転生少年と月の目モドキ   作:琴介

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 前回からの更新から半年以上も経っていて驚愕を隠せず、こっそりと更新した琴介です。

 更新が滞っていたのは、ぶっちゃけスランプが酷くて全く書けない状況が続いているからでして。そして先日、久しくハーメルンを開いていない事を思い出してマイページを覗いたら、多くの応援や楽しみにしているとのメッセージ・感想等を戴いていたことに気が付きました。
 そこから慌てて書いたのがこの話という次第です。

 作者が執筆リハビリ中につき不定期更新になりますが、投稿は続けていきますのでこれからもよろしくお願い致します。


A’s編
第三十話:貸し出し期限には要注意


 そして季節は流れて十二月。めっきり寒くなった日々を過ごす中で、クロノから妙な話を聞いた。

 家の玄関。靴を履きながら、空間モニター越しに聞く内容は、

 

「謎の襲撃者?」

 

 クロノによると、二ヵ月ほど前から無人世界に生息する大型生物を狙った襲撃事件が多発していたらしい。その手口は全て同じで、リンカーコアを抜かれ魔力を奪われていたそうだ。更には、

 ……ここ一か月ほどでついに局の魔導師が襲われ始めた、と。

 その被害者たちは皆、無人世界での調査中に襲撃を受けていて、

 

『これまでと同様、リンカーコアを抜かれ魔力を奪われた状態で発見された。幸いにも命に別状はなかったが、……同時に奇妙な事もあった』

「奇妙な事?」

『ああ、襲われた局員は皆、魔力を奪われたもののリンカーコアに深刻な損傷はなく、抵抗時に負ったと思われる傷や怪我が治療されていたそうだ』

「そりゃまた……」

 

 確かに、とセラフが言った。

 

『その襲撃犯はただ魔力を狙っているのではなく、何か目的があるという事でしょうか』

『恐らく、という言葉が頭につくが、管理局の見解としてはセラフと同じだ。儀式か研究か、この襲撃者は何かしら大きな目的の為に魔力を集めていると思われる』

「それならあれじゃない? 最近被害が拡大したのって、無人世界の生物じゃ間に合わないからじゃないの?」

 

 何か急がないといけない理由が出来たとか、そんな感じでさ。

 

『可能性としては有る。むしろその方向が近いかもしれないな……。一部ではロストロギアが発動している、なんて噂が流れているが、それなら魔力を集める行動にも納得がいくか』

 

 はあ、とクロノが一息。そしてこちらに半目を向け、

 

『まさかとは思うが、宝具発動の為に君が魔力を集めていたりしないだろうな……?』

「おおっと、ここで疑われるとは俺も予想外。いくら何でも流石によそ様の魔力を奪うなんて危険な行為はしないって」

『そういった用途の宝具はあるんだな……』

 

 しまった嵌められた!? くぅ、中々の策士だねクロノ……! 

 

『……まあいい。ともあれそういう事だ。君たちの事だから大丈夫だとは思うが、いつどこに襲撃者が現れるか予測できないからな。そちらでも一応の注意をしておいてくれ。何かあれば連絡を頼む』

「あいよー」

『……と、そうだった。君に伝言を頼まれていたんだった』

 

 伝言? ……一体どちら様から? 俺、管理局に知り合いなんて数えるほどしかいないんだけど。

 

『そうだな。僕としてもかなり意外なところからだ。……いや、あの人の出自から考えたら当然かもしれないが。一度会って話がしてみたいと、そう君に伝えてくれと頼まれた』

「だから誰ですよ、その人。俺が会った事ある人?」

 

 ないだろうな、とクロノが言った。

 

『そもそも君は本局にあまり顔を出さないだろう? 僕ら以外に知り合いがいたら驚きだぞ』

「失礼な。少ないだけでちゃんといるって。この前だってレティさんとこのグリフィスくんにも会ったし、食堂でご飯食べてたらナカジマ夫婦に絡まれるくらいの交流はある。あ、この前はヴェロッサにケーキ奢ってもらったっけ?」

