転生少年と月の目モドキ   作:琴介

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 この海回、三部構成にしたのは今回のオチをやりたかったからと言っても過言ではない。
 加えて今回は調子に乗って書き過ぎた感が否めないのも事実。


第二十六話:温泉の洞窟って何か惹かれるよね

 日が暮れるまで遊んだ俺たちは、晩ごはんの前に温泉に入る事にした。

 茜色から紺色へと染まり始めた空を頭上に、夕陽が沈んで行く水平線を一望しながらお湯に浸る。お湯の表面から生えるように立つ大きめの石に寄りかかって、軽く手足を伸ばし、

 

「いやー、やっぱ温泉は良いねえ……」

『良いですねえ……』

 

 露天風呂っていうのがまたさらに良い。うちで広げる温泉はいつも地下室で、雰囲気づくりとしてセラフが魔法で自然の風景を映し出してくれるけどやっぱり本物の方がテンション上がる。

 

「それにしても露天風呂というのは凄いな。ミッドや他の世界にも温泉のようなものはあるが、ここまで自然と近いのは初めてだよ」

『でもこの姿だと僕、温泉入ったら溺れちゃうからなあ』

 

 ちょうど体を洗い終えたクロノが、ユーノを肩に乗せてやって来た。

 

「あー大丈夫大丈夫。ユーノ用にちゃんと準備してあるから」

 

 クロノの肩上から降りたユーノをつまんで、温泉のお湯を半分入れておいた桶に移す。あ、意外と沈まないもんだねコレ。乗せたらユーノもろとも沈むんじゃないか、って心配があったけど大丈夫そうで良かった。

 

「私が一番乗りだ――ッ! あっ」

 

 と、アリシアの声が壁の向こうから聞こえた直後、滑って転んだのか、何かにぶつかったような音が響いた。続けざまになのはとフェイトの心配する声が聞こえて来て、

 ……走らないように、って注意したのに。

 しかも今の音からして桶の山に突っ込んだな? アリシア。他のお客さんの迷惑にならなきゃいいけど……。

 

「……あれ?」

 

 よくよく見たらこの温泉、俺たち以外誰も居なくない……? もうすぐ七時だから早すぎるって訳でもないしどゆこと?

 

「なんだ。聞いてなかったのか、秋介。今の時間帯は俺たちの貸し切りらしいぞ。そうだろ? 父さん」

「ああ。この旅館の手配といい、何から何までデビットさんや月村さんのとこに感謝だなあ」

 

 少し遅れて士郎さんと恭也さんが、体を洗い終えてやって来た。二人はお湯に浸かろうとして、壁の方をチラッと見た士郎さんが、

 

「しかしこの旅館、パンフレットには混浴アリなんて書いてあったのにどこにも見当たらない。せっかく桃子と子供たちは恭也たちに任せて入ろう、って話していたのに……。

 あ、もしかして恭也。お前も忍ちゃんと一緒に混浴入るつもりだったりしたのか?」

 

「ぬなっ!?」

 

 いきなりとんでもない事言いだしたぞこの人。

 

「どうかしたの、恭也――? 今何か凄い音が聞こえたんだけど」

「だ、大丈夫、心配するな忍! ちょっと足を滑らして温泉に落ちただけだから!」

「ハハ、壁を挟んでやり取りとはお熱いお熱い。流石は我が息子。温泉がさらに熱くなりそうだな……! このラブラブカップル。ヒューヒュー!」

 

 加えて甘くなりそうでもあるよね……! と心の中だけで思っておく。口に出して士郎さんみたいに追いかけられたくないからね!

 

「お二人さーん。走ったらダメ――」

「あっ」

 

 二人揃って足を滑らせて桶の山に突っ込んだ。そして見事なストライク。宙を舞った桶たちが追い打ちをかけるように二人の上に落ちて、

 ……遅かったかぁ。

 壁の向こうから、「もう、士郎さんたらはしゃいじゃって……」とか聞こえてくるあたりどっちもどっちじゃないかなー。流石は親子。恭也さんと忍さんも将来あの二人みたくなるのかね。

 まあ、何はともあれ士郎さんと恭也さんが桶を山に戻す作業に入ったのを見届けて、壁の近くのかけ流しが通るぽっかりと穴の開いた大岩に目を向ける。次にクロノの方を一度見て立ち上がり、

 

「行くか」

『行きましょう、マスター』

「滑って転ばないように気を付けろよ」

 

 えっ。一緒に来てくれないの、クロノ……?

