この作品では秋介以外の転生者は登場しません。
理由としては彼を転生させたのがイザナミさんだから、ですね。
アレだけデタラメな設定を持っている女神がお詫びとして送り出す世界に、他の神様が転生させた転生者が入り込める余地はないんじゃないかな、と。作者は思う訳でして。
作者の気が変わらない限り他の転生者が登場することはないです。
とまあそんな感じで長くなりましたが、今回から日常回が始まるよう!
第二十一話:最近のアトラクションはリアルだね!
テスト週間も終わりを迎えた今日。
「それじゃあ皆、テストお疲れ様でした――ッ!」
「「「「お疲れ様でした――ッ!」」」」
学校帰りになのは、アリサ、すずかと一緒に翠屋に寄りシュークリームをご馳走になっていた。
店内の角席。
通路側の椅子に俺が座って窓側のソファーに右からなのは、アリサ、すずかの順に座り、
「美由希、なんでお前が音頭を取るんだ。此処は普通なのはたちが取るべきだろう」
「良いじゃん、別にー。私も今日でテスト終わりだし、此処はやっぱり年長者である私が取るべきだと思うんだよね。ね、忍さん?」
「今日はすずかたちが主役だから、あの子たちに取ってもらうべきだったかな」
「ええぇー」
忍さんまでそんな事言うのぉ、とオレンジジュースの入ったコップを片手に話し合う年長組の席を横目に、士郎さん特製カフェ・オレを一口。
ちなみに。なのはは牛乳、アリサはリンゴジュース、すずかはぶどうジュースを飲んでる。
「あ~、美味い……!」
うん。やっぱり桃子さんのシュークリームに士郎さんのカフェ・オレは最高に合うね!
……それもテスト終わりと言う絶好のタイミング。
これは誘ってくれた士郎さんと桃子さんに感謝しないとね。
ありがたや~、と高町夫婦を拝んでると、
「――と言う事だから秋介。あんた明日、予定ちゃんと空けときなさいよ!」
バン、とアリサがテーブルに手をついてこっちに身を乗り出していた。
「え、なに。何かあんの?」
「テストを頑張ったご褒美って事で明日。皆で遊園地に行こう、って事になったのよ!」
「遊園地って、どこの」
「夢の国に決まってるじゃない!」
あー、あそこか。
「ちょっと前に新アトラクションが追加された、ってテレビでやってたよね」
「そう! そうなのよ、すずか! あたしはそれに乗りたいのよ!」
グッ、とアリサが右の拳を握り、
「古代から伝わる聖なるモノ、それを求めて魔宮を巡る探検型アトラクション! そんな面白そうなモノが追加されたなら行かない手はないわよ――ッ!」
ものすごくキラキラした目で力説された。
「ほほう。それは確かに……」
「ちょっと気になるかも……」
「でしょ、でしょっ!」
「遊園地には私の姉ちゃんと、なのはちゃんのお兄さんが保護者役で一緒に来てくれるんだって」
忍さんと恭也さんか。じゃあもしかして二人はデート気分だったりして……?
チラッ、と隣の席を囲む年長組の方を見ると、
「え、恭ちゃん皆と夢の国行くの? 良いな、良いな! 私も一緒に行きたいなー!」
「ダメだ。美由希の場合なのはたちと一緒になって楽しんで、保護者役所じゃないからな」
「ぶぅ、ケチぃー。……恭ちゃんだって忍さんとデート気分な癖に」
「ブフッ!?」
「――プ、あっははは――ッ!」
「おい、美由希! そ、それに忍まで……! くっ、俺はあくまでなのはたちの保護者役として行くんだ。断じてデート気分なんかじゃないからな!」
本当だぞ!? とオレンジジュースを噴き出した恭也さんがあたふたしていた。
……ふ、これはもうアレだね……。
あんな反応を見たら俺たちが明日、夢の国についてやる事は一つしかない。
「――すずか! 今すぐノエルさんとファリンさんに電話だ!」
「追加の保護者役だね。任せて!」
「良い、なのは? 明日向うに着いたらまずあたしたちがやる事は……」
「お兄ちゃんと忍さんを二人っきりにする、だよね!」
その通り。名付けて「せっかくなんだから二人で夢の国を
『楽しんでますね、マスター』
『当然』
此処で楽しまずして何処で楽しむと言うのか。
……いやあホント、明日が楽しみになって来たね!
