転生少年と月の目モドキ   作:琴介

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 季節的にもうハロウィンじゃねえか、って感じですが、やっとこさの海回です。


第二十五話:夏といえばやっぱり海

 青い空。白い雲。さんさんと降り注ぐ太陽の日差し。

 その日差しをキラキラと反射しながら揺らめく、果ての見えない紺碧の色。

 

「行ったわよ、なのはっ」

「え、あ、アリサちゃ、――んにゃんっ!?」

「……っ、なのはが上げてくれたボールは私がすずかに……!」

「ナイストス、フェイトちゃん! ――アリシアちゃん、それっ!」

「まっかせろぉ――!」

 

 と、そんな風景を背に水着姿でビーチボールを落とさないように回し、空高く打ち上げる皆。

 

「ああ、なんてかわいらしいの……。あの子たちの水着姿が見られるなんて、本当に、本当に生きていてよかったわ――!」

「まあ。プレシアさんったら本当にアリシアちゃんとフェイトちゃんの事が大好きなんですね」

「時々、それが過ぎてとんでもない事をしでかしそうになりますけど。ええ。立派な子煩悩(親バカ)です。――あ、こらプレシア! そのビデオカメラ防水じゃないんだから海に潜ろうとしない!」

「大丈夫。今の私に不可能はないわ、リンディ。――だってあの子たちを撮るためだもの……!」

「貴女になくてもビデオカメラにはあるのよ――!」

 

 そんな皆から少し離れた所で騒ぐ母親組、もといプレシアさんとリンディさん。二人を呆れもしないで笑いながら眺める桃子さんは、なんか流石としか言いようがない。

 普段から似たような人たちと一緒に居るからなあ。

 

「いいかい恭也。なのはたちの事は秋介に頼んだから、もしもの時まで僕は母さんたち、お前は美由希や忍ちゃんたちのガードだ。――気を抜くなよ?」

「分かってるよ父さん。向うは俺に任せてくれ」

「微力ながら私もお手伝いさせていただきます」

 

 その似たような人たちと執事さんが二手に分かれた。

 士郎さんが母親組。恭也さんと鮫島さんが海の家で、「やっぱり焼きそばしなびれてる……!」「このカレー具がない……!?」「でもなぜか」「美味しく感じるのは」「どうしてなんでしょう」とかやってる美由希さんにエイミィさん、忍さんとメイド姉妹たちお姉さん組に付いた。

 というかガードって何に対してなんだろう。

 夏の海によく出現する声かけお兄さんたちに対するガードか、それとも旅館の女将さんに聞いた「女を攫う幽霊」に対してなのか。まあ昼間から幽霊が出ないとは思うけど、士郎さんの事だからそのどっちに対してもなんだろうなあ。そもそも幽霊の事信じてるのかは別として。

 ともあれガード組を見て思う事がある。

 ……鮫島さんすげえ。

 真夏の海、それも太陽の日差しが強い中でも普段と変わらずの執事服ですよ。あの人、春夏秋冬どこに行くにもあの格好で、しかも常に涼しい顔してるもんだから見てるとたまに季節が分からなくなる。一昨年の旅行で海に行った時も執事服だったし、去年の旅行は山でキャンプだったけどそこでも当然のことながら執事服だった。

 そう言えば鮫島さんの私服姿とか今まで一回も見た事ない……。

 

「鑑だね……」

 

 まあ、よそ様の執事さんがどうなのかは知らんけども。

 

『アリシアとフェイトですか?』

「いやそっちの鏡じゃないかなあ」

 

 ビーチパラソルの陰に座って、海の家で買った瓶ラムネ片手に皆を眺めてたら膝上のリニスが顔を上げた。一度首を傾げ、俺と同じ方を見てニャウと一鳴き。

 

『なるほど。鮫島さんですか』

『なあなあ、……そんな事よりさあ秋介。お水ちょうだい。さっきから暑くて溶けそうだよ……』

 

 続いて子犬モードのアルフが顔を上げた。暑いのかグッタリとした感じで俺の膝に顎を乗せ、

 

『う~。こんな事ならこの姿でこっちに来るんじゃなかったよ。私もフェイトと一緒に遊びたい泳ぎたいー』

 

 そりゃ仕方ない。最初にその姿で皆には紹介しちゃったし、いきなり旅行当日に同じ名前のお姉さんが現れたら変に思われる。子犬の方がいなくなっちゃうんだから余計にね。

 

「なら行って来ればいいのに。別に、海でペットと一緒に遊ぶ飼い主なんて珍しくもないよ?」

 

 現に向うの岩場にも犬を連れたお姉さんが……、

 

