転生少年と月の目モドキ   作:琴介

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 サブタイトルって考えるの楽しいよね。
 え? 作者だけかな……?


第三話:お父さんの登場

「――見つけたの……!」

「はい……?」

 

 山猫姿のリニスを頭に乗せ、近所を散歩兼ランニングしていたら声が聞こえた。

 声の方を見ると、茶髪をツインテールで結んだ少女がこちらに走ってくるのが見える。

 ……うわー、なのはだよ……。

 

『お友達ですか?』

『そうよー。前に色々あってね』

『マスターの初にしてたった一人のお友達です』

 

 うるせえやい。他にもいるよう……?

 

『何故に疑問形ですか……』

『あのお二人はカウントされませんよ』

 

 ……分ってるよ……。

 誘拐事件から二週間ほど経つが特に問題はなく、バニングスと月村の二人とは一度も再会していない。

 しかもセラフの暗示魔法とやらで俺の事をうまく思い出せないらしいし、今の所は大丈夫だろう。

 ならば、今考えるべきは……。

 

「……何だ、なのはか」

「なんだ、じゃないの! ずっと探してたの!」

 

 ――高町なのはの事だ。

 

「また明日って言ったのに、何で来てくれなかったの!?」

「何でって……。行くとは言わなかったでしょ?」

「ずるいの!」

 

 む~、と不機嫌になるなのは。

 

『えー。俺が悪いの……?』

『『悪いですね』』

 

 おおう、揃って言われた……。

 

「……ごめんね」

「……だったら一緒に遊んでほしいの」

「えー」

「……なのはは嫌?」

 

 涙目で首をかしげられた。

 

『マスター……』

『秋介……。お友達は大切にしないとダメですよ?』

 

 むう。仕方ない。今日は遊ぶか……!

 

「……わかった。何して遊ぶ……?」

「いいの!? じゃあ――」

「――なのは? ダメよ、急に走って行っちゃ。……あら、秋介君?」

 

 高町なのはの母、桃子さんがやって来た。

 ……なんか前より若返ってない?

 翠屋で会った時より肌艶がよく見える。

 

『この方、……すごいですね。以前より肌年齢が五歳ほど若返ってます』

『マジで?  一体何が……』

 

 高町家には若返り薬でもあるのだろうか……。

 

「翠屋ぶりです」

「ええ、久しぶり。また会えてよかったわ」

「俺もよかったです。シュークリーム美味しかったって伝えたかったんで」

「ふふ、ありがとう。気に入ってもらえて何よりよ。それに、かわいい猫ちゃんね~」

 

 そう言って桃子さんは、頭の上にいるリニスを撫でる。

 

「猫は猫でも山猫のリニスです。俺の大切な家族よ……!」

『もう……!』

 

 ペチぺチと前足で頭を叩いて来るが、……肉球が気持ち良い。

 

「なのはがずっと寂しがってたのよ?」

「色々ありましてねー」

 

 嘘は言ってないよ?

 翠屋の帰りにリニス拾ったり、特訓で死にかけたり、この前は誘拐されたりしてたからなあ。

 ……普通の子供はこんな経験しないよな……。

 特に後半。死にかけとか誘拐とか……。俺が転生者だからか? そうなのか?

 

「む~、お母さんばかりずるいの……!」

「あら。ごめんなさい、なのは」

「なのはも猫さん触りたかったの!」

「山猫ね。名前はリニスよ?」

「リニスさん触ってもいい?」

『だって』

『構いませんよ』

「じゃあ、はい」

 

 リニスを頭から降ろし、抱える。

 

「フサフサなの……!」

 

 おお。リニスとなのは、レアな組み合わせだなあ。

 

『マスター、顔がにやけてますよ』

『……顔に出てた?』

『いいえ』

 

 鎌かけやがった……! と思っていると、一人の男がやって来た。

 ……この人は……。

 

「――もしかして、君が秋介君かな?」

「あ、お父さん!」

 

 なのははリニスを撫でるのを止め、男の人に飛びつく。

 

「あら、士郎さん。私ったらつい……」

「いいんだよ。それで、この子が……?」

「ええ、秋介君よ」

「君がそうか……」

 

 男の人は俺をマジマジと見てくる。

 

「えっと……」

「ああ、すまない。――私は、高町・士郎。なのはの父だ」

「戸田秋介です。よろしくー」

 

