転生少年と月の目モドキ   作:琴介

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 もう少しで無印編が終わる、……かも。


第十六話:サプライズは仕掛ける側になりたい

 〈約束された勝利の剣(エクスカリバー)〉をぶっぱなした影響で青空に変わり、撃ちあげられた海水がパラパラ降ってくる中、

 

「晴れたなあー……」

『晴れましたねー』

 

 俺は海にプカプカと仰向けに浮かんでいた。

 

『――ケホッ、ケホッ。うぅ、溺れるかと思った~……』

 

 グダァ、と海から出て来たアリシアが、俺を漂流物よろしくもたれかかった。

 

「まったくだね……」

 

 まさか〈約束された勝利の剣〉を上に降り抜いたら足元の海面が持ち上げられて、その海面に飲まれるとは誰も思うまい……。

 ……お陰でちょっと流されちゃった……。

 軽く漂流した気分だよ。まあ、なのはとフェイトの声が聞こえる気がするし、大した距離は流されてないっぽいから良いけど。

 

「よっ、と」

 

 その場に起き上がり海面に立つと、

 

『あうぅ……』

 

 アリシアがゴロンと転がって海面に仰向けになった。

 

「早く立ちなさいな。置いてくよ?」

『……起こして?』

 

 両手をこちらに伸ばし、甘えるような声で言われた。

 

「……はあ。お姉ちゃんなんだから自分で起きなさいよ」

 

 まったく、と思いながらアリシアの手を引いて起こす。

 

『いやー、海の中でグルグルなって目が回っちゃった。……あ、そう言えばジュエルシードは?』

「……さあ?」

 

 封印はちゃんと出来たと思うけど……。

 

『ご心配なく。ジュエルシード九個、全ての封印は確認済みです』

「そう。なら何処に、……お?」

 

 周りを見ると、少し離れた所に青い光の柱が現れた。

 

「行くよ、アリシ、……ア?」

 

 横を見るとアリシアが居なかった。

 あれ? と思って首を動かすと、

 

『ぃよいしょ、っと。ふう……。あ、もう飛んで良いよ、秋介!』

 

 肩の向うにウインクするアリシアの顔があった。

 

『どうしました、マスター?』

『私の顔に何かついてる?』

「何でもない……」

 

 幽霊少女がさも当然のように人の背中に引っ付いて来たけど、……全然気にしてないからね!

 ……まあそれよりも、ジュエルシードを優先した方が良いか。

 海面を軽く蹴って飛び、光の柱へ向かう。

 近付くとスゥ、と光の柱が消え、あとには九個のジュエルシードが浮いていた。

 

「さて、ジュエルシードはどう、――しぶぅ!?」

 

 いきなり右から衝撃が来た。

 

「良かった……」

「ふぇ、いと……」

 

 くぅ、脇腹にクリーンヒットぉ……!

 

「秋介くん!」

 

 この声はまさか――。

 

「待って、なの、――はふぁっ!?」

 

 止めようと思って体を動かしたら、不幸にもなのはロケットが鳩尾に綺麗に入った。

 

『なら次は私だね!』

 

 背中のアリシアが離れ少し距離を取ってから、

 

『――とうっ!』

「おっと」

 

 突撃して来たのを、ちょっとバランスを崩すフリをしてひらりと躱す。

 

『なんでぇ!?』

 

 私だけひどくない!? とアリシアが叫びながら突撃の勢いのまま横を通過していった。

 ……ふ、そう来る気がしたからね。

 これで引っ付き幽霊から解放された……!

 

『――と見せかけてからの方向転換!』

『なに!?』

 

 急停止からの方向転換だと!?

