転生少年と月の目モドキ   作:琴介

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 遠足ネタが書きたかっただけなのに……。
 どうしてこうなったんだろう?


第五話:遠足は前日が一番楽しい気がする

 俺は明日の遠足に向け絶賛準備中だ。

 

「レジャーシートって何処だっけ?」

「それでしたらソファーの上に置いてありますよ? 紙皿と紙コップはテーブルの上に」

「あいよー。……これで後は明日の朝お弁当を詰めるだけ、……と」

 

 ……遠足の前日って、何でワクワクするんだろうね!

 今までに何回も経験したとはいえ、やっぱりこれだけは変わらない。流石に寝れないなんて事はないけど。

 

『マスター、明日は晴れるようです』

「お、本当に? ……んー、でもなあ、最近の天気予報は結構外れてるよなあ……」

 

 昨日だって雨が降るって言ってたのに日本晴れだった。一昨日もその前の日もだ。

 

『その心配はないですよ? 私が衛星にちょこっとお邪魔して調べて来た情報ですので』

「いつの間に……」

 

 しかし、セラフが言うのなら間違いはない。なんてったって次元世界一のデバイスだからな!

 衛星にちょこっとお邪魔とか、それってハッキングしたって事だよね。

 国の機密に明日の天気を調べるためにハッキングするなんて、……誰も思わないよね、普通。

 

「所で、秋介。本当に明日の遠足、私もついて行ってよろしいので?」

「山猫の姿で、だけどね。リニスも家でお留守番だけじゃ退屈でしょ」

 

 リニスとは俺が学校に入学して以来、一緒に散歩や買い物に行く機会も減って家に居ることが多くなった。

 本人は気にしなくて良い、と言ってくれるがやっぱり気になる。

 

「先生も俺が一人暮らしなのを知ってるから、連れてきても良いって言ってた」

『そうですよ、リニスさん。行けばマスターに抱っこされたり、頭に乗っかり放題ですよ?』

「――それもそうですね! 分かりました、行きましょう!」

「程ほどによろしく……」

 

 まあ、いざとなったらなのは達に任せよう。うん。

 そう決意し、今日はもう寝ることにした。

 ……お休み、……ぐうぅ……。

 

 

 ~寝坊はしてないよ?~

 

 

 翌日、俺達は海鳴臨海公園と並ぶ二大公園の一つ、海鳴自然公園へやって来た。

 

「良い、皆? 私達のクラスはここで一旦解散ね。十二時になったらここにまた集まりなさい。皆でお昼にするから。だから、あまり遠くへ行っちゃだめよ? 先生が探しに行かないとダメだから。仕事増やさないでよね、わかった?」

 

 はーい、と周りの皆が答える中、俺は思う。

 ……何でこの人教師になれたのさ……?

 小学校の先生が居なくなった生徒探すのを嫌がったらダメだろ。

 

『秋介は皆さんと一緒に行かないのですか?』

『そうねぇ、どうしようかな……』

 

 俺が楽しみだったのは〝遠足に行く〟だ。だからこの公園に着いた途端、テンションは下がった。

 ……やっぱ、準備の時が一番楽しいよね……。

 

『なのはさんたちとは遊ばないのですか?』

『流石に遠足に来てまで俺と一緒は……』

『マスター、マスター。周り見てください、周り』

『え?』

 

 周り?

 

「――秋介くん、あのそり滑りやりに行こう!?」

「――あっちのアスレチックがいいわ!」

「――私はメリーゴーランドに一緒に乗りたいな」

 

 いつの間にかなのは、アリサ、すずかの三人娘に包囲されていた。

 

『『俺なんかとは、何です?』』

『……ナンデモナイデス』

 

 友達が居るのは良い事だよね……。

 

「……わかった、順番に回ろう。とりあえずなのはは落ち着け。アリサはスカートだから注意しなよ? それとすずか、メリーゴーランドって何? 此処って自然公園だよね、何でそんな物があるの?」

「わかったの!」

「じゃ、最初はそり滑りね!」

「そうだね」

 

 よし。何とか三人の包囲を抜けられた。今のうちに――。

 

「――あでッ!?」

 

 シュルッ、とリニスの尻尾が目隠しになり、そのせいで転んだ。

 

『逃げちゃダメですよ……』

『そうですよ、マスター』

 

 やっぱダメか……。良いだろう。こうなったら今日一日楽しんでやろうじゃないか。いくら疲れても明日には影響ないからな!

