転生少年と月の目モドキ   作:琴介

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何とか無印編に突入できたー!
でもどうしよう、次の話が長くなる予感……。


無印編
第六話:今日、幼馴染が魔法少女になったよ!


 ある日、目が覚めたら目の前にイザナミさんの顔があった。

 

「ふふふ、おはようございます」

「――はいっ!?」

 

 バッ、と起き上がって辺りを見ると、雲一つない黄色い空が広がっていた。

 ……ここって、転生前の……。

 

「目覚めの方はいかがですか?」

「え、あ、はい。バッチシ覚めましたよ……。でも、何でイザナミさんが」

「此度、貴方を呼んだのは、そろそろ原作が始まるのでその報告と、貴方の顔が見たかったからですよ?」

 

 ふふふ、と口元を隠して笑うイザナミさん。

 

「もうそんな時期ですか。一応、自分の身は自分で守れるようにもなったんで心配はないですねー」

 

 ……入学して三年、思ったより早かった。

 小学校に入学してから特訓に使う時間が減ったが、何とか魔力量がSランクになった。

 一部だけど特殊能力系の宝具も使えるようにもなった。

 スキルの方も順調にランクが上がったり、新しいスキルを収得したりで順調だ。

 

「それと、セラフをありがとうございます。お陰で色々助かってます」

「ふふふ、それは重畳です。あの子は私の思った以上に貴方の事を好いているようなので、これからもお願いしますね」

「もちろん。セラフは家族ですからね!」

 

 やっぱ感情豊か過ぎない? と今でも偶に思うが、それも含めてセラフは家族で相棒だ。

 

「ふふふ、あの子は幸せですね。……さて、目覚めの時間が近くなりましたから、そろそろ本題に入りますね」

「ああ、原作が始まるんですよね。もしかして何か問題でも?」

「いえ、問題は特にないです。ただ、貴方があの世界に存在する事でかなりの影響は出ています。

 ですから、貴方が持つ知識とは似て非なる未来が訪れます。一応の注意をお願いしますね」

「まあ、その辺は想定内なので大丈夫ですよ。いざと言うときは俺とセラフが何とかしますから」

 

 その事も含めて自分が選んだ事。だから、逃げるなんて選択肢を持ち合わせてない。楽はしたいけどね!

 

「……私の心配が過ぎていたようですね。今の貴方なら心配は無いでしょう。……では、時間のようですね」

「そうですか、なら……。――イザナミさん」

「はい、何でしょう?」

「色々と、ありがとうございました。お陰様で楽しく第二の人生を歩んでいます。俺は今、幸いです! だから、――本当に、ありがとうございました!!」

「……顔をあげて下さい。貴方が幸いなら、それで十分です。……それでは、お元気で」

「はい! イザナミさんもお元気で!」

 

 そう言って、俺の意識は途切れた。

 

 

 ~お目覚め~

 

 

『気分はどうですか、マスター?』

「バッチシ」

 

 原作が始まるらしいし体調には気を付けないとね!

 

「さ、朝ごはんを食べに行きましょうかねー」

 

 寝室を出て一階に降り、顔を洗ってからリビングへと向かった。

 中に入るとリニスが朝食を用意していたが、

 

「どしたの、リニス。元気ないみたいだけど……」

「え? あ、何でもないですよ。秋介の気のせいでは?」

「ならいいけどさ……」

 

 最近のリニスは、何か考え込む事が多くなった。

 

『絶対何か隠してるよね』

『間違いなく隠していますね。もしかしたら以前の主の事ではないでしょうか……』

『あるかもねぇ』

 

 以前の主ってことは、……プレシア・テスタロッサか。

 ……ジュエルシードの事ね。

 原作が始まるなら、すでにジュエルシードがこの街に散らばってるはず。

 

「ねえ、リニス。もしかして前の主の事で悩んでる?」

「何故、そう思うのですか……?」

 

 この反応、……やっぱり。

 

「だって、リニスがそこまで気にするような事はそれしかないでしょ。初めて会った時と同じ雰囲気だったし」

「……それは」

「話せる事だけで良いから話してよ。俺でよければ力になるよ?」

「秋介……。私は――」

『――マスター、近くに急激な魔力反応が出現しました!』

「マジか、何処で!?」

 

 ああもう、せっかくリニスが話してくれそうだったのに!

