転生少年と月の目モドキ   作:琴介

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 前々から書きたかった上に感想欄にも以前コメントを貰っていたので、元々はA’s編のあとに書く予定だったんですが前倒ししていっちょ書いてみるか、となったネタです。


第二十四話:面と向って言うのは恥ずかしいんです

「うお、まぶしいぃ……」

 

 カーテンの隙間から差し込む朝日が、顔に直撃した事によって目が覚めた。身を捩って朝日から逃げ、枕元に手を伸ばして携帯を探す。見つけた携帯を開いて時間を確認し、

 

「七時半……」

 

 せめてあと三十分、八時くらいまでは寝たかったなあもう……。

 ……そうだ、二度寝しよう。

 それが良い。そうしよう。今日は土曜日だから二度寝しても誰も文句は言わないよね。

 

「…………」

 

 ……無理か。

 どうにもさっきの朝日による顔面直撃起こしのお陰で眠気が少し飛んだらしい。これはもう起きるしかないかなー……。

 

「ん。ん――、よ、っと。ふう」

 

 寝たまま、仰向けの状態で伸びをして、頭の上に伸ばした手を振り下ろす勢いで上体を起こす。一息ついてベッドを下り、カーテンから覗く雲一つない空を仰ぎ、

 

「……朝ごはんは卵焼きかなあ」

 

 遠く、楕円の形の雲が流れるのを見て口が卵焼きの気分になった。あ、でも卵かけごはんも捨てがたい。どっちにしよう……?

 

 

 ~やっぱり卵焼きかな~

 

 

 トントントン、とリビングから小気味よい音が聞こえてくる中、洗面所で歯を磨く。歯磨き粉のミントな刺激と冷たい水で顔を洗ったことで、残っていた眠気が飛び、

 ……えっ、リビングに誰かいる。

 タオルで顔を拭きながら、そこでふと気が付いた。

 リビングからの音をよく聞くとそれは包丁がまな板を叩くような音で、漂ってくる香りからしてリビングに居る誰かさんは料理をしているようだ。

 おかしい。今うちには俺とセラフ以外誰も居ないはずだ。もしかしたらリニスがサプライズ帰宅をして朝ごはんを作ってくれてる、なんて可能性があるにはあるけど……。

 

「いやまさかね……」

 

 泥棒だったりして。でもそれだったら何で料理してるんだろう……。

 ごはん目当ての泥棒かな、と考えながらこそっとリビングに入り、キッチンを覗く。

 

「ふふ~、ふふん。ふふふ~」

 

 鼻歌交じりに、テンポよく小ネギを刻む女の子がいた。背の高さはなのはと同じくらい。髪は肩に着かない程度の長さだ。格好としては白のTシャツにホットパンツ、太股の上まで来る黒のソックスで、焦げ茶色のエプロンをつけているその女の子は、

 ……いや誰ぇ。

 まったくもって初見さんなんですけどあの子。というかどうやってうちに入って来たんだろう。

 一応、うちにはセラフが張った防犯用の結界がある。

 泥棒とかそういった怪しい類の人がうちの敷地内に足を踏み入れた瞬間に結界が反応して、学校だろうが夢の中だろうがお構いなしに変なピロリ音が知らせてくれる仕様だ。

 それと同時に侵入者に対して”急に頭が痛くなる”、”急にお腹が痛くなる”、”急に金的が二連続蹴りからの飛び蹴りを受けたように痛くなる(男限定)”の、三つの呪いの中からどれか一つがランダム発動する。……らしい。

 実際に発動した事がないからどんな感じのピロリ音かは未だ不明。セラフは『こう、頭にキュピーン! と来る感じです!』とか言ってたけどそれはもうピロリ音じゃなくてキュピーン! って音のような気もする。

 ともあれ今日はそんなピロリ音もキュピーン! もなかった。つまり、

 

「ふふふ~、ふふ~ん」

 

 さっき刻んだ小ネギを醤油と一緒に混ぜ込んで、フライパンに流し込んだ黄色い、――アレは卵焼きだね!? しかもネギ入りの! を、器用に返して厚みを作る女の子は、そういった類じゃない事は確かだ。

 ……それでも結局あの子が何者かは謎なんだけどねー。

 

「よっ」

 

 と、綺麗に焼き上がった卵焼きをお皿へと移した女の子はフライパンを置き、次に横の鍋の蓋を取って菜箸をお玉に持ち替える。中身を掬って味見して、空いた方の手で小さくガッツポーズ。

 ……ほほう。

 匂い的にあの鍋の中身はお味噌汁か。なら赤みそか白みそか、はたまた合わせみそか。昨日は白みそだったから今日は赤みそのが食べたい気分。

 

「ええ。そうだろうと思いまして今日のお味噌汁は赤みそです。具はお豆腐と油揚げ、お好みで卵を落としましょうか」

「卵焼きがあるなら落とさなくていいよー、――はっ」

 

 しまったバレてる!? 気配を消しきれていなかったのか……!