 ……よかった、退院してたのか。

 道理で、桃子さんが元気になってるはずだわ……。

 

『この男性、歩き方といい、気配の消し方といいただ者じゃないですね』

『わかる?』

『大体は。怪我の後遺症が残っているようですが、この間の誘拐犯程度なら赤子の手をひねるように勝てるんじゃないでしょうか』

 

 全盛期はどれだけなの、この人……。

 

「君の話は聞いているよ。桃子やなのはが世話になったようだね。ありがとう」

「お世話をした覚えはないですよう? ただ話をしたり聞いたりしただけです」

「それでもだよ。二人がとても感謝していたからね」

 

 ……感謝されるような事はしてない。むしろ泣かせちゃったのに……。

 

「よかったらこの後、うちに来ないかい? お昼をご馳走するよ」

「え、いいの?」

「ああ、構わないよ。この間のお礼と、……恭也のお詫びも兼ねて、ね」

 

 ポンッ、と俺の頭を軽く撫でる士郎さん。

 

「ご存知でしたかー。俺はもう気にしてないですよ?」

 

 めっちゃ怖かったけどね! あの時はちびるかと思ったよ。割とマジで。

 

「その言葉は恭也に言ってやってくれ。結構気にしていたよ」

 

 むう。あの時も気にしないって言ったのに……。兄妹揃って頑固者か……。

 ……でもねー……。

 

『私の事は気にしないで良いですよ』

『そう?』

『はい。なのはさんとの約束もあります。ここは行くべきですよ』

 

 さあ早く、と肉球でほっぺをプニプニしてくるリニス。

 

「そっかー。じゃあ、ご飯いただきます」

「秋介くん、なのはのおうち来るの!?」

「そうだけど、ダメ?」

「全然ダメじゃないの! 早く行こう?」

「もう、なのはったら……。ダメでしょ? 秋介君も親御さんにいいか聞かないといけないのよ」

「ああ俺、リニスと二人暮らしなんで大丈夫ですよ?」

「――ッ!?」

 

 士郎さんと桃子さんに目を見開いて驚かれ、なのはは理解できてない。

 あれ、なんかまずいこと言ったか俺?

 

『マスター、流石に五歳の子供が一人暮らし発言はまずいと思いますよ……?』

『でも、リニスと一緒って言ったで?』 

『……秋介、今の私を見てください』

 

 言われ、抱えるリニスを見る。

 ……しまった。

 今のリニスは、猫の姿だった。

 つい、普段の人間リニスを考えて喋ってしまった。

 まずいです。リニスが使い魔だとは言えないし……。

 

『どうしよう、セラフ……!』

『もう、魔法使えます! とか言っちゃいます?』

『それはまだなー……』

 

 できればなのはが魔法少女になって、その事を家族に話してからがいい。

 どうしたものかなー。この人達に魔法を使いたくないし……。……どないしよう……。

 ……よし。ここは――。

 

「……本当なのかい、一人暮らしと言うのは……?」

「本当よ。両親とも事故で死んじゃった」

「それは……」

「そんな顔しないでください。……いつまでも俺が悲しんでたら、それこそ怒られそうで……」

「君は――」

 

 強いね、と士郎さんに頭を撫でられた。

 

「辛いことを聞いてしまったね。……話してくれてありがとう」

「気にしないでください」

「秋介君……」

 

 今度は桃子さんに抱きしめられた。

 

「……恥ずかしいんですが……」

 

 まいった。こんな真っ昼間から人前で美人の奥様に抱きしめられるとか……。

 ……嬉しいけど勘弁して……!

 

『マスター、マスター!』

『くっ、彼女の胸で秋介の顔が……!? セラフ! 保存はしましたか!?』

『抜かりなく……!』

 

 騒がしいよ、あんたら。いい感じにシリアスだったのに……。

 というか、何を保存し――。

 

「――カフッ!?」

 

 いきなり横から衝撃が来た。

 

「……なのは?」

「む~。ずるいの! なのはもギュッ、てするの!」

「あらあら、なのはったら」

 

 そう笑って桃子さんは俺から離れるが……、

 

「なんだ、なのははやきもちか? だったら僕はお母さんに抱き着こうかな!」

「もう、お父さんったら~」

「なのはも負けないの!」

 

 ウフフアハハ、とか言って抱きしめ合うバカップルな両親を見て対抗心を燃やすなのは。

 ……ヘルプ、ヘルプミー……!