 

『秋介の動き、マネさせてもらったよ……!』

『アリシア、恐ろしい子……!』

『遊ぶのはそこまでしましょうよ』

『『はい……』』

 

 とりあえず、また背中に引っ付いたアリシアは置いておいて……。

 

「お二人さんや。そんなに慌てて一体どうしたの?」

 

 フェイトなんてどっかから飛んで来たみたいだし、なのはも中々な速度だった。

 

「どうしたの? じゃないよ! 秋介くんが穴に入ったと思ったらいきなり光って、……それで……!」

「そうだよ! 光が収まって、異相体が消えたと思ったら秋介が居なくて、……それで……!」

 

 心配したんだよ……、となのはとフェイトが涙を浮かべた。

 ……息ピッタリじゃないですかこの二人は。

 

「ごめん、ごめん。ちょっと海に飲まれちゃって、少し流されてた」

 

 いやあ、一瞬だったよ。ザバッ、って。海って怖いね、はっはっはっ!

 

「「笑い事じゃないよ!!」」

 

 二人が顔を上げて怒鳴った。

 

「ごめんなさい……」

「む~……」

 

 スッ、となのはが俺から離れて、

 

「秋介くん、正座して」

「えっ……?」

 

 俺の足元を指さして言った。

 いきなりだね。てか、マジで? 空中ですよ此処。フェイトだって居るのですが……?

 

「秋介くん――?」

「……はいです」

 

 膝を折ってその場で正座する。

 下が地面じゃないから足が痺れたりはしないけど……。

 ……なんだろう。今は逆らわない方が良い気がする。

 逆らったらなんか、……砲撃が襲ってくるようなそんな気が……。

 

『この状況でも秋介から離れないフェイトって、――やっぱり私の妹だよね!』

『やかましい』

 

 でもアリシアの言う事は分からんでもない……。

 ……引っ付いてくれるのは嬉しいけど、今は遠慮したいかな。

 だってなのは、フェイト見ながらほっぺ膨らませてむ~、とか見てるもん。

 

「えーっと……。少し離れて、フェイト?」

「……わかった」

 

 おお! 何て聞き分けの良い子なんでしょうね、フェイトってば。どこぞの幽霊お姉ちゃんとは違うんだね!

 

『わ、私だってちゃんと聞き分け出来る子だよ……?』

『じゃあ今は離れて?』

『……わかった』

 

 そう言ってアリシアは俺から離れ、チョコンと俺の隣で正座した。

 なんで正座? と思うが、今はそんな場合じゃなかった。

 目の前でジュエルシードを背景に仁王立ちするなのはを見て気付く。

 

「――どうしよう。なのはに正座させられる理由しか見つからない」

「理由しか見つからないの!?」

 

 だって俺が魔法使えるって黙ってた事でしょ? それにリニスとフェイトの事も。

 

「そうだけど、……言い訳が無かったのはビックリなの」

「流石にこの状況で言い訳はしないって」

「でもお父さんとお兄ちゃんは良く、お母さんの前で正座してる時は言い訳するよ?」

 

 何やってんだあの二人。

 

『なのはさんは桃子さん似ですね』

『どんな人?』

『高町家の頂点でスイーツ作りが上手いパティシエ』

『なのはさんの母親で彼女の家の頂点ですね』

『一体どんな人……?』

 

 その内分かるから今は気にしなくて良いよ。

 

「そっか……。まあそんな事より、他の皆はどうしたの?」

「「あっ」」

 

 なのはとフェイト、二人そろって声を洩らした。

 

「…………」

 

 ジッ、と二人を見ると、

 

「ゆ、ユーノくーん、クロノくーん。秋介くん見つけたよー……」

「り、リニスー、アルフー。秋介見つけたよー……」

 

 二人はそれぞれの名前を呼びながら自分が飛んできた方に違うよ? 待ってもらってたんだよ?  置いて来た訳じゃないんだよ? と誤魔化すように戻って行った。

 

 

 ~もしかして俺、正座したままで待つの……? ~

 

 

『……戻って来ないね』

『ねぇー……』

 

 五分くらい経ったけどまだ戻って来ない。なのはとフェイトは一体、何処から俺を見つけたのよ……。

 しかもこの状況……。

 

『ジュエルシードの前で正座待機って普通は無いよね』

『普通は無いですよね、ロストロギアを前にして放置なんて。おまけに管理局の監視付です』

 

 あー、リンディさんか。アースラから見てるんだよねえ。

 

『向うにとってマスターはいきなり現れた謎の魔導師、つまり要注意人物ですから』

『謎の魔導師に要注意人物か……』

 

 それって――。

 

『――なんかカッコイイね、秋介!』

『――なんかカッコイイよな、アリシア!』

 

 しまったっ先に言われた。くそぅっ!

