転生少年と月の目モドキ   作:琴介

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 作者もまさかアレが此処で再登場するとは思いもしなかったよ……。


第十九話:広いと泳ぎたくなるのは仕方ない

 光が晴れ周りを見ると、幾つもの空間モニターが浮かぶ広い部屋に立っていた。

 ……コレは見事なSF感……!

 

「なあクロノ、此処って……」

「此処は時空管理局所属・次元航行艦船アースラ、そのメインブリッジになります」

 

 聞くとクロノではなく、女の人の声で答えが返って来た。

 声の方を見ると、

 

「初めまして、ではないですね。昨日、モニター越しでしたがお話ましたから。改めまして、私はリンディ・ハラオウン、この船の艦長をしています。貴方が戸田・秋介君ですね?」

 

 俺たちから少し離れた所、椅子に座る緑髪の女の人――リンディさんが湯呑みを持って微笑んでいた。

 そしてその横に、

 

「どうも~。私はエイミィ・リミエッタ、そこなクロノ執務官の補佐官兼この船の通信主任と管制官やってます」

 

 よろしくね~、と手を振る茶髪のお姉さん――エイミィさんが立っていた。

 

「じゃあ俺も改めて。戸田・秋介、秋介で良いよ。それでこっちが……」

『デバイスのムーンセル・オートマトン、セラフと呼んでください』

「ええ、よろしくお願いしますね。秋介君にセラフ」

 

 そう言ってリンディさんは近くに置いてある二つの器の内、手前の器の蓋を開け、

 

「では早速で悪いのだけど、お話を聞かせてもらえるかしら?」

 

 そこから取り出した白いサイコロみたいな形のモノを湯呑みに落とした。

 

「アレって……」

『角砂糖ですね。それにもう一つの器に入っているのはミルクです』

「…………」

 

 セラフの言葉を聞いてクロノの肩に手を置き、

 

「――頑張れ」

 

 心からのエールを送る。

 

「今の一瞬で君は一体何を悟った? ……だがまあ、その気持ちは素直に受け取るよ」

 

 おおう、クロノが頭抱えちゃったよ。って、またリンディさんが角砂糖を……。

 

「艦長! それは流石に入れ過ぎ! もう五個目ですよ!?」

 

 エイミィさんがリンディさんを止め、

 

「何を言っているの、エイミィ。――これはまだ六個目よ?」

「母さん――ッ!?」

 

 それでも止めようとしないリンディさんを見て、クロノが叫んで止めに走った。

 

「ちなみにセラフさん。あの湯呑み中身は?」

『緑茶ですね』

「……まあ味覚は人それぞれだからね」

 

 否定はしない。しないよ? でもさあ、……五個は流石に無いよね。落としたとしても一個でしょうに。

 ……今度、挑戦してみようかな。

 ちょっと味も気になるし、物は試し、って言うからね。緑茶が勝つのか砂糖が勝つのか……。

 

「ユーノはどっちが勝つと思う?」

「ごめん。話が急すぎて君の中でなにとなにが戦っているのかが分からない。……でも何となく言いたい事は分かるよ」

「じゃあどっちだと思う?」

「砂糖」

 

 即答だね!?

 

「……初めて此処に来た時に一回、飲んだ事があるから」

 

 スッ、とユーノが何処か遠い所を見た。

 ……ふむ。ならなのはも飲んだって事か。

 あとで聞いてみようかな。ユーノの反応からして結果は見えてるけど、もしかしたら違う反応が見られる可能性が……!

 

『無いですね』

「無いよねー」

 

 などと暇つぶしを兼ねて話してたら、

 

「まったく。昨日注意したばかりなのに、……はあ。エイミィ、コレを片づけて来てくれ」

「はいよっ、クロノくん!」

 

 クロノがリンディさんから角砂糖の入った器を取り上げ、ため息をつきながらエイミィさんに渡した。

 

「ああっ、待って! せめて、せめてあと一個だけでも……!」

「ダメですよ、艦長。あ、ついでにミルクも持って行きますね~」

「ああっ――!?」

 

 二つの瓶を持ったエイミィさんがブリッジを出て行くのを見送り、

 

「うぅ、お茶が苦いわ……」

「それじゃあ気を取り直して、本題に入ろう」

 

 こっちに来てくれ、と肩を落とすリンディさんを無視するクロノに呼ばれた。

 

「あいあい。で、まずは何から話せば良い?」

 

 俺の事? それともプレシアさんたちの事かな?

