そこでふと思った。――バゲットの方が響きがカッコいい……! って。
まあ別にそんな事は鍋敷きにでもしておいて、
さあついに、無印編が、――完・結・だよう!
アリシアを筆頭に皆が地下室で温泉を満喫している間、
「おーい、クロノ。ちょっとそこの食器棚からお皿出しといてー」
「お皿、……って、どれだ? どのお皿を出せば良いんだ」
「シチュー入れるから底が深いヤツ。下の方にしまってないかな」
「秋介、こっちはサラダの盛り付け終わったよ。何処に置いておけば良い?」
「テーブルの真ん中らへんに置いといてー」
俺とクロノとユーノでごはんの準備をしていた。
「さて……」
シチューが焦げ付かないようにかき混ぜながら、壁にかかった時計を見る。
……皆が温泉に入って四十分、そろそろ出て来る頃かな。
コンロの火を止め、後ろの棚に置いてあるパンの入った籠を覗くと、
「バゲットが半分に食パンが一枚、ロールパンが二個か……」
ちょっと物足りない量のパンが入っていた。
「今から買いに行くのもあれだしなぁ、……仕方ない」
〈
それを軽く振るようにして回し、
「とりあえずバゲットを二本、あと適当にパンの盛り合わせ」
名前を唱えるとテーブルクロスにくるまれるようにして、焼きたてのバゲットとパンの盛り合わせが現れた。
……これで付け合わせの方は良いね。
サラダもあるし、早めのお昼ごはんにはこれくらいで足りるかな……。
「――あ、アルフが居た」
これだと絶対に足りない気がする。いや絶対に足りなくなる。
「お肉系でも焼くか……」
何が残ってたかな、と冷蔵庫を覗いていると、
――トタタタッ。
廊下の方から足音が聞こえた。
……この騒がしそうな足音は……。
冷蔵庫を一旦閉め足音の方を見る。
「――おっなか空いたぁあああ――ッ!」
口のまわりに白いひげっぽいのを付けた浴衣姿のアリシアが、勢いよくリビングに飛び込んで来た。
……アレはまさか牛乳!?
なんて綺麗なひげが口の周りに……! っていうのはどうでも良くて、
「やかましい」
「あうっ」
ねえ秋介シチューは!? と騒ぐアリシアに近づいて手刀を落とす。
「上がって来て早々やかましいわ。――アリシアのシチューだけカレーに変えるよ?」
「ごめんなさい!」
ビシッ、とアリシアが直角九十度で頭を下げた所に、
「アリシア、ちゃんと口を拭いてからにして、――って、早々に何をやらかしたんですか、アリシア!」
タオルを片手に浴衣姿のリニスがリビングに入って来た。
「もう口の周りに牛乳を付けたまま……」
「いやあ、しちゅーのひひにほいがひたはら~、あああー」
「口を拭いている最中に喋らないでください……」
なにを言っているか分かりませんよ、とリニスがため息交じりにアリシアの口まわりをタオルで拭った。
……いやあ、シチューの良い匂いがしたから~、あははー、って感じか。
うん。――別に分かったからと言って特に何もないんだけどね!
「それにしてもアリシア、何で浴衣着てんの?」
昨日リニスが何着か服を持って来てたよね。そっちに着替えれば良いのに。
「りにすがきてるのほみへたらきたふなっは」
「いやもう口拭いてないでしょうが」
「あう」
ペチンッ、と軽くアリシアのオデコをはたく。
「リニスが着てるのを見てたら着たくなった」
「……サイズあったけ?」
確かさっき、俺が見た限りだと置いてあったのは大人サイズの浴衣が四着。あとはなのはとフェイトの服があったけど……。
「セラフに聞いたら『お任せください』ってすぐに作ってくれたよ?」
「……あー」
セラフならそれくらいの事は朝飯前だよね。
「二人が上がって来たって事は他の皆も?」
「プレシアとリンディはもう少し浸かってから上がるそうです。フェイトとなのはさんはもうじき着替えを終えて上って来るんじゃないでしょうか」
アルフとエイミィと一緒に、とリニスが答えた。
……リンディにエイミィ、ね。
「そう。ならなのはたちが上がって来たら先に食べようか」
なんのお肉焼こう……、と考えていると、
「へぇ~。フェイトちゃんとアルフさんってそんなに前から一緒なんだ」
「うん」
「あんたの方はどうなのさ。あの使い魔、ユーノって言ったっけ? ネズミを素体にしたのかい?」
「あー、やっぱりそう思っちゃうよねー。私たちも最初はそう思ってたなぁ」
「……?」
「えーっと、わたしに使い魔はいなくて、その、……ユーノくんは人間の魔導師さんなんだよ?」
「「――えっ!?」」
なのはとフェイト、アルフとエイミィさんが話しながらリビングに入って来た。
そして、
「ネズミか……」
「クロノ……?」
「なんでもない」
気にするな、とクロノとユーノの話す声も聞こえた。
今のクロノ絶対に「フェレット擬きだろう」って言おうとしたよね、と思いつつ、上がって来たなのはとフェイトたちを見る。
「温泉はどうだった?」
「あ、秋介くん! すごいね、あの温泉。入ったら体が軽くなった感じだよ!」
「私は魔力が回復したって感じかな……」
え、あの温泉ってそんな効能あったの?