 

「大丈夫、秋介くん?」

「何やってんのよ……」

「大丈夫……?」

「……気にしないで。それよりそり行くぞ、そり!」

 

 向かう先、小山になった斜面を家族連れやカップルが楽しそうに滑っているのだが……。

 ……あれ、本当にそりか……?

 普通ならプラスチック製のそりだろう。季節で言えば冬ならデカい浮き輪みたいなのがあるけど……。

 

「バリエーションあり過ぎだろ。あのウサギとか、どっかで見たぞ……?」

 

 中には猫にしか見えない豹や花、アミュレットや星のような見た目をしたモノまである。

 

「わたしはあのウサギにするの……!」

「ならあたしはこの犬にするわ!」

「私は猫にしようかな」

 

 三者三様のそりを選び、それぞれスタート位置に向かっていく。

 ……俺はどうしようかな……。

 うーむ。ここまで色々とあると悩むなあ。海賊船に戦車とかまである

 

「いっその事このライオン号に、――うぇッ!?」

「――秋介くん! わたしと一緒に滑ろう!」

「「なのは(ちゃん)!? ずるい!」」

 

 滑る気満々で位置に着いたはずのなのはが横にいた。

 ……なのは、いつの間に!?

 最近、なのはによく不意を突かれる。

 「気配遮断」のスキルでも習得したんじゃないかと思うほどに気付けない。これも主人公補正のなせる業なのか。

 

『ただ単に、マスターが周りを見ていないだけだと思いますよ?』

『そうですね。もう少し周りを見た方がいいです』

『俺ってそんなに?』

『『はい』』

 

 むう。俺の不注意が原因だったとは……。気付かせてくれたなのはに感謝しなければ。

 

「ありがとう、なのは。お陰で自分の悪い所に気付けた」

「……まさかお礼を言われるとは思は無かったの……!」

 

 なのはが顔を赤くし、俺の手を引いてそりへと歩いていく。

 ……あれ、なんか恥ずかしいこと言ったか……?

 

『うーん、この、噛み合ってない感じが流石ですねマスター……!』

『秋介……。貴方は結構、恥ずかしいセリフを言いますよね』

『え、何が? 俺はただ単に、――あ、もしかして勘違いさせちゃった感じ……?』

 

 なのははきっと、自分が誘って俺がありがとう、と言ったと思ったのかもしれない。

 すまん、なのは。今回は俺が悪かった。俺は、自分が周りを見ていないことに気付かせてくれた事に対してありがとうと言ったんだ。

 

『その通りです。マスターはもう少し彼女達の気持ちを考えましょうよ』

『あー、そうね。次からちょっと気にしてみるわ……』

『ちょっとだけですか……』

 

 そりゃそうよ。何から何まで気にしてたらこっちが疲れるよ。こういうのは程ほどが良いのよ、程ほどが。

 

『それよりも、リニスってば頭の上で大丈夫?』

『大丈夫ですよ。しっかりと掴まっていますから!』

 

 この際、猫の手でどうやって掴まるのかは聞かないでおこう。きっと魔法の力だ。間違いないね!

 

『私は心配してくれないんですか、マスター……? スポッ、と飛んで行ったらどうするんですか』

『セラフはペンダントだから平気でしょ。……まあ、その時はちゃんと見つけ出すよ』

『もう、マスターってば……!』

 

 やんわりと点滅するセラフは無視して、なのはとそりに乗る。

 

「秋介くん、準備は良い?」

「いつでもオーケー……!」

 

 何やかんやで俺も楽しくなってきた。そり滑りとか一体何年ぶりだろ……。

 

「秋介、なのは! あんたたちには負けないんだから! 行くわよ、すずか。あたし達の力を見せてやろうじゃない!」

「わかったよ、アリサちゃん!私たちが勝ったら今度は一緒に滑ってね、秋介君!」

 

 何故か二対二のそり滑り対決になっていた。

 

「二人には負けないよ! 次もわたしが秋介くんと一緒に滑るの……っ!」

 

 三人がスポーツマンガよろしく、燃えている。

 

「いいか、三人共。俺は賞品じゃな、――いぃッ!?」

 

 急にそれが発進した為に舌を噛みそうになった。

 ……いや、何でそりがこんな速いの……!?