 とまあ別にそんな事はどうでも良くて……。

 

『今の内にジュエルシード回収して帰ったらクロノ、どんな反応するかな?』

『他の局員方を連れてうちに乗り込んでくるでしょうね』

 

 それは困るなー。今はプレシアさんがうち寝てるし、リニスが此処に来たって事は多分アリシアの体も運んである。

 ……あー、フェイトとアルフにその事伝えないと。

 今から念話で説明するか、それとも……。

 

『いっその事フェイトとアルフには内緒でアリシアを復活させちゃおうか。サプライズ的な感じで』

『ええっ!? ――何それ面白そう!』

 

 ええっ!? ――意外と好感触だった!?

 

『どうしよう、セラフ! 冗談で言ったのにアリシアが真に受けちゃった!?』

『落ち着いてください、マスター。動き出したアリシアさんはもう止まりません』

 

 そんな。それじゃあ一体、どうすれば良いんだ……!

 

『今の会話部分だけ記憶を消すか、一緒になってフェイトさんたちを驚かせる方法を考えるかのどちらかしかありません』

 

 ご決断を、マスター! とセラフに迫られたので、

 

『どっちを選ぶかなんてそんなの、――一緒に驚かす方法を考えるに決まってるじゃないですか!』

『ですよねー。マスターならそう言うと思ってました』

 

 当然面白そうな方を選ぶに決まってる。

 ……フェイトとアルフにはあとから全力で謝り倒そう。

 雷の一発や二発、おまけの三発目まで落とされる覚悟はある。

 

『その覚悟って、――プレシアさんの雷も含んでますよね?』

『当然。二人にはかなり迷惑かけちゃうから、それを知ったらプレシアさんが黙ってるとは思えないからね』

 

 理不尽で落とされるのは遠慮したいけどアリシアの為なら甘んじて受ける。

 ……姉妹の感動的な出会いは涙より、笑顔が多い方が良いよね。

 俺は怒られても嫌われても構わないからアリシアとフェイト、二人の出会いは笑いで飾りたい。もしかしたら驚愕で染まりそうだけどね!

 隣のアリシアを見ると、

 

『うーん、後ろから驚かす、……は普通でつまんないなー。この前テレビで見たみたいに煙モクモクの中から登場も……』

 

 むむぅ~……、と顎に手を当てて考えていた。

 

『アリシア』

『なに?』

『フェイトになんて声をかけるか考えときなよ』

『――そうだね! 最初の一言ってやっぱ大事だよね!』

 

 なんて声かけようかなー、と再びアリシアが考え出した。

 ……あとは皆が戻って来るのを待つだけ、……お?

 

『戻ってきましたね、皆さん』

 

 フェイトがアルフとリニス、なのはがユーノとクロノを連れて戻って来た。

 そして正座をする俺をクロノが見るなり、

 

「……また器用な事をしてるな、君は」

 

 呆れ顔で言われた。

 

「戻って来るなり第一声がそれって酷くない、クロノ?」

 

 もっと他に「お疲れさま」とか「無事でよかった」とか労いの一言でもあって良いと思うな。

 

「頑張って真面目に封印したのに秋介さんは悲しい……!」

 

 特に気にしてないけどね!

 

『マスター、そんな事言ってないで本題に入りましょうよ』

 

 それもそうね。

 正座を崩してその場に立ち上がり、

 

「リニスさん集合ぅ――!」

 

 右手を上げて呼ぶ。

 

「……? 何でしょうか……」

 

 呼ばれたリニスが小首を傾げてやって来た。

 

「うん。ちょっと相談があってさ。他の皆はしばしご歓談をー」

 

 リニスと一緒に少し離れた所に移動する。

 

『あ、待って私も、……――……あ、足が痺れた~……!』

 

