作者はそう思います。
拝啓、イザナミさん。転生してから三週間が経ち、原作開始に向け日々頑張っています。
そうそう、家族が一人増えました。リニスといって生真面目で優しい、所謂お姉さんキャラです。
リニスは以前、魔法や勉強を教えていたらしく、俺の特訓に協力してくれています。
そして、俺は現在うちの地下室でニスに協力して貰い、
「魔力が、魔力が吸われるぅううう!?」
死にかけています。
のたうち回る俺を横目に、セラフは浮いて俺の魔力を吸い上げ、リニスはお茶をすすっていた。
『すごいですね、リニスさん。マスターの特異体質を活用し、総魔力量の最大値を引き上げようなんて……』
「いえいえ、セラフもすごいですよ。魔力の貯蔵が出来、限界が無いなんて」
『褒めたってマスターの寝顔写真くらいしか出ませんよ?』
「それは良いことを聞きましたね。後ほどデータをいただきます」
この三週間、二人の仲が良い。たまに何か隠れて話しているが怖くて聞けない。
「ちょっ、とおぉぉ――!?」
……セラフさん、吸い上げる速度上がってない!?
これやばいって! 何か頭がボーとしてきたんですけど!?
『あ、頑張ってくださいマスター。昨日だってEランクからDランクに上がったんですから。今日も大丈夫ですよ! ね、リニスさん』
「ええ。――秋介の特異体質、〝一晩寝たら体力と魔力が完全回復する〟は、裏を返せば〝どんなに体力と魔力を使い果たしても次の日には影響が出ない〟となります。
それならば、極限まで魔力を失うことで総魔力量を引き上げることができるのではないかと」
火事場の馬鹿力というやつですね、とリニスは笑うが……、
……俺はどこぞの戦闘種族じゃないよ!?
『マスターのリンカーコアや魔力資質は特殊ですからねえ。そういった無茶でも耐えられると思います』
「いやそれはな、――あれ……?」
カチャッ、と何かが外れるような感覚が来た。
急に体が楽になった。どゆこと……?
「どうしたのですか?」
「いや、なんか開くような感じがした……」
「開く、……ですか」
一体何が起きたんだ……。教えてセラフ!
『……マスターには驚かされますね。たった今マスターの体をスキャンした所、総魔力量がDランクからBランクに上がっています』
「「はい……?」」
Dから、……B? Cじゃなくて?
『どうやらマスターのリンカーコアには、何かしらの鍵が掛けられているようです』
「鍵、……ですか」
『イメージとしては魔力量のランクごとに部屋があって、それぞれの扉に鍵が掛かっている感じです。
部屋は鍵を開ければ入る事が出来ますから、それと同じようにマスターの許容量が増えたんじゃないかと』
おお。それは解りやすい例えだ。
つまり、Dまでの部屋にしか行けなかったけど鍵を開けたことでBまでの部屋に行けるようになった、と言う事だ。
「じゃあ今回は、一気に二つの部屋が開いたって事?」
『そうなりますね。まさしく、――火事場の馬鹿力ですね』
「まさか、一気にBランクまで行くなんて……」
予想外です、と驚くリニス。
『この調子だとすぐにSランクとか行きそうですね……』
「ええ、これなら総魔力量の引き上げはゆっくりで良いでしょう」
やったね! 死にかけなくてもよくなったよ!
