転生少年と月の目モドキ   作:琴介

22 / 34
 次回で無印編は終わるはずだった。
 でも、もうすぐキリが良い第二十話って事に作者は気付いた。
 だからエピローグ的なモノを追加する事にします。


第十八話:爆発を背景に登場するのは熱そう

「戦闘開始、か」

 

 うどんがどうのと話してた時と打って変わり、真剣な表情で海にそびえ立つビル群の合間、そこを縫うようにしてなのはとフェイトが飛び回っている。

 お互いの放つ魔力弾に自分の魔力弾をぶつけ相殺し、なのはが飛ぶ高度を上げ、フェイトがそれを追って行く。

 二人が一番高いビルを越えた所まで昇った直後、桜と金、二色の光が横に広がるように瞬いた。

 光が消えると共に大きな爆発が生じ、

 

「――ああっ!」

 

 なのはが弾かれたように海に落下していく。

 それをフェイトが追い打ちをかけ、体勢を立て直したばかりのなのはを背後のビルへ叩きつけた。

 

「なのはっ――!」

「おお、ビルを貫通した……」

 

 心配するユーノと見る先、ビルの反対側に飛び出たなのはが一度海面をバウンドして再び態勢を立て直した。

 そのまま海面スレスレを飛ぶなのはをフェイトが見つけ、後ろを取った。

 

『Photon lancet.』

「ファイアッ!」

 

 フェイトが魔力弾を展開し、なのはに向けて撃ち込んだ。

 

「……!」

 

 それをなのはが左右に揺れながら躱し、飛ぶ速度を上げ、上体を反らすようにして大きく旋回しフェイトの後ろを取る。

 

『Divine shooter.』

「シュートッ!」

 

 なのはが魔力弾を展開し、一つだけを手元に残して他をフェイトに向け撃ち放った。

 放たれた魔力弾の一部がフェイトの横を抜け、その先のビルを爆破し、それに気を取られたフェイトを残った魔力弾が回り込むようにして襲う。

 

『Scythe form.』

「……ッ!」

 

 フェイトが向かって来る魔力弾をバルディッシュで切り払い、なのはに向い飛んだ。

 

「シュートッ!」

 

 向かってくるフェイトに対してなのはが残していた魔力弾を撃つ。

 フェイトは体を捻ってそれを躱し、切りかかった。

 しかしそれをなのはがシールドで防ぎ、フェイトの背後からさっき躱した魔力弾が襲った。

 

「ッ――!」

 

 フェイトが右手を掲げ、

 

『Thunder Bullet.』

「ファイアッ!」

「きゃっ!?」

 

 なのはのシールドを砕くと同時に顔を横にずらし、背後からの魔力弾を躱す。

 シールドを砕かれたなのはが、再び背後のビルを貫通し海へ落とされる。

 海面で爆発が起こり大きな水飛沫を上げた。

 

「……はぁ」

 

 フェイトが手近なビルの屋上、そこの手すりに止まってなのはが落ちた方を見る。

 立ち上がる水飛沫の中、桜の色が光った。

 

「――ッ!」

 

 それを見たフェイトが手すりを蹴って飛び、空中へと身を回す。

 瞬間、それまでフェイトが立っていた場所を手すりごと桜色の砲撃が穿った。

 

「…………」

 

 砲撃を躱したフェイトが見る先、

 

「――はぁ、はぁ」

 

 穿たれたビルの向うにレイジングハートを構えたなのはが居た。

 

「うわぁ。あの白いガキんちょってばほとんど無傷じゃないか……」

「なのはさんの防御力には驚かされますね」

 

 アルフとリニス、二人の言葉を聞いてそんな事より大事な事があるだろう……。

 

『壁より先にビルを抜きましたね』

「穴に通す、じゃなくてまとめて撃ち抜くとか……」

 

 しかも今の砲撃、見た感じだけどディバインバスターじゃなかったね……。

 ……普通の砲撃であの威力とは末恐ろしい……。

 やっぱ将来的には次元の壁さえも抜きそうな気がする。

 もし俺に飛んで来るような事があったら全力で逃げよう。そう決めてなのはとフェイトに視線を戻す。

 

「っ――!」

 

