転生少年と月の目モドキ   作:琴介

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 まず手始めに、今日まで更新が遅れてしまった事をお詫びいたします。

 作者としては前回と今回の二話で遊園地回を終わらせるつもりだったんですが……。
 並行してこれからの日常回やA’s編、ちょっとした番外編のプロットを考えていまして。
 それに加えて、思っていた以上に書きたい英霊が多くなっちゃったりそれぞれの喋り方やら組み合わせやらに悩んでいたら、いつの間にか二ヵ月も更新していませんでした。
 本当にすみません。

 流石にこれ以上は更新できないのはまずい、と。
 それで今回、思い切ってもう一回分割する事に決めました。
 これからは一話あたりが短めになるかもですが、出来るだけ早く更新していこうと思います。

 さて、ここまでつらつらと長い作者の言い訳を読んでくる方が居るかは分かりませんが、これからもよろしくお願いします。


第二十二話:手が塞がってる時に限って転ぶんだよ

 ――『人魚姫』

 それは、世にも名高い童話の一つ。

 嵐に襲われ、難破した船から溺れる王子を助けた姫は、その王子に恋をしました。しかし姫は人魚の掟によって王子の前に姿を現す事は出来ず、でも、どうしても自分が助けた事を伝えたかった姫は一人の魔女を頼る事にします。

 姫は自身の声と引き換えに魔女から尻尾を足へと変える薬を貰うと、それと同時に王子が他の娘と結ばれたら泡となるだろう、と警告を受けました。

 そして、人間の姿へと変わった姫は陸に上がり王子と一緒に暮らせるようになりました。

 だけど。声を失った姫は自分が王子を助け出した事を言い出せず、王子は自分が倒れているのを介抱した娘を命の恩人と勘違いし、二人の結婚が決まってしまうのです。

 それを知り、悲嘆に暮れる姫の元に姉たちが現れました。王子の血によって姫は人魚に戻れる、という事を伝えるために。

 しかし姫は王子を手にかける事は出来ず、自ら泡になる事を選び、空へと昇っていきました。

 人魚のお姫様と人間の王子様。報われる事の無かった悲しい恋の物語――。

 

『――とまあ大体こんな感じのお話ですね、マスター』

『なるほど。うん。――いきなりどうしたの、セラフ?』

 

 しかも夢の国ver.じゃなくて元のお話の方なんて。もしかしたら俺たちがその、夢の国ver.がモチーフのレストランで絶賛お昼ごはん中だから?

 

『ふふ。ヒントは先ほど増えた今日の楽しみ、です。店内を見れば分かりますよ』

『……?』

 

 セラフに言われた通りお店の中を見回す。

 海底をイメージしたデザインの壁と天井。所々に吊るされた海藻を模した照明。中央に置かれた岩を模した大きな時計。サンゴをあしらったテーブルとイス。トレイに色々な料理を乗せて座れる席を探す人たち。

 ……ヒントはさっき増えた今日の楽しみ、か。

 俺の左側には、

 

「ハンバーガーのバンズが先になくなっちゃった……!」

「――苦い! あ、自分のカップと間違えちゃいました!?」

「おや私のコーヒーは何処に……」

 

 よくある状態の美由希さんと偶にある感じのファリンさん、それから首を傾げるノエルさんが座っていて、

 ……つまり。

 俺の向かい側には、

 

「チャウダーの付け合わせのパンが先になくなっちゃったの……!」

「なにやってのよ。そういうのはちゃんとバランスよく、――ああっ! エビが!」

「あ、そのピザ生地をチャウダーと一緒に食べてみたらどうかな」

 

 美由希さんと同じ状態のなのはにピザ生地だけを抜き取っちゃったアリサ、それをフォローするすずかが座ってる。

 ……あ、それは美味しそう。

 カレーと一緒に食べるナンみたいな感じになるのかな。ちょっと試して――。

 

『マスター……』

『ごめん』

 

 気になったからつい……。

 

『まったくもう。――カレーとナンよりシチューとパンの方でしょう』

『あー』

 