「ふ、これで少しは宝具の強化が――」
『まだ無理でしょうね。マスターが思ってる以上に宝具と言う〝物質化した奇跡〟をさらに強力にするのは、もの凄く大変な事ですよ?』
「……うん。わかってる。わかってるけどさあ……」
そんな正面切って言わなくてもよくない……? 少しぐらい夢見させてよ……。
「そもそも、秋介は何故そこまで宝具の強化にこだわるのですか? 以前見せていただいた聖剣、……エクスカリバーでしたっけ? あの威力なら十分だと思うのですが……」
「まあ確かにねー」
この前、リニスに特訓の強力をお願いするに際、試しに一発〈
……ホント、地下室が特別仕様でよかった。
セラフ曰く『この地下室にはあらゆる魔力現象を外に漏らさない結界が張ってあります』だそうだ。
お陰で地上には何も影響は無かったが、室内に居た俺達はヤバかった。何故かと言うと、外に漏れないという事は、中に溜まる、という事だ。
いやー、危うく死ぬ所だったよ。だって〈約束された勝利の剣〉撃ったら魔力が壁に当たって跳ね返って来たんだよ? 〈
「アレは強いよ? でも俺が強化したいのは〈約束された勝利の剣〉じゃない」
『それは初耳ですね。一体どんな宝具を強化したいんですか?』
「……強化って言うか、本来の能力を使えるようにしたい、なんだけど」
リニスの前ではあまり言いたくないんだけど……、と思いチラ見すると、リニスは頭に?を浮かべていた。
『――ああ、あの宝具ですか。…でしたら、最低でも総魔力量がSランクは必要ですね』
今ので分かるとは……。やっぱセラフさんすげぇ。話が早くて助かる。
「ま、そう言うことだからよろしく頼むよ」
『私は構いませんよ』
「私もです。秋介には恩がありますから、とことんまで付き合いますよ!」
頼もしい先生が居て、秋介さんは嬉しくて泣きそうだよ……!
「じゃあ今日はこれぐらいで、続きは明日ってことで。それでいい、お二人さん?」
「わかりました。片づけの方はやっておきます」
「よろしくー。あ、着替えたら晩ごはんの買い出し行ってくるわ」
『行ってらっしゃいませ、マスター』
さて、今日の晩ごはんは何にしようかな……。
~今夜は肉料理にしよう!~
「ん? あの二人は……」
商店街での買い物を終え、帰る途中、金茶髪の少女と紫髪の少女が公園で遊んでいるのを見つけた。
……また、この公園……。
なのはといい、今回といい、なぜこうも早く原作キャラと出会うのか……。
まあ、考えても仕方ないよね! 触らぬ神に祟りなし、だ。
早く帰ろう。お腹減ったし。今日はカツ丼とお吸い――。
「――あんた、さっきから何よ!」
「へ?」
公園を離れようとしたら、急に声をかけられた。
「へ? じゃないわよ! さっきからこっち見てたでしょ!」
声の主は、先ほどまで公園で遊んでいた金茶髪の少女――アリサ・バニングスだった。
「うわー、めんどくさいー……」
勘弁してよー。早く帰りたいのに……。
「な、何よあんた――」
「あ、アリサちゃん……」
詰め寄ろうとしたバニングスの後ろにいた、紫髪の少女――月村すずかが止めてくれた。
「あの、……ごめんね?」
そんな上目遣いで謝らないで。こっちが悪いことした気分になる……。
「気にしてないよ、……うん」
「……それで、何か用なの?」
明らかにちょっと不機嫌なバニングスと、
「……ずっとこっち見てたから、何かなって……」
恥ずかしいのか、バニングスの陰から俺を見る月村。
「仲いいなーって思って、つい……。ごめんね」
「当り前じゃない、あたし達親友なのよ! ね、すずか?」
「――うん、アリサちゃん!」
この二人の友情は平和的だなあ。なのはもこんな感じになればいいけど……。
……ま、そん時考えればいいや。
「誤解が解けたみたいだから、帰るね」
「あ、待ちなさ――」
バニングスが言いかけた直後、キキッ、と二台の黒いワゴン車が止まり、中から三人の男が現れた。
そして、
「ちょっ――!?」
「――いや! はなしなさい! ――んん!?」
「――離して! アリサちゃん――!?」
三人そろって車に押し込められた。
……やべぇ。これって誘拐じゃね!?
確か、あの二人の家は金持ちだった。だからか?