 

『庭です!』

「うそぉ!?」

 

 急いで庭に出ると、そこには青い光を放つ宝石のようなものが落ちていた。

 ……もしかしなくてもジュエルシードが!?

 

「どうしよう、セラフさん!?」

 

 やっべぇ、魔導師呼ばないと、……あ、ユーノ君いないかな!?

 

『落ち着きましょうよ。慌てすぎです。――セットアップして封印すればいいんですよ』

「あ、そっか。――セットアップ!」

 

 体が光に包まれ、バリアジャケットに変わった。

 

「とりあえず、封印!」

『封印魔法発動します。――封印!』

 

 すると光は収まり、後にはジュエルシードだけが落ちていた。

 

「まったく。何でこんな所にあんの、危ないなあ……。ん、リニス?」

 

 バリアジャケットを解除して、ジュエルシードを拾って家の中に入るとリニスがポカン、と口を開けていた。

 

「――はっ! すいません。急なことで呆気に取られてました……」

「わかるよその気持ち。俺だって信じらんないもん」

 

 だって家の庭でロストロギアが暴走しそうだったんだよ!? ビビるわ!

 あーあ、話の腰も折れちゃったし、さっさと朝ごはんを食べて学校に行こうかね。

 俺はリニスと朝食を食べた。

 

「じゃあ、俺は学校に行ってくる。帰ってきたら話しの続きをしたいんだけど、良い?」

「考えておきます、じゃダメですか……?」

「それで良いよ。……じゃ、行ってきます!」

「行ってらっしゃいませ、秋介……」

 

 

 ~なのはたちと合流~

 

 

 三年生になっても俺は、変わらずなのは、アリサ、すずかの三人と同じクラスになり、担任も一年の時と変わってない。ちなみに、二年生の時もなのはたちと担任は一緒だった。

 まあ、そんな事は横に置いておいて、今日の授業は〝将来の夢〟を考える事だった。

 

「――こうやって、色々な仕事があるわけだけど、皆は将来的にはどんな仕事に就きたい? 無理にとは言わないけど、今から考えておくと良いかもしれないわ、……と。時間なので授業はここまで。午後は体育だから皆遅れないようにねー」

 

 そう言って先生は教室を出て行った。

 

「秋介くん、お弁当食べに行こう?」

「あいよー」

 

 なのはに呼ばれ、アリサとすずかも一緒に屋上へ向かった。

 屋上に着くとなのは、アリサ、すずかはベンチに座って、俺はその前に胡坐をかいてお弁当を広げた。

 

「ねえ、秋介は将来どんな仕事がしたいの?」

「特に考えてないよ。今は色々とやりたい事あるし、考えるのはそれが全部終わってからかな。皆はどうするのよ」

「あたしはいっぱい勉強して、高校卒業したら家の手伝いをするつもりよ」

「私は機械系が好きだから、そういう関係の仕事に就きたいなって」

「わたしは、……どうなのかな」

「なのは、あんた翠屋継がないの?」

「それも良いけど、……やりたい事はある気もするんだけど、まだそれが何なのかハッキリしなくて……」

 

 よく分からないんだ、となのはは空を見上げた。

 ……コレ、見事なフラグだよねー。

 確か、今日の帰りにフェレット姿のユーノ君を見つけるんだっけ?