 

「いや、君に関してはあとで良い。僕が聞くより適任者がいるからな」

「なのはだね」

『なのはさんですね』

「なのはかぁ……」

 

 なんて説明しようか……。

 ……うーん、……よし。あとで考えよう。

 今はクロノたちに事情を話すのが先だからね! となんとなく宙に浮かぶモニターを見ると、

 

『か、母さん。苦しい――』

『ふぇ、フェイトちゃん! 大丈夫!?』

『ママ!? フェイトの顔が青くなってるよ!?』

『しっかりしな、フェイト……!』

『貴方たち落ち着きなさい! ……フェイトの顔がさらに青くなって、――リニス! 今すぐうちに戻ってフェイトの着替えを持って来て! このままだと風邪、――あうっ!?』

『落ち着くのは貴女です、プレシア! まずはフェイトを離してください、苦しんでいます! それと、濡れたのはバリアジャケットなので元の服は無事です!』

『――そうだったわ! フェイト、今すぐバリアジャケットを解除なさい!』

 

 風邪を引いてしまうわ……! とリニスにフェイトから引き離されるプレシアさんの姿が目に入った。

 

「…………」

 

 なんだろう。ついさっき似たような光景を見た事がある気がする。

 

「どうかした?」

「……いやなんでもないよ、ユーノ」

 

 ちょっと既視感がしただけだから気にしないで。

 

「それで、まずはプレシアさんの事からだよね」

 

 なにから話せば良いかな? 他人の俺が勝手にあれこれ話すのはダメだから……。

 とりあえず、

 

「プレシアさんがジュエルシードを集めてたのは娘を復活させる為だったんだよ」

 

 昨日クロノがフェイトたちに聞いてた事で良いか。もう隠す必要もないし。

 

「「「……は?」」」

 

 どういう事? とクロノユーノだけじゃなく、「お砂糖とミルク……」と呟きながら湯呑みを眺めていたリンディさんまでが、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。

 

「んで、さっきいきなりプレシアさんが現れたのはこのマントで――」

「――待て」

 

 〈顔の無い王(ノーフェイス・メイキング)〉を見せようとしたら、クロノに止められた。

 

「なに」

「なに、じゃない! 君は今なんと言った!?」

 

 ちょっ、クロノ。そんな詰め寄らんでも……。

 

「ジュエルシードを集めていたのは、娘を復活させる為だと、――まさか」

 

 クロノが宙に浮かぶモニターを見た。

 

「っ……! あのフェイト・テスタロッサの生き写しのような少女は誰だ!」

『アリシア・テスタロッサ。プレシアさんがジュエルシードを集め、復活させようとしていた娘さんですよ』

 

 俺の代わりに答えたセラフの声を聞いて、

 

「――ッ!」

 

 クロノがS2Uを構えた。

 

 ……えぇ。

 俺なんか変な事言った? 聞かれた事を答えただけなのに……。

 

「何故だ……」

『追っていた相手の目的を聞いて、しかもそれが既に達成されているとなれば当然の反応でしょう』

 

 マジですか……、と思っていると、

 

「ただいま戻りました~、――って何この状況!?」

 

 エイミィさんが戻って来た。

 

「な、なにがあったんですか、艦長……?」

「実は……」

 

 リンディさんがエイミィさんに事情を説明し、

 

「アリシア? ……あっ、プレシア・テスタロッサの娘さんか。昔起きた事故で亡くなったって資料にあったけど、……えぇえええっ!?」

 

 それを聞いたエイミィさんがモニターを見て叫んだ。

 

「どど、どーゆー事なの、クロノくん!?」

「それを今から聞く所だ。……昨日君が回収していったジュエルシード九個。アレを使ったのか?」

「つ、使ってない。あんな爆弾みたいな危ない宝石、使ってないから!」

『見てもらった方が早いですね』

「え?」

 

 そう言ってセラフがモニターを表示し、

 

『――ここは我が国、神の国、水は潤い、実り豊かな中津国』

 

 お札を持った俺と、その近くで自分の体の傍に立つアリシアが映っていた。

 それに加えてモニターの左上、

 

「セラフさん、あの数字なに?」

 

 5:48と出ていた。

 

『アレですよ、アレ。朝の番組でおなじみの時間表示ですよ?』

「芸が細かいよ……」

 