 コテッ、と立ち上がろうとしたアリシアが転んだ。

 ……俺より器用なのが居たよ、クロノ。

 幽霊なのに足が痺れるなんて意味が分からんね。てか、大人しくそこで考えてれば良いのに。

 

『ううぅ……』

『――ストップだ、アリシア。唸りながら這いずって来るのはちょっと怖い!』

『だって足が~……』

『歩く事よりも飛ぶ事を意識したらどうです?』

『あ、そっか』

 

 アリシアが浮き上がり、フワフワと飛んできた。

 

『いやー、何で気付かなかったんだろ』

 

 俺の横を通って背中に引っ付こうとした瞬間、

 

『えいっ』

 

 とリニスや皆に見えないようアリシアの足を軽く突いたら、

 

『……う˝おぉおお……』

 

 足が……! と悶えた。

 ……阻止成功。

 

「――ふっ」

「どうしたんですか、急に?」

 

 おっと危ない。もう少しで声に出して笑う所だった。こんな所で急に笑ったら何事かと思われる。

 

「いや、……プ。何でも、ない……!」

『堪えられてないですって、マスター』

『よくもやってくれたね、秋介、……う˝おぁ˝ああ風が足を……!』

「プフはっ……!」

 

 お願い、アリシア。そんな声出さないで。笑いが込み上げて来る……!

 

「本当に大丈夫ですか……」

「だ、大丈夫。何でもない。ちょっと風のお陰で面白いのが聞けただけだから」

 

 ダメだ。アリシアにこれ以上反応してたら誤魔化し難くなる。

 ……気を取り直して本題に入ろう。

 

「早速だけど相談があります」

 

 こっちを見る皆に背を向けてその場にしゃがみ込む。

 

『なんでしゃがむの?』

『雰囲気作りは大切だと思うんだ』

 

 だからアリシアに言っても意味ないけど、内緒話だから小声でお願いします。

 

『じゃあ私も~』

 

 とアリシアが向かいにしゃがんだ。

 

「それで、相談とは何ですか?」

 

 続いてリニスが俺の隣でしゃがんだ。

 ……綺麗に三角形。

 やっぱ内緒話はコソコソ話す感が出た方が良いよね!

 

「まあ、相談と言ってもお願いなんだけどね。アリシアの復活の事はフェイトたちに内緒にしておきたいのよ」 

「構いませんが、……それは一体なぜ?」

「『面白そうだから』」

「…………」

 

 しまった。リニスの視線が思った以上に刺さる。ああ、頭抱えないで、ため息つかないで!

 

「……ごめん、今の無しでお願いします」

『マスター……』

 

 え、俺だけなの? アリシアも同じ事言ったじゃん。

 

『フッフッフ、――リニスは私の事見えてないからね! しかも声も聞こえてない!』

 

 さっきの仕返しだよ! とアリシアがドヤ顔で親指を立てたので、

 ……――よし。復活させたら頭に手刀を落としてやろう。

 そう、心に決意した。

 あのドヤ顔、今すぐにでもほっぺ引っ張ってムニムニしたいけど今は我慢だ。

 

「理由としてはまあ、アリシアとフェイトが笑って出会えるように、かな?」

『あれ、結構ちゃんとした理由あったんだね』

『当り前よ。俺が冗談だけで言うと思った?』

『うん』

『思いますね』

『…………』

 

 セラフにまでそう思われてたなんて……。秋介さんちょっとショック。

 

「笑って、ですか……。――フフ、分かりました。では、ジュエルシードはどうします?」

「ああ、その辺は一応考えがあるから大丈夫」

 

 フェイトやアルフ、プレシアさんに怒られるかもな方法だけどね!

