転生少年と月の目モドキ   作:琴介

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 ごはんは大勢で食べるのが美味しいよね。
 中でも鍋料理が一番美味しい気がする。


第八話:電話しながらの料理は危険

 視界が晴れると、玄関に立っていた。

 

「セラフ、カセットコンロの用意お願い」

『わかりました。先にリビングへ行きますね』

 

 首から下げていたセラフを外すと、フワフワとリビングへ飛んで行った。

 さて、二人はどうかね?

 

「え、ええっ!?」

「ちょ、アンタいきなり何のつもりだい!?」

 

 いまだに驚くテスタロッサとそのテスタロッサを庇うように立つアルフ。

 

「別に何もしないって。ただ単にうちに転移しただけ。それに――」

 

 会わせたい人がいる、と続けようとしたら、

 

「――秋介、おかえりなさい。セラフから聞きましたが、お友達を連れて来た、と、――フェイト? それにアルフ!?  どうして……」

 

 リビングからリニスが出て来た。

 

「リニス……!?」

「ホントに、リニスかい!?」

「おー、ただいまー。今日はすき焼きだけど、角麩かい忘れちゃったごめんね?」

「そ、そんな事より、どうして二人が、というかどうして秋介が二人と……!」

「いやね、金髪ちゃんが使った魔法がリニスの魔法に似てたから。もしかしたら、と思って」

「そ、うですか……。しかし」

「リニス――ッ!」

 

 テスタロッサが、リニスに飛びついた。

 

「……久しぶりですね、フェイト」

「うん、うんっ! 良かった、……リニスにまた会えて良かった……!」

「リニス、……アンタどうして此処に?」

「それは、その……」

 

 チラッ、とリニスは俺を見た。

 ……やっぱ動揺するよねー。

 そのつもりで連れて来たんですがね! これでリニスも少しは元気出るかな?

 

「じゃ、俺は晩ごはんの準備をするから、リニスは二人と部屋で話でもしてくればいいよ」

「……ありがとうございます、秋介。行きましょうか、フェイト、アルフ」

「うん」

「あ、ああ……」

 

 リニスは二人を連れて二階の部屋へと上がっていった。

 

「さーて、準備しますかね」

 

 

 ~上は何か楽しそう~

 

 

 リビングに入ると、セラフがすき焼き鍋をコンロにセットし終えていた。

 俺は〈王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)〉から買い物袋を取り出し、確認する。

 

「セラフさんや、食べる人数が二人増えるかもだけど食材足りるかな?」

『野菜類は大丈夫ですが、お肉がちょっと足りないかもですね。あのお二人、特にアルフさんの方はよく食べると思いますし』

「うーん。もう一つ鍋出して海鮮鍋でも作るか。確かカニとかエビとか残ってたよね」

『他にもホタテにカキ、鮭の切り身にイワシのつみれなど色々ありますね。お昼のおかずや、この前作った季節外れのおでんの具材が残ってて良かったですね』

「じゃ、セラフはもう一つ鍋の用意頼んだ。俺は具材を切るから」

『わかりました。土鍋で良いですよね』

「よろしくー。さて、すき焼きは割り下を作るとして、海鮮の方は出汁を取らないと、……お、昆布見っけ」

 

 簡単に昆布出汁で良いだろう。時間もないし、後は野菜を切らないと……。

 冷蔵庫を開けて食材を取り出す。

 

「豆腐~つみれ~白菜~、ねぎに椎茸、えのき~。……あ、いとこん忘れてた。お肉は豚鳥牛肉で、魚介は鮭とブリ、ホタテにカキ、カニにエビっと」

 

 これだけあれば足りるかな……? でもアルフが居るからなあ。

 少しは取っておこうかな、と思って白菜を切っていると、

 

『マスター、土鍋はこれで良いですか?』

 

 フヨフヨと土鍋と一緒にセラフが飛んできた。

 

「良いよ。ついでに昆布で出汁取っといて。コンロは確か、……あったあった。コレのセットもよろしく」

『はい、わかりました。……おや? マスター、なのはさんから電話です』

 

 セラフがテーブルに置いておいた携帯を浮かせて持って来た。

 

「え、マジで?」

『どうします、出ますか?』

「そうだね。何か急ぎの用事かもだし……」

 

 わかりました、とセラフは器用に携帯を開き、通話ボタンをどうやってか押した。

 ……今、どうやったの?