寝坊しないように今日は早く寝ようと、そう思った。
~そして次の日~
快晴の空の下。
夢の国へとやって来た俺たちは開園と同時に新アトラクションを目指して走った。
その途中、追加の保護者役で来てくれたノエルさんとファリンさん。あとダメと言われたのにちゃっかりついて来た美由希さんに協力して貰い、恭也さんと忍さんを二人っきりにする為の作戦が決行された。
……まあ、作戦と言っても別にたいした事じゃないけどねー。
単に皆がバラバラの方向に走って、二人に見つからないように新アトラクションの所で合流する。それだけの事だ。
「――皆様、今です!」
『了解っ!』
「な、なんだ!?」
「ああ、なるほど」
ノエルさんの合図と共に、この遊園地の象徴の一つである大きなお城を分岐点に俺となのは、アリサとノエルさん、すずかとファリンさんと美由希さんの三手に別れる。
「いくぞ、なのは!」
「う、うん、――って、えぇっ!?」
俺は此処まで頑張ってついて来たなのはを足元から抱え上げ、
「ちょっとだけ我慢してよ……!」
「はにゃぁああ――っ!?」
いわゆるお姫様抱っこの状態で新アトラクションの元へと走る。
お城を抜け、ファンタジー感あふれるアトラクションエリアに入った所で走る速度を上げた。
どうして走る速度を上げたかと言うと、
「――待て、秋介! どういう事か説明しろ!」
背後から恭也さんが追って来るからである。
……はっはっは、――恭也さんすげえ!
こっちは軽くだけど魔力で強化して走ってるのにあの人、なんか追いつきそうな勢いなんですけども!?
「どう言う事って、恭也さんと忍さんにデートしてもらうぜ! って事ですが!」
だから俺たちなんか追いかけないで忍さんの所に戻ってくれませんかね!?
「そうはいくか! 此処に遊びに来たのはお前たちが頑張ったご褒美だ。俺たちに変な気を遣うな!」
「別にそんなつもりは無いんですけどねー、――って、恭也さん後ろ!」
「なに、――おわっ!?」
恭也さんが振り向いた先、
「まったくもう……。置いていかないでよ」
夢の国のナンバーワンマスコットの耳型カチューシャを頭に付けた、忍さんが居た。
「忍!? その頭の耳はどうした!?」
「どうした、ってデートを楽しむ為に買ったのよ。ほら。恭也の分もあるわよ?」
「ま、待ってくれ! 俺たちはデートしに来た訳じゃ――」
「忍さん、恭也さんの事をお願いします!」
「ええ、お願いされたわ。――行きなさい、秋介!」
「なっ!?」
ちょっと待て――っ! と忍さんに足止めされた恭也さんの叫びを聞きながら、先を急ぐ。
~ほう。コレが新アトラクションか……~
忍さんに恭也さんに任せて走る事数分。
俺はファンタジー感あふれるエリアからアラビアンなアトラクションエリアに入り、そこを走り抜け、遺跡のような見た目の、皆との集合場所である新アトラクションに到着した。
……皆は、……まだ来てないか。
それもそうか。途中までは魔力で強化して走ってきたわけですし。アリサやすずかたちより先に着くのは当然だよねー。
というか、
『なんか周りに見られてない……?』
此処まで走って来る途中もそうだけど、さっきからずっと見られてる気が……。
『そりゃあマスター。女の子をお姫様抱っこした少年が走っていたり立っていたりしたら、誰でも振り向いて見ますって』
え? ……あ、忘れてた。
「ごめん、なのは」
「だ、大丈夫なの……!」
そっとその場になのはを降ろす。
『よくこんな人目の多い所でお姫様抱っこなんて選びましたね』
『いやまあ、……だってねえ?』
顔が熱いの……、と赤くなった顔を手で扇ぐなのはを見る。
……なのはって空を飛ぶのは得意なのに走るのは苦手なんだよなぁ。