 時間表示要る? と思うが声に出さないで胸にしまっておこう。

 

「これは……」

「アリシアちゃんが二人……?」

 

 リンディさんとエイミィさんの声を聞いて、俺もモニターの中の自分が詠唱する姿を見る。

 ……良かった。別のバージョンでやらなくて、本当に良かった。

 クロノたちが見てるこの状況で、最後に茶目っ気出してなんちゃって、とか言っちゃう自分の姿は見たくない。

 今回は恥ずかしくないね! と思ってモニター見てると、

 

「ユーノ。君はあの魔法をどう見る?」

「映像だけじゃ判断は出来ないけど多分、あの鏡を触媒として何かしら特異的な状況を作り出したんだと思う。儀式魔法、……いや、どちらかと言うと結界魔法なのかな?」

 

 モニターの中、アリシアが復活したのを見たクロノの問いかけに、ユーノが顎に手を当てて答えた。

 

「詠唱を必要とする結界魔法は数こそ少ないけど確かに存在する。でも、死んだ人間を生き返らせる事が出来る魔法なんて聞いた事がない」

「そりゃ当然よ。だってアレ、魔法じゃないからね」

「「――は?」」

 

 ユーノとクロノが、本日二度目の鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。

 

「魔法じゃないのか?」

「うん、魔法じゃない。魔力を使うって所は同じなんだけど魔法じゃない」

「じゃあなんだい?」

「宝具という名の〝物質化した奇跡〟」

 

 確か人間の幻想を骨子に作り上げられた武装、だったかな?

 

「俺たちの世界の神話や伝承、物語に出て来る英雄たちを象徴するモノが使える、とそう思ってくれれば良いよ」

「では昨日、異相体を封印する際に貴方が使用した剣、アレも宝具なの?」

「ああ、アレね。確かにリンディさんが言う通りあの剣も宝具だよ」

 

 お城一つ簡単に落とせるレベルのね。

 

「あ、ちなみに言うとプレシアさんがいきなり現れたのも宝具の効果だったりします」

 

 じゃじゃーん! と〈顔の無い王〉を見せる。

 

「このマントをユーノに被せると……」

「フェレット擬きが消えた……」

「僕はフェレットじゃない! ……って、なんだこれ!?」

 

 ……おお、首だけユーノ君。

 

「すごいねこのマント。ユーノくんがコレを着たら艦内から反応が消えちゃった……」

『完全なる透明化、背景との同化と言う身を隠す事に特化した宝具ですからね』

「まあ野生の勘とかには見つかる可能性はあるけどねー」

 

 次からは匂い対策を……、と考えてると、

 

『――こらあ、管理局! 秋介を返せぇー!』

 

 アリシアの大声がブリッジ中に響いた。

 ……返せ、って。別に俺は無理やり連れて来たんじゃないんだけどなー。

 そう思ってモニターを見る。

 

『良いわ、アリシア。もっと叫びなさい。坊やの事だからきっと声を聞いて抜け出して来るわ!』

『分かったよ、ママ! 秋介ぇー、シチュー作ったぁー?』

 

 いやそれかよ。

 

『あ、付け合わせはパンが良いー!』

『私はワインをお願いするわ……!』

『静かにしてください!』

『『あうっ!?』』

 

 おお、リニスの手刀が見事に二人の頭に落ちた……。

 

『二人そろって何を空に向かって叫んでいるんですか!』

『だってリニスが、秋介が黒い執務官と一緒に居なくなったって言うから……』

『だってリニスが、坊やなら美味しいワインを持ってるかもって言うか、……ごめんなさい』

『アリシア、それに母さんまで……』

『今はそっとして置こう、フェイト』

『にゃははー……』

 

 アリシアとプレシアさんがリニスの前に正座するのを見た。

 

「なにやってんの、あの二人……」

「じゃ、じゃあクロノ執務官、皆さんを此処に……」

『あ、それでしたら私が代わりに』

 

 俺たちの後ろに魔法陣を展開され、

 

「まったく……。人の話をちゃんと聞いてください、……ってあら、此処は?」

「……あ、秋介だ」

「ホントね。坊やが居るわ」

「秋介……」

「え? あれ?」

「秋介くん、それにユーノくんも、――ユーノくん!?」

 

 なんで首だけなの!? とユーノを見て驚くなのはとテスタロッサ一家が現れた。

 