 

「さて戻りますか……」

 

 立ち上がり、リニスとアリシアを連れて皆の所に戻る。

 

「ただいまー」

「お帰り、秋介。リニスと何を話してたの?」

「俺が雷に撃たれる前準備」

「……?」

 

 どういう事? とフェイトが首を傾げた。

 

「明日になったら分かるから。それよりも、……クロノが大人しく待ってたのは意外だった」

 

 俺とリニスが離れた隙にジュエルシード持って帰るかと……。

 

「……下手に動かない方が良いと判断しただけだ。それよりも君たちに聞きたい事がある」

 

 クロノがフェイトとアルフを見た。

 

「君たちがジュエルシードを集めているのはプレシア・テスタロッサの為だと聞いた。一体彼女はジュエルシードを集めて何をする気だ?」

「アンタらにそれを教える義理は無い」

「そちらに教える義理は無くともこちらには聞く義務がある。ジュエルシードは危険なモノだ。悪用されては困るからな」

「…………」

 

 フェイトが俺とリニスを見て、

 

「秋介くんはフェイトちゃんがジュエルシードを集めてる理由、……知ってるんだね」

 

 その様子を見たなのはが話しかけて来た。

 

「聞いても多分、教えてくれないんだよね」

「まあ、色々とあるからね。ごめん」

「ううん、謝らなくて良いよ。それに秋介くんから聞いたらダメな気がする、……この事はちゃんと、フェイトちゃんから聞かないとダメな気がするんだ!」

 

 だから、となのはは続けフェイトを見た。

 

「私と全部のジュエルシードを賭けて、本気の勝負をして欲しいんだ」

「――ッ」

 

 なのはの言葉を聞いてフェイトは驚いてるけど……。

 

「マジ、――ですの?」

 

 多分、俺の方がもっと驚いてる。だって今、声が裏返ったもん。

 ……うわあぁ。なのはがそんな事言い出すなんて不意打ち過ぎる。

 この前のフェイトの衝撃発言に加えて今のなのはの衝撃、――はっ! なのはなら衝撃じゃなくて砲撃、つまり砲撃発言……!

 どうしよう、自分で何言ってるのか分かんなくなって来た!

 

『内心メチャクチャ焦ってますね、マスター』

『ええ。「マジ」の部分の声が裏返ったので間違いありませんね。しかも口調がおかしくなっていましたし』

『今の声、何か面白かったね!』

『――アリシアは手刀一発追加だな』

『何で!? どうして私で冷静に戻るの!?』

 

 いやあ、プレシアさんが来た時もそうだったけどアリシアには助けられたね、ありがとう!

 

『微妙に嬉しくない……。というか、追加ってどゆこと!? 最初の一発は何処で決定してたの!?』

『ヒントはドヤ顔』

『ついさっき!?』

 

 うぅ……、と項垂れたアリシアは放っておいて……。

 

「いきなりだな、なのは。秋介さん思わず声が裏返っちゃったよ」

「にゃはは、……ごめんね」

 

 なのははジュエルシードへと視線を移し、

 

「ユーノくんとクロノくんもごめんね? また勝手な事しちゃうけど、……フェイトちゃんとお友達になりたいから、ちゃんとお話したいからまずはジュエルシードの事を如何にかしないとって思ったの」

「なのは……」

「……はあ」

 

 そのあとユーノとクロノを見てから、再びフェイトを見た。

 

「フェイトちゃんには譲れない思いがあるんだよね? だったらわたしはその思いを聞きたい。聞いて、フェイトちゃんと一緒にジュエルシードを使わない方法を考えたいんだ!」

「ガキんちょ、アンタ……」

「勿論、アルフさんもリニスさんも、秋介くんも一緒にだよ!」

「なのはさん……」

「俺もかぁ……」

 

 うーん、コレは複雑な気分。

 ……サプライズ止めようかなー

 でもフェイトとアルフの驚いた顔見たいしなー。アリシアもノリノリだったし……。

 

『……って、なに? 何でまだ項垂れてるのよ』

 

 もしかして手刀がそんなにショックだった? それなら落とすのは止めて――。

 

『うぅ、私の名前呼ばれなかった……』

 

 ――あげようかと思ったけど、気にせず落とそう。

 なに当り前の事を言ってるんですかね、この幽霊少女は。

 

『サプライズで茶髪ちゃんは驚かすの止めておこうと思ったのに……』

 

 こうなったらまとめて驚かせてやる――! とアリシアが力強く立ち上がった。

 ……うん、まあ。アリシアは俺の複雑な気分とかお構い無しに進むよね。

 