 思っていた以上の速さに、気が付けば麓に着いていた。

 

「む~。同時だったの……」

「もう一回勝負よ! 行くわよ、すずか!」

「うん!」

「望むところなの! 行こう、秋介くん!」

「いいね。でも今度は俺一人がいいかな!」

「「「ダメ!」」」

「はい……」

 

 こうして、しばらくそり滑りで遊んだ後、アリサ要望のアスレチックへ向かった。

 

 

 ~アスレチック……?~

 

 

 俺は今、目の前で繰り広げられる光景に対して自分の常識が間違っているのか? と疑い出した。

 

「あははは! 何この炎、全然熱くないのに燃えてるわ!?」

「すごいよ、秋介君! この氷、冷たくないのに凍ってる……!」

「う~、二人共すごいの……」

 

 炎の海に浮かぶブロックを飛び移っていくアリサと、その隣、氷で造られたメリーゴーランドの馬をのりこなし手を振るすずか。そんな二人を羨ましそうに眺めるなのはが居る。

 ……おかしい。アスレチックってこんなだっけ?

 コレはもう、アトラクションでは……? とか、ここ本当に自然公園なの? といった疑問が尽きない。

 

「……なにコレ。何処のアクションゲームだよ」

『いいじゃないですか、楽しそうですよ。マスターも好きでは?』

『好きだけどさあ、……自然公園には無いよねー。普通はジャングルジムとか吊り橋でしょうに』

 

 他には網を使った遊具やターザンロープだと思うんだけど。楽しかったな、アレ。

 

『似たようなモノはミッドにもありましたが……。此処までリアリティのあるモノは見たことがないですね』

『じゃあ、これ造った人って何者……?』

 

 さっきのそりといい、このアスレチックといい……。オーバーテクノロジーすぎるよ。

 

『先ほどのそりやこのアスレチック、……どちらも同じ人物が造ったみたいですよ。それぞれに開発者の名前のようなものが刻まれています』

『なんて?』

『D・Sと』

『…………』

『おや、秋介は心当たりがあるのですか?』

 

 やっべえ。めっちゃ心当たりある。てか、何でD・Sなの。ゲーム機か。名前がばれないようにしたんだろうけど、もうちょっと如何にかならなかったのかな。

 

『いや、知らない人だよ、……多分』

『そうですか。一体どんな方なのでしょうね』

 

 ホントにね。何で〝無限の欲望〟とか呼ばれる人がアスレチックの遊具なんかを作っているんでしょうね……。

 ……ま、楽しければ何でも良いけど。

 

「なのはよ。行こうじゃないか、二人の所に!」

「え、でも運動苦手なの……」

「知ってる。だけどそんな事気にしてたら楽しめないって。手伝うから一緒に行こう?」

「……うん。行くの!」

「よし。じゃあ、リニスは荷物番を頼んだ。俺達の弁当をよろしくっ!」

「ニャウッ!」

 

 頭からリニスを降ろし、後を頼んだ。

 

「行くぞ、なのは! 目指すはあのジャングルジムよ!」

「おー……!?」

 

 俺はなのはの手を取って燃え盛る炎の中にそびえ立つジャングルジムに向かう。

 ジャングルジムの麓に着き、登ろうとすると横から声が来た。

 

「やっと来たわね、二人共! さあ、誰が一番上まで早く登れるか競争よ!」

「……待たせたな。アリサ・バーニング!」

「誰がバーニングよ! バニングスよ、バ・ニ・ン・グ・ス! 知ってるでしょう!?」

「いやー、ごめん。なんか言いたくなっちゃって」

「もう何なのよ!」

「あはは、秋介君ったら……」

 

 声の主はアリサで、すずかと一緒に現れた。

 

「……まあ、いいわ。とりあえず競争よ。そり滑りでの雪辱を晴らすわ! 今度はあたしと秋介がチームだからね!」

「あいよー」

「勝とう、なのはちゃん。勝って秋介君と一緒にジャングルジムを登ろう!」

「高町なのは頑張るの……!」

 

 こうして俺達の早登り対決は始まった。

 ふっふっふ、前世でもジャングルジムは得意だったんだよね……!

 

『マスター。時計見て下さい』

「時計? ――あぁっ!?」

 

 十二時三十分だと……!? これはヤバイ……。

 

「三人共、急いで降り――ッ!?」

 

 ゾクッ、といきなり背筋が寒くなり、いつかの恭也さん以上に恐ろしい感じが背後から来た。

 

「やっと、見つけたわよ……?」

「せ、先生……?」

 

 振り返ると、そこには荒ぶる炎を背景に女の人――俺たちの担任――が仁王立ちしていた。

 

「どうしたのよ、秋す――ヒッ!?」

「にゃ――!?」

「嘘――!?」

 

 ……俺とした事が時間を忘れるとは……!