 そっちの方がしっくりくるなー、……って、しまった。

 ……いつの間にか話が逸れちゃったね。

 よし。気を取り直して――。

 

「「――酷いのだわ!」」

「ん? ……おおっ」

 

 お店の出入り口の方から女の子の声が聞こえた。

 

『アレか、セラフ』

『はい。アレです、マスター』

 

 なるほど、そう言う事か、と声の方を見る。レジの前に、さっきのお姉さんたちや神父服の男に続いてなんだかとても見覚えがある子たちが居た。

 

「もうっ! どうしてあなたはいつもそうやって意地悪な事ばかりを言うの!? このレストランのモチーフになったお話は、元のお話よりもとっても、とーっても素敵なハッピーエンドなのよ!」

「そうよ! それなのにどうしてあなたはそれを「気に入らない」なんて言うの!? 信じられない!」

 

 俺たちと同年代くらい? の黒いドレスと白いドレスの双子のようにソックリな女の子たちと、

 

「別に信じてもらわなくて結構! 俺は俺の思った事を口にしただけだ。お前たちに何を言われようが俺は考えを変える気はない! まったく、――リア充爆発しろ! と、叫びたくなるな……!」

 

 同じく同年代くらい? の水色の髪に縦縞のシャツ、紺のベストにズボン姿の髪と同じ色の蝶ネクタイを付けた男の子と言いあっていた。

 ……本の妖精とはまたピッタリな。

 いや、女の子たちの方は良いとしても男の子の方はアレだ。――こんな憎たらしい妖精がいてたまるか、とかって言われそうな感じだね。うん。間違いなく言われるな。

 

「ありゃ? あの子たち喧嘩してる? 止めに入った方が良いかな」

「大丈夫でしょう、美由希様。あの子たちの傍に、……なんでしょう。どう見ても親御様には見えませんが、保護者のような方たちが控えていますから」

 

 そう。ノエルさんの言う通りあの子たちの近くには要るんだよね。保護者っぽい感じのおじさんたちがさ。

 

「まあ止める気とかないと思うけどねー」

「どうしてでしょうか」

 

 だってほら、とノエルさんを促した先。

 

「ふむ。吾輩としては別に『良いも悪いも、それは人それぞれである(there is nothihg either good or bad but thihking makes it so)』と言った感じなのですが、あなた方はどう思いますかな? えーっと、このスペシャルサンドのセットを二つ。飲み物はコーヒーのホットとアイスを一つずつで」

 

 ヨーロッパ風の洒脱な衣装を着た髭のおじさんと、

 

「あの子らの言う通り、結末はハッピーエンドの方が良いに決まっている。そうでなければ物語を読んだ子供たちが悲しんでしまうではないか。む、このチャウダーとシュリンプを二つずつ、サラダを三つ頼む」

 

 けも耳尻尾に翠緑の衣装のお姉さん。それから、

 

「ま、俺も姐さんに同意見だわ。チビ共が読むんなら悲劇よりも喜劇の方が向いてんだろ。あっ、ちょっと待ってくれ姐さん。あとこのスペシャルサンドってのを四つ、山盛りポテトを二つ追加で」

 

 白緑の髪に、オレンジ色のスカーフを肩から下げた黒い服とズボンのお兄さんが、それぞれレジで料理を注文していた。

 

「ね?」

「そのようですね……」

 

 ま、俺としては止めるか止めないかよりも、あのお姉さんの耳と尻尾の方がよっぽど気になっちゃったりするんだけどねえ。

 ……アレって本物かな?

 あっ、尻尾が揺れた……。耳もピクッ、ってなった。うーん、どうやら本物っぽいね。

 

「流石は夢の国、耳と尻尾があるくらいじゃ誰も気にしないのな……」

『似たようなグッズが売っていますからね。傍から見たらリアルな手作りアクセサリー、といった所でしょう。――マスターも生やしてみますか?』

『遠慮しておきます』

 

 夢の国で生やしても「そのグッズどこのお店で買ったの?」で終わっちゃうからね。それじゃ勿体ない。やるならもっと驚くシチュエーションじゃないと。――ズズッ。

 

「む、このメロンソーダ美味しい」

 

