自然公園でフェイトの衝撃発言が飛んできた日から数日経った週末。
「これは、……ヒュドラの肉……? むう、調理方法が分からん。今度セラフに聞いてみよう。お、何だこの壺、……うおっ、飴が詰まってる……!」
せっかくの休日なのにこれと言って予定が無かったので、リビングで〈
「ん? 他の壺は飴じゃないのか……」
飴の壺と一緒に見つけた他の壺と風呂敷には、
「伝説の小豆に世界一うまいミルク、究極の蜂蜜に宇宙一ふんわり焼ける小麦粉、それに最高においしい生みたて卵、か……」
と、言ういかにも最高級品です、と分かるように張り紙がされていた。
……キラキラしてる食材とか、初めて見たな。
そうだ。今度、これを使ってどら焼きでも作ってみるか。なのはたちも誘って皆で作るのも良いかも。
「他には、……お酒に花札、ガチャガチャのカプセルに……。お、何か細かいのがいっぱい……」
取り出して見ると、赤に緑、透明に虹といった液体が入った小瓶が数個、……って、虹!? 虹って何です!?
……三色の飲み物は知ってるけど、七色は初めてだな……。
「試しに一く――」
『マスター。それを飲んだら味覚を無くしますよ?』
飲みかけた所にセラフがお盆と一緒に浮いていた。
『そんな物より、私の淹れたお茶でも飲んで一息付きましょう』
どうぞ、と言われ、お盆に乗った湯呑みを受け取る。
「……ありがとう、セラフ。もう少しで食べる楽しみが無くなる所だった」
こんな危険なモノはしまっておいた方が良いね。『味覚無くなるやつ』って書いて、簡単に出てこないように奥の方に、……と。
『いえいえ。それよりも、宝具を広げてどうしたんです?』
「暇だったから。何か面白そうなのあるかなー、って」
『では、何か面白そうなのありましたか?』
「しいて言うなら温泉、かな……」
『温泉、ですか』
「『…………』」
セラフの入れてくれたお茶を一口飲む。
……あ、今日はほうじ茶なのね。
昨日は緑茶でその前は麦茶だったからなー。明日は紅茶かな?
「……ふう。そろそろお昼だし、片付けるか」
『そうですね。確か今日、フェイトさんたちは来ないそうですよ』
「あらー、それは残念……」
今日はたこ焼きでロシアンルーレットをやりたかったのに。
「それなら――」
『――はいっ! はい、はーい! 私、オムライスが食べたい!』
さっきまでテレビを見て『おお、あの卵のフワフワ感はすごい……!』とか言ってたアリシアがいきなり手を挙げた。
「やかましい。アリシアは幽霊だから食べれないじゃん」
『――フッフッフ。実はね、日頃の努力が実を結んで食べれるようになったんだよ! こう、食べ物の魂をつまむ感じで……』
パクッとね! と何かをつまんで食べるジェスチャーをされた。
……いや食べ物の魂って何だよ。
そう言えば最近、うちに置いてあるお菓子の味が薄い時があったけど……。
「……もしかして日頃の努力って、……お菓子での練習してた?」
『チガウヨ?』
「――よしセラフ、魔法でアリシアを見えなくして!」
『はいはい、お任せを~』
『ごめんなさいお菓子で色々練習してました――!』
ピシッ、と綺麗な九十度で頭をさげられた。
「分かればよろしい。……次から勝手に食べないでよ?」
『はい……』
そう言ってアリシアは肩を落として、
『うぅ、オムライス~……!』
恨めしそうに嘆いた。
……いや、オムライスだけでそんなに落ち込まないでよ。
俺は作らないとは言ってないのよ?
「まったく……。ちょっとこっち来てアリシア」
『なに……?』
アリシアの手元に〈王の財宝〉を開く。
「この中に、俺の代わりにこの壺やら小瓶やらをしまっといて」
『えー……』
「今日のお昼はオムライスを作っても良いかな、って思ったのになあ」
『――よっし、お姉ちゃんに任せなさい!』
オムライスー! と元気が戻ったアリシアが片づけを始めた。
「あ、地下室の方にも大きいのがあるからそっちもよろしくー」
『まっかせてぇー――!』
おりゃー! と〈王の財宝〉を掴んで床を抜けて行った。
……アレって掴めるんだ……。
もしかしてアリシアが幽霊だからな? まあ、よく分からんから考えるのは止めよう。そうしよう。
「これで片付けは終わったね……」
『片づけって、宝具を回収できる宝具があるのに何言ってるんですか。――まさか、忘れてましたね?』
「はっはっは、……偶にはアリシアにも手伝ってモラワナイトネー」
『マスター……』
さあて、アリシアのオムライスは特別にフワトロの卵にしてあげようかな! あ、でも三つも作ってリニスに何て説明しよう、……ってあれ?