 しかも先生の接近に気付けないなんて、魔導師失格だな……。

 

『落ち込むことは無いですよ、マスター。まだ子供なんですから、これから先に生かせばいいんです』

『そうだな。ありがとう、セラフ。……所で、気付いてたなら何で教えてくれなかったのよ……』

『いやー、マスターが楽しそうだったので、つい』

『さいですか……』

 

 とりあえず今は、

 

「逃げろ、アリサ! 俺の事は放って行け!」

「秋介!? ――ダメ! あたしたちはチームなのよ!? 放って行けるわけ無いじゃない!」

「くっ、……このままじゃアリサまで。――なのは、すずか! 今すぐアリサを連れて逃げろ!」

「で、でも……!」

「そんな事したら秋介君が――」

「いいから早く!」

 

 このままじゃ、四人仲良く――。

 

「――へうっ!?」

 

 ガシッ、と肩を掴まれた。

 

「先生、言ったわよね? 仕事が増えるのが嫌だって。なのに、何で集合時間無視して遊んでるのかな……?」

 

 怒るとこそこかよ!? と突っ込みたくなったが今はそんな状況じゃない。

 周りで燃え盛る炎がイイ感じのエフェクトになって先生が地獄の戦鬼に見える。

 ……いや、どちらかと言うとアマゾネス……。

 

『マスター、余裕過ぎますって』

『やっぱり?』

 

 仕方ないじゃん。そう思っちゃたんだから。

 

「……ごめんなさい。夢中になり過ぎました」

 

 そう言うと、先生が苦笑した。

 

「……まあ、ただ遊んでいただけで迷子とかじゃなくてよかったわ。これに懲りたら次からはちゃんと時間を守るのよ。そっちの貴女たちも、わかった?」

「「「はい……」」」

「わかったのなら宜しい。……じゃあ、戻るわよ。皆が待ってるわ」

 

 そう言って先生は集合場所に戻っていく。

 

「……戻るか」

 

 俺たちはアスレチックを後にして、集合場所へと向かった。

 

 

 ~あの先生、一体何者……?~

 

 

 ……やっぱ遠足と言ったらお弁当だよね!

 昨日から仕込んどいて正解だったな。青空の下で食べることでなお美味しい……!

 

『流石、秋介です。この唐揚げ、下味も揚げ加減も完璧です』

 

 隣で、山猫の姿で器用に唐揚げを頬張るリニスから念話が来た。

 

『ふふん。食に関しては俺の辞書に手抜きの文字は無いよ……!』

『……こればっかりは、秋介には勝てませんね。悔しいです』

『そう? 俺はリニスの料理好きだよ。なんかホッコリするし』

 

 他にも士郎さんや桃子さんが作ってくれるご飯も同じようにホッコリする。やっぱ子供を育てた経験かね。

 料理には人それぞれの持ち味があるって言うからね。そんな気にするような事じゃない。

 

『マスターとリニスさん。お二人が違う味なのは良い事だと思いますよ』

『……秋介、セラフ。ありがとうございます』

 

 そっと、周りに気付かれないようにリニスは頭を下げた。

 俺はそんなリニスの頭を撫でる。

 

「うんうん。――うん? どしたの、すずか」

「秋介君のお弁当って、もしかして手作り?」

「そだよー。良かったら食べる?」

「え、良いの? ……じゃあ、卵焼きが良いな」

「あいよ。……ほい、どうぞ」

 

 お弁当から卵焼きを一切れ箸で摘み、口元に持っていく。

 

「……いただきます!」

 

 一瞬驚いた顔になったすずかは、パクッ、と一口。

 

「どう?」

「――美味しいよ!」

「そりゃよかった。なのは達も、……どうしたのよ、二人共」

 

 まさかジト目で見られるとは思わなかった。

 

『マスター、わざとやってます?』

『……まあ、一応』

『『…………』』

 

 ヤメテ。沈黙が痛い。リニスもジト目で見ないで……。と言うか山猫姿でもジト目って出来たのね。

 

『マスター……』

『秋介……』

『……ゴメンナサイ』

 

 俺が悪かった。

 

「二人は何が食べたい? 秋介さんが食べさせてあげよう――」

「「――卵焼き(なの)!」」

「……まずはアリサからね。なのはは後。この前ご飯食べに行った時にやったでしょ?」

「む~。わかったの、――にゃ!?」

 