『ありますよ。腰痛肩こりに病気や怪我、その他にも魔力の回復や美肌効果などが色々です』
「マジか。知らなかった……」
所でセラフさんってばいつの間に俺の頭に乗ってたんですかね? いつもの事だけど。
「……もしかして効能の事、プレシアさんとリンディさんに教えた?」
『ええ、勿論』
「…………」
あの二人が残って温泉に浸かってるって、……効能目当てじゃないよね……?
「――よし。考えるのを止めよう」
此処で俺が悩んでも仕方がないからね!
「アルフ、お肉焼くけど何が良い?」
牛肉はシチューに使ったから無いけど豚肉と鶏肉、あとヒュドラの肉ならある。
「ヒュドラって、……なんだい?」
「神話の怪物」
「何故君はそんな生き物の肉を持ってるんだ……」
持ってるって言うか蔵の中に入ってるって言うか、……まあ気にするな、クロノ。
……調理するのは初めてだけどセラフが居るから大丈夫、……なはず。
セラフなら調理方法を知ってるよね?
『知っていますが……。あれは調理に時間がかかるうえに念入りに血抜きをして、内臓を取らないと毒で今朝までのアリシアさん状態になりますよ?』
「…………」
それってつまり……。
「体から魂が抜け出ちゃう的なアレか」
『体から魂が抜け出ちゃう的なアレですね』
そっかー。もし調理ミスったら、食べた人が朝までのアリシア状態になるのかあ。
「はっはっは。――アルフ、間を取ってハムで良い?」
一日にそう何度も魂を体に戻すなんて事はしたくないからね!
「へ? あ、ああ良いけど……。豚と鳥はダメなのかい?」
どっちかと言うとそっちが食べたい、とアルフの尻尾が垂れた。
「いや別に。アルフが食べたいなら焼くよ。時間が無いから簡単な調理しか出来ないよ?」
「おうさ、全然構わないよ……!」
秋介にお任せだ! とさっきとはうって変わってアルフの尻尾が元気よく揺れた。
「秋介、さっきパンを出した布は使わないの?」
「分かってないな、ユーノ。料理は作って食べたいんだよ。唱えるだけで出てくなんて、なんか手抜き見たいで嫌じゃん」
さっきのパンは一から作ってる時間が無かったから仕方なくだし。
「そういうものなのか」
「そういうものなんだよ、クロノ。じゃあセラフさん、ハムとお肉出してー」
『はいはい、お任せを~』
セラフが冷蔵庫からハムとお肉を取り出すのを見ながらキッチンに入る。
……さあて、急いで焼こうかな。
いつの間にかアリシアがスプーンとお皿を持ってスタンバイしてるからね!
~いただきます~
「なるほどねー。ジュエルシードがこの世界に散らばったのって、運んでた次元船が事故を起こしたからだったのか」
俺とユーノとクロノはソファーに座ってシチューを食べていた。
「うん。僕が遺跡の発掘中にアレを発見して、管理局に保護を依頼したんだけど……。運んでいる途中に謎の事故が起きたらしくて……」
謎の事故ってなによ。原因分かってないの?
「いや、原因は一応だが判明している。貨物室の周辺に小型の次元船がぶつかったらしい」
「一応にらしいって。ハッキリしてないの?」
「ああ。事故の前後にあの周辺には、ジュエルシードを乗せた次元船以外は居なかった、と言う話だ。小型船がぶつかった、と言うのも破損部を見た見解に過ぎない」
なにそれ怖い。ホントに謎の事故じゃん。
「もしかして幽霊船とかだったりして……」
「……噂は一応ある」
「マジか……」
どんな噂か気になるね……。
「あ、その噂だったら私知ってるよ~」
テーブルの方、座ってシチューを頬張るアリシアとハムをかじるアルフの横。
なのはやフェイト、リニスと一緒にバゲットとお肉類、サラダの野菜で簡単にサンドイッチを作るエイミィさんが手をあげた。
「確か次元の海には船の事故で亡くなった人たちが乗る幽霊船が彷徨っている、だったかな?」
「おお、こっちの世界にもあるようなベタな噂だね」
こっちだと昔の海賊とかバイキングとか、あとは柄杓を要求して来る船幽霊だっけ。
「にゃ、今年の夏は海に遊びに行きたくなくなってきたの……」
なのはがバゲットを持ったまま表情を暗くした。
『大丈夫ですよ、なのはさん。もし幽霊が出てもマスターが守ってくれますから』
「任せろ。幽霊なんて俺の特製カレー粉で成仏させてやる」
「海がカレーで染まりそうなの……!」
そうなったらシーフードカレーだね!
「海かぁ……。良いなー、私も行きたいなー。ね、フェイトもそう思わない?」
「うん、私も行きたい」
「じゃあ今年は皆で一緒に行こうよ!」
「ホント!?」
「え、でも、その……」
「大丈夫だよ、フェイトちゃん。――もし幽霊が出ても秋介くんが守ってくれるよ!」
違うでしょ。フェイトが気にしてるのはそっちじゃないと思う。
「……うん。秋介が守ってくれるなら、……行こうかな」
そっちだったの!?