 なのはが前を飛ぶフェイトに向け魔力弾を展開していた。

 二人はぶつかり合いながらビルの合間を縫い、なのはがフェイトへ魔力弾を放った。

 フェイトはビルに沿いながら飛び、飛んで来る魔力弾を躱す。

 屋上に差しかかった所でフェイトがビルに魔力弾を撃ち込み、それと同時にビルから離れた。

 なのはは降って来る瓦礫を躱しながらフェイトを追い、空を行くフェイトへ再び魔力弾を放つ。

 フェイトがそれをバルディッシュで薙いだ瞬間、

 

「な――ッ!?」

 

 切られた魔力弾が爆発した。

 爆発から逃れるようにフェイトが飛び出し、

 

「せぇえええい――!」

「ッ!?」

 

 そこ所を狙ってなのはがレイジングハートを槍のように構えて突撃した。

 咄嗟にフェイトがバルディッシュで防ぐが、なのはは突撃の勢いのままフェイトを空高くへ押し上げる。

 

「……ッ」

 

 フェイトがバルディッシュを押し込ようにして体を前に倒し、身を捻ってなのは背後へと抜け、

 

「ハッ!」

「……っ!」

 

 バルディッシュを振りかぶって切りかかったが、なのはは空中を軽く蹴ってジャンプしそれを躱した。

 そしてすぐさまバルディッシュを振り抜いたフェイトにレイジングハートを振り下ろす。

 フェイトは振り抜いた方に体を回し、なのはの攻撃を躱して上を取る。

 続けざまに今度はフェイトがなのはにバルディッシュを振り下ろす。

 なのはがレイジングハートでそれを防ぎ、体を回してフェイトの上を取る。

 二度三度と、何度も二人が互いの位置を入れ替えながら、デバイスをぶつけ合いながら螺旋を描くようにして空を昇って行く。

 

「「――!」」

 

 雲が流れる高さを越えた辺りで二人が互いを弾くようにして距離を取った。

 

『すごいわね、あの白い子。フェイトのスピードにあそこまでついていくなんて』

『つい最近まで素人だったとは思えませんね……』

 

 プレシアさんとリニス、二人の驚く声を聞いた。

 

『ねえ秋介、あれだけクルクル回って目とか回らないのかな?』

『アリシアよ、何故にこのタイミングでそれを聞く……』

 

 それは俺だって気になるよ? もしかして目が回ったから二人は離れて休んでるんじゃね? って思ったくらいだからね。

 

『多分アレじゃないかな。何処か一点を見つめると良い、って聞いた事あるから』

 

 戦いの時は基本的に相手の動きに注意するから、自然と見つめてるんじゃないかな。

 

『おおー、なるほど』

『いざと言う時に実行できなかったら意味ないですけどね』

『『デスヨネー』』

 

 仕方ないって。昨日はほら、いきなりだったからね。しかも海の中だったから。

 ……上下左右がわからなかったね。

 まあそんな事はこの際どうでも良くて、

 

「お、戻って来た……」

 

 空を見ると、デバイスをぶつけ合う音を響かせながらなのはとフェイトが降りて来た。

 再び二人はお互いを弾くようにして離れ、魔力弾を展開し撃ち放った。

 放たれた魔力弾はぶつかり、相殺し合って爆発する。

 

「っ、……はぁ、はぁ」

「ッ、……はぁ、はぁ」

 

 なのはとフェイト、二人はデバイスを構えたまま向き合った。

 

「ん……?」

 

 一瞬だけどフェイトがこっちを見た気がした。

 

「……ふう」

 

 フェイトは一度大きく深呼吸して、

 

「――いくよ、バルディッシュ」

 

 バルディッシュを横に払い、空を切った。

 直後、フェイトの左右、横に大きく広がるようにして無数とも言える数の魔力弾を展開した。

 同時になのはの周りに一瞬だけ魔法陣が展開し、消えた。

 それを見たなのはがその場を離れようとしたが、

 

「……っ、――えっ!?」

 

 両手を金色のブロックが拘束した。

 

「あれは設置型のバインド……?」

「ライトニングバインドですね。それにあの展開されたランサーは……」

「やっちまいな、フェイト!」

 

 ユーノとリニス、アルフたちがフェイトを見る中チラッ、となのはを見ると……。

 

「…………」

 

 なのはが両手で握るレイジングハートのコアの部分が、淡く光ったのが見た。

 