 渋々といった感じで納得したなのはをアリサとすずかが囲んだ。

 

「ねえ、なのは。どういうことか教えてくれるわよねえ……?」

「なのはちゃん。一人でそれはズルいよ?」

「あわ、あわ、あわわわわ……!」

 

 あたふたするなのはに二人はさらに詰め寄った。

 

「どういうことか」

「教えてね。なのはちゃん」

「にゃ、にゃぁああ~……」

 

 ……女の子って怖いね……。

 

『原因を作ったのはマスターですよね』

『ごめん。今回は本当にごめんなさい』

 

 三人には今度、うちに来てもらってご馳走しよう。何が食べたいか聞いておかなきゃなあ……。

 と、お茶を飲もうとしたら、中身が空っぽだった。

 

「……今の内に飲み物買ってくるか。リニス、三人の事よろしく」

「ニャウ」

 

 リニスにこの場を任せ近くの自販機に向かった。

 

 

 ~これは――~

 

 

 自販機には、お水にお茶、コーヒーといった商品が売っているが……。

 

「――メロンソーダ・スイカ味だと!? 意味が解らんけど面白そうだから買ったぁ……ッ!!」

 

 メロンとスイカ。相反する二つの味を合わせた奇妙な飲み物。こんなモノを見たら買うしかないじゃない!

 

「あ、ポチッとな」

 

 自販機にお金を入れてボタンを押すと、ガコンッ、という音がした。

 

「おおう、なんだコレ。緑と黄緑が赤に侵食されてる……」

 

 取り出して見ると、ちょっと引いた。見本では上半分が赤く下半分が緑と黄緑に分かれている。しかし出てくる際にシェイクされたのか、奇妙な色をしていた。

 

「とりあえず一口。――コレは中々、……不味い!」

 

 飲んで分かったけど、コレ果肉入りですやん。しかもメロンとスイカのダブル果肉入りだ。

 メロンのモニュモニュした食感とスイカのシャクシャクした食感が、中途半端に入っている所為で喉越しが悪い。ドロッ、てしてる。

 

「コレ、どうしよう……。――ん、あれ……?」

 

 ふと気づくと、見覚えのある白衣を着た男が隣の自販機前に立っていた。

 

「む、なんだね、コレは。メロンソーダ・スイカ味? 意味が解らないが興味を誘うネーミングじゃないか。メロンとスイカと言う、相反する味を組み合わせるとは、……中々どうしてコレを考えた人物が何を思ったのか気になるじゃないか。……ふむ。飲めば解るだろうか。どれ、一つ買ってみようじゃ、……なんだ、売り切れか。仕方がない、別の物を買うとしよう」

 

 男は長い独り言の末、お茶を買った。

 ……まさかの再会か……。

 

「スカさん、何してんの? あと、飲みかけで良かったらこれ飲む?」

「おや、君はいつぞやの少年じゃないか。私はちょっとした野暮用で来たのだよ。それよりいいのかね、それは君が買った物だろう?」

「別にいいよー。俺にはちょっと合わなかった」

「そうか。それならば戴くよ。どれ一口、……ふむ、コレは中々に不味いね。この微妙な量の果肉がさらに不味さを引き立てるというか、これが不味さの元凶じゃないだろうか。そこさえ改良すれば美味しく飲めるようになりそうだが……」

 

 どうすれば、と顎に手を置きスカさんは考え出した。

 

『マスター、この男性は次元犯罪者のジェイル・スカリエッティですよね。いつの間に知り合ったんですか?』

『知り合ったのは二年前よ。俺が初めて高町家にお呼ばれして、泊まるために着替えを取りに帰ったでしょ? それからまた高町家に戻る時に会った』

『――ああ、あの時ですか。マスターって結構、重要人物とのエンカウント率高いですよね』

『ホントにね』

 

 これから先もエンカウントするんだろうなー……。

 

「スカさん、長い。話し長いから」

「……ならばセインに、――おっと、すまなかった。改めて久しぶりだ、少年。あの時は道を教えてくれて助かったよ。お陰で娘たちにどやされることなく、それでいて新しい発見も出来た。感謝するよ」

 

 と、スカさんは頭を下げた。

 

「いやいや、俺はただ道を教えただけだから気にしないでよ。今日は一人みたいだけど、娘さんたちは元気?」

 

 スカさんは顔を上げ、

 