「良いよね、秋介くん!」
「いやまあ、別に良いけど……」
別になのはとフェイトは俺が守らなくても良いじゃないかな。だって魔法使えるし。
……幽霊より二人の魔法の方が怖いよね、とは間違っても言えない。
さっきの戦いを見ても思うけど絶対、幽霊が成仏する前に消える。と言うか消されるね。
「じゃあ私も秋介に守ってもらう!」
「アリシアは自分の身は自分で守りなさい」
「なんで!?」
忘れたの? 朝まで貴女、幽霊だったのよ?
それに、
「大丈夫だって。――この前の音楽室の時みたいに何とかなる」
「音楽室って、……もしかしてアレってアリシアちゃんだったの!?」
「その節は大変ご迷惑をおかけしました!」
弾き手の居ない音楽会、アレは大変だったなぁ、と思い返してると、
――トタタタドッガッ。
と言う音が廊下から聞こえた。
……今何か、滑ってぶつかったような音が……。
それにこのパターンまさか……。
「――アリシア、フェイト! お・待・た・せ!」
さあ一緒にごはんを食べるわよ! とおでこを赤くしたプレシアさんが飛び込んで来た。
……ああ、やっぱり。母娘だね。
さっきのアリシアと同じような飛び込み方。こっちは牛乳ひげじゃなくて赤くなったおでこだけど。
「まずはどっちからあーん、――あうっ!?」
「食事中なんですから騒がないでください、プレシア」
「はい……」
リニスに手刀を落とされシュン、と大人しくなったプレシアさんがアリシアの向かい側に座った。
「あらあら、やはり娘さんの事になると人が変わりますね」
少し遅れてリンディさんもやって来た。
「あ、艦長もどうぞ。シチューは私がついで来ますから。量はどれくらいが良いですか?」
「ありがと、エイミィ。それじゃあちょっと多めにお願いしようかしら」
エイミィさんが席を立ち、それと入れ替わるようにリンディさんがプレシアさんの隣に座った。
「ではプレシアの分は私が。量はどのくらいで?」
「私も多めでお願いするわ」
リニスも席を立ち、エイミィさんと一緒にキッチンへ入って行く。
……プレシアさんにリンディさん、なんかさっきより若くなったように見える。
温泉の美肌効果スゲェ。プレシアさんなんて昨日も若返ったのにまた……。
まあそんな事は横に置いといて、
「話がかなり脱線したけど戻そう。それで? その幽霊船について何か分かってんの?」
俺としてはちょっと見てみたい。何かしら手がかりがあればセラフに頼んで探すの手伝えると思うし。
「ん? ああ、そうだな……。次元船以外の破片が見つかった、と聞いたな。それには文字が書いてあったそうだ」
ほほう、文字ですか。一体何て書いてあったの?
「確か、D・S、だったな」
「……ん?」
何だろう。前にも同じような事があった気がする。
「D・S……? 何処かの遺跡で見たような」
「本当か、ユーノ? それならあとで色々と聞かせてもらいたい」
「うん、それは良いんだけど、……何処で見たんだっけ?」
思い出せない、とユーノがシチューをソファーの前、背の低いテーブルに置いて、腕を組んで考え出した。
「うーん、……あ、確か人の名前だった気がする」
「人の名前? それならイニシャルかなにかと言う事か。D・S、そして幽霊船の噂……」
一度本局で調べてみる必要が……、とクロノまでユーノと同じように考え出した。
……D・Sで人の名前って。
いやいやいや。そんな筈はないって。だってあの人最近見て無いもん。最後に会ったのって確か一年生の時の遠足だからね。……あ、でも自然公園のアスレチックが変わったり増えたりしてた。
……と言う事は最近もこっちの世界に来てたって事か……。
ならもしかしてその時に……。
「……世界って狭いね、セラフ」
『本当ですね、マスター』
「「……?」」
今度会ったら聞いてみよう。いつ会えるか知らんけど。
「何か心当たりでもあるのか?」
「いやないよ。心当たりなんて少ししかない」
「少しあるじゃないか」
はっはっは。ちょっとゲーム機の名前に似てるな、って思っただけ。
ホントにそれだけだから気にしないでね!
それよりも、
「俺としてはこのあと、プレシアさんたちがどうするかを聞きたいかな」
「ごはん食べたらもう一回温泉に入って泳ぐ」
「アリシアには聞いてない」
「そんな!?」
俺が聞きたいのはそう言う事じゃなくて……。
「私たちが今後どうなるか、でしょ。坊やが聞きたいのは」
その通り。俺が聞きたいのはプレシアさんたちがこれからどうなるか、だ。
……俺が関わった以上ハッピーエンドで終わらせたいからね。
プレシアさんたちが何かの罪に問われてバラバラになる、なんてそんな展開にはなってほしくない。
「――フフ」
「……? どうしたの、プレシアさん」
「まさかそこまで坊やに心配されているなんて、……フフ」
「大丈夫ですよ、秋介君。貴方が心配するような事はありませんから」
む、リンディさんまでちょっと笑ってる……。
「それってどう言う事?」
「言葉のままです。プレシア女史たちは罪に問われる事はありません。勿論秋介くんも、ですよ?」
……へ、そうなの?