「そう言えば今日、まだリニスを見てない……」
まだ寝てるのか。もうお昼だし、起こしに行った方が良いよね。
『リニスさんならマスターが起きてくる前に出かけましたよ? お昼頃には戻ると言ってましたから、そろそろ帰ってくる頃かと』
「そんな朝から何処に行ったのよ……?」
『ふふ、リニスさんが戻ってくれば分かりますよ。――ほら、噂をすればなんとやら、です』
何が、と思ったら背後で魔力を感じた。
振り返ると、そこには魔法陣が展開され、
「着きましたよ。……体の方は大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。それで、此処がフェイトとアルフから聞いていた坊やの家かしら。……案外普通ね」
リニスと黒髪に魔女のような格好の女の人が現れた。
「普通って、……当り前です。貴女たちの住んでいる所の方が特殊なんですから。それと、バリアジャケットは解除しても大丈夫ですよ。管理局に見つかる心配はないですから」
「……そのようね。良いわ、私も無駄な魔力は使いたくないし、そうさせてもらうわ」
フッ、と女の人が光に包まれたと思ったら次の瞬間、薄紫のTシャツにジーパンと言うラフな格好に変わっていた。
「――ふう。……それで、あそこでポカンとしてる坊やがそうかしら?」
女の人が軽く髪をかき上げ、俺を見た。
……え? ちょ、なん、一体、え!?
『落ち着きましょう、マスター』
『……はっ! それもそうだ。此処は一旦整理した方が良いよね……』
確か、リニスが居ないと思ったら急に帰って来て、それで知ってるけど見知らぬ人を連れて来ていきなり家が普通って言われた。良し、ざっとこんなもんか。うん。
「――良い感じでサプライズだね!?」
「リニス、あの坊やは急にどうしたの?」
「ええっと……。多分ですが、私たちが現れた事に驚いているんだと思います」
まさかリニスがその人を連れて来るなんて思いもしなかったからね! それに、
「前もって教えてくれたら、魔法なり何なりでうちの中を旅館風に改装したのに……!」
「――気にするのそこですか!?」
『今のマスター、予想外の事態に変なテンションになってますね』
「ち・な・み・に、温泉もあるよ!」
今ならなんと、地下室に大浴場が――。
『――ただいま! 何かおっきいお風呂があって少し苦戦したけど片づけ終わったよ!』
ヒョコッ、とアリシアが床から飛び出て来た。
――広がってたんだけど無くなっちゃったね……。
『あれ、オムライスは? 私のオムライスは!? 秋す、――ママ!? 何でママが居るのう!?』
『とりあえず、それも含めて聞くから今は落ち着こう?』
助かった。アリシアが戻って来たお陰で変なテンションが下がったよ。
「坊やって、サラッととんでもない事を言うのね」
「まったくです。私としては研究施設の方が良いと思いますが……。しかし温泉なんて物、一体全体どこに秋介はしまっていたのでしょう……?」
「……リニス貴女、昔と変わったわね」
「そうですか? あまり自覚は無いのですが、……以前の主である貴女が言うならそうかもしれませんね。でも、貴女ほどではないですよ?」
「言ってくれるわね。……でも、リニスの言う通り。自分でも変わった自覚があるもの。昔と比べてあの子たちの事が心配で食事が喉を通らないくらいよ」
「フフ、それは良い事です。フェイトたちのお陰ですね」
「ええ、そうよ。でも」
貴女のお陰でもあるのよ? と女の人がリニスに微笑んだ。
……何か思ってた感じと全然違う……。
もっとこう魔女って言うかなんというか、怖い感じだと思ってたのに。
まあとりあえず、
『なんかスゲェ話しかけ難いんですけど……』
『ですね。思い出話に花を咲かせる友人同士、と言った所ですね』
『あの二人、付き合い長いからね。リニスが使い魔になる前の、猫の時から私とママは一緒だったんだよ?』
『なるほどー……』
思い出話に花を咲かせてる所悪いけど、話を聞かせてもらいましょうか。
「お二人さん。ちょっとよろしい?」
今なお俺たちを放って談笑する二人に話しかける。
「――ああ、私とした事がつい、……すみません!!」
「良いよ、気にしてないから。それよりも、そっちの人って……」
「はい。遅くなりましたが、此方の方が私の以前の主でフェイトの母親――」
「プレシア・テスタロッサよ。あの子たちが色々とお世話になったみたいね。母親としてお礼を言うわ」
「俺は戸田・秋介、秋介で良いよー。それと、プレシアさん?」
「何かしら」
「お昼はオムライスなんけど、……良い?」
こんな時間に来たって事はまだお昼ごはん食べてないよね。せっかくだし一緒にどうですかね?