 

「いえ。気配が云々以前に階段を下りる音とか廊下を歩く音で気付きますよ」

「あー、確かに……」

 

 いくら料理をしていてもリビングの前を通る足音くらいは聞こえる。ましてやテレビもついてない、包丁の叩く音が洗面所まで聞こえるくらい静かだったんだから階段を下りる音だって聞こえるよねー。

 

「それじゃあちょうど卵も焼き上がりましたから、食べましょうか朝ごはん。先に座って待っていてください。あ、ごはんとお味噌汁はどれくらいにします?」

 

 少なめかなあ、と答えて席に着く。テーブルの上には既に二人分のおかずが用意されていて、

 ……これは見事な和食系朝ごはん……!

 焼きたて、と見て分かるように湯気が立つ鮭と、その横に置かれた二つの小鉢の中身は、鰹節のかかったほうれん草のおひたしと冷ややっこだ。それに加えてあとから卵焼きがくる。

 これはまるで、

 

「おじいちゃんとおばあちゃんの朝ごはんみたい、ですか?」

 

 と、女の子が切り分けた卵焼きと、二人分のごはんとお味噌汁を乗せたお盆を持って来た。

 

「そう。そんなイメージがする。これでうめぼしとか味付け海苔があったらもう完璧で」

「勿論あります。今もって来ますね」

 

 そう言って女の子がごはんとお味噌汁、卵焼きをそれぞれ配置してキッチンへと戻った。

 ……アレこれっていつも俺が使ってる茶碗とお椀だ。

 なんであの子が知ってんの? 置いてある箸だって俺のだし……。もしや今の俺の状況は俗にいう「朝起きたらそこは異世界だった……!」の並行世界Ver.って可能性が――。

 

「いや無いですって」

「だよねー」

 

 もしそんな事になってたら朝一でセラフが教えてくれるって。はっはっは。…………ん?

 ……そういえば今日セラフを見てない……?

 どこに行ったんだろう。黙って居なくなるなんて事は今まで無かったのに。いつもなら起きると目の前に居たり頭に乗ってたりする。もしくは朝ごはんの準備を――。

 

「――まさか」

 

 いやいやいやいやいや。そんなまさか。いくら何でもそれは、……ありえそうだから困るなあ。あるだろうなあセラフなら。うん。黙って居なくなる事は無くても黙ってサプライズを計画する事はあると思う。

 

「どうしました?」

 

 冷蔵庫からうめぼしを、棚から味付け海苔の缶を取り出して女の子が戻って来た。

 俺の向かい側の席に座り、二つをテーブルの真ん中に置く。首を傾げて私の顔に何かついていますか、それとも何処かおかしな所でも……、と自分の顔をペタペタと女の子が触りだした。

 ……何ですぐに気付けなかったかなー……。

 あのかわいい声にさっきのやり取り、というかむしろ最初の俺に気付いていたと、そう言われた時点で分かりそうなものだったのに。いやホント、眠気が飛んだからといって頭が回るとは限らないね……。

 

「あのー」

「ああいや。かわいい声だったから、つい」

「もう……!」

 

 うれしいですよ! と、女の子はほんのりほっぺを染めながら照れ笑う。

 やっぱり。この声にこの反応、この子は間違いなく、

 

「セラフ、だよね……?」

「――はい。そうですよ、マスター。やっと気が付いてくれましたか。ふふ、試しに人の姿になってみたんですが、……どうです?」

 

 上目使いで小首を傾げるその仕草は、反則だと思います。

 

 

 ~セラフがセラフさんに。あ、セラフちゃん……?~

 

 

 セラフの手作り朝ごはんを美味しく食べながら、どうして人の姿になったのかを聞いた。理由としては単純なもので、

 

「マスターを驚かせるためのサプライズです。新しく魔法を作ってみました。どうです。驚きましたか? 驚いたのなら卵焼きを、驚かなかったのならごはんを食べてください」

 