「よし。お前たち、ちょっと潜って今夜用の食材を獲ってこい。そしてフグとやらを獲ってこい。アレの毒なら万が一という事もあるやもしれん。

 ……あっ、決して私が食べたいからではないぞ? 刺身にしてまとめて食べたいとか、そんな事ないからな? 分かったか。分かったな? ――なら行け、その槍にかけて!」

「いや行かねえよ! 急に呼び出して何言い出すんだ! つーかよくその説明で行くと思ったな!? あんたがフグ程度の毒に負ける筈ねえ、ただ単に食べたいだけじゃねえか!」

「断じてそんな事はないぞっ」

「大体、オレは釣りがしてえんだ、行かせるならこっちにしやがれ! 急造品の槍でちょうどいいだろうが! あと何が「ないぞっ」だ。いい歳して可愛くねぐあぁあああ――!」

「はあ!? ふざけんじゃねえ! オレだって好きで急造品使ってんじゃねえんだよ! そんな理由で選ばれてたまるか……! あと師匠は歳を考えぐあぁあああ――!」

「おいコラ。テメェ。それは杖持ってるオレに対しての嫌味か? ああ? だったら使ってない槍よこせや! 今のテメェ以上に使いこなしてやらあ! あといくら何でも「ないぞっ」は流石にキツイぐあぁあああ――!」

「はーはっはぁ! いやまったく。お前たちは変わらんな! 見ていて飽きん。――さあて、それじゃあ俺は女子でも釣りに行くとするか」

「何処に行く。――お前も行くのだ。その剣っぽいドリルでちょっと獲物を突いてこい」

「――なんと!?」

 

 生殺しか!? の叫びと共に、おじさんを含めた、三人のそっくりなお兄さんたちが海に叩きこまれた。叩き込んだお姉さんが腰に手を当て、

 

「ふむ。……びーちちぇあとやらで一休みするか」

 

 一瞬でタイツ姿から水着姿に変わったお姉さんが、こっちに向かって歩いて来る。途中、金髪ロングのお兄さんと泣き黒子が印象的なお兄さんを見つけて、

 

「ちょうどいい、お前たちも潜ってフグ獲ってこい。人手は大いに越したことはないからな」

 

 と、かなり理不尽極まりない事を言いながら、何か言いかけた二人を海に叩きこんだ。

 お兄さんたちは一体何を言おうとしたのか。大体の予想はつくけど俺は絶対に口に出さない。叩き込まれたくないからね!

 ……よし。今のは見なかった事にしよう。

 触らぬ神に祟りなし。てか何でお姉さんが犬を連れてると思ったんだろ。うーん、……あ、お兄さんたちの雰囲気的な?

 

「ごめんアルフ、犬違いだったわ」

『……? よく分かんないけど。とりあえずお水おくれよ』

 

 ああそうだった、と後ろのクーラーボックスからペットボトルを取り出して、キャップを外してアルフに渡す。

 

『んぐ、んぐ、……プハァ。あー生き返るう』

『ペットボトルのままとはまた器用な……。ああもう、そんなに慌てて飲むと零しますよ。秋介、タオルをお願いします』

 

 俺としては、渡したタオルでアルフの口元を拭くリニスも器用だと思うんだけどなあ。

 

「器用以前に普通はそのまま水を渡さないだろう」

 

 と、なにやら豆が乗った紙皿を持ってクロノが戻って来た。

 

「お帰りー。海の家には並んでなかったみたいだけど、それ何? どこで買って来たの?」

「ああ、向うの屋台で買ったんだ。確かひよこ豆? のペーストとかいうものらしい。快活そうな店主に勧められたんだが、……中々に美味しいぞコレ」

「へえ。ならあとで俺も買ってみようかな……。あ、ところでクロノ、アースラから連絡があったとか言ってたけど何だったの?」

 

 その為に席を外したって事はもしかしてなにか事件?

 

「たいしたことじゃない。ただ、この辺りで妙な魔力反応のようなモノがあったから注意を、との事だ。席を外したのはちょっとした見回りだよ。特にそれらしいモノは見当たらなかったけどね」

「そうなのセラフさん?」

『はい。確かにこの辺り、特に海辺でそのような反応があります。といっても今のところ問題が起きるような気配はありませんから、一応注意しておく、くらいで十分かと』

 

 なるほどねえ。

 

「じゃあなんかあったらよろしく執務官」

「その時は君も強制参加だからな。あとそこのフェレットも」

『急にこっちに飛び火した!?』

 

 おお、今の今まで静かだったから忘れてた。ユーノ、さっきから一生懸命なにやってんのよ。

 

『これ? これは』

 