 

「私は運動も苦手だし、特技も無くて……」

「何言ってんのよ、このバカチンが! あんたはあたしより理数系の点数良いくせに特技が無いですって!? そんな事自分で言うんじゃないわよ――!」

「あう!?」

 

 ペチッ、とアリサが投げたカットレモンが、なのはのほっぺに張り付いた。

 

「そうだよ、なのはちゃんにしか出来ない事がきっとあるよ!」

「だね。なのはなら普通じゃない仕事とかに就きそうね」

「そ、そうかな……。そうだよね、ありがとう! あ、秋介くんその唐揚げちょうだい?」

「竜田揚げね、ほいよ。アリサとすずかも食べる?」

「食べるに決まってるじゃない!」

「いただきます!」

 

 こうしてお昼を食べ終え、午後の授業は睡魔と戦いながらもなんとか切り抜け下校時間になった。

 

「はーい、皆お疲れさま。着替えた子から帰っていいわよ」

 

 先生はそう言って職員室に歩いて行き、俺はさっさと教室に戻って着替えた。

 

「秋介くん、帰ろう?」

 

 しばらくして、着替えを終えて戻って来たなのはたちが教室に戻って来た。

 

「んー、今日は一人で――」

「にゃ~……」

「む……」

「じー……」

「――帰ろうと思ったけど、やっぱ大勢で帰った方が楽しいよね!」

「うん!」

「当り前よ!」

「そうだね!」

 

 別にいつも一緒に帰らなくても、と思う。他にも一緒に帰りたいと思ってる子居るよ、絶対。

 今では普通になったなのはたちとの登下校は、それはもう最初は疲れた。

 だって、いつからか聖祥小の三女神と呼ばれるようになっていた三人と、行きも帰りも一緒なわけでして。妬みやら嫉妬の視線が鬱陶しかった。今はもう慣れたけど。

 

『マスター。先ほどリニスさんから連絡がありまして、帰ってきたら話したい事があるそうです』

『あらホントに?』

 

 なのはたちには悪いけど、今日は先に帰らせてもらおう。

 

「あー、ごめん。やっぱ今日は先に帰えるよ。ちょっと今、リニスが調子悪いみたいでさ」

「え、リニスさん大丈夫なの!?」

「それなら仕方ないわね。あたしたちもお見舞いに行きたいけど、今日は塾だし……」

「そうだね……。よかったら良い獣医さん紹介しようか?」

「ちょっと気分が落ちてるだけみたいだから大丈夫だって。じゃお先に、また明日なー」

 

 そう言って俺は教室を後にした。

 

「うん、バイバイ!」

「また明日よ!」

「さよなら、秋介君!」

 

 

 ~ちょっと急いで帰宅中~

 

 

「つまり、最近リニスが変だったのはこのジュエルシードが原因だったのね」

「はい。私の、以前の主が探していたモノです。ここ最近、この街に妙な魔力反応が転移したのを感じたので見に行くと……」

「それが落ちてた、と」

 

 俺が今朝封印したジュエルシードとは別の、封印されたジュエルシードをリニスは持ってた。

 

「はい。此方のジュエルシードは私が封印したものですが、まさかうちの庭に落ちているとは思いませんでした」

「だよねー、俺も焦った。と言うか、リニスが気付いてたならセラフも気付いてたよね?」

『もちろん気付いていましたよ? ですが今朝の一件まで特に暴走する気配も無く、昨日は何者かが回収しようとしていたので言いませんでした』

 

 セラフよ、そんな大事な事を黙ってないでほしいな。

 ……あれ、もしかしてそれに気付けなかった俺って魔導師としてダメなんじゃ……?

 

『マスターが気付かないのも無理はないです。何せ、かなり小さな魔力反応でしたから』

「そうですね。私も偶然気が付いた感じなので、それを察知していたセラフが凄いのかと……」

「ああ、それは納得だね! 流石セラフさん、俺の自慢だ……!」

『もう、うれしい事言ってくれますね、マスター……!』

 

 イエーイ、とハイタッチした気分になった。

 

「じゃ、話を戻すけど、……何で言ってくれなかったのよ。言ってくれれば封印の協力するよ?」

『そうですね。みずくさいですよ、リニスさん』

「う、すみません……」

 

 シュンッ、とリニスの猫耳と尻尾が下がった。

 

「もしかして、前言ってた女の子と顔を合わせるかもしれないって思ったから?」

「……その通りです。以前の主はこの世界にジュエルシードがあることを知っているでしょう。ですが、その方は病を患っていて直接本人が来ることは無いはずです。来るとしたら――」