 

『マスターったら嬉しいくせに』

『どこが? どこがそう見えるの!?』

『心の中、……ですかね』

『わかるの!?』

『なんとなく』

『うそぉ!?』

『嘘です。ふふ、驚きました?』

『……驚くっていうかなんか……』

 

 セラフならそのくらいの事が出来るかもって、……思える。

 ああ、リニスよ。お前の肉球が気持ちいい……。

 

「……はあ、お腹すいた」

「うん、なのはもお腹が空いたの……。お母さん、お父さん!」

 

 なのはが離れ、高町夫妻へ突撃した。

 ……やっと解放された……。

 

「お腹が空いたの……!」

「あら~、ごめんなさい」

「そうだね、そろそろ帰ろうか。……秋介君はどうする?」

「一旦帰って、リニスにお留守番頼んでから行きます。翠屋に行けばいいですか?」

「ああ、待ってるよ」

「ちゃんと来てね、秋介くん!」

「あいよ。また後でー」

 

 手を振って三人を見送り、俺も家に帰ることにする。

 

 

 ~リニス、留守番よろしく~

 

 

 翠屋へとやって来た俺は、お昼をご馳走になった。

 

「美味かったー!」

「当り前なの!」

 

 食後の一服。俺はカフェ・オレ、なのはは牛乳を飲んでいる。

 俺は最初、士郎さんおすすめのブラックコーヒーを飲んでいたけど、……やっぱり苦かった。

 なので、お願いして特別に作ってもらった。

 

「やっぱカフェ・オレは最高……!」

「気に入ってくれて嬉しいよ」

 

 お店の奥からエプロン姿の士郎さんと桃子さんが出て来た。

 

「デザートにどうぞ。翠屋特製シュークリームよ」

「やったね!」

「お母さん、私も!」

「はいはい。ちゃんとあるわよ」

 

 なのはと二人、シュークリームを食べていたら、お店の扉が開いた

 

「ただいま、……って秋介じゃないか!」

「え、本当に!? ……あ、居た!」

「恭也さん、美由希さん。お久しぶりです」

「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」

「久しぶり~。あ、良いな~二人とも。お母さん、私の分は?」

「はいはい。二人の分はちゃんとあるから、荷物を置いてきなさい」

「はーい」

「じゃあな、秋介」

 

 そう言って二人はお店の奥に入っていった。

 

「さて、お腹もいっぱいになったことだし、……帰るか」

「ええ、帰っちゃうの!? 遊ぶって約束したのに……。秋介くん、意地悪なの」

 

 む~、と頬を膨らませるなのは。

 

「ごめんって。それで、何して遊ぶ?」

「じゃあ、なのはのお家に行くの!」

 

 そう言ってなのはは席を立つ。

 

「おやなのは、お出かけかい?」

「うん。秋介くんとお家で遊ぶの!」

「そうか。気を付けて行くんだよ。……秋介君、なのはの事よろしく頼むよ?」

「ははは、……頑張ります」

 

 もしなのはに何かあったら俺の身が危ない。士郎さんは解らないが、恭也さんは間違いなく殺りに来る。

 

『何かあったら私がいますよ、マスター』

 

 頼もしいねセラフさん。秋介さんは嬉しいよ。

 

「行こう、秋介くん!」

「あいあい」

 

 

 

 ~嫌な予感がする……~

 

 

 結論から先に言うと、なのはとお風呂に入ることになった。

 ……どうしてこんなことに……。

 

「はあ……」

 

 頭を洗いながらさっきまでの事を思い出す。

 なのはの家に遊びに来て少し経った頃、恭也さんと美由希さんが帰って来た。美由希さんが一緒に遊びたいと言い出し、四人でかくれんぼする事になったのだ。

 恭也さんが鬼を担当し、美由希さんは道場へ、俺となのはは庭へと向かった。

 だが、それがダメだった。

 どこに隠れようかと辺りを窺っていると、

 

「木の上なら見つからないの……!」

 

 と、なのはが言い出したせいで木登りをすることになった。

 木の上で待つこと数分、道場の方から美由希さんの大きな悲鳴が聞こえた。

 瞬間、

 

「にゃっ!?」

「はいぃ!?」

 

 驚いたなのはがバランスを崩し、ドボンッ、と俺を道ずれに池に落ちた。

 その音を聞いて駆けつけた恭也さんと美由希さんに救助され、今に至るということだ。

 