『決める気ね、フェイト』

 

 プレシアさんの言葉を聞いてフェイトを見ると、バルディッシュをなのはに向け掲げた。

 

「ファランクス……」

 

 魔力弾が煌き、フェイトの周りを金の雷が走る。

 

「……打ち、砕けえ――ッ!」

 

 フェイトがバルディッシュを振り下ろした瞬間、展開された魔力弾がなのはへと撃ち込まれた。

 

「――っ!」

 

 撃ち込まれた魔力弾が直撃する寸前、なのはがシールドで防ぐ。

 しかし、それでも構わずフェイトは一部を残して他全ての魔力弾を嵐のごとく撃ち込む。

 撃ち込まれる魔力弾を防ぐなのはの背後、ビルが倒壊し大きな水飛沫を上げた。

 それに合わせるようにしてフェイトが左手を頭上に掲げ、残した魔力弾を集める。

 

「スパーク――」

 

 フェイトは集めた魔力弾を一本の雷槍に形を整え、

 

「――エンドッ!」

 

 なのは目がけ投げ放った。

 放たれた雷槍は一直線に飛び、直撃した。

 瞬間、大きな爆発が生じ周りのビルごと海面を抉った。

 

「は――ぁ。……はあ、はあ」

 

 フェイトが大きく肩で息をし、そして、

 

『フェイトの勝ちだぁ――!』

 

 アリシアが叫んだ。

 

『……――……』

 

 おおう、いきなり叫ぶのは止めて。頭がキーンってなる……。

 

『あれ、秋介ってば嬉しくないの? やっぱり茶髪ちゃんを応援してた……?』

『いや違う違う。そんな事無いしまだ終わってないから』

『なのはさんを見れば分かりますよ』

『え? ――うそぅ!?』

 

 セラフが促した先、俺は二人を見る。すると……。

 

「――ッ!?」

 

 フェイトが驚いてみる先、

 

『Can you move, Master?』

「――いけるよ、レイジングハート」

 

 爆発の煙の中、バリアジャケットを所々ボロボロにしたなのはが佇んでいた。

 

『あの子、一体どんな防御力をしてるのよ……』

『まさか此処までとは……』

 

 本当に驚かされますね、とリニスが呟いた。

 

「あのなのはの堅さ、魔法を教えたユーノ先生のご感想は?」

「驚きを隠せません、……って、先生は止めて」

 

 じゃあ師匠?

 

「それも止めてくれないかな……」

『ならフェレット擬きなんてどうだ?』

「……クロノ、もしかして僕に喧嘩売ってる?」

『冗談だ、気にするな。それよりも二人の戦いを見守るのが先だろう』

 

 彼女が動くぞ、とクロノに促されなのはを見る。

 

『Cannon mode.』

「……っ!」

 

 なのはが形を変えたレイジングハート構えた。

 それに反応してフェイトがバルディッシュを構えようとしたら、

 

「……ッ、――あっ!?」

 

 右手と両足を桜色のリングが拘束した。

 

「バインド、……あのガキんちょいつの間に!?」

『皆さんがフェイトさんに注目していた時です。あの時彼女の周りを走っていた雷に紛れ込ませる形で、あのバインドを設置していましたね』

 

 アルフの言葉にセラフが答えた。

 ……バインド返しとはよくやるね。

 しかもフェイトが避けられないように足を拘束とか、砲撃当てる気満々じゃないですかなのはったら。

 それにもし、フェイトがシールドで防いだとしても耐えられるかどうかは微妙だね……。

 

「今度は、こっちの番!」

 

 なのはの声と共に桜の光がレイジングハートを中心に波紋のように広がった。

 

「ディバイン……」

 

 光が揺らめき、レイジングハートへ集まる。そして、

 

「バスター――ッ!」

 

 フェイト目がけて桜色の砲撃が放たれた。

 

「――ッ!」

 

 咄嗟にフェイトが左手を上げ放たれた砲撃をシールドで防ぐ。

 砲撃が直撃し、少しずつ押されながらもフェイトは耐える。

 次第に砲撃の勢いが落ち、細くなり、光が消えた。

 

「――ぁ、はあ、はあ」

 

 スルリ、とフェイトの肩からボロボロになったマントが滑り、ユラユラと揺れながら海面へ落ちた。

 

「ふう、……?」

 