 と、ユーノが言いかけた時、向うでアリシアが打ち上げ損ねたボールが勢いよくこっちに飛んで来た。そして、

 

「ぼうっ」

「キュッ!?」

 

 俺の顔面にクリーンヒット。バウンドしたボールがパラソルの裏にぶつかって、続いてユーノを襲った。

 

「……大丈夫か、ユーノ?」

『な、何とか』

「俺の事は心配してくれないのね、クロノ……」

「君の事は心配する必要ないだろ。ラムネが台無しになっただけのようだし」

 

 そう言いながらユーノの向う側に座ったクロノが、タオルを差し出しながら俺の膝元を指した。

 見ると、いつの間にか手から落ちた瓶から中身が零れていて、

 ……ラムネのシュワシュワ感が太股を……!

 と、思うが、別に今は水着を着ているからセーフ。でも一応、クロノから受け取ったタオルでラムネを拭いておく。あれ、そう言えばリニスが膝上から消えて……。

 

『危なかったです』

『流石はリニスさん。アリシアさんの「あっ」って声を聞いて即座にマスターの頭の上に避難とは……。見事な身のこなしです……!』

『秋介の何処にどう足をかければ効率よく、そして素早く登れるかは熟知していますので。ええ、服を着ていない分いつも以上に爪を立てないように気を付ける必要はありますが、――余裕です』

『登らなくてもジャンプで十分なんじゃ……』

『『アルフ(さん)は分かってない』』

 

 なにがだよ。俺だって分からないからね? って、アルフ。リニスに登り方聞いて試そうとしない。あとユーノも『なのはと秋介は登り方違うからなあ』なんて頷いてないでよ……。

 

「秋介ごめーん。だいじょーぶー? あとボール取って――」

「あいよー」

 

 こっちに手を振るアリシア目がけてボールを投げ返す。少し風に流されておでこにヒット。

 

「惜しい……。次こそは必ず」

『当てたら雷が落ちて来そうですよねー』

 

 一瞬、バチバチ、と電気が走ったような音が聞こえた気がしたので予定変更。寝る前の枕投げでやり返そう。

 

「それで、ユーノはさっきから何してたの」

『ああ、うん。実はね、なのは用に僕たちの世界の事をまとめた資料を用意してるんだ。ほら、今度フェイトと一緒に”嘱託魔導師認定試験”を受けるから、その筆記試験対策でね』

『あー、アレな。私、フェイトと一緒に受けるんだ。お互い頑張ろうなー。秋介』

 

 お互い頑張るって、……何が? それに、しょくたくまどうしにんていしけん?

 

『もしかして秋介は聞いてなかった? てっきり二人かクロノに聞いたと思ったんだけど』

 

 ユーノが首を傾げてクロノを見た。

 

「僕はちゃんと話したぞ、こっちに来た日に。……まさかとは思うが聞いてなかったのか?」

「えっ……。あ、いや、ちゃんと聞いてたよ? アレでしょ? なのはとフェイトが嘱託魔導師の試験を受けるとか、受けないとかって、……話?」

「えっ、とか言わなかったか今。秋介、絶対にあの時の僕の話を聞いていなかっただろ。最後疑問形だったし」

 

 そんな事ない。そんな事ないですよう……? 大丈夫、覚えてるから。今思い出すから。クロノがこっちに来た日って事は三日前の事だよね? あの日って確かお昼過ぎに突然プレシアさんが、

 

「海への旅行にリンディたちも行くことになったから迎えに出てくるわ。あ、旅行までここに泊まるそうだからよろしく坊や」

 

 とか言い出してセラフさんとリニス連れて行っちゃったもんだから、大慌てで部屋の準備やら掃除をしたのは覚えてる。

 それで、帰って来たプレシアさんがリンディさんを連れて高町家に挨拶に行って、残ったクロノとエイミィさんに手伝ってもらって掃除やらを終わらせて……。

 

『そのあとアリシアさんが「今夜はすき焼きにしようよ」って言い出して、足りない分の野菜とかお肉の買い出しでドタバタしていましたから』

『おまけにフェイトがおつかいに行った帰りに迷子になって、その連絡聞いたプレシアが血相変えて迎えに行きましたが、アレ、今思えば転移魔法使ってうちに呼び戻した方が速かったですよね』

 

 もしそうだったとしても周りに人が居たら「海鳴市騒然!! 昼間の住宅街で女の子が神隠しに!?」みたいな見出しが新聞の一面を飾ったんじゃないかなあ。

 まあそれはそれとして、そのあとも色々あった。

 ごはんの準備中にアリシアが糸こんのニュルニュル感に驚いてすっ転んで、近くにいたクロノに激突。そのクロノがバランスを崩して卵を冷蔵庫から取り出してた俺にぶつかり、二人揃って頭から卵をかぶる、なんてことがあった。お陰でお風呂に入ることになったけど、

 ……そう言えばあの時、クロノが何か言ってた気がする。

 頭洗ってる最中だったから適当に「あー」とか「なるほどねー」「確かに」って返事してたけどまさかあれが……? 