「じゃなきゃこんな呑気にごはんなんて食べないわよ。ねぇ、リンディ?」
「ええ。もし罪に問うような事があるならば、此処に来る許可なんて出しませんよ」
そんなあっさりと……。あ、もしかして。
「セラフは知ってた?」
『はい。お望みなら何故罪に問われないかを説明しましょうか?』
「んー、……それは別に良いや。長くなりそうだし」
それに、
「ごはん食べてる時に聞くような話じゃないでしょ。そう言うのは寝る前に、子守唄代わりにでも聞くよ」
今日は早起きだったからね。夜は速攻で寝る自信がある。
『つまり聞く気は無い、と言う事ですね』
そうともいうね!
……にしてもいつの間に二人はそんな事を話してたんだろう。
やっぱ温泉に入ってる時か……。二人だけ残ってたし。時間的にも良い機会だったかな。
「あの、……艦長?」
「なにかしら、クロノ。そんなポカンとした顔してどうしたの?」
「いや、あの……」
……ん?
リンディさんの言葉を聞いてクロノを見ると、確かに呆気にとられたようにポカンとしていた。
……クロノだけじゃなくてユーノまでポカンとして、……ああ、そう言う事ね。
よくよく見たら二人だけじゃない。サンドイッチを頬張るアリシアを除いて、さっきまで海がどうのこうのと話していたなのはやフェイトたち全員が同じようにポカンとしていた。
「……あむ、むぐ、……あ、……ポカン」
「いや遅いよ、アリシア」
口でポカンとか言わないの。あとサンドイッチ置きなさいよ。
「てへっ」
「はいはい、カワイイカワイイ。だから口元についたマヨネーズ拭きな」
「あ、ホントだ」
ペロッ、とアリシアが親指で拭ったマヨネーズを舐めた。
「それで皆、何でポカンとしてるの?」
「多分だけど、プレシアさんとリンディさんがサラッと言ったからだと思う」
「私たちがサラッと?」
「言ったから、ですか?」
なにを? と揃って首を傾げる二人の周り、
『えっ、えぇえええ――!?』
俺とセラフとアリシア以外の皆が一斉に叫んだ。
……おお、耳がキーンってなった。
でもテーブルの料理が零れたり、コップが倒れたりしないようにリアクション取る皆すげぇ。
「か、艦長! 罪に問われる事は無いって、勝手にそんな事を決めないでください!」
「そうですよ、艦長! 私たちに相談の一つでもあって良いんじゃないですか!?」
「だってクロノは一緒に温泉入っていなかったし、エイミィはアリシアちゃんと泳いで遊んでたじゃない」
「プレシア! 何故そんな大事な事を教えてくれなかったんですか!」
「だってリニスはフェイトとなのはちゃんの髪の毛を洗っていて、近くに居なかったじゃない」
詰め寄られるリンディさんとプレシアさんがそれに、と声を揃え、
「黙っていた方がサプライズになるでしょう?」
言った。
「ああ、なるほど!」
『マスターとアリシアさんが納得しても意味ないですよね』
だよねー。
「えっと、その……。つまりフェイトちゃんは捕まったりしないって事、……ですか?」
「ええ。捕まったりしないわ、なのはちゃん。だから今の皆で海に行こうって話、喜んで受けるわ。日程が決まったら教えてくれるかしら」
「――はいっ! 良かったね、フェイトちゃん。一緒に海行けるよ!」
「……うん」
なのはとフェイトが楽しそうに話す向かい側、
「――という訳ですから。くれぐれもよろしくお願いします、クロノ執務官。それにエイミィ補佐官も」
「はあ、……分かりました。確かに艦長の言う通りですから、僕の方からも厳重注意程度で済むよう報告書をまとめておきます」
「はーい、了解です。それにしても艦長、随分と強引な理由になりますけど大丈夫なんですかね? もし裁判なんて事になったら……」
リンディさんたちがちょっと気になる事を話してた。
……裁判って……。
それってもしかしなくともプレシアさんたちが、って事だよね。結構危ない橋を渡る気だったっぽいし、万が一にでもその可能性が……。
「大丈夫よ、エイミィ。そんな事は万が一にも無いわ。だって管理局提督と執務官が揃って証言するんですもの。今回の事件で特に大きな被害も犠牲者も出なかったのは、彼女たちの協力で迅速に解決できたお陰です、って」
それに、とリンディさんは続ける。
「私も同じ子を持つ親として、彼女のこれからを応援したいのよ。……家族と過ごす時間は、何ものにも代え難い大切なモノだから」
「艦長……」
ほんの一瞬だけ、リンディさんがクロノを見たような気がした。
……心配は、……しなくても大丈夫そうだね。