 それを見たフェイトが一息つき周りを見回すと、細かい桜色の光が空へと昇っていた。

 

「――――」

 

 頭上から桜色の光が差し、フェイトが空を見上げた。

 釣られて俺も見上げると、

 

「うわぁ……」

 

 レイジングハートを構えたなのはの下、桜色の魔力の塊があった。

 

『ねえ、秋介。アレってちょっとヤバいよね?』

『違うぞ、アリシア。アレはちょっと所かかなりヤバい。ね、セラフ?』

『そうですね……。軽くこの辺りのビル群は消えるんじゃないでしょうか?』

『「『『…………』』」』

 

 セラフの言葉を聞いてプレシアさんとリニスまで黙り込んだ気がした。

 ……巻き込まれたりしないよね……?

 戦いが始まる前に確かユーノが「流れ弾が飛んで来たら僕が防ぐよ」なんて言ってたよね?

 そう思いユーノを見ると、

 

「あ、あははは、……ごめん無理。流石にアレは防げる気がしない」

 

 苦笑いしながら顔を背けた。

 

「気にするな……」

 

 ポンッ、とユーノの肩に手を置いて励ます。

 だってアレ、並大抵のレベルじゃないもの。対軍軽く越えて対城行ってる気がするから。

 

「……セラフ、一応アレの余波が来ても大丈夫なように結界よろしく」

『分かりました』

 

 大丈夫だとは思うけど万が一って事があるからね。

 ……だけどまあ、思ってたよりデカい……。

 もしかして俺たちが居るのを忘れてない? と再びなのはを見上げると、

 

『Starlight Breaker!』

 

 ただの塊だった桜色の魔力が球体へ変わり、脈動する度に大きくなっていく。

 

「受けてみて! これがわたしの、全力全開!!」

 

 なのはがレイジングハートを振り上げ、

 

「スターライト――」

 

 桜色の球体が強く脈動し、さらに大きくなる。

 

「ブレイカー――ッ!」

 

 なのはが叫ぶと同時にレイジングハートを振り下ろした。

 瞬間、桜色の巨大な砲撃がフェイトへと放たれた。

 

「うぁあああっ……!」

 

 それを見たフェイトが左手を頭上に掲げ幾重にもシールドを展開した。

 

「……ッ」

 

 展開されたシールドは放たれた砲撃を真ん中から裂くようにして防ぐ。

 フェイトは耐えるが砲撃は次第にシールドを砕いていき、

 

「うっ、――ッ!?」

 

 桜色の光が一気にフェイトを飲み込んだ。

 そして、

 

『こっち来たよ――!?』

 

 海面を抉り周囲のビルを消し去る、そんな砲撃の余波の一つが勢いよく俺たちの方に飛んで来た。

 

『……ふ、今度は頭がキーンとならなかった……!』

 

 もしかしたらと思って注意しておいて良かった。意識したら案外ならないもんね、キーンって。

 

『そんな事言ってる場合じゃないよう!?』

『大丈夫だって、アリシア。ちゃんとセラフに頼んで結界張ってもらったから』

 

 そう言った直後、すぐそこまで余波が迫って来た。 

 が、直撃する寸前に余波が何かにぶつかるようにして弾けた。

 

『……おお、ホントだ』

『……ね、言ったでしょ?』

『そうだけど何故、坊やまで驚いているのかしら……?』

 

 それはあれだ、条件反射的なやつだって。目の前にネットがあってもボールが飛んで来たらビクッ、ってなるじゃん? あんな感じ感じ。

 ……いやそんな事言ってる場合じゃないよね。

 砲撃を撃ち終え、肩で息をするなのはを見る。

 

「はあ、はあ、……――フェイトちゃん!」

 

 なのはが叫んだ先、気を失ったフェイトが海に落ちた。

 それを追ってなのはが海に飛び込み、

 

「――ぷはぁ。はあ、はあ……」

 

 すぐにフェイトとバルディッシュを抱えてなのはが海の中から飛び出した。

 

「だ、大丈夫、フェイトちゃん……?」

「……うん」

「良かった……。とりあえず皆の所に行こう?」

「…………」

 

 顔を俯かせるフェイトを抱え、なのはがこっちに向かってフラフラしながら飛んで来る。

 