『リニスさんが教えていた女の子、ですね。しかし、何でリニスさんはジュエルシードを集めようと思ったのですか? 以前の主に送るつもりだったとか?』 

「いえ、管理局に引き渡そうと思っていました。あの方がジュエルシードを求めるのは、ある願いを叶える為なんです。その願いは、一歩間違えば他の次元世界を巻き込んだ大規模次元震を起こしかねません」

「その願いってのは、……話せそうにない?」

「……はい。すぐにとは言えませんが、近い内に必ず話します」

「ん、わかった。……よし。この話はここまで」

『では、これからどうします?』

「もちろん、ジュエルシードの回収。晩ごはん食べたら探しに行こうか」

「な、良いのですか!? 何が起きるか分からなくて、危険なのですよ!? それに、これは私が勝手に始めたことです。貴方たちは――」

「関係無い、とは言わないでね。リニスのそんな顔を見たら放っておけないって。それに、以前の主も教え子の女の子もリニスにとっては大切な家族なんでしょ? だったら俺にも手伝わせてよ」

「――!」

 

 リニスは驚愕して俺を見る。

 ……こういったのは俺のキャラじゃないよね……。

 と思うが、気にしてもしょうがない。今くらいはカッコつけても良いよね。

 

「俺にはさ、宝具っていう〝奇跡〟が使えるって知ってるよね」

「……ええ、初めて見た時は大変でしたが、……それが一体」 

「ほとんどが戦いに使うようなモノだけど、中には人を助けることができるモノもある。もしかしたら宝具の中にはリニスの言う〝以前の主の願い〟を叶えるモノだってあるかもしれない」

「――それは――!」

「リニスの言う〝以前の主の願い〟が何か、俺は知らない。だから好き勝手言ってる。

 だけどこれだけは覚えておいて。俺はリニスの事を大切な人だと思ってる。リニスだけじゃないね、なのはもアリサもすずかも大切な人だ。

 会ったことは無いけど、リニスの以前の主と教え子の女の子もそこに含まれるからね?」

 

 だからその人たちが、リニスが望むのなら、

 

「大切な人の為だったら俺は、どんな〝奇跡〟でも起こしてみせるよ」

「……あ、――ッ」

 

 ツウッ、とリニスの瞳から涙がこぼれた。

 ……えええっ!? 何で!?

 どうしよう!? リニスが、リニスが泣いちゃった!?

 

『セラフ、セラフ! まさか泣くとは思ってなかった!?』

『落ち着いてください、マスター。普段のマスターとのギャップが凄いです。カッコよかったですよ……!』

『今感想は求めてないよ!?』

 

 ガラでもない偉そうな事ペラペラと吐いて、しかも泣かすとか最悪だな、俺!?

 何が「大切な人の為だったら俺は、どんな〝奇跡〟でも起こしてみせるよ」だ。カッコつけすぎだわ!

 ……いかん。恥ずかしくなってきた……!

 

『今更何を恥ずかしがってるんですか。今までの恥ずかしいセリフを再生しましょうか?』

「お願いそれだけは堪忍して下さい、セラフさん! てか、前にも同じような事があった気がする!?」

『ちなみに、此方が今までの映像や写真です!』

 

 セラフがそう言うと、複数の空間モニターが現れ、生活のワンシーンが映し出されていた。

 

「アルバム作る手間が省けるね! って、言ってる場合か!!」

 

 ええい、セラフと漫才してる暇はない。急いでリニスを――。

 

「――プ、ははは……ッ!」

「リニス……?」

「フフッ。す、すいません、……。今の今までカッコよかったのに、急に、――プフッ!」

 

 涙を吹きながら、笑いを堪えるリニスの顔は何か吹っ切れたように見える。

 

『マスター、もしかしてワザとやりました?』

『セラフには俺がそんな風に見える?』

『少しだけ、でもほとんどは素ですよね。……マスターのそんな所、好きですよ』

『……ありがとう、セラフ』

 

 ホント、このデバイスは優秀すぎる。俺にはもったいないくらいだよ。

 

「それで、リニスはまだ反対する? 俺がジュエルシードを集めるのをさ」

 

 そう聞くと、リニスは横に頭を振り、

 