 

「はあ」

 

 まったく、とクロノが頭を抱えた。

 

「……もしかして何か重要な話とかしてた?」

「いや。重要な話はしてないよ。君も二人と一緒に認定試験を受けることになったくらいだから、まあ、気にするな」

 

 メチャクチャ気にするよソレ……! なにサラッと重要な事言ってんの!?

 

『適当に返事するからですよ、マスター……』

『人の話はちゃんと聞かないとダメですからね?』

 

 くぅ、セラフとリニスの言葉が刺さる……!

 

「そうだろうと思った。あの時、随分と気のない返事だったからまさかとは思ったが……。まあいいや。それじゃ改めて聞くが、君も”嘱託魔導師認定試験”を受ける気はあるか?」

「あるよー」

「即答だな」

 

 まあね。もしここで断ってもどの道あとからなのはとフェイトにも誘われる気もするし。二人そろって上目遣いで「一緒に試験受けよう?」なんてやられたら断れる気がしない。それに、

 

「嘱託魔導師になっておけば、何かしでかしても俺を誘ったクロノの所為にできる」

「おい」

「というのは冗談で。実際は嘱託魔導師になっておけばこっちの世界で何かあった時、俺の判断で勝手に動いても大丈夫かなー、って」

「その言い方だと近い内にまた何か起きるように聞こえるな」

「そりゃ二十一個のジュエルシード全部が綺麗に揃って落ちて来る世界だからね、此処は。しかも一つの街に。また何か起きても不思議じゃないって」

 

 現に今だってこの辺りに妙な魔力反応があるみたいだし、中々気が抜けないよねえ。

 

「……まあ、理由はどうあれ、使い魔持ちの魔導師が管理局に協力してくれるのはありがたい」

『ねえクロノ、どうして使い魔のとこで僕を見た』

「どうしてって、君はなのは使い魔だろう? ――ネズミ素体の。あ、フェレット素体か?」

『しつこいなあ……!』

 

 いつも通りのクロノとユーノの飽きないやり取りを見ながら、ふと疑問に思った。

 

「あのさクロノ、もしかしてその使い魔持ちの魔導師って俺の事? フェイトじゃなくて?」

 

 聞くと、他に誰が居るんだ、といった具合にクロノが首を傾げた。

 ……ああ、そっか。まだ言ってなかったっけ。

 

「君にはリニスが居るじゃないか。以前本人に聞いたが、元はプレシア女史の使い魔だったらしいが今は君の使い魔なんだろ?」

『うん。僕もそう聞いてる』

「それはちょっと前までの話。今はもうリニスは俺の使い魔じゃないよ」

「……つまりどういうことだ?」

 

 別にそこまで難しい事じゃない。ただ単に、

 

「クロノたちが来る前、というかプレシアさんたちがうちに来た日なんだけどね? その日にプレシアさんに頼まれたんだよ。――リニスをもう一度、自分の使い魔として契約したい、って」

 

 だからまあ、契約した時と同じようにセラフに頼んで使い魔の契約を移譲してもらったのよ。俺からプレシアさんにね。

 

「今のリニスは俺じゃなくて、元通りのプレシアさんの使い魔。元の鞘に納まったって感じかな」

「――ああ、だからプレシア女史はこの前、母さんに使い魔の登録申請書類を頼んでいたのか。

 なるほど。フェイトに渡すものかと思ったが、そういう……」

 

 なにやらクロノが一人で納得し、頷いた。

 すると向う、いつの間にかボールのトス回しからビーチバレーにシフトした、なのはたちの方で声が上がった。何事かと顔を向けると、フェイトが砂浜を蹴って大きく飛び上がり、

 

「せ――のっ」

 

 アリサとすずかが見上げる、相手側のコートにシュートを叩きこんだ。が、それをすずかが拾い、アリサがトスを上げ、さらに今度はすずかが飛び上がり、

 

「えいやっ」

「にゃ?」

 

 目を輝かせてフェイトを見上げていたなのはの顔横を通過させ、シュートを返した。

 ……すずかすげえ。

 

「すずかすげー……。と、あ。アリサ・すずかチームに一点!」

 