 勝手に通話のボタンがへこんだけど、……魔法か、魔法なのか? むう。分からん……。

 

『あ、良かった……。秋介くん、今大丈夫?』

「大丈夫だけど、どしたの? こんな時間に珍しい」

『うん。ちょっと秋介くんに聞きたい事があって……。秋介くんって、――金髪の女の子を見なかった?』

「へ?」

 

 今何て言った? 金髪の女の子? うわぁマジかー……。

 

「金髪、……アリサの事じゃないよね」

『うん。ごめんね、急に変な事聞いて』

「いや、別に良いけど……。金髪の女の子がどうした……?」

『あのね、外国の子みたいなんだけど、この前なのはの事助けてくれたんだ』

「助けたって、……一体何があったの!?」

 

 何か知らない内になのはが危険な目に会ってるんですが!?

 

『そんな危ない事じゃ無いよ? 森で探し物してたら転びそうになって、その時助けてもらったの』

「それなら良かったけど……。ちなみに、その子ってどんな見た目だった?」

『えっとね? 私たちと同い年くらいの子でね、黒い服を着て綺麗な瞳の子だったよ』

 

 あ、オレンジ色の大きな犬と一緒に居たよ、となのはが付け加えた。

 

「へ、へぇー……」

 

 どうしよう。間違いなくテスタロッサの事よね。オレンジ色の大きな犬はアルフ事だろうし……。

 と言うかなのは、もう出会ってたのか。しかも助けられたって、かなり予想外だわ。

 ……でも、いつの間に?

 最近はジュエルシードの暴走が無かったはずだけど……。

 

『それでしたら三日前、近くの神社で戦闘があったのでその時かと』

『あれそうなの? 全然気付かなかった……』

『そうでしょうね。あの日は珍しく、マスターが地下室に籠って何やら一人で特訓していましたので』

『なるほど。あの時かぁ……』

 

 偶には一人で頑張ってみようと思ってスキルの使い道とか考えてた日の事だ。

 ……出会う所見たかったなあ……。

 今、うちの二階にいるよ、って言ったらどんな反応するかしら?

 

『マスター……』

『いや、流石に言わないよ』

 

 ホントだよ? 言ったら今すぐ乗り込んできそうだもの。

 

『今何か、秋介くんが隠したように感じたの……!』

「――!?」

 

 包丁を握る右手が狂い、シュッ、と左手のすんでの所をかすめた。

 

「はっはっは。まっさかー……」

 

 危ねえ。もう少しで手を切る所だった。

 ……調味料以外での赤い白菜とか、食べる気がしないな。

 白菜の純白が染まる事は無かったから良いけど、なのはの前で迂闊な事は言えないね……。

 魔法少女になったからか? だからなのはの勘が鋭くなったのか?

 

「ただの気のせいだって。それよりも、なのははその子を探してるの?」

『あ、うん。助けてもらったお礼を言えなかったから、ちゃんとお礼を言いたくて。最近この街に来たみたいだったから、秋介くんなら知ってるかなって』

「何で俺が知ってると思ったのさ」

『……だって秋介くん。偶に知らないお姉さんとお出掛けしてるよね』

「……はい?」

『だ・か・ら! 秋介くんは! 偶に知らないお姉さんとお出掛けしてるから、何処かで見てるかなって、そう思たの!!』

 

 知らない、お姉さん……?

 ……誰だ、ソレ。

 

『マスター。なのはさんが見たのはリニスさんの事では無いでしょうか』

『――あっ!』

 

 そう言う事か。まさかリニスと出掛けたのが見られてるとは……。

 

「なのは。良いか、よく聞いて? その人は知らないお姉さんじゃないのよ!?」

『わたしもアリサちゃんもすずかちゃんも、見た事無いお姉さんだったよ……?』

 

 マジか!? アリサとすずかにも見られてたの!?

 最近はリニスと出かける事は無かったし多分、三人が見たのは結構前か……!

 

「それはですね、その……」

『秋介くん――?』

 

 やべぇ。声だけなのに威圧感が来る。

 

「……いつかちゃんと紹介します」

『むー……。まあ、それなら良いの』

「はい……」

 

 流石なのは。魔法少女になってさらに迫力が増したね!

 

「それでですね? 俺はなのはの言う金髪の子は見てないよ?」

『そっか……。もし見かけたら教えてね』

「あいよ。……所でさ、なのは。森で探し物って、何を探してたの?」

『え!? えーと。それは、その……』

 

 電話の向こうでなのはが何て答えようか困ってるようだ。

 ……ジュエルシードだって事は知ってるけどね!