「いいえ。どうせ言っても聞かないでしょうから諦めます。……ですが、ジュエルシードを封印に行く際は声を掛けて下さい。私もご一緒しますから」

 

 絶対です、と念を押された。

 

「わかった。その代り、近い内にちゃんと話聞かせてね?」

「はい、必ずお話します」

「なら宜しい。さ、早く晩ごはんの準備しよう。んで、ちゃっちゃと食べて探しに行こう」

 

 あ、今夜は簡単に炒飯と餃子にしよう。

 

 

 ~パラパラ感にこだわったら遅くなった……~

 

 

 家を出る前に、なのはから携帯にメールが来ていたのに気付いた。

 

『なのはさんのメールには何と?』

 

 俺の頭に乗る山猫姿のリニスから念話が来た。

 

「塾に向かう途中に傷ついたフェレットを見つけて、病院に連れて行ったんだと」

『フェレット、……ですか』

「らしいよ。それで、なのはが飼い主見つかるまで預かるって」

 

 ……ついにユーノ君となのはが出会ったか。

 時間的にも、もうすぐユーノ君が念話を飛ばす頃合いかな。

 

「セラフ。一応、広域サーチしといてくれる? 別の場所でジュエルシードが暴走したら大変だから」

『もう行っていますよ。……今の所、目立った反応はありませんね』

 

 流石。万が一は起きないと思うけど、注意はしておかないとね。

 

「そっか。じゃ、そろそろ行きましょうかね。セラフ、セットアップ」

「了解です、マスター!」

 

 バリアジャケットに着替え、家を出た。

 ……とりあえず、アレ使っときますか。

 ――〈顔の無い王(ノーフェイス・メイキング)〉――。

 サッ、と緑のマントを纏う。

 

「あ、フード被るけどリニスは大丈夫?」

『構いませんよ。ですが、このマントは一体……?』

「これは〈顔の無い王〉って言って、……まあ、簡単に言えば周りから見えなくなるんだよ」

 

 確か、完全な透明化、背景との同化だったっけ? 詳しい事は忘れたから今度セラフさんに聞こう。

 

『なるほど……。そのような宝具もあるのですか』

 

 興味深いです、と頭の上でリニスが顎に手を置いたのが分かった。

 猫の手で器用な……、と思い、飛行魔法を使って浮き上がる。

 

「さて、と。ジュエルシードは何処かな? ……ん、今のは……」

 

 辺りを見回すと、視界の端に青い光が映った。

 

『マスター、近くの林に反応があります』

「やっぱり。……お、あれか!」

 

 急いで飛んでいくと、落ち葉の中に光るジュエルシードが落ちていた。

 

「セラフ、封印よろしく」

『はい。――封印完了しました』

「……よし。次は何処らへんよ、セラフさん?」

 

 封印したジュエルシードを拾い、とりあえずポケットにしまっておく。

 

『ここから十時の方向に反応がありますが、――どうやら其方よりも優先した方がいい反応が出現しましたね』

「……それって」

 

 まさか、と思った瞬間、少年の声で念話が聞こえた。

 

『――聞こえますか? 僕の声が聞こえる方、お願いです。力を貸してください!』

 

 直後、遠くの方で何か破壊されるような音が響いた。

 

『管理局の魔導師でしょうか? ……いえ、いくら何でも早すぎますね。では一体……?』

『おそらく昨日、ジュエルシードを回収しようとした人物じゃないでしょうか。魔力反応も一致しますし、マスターはどう思います?』

「んー、まあ、とりあえず行こう。その方が手っ取り早い」

 

 十中八九、ユーノ君だろうけどね。

 

『ですね。いざと言う時は私も加勢しますから』

「あいよ。セラフ、場所は?」

『近くの動物病院です』

「んじゃ、行きますかね!」

 

 飛び上がり、少しすると動物病院が見えて来たが、

 

「黒いマリモか……」

『どちらかと言うと埃では?』

『……どっちでもいいと思いますよ』

 

 その周りを黒い影っぽいのが飛んだり跳ねたしているのが見えた。

 

「……なんかデカくね?」

 

 俺が知ってるのより一回りは大きいんですが。これも俺が関わった影響なのかね……?