恭也さんの事だから俺たちの事を追ってくると思ってたし、あの人から逃げ切るのにはなのはを抱えて走った方が早いかなー、って。
それに、
『此処は夢の国だからね。お姫様抱っこした方が場所的にもピッタリでしょう』
『……マスターって偶に思いっきり大胆になりますよね』
偶には、ね。
「うぅ、前もって言って欲しかったよ~……」
「ホントごめん」
「うん。……次はちゃんと教えてね?」
そう言ってなのはが扇ぐ手を止め、
「……あ、アリサちゃんとすずかちゃんたちだ! おーい!」
此方へと走って来る皆を、なのはが手を振りながら迎えに行った。
……次は教えて、って。
そう何度も恭也さんに追われるような状況は遠慮したいんだけどなー。
『別に追われる状況じゃなくても良いじゃないですか』
『それは、……なんか恥ずかしくない?』
『先ほどのように大勢の前で抱えるよりは、恥ずかしくないと思います』
だよねー。俺も言って思った。さっきの方がメッチャ恥ずかしいんじゃね? って。
……そうだ。今度はアリサとすずかもお姫様抱っこで抱えて走ってみよう。
どんな反応するかなー、と考えてたら、
「――遅いですね。まったく、一体どこまで行ったのやら……。と言うかどうしてこのような事に、……はあ」
白いブラウスに青のスカート。
金髪碧眼で整った顔立ちに、何処か騎士のような雰囲気を纏った中学生くらいのお姉さんが、いつの間にか隣で頭を抱えていた。
……はい?
え、ちょっと待って。この人ってまさか――。
「――うそお」
「どうかしましたか?」
やっべ。口に出ちゃった!?
「い、いやその、……ちょっと一緒に来た子に置いてかれちゃって……」
「なんと、それは大変です。その子が何処に行ったのか心当たりはありますか? あるのなら其方まで一緒に……」
「あー、大丈夫です。見える所に居ますから」
あそこ、と楽しそうに何かを話すなのはたちを見る。
あ、美由希さんとファリンさんがキャーキャー言いだした。しかもなのはがまた赤くなった。
何故に……?
「そうですか、それは良かった。……あまり、お連れの方たちと離れないようにした方が良いですよ? このように広い場所では、迷子になったら大変ですから」
「……ですね。心配してくれてありがとう」
「いえ、気にしないでください。お礼を言ってもらうような事はしていませんから。それよりも、この辺りで私に似た顔の――」
と、お姉さんが何かを言いかけた時、
「おーい、父上! コレ見てくれよ、コレ! 限定味のポップコーン、最後の一個が買えたんだぜ!」
なのはたちが居る向う側。
オレンジのTシャツに短パン、隣に居るお姉さんと瓜二つなお姉さんがポップコーンバケットを掲げながら走って来た。
「……申し訳ない。どうやら騒がしい連れが戻って来たようなのでこの辺りで失礼します」
それでは、とお姉さんは軽く頭を下げ、呆れ顔で走って来るお姉さんの方へ歩き出した。
「へっ、どうだ父上! オレ様にかかればこれくらいどうって事――」
「そんな事はどうでも良いですから、早くそのポップコーンを渡しなさい」
お姉さんがもう一人のオレンジTシャツのお姉さんと合流し、
「お、おう……。どうぞ」
「それと、あまり騒ぎながら走るのは止めなさい。周りの方々に迷惑が掛かります」
ポップコーンを受け取り、さっそくバケットの蓋を開け、中身を口に運んだ。
「は、い……」
「……ですがまあ、それはそれとして良くやりました。このポップコーンは中々に良い味です」
「ち、――父上に褒められたぁ――ッ!?」
「きゅ、急に叫ばないでください! 回りの方々に迷惑です!」
ほら、向うに行きますよ! とオレンジTシャツのお姉さんの首根っこを掴んで連れて行った。
……なんか、すごいモノを見た気がする。
しかもあの二人ってまさか……?