 なんだろう。いつか何処かで飲んだことのあるような味がする。

 

「あ、本当? 良かった~。実は味が二種類あってさ、秋介はどっちが良いか悩んだんだよねー」

 

 メロンソーダに味があったの……? メロンクリームソーダとかそんな感じかな。

 

「ううん。あったのは普通の味とスイカ味改」

「へえ……。ちなみに美由希さん、コレはどっちの味?」

「スイカ味改の方」

「あー」

 

 通りで。どこかで飲んだ事あるような味だったワケだ。

 前に自然公園に遠足行った時からかなり改良してあるね、コレ。微妙な量の果肉がなくなるだけでこれほど美味しくなるとは……。

 

「それにしてもあの方たちは一体、どういったご関係なんでしょうか……」

「ファリンちゃんはどう思うの?」

「うーんそうですねー。――保育士さん、とかですかね」

「ングンッ!?」

「秋介!? 急にどうしたの、大丈夫!?」

 

 いやちょっと、ゴホッケホッ。メロンソーダが変な所に入ったぁ……!

 ……くぅ、ファリンさんの発言が思った以上に効いたね!?

 危ねえ。もう少しでメロンソーダを吹き出すとこだったわ……。ケプッ。

 それにしてもあの人たちが保育士さんとは、ファリンさんってば中々に面白い予想するね……!

 

「意外とエプロン姿が似合いそうなのがまた憎い」

 

 特に髭のおじさんが。見た目的に言えば園長とかそんな感じの立場っぽいね。

 そんで、お姉さんはベテランの先生でお兄さんは最近入った若手の先生、とかってのはどうかな。エプロンの色はオレンジ色でさ。

 

「――ふっ」

 

 あのお兄さんがオレンジ色のエプロンなんて付けたら髪の毛の色と合わせてもう――。

 

「どうかしたの、秋介くん?」

「いやあ、ちょっとね。恭也さんと忍さんはデート楽しんでるかなー、って」

 

 さっき追われる途中で忍さんに任せて来たけど、まだ俺たちの事を探してそうでちょっと心配。

 

「んー、それは大丈夫なんじゃないかな? 忍さんが一緒だし、流石の恭ちゃんも諦めたっぽい」

「そうなの?」

「うん」

 

 だってほら、と美由希さんが開いていた携帯の画面を見せてくれた。

 

「見てコレ。今、忍さんからメールが来たんだけどこの写真、見るからに恭ちゃんも楽しんでる気がするんだ」

 

 写真には、夢の国のナンバーワンマスコットの耳型カチューシャを付けた恭也さんと忍さんが映っていた。

 忍さんは満面の笑みで恭也さんは照れ笑い、周りを夢の国のマスコットたちに囲まれながら。

 ……何このバカップル。

 口では「デートしに来た訳じゃない!」とか言ってたのになあ――! ふ、俺たちの作戦が成功したって事だね!

 

「美由希さん、私にも見せてください!」

「お姉ちゃんわたしも!」

「はいはい。順番、順番」

 

 恭ちゃんには内緒だからねー、と美由希さんが携帯を回す横でふと思った。

 ……あのお姉さんたちは実際の所、どういう組み合わせなのかね?

 気になる。もの凄く気になる。いや、お姉さんは女の子たちを喜ばせる為に遊びに来て、お兄さんはそんなお姉さんとちょっとしたデート気分でついて来た、って感じがするけども。

 ……でもそれだとおじさんと男の子がなあ。

 あの二人、夢の国に好んで来るようには見えないんだよなー。

 どうなんだろう、と気になってもう一度レジの方を見る。

 

「……それで? 何故、汝らが此処に居る。此処は汝らのような者たちが好き好んでやって来るような場所ではなかろう」

 

 するとちょうど注文を終えたお姉さんが、おじさんに俺が気になった事と同じような事を聞いていた。

 

「ああそれは、ちょっとした現実逃避、――ではなく、気分転換ですな。彼と缶詰め明けのテンションで入園してしまった手前、せっかくなので面白そうなネタの一つや二つ探していこう、と相成った訳でして」

