ま、それはそれとして今回、思ったより長くなった……。
散歩のため家を出て数分、近所の公園を通りかかった時、思わぬ人物を見つけてしまった。
「なあなあセラフさんや」
『なんでしょうか、マスターさんや』
「あそこのかまってちゃんオーラ全開の子なんだけど……」
『すごいですよね。なんで周りの子は話しかけないんでしょうか……』
「はあ、……なんでこんな早く」
ブランコに座り、鬼ごっこやかくれんぼで遊んでいる他の子を見ている少女。
――高町なのは――。その人である。
一人にしてほしいけど一人にはなりたくない、といった矛盾した雰囲気を漂わせているよ。
同じ街に住んでいることだし、いつかは出会うだろうと思っていたよ。
だがまさか、初日から出会ってしまうとは……。
「……帰ろうかな?」
『いや話しかけましょうよ。あんな可愛い少女が寂しがっているんですよ? ここで話しかければ好感度アップしますよ、きっと』
いや別に好感度とかはどうでもいいよ。小学校で友達になれたらいいなあ、ぐらいだ。
『それに、友達になるなら早い方がいいですよ?』
むぅ。それもそうだけど……。
『ほら、こっち見てますよ』
「何ですって?」
高町の方を見ると、
「あ……」
目が合い、シュン、といった感じで高町が俯いた。
『マスター……』
「え、何? 俺が悪いの?」
『冗談で言ったのに彼女と目が合っちゃうマスターってすごいですね』
嵌めやがったな、ちくしょうっ!
『とりあえず行きましょうよ』
「……わかった。行ってくるから、セラフはしばらく喋らないでね。説明とかめんどくさいし」
『別にいいですけど、……念話もダメですか?』
念話……? あっ。
「……忘れてた。一応、それも無しで」
『マスター……』
セラフの呆れ声は無視して考える。
……普通に話しかけたら、面白くないよね。
何かいい方法は……。あ、そうだ。
姪甥が遊びに来た時によくやった方法。後ろからこっそりと近づき、軽く右手を振り上げ、
「そいや!」
「にゃい!?」
ストンッ、と高町の頭に手刀を落とした。
「うぅ~、誰なの!」
「戸田・秋介です。初めまして」
「あ、高町・なのはです。……ってそういうことじゃないの!」
ノリツッコミとは、……流石だな!
「じゃあ、どういうことなのよ」
「なのはの頭を叩いた事なの!」
「だってなんか構ってほしそうだったから」
「そんな事、……ないの」
「そいや!」
また落ち込んだのでもう一度手刀を落とす。
「にゃあ!? また叩いたの~! なんでっ!」
「なんとなく」
「む~。ひどいの……」
目に涙をためながら頭を押さえるなのは。
「さっきから見てたけど、何で一緒に遊ばないのさ?」
「……遊びたく、なかったの」
「そいや!」
「うぅ、また叩いたの……」
「今のは嘘ついたから。遊びたくないなら帰ればいいのに」
「……今は、ダメなの……」
「なんでよ」
「お母さん達、お店忙しそうだから……。邪魔しないように良い子にしてないとダメなの……」
「別にいいんじゃないの? そんなの気にしないで甘えればいいのに」
「だって、だってお父さんが、入院して、……グスッ、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、グシュッ、忙しくて、なのはが、笑ってないと、だから、迷惑、かけ、ウグッ、ないように、……うぅっ――」
「ちょっ――!?」
うわーん、と泣き出してしまった。
『マスター、泣かせちゃったんですか……』
ちょっとセラフさんは黙っててください。
「ご、ごめんなさい!? とりあえずこれで涙を、……って何もなかった!」
クソッ! 俺としたことがハンカチを忘れるなんて……!
どうする、どうすんのよこれ!? は、そうだ――。
「な、なら、今から一緒にお店に行って、甘えていいか聞きに行こう! もし言い難いなら俺も一緒に聞いてやる! だから泣かないで! ね!?」
マジでお願いします。そろそろ周りの目も痛くなってきた。
これ以上泣かれると、俺も一緒になって泣いちゃうぞ!?
「グスッ、……ほんとうなの?」
袖で涙を拭いながら上目遣いで言われた。
「任せろ!」
だから早く公園からでよう? あそこの奥様方が何かひそひそ話してるんで!