『ねえセラフさん、あのお姉さんたちの事なんだけど……』
『聞きたいですか?』
『…………いや、やっぱりやめとくわ』
お姉さんたちについてはまあ、文字通り神のみぞ知る、って事にしておこう。
……まったく。良いサプライズだね……。
なんかあの二人だけで終わる気がしない、と言うかむしろ始まった気がするのは俺の考えすぎ?
……まあ良いか。だって、
『今日の楽しみが増えましたね、マスター』
『ホントにね』
セラフの言う通り楽しみが増えたからね!
「こらー、秋介! そんな所で遊んでると置いてくわよ――!」
おっと。皆がいつの間にか列に並んでる……。
「秋介君、早くー!」
「あいよー、今行くー」
さて、それじゃあ新アトラクションとやらに並びますか……!
~聖なるモノとは一体……!?~
新アトラクションの列に並んで数分。
遺跡内へと入った俺たちは、
『――これから君たちが向かうのは呪われた魔宮。そこに眠る聖なるモノは、この世のありとあらゆる願いを叶える力を持つと、そう言い伝えられている』
何処からか聞こえる男の声を聞きながら、八人乗りのジープ型ライドに乗りこむ。
「こういうのはやっぱ端っこに座った方がスリルを――」
「端っこはあたしが座るわ。あんたはその次!」
「――……あい」
「えーっと、……先に乗るね?」
「うん。じゃんけんで決まった事だから気にしなくて良いよ、すずかちゃん」
前の座席に奥からアリサ、俺、すずか、なのはの順で座り、
「うはー。思ってたよりリアルに出来てるねー、この遺跡」
「ほらファリン、足元が暗いですから気を付けてください」
「大丈夫ですよ、お姉さ、――まうあっ!?」
「がっ!?」
「言った傍から……。大丈夫ですか、美由希様? それにファリンも」
「「な、なんとか~……」」
頭痛い……、と後ろの座席。先に乗った美由希さんに転んで頭突きをかましたファリンさんを助け起こしながら、ノエルさんが乗り込んだ。
大丈夫……? と思いながら後ろの年長組を見ていると、
『さて。ライドに乗り込んだのならしっかりとシートベルトを締めてもらいたい。まあ別段、そんなモノを締めなくとも大丈夫だとは思うが、……念の為だ。投げ出されたりしないように、な。それから――』
何処からか聞こえていた男の声が、ライドについたラジオっぽいスピーカーから聞こえた。
「あ、そうか……」
座席に備え付けられたシートベルトを引っ張りしっかりと固定する。
……む、これってまさか。
シートベルト差し込み口にもの凄いなじみのある二文字が彫ってあった。
――D・S、と。
「…………」
なんだろう。自然公園のアスレチック? の例があるから安全面に関しては大丈夫だとは思うけど……。
……途中でどう動くか、がもの凄く心配になってきた。
あの人の事だから単に上げて落とす、とかは選ばないような気がするんだよねー。
『ふふふ』
あコレ絶対に上げて落とすタイプじゃないな。セラフが淡く光ってるのがその証拠だね!