リンディさんたちに任せておけば悪い事にはならないよね。
「おい、秋介」
「ん? ――へっ?」
「どうした、間抜けな声出して」
いや、急にクロノに呼ばれてビックリしたと言うか……。
「よく分からんが、……今回の事件についての報告書を作成するにあたって君にも幾つか聞きたい」
なんだ、そんな事か。
「まずはアリシア・テスタロッサの復活に使用した宝具についてだ」
「あ、その話僕も聞きたい。アレは何か、特殊な結界なの?」
「そうね……。ユーノの言う通りアレは特殊な結界だよ。〈
こうして宝具の説明やら軽い世間話をしながら楽しく皆でごはんを食べ、
アリシアの「晩ごはんなに?」という言葉に「鮭か鯛のお茶漬け」ともしかしてうちに泊まってくの? マジで? と思いながら答え、
「わたしも泊まるの!」と譲らないなのはを「今度泊まりに来て良いから」と何とか説得してリンディさんたちとアースラに帰ってもらった。
……ふ、明日は八時くらいまで寝よう。
今日はいつもより一時間半も早く起きたからね。明日はその分寝よう。絶対に。
『明日は学校がありますからね?』
「あっ」
すごく休みたくなった。
~数時間後~
その日の夜。
食器や温泉の片づけ、明日の学校に持って行くお弁当の仕込みを終わらせてあとは寝るだけだね! とリビングでセラフさん特製カフェ・オレを飲みながら一息ついていると、
「あ、秋介……」
パジャマ姿のフェイトがやって来た。
「ん、どした?」
「お水、もらっても良いかな。アリシアがバウムクーヘンを詰まらせそうで……」
「……えぇ」
バウムクーヘンなんていつの間に持って行ったんだよ。あの元幽霊少女。
……そう言えば冷蔵庫の中のカットバウムがなくなってたな。
あれ結構な量があったけど全部持ってったのか……。
「なに、二階でバウムクーヘンの早食い大会でもやってんの?」
「えっと違くて、その……。アルフとどっちが口に多く入るか勝負になって……」
四個目を口に入れた所だったよ、とフェイトが申し訳なさそうに言った。
「ごめんね。勝手に食べ物持って行って……」
「いやそれは全然良いんだけど……」
くれぐれも気を付けてほしいね。せっかく魂を戻したのに、その日の夜にまた魂が抜け出るなんて事は遠慮してもらいたい。
「はあ。……まあ良いや。それで水だよね」
「うん」
アルフも、って事はコップ一杯じゃ足りないよね。確か冷蔵庫に、……っと。
「はいこれ。とりあえず二本持ってきな」
冷蔵庫からペットボトルを取り出してフェイトに渡す――。
「えい」
「ひゃうっ!?」
――と見せかけてほっぺにヒタ、と引っ付ける。
『マスター、……――ナイスです!』
「ふ……」
イエーイ、とセラフとハイタッチする。
「うぅ、ビックリした……」
自分のほっぺに手を当ててフェイトがしゃがんだ。
「急に何するの……」
「んー、フェイトが何か悩んでるからかな」
「っ……。うん……」
今度は自然公園の時みたいになんとなくじゃなくて、しっかり分かった。
……悩んでるのは多分、自分がアリシアのクローンだ、って事をなのはに言うかどうかだよね。
俺に話してくれた時も悩んでたみたいだし、なのはにも対しても同じように……。
「……友達になりたいって言ってくれたあの子に、返事をしたいんだけど」
どうしたら良いか分からなくて、とフェイトがその場に座った。
「…………そっちかぁ」
全然違った。俺の予想してたのと全然違ったわ。
「そっちってなにが?」
やべ、口に出てた?
「いやその、……アリシアのクローンだから云々の方かな、って」
「その事だったら一緒に温泉に入った時にもう話したよ」
しかも既に悩む所か話し終わってるよ。それも温泉で。
『ふふ、――マスター!』
これも知ってたなら教えてよ。セラフさんの意地悪。
……にしてもコレ、どう答えたモノかな……。
俺が教えても良いけどなんか、……それは違うような気がするんだよねー。
「友達になるにはどうしたら良いのかな、秋介……」
「そうねえー……。俺から言える事は一つだね」
「……?」
どういうこと? とフェイトが首を傾げた。
「フェイトはもう友達になる方法を知ってる、というか俺相手にもうやってるよ」
「……?」
『マスター、マスター。それで分かるなら悩んだりしませんって』
それもそうか。
「じゃあヒント。アリシアがなのはに会った時何をしたか、だ」
「私が秋介にもうやって、アリシアがあの子に会った時にした事……?」
なんだろう、とフェイトが考え、
「――抱き着くの?」
惜しい。確かにそうだったけども!