「おーい、なのはー。きついなら手伝おうかー?」

「へーき! そんなに心配しなくても大丈夫!」

 

 あらそう。戦いが終わったばっかりなのに元気だね。

 ……これでこっちもひと段落。

 あとはアリシアと一緒に皆を驚かせるだけ、……って、そう言えばアリシアがどうやって驚かすつもりか聞いてない……。

 二人が戻って来る前に聞いといた方が良いね。

 

『あのさ、アリシア』

 

 念話で話しかけたら、

 

「……あっ」

「……?」

「……ごめんね、フェイトちゃん。魔力切れちゃった」

「えっ」

 

 あとちょっとだったのに、ごめんね~……、となのはとフェイトが海に落ちて行った。

 

『……フェイトがなのはと一緒に海に落ちた』

『見れば分かるよ!?』

 

 だよねー。見ればわかるよねー……。

 

「――やっべ、セラフッ!」

『はい!』

 

 目の前に魔法陣が展開され、そこに勢いよく飛び込む。

 一瞬光に包まれ、晴れるとなのはとフェイトが降って来た。

 

「――っよ、と。……ふう、なんとか間に合った」

 

 海に落ちるギリギリの所で二人を受け止める。

 

『お二人のデバイスは私にお任せを』

 

 レイジングハートとバルディッシュが横に浮かんだ。

 

「何が「そんなに心配しなくても大丈夫!」だ。魔力切れで落ちてるじゃないのさ」

「にゃははは~……。ありがとう、秋介くん」

 

 ごめんね? と手を合わせてなのはが首を傾げた。

 

「まったく、……フェイトは大丈夫?」

「うん……。ありがとう、秋介……」

 

 フェイトが顔を上げず答えた。

 ……まあ仕方ないよね。

 コレはお姉ちゃんに元気づけてもらうしかないね!

 

「じゃあもう一回転移よろしく」

『ええ、分かりました』

 

 再び光に包まれ、晴れると屋上、皆がビルの下を覗く後ろに居た。

 二人を屋上に降ろす。

 

「フェイト……!」

「なのは!」

 

 アルフとユーノが駆け寄って来た。

 

「……アルフ、負けちゃった」

「フェイト……」

「頑張ったけど、全力で戦ったけど、……負けちゃった。――うぅっ!」

 

 ギュッ、とフェイトがアルフに抱き着き、

 

「――ごめんね、母さん。ごめんね、アリシア……ッ!」

 

 涙をこぼした。

 

「フェイトちゃん……」

 

 なのはが呟いたその時、

 

「――フェイト、貴女はよく頑張ったわ」

 

 俺の後ろからプレシアさんの声が聞こえた。

 ……え?

 

「え……?」

「今の声……」

「秋介くん……?」

「はあ……」

 

 そしてフェイト、アルフ、なのはが順に俺を見て、その横でリニスが頭を抱えていた。

 

『プレシアさん!?』

『ママ!?』

『『何で声出しちゃうの!?』』

 

 せっかく此処まで黙ってたのに! と俺とアリシアの念話が被った。

 

『だ、だってあんなに辛そうなフェイトを見て黙ってるなんて、私には出来ないわよ!?』

『もー! せっかく秋介に炎とか風とか出してもらって派手に登場しようと思ってたのに!』

『そうだよ、プレシアさん! 俺が派手に炎とか風とか出して、――ってちょっと待ってアリシア!? そんな話聞いてない!?』

『今言いましたからね』

 

 待って!? セラフは知ってたの!?

 

『いえ、私も今聞きました。なんとなく言ってみただけですよ?』

 

 紛らわしいわ!

 

『むう~、……――ようし。こうなったらもう派手に登場しちゃうよ、ママ!』

『ええっ!?』

『行くよ、秋介! 爆発よろしく!』

『爆発だと!? ――よっしゃ、任せろ!』

 

 炎と風から爆発にランクアップした気がするけど、そんな些細な事は気にしない。

 

『ちょ、ちょっと待ってアリシア! 坊やも任せろ! じゃないわ!?』

 

 だからお願い、待って二人共!? とプレシアさんが必死に止めるのを無視して、

 

『セラフ、行ける?』

『バッチリです!』

 

 周りの皆にバレないように、なおかつ皆を巻き込まないよう離れた所に魔法陣を展開する。

 あとついでに熱くないようにもしておこう。

 