「構わないわ。フェイトたちに聞いたけど、料理が上手なんですってね」
「ええ。秋介の作る料理は絶品です。味は私が保証しますよ」
『私も保証するよ、ママ! あ、私の分のオムライスも忘れないでよ! 卵はフワトロでね!』
いや、ママに聞こえてないから。それよりもいつの間に俺の料理を食べたのさ、アリシアさん?
『……昨日のお魚は甘くて美味しかったよ』
『はっはー、……だから食べた時、俺のだけ甘くなかったんだのか』
サバの味噌煮は甘いくらいがちょうど良いのに、通りで昨日はサバと味噌の味しかし無かったのね……。
「じゃあ、食べてからだね。――俺が聞きたい事、聞かせてくれるんでしょ?」
「――やっとです。ようやく決心がつきました」
「そう。なら俺も、色々と準備しといて良かった」
「準備って、……何のですか?」
「ふふん、内緒だよ!」
といっても、そこまで大した準備じゃないけどね!
「はあ……?」
「聞いていた通り、不思議な坊やね……」
リニスは首を傾げ、プレシアさんは苦笑した。
……不思議って、プレシアさんは俺の事どんな風に聞いたの?
~アリシアの分は作り過ぎたって事にした~
『いや~。何年ぶりか忘れちゃったけど、久しぶりにオムライス食べたなー』
美味しかった~、と満足顔でソファーに座るアリシアを無視して、俺は食べ終わった食器を片づける。
「あ、食後はコーヒー? それとも紅茶が良い?」
「そうね、……なら私はコーヒーを貰おうかしら」
「私は紅茶ですね。今日はどちらが淹れるのですか?」
「勿論、――セラフさんです!」
『ふふ、お任せを……!』
なんてったって今、うちで一番飲み物を入れるのが上手だからね!
……いつか絶対、セラフを超えるんだ……!
今度、士郎さんにコーヒー入れるコツでも聞いてみよう。
「お茶を淹れるデバイスなんて、初めて見たわね」
リニスと並んで椅子に座るプレシアさんが、フワフワとキッチンに向かうセラフを見て呆れていた。
「セラフは特別だからねー。……まあ、そんな事は置いといて。さっそく話を聞かせてくれる?」
「ええ、勿論です。まず初めに、フェい――」
「あ、フェイトがクローンって事は知ってるから。それは飛ばして良いよ?」
「「『――――!?』」」
「え、どうしたの……?」
プレシアさんたちが、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で俺を見た。
……俺、なんか変な事言ったかな……?
なんて考えてたら、
『コーヒーと紅茶が入りましたよ~』
セラフがトレーにコーヒーと紅茶を載せて戻ってた。
……早くないですか、セラフさん!?
一体どんな魔法を……、と思うがそんな事はどうでも良い。
『どうしよう、セラフ。皆が固まっちゃった……!』
『マスターが話の腰を折るような事を言うからです。――こういう時は初耳を装ってからの実は知ってました、的な方が良いサプライズになりましたよ?』
「――しまった……!」
俺とした事が気付けないなんて。それならさっきのサプライズのお返しが出来たのに……。
……ちくせう……!
ま、別に良いんだけどねー。遅かれ早かれ言うつもりだったし。
「坊や、その事をどうやって知ったのかしら……?」
「そ、そうです! 何故、秋介がその事を!?」
ガタッ、とリニスが詰め寄って来た。
『そうだよ! 何で知ってるの!?』
ソファーでくつろいでたアリシアまで参戦して来た。
「前に自然公園でフェイトから聞いた」
だから皆さん、少し落ち着いて? プレシアさんはデバイスをしまって、リニスとアリシアは一旦座ろう。お願いだから。ね?