「――おらあ! 大人しくしろ!」
「暴れんなよ、縛りにくいじゃねえか!」
声の方を見ると、バニングスと月村は後ろ手に縛られていた。
「おい小僧。怪我したくなかったら、暴れんなよ?」
俺も縛られて三人仲良く床に寝かされた。
「なによ、あんた達! こんなことしてただで済むと思ってるの!?」
「黙ってろ、金髪!」
男はハンカチでバニングスの口をふさぐ。
「んん――!?」
「アリサちゃ、ん――」
もう一人の男が月村の口も同じようにふさぐ。
すると、二人は眠ってしまった。
……おいおい、睡眠薬かよ……!
「お前らな、――むぐっ!?」
三人目の俺も口をふさがれ、そこで意識が途切れた。
~秋介さんが誘拐された……!~
気が付くと、工場のような所でうつ伏せに寝かされていた。
横では二人の少女――バニングスと月村が泣いている。
「う、うぅ……」
「大丈夫よ、すずか。もうすぐ助けが来てくれるわ……」
泣く月村をバニングスが慰めている。
女の子より後に目が覚めるとは……。いや、そんなことより今の状況、もの凄くヤバいんでね?
……セラフさん繋がるかな……。
試しにセラフへ念話を飛ばす。
『おや、どうかしましたかマスター?』
『ちょっとね……。リニスは?』
『リニスさんでしたら、洗濯物を干していますが……。――もしかして緊急事態ですか?』
流石セラフ、話が早い!
『……そう、出来ればリニスには知られたくない』
『わかりました。では、少々お待ちください』
セラフがそういうと、念話が切れた。
……痛ッ!?
直後、胸辺りに硬いものが刺さった。
『――お待たせしました、マスター』
もしかして、この硬いのは……。
『転移魔法でやって来たあなたのデバイス、セラフです!』
流石、次元世界一のデバイスだ。
『急に悪いね』
『いえいえ。ところでどういう状況ですか、コレは』
『公園であの子達と話してたら誘拐された』
『……なるほど、そういうことですか。――あちらの紫髪の少女が一番の目的、という事でしょうか』
『え、そうなの、お金目当てじゃないの?』
てっきり二人の家が大金持ちだと思ってた。それに、何で月村が……?
と考えていると、複数の足音がして四人の男が現れた。
……見るからにあいつがボスだろう……。
俺たちを攫った三人を引き連れ、ビジネススーツを着た男がこちらを見た。
「おやおや、これは可愛いおまけ付きじゃないか」
「あんた誰よ! 何が目的なの!?」
「目的、……ですか」
スーツ男は顎に手を当て、月村の方を見た。
……なんか腹立つな。
その仕草をする人初めて見たけど、しゃべり方といい小物感が凄い……。
『マスターマスター、余裕ですね!』
『セラフがいるからね!』
いざというときは魔法で二人を助ける。まだ特訓中とはいえ、数人の大人くらいなんとかなる。
「……なん、ですか……」
月村は涙を浮かべ、震えていた。
「我々の目的は、そちらの月村すずか嬢ですよ。貴方達二人はもののついでです」
「なんで、すずかなのよ……!」
「ご存じないので? 夜の一族の事を」
「――!」
男の言葉に月村が顔を真っ青に染め、目を見開いた。
……何か訳アリ?
『あの少女が吸血鬼の一族だからでしょうね』
『へー、そうなんだー』
『おや、薄い反応ですね』
『だって俺、魔法使えて喋るペンダントに猫耳尻尾のお姉さんと暮らしてるんですよ?』
それに加えて神様にも会ってるんですよ。月村には悪いけど、今更吸血鬼とか言われても大した事無い。
『それもそうですよねー』
て呑気に話してる場合じゃないよね――!