「……うん。じゃあ、行こう……?」
高町なのはに手を引かれ公園を出る。
~やっちゃった……、と思いながら移動中~
俺は高町に連れられ、翠屋というお店にやってきた。
「今なら大丈夫そうだね」
「うん」
中を覗き、お客さんがいないことを確認して、高町はお店の中に入っていく。
俺は店に入らず、扉のガラス越しに中を見る。
『なあ、セラフ。どうにか中の会話聞こえるようになんない?』
『できますよ。というか、マスターって念話初めてですよね?』
『ならよろしく。なんか勘でやったらできた』
『わかりました。やっぱりマスターはすごいですね』
『そりゃどーも。……おお?』
お店の中にいる高町の声が聞こえてきた。
「お母さん、ちょっといい……?」
「お帰り、なのは。どうしたの?」
「えっと、あのね……」
言え、高町。胸の内を吐き出すんだ!
「私ね、お願いしたいことがあるの……」
「あら、何かしら」
「その、あの……」
「どうしたのなのは。さっきから……」
チラチラこっちを見ないの。お母さんが余計に心配してるでしょうが。
『彼女、すごい助けを求めてますよ。約束したんですから、行ってあげましょうよ』
『えー、でもー』
『マスター』
『はいはい。行ってきますよ』
セラフとの念話を切り、扉を開け中に入る。
「まったく、……早く言えばいいのに」
「あう、……ごめんね」
シュン、落ち込む高町と、
「あら、なのはのお友達かしら」
「さっき公園で会った戸田・秋介です」
「私は高町・桃子です。なのはのお母さんよ。よろしくね、秋介君」
「よろしくお願いします。今日は高町ちゃんの付き添いできました」
「付き添い?」
「なんか、お母さん達が最近遊んでくれないのが寂しいって言ってたんで……」
「えっ――」
「だから、お願いします! 忙しいかもしれないけど、高町ちゃんと遊んであげてください!」
「秋介君……」
ごめん、高町。つい言っちゃった。
『お見事ですよ、マスター』
……恥ずかしくなってきた。
「――ね、なのは」
「お母さん……?」
「ごめんね、なのは! 寂しい思いさせて、ごめんね……」
バッ、と桃子さんが涙を流しながら高町を抱きしめた。
「お母さん……。おかあ、……さん!」
うわーん、と今度は高町が泣き出す。
ちょっと!? またこの展開です!? こんどは桃子さんまで……。
勘弁してよ……、と俺は頭を抱える。
「と、とりあえず落ち着き――」
「どうした、なのは!? って、母さんまで!?」
「ええ!? お母さんまで泣いてるの!?」
ドタバタとお店の奥から二人の少年少女が出てきた。
……あれはまさか……!
「お母さん、なのは、大丈夫!?」
少女は二人に駆け寄り、ハンカチを渡す。
「うぅ――」
「大丈夫よ、美由希。それよりも恭ちゃんを――」
桃子さんが、高町の涙を拭いながら少女と何か話している。
……あ、俺死ぬかも……。
思った瞬間、
「――お前が、泣かせたのか?」
少年の方に、もの凄い殺気で睨まれた。
「へう!?」
今の今まで俺の横では絶賛、桃子さんと高町の二人が泣いていた。高町に至っては号泣だ。
見方によっては、俺が二人を泣かせた、となる。
まあ、間違いじゃないんだけどね……。というか正解です。
……これが、……殺気!?
『マスター、結構余裕ありますよね』
『まあね』
それでも怖いものは怖い。今の俺は五歳ですよ?
「お前が泣かせたのかと、聞いているんだ!!」
「勘違いぃっ――!?」
急に胸倉をつかまれ、引き寄せられた。
「二人に何を――」
「――恭ちゃん。手を振り上げて何をする気なの?」
「母さん!? 待ってくれ、俺は――」
「ちょっとお話しましょうか」
桃子さんは少年を連れて店の奥に入って言った。
『ぎゃあぁぁぁぁ!』
お店の奥から何か悲鳴のようなものが聞こえた。
……あの人は怒らせない方がいいな。
『大丈夫ですか、マスター』
『ちびるかと思った』
というかセラフさん、何故に助けてくれなかったの?