「……ごめんね、秋介くん」

「いいってもう。ほら、場所開けて」

「うん」

 

 石鹸を落とし、湯船に入る。

 

「ふぃ~」

 

 やっぱお風呂はいいよね。日本人でよかった~。

 

『マスター、なのはさんとお風呂って、……恥ずかしくないんですか? 頭撫でられたり抱きしめられたりするのは恥ずかしがりますよね』

『全然』

 

 なのはは俺と同じ五歳の子供ですよ? 中学生や高校生ならいざ知らず、小学校にも入学してないお子様とお風呂に入っても思う事は無い。

 

『リニスさんとのお風呂は嫌がるのに……』

『……だってねえ。あんなスタイルの良いお姉さんと一緒にお風呂は、ちょっと』

 

 目のやり場に困る。

 

『まあ、なんにせよ。マスターがロリコンじゃなくてよかったです』

『あたりまえじゃ!』

 

 何を言い出すか、このデバイスは……。

 

「おーい、着替えおいとくからねー」

「「はーい」」

 

 ……とりあえず上がるか……。

 

 

 ~着替え中~

 

 

 お風呂から上がりなのはとリビングへ行くと、士郎さんと桃子さんが帰って来ていた。

 

「あ、お母さん、お父さん! お帰り!」

「ただいま、なのは。秋介君も、服のサイズはどうかしら」

「ちょうどいいです。貸してもらってありがとうございます」

「いいのよ。でもよかったわ~。恭也の小さい時の服があって」

「まさか、池に落ちるとは……。なのはに怪我がなくてよかった……」

 

 恭也さんや。それじゃあ、俺は怪我しても良かったみたいじゃないですか。

 と言うか、池に落ちた原因を作ったのはあんたですよ?

 

「恭也さん、一体美由希さんに何をしたんです?」

「……俺は何もしていないぞ」

「……恭ちゃん、私の胸触ったくせに……」

「恭也さん……」

 

 流石に兄妹でそれはダメでしょう。

 

「お兄ちゃん……」

「恭也……」

「恭ちゃん……」

 

 他にも三者三様の反応を見せる高町家の皆さん。

 

「ま、まってくれ! あれは美由希が急に襲い掛かって来たから反撃しただけだ!」

「えー?」

「……お兄ちゃん」

「秋介、なんだその目は! なのは、頼むから俺を見てくれ……!」

 

 恭也さんはなのはの反応に本気で落ち込んでいる。

 ……シスコン度たけぇ。

 この人はもう、妹離れ出来ないのではなかろうか……。

 

「……とりあえず恭也は放っておこう。秋介君、よかったら夕飯も食べていくと良い。服が乾くまでまだ時間があるからね。……いや、せっかくだし今日はもう泊まっていくかい?」

「あら、いいわね。それじゃあ私、お夕飯の準備をしてくるわ」

「え! 秋介くんお泊りするの!?」

「よかったね、なのは」

「うん!」

 

 ……なんか勝手に話が進んでる……。

 

『マスター、マスター。そのことですけど、……もうリニスさんには私から連絡してありますよ?』

『え、いつの間に……?』

『こんなこともあろうかと、マスター達がお風呂に入っている間に連絡しておきました』

『マジか……」

『はい。それで私、帰ってリニスさんと特訓メニューの相談などがあるので戻りますね』

『念話じゃダメなの?』

『…………ええ。そういう事なので、失礼します』

 

 そう言ってセラフは転移していった。

 ……今の間、何?

 気になる。本当に特訓メニューの相談だけなのか……。よし――。

 

「士郎さん、士郎さん」

「なんだい?」

「一回、うちに帰ってリニスのご飯を用意してきます」

「ああ、そうだったね。気を付けて行っておいで」

「はい。あ、濡れた服もついでに持って帰ります」

 

 

 ~足早に帰宅~

 

 

「動くな! 今すぐ手を頭の後ろで、……って何してんの?」

 

 リビングに入るなり、何かを整理するリニスを見つける。

 

「おや、今日はお泊りだったのでは?」

『ああ、着替えですね』

「なるほど。それなら用意してありますよ」

「お、おう……」

 

 ……しまった。

 家にはセラフが居た。俺が戻って来る事もわかってた可能性が……。

 

「ん? 何これ――」

 

 ……俺……?