「なんのことよ!」
「知らないのであれば、教えてあげましょう。彼女は――」
「ダメ――!」
月村が男に体当たりをしようとするが、
「おっと、危ないですね。ちょっと抑えといてくれますか。ああ、気を付けて下さい。いくら子供とはいえ、何が起きるか分かりませんから」
「了解です」
スーツ男の指示に、後ろの一人が月村すずかを抑える。
「い、や――」
「すずか! あんたたち、すずかを離しなさいよ!」
「さっきからうるせえんだよ、小娘!」
「こっちの小娘は好きにしていいんで?」
残った二人がアリサ・バニングスを抑える。
「構いませんよ」
「ダメ!! 私はどうなってもいいからアリサちゃんを離して!!」
「化け物風情が友情ごっことは……。笑わせますね。気持ち悪い」
二人の男はバニングスの服に手をかけようとする。
「い、いや――!?」
『マスター!』
『わかってる!』
バニングスが服を脱がされる前に、足に魔力を込めて二人に向かって突っ込む。
「ぐおっ!?」
「なんだあ!?」
「――え?」
二人の男はフッ飛び、バニングスはポカン、と口を開けている。
……間に合ったー……!?
危ねえ、もう少しで一生のトラウマにする所だった……!
「あ、あんた――」
「痛い、頭打った……」
くそう、縛られたままは危険だな。
『セットアップすればよかったのに……』
あ、そうじゃん。忘れてましたわ。
「……てっきりまだ眠っていると思っていましたが、油断しました」
スーツ男は顔をしかめ、俺を睨んでくる。
「こんの、クソガキが!」
「殺してやる!」
フッ飛ばした二人が、おもむろにナイフや拳銃を取り出す。
「落ち着いて下さい、二人とも。この子達には、まだ役目があります」
スーツ男がそういうと、二人の男は舌打ちをしながら下がる。
「さて、坊やにお嬢さん。怖い思いをさせて悪かったね」
「はあ? 誘拐しといて何言ってんのさ。そう思うんならその子と俺たち帰してよ」
「――そうよ! すずかを離しなさい!」
いつの間にか俺の後ろ、隠れるようにバニングスがいた。
「それは出来ない。彼女は化け物だからね。離した瞬間、襲われでもしたら困るんだ」
「すずかがそんな事出来るはずないじゃない!」
「それが出来るんですよ。先ほどは言いそびれましたが、彼女は――」
「いや――!」
「――夜の一族と呼ばれる、吸血鬼なんですよ」
「――吸血、鬼――?」
「…………」
言っちゃったよ、コイツ……。
『その男、マスター達に真実を話して自分に有利な状況を作ろうとしてますね』
『最低だな』
精神的に女の子を追い詰めようとするとか、クズだなコイツ。
……まあ、大丈夫だろうけど。
「どうだい、お嬢さん? 気持ち悪いだろう、怖いだろう。そんな化け物に君は騙されていたんだよ?」
「アリ、サ、ちゃん……。ごめんね、ごめんね……」
月村の瞳からは光が失われ、ただ謝っていた。
『マスター』
『ああ、セットア、――ん?』
スウッ、と後ろから、バニングスが俺の前に出る。
「――――によ」
「なんだい、おじょ――」
「だから何よ! すずかが吸血鬼ですって? そんな事、関係ないわ!」
バニングスが、叫んだ。
「あたし達は親友なのよ!? それくらいの隠し事、笑って許してあげるわよ!!」
「――アリサ、ちゃん――!」
月村の瞳に光が戻り、涙が溢れている。
『彼女達の友情は一生ものでしょうね』
『だろうねえ』
二人の友情が証明されたことですし、そろそろ――。
「――じゃ、じゃあ、坊やはどう思う? お友達が吸血鬼だなんて気味が悪いだろ!?」
焦った様子のスーツ男が俺に話を振った。
「俺は友達じゃないよ? さっき公園で会って、話しかけられただけだし」
「「――!」」
そう言うと、バニングスと月村が目を見開いて俺を見る。
「そ、そうかい? ならなおさら――」
「でもまあ、どうでもいいよね? そんな事」
「な――」
「夜の一族とか吸血鬼とか……。そんなんどうでもいいわ!」
「どうでも、いい……?」
月村が俺の言葉に反応した。
「おうよ。むしろ好きだからね、そういうファンタジーっぽいの!」
『マスター、カッコいい!』
『うるせえ』
お前が褒めるせいで恥ずかしくなってきたじゃないですか……!