『桃子さんが動いていましたので……』
『ああ、なるほど』
セラフと念話で話していると、
「大丈夫……?」
高町が心配してくれた。
「大丈夫よ、大丈夫。それよりあの人って……」
「高町恭也って言って、私となのはの兄だよ。さっきは恭ちゃんがごめんね」
「えっと……」
「あ、私は高町・美由希。なのはのお姉ちゃんだよ。よろしくね」
「戸田・秋介です。よろしくお願いします」
……やはりシスコンは恐ろしいな。
などと考えていたら、桃子さんが戻ってきた。
「ごめんね、秋介君。恭也には言い聞かせておいたから」
「別に気にしないでください」
「ふふ、やさしいのね。それと、……なのはの事、ありがとうね」
優しく頭を撫でられる。
……撫でられるのは、やっぱ恥ずかしい。
『マスター、マスター! 顔をもちょっと下に――!』
セラフさんは黙っていてください。
「……恥ずかしいです」
「あら、かわいい」
桃子さんは俺を撫でるのを止め、今度は高町を撫で始める。
「お母さん……。恥ずかしいの……」
「いい、なのは? 今度からはちゃんと言ってね」
「うん!」
抱き合う母娘を見て思う。
……お母さん、……か。
『羨ましいですか?』
『まあ、ね』
『……マスター……』
『おいおい、そんなしんみりしないでよ。こっちまで悲しくなってくるだろ』
俺はもう気にしてないし、そもそも今の状況は俺が望んだことだから。
『マスターがそう言うのなら』
『おう』
そういって念話を切る。
「じゃあ、俺はそろそろ帰ります」
「え、でも――」
「大変だ、母さん! 父さんが――!」
お店の奥から、恭也さんが飛び出てきた。
「――士郎さんがどうかしたの!?」
「お父さんがどうしたの、恭ちゃん!?」
「え? えぇ!?」
「落ち着いてくれ、三人とも。――いいか? たった今病院から電話があった。それで――」
「それで?」
「――父さんの、意識が戻ったって」
「――!」
恭也さんの一言で、突然の事についていけてなかった高町も目を見開いて驚いている。
「……士郎さん。よかった……」
「私病院に行く用意してくる!」
「ああ、俺も行く。なのはは母さんと店で待っててくれ。……それと、秋介君だったな」
こっそりとお店を出ようとしたら呼び止められた。
「……なんです?」
「先ほどはすまなかった。俺の早とちりで怖い思いをさせてしまった。本当に申し訳ない……」
恭也さんは深々と頭を下げてくれた。
どうやら桃子さんのお話しが聞いたようだ。
「呼び捨てでいいですよ。あと、さっきの事は気にしてないですから。頭をあげてください。……早く、お父さんの所に行ってあげてください」
「……ありがとう、秋介。――行くぞ、美由希!」
「待って恭ちゃん! またね、秋介君」
そう言って、恭也さんと美由希さんはお店を飛び出して行った。
「それじゃあ、帰りますね。さよならです。桃子さん、高町ちゃん」
「あ、待って秋介くん!」
「……なにさ。高町ちゃん」
「なのはって呼んでほしいの……」
今それ言うのかい!?
「……高ま――」
「なのはっ!」
「…………」
「な・の・は!」
まさかここまでとは……。やっぱり呼ばなきゃダメ?
『マスター、呼んであげましょうよ。遅かれ早かれですよ』
セラフお前もか。
「……じゃあね、なのは」
「うんっ! また明日!」
「あらあら、なのはったら……。はい。これはお礼よ、秋介君」
また来てね、といつの間に用意したのか、桃子さんにシュークリームをもらった。
「それじゃ、ありがとうございましたー」
……翠屋特製シュークリーム、ゲット……!
『うれしそうですね、マスター』
俺、帰ったら美味しくシュークリーム食べるんだ。あ、ご飯はちゃんと食べるよ?