「……そう、あの子が。なら私が何故、ジュエルシードを集めているのかも知っているのね?」
「一応、知ってる。アリシアの復活の為、でしょ?」
そう言うと、リニスとアリシアが崩れ落ち、
「――そんな。私が一番話し難かった事を、プレシアと話し合って一緒に事情を話そうと決めてやっと決心がついた事をまさか本人から聞いているなんて……。いえ、それが本来正しいのでしょうが、……ああ、だから二人が戻って来た時にフェイトの顔が赤かったんですね。最近仲が良く見えたのにも納得がいきます。くっ、あの時に気付けないなんて……!」
『――そんな。いや確かにね? リニスの言う通り最近あの二人仲良いなー、なんてお姉ちゃんは思って見てたよ? でもまさかフェイトが秋介に自分がクローンだって話してたなんて思わなかったよ……。何でそんな大事な所に私は居なかったんだろ。……あっ、フェイトに怖がられて落ち込んでたからだ! くっ、フェイトの赤面した瞬間を見逃すなんて……!』
私としたことがぁ…… と項垂れた。
……何かアリシアは違う事を悔んでる気がするけど、それは自業自得だよね。
あと、妹の赤面した瞬間を見ようとしないの。気持ちは分かるけど……。
此処はとりあえず、項垂れる二人は横に置いて話を続けよう。
「プレシアさんがうちに来たのって、俺にアリシアとフェイト、二人の事を説明する為にだよね?」
「そうよ。でもまさか、坊やがクローンの事を聞いているなんてね。驚いたわ」
「だよねー。俺も聞いた時はビックリしたよ」
……まあ一番驚いたのはフェイトが、自分がクローンだって知ってた事だけどね。
プレシアさんが教えたのか、それとも何かの拍子に知ったのか。どっちか分からないけど二人の仲が悪くなくて良かった。
「……ねえ、坊や。一つ聞きたいのだけど、良いかしら?」
「なに?」
「貴方、奇跡を起こすってリニスに言ったみたいね」
「あー……」
リニスってば、プレシアさんにその話したんだ。
……今思うと恥ずかしくなってきた……。
ホント、何でカッコつけてあんな事言っちゃったんだろうね。
『ふふふ、この時の事ですね……!』
セラフが言うと、一つの空間モニターが現れた。
そしてモニターには、
『――大切な人の為だったら俺は、どんな〝奇跡〟でも起こして見せるよ』
いつかの俺が映っていた。
「いやあぁぁあああ――ッ!?」
何てタイミングで掘り起こしてくれんの! というか、前にも似たような事あった気がする!?
「……本当に言ってたのね」
プレシアさん信じて無かった! セラフが見せなかったら誤魔化せたのになあ!
「いやっ、コレは!」
「フフ、あの時の秋介はカッコよかったですね……!」
『すごい事言ってたんだね、秋介!?』
あれ、リニスとアリシアがいつの間にか戻ってた!? ヤダ、ヤメテ、お二人さん。そんなに見ないで……!
『ふふふ、マスター……!』
ちくしょう。セラフは何か点滅してテンション高いし、俺の味方は居ないのか――!
……くっ、何とか話を戻さねば!
「と、とりあえず俺の話を聞いてくれませんかしら!?」
しまった。焦り過ぎて変な口調になった。
『あ、ごめんね……』
「すみません……」
「……分かったなら大人しく座ってよ」
「『はい……』」
リニスはプレシアさんの隣に戻り、アリシアは俺の膝上に座った。
『――アリシア?』
『……ごめん。すぐにどくね』
チョコン、とアリシアは俺の横に浮かんで正座した。
器用な。
「……はあ。それで、プレシアさんは俺にそんな事を聞いてどうするの?」
「そんなの当然じゃない。――アリシアの復活、その手伝いをしてほしいのよ」
「プレシア……」
『…………』
やっぱそうだよね。
「坊やの言う奇跡がどんなモノか知らないけど、アリシアの為なら私は、どんな代償だって払う覚悟よ」
だから、とプレシアさんは椅子から立ち、
「私に、もう一度あの子と合わせて」
お願いします、と頭を下げた。
『ママ……』
『マスター?』
『わかってるって』
……アリシアはプレシアさんに似たんだね。
「良いよ。でもその代り、やり方は俺に任せてよ?」
そう言うとプレシアさんが顔を上げ、
「本当に……?」
信じられない、といった顔で見られた。
「本当だって。こんな所で嘘ついても意味が無いでしょ?」
「――ありがとうッ!」
「プレシア……」
泣き崩れそうになったプレシアさんをリニスが支えた。
「秋介、……やはり出来るんですね」
「まあね。それよりも、プレシアさんを休ませてあげよう。……病気の体をおしてうちに来たんでしょ?」
「ええ。私が無理を言って来てもらいましたから。かなり辛い思いをさせてしまいました」
それは悪い事をしたね。
……手遅れになる前に、こっちを先に何とかした方が良いかも。
確か〈王の財宝〉の中にアレが、……お、あった。
「あとで良いから、これをプレシアさんに飲ませて上げて」
〈王の財宝〉から一つの小瓶を取り出してリニスに渡す。
「水、……ですか?」
小瓶に入ってる透明な液体を見てリニスは首を傾げた。
「水じゃないけど……。んー、……飲んでからのお楽しみって事で。体の辛さを無くす薬だとでも思って」
「……些か心配はありますが、……分かりました。では、プレシアを私の部屋に寝かせてきますね」
「よろしくー」
リニスがプレシアさんを抱えてリビングを出たのを見送る。
「……それで何か言いたい事ある、アリシア?」
さっきからやけに静かだったけど、もしかして復活が嫌だったりして……。
アリシアを見ると、
『本当に、出来るの、……秋介?』
目に涙を溜めて服の裾を握りしめていた。
「本当だって。心配ならセラフに、――アリシア?」
フワッ、とアリシアが胸に飛び込んで来た。
『……ごめんね。ちょっと今の顔見られたくないや。少し我慢して』
「我慢も何も、アリシアみたいに可愛い子だったら喜んで胸を貸すよ」
『……やっぱり可愛いって認めてたね』
認めてたって、……前にこんな話したっけ?
