転生したら猫かぶりのあの子になっていた   作:秀吉組

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以前、活動報告で書いてたシリアス風なのを書いてみると言っていたやつを投稿してみようと思い、思い切って出してみました。シリアスかどうか正直微妙かも(;・∀・)


木下姉弟の日常 支え

生きていく中の途中で急に上手くいかなくなったり、立ち止まってしまうこと

 

 

世に言う壁に突き当たる

 

 

それは誰にでも訪れるもの

 

 

それはこの少年にとっても例外ではなかった

 

 

彼の名は木下秀吉

 

 

彼はその生まれ持った天賦の才と惜しみ無い努力で一年生でありながら大きな舞台の主役を任せられる

 

 

彼は最初その事に大いに喜んだ

 

 

しかし、それは舞台である会場と観客の数を聞いて一変する

 

 

それは今まで秀吉が経験してきた舞台とは遥かに大きい舞台に桁が違う観客の中で行われるものだった

 

 

その事に秀吉は大きく戸惑い、そして恐怖に近いものが現れる

 

 

それらが影響したのか舞台の稽古中ミスを連発し先生からの注意が多くなった

 

 

次第に秀吉から笑顔が少なくなっていった

 

 

それは自宅にいるときでも同じで姉の優子はそんな弟を見て心配になって声をかけた

 

 

「最近、なんかあったの? 秀吉」

 

 

「え? な、なんでそう思うのじゃ? 姉上」

 

 

「なんか元気無さそうだし、辛そうな顔してるから」

 

 

そう言われて秀吉は自身の抱えてる悩みを話そうかと思った

 

 

だが今まで自分を支えてくれた姉にこれ以上迷惑をかけたくないと思い、話すのを思い止まった

 

 

「大丈夫じゃ♪ 高校に上がって初めて任せてもらった主役じゃ。毎日の稽古が楽しくて仕方がないくらいじゃ♪」

 

 

「……そう。それならいいんだけどね」

 

 

そうじゃ。姉上にこれ以上迷惑をかけてどうするのじゃ! このくらい男なら自分でなんとかせねばならんじゃろ

 

 

そう気合いを入れるものの現実は改善せず空回りが続き、ミスは続き……

 

 

そして主役の降板を検討される所まで来てしまっていた

 

 

その事に秀吉は大きくショックを受け、部活が終わった後、家に帰らず公園のブランコに座り込んでいた

 

 

ワシには演技の才能はなかったのじゃろうか? 今までのは全て運がよかっただけ?

 

 

あれだけ姉上に支えられたのにワシはそれに応えることができないのじゃろうか

 

 

その事が余りに悔しかったのか自然と目から涙が溢れ出ていた

 

 

そんな時だった。ポケットの中にしまっていた携帯が震えだしたのは

 

 

慌てて携帯の画面を見るとそこには姉上という表示

 

 

でも秀吉は出ることが出来なかった

 

 

今こんな状態でどうやって話せと言うのだろう

 

 

秀吉は電話を無視することにした

 

 

数回のコールがなり終わったかと思うとまたなり出したがそれでも秀吉は出なかった

 

 

数回続いた後それはピタリと止んだ。流石に諦めたかと思った時だった

 

 

「……なんで電話に出ないかな、あんたは」

 

 

その声に驚いて後ろを振り向くとそこには携帯と小さい買い物袋を持って少し息を荒くしている姉の姿があった

 

 

優子は何も言わず秀吉のもとまで近付くと隣の空いているブランコに力強く座った

 

 

それは私は怒っているんだぞと表現しているみたいだった

 

 

この後何を言われるとだろうとひやひやしていたが優子は何も喋らない

 

 

そんな沈黙が暫く続いた後、最初に動いたのは優子だった

 

 

持っていた買い物袋から何かを取り出すと黙って秀吉に渡した

 

 

渡されたのはまだ暖かさが残る缶コーヒーだった。飲むと冷え切った体だけでなく心まで温かくなっていく感じがした

 

 

飲んでしばらく無言のまま二人で夜空を見ていると優子が口を開いた

 

 

「……それで?何があったのよ? まさかここまで来てまだ言わない、てことは無いわよね?」

 

 

「……怖いのじゃ」

 

 

「怖い?」

 

 

「部活で次の演劇でワシは主演を任せられることになってのう」

 

 

「凄いじゃない! ……でもそれがどうして怖いの?」

 

 

「……次に行われる演劇の舞台会場は今までとは桁違いの大きさと観客数なのじゃ。その中でワシは上手く出来るのじゃろうかと」

 

 

「………」

 

 

「だから次の舞台、……上手くいく自信が全くしないのじゃ」

 

 

任された主演の責任の重さとプレッシャー

 

 

その二つが秀吉を大きく苦しめていることに優子は察した

 

 

「……なるほどね。 しっかし演劇バカのアンタが怖がることがあるなんてねえ~。 いや意外だわ」

 

 

「な、なんじゃと!?」

 

 

真剣に話していたのにまるで無関心にそう言われて怒る秀吉を横目に優子はクスッと顔を緩ませたがすぐにそれは消えると星星が輝く夜空に視線を戻した

 

 

「……もし」

 

 

「?」

 

 

「もし、私があんたの立場だったらきっと上手い具合に言い訳作って逃げたと思う。 私だったら……」

 

 

「……」

 

 

「でも演劇一直線のアンタは迷っても最後の最後にはきっとやるんでしょね、そういう奴だからアンタは。 だって……」

 

 

「だって?」

 

 

「幼い頃に二人で見たあの舞台で、私がまだ見つけていない自分にとっての一番星を今も変わらず持ち続けることが出来る強い奴だから」

 

 

秀吉は目頭が熱くなるのを感じるのと同時に自分の中に失くしていたなにか熱いモノが戻ってくるのを感じた

 

 

「……さてと」

 

 

優子はブランコから立ち上がると飲み終えた缶コーヒーをゴミ箱に投げ入れた

 

 

「私は買い物してから帰るけど大丈夫?……帰って来れそう?」

 

 

「ああ。もう少ししたら戻るのじゃ」

 

 

そう、といい歩き出した優子だったが二、三歩歩いたところで歩を止めた

 

 

「そうだ、秀吉」

 

 

「なんじゃ?」

 

 

「帰ったら小学生の時の卒業アルバムでも見てみたら? きっとあの頃のあんたが力を貸してくれるはずよ」

 

 

そういうと今度こそ優子は帰っていった

 

 

あの頃の自分? 一体どういう意味なのだろうかと思う秀吉は急いで家に戻ることにした

 

 

帰って自分の部屋に戻ると部屋の奥からアルバムを引っ張り出してきた

 

 

アルバムを開くとそこには幼い自分や同級生たちが写っており、ページを捲っているとあるページに目が留まる

 

 

それは卒業式に歌を披露している自分だった

 

 

あの頃の自分は周りからどう思われるのか怖がっていた。 しかしアルバムの中の自分は楽しそうに歌っていた

 

 

心から楽しそうに

 

 

それを見た秀吉は思い出した。あの頃の自分といまの自分の状況が同じだということに

 

 

そしてあの頃の自分はどうしてこんなにも笑顔になっていたかということにも……

 

 

「……全く。 姉上にはほんと敵わんな」

 

 

 

その後舞台はどうなったか

 

 

 

それはもちろん大成功で幕を下ろすことになる。 あの頃と同じ笑顔で……




原作ではあまり秀吉のこと書かれてなかったので多分裏ではこういう苦労をしていたのではないかと書いてみました。感想お持ちしてます

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