 

「いやどうして行くと思った。ただの洞窟だろう? 何か危険があるわけでもなし、そもそもあの洞窟は入ってもすぐに出口じゃないか」

 

 と、クロノが俺の見た反対側を指した。

 

「むしろ入らなくても入り口から出口が見えるんじゃないか? 探検できるような長さでもないだろ」

「えぇー。一緒に行こうよクロノー。もしかしたら何かあるかもしれないじゃん」

「例えば?」

「……ろ、ロストロギア、とか……?」

「あってたまるか」

 

 思いっきり顔にお湯をかけられた。

 

 

 ~ちょ、その桶はユーノ入ってるから使っちゃダメ――~

 

 

 クロノとのお湯のかけ合いが、士郎さんと恭也さんの乱入で二対二のチーム戦に変わり、果たして二人の親子対決へと変わってしまったので俺とクロノは洞窟の中に避難した。途中、桶から投げ出されて溺れかけていたユーノを拾って、

 

『ひ、ひどい目にあった……』

「いやー、やっぱこうなっちゃったかー。士郎さんと恭也さんはしゃいでるなあ」

「呑気な事を言ってないであの人たちを止めてもらえないか……。ああも真ん中を陣取られちゃ上がるにも上がれない」

 

 ごめん無理。ああなったらもう止められるのは桃子さんくらいだと思う。もしかしたらなのはも止められるかもしれないけど、ここは男湯だから二人は居ないんだよねー。つまり、

 

「勝負がつくまでここで待機しかないかな」

『のぼせる……』

「身を低くしてこっそりと出て行くのはどうだ?」

 

 やってみようか、とクロノと頷きあってしゃがみ、ユーノが溺れないように俺の頭の上にのせて洞窟を出る。瞬間、目の前に勢いよく何かが叩きつけられて湯柱が立った。

 見ると、その”何か”はさっきまで士郎さんたちが山に戻していたはずの桶で、

 ……鼻先ちょっとかすったんですけど――!?

 急いで洞窟へと後退。直後に第二、第三の湯柱が出入り口付近に立ち、続けざまに桶と桶がぶつかるような音が聞こえてくる。やべえ、脱出難易度が間違いなく上がった……!

 

「――とりあえず、お湯に浸からないように魔法で浮いてればのぼせないよね!?」

「それは最後の手段だ! 何か、何か他にいい方法はないのか……!?」

『じゃあ、秋介の宝具は? あの姿が消える緑のマント』

「それだ……!」

 

 と、〈顔の無い王(ノーフェイス・メイキング)〉を広げた所で重大な事に気が付いた。

 ……あ、ダメだ。

 こっそりどころかむしろこっち見て的な状況になっちゃうんですけどもコレ。

 

『傍からだとお湯に不自然な穴が開きますから。しかも移動するなんて、――不自然過ぎて気付かれますね』

 

 しかも濡れちゃうしこれぞまさしく万事休すってやつだね!?

 

『ソレ纏って脱衣所まで飛んで行く方法もあるけど……。流石に桶の飛び交う中は危険だよね』

「……裸で空を飛ぶというのは嫌だからな」

 

 俺だって流石にそれは遠慮したい。いくら周りから見えないからって裸で空飛ぶのはちょっとね……。あれ? そういえば〈顔の無い王〉を纏ってる時って、周りと同化して見えなくなるけどその時に下から覗かれたらどうなるんだろう……?

 

「……ちょっと試しに」

「やるなら一人で行ってくれよ。……絶対に僕は嫌だ」

 

 冗談、冗談だからそんな身構えないでクロノ。お願い、ここで俺たちまで対決しだしたら士郎さんと恭也さんがさらにヒートアップしかねない。あと絶対に巻き込まれてユーノが溺れちゃうから、ね?

 

「じゃあどうする、このまま彼らの対決が終わるのを待つか」

「うーん……」

『なら洞窟の奥にでも行ってみたらどうです? そこの横穴、別の場所に繋がっているようなので避難にはなると思いますよ』

 

 え? 横穴? と、クロノと首を傾げた先、暗くて気付かなかったけど確かに洞窟奥に続く道があった。

 

「……行ってみる?」

「そうだな。このままここに残っていたら巻き込まれる可能性があるし、なら少しでも奥に進んで身の安全を第一に考えた方が良い」

『でもまさか、温泉で溺れる以外に身の危険を感じるとは思わなかったなあ』

 

 頭の上で、ユーノがグッタリとした声を漏らした。確かにね。癒されるはずの温泉でまさか飛び交う桶の恐怖があるとは誰も思わないって。

 

『うん。――それにしてもアレだよね。なのはの家族って本当に一般人なのか、って疑っちゃうくらいスペック高いよね。特に士郎さんと恭也さんって』

「剣術か何かを収めているとは聞いていたけど、……本当にただの喫茶店のマスターなのか?」

「んー、なんか士郎さんは、昔、要人のボディーガードをやってたんだって。正式な名前は覚えてないけど御神流とかいう古流武術の後継者だとかで、恭也さんも士郎さんに御神流を師事してる」

 

 美由希さんも同じで師事してるし、最近だと恭也さんにスピード勝負で勝ったって喜んでた。まあ、その一回だけみたいだけど。

 ちなみになのはも御神流を少しかじっている上に魔法少女だから、あの一家で普通って言えるのは桃子さんだけじゃないかな。

 

「まあ、強いて言うなら高町家内ピラミッドの頂点にいるくらいの、何処にでもいるような普通のパティシエお母さんだよ」

「パティシエの時点で普通じゃないと思うんだが」

「管理局提督がお母さんのクロノがそれを言っちゃうかー」

『どっちもどっちだよね?』

 

 確かに、なんてことを話しているうちに光が見えた。

 ……お、出口。

 意外と長かったねこの洞窟。大体、四、五メートルくらいかな? 体感じゃもっと歩いたような気はするけど……。ああそうか。暗かったから無意識の内にゆっくり歩いて来たのかも。夜中トイレで起きた時に何かにぶつからないよう気を付けるあの感じ。

 

『ふふ』

 

 なにセラフ、急に笑ったりして。何か良い事でもあった?