 なので、卵焼きに箸で切れ目を入れて、ごはんを少し詰めて口の中に放り込んだ。それを見たセラフが「そうきますか……!」と、こっちをマネして卵焼きに切れ目を入れてご飯を少し詰め、何故かそこにうめぼしを追加して「あ、すっぱ」とかやったのを見て笑った。

 そして続けざまにセラフが、

 

「べ、別に笑わなくたっていいじゃないですか! 私、初めてなんですよ? うめぼし食べるの。味のシミュレーションはしていましたがまさか此処までとは……! 味覚の調整をあっちゅぅい!」

 

 口直しに、とお茶を飲んだ反応を見た瞬間さらに笑った。フーフー冷ましながら湯呑み揺らして「感覚が鋭すぎましたか」「少し下げましょう」「お茶が美味しい……」などと自己完結していたので、まあ、気にしなくていいか。問題発見からの即修正とはさすがだね……!

 そんなこんなで朝ごはんを食べ終えたあと、今日は特にこれといって予定もないので食後の運動を兼ねて散歩に出た。横を並んで歩くセラフが突然、

 

「二度ある事は三度ある、って言いますが、三度ある事は四度目もあると思うんですよ。私は。マスターはその辺どう思います?」

 

 と、たまたま通りかかった公園の前で言い出した。ヤメテ。その言い方だとまるで近い内に何かがあるような感じじゃない。一度目はともかくとして、二度目と三度目みたいな目には遭いたくないし遠慮したいんですけど。

 ……あ、でも一度目は目の前で泣かれて俺が泣かしたようになってたなあ。

 あの時、周りの奥様方からの視線の痛さは今でもよく覚えて、……アレ。俺ってこの公園での出来事で必ず何かしらの大変な目に遭ってる?  もの凄い殺気で睨まれて胸倉掴まれたり誘拐されて銃で撃たれかけたり誤解からの戦闘ですき焼きだったり、……うわあ。

 

「……四度目があるなら、出来れば平和的な出来事が良いなぁ」

「ふふふ、そうですね」

 

 それから公園を過ぎて数分。河川敷の横を歩いてると見知った人を見つけた。

 

「あれ士郎さん? こんな所で何を……」

 

 ああ、翠屋JFCの練習中か。そういえば夏休みになったら試合があるって言ってたわ。

 

「以前の練習試合だとマスターが助っ人として参加しましけど、今度の試合も助っ人で?」

「出ないよ。あの時はメンバーの一人が怪我でお休みだったからその代役。今回は大丈夫でしょ」

 

 なのはたちと応援には行くよ。是非来てくれ、って誘われてるし。もしもの時の交代要員として数えられてそうで若干の嫌な予感がするけどねー。

 

「そりゃあ前回の試合で活躍したんですから、期待されるのも当然ですって」

「そんな事言われてもねぇ……」

 

 活躍したなんて言われても別に俺シュート決めたワケじゃないですし。だって一点も取ってないよ? なんとなく相手がパス回しそうだなあ、って思った所に入って、ボールを奪って味方にパスしただけで。

 

「サラッと言いますけどその、マスターの”なんとなく”が完全的中なのは普通から見れば異常ですからね? 飛んで来たボールを徹底的に横からかすめ取って味方にパスを回して。

 流石に相手のチームもイライラして後半やけくそになって突っ込むのも分かります」

「それを言うなら俺じゃなくてキーパー君を褒めるべきだと思うんだけどなあ」

 

 俺が奪ったボールを味方に回して、それを奪い返されてシュートされてもその全部を弾いたキーパー君の方が真に活躍したんじゃないかな。

 

「私やなのはさんたちにとってはマスターが活躍した、その事が重要なんです。それに、キーパーの彼にはちゃんと見ていた方がいたようですから、マスターが気にしなくても大丈夫でしょう」

「あー」

 

 マネージャーちゃんか、などと話しながら河川敷を通り過ぎ、そのまま川沿いに歩いて行ったら臨海公園に着いた。セラフと並んでベンチに座り、海を眺め、

 ……途中でバスに乗ればよかった。

 いや別に、臨海公園を目指してたわけじゃないから乗っても別の場所に行っただろうけど、……やっぱ気分的にはそう感じちゃうよね。まあ良い食後の運動になったけどさ。

 と、不意にセラフが立ち上がり、

 