 

『そのようです。あの異相体、……反応からして三つのジュエルシードを取り込んだようですね』

『三つですか!? 秋介、急いで封印しないと被害が……!』

 

 ペシペシッ、と猫の手でリニスは催促してくる。

 

「ちょ、リニス待って、前が見えないぃい、――危ねえ!?」

 

 リニスの肉球が視界を遮り、電柱にぶつかりそうになった。

 

「……もう少しで頭から突っ込む所だった」

 

 リニスは抱えた方がいいかな、と思ったら急に、キィーン、と音が鳴った。

 

「今のって、結界……?」

 

 止まり、フードを取って周りを見ると人の気配が無かった。

 

『この辺り一帯を覆うほどの結界を張るとは、中々の魔導師のようですね』

『そんな事よりも急いでください、秋介!』

「落ち着いてリニスさん! 貴女の肉球が視界を邪魔するんですよ!? ……あ、なのはだ」

『誤魔化さないでくださ、――え、本当になのはさん!?』

 

 視界を遮る猫の手を捕まえ病院の方を見ると、そこにはなのはが居た。

 

『何故なのはさんがここに、……もしかして先程の念話を聞いて!?』

『そうでしょうね。なのはさんはジュエルシードがこの街に散らばった辺りから、元々秘めていた魔力資質が少なからず目覚めていたようですからね』

『流石、ですねセラフは。私は気づきませんでしたが、……もしかすると、秋介も知っていたので?』

「まあねー」

『貴方は変な所で鋭いですね。……これも才能、と言うものでしょうか? ……はあ』

 

 むう。何で最後ため息をつかれたのか分かんないけど、変な所は余計じゃね?

 

「……そんな事よりも、なのは見てみ? 頑張って埃マリモから逃げて、――えぇ!?」

 

 いつの間にか、フェレット姿のユーノ君を抱えたなのはが埃マリモに追われていた。

 

『マスター――ッ!!』

「わかってる……! セラフ、弓モード!」

『はい!』

 

 セラフは瞬時に白い弓へと形を変えた。

 周りに被害が出ないよう最小にまで込める魔力を抑え、

 

「――梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)――ッ!」

 

 光炎の矢を放った。

 ヒュンッ、と矢は真っ直ぐ飛んで行き、触手のようなものを伸ばす寸前の埃マリモを射抜いた。

 ……今度は目からビームver.を試してみようかな!

 ま、そんな事は置いておいて、何とか間に合ってよかった……。

 

『お見事です、マスター。ですが、すぐに再生しますよ』

 

 元のペンダント型に戻ったセラフの言う通り、埃マリモは徐々に元に戻っていくが……。

 

「……いや、時間稼ぎくらいがちょうどいい」

 

 どうやら主役の準備が整ったようだからね、離れて見学と行きましょうか。

 

『どういうことですか、秋介?』

「あそこ見てみ。せっかくの出番を取っちゃかわいそうでしょ?」

『――まさか……!』

 

 リニスを促した先、ユーノ君となのはの足元に桜色の魔法陣が展開されていた。

 

「――管理権限。新規使用者設定機能、フルオープン。これから僕のいう事を繰り返して!」

「は、はい!」

 

 なのはがユーノ君の言葉に頷き、唱えた。

 

「我、使命を受けし者なり」

「我、使命を受けし者なり……」

「契約のもと、その力を解き放て」

「契約のもと、その力を解き放て……」

「風は空に、星は天に」

「風は空に……、星は天に……」

「そして不屈の魂はこの胸に」

「そして不屈の魂はこの胸に!」

「「この手に魔法を!」」

 

 なのはが赤い宝石のようなものを持つ右手を掲げ、

 

「「――レイジングハート、セット、アップ!」」

 

 言った瞬間、桜色の光に包まれた。

 

『すごい魔力ですね。彼女にこれほどの資質が眠っていたとは……』

『……推定AAAランク。ふふ、これほどの魔力量とは、なのはさんは流石ですね、マスター?』

「まったくですね!」

 

 泣きたくなっちゃうね。自分で選んだ事だけど、俺は四年間特訓して最近やっとSランクなのに。

 なのに、なのはってば魔導師になってすぐAAAランクとか、……もう、流石主人公! としか思えないね!