 

『いえ。あったというよりこれからあると言いますか、まあ、私としては記録できる思い出が増えるので良い事になりますね』

 

 よくわからん。これから思い出になるような事があるってどういう事……? 

 ……どうしよう。今更だけどもの凄く嫌な予感がする。

 温泉で思い出になる良い事って何だろう。絶景? もしくは効能とか。うーん、どっちも違う気が……。何か引っかかる。ちょっと前に重大なヒントがあったような――。

 

「おおっ?」

 

 と、考えているうちに洞窟を出た。

 するとすぐに鼻をくすぐったのは温泉と、木の香りで、

 

「これは……」

『向うとは違う、こっちは木の温泉だ!』

 

 ほほう。まさか岩風呂と檜風呂、両方を一度に入れるとは思ってなかった。パンフレットに温泉は日替わりです、って書いてあったのに! 

 ……あれ?

 ちょっと待って何かがおかしい。

 さっきまで俺たちが居た方が岩風呂だったって事は、今日は男湯が岩風呂の日という事になる。なら、女湯の方は必然的に檜風呂になるわけでして。

 ……あ。

 

「秋介くん……?」

 

 答えが頭に浮かぶなり急いで温泉に入ろうとするクロノを連れて洞窟に撤退しようとした矢先、不意に聞きなれた声に名前を呼ばれた。振り向くと、そこには、

 

「え、秋介……?」

『あら』

 

 一糸纏わぬ姿でなのはと、リニスを抱えたフェイトが立っていた。二人の後ろには桶をヘルメットよろしくかぶったアリシアと、唖然とした顔のアリサとすずかも居る。

 つまり、何が言いたいかというと、洞窟を抜けた先に辿り着いたこの場所は、――女湯だったという事だ。

 

「――――」

 

 なのはたちが一瞬で顔を真っ赤にして、声にならない悲鳴を上げながら脱衣所の方へとダッシュ。途中でアリサが滑りそうになったのをすずかが支え、なのはが滑って脱衣所の引き戸に激突したのをフェイトが起こしたりしながら慌てて中に飛び込んでいった。

 続いてノエルさんとファリンさんも脱衣所の中へと入って行き、この場に残ったアリシアが大きく息を吸ったのを見て、

 

「キャアァアアアアアア――ッ!!」

「キャアァ、――ああもうっ。私が叫ぼうと思ってたのにどうして秋介は先に叫んじゃうかなあ……!」

 

 ノリというかなんというか。まあ、昼間に顔にボールぶつけられたからそのやり返し。というか、俺としてはまったく動じてないアリシアに驚きだよ。

 

「え? じゃあ、――きゃあ、秋介のえっちー」

「あーはいはい。ドウモゴメンナサイネー」

「せめてこっち見てよ! 可愛い仕草したのに!」

『この状況でもその余裕、流石ですマスター――ッ!』

『やかましい』

 

 ……でもまさかここが混浴とはね。

 どうりで鮫島さんが一緒に入らなかったワケだ。私は部屋風呂で十分です、って戻って行ったけど混浴だって事を知ってからなのね。流石、執事の鑑。老紳士とは正にあの人の事だね! 

 士郎さんが言うには今回の旅行の手配やらをしてくれたのがアリサとすずかのお父さんたちらしいし、それなら鮫島さんが知っていても不思議じゃない。まあ、ノエルさんやファリンさんが知っていたかは置いといて。

 まったく、今度デビットさんたちに会ったら文句の一つでも言わせてもらおう。

 

『あの方々なら、言われても笑いながらお小遣いをくれるでしょうね。いつも通りに』

『だよなあ』

 

 そうなったらまた皆で駄菓子屋にでも行くかな。もちろん今度はアリシアとフェイトも一緒に。言えばプレシアさんなら二人分のお小遣いくらい出してくれるだろうし。

 ……って、そんな事を考えてる場合じゃなかった。さっさとクロノ連れて向うに戻ろう。

 

『と思ったけどなんか無理そうだなあ……』

『一瞬で諦めましたね』

 

 いやだって、と見た先、お湯に片足突っ込んだクロノが、

 