「――そうですか。では、お二人はもう用済みですね」
スーツ男はそう言うと、下がらせた二人の男に向かって、
「――殺せ」
言い放った。
「ふん、やっとか!」
「おい、娘の方はまだ殺すなよ?」
「わかってるって」
「アリサちゃん逃げて――!」
「来ないで!」
ナイフを持った男が、バニングスへと手を伸ばす。
「セラフ!」
『はい!』
「セットアップ――!」
言った瞬間、服がバリアジャケットに切り替わり、縛られていた手が解放された。
なので、
「この変態が――っ!」
手を伸ばした男を、魔力を込めた拳でぶん殴った。
「な、ぐえっ!?」
男はフッ飛んだ。
「大丈夫?」
「あ、ありがと……」
バニングスはその場に、ペタンッ、と座り込む。
「小僧……!」
もう一人の男が拳銃を構えるが、
「死ねぇ!」
「――ふん!」
「がっ!?」
打たれる前にぶん殴った。
……銃とか止めてよ怖いなあ……!
『二人の無力化、確認できました。お見事です』
「……あとは――」
「う、動くな! この小娘がどうなってもいいのか!?」
「すずか!」
スーツの男は残っていた男と共に、月村を人質に取っていた。
……お約束すぎる――!
もしかしてさっきまでのってキャラ作ってた!?
『マスター、こちらに向かっている反応が複数。彼女達のご家族かと』
『オッケー。ちゃっちゃと助けて、ここに来る前に逃げよう』
『宝具か魔法、どちらか使います?』
『魔法!』
こんな所で宝具使ってあの二人を巻き込んだら最低だからね。
……いっちょやりますか!
足元に薄い青みを含んだ白い魔法陣を展開すると、俺の周りに複数の魔力弾が現れた。
「――なっ!?」
月村を捕らえる男が一歩下がったのを見て、
「――シュートッ!」
『はい、Chute――ッ!』
男の顔に向かって魔力弾を叩きこむ。
「――ッ!?」
男はバウンドしながらフッ飛んだが……。
「あ――!?」
「すずか――!」
男が飛んで行った衝撃で、捕まっていた月村が投げ出された。
……このままだと月村が地面に頭から落ちる……!
「――お、とぉおおお!? だ、大丈夫だった……?」
思いっきり飛び込んで月村をキャッチし、ゆっくりと降ろす。
「あ、ありがとう……」
何とか怪我とかは無いみたいだな……。後は――。
「お前だけだ」
スーツ男を見ると、
「う、うわああぁぁぁ――!?」
泣き叫びながら逃げて行った。
「あ、おい!」
『大丈夫です。こちらに向かう反応と鉢合わせるでしょうし、心配はないかと』
だったら問題ない。
「よし、逃げるか!」
『ですね。――転移魔法陣展開します』
足元に魔法陣が現れる。
……帰ったらリニスのお説教かなあ……。
夕飯の買い出しも公園に置いてきちゃったし。気が重い……。
「「待って!」」
「ん?」
バニングスと月村すずかに呼び止められた。
「あ、あの! た、助けてくれてありがとう!」
「わ、私も、その……。ありがとうございました!」
「え!? い、いいよ、気にしないで!」
二人の少女にお礼を言われるのが、ここまで恥ずかしくなるとは……。
『照れ顔のマスター、いただきました!』
うっさい、セラフ……。
「その、……何で初対面のあたしたちを、助けてくれたの……?」
「……どうして?」
上目遣いで聞かれる。
何故こうもこの二人は、そろって示し合わせたかのように破壊力抜群の仕草をするのよ……。
「理由か……」
友達になりたい、はなのはだし……。うーん……。
『マスター、お急ぎを』
「はいよ。――で、助けた理由だけど……」
遠くから複数の声と足音が聞こえてくる。
……急がねば……!
とりあえず、
「女の子を助けるのに理由はいらないでしょ?」
「――っ!」
言っておいてなんだけど……。やっべ、超恥ずかしい……!