『いや、グリフィスは母親の仕事を見学に来ていただけだからノーカンだろう。というか待て。君の言うヴェロッサとは、ヴェロッサ・アコースの事か? こう、緑色の長髪の』

「そうそう、そのヴェロッサ。リンディさんとはまた違った緑色の。よく仕事サボったとかでシスターに追われていたけど、クロノと知り合いだってあの人言ってたし」

 

 最近だと三日くらい前に新しいケーキ屋さんを見つけたとかで連絡が来たかな? しばらくはそのお店に通って全品制覇するって宣言してたから、もし行方不明ならそこにいると思う。

 

『……その店の場所は分るか?』

「一応」

 

 と、新しいモニターを展開。そこにヴェロッサから教えてもらったお店の場所をメモしてクロノに送信する。少しして向うが頷き、

 

『助かる。担当者には僕の方から伝えておくよ。それで、話がだいぶそれてしまったが、君に会いたいという人物の事だ』

「ああ、うん。どちら様で?」

 

 クロノが続ける。

 

『――ギル・グレアム。君たちと出身世界を同じくする人物だ』

 

 

 ~……へえ~

 

 

「とか何とか意味深な雰囲気出しておきながら会いに行かないなんて、流石ですねマスター!」

「そりゃあ外せない用事が出来ちゃったからね。見知らぬ上役より眼前の危機回避を取るでしょう」

 

 と、人の姿のセラフと言いながら向かうのは、この辺りで一番大きな図書館だ。

 夏休みにはやてと出会って以降、たまにおススメを紹介されて借りに行くのだが、

 ……意外とマニアックなものが多いというか、大きい図書館じゃないと置いてないんだよなー。

 お陰で夏休みの宿題で提出した読書感想文が〝異彩を放っているで賞〟とやらに選ばれたが、題材に選んだのは世界の不思議を物語調に編集した冒険物だったのに何故だ。ミイラか、やはりミイラが魔女と宗教戦争を起こした辺りがいけなかったのか……。

 ともあれ、今日の目的は先週借りた〝メトロポリタンVSルーブル 裏切りの大英博物館〟の返却だ。

 

「まさか今日が返却期限日だったとは……。くっ」

 

 クロノたちとの共同任務が、無人世界での遺跡調査だったのがいけなかったと思う。

 一昨日、金曜日だからと泊まり込むつもりで出向いて現地合流したクロノやユーノと遺跡に入ってうっかり罠を発動させて大岩が転がってきたり逃げた先がロストロギアの保管空間で爆発に巻き込まれたような気がするが、一夜過ごして遺跡を出れば、外では何故か二日も経ち応援の調査隊やら編成されていた救出部隊が出発直前で軽い浦島効果を感じた。

 というか、地球に帰って来たのは今朝方で、まず取り掛かったのは着信履歴が凄かったアリサとすずかへの事情説明。携帯の故障という事で何とか納得してもらったがまあ本当の話はその内だ。

 有り難かったのは、リンディさんをはじめとしたアースラの大人組で、事前になのはとフェイトにこちらの事情を通しておいてくれたことだ。あれが無かったら二人は間違いなく現地にまでやって来、救出部隊に参加し、入れ違いになっていたかもしれない。この辺りはプレシアさんやリニスが二次被害を起こさぬよう説得に動いた事と、アリシアの、

 

「むしろあの三人の事だから遺跡の中でキャンプでもしてるんじゃないの?」

 

 というのが効いて納得したと聞き、結論から言うと図星だから反論できない。

 そしてそれらを含めなのはたちへの帰還報告と、エイミィさん経由での調査結果や次の仕事の打ち合わせ等をしていて、気付けば既に時計の針は十二時を回っていた。

 お昼は簡単にお茶漬けで済ませ、クロノからの通信で打ち合わせ漏れの確認と、ちょっとした世間話を行いながら軽く掃除機を掛けていたのだが、布団干しを担当していたセラフが本を片手に戻って来て、