「あんな簡単に此処へ転移させるなんて……。あ、これ返すよ」

「あいよー」

 

 ユーノから〈顔の無い王〉を受け取る。

 

「……君のデバイスは一体なんだ?」

「次元世界一のデバイス、かな」

 

 なにせセラフさんは特別製だからね。

 

「ゆ、ユーノくん! 今く、首だけになって無かった!?」

 

 なのはが駆け寄って来た。

 

「だ、大丈夫だよ、なのは。今のは体の部分が隠れてただけだから」

「え、あ、そうなの?」

「うん。秋介の宝具って言う……」

「あ、リニスさんに聞いたよ。奇跡の力を持ったすごいモノ、だって」

 

 奇跡の力を持ったすごいモノ、……そんな簡単な説明の仕方があったのか。

 ……なんで気付かなかったんだろう。

 〝物質化した奇跡〟とか人間の幻想を骨子に作り上げられた武装とか、そんな小難しい言い方しなくても良かったじゃない……。

 

「ちくせう」

「君は急にどうしたんだ……?」

「ちょっと前の自分に聞かせたい事があって……」

 

 まあクロノには関係ないから気にしなくて良い。

 それより、

 

「さっきからどうした、フェイト?」

 

 チラチラとリニスの陰からこっちを覗いてるけど、俺なんかしたかな。

 

『囮にしましたよね』

「面目次第も無かった……」

 

 此処はしっかりと謝ろう、と思ってフェイトを見ると、

 

「秋介……!」

 

 バッ、とフェイトが胸に飛び込んで来た。

 

「ん、どうした?」

「アリシアの事も母さんの事も、全部聞いたよ」

 

 フェイトが離れ、

 

「――本当にありがとう、秋介」

 

 そう言ってとびきりの笑顔を見せてくれた。

 ……元気になったか。

 やるじゃないアリシア。ちゃんとフェイトを元気づけてくれたね。

 にしてもまあ、面と向かってお礼を言われるのはちょっと照れる。

 

「あー……、囮みたいにして本当にごめん」

「ううん、私は気にして無いから大丈夫。だから秋介も気にしないで?」

「……分かった。それで? お姉ちゃんと初めて話したご感想は?」

「うん。……思ったより賑やかだったよ」

「騒がしかったか……」

「なんで!? なんでそうなるの!?」

 

 だって賑やかって事は騒がしいって事でしょ?

 

「普通そこは「アリシアは元気だから」とか「ああ見えて寂しがりやなんだよ?」とか色々と私をフォローする所だよ!」

「えー……」

 

 元気だから、は分かるけど寂しがりやなんだよ? はちょっと見えないなー。

 

「じゃあ「フェイトに似て可愛いよね」で」

「逆! 私とフェイトの立場が逆になってる……!」

 

 そこは私に似て可愛いねって言ってよ! とアリシアが騒ぎだした。

 ……確かに、フェイトの言うとおり賑やかだよね。

 偶に過ぎてやかましい時とかあるけど。ま、それはそれで良いもんじゃないかな。

 これからテスタロッサ一家は賑やかだろうな、と思いふとプレシアさんを見ると、

 

「では秋介君が言っていた事は……」

「事実よ。私がジュエルシードを集めていたのはアリシアを復活させる為、それで間違いないわ」

 

 リンディさんとプレシアさんが話していた。

 

「ならどうやって、ジュエルシードを使ってアリシアさんを復活させるつもりだったのですか?」

「……貴女はアルハザードという名前を知っている?」

「忘却の都、禁断の秘術が眠る土地、存在するかどうかも怪しい『見果てぬ夢』の域を出ない伝承、ですね。……まさかアルハザードへ行く為に?」

「ええ。一昨日までの私はそのつもりだったわ。――それが例え、貴方たち管理局に追われるような事になろうともね」

「…………」

 

 プレシアさんの言葉にリンディさんが押し黙った。

 ……はっはっはっー。危ねぇ。

 もしリニスが昨日、プレシアさんをうちに連れて来なかったら、下手したら大変な事になってた可能性が……。

 

「リニスに感謝だね……」

「私がなにか?」

「プレシアさんを連れて来てくれて良かった、って事よ」

 

 アリシアの事もあるけど、病気の方も危ない感じだったからね。色々と間に合って良かった。

 

「はあ……」

 

 そうですか、とリニスが首を傾げた。

 

「……あ、そう言えばユーノ。俺に聞きたい事がある、って言ってたけど何だった?」

 