『それフラグになりません?』
「はは、まっさかー」
~鼻歌を歌いながら移動中~
俺は、ちょっとテンション高めで家路を急いでいた。
『マスター』
「なんだいセラフさん」
『そこの角を曲がった先、林の中にわずかながら魔力反応があります』
「マジで……?」
『マジです。どうしますか?』
「とりあえず見に行こう」
『わかりました。では、案内します』
「おう!」
急いで林へ向かおうじゃないか。あ、シュークリーム振らないように気を付けないと……。
『マスター、そこの林です。――そのまま真っ直ぐ行ってください!』
セラフのナビに従って急ぐ。
それにしても魔力反応って……。
……転生初日から色々あり過ぎだろう……!
俺ってまだ魔法も使えないんですけど。戦いになったらどうしよう……。
『この辺りのはずですが……』
「あれか……!」
草むらの中、大きめの猫が倒れていた。
……もしかして、リニス……?
この猫がリニスなら、このままでは消える。
それだけは、何とか避けたいな。
『――外傷はありませんね。ですが、魔力が枯渇しかかっています。……このままでは消えてしまいます』
「どうすればいい?」
『契約をするのが一番ですが、今はその時間も惜しいので直接魔力を送ってください。魔法を使うのと同じ感覚でできるはずです』
「わかった!」
魔法と同じ、ということはイメージすればいいのか……。
リニス? に触れ、魔力を流し込む。
「なあ、セラフ。この猫、連れて帰ろうと思うんだけど……」
『私に聞かずとも、マスターのお好きにすればいいと思いますよ』
「じゃあ連れて帰る。……動かしても大丈夫かね」
『問題ないです。きちんと魔力は流れていますので、そのまま抱きかかえて帰れば家に着くころには、ある程度回復するでしょう』
「そうかい。なら、よいしょ、……っと」
リニス? を抱え、林を出る。
「はたから見たら、面白い子供だよな……」
右手にリニス?、左手にシュークリーム。
『そうですか? ペットとお使いの帰り、くらいだと思いますけど……』
「猫とお使いは行かないだろう」
『あ、その方は猫と言っても山猫ですね』
「やっぱり?」
『はい。地球には存在しない種ですが、間違いないかと』
ワオ、うちのセラフさんはそんな事まで解るのね。すげぇ。
「ということは、やっぱりリニス、……なのか?」
『その辺は、ご本人が目覚めないと分かりません』
「ま、それはその時に聞けばいいか」
とりあえず、リニス? を起こさないようにゆっくり歩いて帰ろうかな。
~ゆっくりと移動中~
家についてリニスをリビングのソファーに寝かせ、食事の用意をしていた。
「セラフ、今すぐ美味い割り下のレシピを!」
『お任せください! 今表示します!』
今夜はすき焼きだ。せっかくの転生初日、豪華で美味しい物が食べたいよね!
なので、最高のデバイスであるセラフさんに手伝ってもらっているのだ。
「あ、お風呂入れるの頼んでいい? 今ちょっと手が離せなくて……」
『ふふふ、それは既に済ませてありますよ……!』
「悪いね、魔法とか関係ない事頼んで」
『気にしないでください。好きでやっていることですから!』
まったく、うちのデバイスは次元世界一だね!
「――あの、ここは一体、……どこでしょうか……?」
声が聞こえ、振り向くと、そこには女の人が立って辺りを窺っていた。
「おお、目が覚めた? もうちょっとまってなー、いまご飯作ってるから」
「えっと、貴方は……」
「それより、ちょっと手伝って」
「――へ……? は、はい……」
「はい。このお盆、テーブルに運んで。それ、液体入ってるから気を付けて」
「はあ……」
「食器は二人分出して、卵とお肉、野菜を出して、……よし。次はこれを運んで」
「……は、はい」
「豆腐はっと……。あ、角麩見っけ!」
「あの……」
「ちょっと待って。今コンロを、……あったあった。これがないと意味ないからねー」
コンロをテーブルに設置、鍋を置いて牛脂を引く。お肉に軽く火を通して割り下を投入する。
白菜などの野菜、豆腐などを投入し、準備完了。
「よし、食べよう! さあ、お姉さんも座って座ってー」
「……はい……?」
お姉さんも席に着いたことだし、食べようか。
「いただきます!」
「い、いただき、……ます?」
お姉さんは戸惑いながら、俺をまねて手を合わせる。
「ご飯と卵はお代わり自由だから」
そう言って、卵を器に割り、食べ始める。
……はは、すき焼き美味え……!
牛豚鳥の三大お肉を贅沢に食べれるなんて……!