どんなタイプか聞いてみようかな……、と悩んでたら、
『――とまあ以上の事を注意さえすれば多少の危険はあれ、命の保証はされるだろう。くれぐれもその車から身を乗り出さないよう心掛けてくれ』
このアトラクションの注意事項を一通り男の声が話し終え、ライドが走りだした。
ライドは時々大きく車体を揺らし、所々崩れかけた遺跡の道に敷かれたレールを進んでいく。
進んだ先。壁が崩れて中が覗けるようになった部屋の前に差しかかった所で、
『ああそうだ。君たちに伝え忘れていた事があった』
再びスピーカーから男の声が聞こえた。
『君たちが探す聖なるモノだがアレは、言い伝えによると杯のような形をしているそうだ。それに加えてその魔宮には聖なるモノを守る七人の守護者が住まう、とも言い伝えがある』
前を通過する部屋の中に大きな黄金の杯と、それを囲むように並ぶ七体の黄金像が並んでいるのが見える。
……願いを叶える力を持つ聖なる杯、ねえ……。
しかも黄金だよ。まるで映画とかお伽噺に出てくるようなモノじゃないですかー。ははっ。
『まあせいぜい彼らに出会わないよう祈る事だな。アレに見つかったら最後、君たちは侵入者として排除されるだろう』
ライドは部屋を通り過ぎて今度は坂道を上り、
『もし君たちが聖なるモノを見つけ出し尚且つ、彼らから逃げ遂せこの魔宮を見事脱出する事が出来たのなら――』
頂上に着くとその場でピタ、と止まった。
……嫌な予感が……!
それに今思ったけどこの声ってもしかして――。
『――喜べ諸君。君たちの願いはようやく叶う』
そう、不敵に笑うような男の声が響くと同時に、ライドの下にぽっかりと穴が開いた。
『えっ――』
そして、
「うっそぅ……」
ライドが吸い込まれるようにしてその穴に落ちた。
……フワッ、って。今体がフワッ、ってした……!
いきなり道が消えてそのまま真下に落とすとか、――中々やるね!?
『はっはっは、――コレは一本取られたね!』
『相変わらず意外と余裕ですね、マスター』
『言ってる場合じゃないよ、秋介くん!?』
だよねー。
じゃあ皆揃って、
『キャー――ッ!?』。
叫んだ。
「ちょっ、なんで急に道が消えるのよ!?」
「作った人の好みなんじゃないかなぁ……!」
あの人の事だから「その方が普通と違って面白いだろう?」とかさも当然な顔で言うような気がする。と言うか言うね、絶対!
「そう言う事を聞いてるんじゃ――」
「きゃー! 助けて~……!」
「――ってすずか!? あんたどさくさに紛れてなに秋介に抱き着いてるのよ!」
「そこに秋介君が居るからだよ!」
「意外と余裕ね!? ――ならあたしだって!」
ガシィ、と二人に抱き着かれ、
「だったらわたしも、――ああっ、届かない!?」
シートベルト……! となのはが体を引っ掛けた。
「ちょっとお二人さん!?」
抱き着かれると動けなくて怖さが倍増するんですが!?
「「嫌なの?」」
「はは、そんなワケない!」
むしろ嬉しい。こういう状況で頼られるのって嬉しくなってくるよね!
『言ってる場合ですか、マスター。――また落ちますよ?』
『えっ――』
セラフが言うや否や、
――ドボンッ!