「缶詰め、ネタ……? 汝らは一体なにを」

「趣味と言うか仕事というか、まあちょっとした執筆活動ですな。――そうだ! 是非、次回作のネタにあなた方の事を書かせてもらいたいのですが。タイトルは「初めての二人の共同作業」なんて愛の詩を――」

「応、是非た――」

 

 おじさんの提案にまだ追加注文をするお兄さんが振り向く寸前、

 

「――その頭を射抜かれたいか?」

「ははは、これは手厳しい! ――では吾輩、射抜かれる前に退散するといたしますかな! あ、そのスペシャルサンドとアイスコーヒーは吾輩のモノですかな?」

「た、たー、た、たこ焼きとハンバーグも追加で……」

 

 おじさんはスタッフさんからトレイを受け取ってそそくさとその場を去り、お兄さんは振り向きかけた顔をゆっくりと戻した。そして、

 

「「むう~……!」」

「ふん。……まあ、なんだ。お前たちの言う通り、俺もアレは少しやり過ぎだと思、――っておい待て! そのアイスコーヒーのセットは俺の物だ! お前はホットコーヒーの方だろうが!」

 

 未だに女の子たちと言いあってた男の子がおじさんに気付き、あとを追いかけて行った。

 ……お姉さん、怖え。

  一瞬だったけど背筋がゾクッってしたよ!? 睨んだだけで男二人を黙らせるとはすごい……。いやまあ、おじさんは黙るどころか喋ってたけども。アレは誤魔化しだね、絶対。だって額に汗かいてたもん。

 

「そういえば秋介、あんたは何か乗りたいアトラクションとかある?」

「ん? そうだなー……。あ、アレが良い。海賊のアトラクション」

 

 今日は色々な人に会える気がするからね。あそこならどこぞの女海賊さんたちに出会えるかもしれない。もしかしたら黒いのも居るかもしれないけど、気にしない。気にしたら負けだと思う。

 

「ああ、あのタコが出て来るヤツ」

「オッケー。それじゃあ、早速行こうか。私とファリンちゃんでお皿とかトレイを返してくるから、ノエルさんは皆と先に外で待っててくれる?」

「分かりました。では皆様、行きましょうか」

 

 はーい、とノエルさんと一緒に席を立つなのはたちを見て、ふと思った。

 ……いつの間にか皆が食べ終わってる……!?

 俺まだメロンソーダ残ってるんですけど……。あとホタテのサンドも。

 

「よそ見してるあんたが悪いのよ。それに、それくらいだったら食べながら行けば良いでしょ」

「それは、まあ確かに」

 

 レストランから海賊のアトラクションまで距離はあるし、乗る前に食べちゃえば大丈夫か。

 右手にサンド、左手にメロンソーダを装備して食べ歩きも夢の国の楽しみだよねー、なんて事をなのはたちと話しながらお店の外へと向かう。

 

「おお、マジか……」

 

 お店の出入り口に差し掛かった所で、これまた見覚えのあるお兄さんとお姉さんたちが視界に入った。

 

「なぁなぁ。やっぱりさっきの、あとらくしょん? とかいう乗りもんのクマさん。昔、小僧と一緒におったクマさんにそっくりやあらへん? 久しく見いひんうちにえらい丸っこくなっとったなぁ。――おっと」

 

 紺の髪に、その隙間から伸びる角。紫の着物を身に纏い『酔』と書かれた小さな赤ちょうちんを腰帯に引っ掛けた色白お姉さんと、

 

「うっぷ。うぅ、吾は酔ってなどおらぬ、おらぬぞぉ、……あいたっ!?」

 

 そのお姉さんに引きずられる、薄い黄色の髪におでこから伸びた角。纏う黄金色の着物を大きな数珠で締めたお姉さん。それから、

 

「だーから似てねぇって。さっきのクマさんとアイツを一緒にすんじゃねぇよ。クマ公と違ってあのクマさんは、変形するようには見えなかったろうが。つーかオメエは段差に気ぃつけろよ」

 

 金髪サングラスで襟を立てた白シャツにズボン姿の、『GOLD』と大きく書かれたベルトを腰に巻いたお兄さんが、

 