「ああ、困るほどにね。最近、また娘が増えたのだがその子がまた大の料理好きでね。この間も調理器具を作ってくれと言いに来たよ。試しに色々と作ってみたのだが、思いの他大喜びで料理を作り過ぎてしまってね。食べるのが大変だったよ。

 他にも最新のPCが欲しいだの化粧道具が欲しいだのと言い始めてね」

 

 本当に困ったものだよ、と肩をすくめるスカさんを見て思う。

 ……何この良いお父さん。

 

「楽しそうだね、スカさん」

「……君には私がそう見えるのか。何故だろうね、先日もウーノに同じような事を言われたよ」

「じゃあ、ウーノさんも俺と同じことを思ったんじゃない? 良いお父さんだ、って。娘さんの話をするスカさん、すげえ楽しそうだったよ」

 

 そう言うと、スカさんは驚愕から笑顔になった。

 

「――そうか。私は楽しんでいたのか。この私が……。――これは良い事を聞けた。以前君と出会ってから私は色々と変わったようだ」

「何で……?」

 

 道を教えたと言っても直通の電車があるって教えただけだし。……わからん。

 

「あの日、君が教えてくれた道のお陰でテーマパークに行った日の事だ。私はただ娘たちの付き合いで行ったつもりだったのだが、……娘の一人に何て言われたと思う?」

「んー、楽しそう、的な?」

「惜しいね。その時に言われたのは「嬉しそうですね」と、そう言われたよ。あの時は何故そんな事を言われたのか、そもそも私は何が嬉しいのかが理解できなかった。しかし今日、君に再会し、君と会話し、君の言葉がヒントになった。私は、答えを得たのだ。

 そう、――私は娘の笑顔を見るのが嬉しかったのだ、と」

 

 スカさんは何か吹っ切れたような顔で、そう宣言した。

 

「そりゃ良かったね。今のスカさんなら娘さんだけじゃなくて、世界中の子供を笑顔に出来そうだよね」

「……世界中の子供を笑顔に、か。――面白そうじゃないか! どうも最近、知り合いの老人たちからの要望がしつこく嫌気がさしてきた所だ。これを機に彼らの下を離れるのも良いかもしれないね。さっそく娘たちに連絡しなれば……!」

 

 と、何処かに連絡を入れるスカさんはめっちゃ楽しそうだ。

 ……さて、そろそろ戻らないと心配させちゃうよね。

 

「ねえ、スカさん。俺、そろそろ戻るよ。向うで友達が待ってるから」

「そうか、引き留めて悪かったね。それと今日は色々と助かったよ。君には感謝してもしきれない。……良かったら向うにある遊具、アスレチックと言ったかな。アレで遊んでいくと良い、アレはテーマパークに行った際に刺激的な体験をしたのでね、その時に造ったモノだ。もちろん私の技術の粋を集めたモノで、安全対策は完璧だ。   

 ちなみに、今日はそのメンテナンス方法をまとめた物をここの管理所へ持ってきたのだよ。一々ここまで来るのは骨が折れるからね」

 

 楽しんでくれたまえよ、とメロンソーダスイカ味のペットボトルを懐にしまった。

 

「そっか。じゃあ、後で友達と一緒に行くよ。さっきは色々とあって全部楽しめなかったからね」

「そうしてくれたまえ。……では、私もこの辺りで失礼するよ。娘たちが待っているからね。

 ――さらばだ、少年っ!」

 

 踵を返して去っていくのを見て、

 

「スカさーん。出口あっちだよー?」

「……度々すまないね、少年。今度こそ本当にさらばだ」

 

 今度はちゃんと出口に向かって歩き出したスカさんを見送った。

 

「さて、戻るか」

『そうですね。――ほら、探しに来たみたいですよ?』

 

 ……コレは……。

 

『リニス、そこに三人って居る?』

『いえ、今しがた秋介を探しにそちらに向かっていきましたよ?』

『ソウデスカー……』

 

 とりあえずお茶を買って――。

 

「――カフッ!?」

 

 自販機にお金を入れようとしたら三つの衝撃が来た。

 

「見つけたの!」

「心配させるんじゃないわよ!」

「本当だよ、もう!」

 

 なのは、アリサ、すずかの三人娘に捕まった。

 

「いやー、ちょっと悩んじゃって……」

「「「悩み過ぎ(だよ、なの)!」」」

「ごめんなさい……」

 

 思った以上に心配させたみたいだし、さっさと戻ってお弁当食べようかね。

 それで、午後からはスカさんおすすめのアスレチックに再チャレンジと行きますか……!




 次回から無印編に入れるかも。

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