『うれしそうですね、マスター』

『あれ、顔に出てた?』

『出てませんよ』

 

 ちくせう。久しぶりに引っかかった。

 

『あの、……秋介?』

『どした、リニス』

『いえその、……なのはさんはああ言ってますがよろしいのですか、ジュエルシードの事は?』

『そう言えば考えがあるって言ってたね』

 

 ああ、その事。

 

『別に良いよ? なのはの言った事は俺が言おうと思ってた事と同じだから』

 

 俺としてはどっちが勝っても問題ないからね。なのはが勝てばそのまま管理局が管理するだろうし、フェイトが勝ってもその時には既に俺がアリシアを復活させてるから使わず返せる。

 ……改めて考えてもフェイトを囮にするって事だからなあ。

 プレシアさんはメチャクチャ怒るよねー。多分アルフも。フェイトからは嫌われるだろうなー。

 ……自分で言ってて悲しくなってくるから考えるの止めよう……。その時考えれば良いよね!

 土下座で許してくれるだろうか……、と思いなのはとフェイトを見ると、

 

「……わかった。その勝負受けるよ。私が勝ったらジュエルシードは全部貰う」

「それで良いよ。わたしが勝ったらお話、聞かせてね」

 

 すぐにでも戦えるようにデバイスを構えていた。

 

「え、今やるの?」

 

 それは困る。俺とアリシアのサプライズ計画的に。

 

「「……ダメ?」」

 

 いや、揃って首傾げられても可愛いとしか思えない。

 

『……ダメ?』

『はいはい、カワイイカワイイ』

『せめて見てよ……!』

 

 えー、だって見たらちゃんと可愛いって言わないとじゃん。

 ……次に言うならやっぱ復活してからが良いよねー。

 とまあそれはそれとして……。

 

「本気の勝負をするなら明日にしたら? その方が二人共、万全な状態で臨めるでしょ?」

 

 それに、

 

「これ以上この辺りの魚に迷惑かけたらダメだって」

 

 海水弾として撃ち込まれたりして大変だったんだから。

 

「そこは重要視する所じゃないんじゃないかな。二人の砲撃戦を始めても潜ってやり過ごすだろうし……」

「冗談だから。そこまで真面目にコメントしなくて良いからね、ユーノ?」

 

 でも、だから俺が〈約束された勝利の剣〉をぶっぱなしても巻き込まれなかったんだね!

 

『跡形もなく蒸発してるかもしれませんね』

『え……?』

 

 ウソでしょ?

 

『ええ、ウソですよ』

『…………』

 

 本日二度目のちくせう……。

 って、念話で話してる場合じゃなかった。

 

「まあ魚云々は無視して、……本気で戦うなら万全な状態が良いと思う」

「そうですね……。私もその方が良いと思います。今の二人はほとんどの魔力を使っていますから」

 

 お、リニスの援護が来た。

 

「全てのジュエルシードを賭けるのならなおさらです。万全な状態で臨んだ方が、どのような結果になったとしてもお互いに納得できるでしょう」

「秋介やリニスの言う通りだよ、フェイト。プレシアの為にも今日は一旦帰ろう?」

「うん、そうだね。……明日は負けないよ」

 

 フェイトがバルディッシュを下げ、

 

「なら続きは明日だね。わたしだって負けるつもりはないよ、フェイトちゃん」

 

 なのはもレイジングハートを下げた。

 

「じゃあ残りのジュエルシードは僕が――」

「――セラフ、回収」

『お任せを~』

 

 クロノより先にジュエルシードを回収する。

 

「……なんのつもりだ?」

「だってクロノに渡したら、フェイトが勝ったとしても渡してくれないでしょ?」

「それは君にも言える事じゃないのか?」

 

 む、否定しないのね。まあそうだとは思ったけど。

 

「そんな意味の無い事しないって。ちゃんと勝った方に渡すよ」

 

 俺としてはどっちが勝っても問題ないからね。

 

「それで、次に戦う場所だけど」

『――でしたらそれは、我々の方でご用意しましょうか?』

 