 

「これなら手を貸さなくても何とかなりそうね」

『では、マスターはこのまま静観するという事ですか』

「そうね。今なのはに俺が魔導師だってバレると、色々とめんどくさいからねぇ」

 

 リニスの事も気付かれるかもだし、後々の事を考えると動き難くなる。ましてや管理局がいつ介入してくるかわからないので余計に、ね。

 

『先ほどの攻撃でばれてしまったのでは……?』

「大丈夫だよ、リニス。――そのために〈顔の無い王〉を纏ってるんだから。……お、なのはが出て来た」

 

 桜色の光が収まると、そこには白いバリアジャケットに身を包み、杖状のレイジングハートを持ったなのはが立っていた。

 

「え!? えええぇぇぇぇ!?」

「やっぱり君には凄い資質が――」

 

 自分の姿に驚くなのはと、感嘆するユーノ君を眺めながら思う。

 ……ついになのはが魔法少女に……!

 歴史的ワンシーンを目前に、ちょっとテンションが上がった。

 

「よし、これで心配はないかね。――なのは、頑張れよ……!」

 

 リニスを頭から降ろし、抱えて静観を決め込むことにした。

 見守る先、なのはがレイジングハートを盾に埃マリモの攻撃を防ぎながら右手を掲げ、

 

「こう、かな!?」

「――ッ!?」

 

 放たれた魔力砲に吹き飛ばされた。

 

「凄い……! あっ!」

 

 埃マリモは三体に分裂し、空中へと逃げた。

 

「――オォォォォッ!」

「待って!」

 

 なのは飛び上がり、埃マリモの攻撃をフラフラしながらも躱している。

 ……飛行魔法も簡単に使ってるよ……。

 

『マスターも飛行魔法を使いこなすのは早かったですよ?』

「え、そうなの?」

『ええ、本当です。秋介はイメージで魔法を使うタイプなので、飛行魔法などの集中する系の魔法は無意識の内にマルチタスクを使いこなして処理しているのでは?』

「……マルチタスクって、なに?」

『はい……!?』

 

 セラフとリニスに声を合わせて驚かれた。

 ……え、そんなに驚かれることなの……?

 名前は知ってるけど、実際の所よく知らないんだよね、アレ。

 

『まさか、この状況でマスターに驚かされるとは思いませんでしたね……』

『同感です、セラフ。私も、まさか秋介がマルチタスクを理解していないなんて……』

 

 はあ、と二人のため息が胸に刺さる。

 

「何かごめんなさい……」

『帰ったら話し合いましょうね、秋介』

 

 うう、リニスの呆れた声が耳に痛いです。

 

『……まあ、それは置いておいてなのはさんを見てください。そろそろ終わりそうですよ』

 

 セラフに言われ、なのはの方を見ると埃マリモが逃げ出していた。

 そんな埃マリモになのはがレイジングハートを向けると、レイジングハートが変形した。

 そして、

 

「シュート――ッ!!」

 

 桜色の砲撃が、三体の埃マリモを一掃した。

 

『ほほう。今の一撃で三つのジュエルシードを同時に封印とは、……中々やりますね』

『……なのはさんは、将来は優秀な魔導師になるでしょうね』

「ですねー……」

 

 なりますとも。エース・オブ・エースと呼ばれるまでにね。

 ……無事何とか終了、と。

 さーて、これから大変になりそうな感じがするね!

 

「よし。そろそろ帰りますか」

『そうですね。これ以上此処にとどまると、なのはさんに気付かれる可能性が万が一にもありますからね』

 

 あー、なのはの主人公補正ね。

 前もあったなー。人除けの結界を無視されたのはビックリしたよ。

 

『帰ったらマルチタスクについて教えますので、――覚悟してくださいね……?』

「はい……」

 

 リニスのマルチタスク講座は夜中まで続く気がする。明日も学校なのに……。




そうだ、分割しよう。
変な感じで終わるようになるかも。

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