『マスターマスター。あのお姉さん、すごい呆気に取られてますよ』
『む、少しやり過ぎたか……』
とりあえず、火を止めよう。煮込み過ぎたのは好きじゃないし。
じゃあ改めて、
「どちらさんですか?」
「えええっ!?」
そんなに驚かなくてもいいじゃない。
「……ええっと、その、……私は、リニスと言います」
イエーイ! 予想的中、あの山猫はリニスだった。
「俺は戸田・秋介。秋介でいいよー。それでこっちが……」
『デバイスのムーンセル・オートマトンです。セラフと呼んでくださいね』
セラフの自己紹介を聞いて女の人は驚いていた。
「秋介は魔導師、なのですか……?」
「今日からだけどね。体の方は大丈夫?」
「体、……ですか」
『一時的ですが、マスターの魔力を通すことで枯渇しかかっていた貴女の魔力を回復させました。調子はどうですか、リニスさん?』
「――そういうことですか。危ない所を助けていただき、ありがとうございます。体の方は大丈夫です」
リニスは、頭を下げお礼を言ってくれた。
「頭をあげて。俺は気にしてないから」
「わかりました。それで、二、三お伺いしても……?」
「なに?」
「ここは一体、どこですか? 見たところ、ミッドチルダではないようですが……」
「海鳴市」
「ウミナリシ、ですか。聞いたことのないですね」
『マスター、それじゃあわかりませんよ。――正確に言えば、ここは第97管理外世界「地球」の極東地区、日本と呼ばれる国の海鳴市という街です』
「なるほど……。わかりました」
え、今ので分かったの? 理解早くね!?
「――では次の質問ですが、何故、私を助けたのですか?」
そんなの単純だ。
「助けたかったから」
「――それだけ、ですか?」
いささか拍子抜け、といった顔のリニスに聞かれた。
「そうよ」
「そう、……ですか。なら最後の質問ですが、……私をどうするつもりですか?」
「別にどうもしないよ? 好きにしていいよー」
『ええ、マスターの言う通りです。お好きになさってくださって構いませんよ?』
「別に、今すぐ答えを出さなくていいし、ゆっくり考えればいいよ」
「秋介は、知っているんですか……? 私の、前の主の事を……」
「知らない。けど、なんとなくそう思っただけ」
……いや、本当は知ってるけどね。
でも、言うようなことじゃないからな。これは。
「なんか訳アリっぽいし、無理には聞かないよ。リニスが話してくれるなら聞くけど……」
「すみません……」
あー、重い。空気が重いよー。誰か助けてー。
『つかぬことをお聞きしますが、リニスさんは何故あのような所で倒れていたんですか?』
流石セラフ。助かったぜ!
「倒れていたのですか、私は……?」
「覚えてないの?」
「はい。プレ、――以前の主との契約が完了し、消えたはずなのですが……」
何故、この世界に……、とリニスは考え込んでしまった。
……以前の主、……プレシア・テスタロッサか。
「契約の内容って聞いてもいい?」
「――え、あ、はい。ある女の子を魔導師として育て最高のデバイスを渡す、というものです」
『なるほど。では、デバイスを渡してリニスさんはその子の前から消え、気付いたらこの家に居たということですか……』
「その通りです」
リニスのいう女の子とは、フェイト・テスタロッサの事だろうなあ。デバイスとはバルディッシュだろう。
「……帰りづらいのって、その女の子が関係してるでしょ……?」
「――!」
驚愕といった顔で、リニスは目を見開いた。
「やっぱり……。別に、話さなくていいよ。……でも、リニスはどうしたいのかは教えて。リニスが帰りたくないなら、この家にいればいい。……まあ、寝場所とご飯ぐらいしか提供できないけど」
「それは――」
「俺、一人暮らしだからさ、セラフ以外に話し相手がいるとうれしいし」
『そうですね。私もデバイスですから、出来ることには限界があります。リニスさんがいれば安心ですね』
「……ご両親は……?」
「もう居ない」
この世界じゃそうなってる。イザナミさんの手紙に書いてあった。
「寂しくないのですか……」
「セラフがいるからね」
『マスターったら……!』
ふ、照れんなよ。俺まで照れるだろ。
とか言っても、まだ出会って一日も立ってないけどね!