 テーブルに広げられた写真? を見ようとした瞬間、シュッ、と頬を何かがかすめた。

 

「――なんのことです……?」

 

 振り返るとそこには笑顔のリニスが立っていた。

 

「何でもないです……」

「そうですか。では、これを。中には着替えや歯ブラシなどを入れておきましたので」

「ありがと。……じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい、秋介」

『お気をつけて、マスター』

 

 とりあえず、何も見なかったことにしよう。

 ……知らぬが仏……。

 世の中には知らない方が幸せなこともあるって誰かが言ってたよ……。 

 俺は振り返らず、家を出た。

 

 

 ~さあ高町家に、……ん?~

 

 

 高町家に向かう途中、目を疑った。

 ……なんでこんな所に……!

 行き倒れを見つけた。

 髪は紫で、紺色のスーツの上から白衣を着ている男だ。

 ――ジェイル・スカリエッティ。またの名を、

 

「変態か……!」

「待ちたまえ。何故そうなったのかね!?」

 

 ジェイル・スカリエッティはその場で立ち上がった。

 おお、生きてた。というか、何でこの時期の海鳴市に居るのさ。登場はもっと先じゃなかったか?

 

「ちょうどいい。君はこの街の人間のようだ」

「……なんでしょうか。変態」

「待ちたまえ。私は変態ではない。私は――」

「――ドクター!!」

 

 ジェイル・スカリエッティの言葉を遮って女の人が走って来た。

 ……あの人は……。

 確か、ナンバーズのウーノだっけ?

 

「む、ウーノじゃないか。どこに行っていたのかね?」

「それは私のセリフです。……まったく、フラフラと」

「……まあ、そんなことより、この少年の誤解を解くのに協力してくれないか。さっきから私の事を変態と呼んで聞かないのだよ」

「――ッ!?」

 

 バッ、とウーノがこちらに振り向き、俺の両肩をつかむ。

 

「な、なに……?」

「――大丈夫ですか? 変な事されていませんか? 薬とか何か変なものを飲まされたりしませんでしたか?」

 

 体のあちこちを触って心配される。

 ……ええ? 何でこんなに心配されてんの?

 

「どうやら大丈夫そうですね……。気を付けてください。この変た、……人は危険なので」

「待ちたまえ、ウーノ。今私の事を変態と言いかけなかったかい?」

 

 ふう、とウーノは一息つき、ジェイル・スカリエッティに再び向き合った。

 

「いくらなんでも子供にたかるのは止めてください。みっともない……」

「……別にたかっていた訳では無いのだが……。私はただ少年の変態呼びを――」

「言い訳は結構です。それよりさっさと例の場所を突き止めに行きますよ」

 

 例の場所? 一体何を……。

 

「……むう。言い訳ではないのだが。まあいい。ちょうどその事を少年に聞こうとしていた所だよ」

「そうでしたか。てっきりドクターが空腹のあまり、ついに子供にまで手を出したかと……」

「君とは一度、話し合う必要がありそうだ。……さて少年。この際私の呼び方は横においてくれ。私はただ君に聞きたいことがあるだけだ」

「……何?」

 

 どうする? セラフは家だし、念話で呼ぶ前に攻撃されでもしたら……。

 

「ふむ。そんなに構えなくてもいいと思うが。危害を加えるつもりはない。ただ聞きたいことがあるだけだよ。

 わざわざこんな管理外世界まで足を運んだ挙句、見つからなかったでは済まないからね。それでだね、私が聞きたいのは――」

「この辺りに大きなテーマパークがあると聞いて来たのですが、道に迷ってしまい困っているのです。ご存じありませんか?」

「…………」

 

 ……テーマパーク……?