「――マスター。私、たい焼きが食べたいです」

「……はい?」

「あそこの屋台、たまにマスターたちが学校の帰りに立ち寄る屋台じゃないですか。リニスさんともわざわざ買いにも来ていましたし、……私だけまだ食べてないんですよ」

「そんな真顔で言わなくても」

「いいえ。言います。――私だけ仲間はずれとか悲しいですよ!?」

 

 ええぇー……。

 

 

 ~そこなの……?~

 

 

 屋台でたい焼きを二つ買って、休憩所に移動した。セラフとお互いに選んだ味の違うたい焼きを半分こして食べつつ、

 

「そういえば以前、ここでなのはさんのビックリ行動があったじゃないですか」

「ん? あー、あったあった。飛んで来た野球のボールを受け止めたやつ」

 

 あの時は本当にビックリしたなあ。皆で学校帰りにあの屋台でたい焼きを買って、食べながら歩いてたらどこからともなくボールが飛んで来て、

 

「それをなのはさんが”はじめから見えていたように”アリサさんを庇って受け止めて、それを見たすずかさんが横で「なのはちゃんナイスキャッチ」なんて言っていましたけど、どう見てもそんなレベルじゃなかったですから。

 アレ。なのはさんの、あの天性の空間把握能力には驚きを通りこして感心しますよ」

「ホントにねー」

 

 というかすずかはあの時そんな事を言ってたのか。ボールを探しに来た高校生くらいのお兄さんたちに、アリサが食ってかかるのを止めるので気付かなかった……。

 

「でもアレだ。もしあの時なのはが動かなくても代わりにすずかが反応したと思う」

 

 位置的には俺と一緒になのはとアリサの左側に居たから、二人にとっては死角でも俺たちからはボールが飛んで来るのは丸見えだった。すずかの身体能力だったら簡単に受け止められたと思う。

 

「ええ。飛んで来たのを見た瞬間身構えていましたから。たとえなのはさんが反応しなくてマスターがたい焼き食べるのに夢中で気付くのが遅れたとしても、アリサさんは無事だったでしょう」

「……以後、超気をつけます」

 

 そうしてください、とセラフが一口大にまで小さくなった、俺が渡した方のたい焼きを口に入れた。そして、

 

「はい、マスター。あ~ん、です」

 

 もう片方、セラフが自分で選んだ方のたい焼きを口に持ってきたので、それを一口。半分こで貰ったんだから意味ないと思うんだけど……。

 

「意味はあります。これでマスターもお返として私にあ~んをする理由ができました……! さあ、恥ずかしがらずにどうぞ!」

「いやこれくらい恥ずかしくもなんともないから」

 

 あと、そんな理由作りをしなくてもあ~んくらいやってあげるから。

 

「はい、あ~ん」

「あ~ん」

 

 自分の選んだ方のたい焼きをセラフの口へ持っていくと、それをパクッと一口。

 

「――おや? 噂をすればなんとやら、ですね」

 

 満足そうに食べていたセラフが海を見た。風が吹き、乗って来るのは潮の香り。直後に感じたのは良く知る魔力で、

 

「なのは……?」

「それとユーノさんですね。反応的には此処からかなり沖合の方に転移したようですが」

 

 遠く、結界が展開されたのが見えた。

 

「広域結界ですか。それもかなりの強固な結界、どうやらなのはさんの砲撃練習っぽいです」

「町の上でドカンとぶっ放すより海の上の方が安全だからねぇ」

 

 なのはの砲撃ってどれも威力がすごいから、一歩間違えたら結界をぶち抜いて町に被害が出かねないんだよね。いくらユーノの結界でも、だ。実際に、

 

「前に失敗して結界をぶち抜いた砲撃が、夜空に桜色の流星を描いた時は騒ぎになりましたよね」

「あれ見た時に、やっぱりユーノの結界でもブレイカーは無理か……! って。そう思ってたんだけど」

 

 あとでなのはに聞いたら「あれはディバインバスターだよ?」なんて首を傾げられた。

 ……火力に全振りだもんなあ、なのは。

 どうも最近ブレイカーの発射速度を上げられないか考えてたみたいだけど、どうなったんだろう。もしアレが連射可能にでもなったら恐ろしすぎやしませんかね……!?