「なっ、――母さん!? どうしてここに、まさかここは女湯なのか!?」

「まあクロノったら、そんな恥ずかしがらなくてもいいのよ? こっちにいらっしゃい。久しぶりに母さんと一緒に浸かりましょう」

「い、いや! 僕は一人で大丈夫、というか向うに戻るよ! おい秋介、ってなんだそのニヤニヤした顔は! やめろ。早くもど、――エイミィ!?」

「フッフッフッ、逃がさないよクロノくん! 艦長命令で強制連行だよ、観念してもらおうか――ッ!」

「なあんか面白そうだから協力するよ……!」

「ありがと美由希ちゃん!」

 

 と、いつの間にか体にバスタオルを巻いた二人にクロノが捕まっていた。

 

「キュロノ――」

『ユーノユーノ、一旦落ち着こう? 動揺のし過ぎで鳴き声と叫びが一緒になった奇声発しちゃってるから』

『そそ、そうだよね! こういう時こそ落ち着いて状況の整理を、――うぁああああ』

 

 僕は何も見てないぃ、とユーノが頭の上から落っこちた。

 

『大丈夫かい、ユーノ?』

『僕は何も見てない僕は何も見てない僕は何も見てない僕は何も……』

『あーこりゃ重症だね。とりあえずあっちの涼しい所に連れてっとくよ』

 

 とりあえずユーノはアルフに任せておけば大丈夫か。涼しい所と言って脱衣所に連れて行くのはどうかと思うけど。むしろ逆効果なんじゃないかなー。

 

「へくちっ。うう、……秋介、温泉入ろうよ。このままじゃ私、風邪引いちゃう」

 

 別に俺と一緒じゃなくてもいいのに、と思ったけど、口に出すのは止めた。

 ……もういっその事こっちで温泉を満喫しようかな。

 クロノとユーノを置いて向うに戻るのも気が引ける。というか一人で戻りたくない。こっちなら向うと違って桶が飛んで来る心配は無いし、母親組とかお姉さん組の方は見なければ大丈夫。

 いやホント、エイミィさんと美由希さんはバスタオル巻いてくれたのに他の人巻いてくれないもんなあ。

 

「あ――」

 

 アリシアと並んで温泉に浸かり、軽く伸びをしてから一息つく。

 すると忍さんが立ち上がった。

 

「どうぞ、忍お嬢様」

 

 脱衣所から、ちょうどバスタオルを手に戻って来たノエルさんから一枚受け取り、それを体に巻いて、

 

「ねえ秋介。あなた、あの洞窟から出てきたわよね? つまり、――あそこを通れば男湯の方に行けるのね?」

 

 親指を立てて答えると、一度頷き、おもむろに桃子さんを見た。

 

「行きますか?」

「フフ、ここが士郎さんの言っていた混浴だったなんて思わなかった。秋介くんもこっちに来た事だし、プレシアさん、なのはたちの事をお任せしても?」

「別に構わないわ」

「ありがとうございます。それじゃあ」

 

 行きましょうか、そう言って桃子さんは忍さんと一緒に洞窟の中へと消えていった。というか、

 ……何でプレシアさんのほっぺに猫の足跡が。

 あ、逆側にも足跡がある。あれは犬……?

 

「ね、アリシア。プレシアさんのほっぺのアレって……」

「ああ、うん。あのね? さっき私が滑って桶の山にストライクした時なんだけど。ママが心配し過ぎてアリサたちの前で回復魔法使おうとしちゃって、それをリニスとアルフが止めた時に付いたんだよ。――ホント”ニャンワンパツ”だったよ」

「はいはい、間一髪ね。鳴き声とかけたんでしょ。――桶没収」

「ああっ私の桶メットが……!」

 

 無駄にどっちも語呂が若干良いのが気になるけど、桶はかぶる物じゃないので問答無用に没収。とはいえ洞窟近くの山に戻しに行くのも面倒なのでその辺に置いておく。

 少しして、壁の向うから聞こえてた桶のぶつかり合う音が止んだ。同時に士郎さんと恭也さんの悲鳴のような叫びが聞こえた気がするけど、多分、気のせいだと思う。思う事にした。

 ともあれ向うが平和になったので戻るかというと、そうでもない。

 ……せっかくの混浴を邪魔しちゃ悪いからね!

 いやあ良かった良かった。これであとはゆっくり温泉を満喫して、アリサたちに見られないようコッソリ転移で向うの脱衣所に戻れば――。

 

「――あっ」

 

 そうじゃん。さっき洞窟の中に居た時、転移で脱衣所に戻ればよかったんじゃん。うわあ、何で気付かなかったんだろう……。

 

『ちょいちょいマスターって転移魔法の事忘れますよね。ジュエルシード事件の時とか』

『シ! ダメだよセラフ。本人気づいてちょっと落ち込んでるから、セラフがそれ言っちゃうと次から気を付けるようになって私が「もう、転移使えばいいのに。おっちょこちょいだなあ」って頼れるお姉ちゃんできなくなっちゃう』

『落ち込んでない、俺は全然落ち込んでなんていませんよ――う!』

 

 まあ、ここはアリシアの言う通り次から気を付ける事にしておこう。

 

「おーい秋介。久しぶりに一緒のお風呂だから頭洗ってあげるよ。こっちおいでー」

 

 と、洗い場の方。エイミィさんがクロノをリンディさんに引き渡しに行っちゃって手持ち無沙汰になったのか、美由希さんが洗い場でシャンプー片手に立っていた。バスタオルを巻かないで。

 ……さっきまで巻いてたのに何で!?