今度は穴じゃなくて水に落ちた。
その衝撃で大きな水飛沫が上がり軽い雨のように降ってくる。
……遺跡の地下にあるって事は、此処は地底湖って事か。
意外と水が澄んでる、と周りを見ていたらライドが動きだした。
……おお。よくよく見たら水の中にレールが浮いてる。
そのレールに沿い、ライドが水をかき分けながら目の前に見える洞窟へと進んでいく。
「ああもう! びしょ濡れ、……ってあら?」
「服とか濡れなくて良かったー……」
「お姉ちゃんたちは大丈夫……?」
「「なんとか~」」
「このシートベルトのお陰で投げ出されずに済みましたね……」
確かに。ノエルさんの言う通りだね。
今日ほどシートベルトに感謝する日はもう来ないんじゃないかなぁ。
「……アリサちゃん、すずかちゃん。いつまで秋介くんに抱き着いてるの?」
「このアトラクションが終わるまでよ」
「また落ちたりしたら大変だからね」
「ずるい……」
そんな三人のやり取りを聞きながら一息。
「はあ……」
俺たちを乗せたライドは上の遺跡道とはうって変わって、鍾乳洞のような洞窟の中へと進んでいく。
『――――』
「……ん?」
後ろの方から何か、不気味な唸り声のようなモノが聞こえた。
……そう言えばこの魔宮には七人の守護者が居る、とか言ってたな……。
ふと、さっき聞いた男の言葉を思い出す。
『アレに見つかったら最後、君たちは侵入者として排除されるだろう』
てことはつまり。今聞こえた唸り声っぽいモノって……。
顔を動かして後ろを見ると、
「やっぱ居た……」
洞窟の入り口から細身の体に悪魔のような頭、大きな剣を持った黒いモノがこちらを覗いていた。
「なにが居たのよ」
「狂戦士、かな」
「……?」
アリサとすずかが顔を上げて俺と同じ所を見た。
「どうしたの、――っ!?」
「「「――ッ!?」」」
二人につられてなのはや年長組が振り向き、
『■■■■■■――ッ!!』
『キャー――ッ!?』
狂戦士が吠えるのと同時に本日二度目の叫びが響いた。
『■■■――ッ!』
「――っ!」
此方に向かって剣を振り回しながら走って来る狂戦士から逃げるように、俺たちを乗せたライドが速度を急激に上げる。
……うわ、速ぇ!
追従して来る狂戦士を引き離しライドはそのままの速度で洞窟を走り抜ける。
走る先、光が見えた。そこをめがけてライドが突っ走り……。
「マジか……!」
洞窟を勢いよく飛び出し、中央に祭壇の置かれた広間のような場所に出た。
そのままの勢いで祭壇を飛び越え着地と同時に大きくライドが跳ね、着地する。
……あの祭壇に置いてあるアレは……!?
まさか、と思った瞬間、
『■■■――ッ!!』
俺たちが飛び出してきた出口の横、壁を突き破って狂戦士が現れた。
『――ッ!!』
狂戦士は俺たちを見つけ、地面を蹴る。
「「イヤ――ッ!?」」
「ちょっ――」
飛んで来る狂戦士は右手に持つ剣を構え、俺たち目がけて振り下ろす。が――。
『――――!』
『――■■ッ!?』
紅い、髪のような装飾を腰まで垂らした銀の騎士甲冑が横から現れ、狂戦士の刃を剣で止めた。
それと同時にライドが急発進する。
「騎士さんありがとう――!」
『――』
なのはのお礼を聞いて騎士甲冑が狂戦士を振り払い、俺たちを見て軽く手を振ってくれた。
意外と余裕だね、あの騎士甲冑!? と思ったけど口に出さない事にする。
……だって俺が言えた事じゃないからね!