 言いかけた俺の言葉を遮って大型の空間モニターが現れた。

 ……あら以外。見てるだけかと思ったのに。

 モニターを見ると緑髪の女の人――リンディさんが映っていた。

 

「変な仕掛けとかが無いならお任せで」

『無論、そのような事はしません。では我々が用意すると言う事でよろしいですね?』

「あいあい、よろしく~。で、時間とかはフェイトとなのはが相談して決めるって事で良い?」

 

 二人を見ると、

 

「うん」

「フェイトちゃんは何時くらいが良い?」

「いつでも良い」

「そっか。だったら……」

 

 と何処かに遊びに行くような感じで時間の相談を始めた。

 

「よし。それじゃあ俺は帰るけど、リニスはどうする?」

「私も一緒に帰ります。――ではアルフ、フェイトの事よろしくお願いしますよ」

「任せな! 帰ったらしっかりと休ませるよ!」

「ええ。後ほど差し入れを持っていきますね」

「もう、アルフったら……」

 

 本当かい!? とアルフは目を輝かせ、それを見てフェイトは恥ずかしそうにしていた。

 

「じゃあユーノ、なのはの事ちゃんと休ませてよ? もし訓練でもしようとしたらバインド使って抑えといて」

「それは流石にやり過ぎじゃないかな……。まあでも、なのはが訓練をしようとしたら全力で止めるよ」

「任せた。それとなのは、ついでにクロノも。俺の話とかは二人の戦いが終わってからで」

「うん。また明日ね、秋介くん!」

「……良いだろう。君に聞きたい事は沢山あるからな」

 

 お手柔らかに頼むよ。

 

「さて……」

『とりあえず今日は解散――!!』

『…………』

『何か言って!?』

 

 いやー、今まで静かだったからつい……。

 それじゃあ気を取り直して、

 

「今日は解散――! あ、転移よろしくね、セラフ」

『了解です!』

 

 直後、視界が光に包まれた。

 

 

 ~何てプレシアさんに説明しよう……~

 

 

 光が晴れると、

 

「――うおわっ!?」

 

 いきなり目の前に、液体に満たされたカプセルの中で眠るアリシアが居た。

 

『おー、私の体だー。何か久しぶり~』

「……あー、ビックリした」

「すいません。うちに戻ってすぐに秋介たちの元へ転移したので運んだままで……」

 

 それは別に良いけど……。

 ……これ地下室に移動したい、……あ、意外とすんなり動いた。

 軽く押したらスゥ、と滑るように動いた。

 

「とりあえず隅っこに移動して、っと。……にしてもやっぱり裸だったか……」

 

 リニスに服も頼んで良かった。

 

『むう、私の裸で何も反応が無いのはちょっとショックだね……』

『リニスかアルフくらいのスタイルになってから出直しなさい』

 

 今の幼児体型見てもなー。

 

「秋介、私はプレシアの様子を見て来るので夕食の準備を頼んで良いですか?」

「オッケー。何かリクエストは?」

『シチュー!』

『明日なら作ってあげる』

『ホント!? ぃヤッター!』

 

 わー! とアリシアがうちの中を飛び回りだした。

 ……そんなに喜ぶのか……。

 だったら明日は腕によりをかけて作ろうじゃないか……!

 

「でしたらうどんはどうでしょう。疲れたフェイトや寝起きのプレシアでも簡単に食べられると思いますから」

「良いね、うどん。この前打ったのが残ってるからそれ使おう」

 

 暖かいのと冷たいの両方作るか。トッピングに使えるやつは何があったっけ?