 あ、や、別に体を洗ってたなら巻いてないのは当然でもはや美由希さんのたわわなアレが露わにというかあの人もなんでアリシアみたいにまったく動じてないんですかね!?

 

「おお? 秋介がフリーズした」

『内心ものすごく焦ってますね』

 

 そこだまらっしゃい。

 

「今更だなあ。私にとって秋介は弟みたいなものだもん。恭ちゃんくらいの歳ならともかく今の秋介なら全然オッケー、小学校卒業するくらいまでは一緒に入ってあげるよ?」

『私は小学校卒業と言わずそのあとも別に構いませんが』

『私も』

『お願いだからリニスさんとセラフさんは黙っていてくださいお願いします』

 

 横でアリシアが出遅れた、とかなんとか悔しがってるけど無視の方向で。流石に今は付き合う気分じゃない。というか、いつの間に脱衣所から出てきたんだよリニス。ちゃっかり美由希さんの足元にいるし。

 

「何? リニスも一緒に洗ってほしいの?」

「ナゥ」

「違うんだ。じゃあもしかして秋介に洗ってもらいたいとか?」

「ニャウ」

「だって秋介、ご使命だよー」

 

 えぇ……。フェイトに任せたのに結局俺になるのか。まあフェイトが脱衣所から出てこないのは俺の所為でもあるし、仕方ないかな。

 

「あいあい。分かりましたよ」

 

 今行きますよー、とお湯から上がって洗い場に向かう。

 鏡の前に座ってリニスを前に置き、石鹸を泡立てて洗い始める。すると頭がいきなりひんやりとして、

 

「ぅおあ。……美由希さん」

「にしし。動くとシャンプー目に染みるよー。ほら、ちゃんとリニス洗ってあげないと」

 

 美由希さんが、悪戯っぽく笑いながらかゆいとこはありませんかー、なんて言って俺の頭を洗いだした。

 リニスを洗う俺の頭を洗う美由希さん。何この状況。俺、さっき向うで頭洗ったのに……。

 ……でもたまにはこういうのも良いかも。

 

「――よし。じゃあ交代」

 

 交代?

 

「えい」

 

 あれ? なんかいきなり美由希さんの手がちっちゃくなったような。思い、振り向くと、

 

「……なのは?」

「えっと、あの。か、かゆいとこはありませんか……?」

 

 檜の風呂椅子を踏み台に、俺の頭に手を置くバスタオル姿のなのはが居た。

 

「無いけど、……何してんの」

「秋介くんの頭を洗っています……」

 

 それは見れば分かる。俺が聞きたいのはそういう事じゃなくて、どうしてなのはが俺の頭を洗ってるのか、って事で。あ、もうちょい右お願い。

 

「うん。皆と脱衣所でバスタオルを巻いて、戻って来たらお姉ちゃんが秋介くんの頭を洗ってて、良いなあ、って思って見てたらやってみる? って、手招きされたの。……嫌だった?」

「全然」

 

 むしろ嬉しい。こんな状況考えてもみなかったね。

 

「えへへ。ありがと」

 

 そう言ってなのはが頭を洗うのを再開したので、俺もリニスを洗うのを再開する。

 ……なのはが戻って来たって事は、他の皆も戻って来たのかな。

 少し体を傾けて、鏡を利用して後ろを見てみると、

 

「それじゃあ勝った人が次に秋介の頭を洗うって事で良いわね? ――ちなみにあたしはグーを出すわ」

「勝っても負けても恨みっこなし。――私はパーを出すよ」

「なら私はチョキを出そうかな。――秋介の頭は私が洗う……!」

「アリサにもすずかにも、もちろんアリシアにも負けないよ。――私が出すのはグーだ」

 

 フェイトが構えて、それに皆も続いた。何故かその輪に混ざるファリンさんが一歩引き、軽く右手を上げて、

 

「じゃーんけん、――ぽいっ!」

 

 一発で綺麗に勝負が決まった。それは、深読みしそうな三人でも、唯一正直にグーを出した一人でもなく、

 

「えっ」

 

 手を振り下げた勢いで偶然パーを出した事になっちゃった、――ファリンさんだった。

 ……はっはーん。さては俺、しばらくはここに釘付けだね?