まあそれはそれとして。
騎士甲冑と狂戦士が響かせる剣戟の音を聞きながら、俺たちを乗せたライドは再び遺跡の中へと突入した。
「そろそろ折り返しかな!?」
「だろうね、すずか! さっきの所にアレがあったから!」
「秋介くん! アレってなに!?」
「そりゃ聖なる、――うおっ!?」
モノ、と言いかける途中、道を真っ直ぐ走っていたライドが急に左へと方向転換した。
「また何か来たわよ!?」
「「そんなぁ~……!?」」
「飽きさせませんね、このアトラクションは!」
アリサが叫んだのを聞いて美由希さんとファリンさんが抱き合って涙目になり、ノエルさんが後ろを見た。
「今度は、――暗殺者ですか!?」
「マジで!?」
ノエルさんの言葉を聞いて俺も後ろを見ると、
『――――』
白い髑髏のような顔に狂戦士よりも細い体、黒の双剣を手に壁から天井へと駆けり移るモノが居た。
「それだけではありません! あの暗殺者の奥からまだ何か来ます、秋介様!」
ノエルさんが指した先。騎馬が引く馬車に乗り、右手で長槍を左手に手綱を握るモノが現れた。
「うーわ、騎兵まで来ちゃったよ!」
「秋介くん! 前、前――っ!」
「ん? ――おおうっ」
暗殺者と騎兵に続き……。
「今度は魔術師……!?」
ローブに身を包み、本を片手に杖を構えるモノが待ち構えていた。
『…………!』
魔術師が大きく杖を頭上に掲げ、周囲に光の弾を展開した。
『マスターやなのはさんのシューターと比べたらまあまあなモノですね』
『ふ……!』
『喜んでる場合じゃないよ、秋介くん!?』
おっといけね。つい頬が緩んじゃった……。
……それにしても此処までに出て来たのは狂戦士に騎士甲冑、それに暗殺者と騎兵と魔術師か……。
この流であとに出てきてないのは……、と考えていたら、
『……ッ!』
魔術師が杖を振り下ろし光の弾が放たれた。
「えぇ、――ってあれ?」
放たれた魔力弾は俺たちの頭上を通過し後ろを走る暗殺者と騎兵へと向う。
『『――!』』
暗殺者が身を捻り、騎兵は手綱を左に引っ張って馬車を左にずらす事で向かってくる光の弾を躱した。が、
『――――ッ!』
魔術師はすかさず新たに光の弾を展開し、次々に放っていく。
「あの魔術師もさっきの騎士甲冑みたいに助けてくれたの!?」
「お助けキャラって事なんじゃないの!」
残りがどっちかは分からんけどね!
「まだ居るの!?」
「多分!」
言った直後、ライドが魔術師の前で右へと車体を回す。
そして、そのまま真っ直ぐ先に見える上り坂へと続く吊り橋を渡る。
「あっとっはっきゅっうっへ、――いあ!?」
舌噛んだぁ……!
『揺れる橋を渡っている時に喋ったらそうなりますって、マスター……』
うぅ、と口を押えてる内に吊り橋を渡りきり、ライドが坂を上りだす。
『――ッ!』
『――!』
途中、後ろを振り向くと、幾つもの道に分かれる十字路で魔術師が暗殺者と一対一で相対していた。
「騎兵が居ない……?」
何処に、と思った矢先、
『――ッ!』
左の壁を突き破り隣の道を走る騎兵が現れた。
「いっ!?」
騎兵は俺たちの後ろにつき、長槍を上段に構え――。
『――、ッ!?』
振り下ろそうとした瞬間、何処からか飛んで来た矢を騎兵が横に払った。
『……!』
『■■!?』
騎兵は矢継ぎ早に飛んで来る矢を払いながら、驚く騎馬の手綱を引く。
引かれた手綱に従って騎馬が大きく身動ぎ騎兵の乗る馬車が揺れる。
『……ッ、――!?』
馬車の上で体勢を立て直し再び長槍を騎兵が構えたが、
『――ッ!!』
『……!?』
俺たちの頭上を飛び越え、白い羽の意匠があしらわれた帽子を目深にかぶる、槍を構えたモノが騎兵の馬車に乗り込んだ。
「今度はなに!?」
「槍兵が助けてくれたんだよ……!」
俺たちの後ろで槍兵と騎兵がお互いの槍を交える光景から、ライドが目指す坂の頂上に視線を移すと……。
『――』
腰に矢筒を携え、そこから矢を引き抜き弓に番えるモノがこちらを見下ろしていた。
……やっぱりさっきの矢は弓兵だったのか。
騎士甲冑と槍兵もそうだったけど揃って良いタイミングで助けてくれたね。魔術師に関してはちょっと意外だったけど……。
『それはそれとしてマスター。そろそろ両手を上げる準備をしておいた方が良いですよ』
『なんで』
『坂の頂上にたどり着いたら分かります』
『……?』
どゆこと? と首を傾げて考えているうちに、ライドが頂上へ上りきった。
そして徐々にライドが前に傾きだして……。
「――ああ、なるほど」
そう呟いて両手を上げる。
……此処に上げて落とす、を持って来たのか……。
ならこれで最後って事かな? いやあホント、思ってた以上に楽しめたよ。はっはっは!