 マジで? この人達が……。

 

「なんですか、ドクター?」

「……いや、私のセリフを奪っておいて、……それはないと私は思うのだが」

「ドクターの話が長いからです。子供相手につらつらと長い話をしても、なんの意味もないと理解してください」

「……この前、ドゥーエやトーレにも言われたよ。私は話が長いと」 

 

 ガクッ、と肩を落とすジェイル・スカリエッティ。いやこの人は――。

 

「……スカさんって立場弱いの?」

「そんなことは、……無いと思いたいのだが。いかんせん最近娘が増えてね、遊び道具を作ってくれだのどこかへ連れていけだのと騒がしくてね……。

 ――それよりも君は、何故私の名前を知っているのかね? 名乗った覚えはないのだが……」

「それは……! 貴方まさか――」

「え、だってポケットのハンカチに名前書いてあるよ?」

 

 そうなのだ。先ほどスカさんが起き上がった時に見えた。

 白衣のポケットから覗くハンカチには確かに、ジェイル・スカリエッティと書いてあった。

 でもこの人達のやり取りを見てると〝ジェイル・スカリエッティ〟より〝スカさん〟なんだよなあ。

 ……一気に親しみやすくなった。

 〝ウーノ〟も〝一架さん〟のイメージだし。呼び方って大切だね! これなら話しやすい。

 

「……ドクター」

「……わかっているよ。多分、クアットロだろうね」

「もしかしてスカさんって呼んじゃダメだった?」

「ふむ。スカさん、か。……構わないよ。なんだかしっくりくる感じがする」

「じゃあ、スカさんで。確かスカさんたちはテーマパークに行きたいんだよね。それって夢の国の事?」

 

 この辺りの大きなテーマパークと言えばあそこしかない。

 ネズミやアヒル、犬などの色々なマスコットキャラ達が有名な〝夢の国〟だ。

 

「ああ、そこで間違いないよ。行き方は解るかね?」

「この道を真っ直ぐ行くと駅があるから。そこから確か〝夢の国〟行きの電車があるよ」

「そうか。それはいいことを聞いた。感謝するよ、少年」

「ええ、ありがとうございます。それでは……」

 

 スカさんは踵を返し、ウーノさんは軽く会釈をしてスカさんとは逆方向に去って行った。

 

「スカさーん! ウーノさんあっち行ったよ?」

「……度々すまないね、少年。待ちたまえ、ウーノ!」

「あら、気づいたのですか」

「また私が行き倒れてもよかったのかな!?」

「これに懲りたら一人でフラフラと出歩くのは止めてください」

「……肝に銘じておくよ」

 

 今度こそ、二人を見送った。

 ……スカさん、ガンバ!

 

「あ、高町家に行かなきゃじゃん」

 

 スカさんの登場で忘れてた。早く桃子さんのご飯食べたい……。

 

「……行くか」

 

 俺は高町家に向かって歩き出す。

 

 

 ~疲れた……~

 

 

 夕食の最中、なのはがとんでもない事を言った。

 

「今日は秋介くんと寝るの!」

「マジで?」

「マジなの!」

 

 ……なのはさんや、余計なことを……。

 と思っていると、横で、

 

「――恭也ちゃん、後ろ!」

「何、――がっ!?」

「ダメだぞ、恭也。子供相手にムキになるのは」

「しかし父さん!」

「いいか、恭也。母さんを見てみろ」

「――恭ちゃん……?」

「……わかったか。お父さんも悔しいが、今日の所は引こう。相手が悪い」

「……ああ、わかったよ……」

 

 恭也さん、五歳の子供に相手にそれは、……シスコン度数高すぎです。

 士郎さんも親バカだったのか……。桃子さん、ありがとう。

 

「じゃあ、私の部屋にいくの」

「えー」

「い・く・の!」

「はい……」

 

 なのはは桃子さんに似たようだ。さすが、未来の魔王、……もとい魔法少女だ。

 俺は手を引かれ、なのはの部屋に連れていかれた。

 ……もういいや。今日は諦めよう。

 その夜、なのはの説得――という名の泣き落とし――に負け、一緒の布団で寝ることになった。

 だって、恭也さんが近くに居る時に泣きそうになるんだもの。こんな所で命は捨てらんないよね……。




 という事で、まさかのスカさん登場。
 ちなみに、スカさん一家は、

「ドクター。私、ポップコーンとやらが食べたいです」
「何だねこの値段は。コレが噂に聞く約束されたボッタくり価格というモノか……」
「ドクター! 私はあの水に落ちるやつ乗りたーい!」
「なるほど。上げて落とすとは中々良い趣こ、――フゥッ!?」
「ドクター。一緒に悪の帝王と戦いましょう!」
「ほほう。それは興味深い。が、何故私の白衣が光っているのかね?」
「ドクタ~、ドクタ~! 記念撮影しましょう!」
「おや? 君はさっきパレードとやらに出ていなかったか? いつの間に此処へ移動を……」

 てな感じで満喫していると思います。

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