「えっと、秋介? 今何か言った?」

「俺は何も言ってない。ちょっと後ろの人が思わず言っちゃってね」

「え、後ろ……?」

 

 チラッ、とユーノが俺の後ろを見た。

 

「僕には誰も居ないように見えるんだけど……」

「うっそだあ。ちゃんと後ろに居るって。なのはは見えるよね?」

「だ、誰も居ないよ……?」

 

 フェイトちゃんとアルフさんは? となのはが二人を見た。

 

「ううん。私も見えない」

「この匂い、もしかして……」

 

 フェイトが首を横に振り、アルフが何かに気付いた。

 

「おっと、アルフ。それはまだ言っちゃダメだよ?」

「へ? ……って事はまさか、――むぐ!?」

「リニス……?」

「今は静かにしてください、アルフ。それに、そんなに落ち込む必要はありませんよ、フェイト」

 

 ほら、涙を拭いて、とリニスがハンカチでフェイトの涙を拭った。

 ……アルフの鼻はよく聞くね。

 あと野生の勘。リニスが居なかったら先に言われる所だったよ。

 なのはとフェイトたちから離れ、魔法陣を仕掛けた所の近くに移動する。

 

「――ではご登場いただきましょう。サプライズゲストのお二人です!」

 

 両手を広げて俺の後ろを見るように促す。

 

『逆です、マスター。右じゃなくて左ですよ』

「おっとこっちか」

 

 広げる向きを修正する。 

 

『ママ、準備は良い?』

『ほ、本当にやるの、アリシア……!?』

『本当にやるの! あ、こっちの準備はオッケーだよ!』

「じゃあ気を取り直して、――サプライズゲストのお二人です!」

『加えて爆発です!』

 

 展開した魔法陣に魔力を流し込んだ瞬間、両手を広げた先で大きな爆発が起き、

 

「フッフッフ~。――お姉ちゃんが愛しのフェイトに会いに来たよ!」

「え、あ、うぅ、――い、愛しのフェイトに、……母さんが会いに、来たわ……!」

 

 バッ、と〈顔の無い王(ノーフェイス・メイキング)〉を脱ぎ捨て爆発を背景に、アリシアとプレシアさんがどこぞの仮面ヒーロー一号の変身ポーズでいきなり現れた。

 ……プレシアさんの顔、見事に真っ赤だね!

 顔から火が出るほど恥ずかしい、ってのは今のプレシアさんを言うんだろうね。

 

「フフ――ッ!」

 

 リニスの笑い声が聞こえ、

 

「「――――」」

「え、ええっ!? ちっちゃいフェイトちゃん!?」

「あの二人は……」

 

 フェイトとアルフが絶句し、なのはは戸惑い、ユーノはプレシアさんとアリシアを見ていた。

 

「か、母さん、……それに、アリシア……?」

「イッエーイ! お姉ちゃんだよ、フェイトぉー!」

 

 とりゃっ! とアリシアがダッシュからのジャンプでフェイトに飛びついた。

 

「え、え? えええっ!?」

「やっぱりあの匂いはプレシアだったんだ。でも、なんでアリシアが……?」

 

 フェイトは驚愕して、アルフがリニスを見る。

 

「――フフ、プレシアが、……フフッ!」

「リニス……」

 

 ダメだ。なんか知らんけどプレシアさんのポーズがツボにはまったらしい。

 

「しゅ、秋介くん? あのちっちゃいフェイトちゃんは……?」

 

 なのはがいつの間にか横に立っていた。

 

「すごいよね。あの見た目でフェイトのお姉ちゃんだっていうんだから」

 

 どっからどう見ても妹にしか見えないのにねー。

 

「フェイトちゃんってお姉さんが居たんだ……」

「まあ詳しい事は本人に聞くと良いよ。二人の所に行ってきな。――勝負に勝ったらお話するんでしょ?」

「――うんっ!」

 

 大きく頷いてなのはがアリシアとフェイトの元へ走って行った。

 

「あの、フェイトちゃんのお姉さん?」

「あ、茶髪ちゃんだ! 私アリシア・テスタロッサ、アリシアで良いよ! よろしくね!」

「アリシアちゃんだね! わたしは高町・なのは、わたしもなのはで良いよ!」

「なのは――ッ!」

「え? あ、アリシアちゃん――ッ!」

「えっ? えぇ!?」

 