 

「そういえば先週借りたこの本って、確か今日が返却期限日じゃなかったですか?」

 

 と、驚愕の事実が発覚したのですぐに掃除と世間話を切り上げ、家を出たのだ。

 とはいえ図書館への道すがらバスに乗っているだけで暇も多いので、

 

「さっきのクロノの話だけどさ、セラフさん的にはどうよ」

「マスターの予想通りだと思いますよ? 内容や時期的に見ても」

「やっぱりかー」

 

 ならちょっと対策を考えないとなあ。

 

「どのような方法を取るにしてもマスター次第です。確実性を取るにしても、賭けに出るも、何もしないという選択肢は有りませんよね」

「当然」

 

 ただ、

 

「一つ、試したい事はある。けどそれが絶対に成功すると言えないのがちょっとね……」

 

「では失敗してもいいように代案をたくさん用意しましょう。――宝具とういうのは、奇跡の具現です。それを持ってして救えないなどと、そのような不幸は認めますか?」

「絶対無理。……正直、分の悪い賭けだけどセラフは付き合ってくれるよね」

 

 彼女は笑みを作った。そして、

 

「当然です。私は、貴方のデバイスなんですから」

 

 

 ~やべえ、今ちょっとキュンと来た~

 

 

 図書館の入り口。潜ってすぐのカウンターで本の返却を済ませ、そのまま蜻蛉返りというのもアレなので睡眠前の読書本を探しに館内を見て回る事にした。

 二階は主に外国文学や歴史書が置かれているが、翻訳されていないものも多いので場の雰囲気を感じるために一周する。途中、不思議の国のアリスの、原文のコピー書がピックアップされていて、その隣には切り裂きジャックについての特集が組まれていたのは何かの偶然だろう。反対側に西部開拓時代の木こりを題材にした小説も置いてあったのはきっと気のせいだ。

 ともあれ、何となくホッコリとした気分でセラフが読む用を数冊取って二階を後にする。そして次に自分が読むためのものを探しに一階の文庫コーナーを回っていたのだが、

 

「セラフさんや」

「ええ、いい感じのタイミングで見つけましたねマスター」

 

 と、揃って本棚の陰から覗く先。一人の少女がいる。

 車椅子。茶髪の髪に、ブランケットを肩から掛けた彼女は少し高い位置の本に手を伸ばしていた。すると、

 

「お」

 

 来た。

 少女だ。現れた彼女は、車椅子の少女が取ろうとしていた本を手に取り、

 

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 そう言って、少し訛りの効いた声で車椅子の少女が微笑んだ。そして何やら話し始めた二人を眺めながら、ふと思った事がある。

 ……ここで出て行ったら面倒になりそう。

 チラリとセラフを見れば、既に文庫の並びを眺めている。手には追加の数冊を持って、こちらにおススメと、掘り出し物を見つけたように掲げているが、

 ……喫茶戦士モーニングって何だ、逆襲のミルクコーヒーって……。

 第一巻で逆襲するなよ、と思うが、セラフが楽しそうならそれでいいか。まあちょっと気になるので読み終わったら貸してもらうとして、

 

『セラフ、今の内に見つからないように本借りて撤収』

『おや、挨拶はしないので?』

『ここで割って入るほど無粋じゃあないし、そもそも今のセラフと一緒に会う訳にはいかないでしょう。その姿を知ってるのは、はやてだけなんだから』

『ああ、そうですね。すずかさんの手前、マスターが一人で行ってもはやてさんの事ですから私が居ないのを不思議に思うでしょうし』

『そういう事』

 

 だからまあ、今日のところはここで退散しておこう。

 

『ではちゃちゃっと借りてきますねー』

 

 と、貸し出し受付へ向かうセラフを見送り、ふと思った。

 ……はやてが一人って事は、他の皆はもしかして……。

 しばらくは徹夜かなあ、と覚悟を決めつつ、図書館の外でセラフを待つ事にした。




 ここまで長かった。やっとA’s編が始まる……。

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