「まあそんな感じだけど、どうする?」
「秋介……」
貴方は強いですね、とリニスは微笑み、
「――私は、帰りません。貴方に救われたこの命、その恩を返すまでここにいさせてください」
「いいの? 後悔とかしない?」
「はい。もう決めましたから。それに、私がいなくとも大丈夫だと、信じていますから」
とリニスは決意のこもった声で言った。
「そっか。じゃあ、これからよろしく、リニス!」
「はい。私の方こそよろしくお願いしますね、秋介」
さあ、一件落着! ご飯食べようぜ、ご飯!
再びコンロに火を点ける。
『なら、正式に契約した方がいいですね。私の方で済ませておきましょうか?』
セラフさんたらそんな事まで出来るのか……。
「リニスはそれでいい?」
「ええ。お願いします、セラフ」
『わかりました。――マスターとリニスさんを繋げて、契約術式発動、と……』
足元に丸い魔法陣のようなものが現れ、すぐに消えていった。
『――終わりました。これで離れていても魔力が供給されるはずです。どうですか』
「確かに。秋介との繋がりを感じます」
「よかったよかった。じゃあ、気を取り直して食べるとしますか!」
「はい!」
改めて、二人で手を合わせ、
「「いただきます!」」
やっぱご飯は一人で食べるより、誰かと食べる方がおいしいよね。
「美味しいですね……。なんという料理ですか?」
「すき焼き」
「スキヤキ、ですか……。興味深いですね……」
ああそうか。ミッドには地球の料理は無いんだっけ。
「この白いモチモチしたのも中々……」
「角麩ね。まだあるからいっぱい食べてよ」
「はい、いただきます!」
リニスさんが角麩の良さを知ってくれて秋介さんはうれしいよ……!
て、俺の分の角麩が無いだとう!? 油断したあ!!
『マスター、お風呂沸きましたよ』
「あっ、はい」
とりあえず、ちゃっちゃとご飯を食べてお風呂に入ろう。
そして、翠屋のシュークリームを食べる……!
「ごちそうさまでした。じゃあ、俺お風呂入ってくるから」
「あ、待ってください、秋介。それなら私が背中を流します」
はい!? どうしてそうなるの!?
「い、いやいいよ、一人で入れるから! リニスはゆっくり食べてて!」
「ダメです。もう決めましたから!」
『よかったですね、マスター』
よくないよ! 見た目は子供でも中身は思春期の男の子よ!? リニスはやばいって!
「セラフ、お風呂はどこですか?」
『リビングを出て左、突き当りを右の部屋です』
ちょ、セラフさん!? 助けてくれないの!?
「わかりました。――行きますよ、秋介!」
『行ってらっしゃい、マスター』
「い、やあ――!」
思わず、走って逃げようとしたら、
「バインド――!」
「ぬをっ!?」
いきなり現れた淡い黄色の鎖に捕まった。
「ダメですよ、家の中で走っちゃ。――さあ、行きましょうか」
「いやだあああぁぁぁぁ――!」
~リニスとお風呂中~
……大きかったな……。
何が、とは言わないよ。恥ずかしいから。
「いいお湯でした」
リニスは、何故かあった大人用のパジャマを着ている。
『マスター、リニスさん。デザートの用意しておきましたよ』
「お、マジで? てかどうやったのさ」
テーブルを見てみると、シュークリームとコーヒーが用意されており、置きっぱなしだった鍋と食器がキッチンに片づけられていた。
『浮遊魔法を使えば簡単ですよ。……ですが、コーヒー入れるのは初めてなので出来はいまいちかもです……』
そんなことない。十分すぎる。
「ありがとうな、セラフ」
「そうですよ。コーヒーも美味しいです」
『……お二人共、ありがとうございます……!』
セラフのさらなる万能感に驚きながら、リニスと共にシュークリームを食べた。
……翠屋のシュークリームは美味いね……!
ちなみに、すき焼きの準備に映る前の事。
「そう言えばお金ってどうなってるの?」
『私が管理しています。一応、二十年は遊んで暮らせるくらいはありますよ』
「それなら一人くらい増えても大丈夫ね」
『そうですね。あの方もこれを見越してましたからね』
「え……?」
とか何とかあった感じです。