 色々立て続けに起きたから聞くのを忘れてたよ。

 

「ああ、そうだね。なのはも居るしちょうど良いかな」

「わたし?」

「うん。僕が秋介に聞きたかったのはね、――今までなのはを助けてくれていたのは誰だったのか、って事だよ」

 

 あー、その事か。

 

「ふ、――その助けてた誰か、って言うのは俺のこ――」

「え? それって秋介くんの事でしょ?」

「……うん。そうだけど、そうなんだけど」

 

 言われた。先になのはに言われちゃったよ……。

 

『マスター、……変に溜めるからですよ?』

「そうだね……」

 

 でもまさか〈顔の無い王〉被ったり〈天蠍一射(アンタレス・スナイプ)〉を使って見つからないようにしてたのに、なのはにバレてるとは思わなかった。

 主人公補正ってすごいね……。

 

「む、なんでわたしに見つかりたくなかったの?」

「だってその方が面白い反応が見られそうじゃん」

 

 アリシアの事とか全部終わったあとで「実は俺魔導師だったんだ!」的な感じでバラそうと思ってました。

 ……なのはの事だからさっきのエイミィさんみたいに「えぇえええっ!?」って驚いてくれるかなー、って。

 実際は「え……?」って感じだったけどね! まあ危機的状況だったからしょうがないけど。

 

「…………」

『マスター……』

「ごめんなさい」

 

 だから「意外とダメな理由だった……」的な目で見ないでください。お願いします。

 

「……じゃあ今度、秋介くんのおうちにごはん食べに行って良い?」

「それくらいの事なら全然オッケー。むしろ今から来るか?」

「良いの!?」

「良いよ」

 

 なのはとフェイトが戦いを始める前にも言ったけど、昨日から仕込んだシチューがあるからね。

 ……でも流石に、朝からシチューは重いかな。

 もっと別の、おにぎりとか卵焼きとかにしようか……。

 

「なにか食べたい物ある?」

「シチュー!」

「アリシアには聞いておりません」

「酷い!」

「わ、わたしはシチューで良いよ? 戦ってお腹空いちゃったから」

「なのは――ッ!」

 

 ガシッ、となのはに抱き着くアリシアを無視してフェイトを見る。

 

「フェイトもどう? さっきの戦いでお腹空てるでしょ?」

「私も、良いのかな……」

 

 何か心配するようにフェイトがチラッ、とプレシアさんとリンディさんを見た。

 

「あら~。ではフェイトさんがそんな事を……」

「ええ。――あの時私は天使を見たの……!」

「良いですね。それに比べてうちのクロノはどうも愛想が無くて……」

「ホントですよね~。クロノくんってばいつもむっ、とした顔してますからねぇ」

「ホントにねえ」

 

 プレシア女史が羨ましいです、とリンディさんとプレシアさんが、エイミィさんを交えて子供の話をしていた。

 ……おかしいなあ。さっきまでシリアス感漂う話をしてたはずなのになあ。

 いつの間に子供の話になったんだろうね……。

 まあそれは良いとして、

 

「なあクロノ、今からうちにごはん食べに帰るのってアリ?」

「ナシに決まっているだろう」

「別に逃げないんだけどなー」

『ではクロノさんに一緒に来てもらえば良いじゃないですか』

「――それだ」

 

 そうしよう、クロノ。うちで一緒にシチュー食べようぜ!

 グッ、と親指を立てたら、

 

「それだ、じゃない。勝手に決めるな」

 

 グイッ、と横に親指を倒された。

 

「えぇー……。ケチぃー」

「ケチで結構。食事だったらこの船の食堂で取ってくれ」

「俺はそれでも良いんだけどさ……。アレを説得できる?」

「……?」

 

 促さした先、

 

「良いじゃんフェイトー、一緒に行こうよー」

「そうだよ、フェイトちゃん! 一緒にごはん食べよう?」

「えっと、……うん」

「じゃあ決まりだ! リニスにアルフー、今から秋介のうちにごはん食べに帰るよ!」

「分かりましたから。少し落ち着いてください、アリシア」

「シチューか、……ああぁ、私もお腹空いて来たよ」

 

 これからシチューを食べる気満々の集団が居た。

 

「……代わりに頼んだ。ふぇれ、……ユーノ」

「いやだ」

 

 ユーノが即答した。

 

「どうする、クロノ執務官?」

「………………艦長に聞いてくる」

 

 そう言ってクロノがリンディさんの元へ向かった。

 ……クロノが折れた……!