 ちくせう。

 

 

 ~やっぱお風呂上りはコーヒー牛乳だよね!~

 

 

 温泉から上がったあと。俺たちは、同じく貸し切りになっていた宴会場「星の間」で晩ごはんを食べていた。

 海に面した旅館という事もあって、テーブルにはどれも新鮮な魚介類を使った料理が多く並んでいる。

 季節の炊き込みご飯にお吸い物、お刺身や天ぷらの盛り合わせ、一人鍋に、茶わん蒸しや小鉢といった会席料理だ。といっても一品ずつ出された物を食べて行く〝喰い切り〟式じゃなくて、

 

「一品ずつとか時間かかるし食べた気がしないだろ? うちは人数も多いし、だから女将さんに頼んで最初から全部出してくれるよう頼んでおいたんだ」

 

 士郎さん曰くそういう事らしい。確かに。ちゃんとした雰囲気の料亭とかならともかく、せっかくの旅館で一品ずつ出されてもちょっとね。いや、中にはそれが良いっていう人もいるだろうけど俺はなあ。

 ……物足りないような感じがするんだよね。

 やっぱごはんはテーブルにズラッと並んでる方が美味しそうに見える。特にお刺身とか。さっき女将さんが運んで来た船盛なんて猫リニスの大きさ軽く超えて圧倒される。エビとかまだ動いてません? アレ。

 

「……本当にあのまま食べても大丈夫なのか?」

「活き作りは新鮮な証拠だよ、クロノ。大丈夫。イカじゃないならあのまま食べても特に問題ない」

「えっ、アルフにあげちゃったけど……」

 

 フェイトに言われて見ると、小皿に取り分けられたイカにアルフが食いついていた。横でユーノがそれを見て引いたような顔になってるけど、まあ、気持ちは分かる。醤油がちょっとグロテスクに見えるよね。

 ともあれ別に、俺が言う問題は体に悪いとかそういう意味じゃない。

 

「足が超動いて食べにくいんだよね、イカの活き作りって。しかも食べる時に吸盤が口の周りとか裏側にくっついたりするから余計に」

 

 エビとかはビクビクしてて食べる時に「コイツ生きてるな……!」って、若干ホラー感じる程度だから良いんだけどさ。

 

『あ、秋介。次はお刺身をお願いします。赤身で、もしくは白身でも。――というかやはり大トロでお願いします……!』

 

 リニスってば意外と贅沢な……、そう思いながら二切れ取って小皿に移す。少し醤油を垂らして、

 

『わさびは?』

『少し』

 

 俺の膝上で、器用に小皿から一切れずつ食べるリニスの背を撫でる。時折、尻尾が揺れるのをすずかが目で追いかけながら、

 

「良いなあ」

「そうですね、私たちも連れてくればよかったですね。すずかお嬢様」

「うん。……撫で撫で、良いなあ」

 

 多分、話噛み合ってないよファリンさん。すずかのそれはリニスを撫でたいのか自分が撫でられたいのか、どっちだ。

 

「もちろん。私が、だよ」

 

 目が合って、そう言われた気がする。すずか、そんなジッと見られるともの凄く食べづらいんですけど……。分かった、あとで撫でて上げるから。ね? だからそんな凝視するのやめてくれません……?

 

「うんっ」

 

 もしかして今の通じた? えっマジで? 声に出してないのに嘘だぁ。

 

「……? 急にどうしたのよ、すずか」

「実はあとで秋介君に……」

「――すずかだけずるい!」

 

 どうしよう本当に通じてたらしい。アリサまで巻き込むとはやるね、すずか。これじゃあやふやにして逃げられないじゃない……。仕方ない。枕投げで勝ったら、って事でよろしいか。

 

「オッケー!」

 

 おお、今度はアリサにも通じたよ!? うわ――。

 

「あ、そうそう。そういえば、本当に出るんだってこの辺り」

 

 初のアイコンタクト成功に軽く驚愕していると、そう忍さんが切り出した。

 

「何が出るって?」

「だから幽霊よ、幽霊。朝、恭也も女将さんに聞いたでしょ? 「女を攫う幽霊」の話」

「確か、夜な夜な海から船で現れては上陸し女を攫って行く、でしたか。仲居の方々が噂していたのを耳にした限りでは、件の幽霊、どうやら大昔の海賊のような恰好をしているようですが」

「知ってるの? ノエル」

「はい、すずかお嬢様。ですがこの幽霊話、昔からこの辺りに伝わる物ではないそうです。ここ最近、ほんの一週間ほど前から広まった話だとか。不確かな情報ですが、この話と同じような話が海外にもあり、その話の幽霊が日本にやって来た、なんて噂もあるそうです」

 

 それってつまり幽霊が旅行にやって来たって事? 何か、そうやって考えると一気に怖くなくなるね。

 

「そういえば以前、旦那様に付いてヨーロッパの方へ渡った際にそのような話を聞いた覚えがあります」

 

 鮫島さんが、士郎さんにビールを注ぎながら思い出すように言った。

 

「向うでは「女を探す幽霊」と、そう呼ばれていたかと。夜な夜な海から船で現れては上陸し、何かを探すように徘徊しては去る。今しがたノエル殿が話した内容と似ていますが」