 

「では頼みます」

 

 そう言ってリニスは二階に上って行った。

 

『私は?』

 

 いつの間にかアリシアが戻って来た。

 アリシアはそうだなー……。

 

「なら鍋を棚から――」

「えぇえええ!?」

 

 二階からいきなりリニスの驚く声が聞こえた。

 

「出さなくて良いからちょっと上の様子見て来て?」

『……うん。ちょっと見て来る』

 

 スッ、とアリシアが天井を通り抜けて行った。

 直後、

 

『えぇえええ!?』

 

 リニスと同じようにアリシアの驚いた声が聞こえた。

 

「プレシアさんに何かあったのかな?」

『アレじゃないですかね』

 

 アレ? アレって一体……。

 

『マスターがリニスさんに渡した小瓶ですよ』

「……ああ、アレか!」

 

 透明のヤツね。忘れてた。

 

「という事はつまり……」

 

 うどんの準備を中断して二階へと上ると、リニスの部屋の扉が開いていた。

 中からは、

 

「だ、大丈夫、リニス!? 急に大声なんて上げて、私の顔に何かついてるかしら……?」

「い、いえ! その、……顔と言うか体全体がその!」

『ま、ママが、ママが~――!?』

 

 プレシアさんの心配する声と、リニスとアリシアの戸惑う声が聞こえた。

 ……起きてたのか、それともリニスの声で起きちゃったのか……。

 まあそんな事はどっちでも良いや。

 開いた扉の前まで移動し中を覗くと、プレシアさんがベットに座り、その前でリニスとアリシアがへたり込んでいた。

 

「ぼ、坊や!? 私、何処か変かしら!?」

「秋介、ちょうど良い所に! プレシアが――!」

『秋介、ママが――!』

 

 そんな大声出さなくても聞こえてるから。

 

「うん。――かなり若返ってるよね」

「ですよね、私の見間違いではないですよね!?」

『だよね!? 私が生きてた時くらいの見た目になってるよ!?』

 

 そうなの? って事は結構戻ったのか。

 

「若返ってるって、……どういう事?」

「セラフさん、鏡!」

『マスターが持ってるじゃないですか』

 

 あ、そっか。

 手元に魔力を集めると〈水天日光天照八野鎮石(すいてんにっこうあまてらすやのしずいし)〉が現れた。

 

「はい、どうぞ」

 

 〈水天日光天照八野鎮石〉をプレシアさんの前に持って行き見せると、

 

「――え?」

 

 そこに映った自分の姿を見て絶句した。

 

「一体、何が……」

 

 プレシアさんが信じられない、といった感じで自分の顔を触りだした。

 

「体はどう? まだ辛かったりする?」

「体? ……いいえ。何処も辛くはないわね。むしろ好調というか……」

「セラフから見てどう?」

『大丈夫です。病のやの字もありません』

 

 それは良かった。

 

「あの、コレはどういう事でしょうか……」

『そうだよ、何でママが若くなってるの?』

「アレが原因よ」

「『アレ?』」

 

 プレシアさんの座るベットの枕元、空になった小瓶を指さす。

 

「コレは……」

『なに?』

「確か時返しの薬だったかな?」

 

 似たようなのが他にもあるから紛らわしいんだよね。

 

「時返し、ですか……?」

「そ、プレシアさんの体が病気になる前まで戻ったんだよ」

 

 ……まあ何処まで戻るか分かんなかったけどねー。

 

『プレシアさん、リニスさんから何か夢を見ているようだ、と聞きましたが……』

「……ええ、確かに夢は見ていたわね。アリシアとピクニックに行った時の夢を……」

『ではその夢が大きく影響して今の姿に戻ったんでしょうね』

「そんな事……。いえ、自分がそうなってしまった以上、信じるしかないわね」

 

 ふう、とプレシアさんは一息ついた。

 

「……坊やは本当に奇跡が起こせるのね」

「ふふん、明日はもっとすごい奇跡を起こすからね!」

 

 だからとりあえず、

 

「ほらリニス、いつまでも座ってないでプレシアさんの体とか拭いて上げて。あとついでにフェイトたちの事も説明してといてね」

「え、あ、はい……」

 

 よし。これで俺がすぐに雷に撃たれることは無くなった。

 

「セラフはお風呂入れてきて」

『任せを』

『アリシアはうどん作るのを手伝ってよ?』

『あ、うん……』

 

 さあて、さっさと終わらせてゆっくりとしようかな!

 ……そうだ。寝る前にアレもちょっと練習して置こうかな。明日の為に。




 次回はついにお姉ちゃんが復活するよう!

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