「秋介?」
「「どうしたの?」」
「こういう絶叫系アトラクションのお約束」
『あー』
なるほど、と皆が頷いて両手を上げる。
そして、
『キャー――ッ!!』
ライドが勢いよく坂を駆け下りると同時に皆で叫んだ。
~ふう、やっと終わったー……~
俺たちはライドに乗り込んだ場所に戻って来た。
シートベルトを外しライドから降り、出口に向かって歩いていると……。
「お。このアトラクションって写真撮ってたのか……」
出口の手前。
天井から吊るされたモニターに、ジープ型のライドに乗った俺たちの画像が映っていた。
一枚くらい買ってこうかなー、と悩んでいたら、
「この紙に欲しい写真の番号を書いて渡せば良いんだって」
「ありがとう、なのはちゃん」
「何枚くらい買おうかしら……」
うーん、とモニターを見ながらなのはたちが悩んでいた。
『マスターはどの写真を買うので?』
『んー、……やっぱ皆が揃って映ってる写真かな』
買ってリビングとかに飾っときたいからね。
「はい、秋介くん」
「ありがと」
なのはから紙と鉛筆を受け取り、写真の番号を書きこむ。
「すみません。この写し――」
スタッフさんに紙を渡そうとカウンターに持って行くと、
「――いらっしゃいませ。何番の写真を購入かね、少年?」
そう、不敵に笑うように言う神父服の男が立っていた。
「…………」
「どうかしたかね?」
「え? あ、いやその……。この写真を一枚下さい」
番号を書きこんだ紙を渡す。
「承った。では、少々待っていてくれ」
「はい……」
男がカウンターの奥の部屋に入って行くのを見送る。
……まあアトラクションの説明の声を聞いた時からまさか、とは思ったけど……。
写真販売のスタッフをやってるなんて思わないよね、普通。もしかしたら売店に居るかも? とは思ったけど写真販売とは……。
意外だわー、と思いながら待っていると、
「待たせたな、少年。君が注文した写真はコレで間違いないな?」
現像した写真と袋を持った男が戻ってきた。
「えーっと、……コレで大丈夫です」
「そうか。……所で少年。一つ良いかね?」
「なに」
「聖なるモノは見つけることが出来たか?」
「……一応ね」
狂戦士に追われて出た広間の祭壇に、確かソレっぽいモノが置いてあったよ。
「けどそれがどうかしたの?」
「フ、今日はまだ見つけ出した者が居なかったからな。――喜べ、少年。君は今日初の発見者だ」
「あらそう。そりゃどうも」
もしかしてなにか景品とかもらえたり?
「そんなものはない。……では写真一枚で、……いや、まあ良い。持って行け」
男が写真を袋にしまい、俺に差し出す。
「……なんで?」
まだお金払ってないんですけど……。
「なに、簡単な事だ。あそこで写真を選んでいる子らは君の連れなのだろう? なら別々に会計するの、めんどくさいジャン」
「…………」
「何か文句でも?」
いや別に……。
「それならさっさと戻れ。そこに居られるとあとがつっかえる」
「はいはい……」
男の差し出す袋に手を伸ばし、受け取ろうとしたら男がニヤリ、と口元を釣り上げ、
「――温めますか?」
「温めるかぁ!?」
コンビニの店員風に言われた。
……絶対わざと言ってるよね、今のセリフ……。
そう思いながら袋を受け取りなのはたちの所に戻った。
……思ってたより長くなったので分割しました。
と言う事で次回も遊園地回だよ!
次は誰が登場するかな!?