「ちょっと違うかな。抱き着く前、というか瞬間かな」
あ、俺の事は考えない方が分かりやすいかも。
「……もしかしてな――」
フェイトが何かを言いかけた瞬間、
『――アリシアぁあああ――ッ!?』
二階からプレシアさんの絶叫ともとれるような叫び声が聞こえた。
『た、大変よリニス! アリシアの口から白いモヤモヤが!?』
『落ち着いてください、プレシア! アレはバウムクーヘンの欠片、――じゃなくて魂ですか!?』
『フェイト、フェイト! 速く水を持って戻って来て! アリシアが……!』
ドッタンバッタン、続く阿鼻叫喚を想像させる声を聞いて、
「「…………あっ」」
どうしてフェイトがリビングに降りて来たのかを思い出した。
「……ごめんね、秋介。騒がしくして」
「気にするな。それよりコレ持って早く戻った方が良いよ……」
手に持つペットボトルをフェイトに渡す。
「うん。明日の朝までまだ時間はあるから、さっきの事もう一回考えてみる。……じゃあお休み」
そう言ってフェイトが急いで二階へと戻って行った。
「あいあい、お休みー。……って、あれ?」
明日の朝までって、明日の朝に何かあるの?
『はい。テスタロッサ一家の皆さんとアースラ組の皆さんが明日の朝、この世界を離れる事になりました』
「へぇー、……えぇっ!?」
そんな事聞いてませんよ!?
『決まったのはつい先ほどですからね。今回の事件についての事情聴取や事後処理、なのはさんとの約束に間に合うには早めに終わらせた方が良い、という事になったそうで』
「あー、なるほど」
なんでずっと一緒に居たセラフがそんな事を知ってるの? と思ったけど聞かないでおこう。
セラフさんならそれくらい余裕だろうからね!
「なのはにその事連絡したの?」
確かアースラに帰ったあとにうちに帰る、って言ってたよね。
『なのはさんにはリンディさんの方から連絡をするそうです。お見送りの場所は海鳴臨海公園、時間は今日と同じ時間に集合、と言う事です』
マジですか。
「……もう寝ようかな」
明日も早いみたいだからね、……はあ。
~翌日~
集合時間よりもちょっと早く来たにも関わらず、既に待っていたクロノと合流して海を眺めていると、
「フェイトちゃーん! 秋介くーん!」
フェレット姿のユーノを肩に乗せたなのはが、手を振りながら走って来た。
「おはよう!」
「うん。おはよう」
「おう、おはよー……」
あ、ヤバイ。ちょっと眠くなってきた……。
……二日連続早起きする事になるとは思わなかった。
しかもこのあと学校があるなんて思いたくないね。
「随分と眠そうだね、秋介」
ピョン、となのはの方から飛び降りたユーノを拾い、肩に乗せる。
「まあね。昨日の夜も日付が変わる頃まで寝むれなかったのよ」
「……何があったの?」
「バウムクーヘンが原因の阿鼻叫喚の地獄絵図」
「一体君の家で何があったんだ……」
気にするな、クロノ。ちょっとアリシアの魂が抜けかけただけだ。
「じゃあなのはにフェイト、俺たちは向うに居るから。ゆっくり話しな」
「うん、ありがとう」
「ありがとう」
二人を残して少し離れた所、木製の休憩所に移動して座る。
そしてなのはとフェイトを振り返ると、海を見ながら話していた。
「あはは、……いっぱいお話したい事考えて来たのに、忘れちゃった」
「私は、……うん。私も同じかな。なんて言ったら良いか分からなくなっちゃった……」
あのね、とフェイトが続ける。
「伝えたい事が、あるんだ」
フェイトがなのはの顔を見て、言う。
「君が言ってくれた、友達になりたいって言葉。……私が出来るなら、私で良いなら、って思う」
「フェイトちゃん……!」
「でも、どうしたら良いか分からなくて、秋介にも相談して、……ずっと考えて来たんだ。どうしたら友達になれるのかな、って」
ちょっと照れた顔でフェイトがなのはの方に体を向け、
「簡単だよ、フェイトちゃん」
それに合わせてなのはもフェイトに体を向ける。
「友達になるの、すごく簡単!」
「うん」
二人がお互いに向き合い、
「――名前を呼んで」
言った。
「ぷ、あははっ……!」
「あははっ……!」
なのはとフェイトが同じ事を言って笑う姿を見ながら思う。
……あのヒントで答えが出て良かった。
もしまたフェイトが抱き着く、なんて答えになってたら完全に俺の所為だからね。
「良い子ね、なのはちゃん」
「ええ。彼女はフェイトの事を本当に思ってくれていますね」
「私、なんだか泣けてきたよ……」
プレシアさんとリニス、アルフが見つめる先、
「なのは。わたし、高町・なのは」
「フェイト。私はフェイト・テスタロッサ」
二人が改めて自己紹介をしていた。
「フェイトちゃん」
「なのは」
なのはがフェイトの手を取り、
「ありがとう、なのは」
フェイトがその手に自分の手を重ねた。
「友達になりたいって言ってくれて、本当にありがとう、なのは」
「っ……!」
ツウ、となのはの目から涙が溢れた。
「あれ、……急にどうしたんだろう。もう会えない訳じゃないのに、……っ!」