「セラフ――!」
『――転移魔法、実行します!』
瞬間、視界が光に包まれた。
~顔真っ赤で転移中~
光が晴れ、そこには……、
「おかえりなさい、秋介」
笑顔のリニスさんがいました。
……オワタ……。
「急にセラフが転移して行ったので、心配したんですよ? 何事かと思って様子を見に行ったら、途中の公園に夕食の買い出しが落ちていていますし、秋介もいなくて……」
怒られると思ったら、めっちゃ心配されてた。
「あー、ごめんね? ちょっと誘拐されちゃって……」
ピクッ、とリニスの耳が動いた。
「誘拐、……ですか?」
……あれ、なんかヤバ――。
「すいません、秋介。ちょっと出かけてきます。ごみの処分を忘れていたので……」
「ちょっと待って、何する気!? ごみは昨日出したでしょ!?」
魔力弾を展開しながらどこに行くつもりなの!?
「ああ、そうでした。……今日は生ごみの日でしたね」
「違うよ!?」
どうしよう、リニスが話しを聞いてくれない。
あと、誘導弾に変わってない!? なんかフワフワユラユラしてるんですが……!
「落ち着いてください、大丈夫です。――ちょっと人間を処分するだけですから」
「あんたが落ち着けよ!? というか処分? 人間を処分って言ったよね!?」
あかん。このままでは本当にリニスが誘拐犯共を消しかねない。
あんな奴らどうなろうが知ったこっちゃないが、身内がそれを消した、と言うのはなんかヤダ。
『リニスさんリニスさん。これを見てください。落ち着きますよ』
「流石セラフ、助か――」
パッ、と空間モニターが現れ、そこにはバリアジャケット姿の俺が映っていた。
……これってまさか……!
モニターの中の俺は、笑顔で、
『――女の子を助けるのに理由はいらないでしょ?』
さっきの超恥ずかしいセリフを言い放った。
「いやああぁぁ――!?」
やめてくれ! そんなリピート再生しないで――!
リニスは止まってくれたみたいだけど、……何でプルプルしてんの?
『効果は抜群ですね!』
「俺にもね!?」
『知ってますよ』
確信犯か……! と思っているとリニスが、
「――私も、愛しています――」
と言って倒れた。
「誰を!?」
というか、どうしてそうなった!?
『マスターじゃないですか?』
「うれしいけど今聞きたくなかった!!」
死亡フラグになっちゃうから! 目を覚ませ、リニス……!
『とりあえずリニスさんは私が見ておくので、夕食の用意をしたらどうです?』
「……そうしよう」
何故か山猫の姿になったリニスを抱え、ソファーに寝かせる。
『気絶しているだけみたいなので、十分もすれば目が覚めると思います』
「そっか、じゃあよろしく。……準備するか、……はあ」
今日は疲れたよ……。早く寝たい……。
バニングスと月村の二人と出会うとは思ってもみなかった。
しかも誘拐されて、魔法を使った初の戦い――。
「――あ! 思いっきり魔法使っちゃったじゃん……!」
状況が状況だったから仕方がないとはいえ、かなり早い段階から二人が魔法の事を知ってしまった。
しかも俺は顔を見られてる。
……小学校まで会わないのは無理かー……。
あの二人、家がお金持ちだし、月村家に至っては夜の一族とか、なんかヤバそうな家だ。
独自の情報網とかで此処がバレたりしないだろうか……。
『そのことなら大丈夫ですよ?』
「え?」
どう言う事だい、セラフさん。
『私がマスターの下へ転移した時、彼女達には一種の暗示魔法をかけました。
マスターと別れた後、マスターの”外見的特徴をうまく思い出せなくなる”というものです。なので、マスターの顔がバレることは、まずないかと』
「……ありがとう、セラフ」
やっぱすごいわ……。
『ふふふ、お気になさらずに』
心配事もなくなったことだし、夕食の準備でもしますか!
次はなのはが再登場するよ。
高町家がメインの話。