 

『ごめんね。 今はお話しできないの……』

 

 なのはは、何処か寂しそうな声で言った。 

 

「……そっか。分かった、これ以上は聞かない。けど、一つ言わせて」

『なに?』

 

 無理するな、とは言わない。どうせ言っても聞かないだろうから。

 言うとすれば――。

 

「――もし何か悩むことがあったら、ちゃんと自分の思いをぶつけろよ?」

『――ッ』

 

 もちろん言葉でね。間違っても物理的になんてのはダメだよ?

 

『ふふ』

『何……』

『いえ。何でもないですよ? ふふ……』

『…………』

 

 変にカッコつけなくて良かった……。

 

『秋介くん、……何でわたしが悩んでるって分かったの?』

「何となく、初めて会った時と同じような感じがしたからさ。なのはの事だし、また一人で抱えて泣きそうだなー、って」

『……あの時の事は言わないでほしいの。なのはもあれからちゃんと成長してるんだよ』

「そうか? ま、それは横に置いておいて」

『む~、横に置かないでほしいの』

「はっはっは。良いじゃん別に。……ああそうだ。アリサとすずかの二人にも、心配させないように一言伝えておきなよ?」

 

 二人にも話せないなら、それを黙ってると喧嘩になるからね。

 

『うん、分かったよ。ありがとう、秋介くん。……あ、お母さんが呼んでるから切るね』

「あいあい、また明日」

『うん。また明日、学校でね』

 

 そう言って通話が切れた。

 ……なのはは大丈夫そうね。

 そう思い、切り終わった白菜やらをテーブルに運んでいると、

 

「秋介。今日の夕食なのですがフェイトとアルフも一緒に、……流石ですね」

 

 リニスがテスタロッサとアルフを連れて降りて来た。

 どことなく、さっきよりも明るい雰囲気になったリニスを見て思う。

 ……少しは元気が出たみたいで良かった。

 荒療治だったけど二人を連れて来たのは正解だったみたいね。

 

「ゆっくり話せた、リニス? 今ちょうど食材入れた所だから、もちっと待ってね。二人も食べるだろうと思って多めに用意したから」

「ありがとうございます。……ほら二人共、自己紹介を」

「うん……」

「わ、わかったよ」

 

 リニスが促すと、後ろに居た二人が前に出た。

 

「フェイト・テスタロッサです。リニスを助けてくれてありがとうございました」

「私はアルフ、フェイトの使い魔さ。リニスの事、本当にありがとうね」

 

 ペコリッ、と頭を下げるテスタロッサとアルフを見て、

 

「二人が迷惑をかけたようで、……本当にすみません。元家庭教師として謝ります」

 

 リニスも続いて頭を下げた。

 

「別に気にしなくて良いよ。頭をあげて、ね?」

「はい。では、私は二人の食器やらを出しますね。二人共、良い子で待っていてくださいね」

 

 と、リニスは食器棚へと歩いて行った。

 

「じゃ、改めまして俺は戸田・秋介、秋介で良いからね!」

『私はデバイスのムーンセル・オートマトンです。セラフと呼んでください!』

「うん。よろしく、秋介、セラフ。私もフェイトで良いよ。それで、これがデバイスのバルディッシュだよ」

『Nice to meet you』

「私もアルフで良いよ。よろしく頼むよ、秋介!」

「よろしくー。……じゃ、そろそろ食べようか!」

 

 良い感じに鍋も煮えてきたし、お腹減ったからね。リニスも食器の用意が出来たみたいだ。

 俺、リニス、アルフ、フェイトの順番で鍋を囲んで座り、

 

「それじゃ、いただきます!」

「いただきます」

「い、いただき、ます……?」

「――なんだい、コレは! こんな美味しいの、食べたことないよ……!」

 

 俺に続きリニスが手を合わせ、フェイトが見よう見まねで手を合わせる。アルフは海鮮鍋を食べ始めた。

 

「もう、アルフったら、……行儀が悪いよ」

「うぅ、……つい。ごめんよ」

「ああ、良いよ。気にしないで好きに食べて」

「本当かい!? じゃあお言葉に甘えて――!」

 

 アルフは勢いよくカニを食べ始めた。

 

「フェイトも食べなよ! 美味しいよ、この料理! なんて言うんだい!?」

「それは海鮮鍋、こっちがすき焼き、……ってフェイト、カニは殻を剥かなきゃ食えないよ」

「あう、……通りで硬いと思った」

「ほら貸してみ、……カニはこう剥くんだよ」

「あ、……」

 

 フェイトの手からカニを取って殻を剥いて渡す。

 

「ほい、お食べ」

「え、うん……。あむ、あむ、…………美味しいね!」

 

 えぇ、マジか。まさか身を受け取るんじゃなくて食べるとは……。

 

『流石マスター。ここであ~んとはやりますね!』

 

 いや、コレは俺も予想外ですよ?