なのはが溢れる涙を拭うが、次から次へと涙が溢れ出る。
「大丈夫。すぐにまた、会えるから」
フェイトがなのはの涙を拭い、
「だから、その時はまた君の名前を呼ぶよ」
「――うん、うん! フェイトちゃん……!」
なのはがフェイトの胸に飛び込んだ。
そして、
「秋介ぇ――ッ!」
「はいはい」
ガシィ、ともらい泣きしながら飛び込んで来たアリシアを受け止める。
「――そんな。今絶対にアリシアは私の胸に飛び込んで来ると思ったのに……!」
「プレシア……」
「うぅ、……この際アルフでも良いわ。――さあ、来なさい!」
「プレシア――ッ!」
ヒシィ、と抱き合って泣くプレシアさんとアルフが視界に入ったけど今は無視しよう。
「うぅ、……ズピ。秋介ぇ、……うぁああん」
「まったく。お姉ちゃんが泣くなよ」
カッコ悪いよ、とアリシアの涙を拭う。
「グスッ。……フェイトに見られてないから良いの! でも……」
うああぁ……、とアリシアの瞳から次から次へと涙が溢れる。
「どうぞ、アリシア。これを使ってください」
「ん。ありがと、リニス」
アリシアがリニスに受け取ったハンカチで顔を拭いた。
……またすぐに会えるだろうに。
そこまで泣かれるとこっちまで泣きそうになる。
『残念です。マスターの泣き顔が見られると期待していたのに……』
そんな期待は要らないよ、セラフ。
「……そろそろ時間だ」
「あれ、もう? 二人にゆっくり話しな、って言ったんだけど……」
「これ以上は、……余計に別れ辛くなるだけだろう」
「ああ……」
なるほど。確かにこれ以上は別れが辛くなるよね。
「行こうか」
「だね」
立ち上がり、二人の元へと向かう。
「お二人さん、ちょっと良い?」
「すまないが、そろそろ時間だ」
「……うん」
「秋介くんにユーノくん。それにクロノくんも、……あ、フェイトちゃん!」
「……?」
なのはが自分のリボンを解き、
「思い出にできるの、こんなのしかないけど……」
フェイトに差し出す。
「じゃあ、私も」
フェイトも自分のリボンを解いてなのはに差し出す。
二人が互いの手に自分の手を重ね、
「なのは……」
「フェイトちゃん……」
「「またね」」
笑顔でリボンを受け取った。
……あ、今のちょっとヤバイ。
涙腺が、と抑えようとしたら、
「なのはっ! またねぇ――!」
「はにゃっ!? アリシアちゃん!?」
アリシアがなのはに突撃した。
……一気に泣く気分じゃなくなったね……。
タイミングが良いのか悪いのか、困ったお姉ちゃんだなぁ。
「じゃあね、なのは。また今度」
「こっちに戻れるようになったら連絡するわ。だからまたね、なのはちゃん」
「アルフさんにプレシアさん……」
二人に撫でられるなのはが恥ずかしそうに笑う。
「じゃあ僕もそろそろ」
「またな、クロノ」
「ああ。……所でユーノはこっちの世界に残るのか?」
あ、それ俺も気になってた。さっきから俺の肩に乗ったままだけど……。
「もうしばらくはね。なのはにまだ魔法を教えて欲しい、って頼まれたから。……僕としては、これ以上は教える事は無いんだけどね」
「そうか。なら帰りたくなったらいつでも連絡をくれ。こっちで手続きを済ませるから」
「ありがとう、クロノ」
フェレット姿で短い手を振るユーノを軽くつまんで、ヒョイ、となのはの肩に移す。
「秋介」
フェイト?
「ありがとう、秋介。しばらく会えなくなっちゃうのは寂しいけど、……またね」
「ん、またね。いつでもうちに遊びに来て良いから」
「やったね!」
「アリシアは、……まあ良いや。風引かないように気を付けなよ」
「うん! 色々とありがとうね、秋介! それにセラフも!」
『はい、また今度です。お元気で』
元気でね、と二人に挨拶を済ませ、
「じゃあ行こうか」
クロノの言葉と同時に魔法陣が現れ、プレシアさんたちがその中に入った。
「あれ、何でリニスはこっち側に居んの?」
プレシアさんたちと一緒に行くんじゃないの? てっきりついて行くと思ってたけど……。
「やっぱり一緒に帰らない?」
「リニス……」
アリシアとフェイトが寂しそうな顔でリニスを見る。
「……だって私、今は秋介の使い魔ですから。フェイトたちの前から黙って消えて、生きている事も連絡しなかったのに、今更どんな顔で一緒に暮らせと言うんですか」
私には分かりません、とリニスが悲しげに顔を伏せる。
そんなリニスを見て、
「スゥ、――はあぁ~……」
大きく、そしてわざとらしくプレシアさんがため息をついた。
「プレシア……?」
「リニス、まったく貴女は……。そんな事で悩むくらいなら直接私たちに聞きなさいよ。どんな顔で一緒に住めば良いですか、って」
いやプレシアさん。それはなんか違う気がする。
此処は普通「そんな事気にしないで一緒に帰りましょう」とか言うんじゃないの?
「では聞きますが、……どんな顔して一緒に暮らせば良いんですか?」
え、リニスさんってば聞いちゃうの?
「知らないわよ」
即答!? しかも自分から聞けとか言ったのに知らないって酷くない!?
