりを昔の由比ヶ浜と雪ノ下と重ねてるんじゃないでしょうね?」

 

八幡「…。」

 

沙希「ばっかじゃないの!?あたし言ったじゃん!感情はちゃんと出しなさいって!」

 

沙希「そうやって人のことばかり気にしてないで自分の気持ち教えてよ!」

 

八幡「…俺はこんな人間だってわかるだろ?」

 

八幡「選ぶことで何かが崩れるかもしれないのが嫌なんだ。だから…。」

 

沙希「いい加減にして!!!」

 

沙希「由比ヶ浜と雪ノ下はそれで納得したかもしれないけどあたしは違う!」

 

沙希「ちゃんと選んで!比企谷の気持ちちゃんと教えて!」

 

沙希「じゃないとあたしは納得できない!」

 

沙希「このまま別れるのか。友達で居てくれるのか。それともあたしと付き合ってくれるのか。」

 

沙希「あんたが決めて。他の人とか関係なく。比企谷。あんたが決めるのよ。」グスッ

 

八幡「でも…。」

 

沙希「比企谷のせいで壊れるくらい安い関係じゃないのよ?あたしとかおりは。由比ヶ浜と雪ノ下だってそうだったと思う。」

 

沙希「言わんとすることはわかるよ?今選んでしまったら由比ヶ浜と雪ノ下に申し訳ないんでしょ?」

 

沙希「あたしも少しずるいと思う。あの二人は選ばなかったのにあたしの時だけ選んでもらうって。」

 

沙希「でもずるくてもいい。あたしにチャンスがきたんだから。」

 

沙希「お願い比企谷。好きです。大好きです。返事…聞かせて下さい…。」グスッ

 

八幡「…。」

 

八幡「川崎。俺は…―」

 

 

 

 

~~~

 

かおり「おかえりー!ってびしょ濡れじゃん!?」

 

沙希「…。かおり急にいなくなってごめん。」

 

かおり「いや、別にいいって!それより着替え…。」

 

沙希「あ、あのっ!かおり。聞いて欲しいことあるの…。」

 

かおり「…どした?」

 

沙希「あの…あたし…。」

 

かおり「…。」

 

沙希「あたしねっ!その…。」

 

かおり「うん。」

 

沙希「…。あたし比企谷と付き合うことになった…。」

 

かおり「…うれしいことじゃない。なのになんで泣くの?」

 

沙希「ごめん…。かおりの番だとか言っておいて…。」グスッ

 

かおり「いいよ。沙希おめでとう。」ニコッ

 

沙希「あのっ!もし…もしあたしのこと嫌いになったんならあたし出ていくから!」グスッ

 

かおり「沙希。おいで?」

 

沙希「え…?」

 

かおり「…。」ギュッ

 

沙希「か、かおり…?」

 

かおり「沙希のこと嫌いになる訳ないじゃん。よく頑張ったね。」グスッ

 

沙希「かおりぃぃ…。うわぁあああん!」

 

かおり「ほらほら。泣かないの!もっと誇らしくしなさい!」グスッ

 

あたしは泣いた。今まで一番泣いた。

比企谷と付き合えて。かおりのその優しさが嬉しくて。

空っぽだったあたしが満たされていく。

あぁ。あたしは幸せだ。

 

 

~~~

 

翌日。あたしは部屋の前でドアにもたれ掛る。

前髪を弄り、服を整える。

心はどこか落ち着かない。

それもそのはずだ。

 

八幡「…うす。」

 

部屋から出てきた比企谷を見て心臓が高鳴る。

あたしこの人の彼女になったんだ。

 

沙希「お、おはよ…///」

 

八幡「じゃ、じゃあ行くか。」

 

沙希「うん。」

 

今まで一緒に大学に通うことはあったけど今日はいつもと違う。

景色がいつもより輝いてみえる。

季節はもうすぐ冬だけどまるで春のようだ。

 

沙希「ねぇ比企谷。あたしたち付き合ってるんだよね?」

 

八幡「え?あ、あぁ…。」

 

沙希「でも昨日のあれはなくない?」

 

八幡「…。」

 

 

~昨日~

 

八幡「川崎。俺は…―」

 

沙希「俺は…?」

 

八幡「俺はお前のことが…。」

 

沙希「う、うん。」

 

八幡「き、嫌いではない。」

 

沙希「うん?」

 

八幡「だからその…。俺なんかで良かったら…付き合っても…いいけど。」

 

沙希「…。」

 

八幡「…。」

 

沙希「…ぷっ。」

 

沙希「あはははっ!何それ!もっと言い方あるでしょ!」クスクス

 

八幡「…うっせ。」

 

沙希「あー…笑ったー!やっぱりそういうとこは比企谷っぽいね。」クスクス

 

八幡「し、仕方ないだろ…。」

 

沙希「あの…よ、よろしくお願いします…///」

 

八幡「お、おう…」

 

 

~~~

 

沙希「き、嫌いじゃないって…」プクク

 

八幡「き、昨日の事だろうが!」

 

沙希「ねぇ。あたしのこと好き?」

 

八幡「…。」

 

沙希「やっぱりちゃんと比企谷の口から聞きたいな。」

 

八幡「…好きだ。」

 

沙希「っ///」

 

沙希「き、聞こえなーい!もう1回!」

 

八幡「なっ!?絶対聞こえてるだろ!!」

 

沙希「おあいこでしょ?もう一回言って。」クスクス

 

八幡「…っ。好きだ川崎!」

 

沙希「あ、あたしも好きだよ…///」モジモジ

 

かおり「そういうの二人の時にやってくれないかな?」ジトッ

 

八幡・沙希『うわぁっ!』

 

かおり「あーやだやだ。もうすぐ冬なのになー。ここはあっついわー。」

 

沙希「いるならいるって言ってよ!」

 

かおり「なんでそんなこと言わなきゃいけないのよ。」ジトッ

 

沙希・かおり『…ぷっ』

 

沙希・かおり『あははははっ!』

 

八幡「…。」クスッ

 

こうしてあたしの青春は本当に終わりを迎えた。

これからは比企谷とあたしとの新しい生活が始まる。

近すぎず遠すぎなかった二人の距離。

そんなあたしたちの距離は…。

あたしはそっと比企谷の袖を握る。

ほら。これでゼロになった。

 

 

Fin?

 




いかがでしたでしょうか?
次回の後日談でラストにします。

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