「確かにねえ。でも何で向うじゃ〝探す〟なのにこっちじゃ〝攫う〟になったんだろう」

「それは美由希様、恐らくこの話の終わりが関係しているのでしょう。最後、幽霊が去ったあとには必ず付近の宿泊施設に泊まっていた女性が姿を消すそうです。それも、毎度同じ女性だそうです」

 

 本当かどうかは分かりませんが、と鮫島さんが付け加えた。

 ……なるほど。だからこっちじゃ攫われた、になったんだ。

 幽霊が居なくなると女の人が消える。つまり攫われた、と。そういう風に解釈したんだと思う。

 しかしアレだね。毎度同じ女の人が消えるって、それってもうその女の人も幽霊なんじゃないのか、って思えて来る。というか、

 

「もしその話とこの辺りの話が同じ幽霊なら、その幽霊が探してる女の人がこの辺の旅館とかホテルに泊まってる事になるよね。――もしかしてこの旅館かも」

「にゃっ――」

 

 うお、……っと。危ねぇ。もう少しでお吸い物が零れる所だった。急に抱き着いて来てどうした……?

 

「い、いい、今! 今、背中! 背中がスゥってしたの……!!」

 

 なのはの言葉を聞いて、その場の全員が動きを止めた。すると、何処からか風の通る音が聞こえ、

 

「……何だ。隙間風か」

 

 ちょうどなのはの後ろにある窓が、少しだけ横にずれていた。多分、その隙間から入って来た風がなのはの背中に当たったんじゃないかなあ。

 

「大丈夫。今のは幽霊じゃないから」

「本当……?」

 

 本当本当。ただの隙間風だから安心して。

 

「うぅ、ビックリしたぁ……。そうだよね、幽霊なんて本当は居ないんだもんね」

「え?」

「え? ……あっ」

 

 ……アリシアさんや、どうしてそこで疑問の声を上げちゃうかなあ。

 ほらそこ。プレシアさんもリンディさんも不思議そうな顔しないの。それじゃまるで幽霊を見た事ある、って言ってるようなものじゃないですかー。

 

「もしかしてお二人は幽霊を見た事が……?」

「ま、まあ。それはもう可愛らしい幽霊を少し前に。――ねえ、リンディ?」

「ちょ、え、ええ! それはもう可愛らしい幽霊を以前に。――ねえ、エイミィ?」

「なぁ!? そ、そうですね! それはもう可愛らしい幽霊をちょっと前に。――ねえ、クロノくん?」

「僕が見たのは映像だったのでアレが本物かどうかは断言できません」

『その手があった……!』

 

 気付いてよ。

 

「さっすが海外出身は違いますねー。私たちとは見てる世界が違うって感じ。そういえばノエルさんとファリンちゃんも海外出身だったよね? 確かドイツだっけ」

「はい。といっても私とお姉様はこちらで過ごす時間の方が長いので、美由希ちゃんと同じで幽霊を見た事はないです。……ないですよね? お姉様」

「残念ながら。美由希様のご期待に添えず申し訳ありません。――まあ、それ以外はありますが」

「ええっ……!?」

 

 わざと言ってるでしょノエルさん。口元ちょっと緩んでますよ?

 

「おっと。どうやら温泉に入って少し気分が高揚しているようです。冗談ですよ、冗談。フフ」

「…………なのは、ちょっとリニス預かってもらっていい?」

『逃げましたね』

『ええ、逃げましたね』

『秋介』

『アリシアに手刀一発確定、と』

『まだ何も言ってないよ……!?』

 

 はいはい。じゃあ俺トイレ行ってくるからリニスの事よろしくねー。

 

 

 ~星の間に陽の間、そして――~

 

 

 トイレから戻る途中、他と比べて一段と賑やかな声が聞こえてきた。見ると、俺たちがごはんを食べていた宴会場から一つ挟んだところからだった。

 

「ほほう。「月の間」とな」

 

 随分と盛り上がってるみたいだけど何してんだろう。

 

「……ちょっと覗いてみるか」

『覗いちゃうんですね、マスター……』

 

 ダメな事だっていうのは分かってる。でも、中から聞こえてくる声が妙に気になるんだよねえ。

 ……この、なんだか絶対にカラオケマシーンを見せちゃいけないと感じる声はまさか……!

 ほんの少し、五センチほど障子をずらして中を覗くと、

 

「して、そこの赤と緑。さっきから一体何を隠しておるのだ? そこまでして余に見せたくない物なのか」

「君に、ではなく君たちに、だ。コレが君たち二人の手に渡ってしまったが最後、この場、ひいてはこの旅館そのものが全滅してしまう恐れがあるのでね。――絶対に死守させてもらう」

「な、なによグリーン裏切るの!? アンタ、私のマネージャーでしょ!? アイドルが見たいって言ってんだから見せなさいよ!」

「裏切るもなにも最初っから味方でもねーんですけどね。あと誰がマネージャーだ。お断りだっつーの。今回ばかりは赤いのの言う通りだからな、面倒だが共同戦線だ。――絶対に死守させてもらう」