 一体どれくらいの葛藤をしたのか……。

 

「あ、ユーノも来るよね?」

「僕も良いのかい?」

「当り前よ。どうせ食べるなら大勢の方が美味しいからね」

「じゃあお言葉に甘えるよ」

 

 そうしてくれ、と思っていると、

 

「……はあ」

 

 ため息をつきながらクロノが戻って来た。

 

「お早いお帰りで」

「君たちが食事に帰る許可が条件付きで下りた」

「条件ってなに?」

「局員が三名、監視役として君たちについていく」

 

 三人? 結構多いね。

 

「その三人ってだれ?」

「一人は僕。あとの二人は……」

 

 クロノが言いよどんだ時、

 

「私たちもご一緒にお邪魔しますね」

「よっろしく~」

 

 リンディさんとエイミィさんがやって来た。

 ……エイミィさんはともかく、リンディさんは大丈夫なのかしら。

 艦長って船から簡単に離れちゃダメなんじゃないの……?

 

「あらプレシア。話の方はもうよろしいのですか?」

「ええ、大体の事は話し終えたわ。だから少し休憩。フェイトを休ませてあげたいしそれに、……私もお腹が空いてきたのよ」

「ああ。そういえば私たち、朝から何も口にしていませんからね……」

 

 リニスとプレシアさん。二人の話を聞いてなんとなく納得した。

 ……なるほど。二人の話し合いが終わったからか。

 まあだからと言って簡単に離れて良い理由にはならいだろうけどこの際、気にしなくても良いよね!

 あとでクロノには胃薬でも渡そうかと、そう思った。

 

「じゃあセラフ、……あっ」

「秋介くん?」

「どうかしたの?」

 

 危ない危ない。色々あって忘れてた。

 

「クロノ、ジュエルシードってどうすれば良い?」

「「あっ」」

 

 なのはにフェイト、二人も忘れてたな……。

 ……全力で勝負した目的を忘れちゃダメでしょうに。

 俺とアリシアの所為かも知れないけどね!

 

「ん? ……ああ、そうだな」

 

 いやおい。クロノも忘れてたな?

 

「忘れてない。色々あって後回しにしていただけだ。一応、ジュエルシードは此処で受け取ろう」

「あいよ。セラフさん」

『はいはい』

 

 俺の周りに九個のジュエルシードが現れ、

 

「レイジングハート」

「バルディッシュ」

『『Put out.』』

 

 なのはとフェイトの周りにも六個ずつのジュエルシードが現れた。

 それをクロノがS2Uに受け取り、

 

「では僕はジュエルシードを保管室に置いて来る」

 

 ブリッジを出て行った。

 ……クロノを置いて行ったらどんな反応するかな……。

 ちょっと試したい。でも怒られるのは目に見えてるから止めておこう。

 此処に来て面倒事は嫌だからね。

 

「じゃあクロノが戻って来るまでしりとりでもする?」

『それでしたら私から。――マスター!』

 

 俺!? その場合はどっち?

 

『け、ですね』

「そう。なら……」

 

 こうしてクロノが戻って来るまでのしりとり大会が始まった……!

 まあすぐに戻って来て一周もしなかったけどね!

 

 

 ~付け合わせになるパンあったかな……~

 

 

 うちに戻ってバリアジャケットを解除し、

 

「まだ九時前か……」

 

 時計を見たら意外と時間が経っていた。

 

「お昼には早いし朝ごはんにはちょっと遅い……」

 

 微妙な時間だね、と思ってたら、

 

「――お風呂に入りたい」

 

 元幽霊少女が突拍子も無い事を言いだした。

 ……何故にこのタイミングでお風呂。

 シチューが食べたい、の次はお風呂に入りたい、って。

 

「我がままお姫様ですか……」

「何を言っているの? ――アリシアは天使よ!?」

 

 勿論フェイトもよ! と今度は元幽霊少女のママが言い出した。

 とりあえず無視して、

 

「急にどうした?」

 

 自分のほっぺをムニムニするアリシアに聞く。

 

「んー、なんか体がちょっとベトベトする。あと髪の毛も」

『海風の影響でしょう。ビルの上と言ってもずっと海の上に居ましたからね』

「そう言えばわたしもベトベトする……」

「私も……」

 