『秋介が初めて私を見てくれた時だよ』
「あー、あったなー」
あの時は寝起きで、アリシアがやかましかったからなあ。
「また手刀落とそうか……」
アリシアの頭めがけて右手を落とそうとしたら、
『何でそうなるの!? 今のって優しく頭を撫でる展開じゃないの!?』
バッ、と勢いよくアリシアが離れた。
……お、元気が戻った。
やっぱアリシアはしんみりしてるより騒がしい方が良いね。
「すまない、アリシア。今頭をなでると、復活させられなくなるんだ……」
『うそぅ!?』
「うそぅ、だよ」
『…………』
はっはっはっ、そんなに見ないでよ。ちょっとした冗談だから。ごめんなさい。
『マスター、今の状況でその冗談は割と効きます』
『セラフの言う通りだよ。心臓止まるかと思った』
「すみませんでした……」
というかそもそも、今のアリシアって心臓とか関係なくない……?
『まあ良いけど。それよりも、私の復活って上手く出来そう?』
『それは勿論、――マスターの頑張り次第ですね!』
「いやあっ! 変なプレッシャーかけないで……!」
ぶっつけ本番になるから結構不安が大きいんですよ!?
「秋介」
「――はいっ!?」
いきなり呼ばれて振り向くと、リニスが立っていた。
「あの、どうかしましたか……?」
「い、いやあ何でもないよう? それよりもリニス、プレシアさんはどう?」
「眠っていますよ。秋介に渡された薬? を飲んだらすぐに。とても良い寝顔だったので、楽しい夢でも見てるのではないでしょうか」
それで、とリニスは続ける。
「私に何か手伝う事はありますか? あるのなら言ってください。出来る限りの事はします」
「ああ、そうね……。アリシアの体ってうちに持ってこれる?」
「ええ。それは出来ますが、……それもフェイトから聞いたので?」
「いや、……復活って聞いたから、体は何処かに保存してあるんだろうなー、って。あ、服とかも忘れないでね」
「なるほど、分かりました。ではさっそく行ってきます」
そう言ってリニスは転移して行った。
……さて、あとはフェイトを呼ぶだけ、――?
かなり小さいが、フェイトの魔力を感じた気がした。
『……?』
アリシアは微妙みたいだね。
「セラフ、今の感じってフェイトだよね」
随分と遠くで魔力を感じたけどもしかして……。
『はい。マスターの予想通り、フェイトさんがジュエルシードを強制発動させました』
『ええっ!?』
「やっぱり……。モニターで映せる?」
『出来ますよ』
セラフがそう言うと、大型の空間モニターが現れた。
モニターには曇天の下、フェイトと人間姿のアルフが海から伸びる水柱と対峙しているのが映っていた。
地下室にて、
『おお! 何この大きいお風呂!? 湯気が凄くて良く見えない!』
『うわっ!? うぅ、滑った~落ちた~……』
『コレ、どうやってこの穴? にしまうんだろう? あ、そうだ……』
『うおお!? 真ん中に置いたら吸い込まれる――ッ!?』
『あ、危なかった~……。もう少しで一緒に吸い込まれる所だったよ……』
『ようし、これでオムライスが食べられる――!!』
幽霊少女はこんな感じで温泉に苦戦してた。