 

 赤と赤、紅と緑。先に動いた方が負けと、そう言わんばかりに緊張感を高めた。するとそんな光景を横に置いて、狐耳のピンクが、

 

「さささ。あちらは紅茶さんと緑茶さんに任せて、私たちはお食事の方を楽しみましょうか。あ、そちらは茶碗蒸しというものです。ええ、文明で言えば良い文明の方で、悪い方の文明は、今回の場合あちらのカラオケマシーンになりますね」

「どうして、カラオケが悪い文明? 歌う事は悪い事なのですか……?」

「いいえ。歌う事は悪い事ではありません。……が、歌い手によっては変わってしまうのです。よろしいですか? ――いくら自分の声に自信があろうとも音痴では救われないのです」

「そうよー。もしそういう輩の歌を聞いたらこう言ってやればいいの。――ショウジキナイワー、って。あ、狐ちゃんその天ぷらちょうだい」

「……なあ、オレもう帰りたいんだけど。ダメか? ダメか。むう、それなら部屋に戻る。確か売店にストロベリーのアイス売ってたよな。……なんだよ。放せよ」

 

 行っちゃダメー、と大小それぞれの白に、着物の青がまとわりつかれた。迷惑そうな顔をしながらも席に戻る辺り、あのお姉さん、結構いい人だよね。

 ……幽霊どころの騒ぎじゃない……!

 下手したらこの旅館が阿鼻叫喚の地獄絵図になるとこだったのね……。カラオケマシーンを死守してくれてるお兄さんたちには感謝しかない。若干、赤と紅のお姉さんたちに押されてるようにも見えるけど大丈夫だと信じよう。ともあれ、

 ……そろそろ戻るかなあ。

 流石にこれ以上覗き続けるのは気が引ける。俺としてはもうちょっと覗いていたんだけどね!

 

『マスター。たった今リニスさんから、マスターの天ぷらをアルフさんが狙っているとの連絡が』

「――急いで戻るよ……!」

 

 と、スタートダッシュを決めた瞬間、何かにぶつかった。蹴られたような衝撃を受けて二、散歩下がる。その場に尻餅をついて、ぶつかった何かを見上げると、

 

「おお? しまった。ちょいと考え事してて気が付かなかったよ」

「まったくもう……。ちゃんと前を向いて歩かないからこうなるんですの」

「大丈夫かい? どこか怪我とかしていない?」

 

 えんじ色の髪の、顔に大きな傷跡のあるお姉さんと、金髪お姉さんに銀髪女の子だった。

 ……うそん。

 

「なんとか……」

「そう。なら良かった」

「本当に大丈夫ですの? もしよかったら部屋まで送っていきますけど……」

 

 いや本当に大丈夫だから。いきなり走り出した俺も悪いし、それにすぐそこの宴会場に戻るだけなんで。

 

「すまなかった。ほら、立てるかい?」

「ん、立てる」

「そりゃよかった。じゃアタシらはもう行くよ。本当にすまなかったね」

「それでは」

「ばいばい」

 

 そう言って、温泉の方へと歩いて行くお姉さんたちを見送りながら、

 ……いやまさか、ね。

 一瞬、さっきの幽霊話の事が頭に浮かんだけど考えるのはやめておく。

 

「あ、俺の天ぷらが……!」

 

 

 ~……ん?~

 

 

 食事を終え、皆で枕投げやらトランプを一通り遊んだあと。それぞれ部屋に戻って寝ることにした。それから少しして、

 

「うぁ」

 

 ふと、目が覚めた。

 暗く月明りだけが頼りの部屋の中、クロノとユーノが左右で寝ているのを確認して、

 ……今何時よ。

 

『午前二時十三分。いわゆる草木も眠る丑三つ時ですね』

 

 ううわ、まだ夜中じゃないですか……。どうして今日に限って夜中に目が覚めちゃうかなー。

 寝る前の枕投げがいけなかったか。それともトランプ大会か。まあ、多分、どっちも関係ないんだろうなあ。

 と、窓の外から妙な感覚が来た。

 

「……セラフ、この感じって魔力?」

『はい。どうやら先ほどの幽霊話、噂ではなかったようです。――今しがた、海の方から魔力反応の出現を確認しました』

 

 やっぱり……。

 

「その場所の映像、見られる?」

『もちろんです』

 

 セラフの言葉と同時に、小型の空間モニターが現れた。

 

『――――』

 

 モニターの中、髑髏の旗を掲げる船から歓声が上がった。

 甲板の上、そこにはいくつもの人影が見える。その中の一つ、大柄な男らしき人影が大袈裟な動きで、

 

『クク、ハハハ。ハハハ、ハハハハハ! ア――ハッハッハドゥーフフフフフwwwww!!』

 

 寝直してもいいよね? コレ。




 前回ここで書くと言った短めの三話の内、一話は番外編になる予定。
 
 それにしても最後の笑い声は一体誰なんでしょうね……!?

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