 

「……!」

 

 ボッ、とフェイトは顔を赤くし俯いた。

 

「あー、ごめん。今のは俺が悪かった」

「……ううん。美味しかったから良いよ……?」

「そ、そう……」

 

 どうしよう、一気に気まずくなった。セラフが余計なこと言うから……。

 

「秋介! 私にもお願いします……!」

 

 突然リニスが詰め寄って来た。

 

「いやそれくらい自分で剥けるでしょ。……しかもソレ、カニじゃなくてエビだからね?」

「……くっ、フェイトが伏兵だったなんて……!」

 

 伏兵って何だよ。それに山猫姿ならまだしも、人の時のリニスにあ~んはちょっと気が引ける。

 

『――マスター! 鍋の中身が!』

「――ッ!?」

 

 セラフの声に振り向くと、そこには空っぽになった二つの鍋があった。

 

「いつの間に――ッ!」

 

 リニスも同じことを思ったのか、驚愕していた。

 ……確かに気にしないでって言ったけど、早すぎだ……。

 まさか四人分以上もあった鍋を一人で平らげるとは。二つとも綺麗に食べてくれたのは作った身からしては嬉しいけどさあ……。

 

「あー、美味しかったー……。リニスが羨ましくなってきたよ、毎日こんな美味しいのを食べてるなんて」

「アルフ……」

「え、あ!」

 

 ほらあ、フェイトも残念がってるし。お前、ちょっとは周りの事考えよ? ね?

 

「……はあ、まさかここまでとは。アルフの食い意地を見誤ったか」

『マスター、冷蔵庫から食材出しましょうか?』

「そうしよう。もしかしたらと思って取っておいて良かった……」

 

 セラフと冷蔵庫から食材を取り出し、鍋に入れて煮込みだす。

 

「――あ、セラフー、卵出すの忘れたー」

『もう、しょうがないですね』

 

 そう言ってセラフは冷蔵庫を開け、卵を持って来てくれた。

 ……アルフめ、卵まで使い切るとは。

 

「まったくアルフは……。秋介の料理が美味しいのは解りますが、少しは節度を守ってくださいね?」

「……ごめんよ。以後気を付ける」

「私よりフェイトに言ってください」

「ごめんよ、フェイト……」

「いいよ、気にしなくて。まだ残ってるみたいだから、一緒に食べよ?」

「フェイト~! アンタって子は……!」 

 

 いい子だねえ、とアルフはフェイトに抱き着くが、

 ……まだ食べるんかい!

 と心の中だけで突っ込んでおく。なにせ気まずい空気を壊してくれた一人だからね!

 

「はいはい。――んじゃあ、仕切り直しますか」

「そうですね。では改めて――」

「「「「いただきます!」」」」

 

 食事を再開し、今度はちゃんとフェイトも鍋を堪能出来、満足そうで良かった。

 

 

 ~食事終了~

 

 

 俺は食器類を洗い終え、一息ついた。

 

「――ふう。あー疲れた。セラフ、お風呂どう?」

『いつでも入れますよ。どうします? 先入りますか、それともリニスさんに先に入ってもらいますか?』

「その方が良いかもね。リニスもゆっくりできるだろうし」

 

 フェイトとアルフはどうするのかね、と考えていたら、

 

「秋介、ちょっとよろしいですか?」

 

 リニスに呼ばれた。

 

「なにー?」

「今日はもう遅いですし、フェイトとアルフには泊まってもらおうかと思うのですが……」

「あー、そうね。久しぶりの再会だろうし、明日の朝は気にしなくていいから今日は一緒に居てあげな。あとお風呂先に入って。俺はちょっと休んでからにするから」

「ありがとうございます。……ではお先に失礼しますね」

 

 と、リニスは二階へ上っていった。

 ……積もる話もあるだろうし、今夜は騒がしそうね。

 今日はリビングで寝るか。明日は学校だ。もしかしたら邪魔しちゃうかもだからね。

 お風呂に入ったあとすぐにソファーで寝たが、眠りに落ちる瞬間、

 

『――ふあ~。私も寝る~』

 

 という声が聞こえた気がした。 




『次回は私が登場するよ!』
「はいはい」
『流された!?』

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