 ガシッ、とアリシアがフェイトごとなのはに抱き着きついた。

 ……元気だなぁ、アリシア。

 なのはに抱き着くんだったらフェイトを離してあげなよ。突然の事が起き過ぎてついて行けてないから。

 

「プレシアさんもさ、いつまでも項垂れてないで二人の所に行って来たら?」

 

 さっきアリシアがダッシュした直後に崩れ落ちたけど、よっぽどさっきのポーズが恥ずかしかったのか……。

 

「……そうね。でもその前にちょっと良いかしら、坊や?」

 

 プレシアさんが立ち上がり、俺の頭に手を置いた。

 

「う……」

「あら、頭を撫でられて恥ずかしがるなんて可愛いじゃない」

『マスター……!』

 

 やかましい。セラフさんは黙っていてください

 

「急に撫でられたら誰でも恥ずかしい……」

「前もって言うほどの事じゃないでしょう。まあそんな事よりも」

 

 プレシアさんは頭を撫でるのを止めて、

 

「――アリシアと、もう一度会せてくれてありがとう」

 

 俺を優しく抱きしめた。

 

「ちょっ――!?」

『マスター――ッ!』

 

 いきなりなにすんの、プレシアさん!?

 

「それから、フェイトの事を助けてくれてありがとう」

「いや、それは良いから離して!」

 

 俺も顔から火が出そう……!

 

「フフ、さっきの私はこんな顔をしていたのかしら?」

『ええ。今のマスターと同じように顔が真っ赤でしたね』

 

 見ますか? と言うセラフの問いに、

 

「止めておくわ。坊やを離すから、代わりにデータを消してくれるかしら?」

『構いませんよ。マスターの良い表情は既に撮って保存してありますから』

「そう、なら良いわ」

 

 そう言ってプレシアさんは俺を離してくれた。

 ……なんか不吉な事を聞いた気がする。

 まあ良いや。この際そんな細かい事を気にするのは止めよう。

 

「あー、顔が熱い……」

 

 両手で扇いで顔を冷ます。

 

「坊やにお礼も言った事だし、娘たちの所に行こうかしら。……あっ、最後に一つ忘れてたわね」

「……?」

 

 なにを? と思ってプレシアさんを見ると、

 

「あいたっ!?」

 

 ゴツンッ、と頭にゲンコツを落とされた。

 

「なんで……!」

 

 頭を押さえてその場にしゃがむ。

 

「フェイトを囮にした罰よ。アリシアから聞いたけど、あの子に黙って復活させようと言ったのは貴方らしいじゃない」

「それは、……そうだね」

 

 冗談で言ったら予想外にアリシアが乗って来たからね。

 

「じゃあ私は娘の所に行って来るわ。――本当に、ありがとう。秋介」

 

 そう言残して、プレシアさんはとびきりの笑顔でアリシアとフェイト目がけて突撃して行った。

 ……雷が降って来なかっただけマシ、か。

 フェイトとアルフに謝らないとだけど、あとで良いよね。せっかくの出会いを邪魔したくない。

 

『嬉しそうですね、プレシアさん。それにアリシアさんにフェイトさんも』

「本当にね。……だからまあ、家族の感動的再会兼出会いに、水を差すのは遠慮してもらえないかな、クロノ?」

 

 立ち上がり後ろを振り向くと屋上に展開された魔法陣の中、バリアジャケット姿のクロノが立っていた。

 

「それとも執務官は気にせず話を聞きに行く?」

「……いや、止めておこう。その代り」

「分かってるって。約束したからね、話すのは色々と全部終わってからって」

 

 脱ぎ捨てられた〈顔の無い王〉を回収し、クロノの展開する魔法陣に入る。

 

「待ってくれ。僕も行くよ」

 

 そう言ってユーノが走って来た。

 

「あれ、残らなくて良いの?」

「まあ僕が残っていても意味がないからね。正直、居場所が無い気がして……」

 

 何となく分かる気がする。なのはも一緒になって笑ってるし、横で見てても暇だよねー。

 

「それに、僕も秋介には聞きたい事があるから」

「……じゃあ転移するが良いか?」

「あいよー」

 

 転移の光に包まれた。




 改めて、残り二話で無印編は終わりです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。