 お風呂に入りたいな……、となのはとフェイトも言い出した。

 

「二人もか……。ならお風呂を先に入れてから、……――そうだ。アレを出しますか!」

 

 入れるまでもなく広げるだけであっという間だからね。

 

「「「アレ?」」」

『――なるほど。なら先に地下室を片づけた方が良いですね。私がちょっと行って片してきます』

 

 そう言ってセラフが転移して消えた。

 ……あ、そっか。カプセルの破片とかそのまんまだったわ。

 

「アレってなに?」

「見てのお楽しみ」

 

 じゃあセラフの事だから片づけとかすぐに終わるだろうし、俺たちも行こうか。

 皆を連れて地下室へ行くと、

 

『あ、マスター。ちょうど終わった所なので思いっきり広げちゃってください!』

 

 お風呂セットと輝くアヒル隊長、それに衣服の入った籠とバスタオルと一緒にセラフが宙に浮いていた。

 ……セラフさんってば準備良すぎ。

 あのアヒル隊長、どことなくカプセルと同じような素材っぽいけど気のせいだよね。あと地下室が若干熱いような気がするけど、液体を蒸発させたって訳じゃないよね?

 しかも籠に入ってる服、前になのはとフェイトが着てた服に似てるような……。

 

『ふふ……!』

「…………」

 

 さあて、地下室が綺麗になった事だし早速広げようかな!

 

「んー、……あの辺で良いかな」

 

 手元に〈王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)〉を一つ開いて手を突っ込み、

 

「出でよ、温泉――!」

 

 思いっきり引き抜くようにして地下室の真ん中あたりを狙い、温泉を広げる。

 

『おおっ……!』

 

 後ろで皆の驚く声を聞いた。

 

「温泉なの……!」

「わあ……!」

「こ、コレは……! 秋介!?」

 

 目を輝かせて温泉を見つめるなのはとフェイト、アリシアを見て一言。

 

「飛び込みは危ないから禁止。だが、――泳ぐのは許す!」

「ぃヤッター――!」

 

 私いっちばーん! とアリシアが服を脱いで温泉にダイブした。

 ……飛び込みは禁止って言った傍から、……はあ。

 怪我だけはしないでね。

 

「行こう、フェイトちゃん!」

「うん!」

 

 なのはとフェイトがアリシアに続いて温泉に向かった。

 

「アルフも行って来れば?」

「いやでも、着替えが……」

「大丈夫だって。ね、セラフさん?」

『はい。大人の皆さんには浴衣を用意してありますよ』

 

 セラフが籠から大人サイズの浴衣を浮かせて見せた。

 やっぱり。そこまで準備万端だったか。それでこそ俺のセラフだね!

 

『もう、マスターったら……! 褒めても冷えたコーヒー牛乳しか出ませんよ!』

「ならそれは上がって来たなのはたちに渡して上げて」

 

 お風呂上りのコーヒー牛乳は格別だからね。

 

『ちなみに普通の牛乳とフルーツ牛乳もあります!』

 

 流石過ぎる……!

 

「う~ん、コレが浴衣かー。……なら私も入らせてもうらおうかな、……ってプレシア!?」

 

 アルフが勢いよく見た先、

 

「さあアリシアにフェイト! 私が体を洗ってあげ、――あぷ!?」

「まったくプレシアは……。ではフェイトになのはさん、一緒に入りましょうか」

「ねえ見て、エイミィ! 資料で見た温泉よ、温泉!」

「艦長! 入るなら服を脱いでからにしてください!」

 

 プレシアさんとリニスだけじゃなくて、リンディさんとエイミィさんまで温泉に入る気満々だった。

 

「……行って来な、アルフ」

「そうするよ……」

 

 苦笑いしながら歩いていくアルフを見送る。

 

「じゃあ俺は戻ってごはんの用意でもしようかな。ユーノにクロノ、二人は手伝ってよ?」

 

 それとも一緒に入って来る?

 

「ば、バカな事を言わないでよ!?」

「…………」

「冗談、冗談だって」

 

 だからクロノ、セットアップしようとしないで。

 

『ではマスター、此方はお任せを』

「あいあい、よろしく~。……なら戻るか、お二人さん」

「はあ、……上で待っていれば良かったな」

「だね……」

 

 俺とクロとユーノ、三人で上に戻ってごはんの用意を始めた。




 ついに次回で無印編は終了だよ!

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