「そんな事よりわたしたちお腹空いたー。はんばーぐがたーべーたーい――!」

 

 灰色の髪の、首からナイフのようなペンダントを下げた白いワンピースを着た女の子を肩車しながら、お姉さんたちと一緒に向うから歩いて来た。

 ……何故に一人だけ引きずられてんだろう。

 顔色が悪いし、乗り物酔いでもしたのかな? それともお酒の飲み過ぎか……。まあ、どちらにしろ引きずって来るのはどうかと思う……。おもいっきりお尻打ってたし。

 鬼か、と思いつつ、お姉さんたちと入れ違いにお店の外へと出る。

 なんとなく足を止めて振り返ると……。

 

「おう。今、戻ったぜ。オレのゴールデンサンドはちゃんと頼んでくれたか?」

「ゴールデンサンドって何だよ、スペシャルサンドな。ちゃんと頼んだっつーの」

 

 金髪サングラスのお兄さんの言葉にオレンジスカーフのお兄さんが呆れていたり、

 

「へへん、良いでしょー」

「あら? まあなんてこと! あなたたちだけお兄さんに肩車をしてもらうなんてずるいのだわ!」

「あら本当だわ! わたしたちもお兄さんに肩車をしてもらいたいわ!」

 

 肩車される女の子を見て、ドレスの女の子たちがピョンピョン跳ねていたり、

 

「…………」

「なんやぁ、やきもちか? 小僧にあの子ら取られて、やきもち焼いとるんやねぇ」

「お、おい! そんな事より吾の着物を離せ、――うっぷ。うぅ……」

 

 少しムッとした顔のけも耳尻尾なお姉さんのほっぺをつつく色白お姉さんに、未だに引きずられた格好のお姉さんが抗議したりと、何やら騒いでいた。

 ……なんと。

 コレは驚いたね! まさかのあの人たちがお連れ様だったとは――。

 

『マスターったら顔がニヤニヤですね』

 

 やかましい。良いでしょ、別に。楽しそうならそれで良いじゃないですか。あの子たちも笑ってるし。

 

『そういうものですか』

『そういうものなんだよ』

 

 笑顔が一番だよねと、ちょっと格好つけて踵を返す。お皿やらを返しおえて出て来た美由希さんたちと一緒に、少し先を歩くなのはたちを追いかけると、

 

『あっ。マスター、そこに段差が――』

「ぁいっ、――って、あれ……?」

 

 ちょっと格好つけたら転んだ、と思ったら誰かが俺の服を後ろから引っ張った。

 ……セーフ。もう少しで地面に頭突きする所だった……。

 美由希さんかファリンさん……? と振り返ると、

 

「あらあら。ちゃんと足元を見なければ危ないですよ? 気を付けて、怪我でもしたら大変です」

「えっと、ありがと――」

 

 にっこりとほほ笑む、長く艶やかな髪を毛先でまとめた、薄い紫の衣装を纏った女の人が居た。

 女の人は服を掴む手を離し、呆気にとられる俺の頭を軽く撫でてから一度頷き、

 

「それでは」

 

 そう会釈をしてレストランへと歩いて行った。

 ……あの人まで居るとは思わなかった。

 これからあのお店で一波乱ありそうだね、と目を反らしながら再び美由希さんたちとなのはたちを追いかけた。

 それからすぐに、

 

「ちょ、なんでアンタが此処に居んだよ!?」

「息子と一緒に遊びたいと、そう想うのは母として当然の事です」

「おぅい、小僧。早よ、うちの分を持って、……なんや。海の底や思うたのにいつの間に此処は牛舎になったんや」

「おや、此処にも煩いのがぶんぶんと……。まったく。何処にでも蟲と言うのは湧くのですね、困りものです」

「「っ…………」」

「わ、わわ、吾を挟んで睨みあうな――ッ!!」

 

 なんて叫びが聞こえてきたけど気にせず先を急ぐ事にした。




 しかしまあ、あの劇作家ったら会話がホントに難しい。後回しになるのも頷けるね……。

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