「だってリニス、生きていた事連絡してくれなかったんですもの」
プイ、とプレシアさんがそっぽ向いた。
……照れ隠しかぁ。
言うのが恥ずかしいなら言わなきゃ良いのに。
「はい、はい! 私分かるよ! 名ま――」
「名前を呼んで、とかは無しだからね、アリシア」
「……フェイト、パス」
おい。
「えっと、……じゃあ笑って、それで一緒に暮らそう?」
「そうだよ、リニス。フェイトの言う通りだ。……帰って来る時は、笑顔で帰って来ておくれよ」
「フェイト、アルフ……。私は……っ!」
その……、とリニスが言葉を飲んだ。
「ねえリニス。もしかしてだけどさ、――俺に恩を返さなきゃ、とかまだ思ってる?」
「――ッ」
やっぱりそうか。
「命を助けた恩とかはもう、返してもらってるからね? ……ありふれた事を言うけどさ、今日まで一緒に過ごしてきた思い出がそうだよ」
言ってて恥ずかしくなってきたけど、此処は我慢して続ける。
「一緒にごはんを作って食べたり、お散歩に行ったり。魔法の特訓に付き合ってもらったりしながら過ごしてきた日々や思い出が、リニスからの恩返しだと俺は思ってる」
だから、
「俺の事はもう良いから。これからはプレシアさんたちとの思い出を作りに帰りな」
「――秋介ッ!」
ギュ、とリニスに優しく抱きしめられた。
「はい、……グス。分かりました。――行ってきます、秋介」
「うん。――行ってらっしゃい、リニス」
ヤバイ。リニスにつられて俺も泣きそうになって来た。
「ちょっと、……離れて」
流石にこれ以上は恥ずかしさと相まって大泣きしそう……。
『そんなマスター、私は見たいです』
「私も」
セラフとアリシアはちょっと黙ってください。
「……はい。それではこの辺にしておきましょうか」
リニスが俺から離れ、プレシアさんたちの方へと歩いて行った。
「お帰りなさい、リニス」
「ただいま、プレシア」
二人の笑い合う姿を見て、思う。
……これで一件落着、だね。
あ、そう言えばうちにあるリニスの荷物とかどうするんだろう……。
『それではリニスさん。荷物の方は後ほどそちらに転送しますので、向うに着いたら連絡してください』
「はい。ありがとうございます、セラフ」
おお、流石セラフさん。抜かりが無いね!
「ごめん、なのは。それにクロノとユーノも」
俺の関係で時間を取らせて、本当にごめん。
「ううん。気にしなくて良いよ」
「ああ。気にするな、秋介」
「ちょっと感動のお別れがあっただけ、でしょ?」
む、クロノとユーノにそれを言われるとは思わなかった。
「じゃあ今度こそ本当に行こうか」
クロノが魔法陣の中に入り、
「またな」
「じゃあね」
「おう」
ユーノと一緒に手を振って挨拶を済ませる。
「ッ……!」
「っ……!」
フェイトとなのはが手を振るのと同時に魔法陣が光だしそして、
「「またねっ!」」
皆は転移の光に包まれ帰って行った。
「帰るか」
「うん」
なのはとユーノと一緒にその場をあとにする。
『帰るのは良いんですけどマスター。それになのはさんも。……学校の事、忘れてませんよね?』
「……はあ」
「……にゃ」
「二人とも……」
やっぱ行かなきゃダメかぁ。
『頑張って行きましょうよ。――今日はお昼までなんですから』
「え、マジで?」
『マジです。今日からテスト週間になっていますから』
あー……。そうだったんだ。完全に忘れてたよ。
「確か今日のテストは国語と理科だったっけ?」
『はい。その二教科だけですね』
「き――」
「なのは……?」
ユーノが首を傾げ見上げると、
「聞いてないよ――っ!?」
なのはが叫んだ。
……耳が……!
てか、俺よりユーノが大丈夫か? 思いっきり耳元で叫ばれてるよね!?
「キュッ――!?」
おお、器用に耳を塞いでる……!
「どうしよう、秋介くん!?」
わたし勉強してない! となのはがあたふたし始めた。
「良いか落ち着け、なのは。――一旦うちに帰って朝ごはん食べよう」
まだバスの時間まで余裕がある。転移で戻れば食べたあとに、少しでも勉強する時間はある筈だから。
「――はっ! そ、そうだね。お、お願いします!」
「じゃあセラフさんよろしくー」
『はいはい。では、なのはさんのおうちから道具一式は一緒に転移させておきますね』
「セラフは凄いの……!」
そりゃそうだ。
「なにせ俺のデバイスは――」
『だって私は――』
足元に魔法陣が展開され、
「『――次元世界一のデバイスだからな(ですからね)!』」
光に包まれると同時にうちに帰った。
あ、ちなみに朝ごはんはおにぎりとたくあんだからね!
――はい。と言う訳で、長くなりましたがこれにて無印編は終了です。
何話か日常回を挟んで、それからA’s編に入ろうかな、と思ってましてですね……。
せっかくの日常回なんだし、ちょっと英霊でも登場させるかな? と。そう思った訳でして。
なので、活動報告の方に初のアンケートを投稿したので良かったらよろしくお願いします。