 俺と同じことを思ったらしいアリシアが左手を挙げ、どこから拾って来たのか紅い棒状のモノを点数に見立てて砂浜に突き刺した。

 

「じゃあ次はこの黄色いヤツだから、……そうだなー。ちょっと趣向を変えて点数二倍でどう?」

「ならこっちの朱色は三倍なんてどうかな」

「この、……杖っぽいのはどうするの?」

「ノーカン。コートの線を書き直すのにでも使えばいいわ」

「じゃあこのドリルっぽいのは?」

「紅いのと一緒で一点。というかなんでこの海にはドリルとか杖とか槍っぽいモノが流れ着くワケ? 近くでコスプレ大会でもやってるの?」

 

 強制参加の素潜り大会はやってるんじゃないかなあ。

 

「……流石は君となのはの友達だな」

『フェイトと張り合うすずかって一体何者……?』

「運動神経がメチャクチャ良い普通のお嬢様だよ」

『お嬢様で普通って、感覚麻痺してないかい、秋介?』

 

 アルフの言う通り麻痺してるかもねえ。アリサだってかなりお嬢様だし、見方を変えればアリシアとフェイトだってお嬢様でしょ?

 リニスに写真とか見せてもらったけど家メッチャデカかったじゃん。向うの世界じゃどうか知らんけど庭園付の屋敷って、こっちの世界じゃかなりランク上の方だからね?

 

『ならマスター。私たちは空中庭園でも造ってランクのトップを狙いますか』

「そんな面倒くさい事しません」

 

 え、造れるの……!? とリニスを除いた周りにかなり驚かれた。いや、魔法の世界の住人が空中庭園くらいで驚いてどうする。こっちからしたらアースラも中々だからね? と返してバレーを再開したなのはたちに目を向けた。

 と、そんな皆に近づく人影を見つけた。その人影が、なのはが変な方向に飛ばしたボールを拾おうとして、

 

「デュフ」

「アウトォ――!」

『うあっ!? 急にどうしたの? 秋介。び、ビックリしたぁ……』

 

 おっとごめんユーノ。それに他の皆も。つい反射的に叫んじゃった。

 でも仕方ない、今のは絶対に仕方ない。

 ……ついに大人組に頼まれた仕事をする時が……!

 今日の朝、海に着いた時に士郎さんたち大人組に頼まれた、重要な任務がある。それは、

 ……なのはたちに近づく変質者を見つけたら叫べ、か。

 拾ったボールを手に、何故か若干、内股気味に皆に近づく人影を確認する。

 多分、二メートル越えの巨漢。白髪に見える、髪に交じった導火線のようなモノ。黒い髭。

 

「ンン。このボールをきっかけにあの水着美少女たちに声をかけて、そしてバレーを一緒に楽しんじゃったりなんかしてキャッキャウフフな夏の海を満喫する。――デュフフフ!

 なんという完璧な作戦。拙者、自分で自分の才能が怖くなってきましたぞ……!」

 

 変な笑い方に、変な喋り方。加えて皆に近づくにごとにニヤついて行く顔。

 うん。間違いなく、

 

「アウト――ッ!!」

 

 立ち上がり、さっきより大きく、目標が分かるように手で示しながら叫ぶ。同時に、何処からともなく現れた二つの人影が巨漢の前に立ちふさがった。

 一つは長身の、前の開いたパーカーから偶に覗く幾つもの傷跡が印象的な男の人で、もう一つは、傷跡はないがその男の人によく似たお兄さん。

 二人は目の笑わない笑顔で巨漢の肩に手を置き、

 

「すみません。我々、あの子たちの保護者なんですが」

「ちょっと一緒に来てもらえませんか?」

「え、いやちょっと拙者まだ何もしてな」

「ほう。まだ、ですか」

「という事は、これから何かするつもりだったんですね」

「いやぁ、拙者のバカァ――」

 

 巨漢に有無を言わせず、岩場の方に引き連れて行く二人は、――士郎さんと恭也さんだった。

 

「……? 今何か悲鳴が聞こえなかった? あと雷の音も。……夕立でも降るのかな」

「気のせいじゃない? それよりもどこまでボール飛ばしたのよ、なのは」

「確かこっちの方に飛んで行ったと思うんだけど……」

「あ、あれじゃないかな。あそこに落ちてるの」

「それじゃあバレーさいかーい……!」

 

 なのはたちがチームに別れた所で、ひよこ豆のペーストを食べ終えたクロノが、

 

「……流石だな。なのはの家族は」

『うん』

「だよねえ」

 

 とりあえず、俺たちもバレーに混ぜてもらおうかな。




 海回は今回を含めて三話構成。
 そのあと短めを三話やってからA’s編に入る予定。

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