 

「えーっと、むしろその逆、って感じですねこの反応は」

「逆って」

 

 なにが? と聞こうとしたら風が強く吹いた。続いて結界に亀裂が走ったのが見え、

 

「あ――」

 

 それと同時に桜色の光が空高くへと昇った。それが示すのはつまり、

 

「ユーノの結界がまたぶち抜かれた……!」

「いえ。今回はぶち抜いたんじゃなくて内側からの破壊。単純魔力砲撃で貫通ではなく、広域結界を結界機能ごと完全に破壊するとは……。流石ですなのはさん……!」

 

 セラフがむしろその逆、って言った意味が分かった。

 多分、「チャージタイムをさらに増やして威力を大幅アップ!」とか言って最大威力の強化を最優先にしたんだろうなぁ。

 

「高火力っていうか豪火力……」

「おまけに防御力もガッチガチと来ていますから、――歩く要塞ですかね? なのはさんは」

 

 頷きかけた。

 

 

 ~帰ったらユーノに感想でも聞こう~

 

 

 なのはとユーノが転移で帰って行ったのを確認して、残りのたい焼きを食べてから臨海公園を出た。近くの停留所でバスを待ちながら、

 

「それで、このあとどうします?」

「どうしよう」

 

 とりあえず、って感じでバス停に来たけど特に行く場所考えてないんだよねえ。

 

「帰るって気分でもないし……、セラフはどっか行きたい所ある?」

「そうですねー……。あ、それじゃあ街に行きましょうよ。中心部の方に。来週からテスタロッサ家の方々が泊まりに来ますし、皆さん専用のお茶碗を見に」

「待ってセラフ。あの一家が泊まりに来るって今初めて聞いたんですけど!?」

「そうだ。ついでになのはさんたち専用のお茶碗も見ませんか? 用意しておいて困る物でもありませんし、なのはさんには桜柄とか良いんじゃないでしょうか。アリサさんとすずかさんには、……どんな物が良いですかね」

 

 あれスルー? スルーされた? ちくせう。泊まりに来るってのも朝のサプライズの内か……!

 

「ふふ。昨日、リニスさんから連絡があって、マスターの夏休みに合わせて皆さんで泊まり来るそうです。前々から話していた海への旅行もありますから、その前乗りとして、だそうで」

「それ、前乗りにしても気が早すぎるんじゃ……」

「ですよねぇ」

 

 そう言ってセラフが体を倒し、俺の膝の上に頭を乗せた。

 

「眠いの?」

「いえ、眠くはないです。ただなんとなく。そこにマスターの膝があったもので、つい」

「そう」

「はい」

 

 そのまま、三分くらい経った頃にバスがやって来た。セラフが体を起こし、軽く伸びをして、

 

「いやあ、良いですね膝枕って。次は私がマスターにする番です……!」

「遠慮します」

 

 人前でそんな恥ずかしい事は勘弁してくださいお願いします。

 

「あ~んはオッケーで膝枕がダメとは……。じゃあうちなら良いんですね……!?」

 

 やかましい。いいからバスに乗るよ。街に行くんでしょ? あんまり待たせるのはよくない。

 

「そうですね。――あ、マスター」

 

 と、バスに乗ろうと立ち上がったら手を引かれた。振り向くとセラフがにこやかに、

 

「少しの間かもしれませんが、また、うちの中が賑やかになりますね」

「――――」

 

 その一言で、なんか、分かった気がする。セラフが人の姿になった本当の理由が。いやまあ、俺にサプライズするため、っていうのも本当の理由なんだろうけど。

 ……それだけとは限らないよなあ。

 セラフだもん。あと二、三個は理由があると思う。特売の卵を買うのに便利でしょう、とか、リニスさんの代わりの対人戦闘訓練用です、とか。でも、

 ……リニスが居なくなってちょっと寂しかったのがバレてたか。

 やっぱセラフすげぇ。流石だわ。次元世界一のデバイスは伊達じゃない。だから、

 

「セラフが居るから皆が帰っても寂しくないし、なのはたちもいるから大丈夫。それに――」

 

 少しくらいカッコつけよう。俺が気付いた事にセラフは気が付いているだろうけど、それでも、やっぱり口に出すのは恥ずかしいから笑って誤魔化そう。

 

「やっぱ止めた。ほら、バスが待ってるから行くよ」

「――はいっ」

 

 心の中で、そっとつぶやく。

 ――ありがとう。

 

「あ。今リニスさんからメールが来たんですが、……アリシアさんとフェイトさんにプレシアさんが負けて、明日から泊まりに来るそうです」

「何があったんだよ……!」




「主人公紹介、というか設定的なモノ」に人の姿Ver.のセラフについてとか、色々と追記したので良かったらどうぞ。

 今後、人の姿のセラフが登場するかは未定。 

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