「げ!? 何でこういう時に限ってやってくるのよ。あの二人は」
なるべくなら来て欲しくなかった来客に私は焦っていた
「どうしたの? ユーコ。 そんなに慌てて」
クリスさんが明らかに様子がおかしい私の視線の先を見ると理由を察したようで
「ああ。 あの子達文月学園の生徒さんだね。 ……もしかして友達?」
……コクり
「あ~なるほどね。 アルバイト初日を知り合いに見られたくなかったと。 大丈夫! そんな時の為にウチのお店には変装出来るシステムがあるんだから」
「そうでした! あ、でも私そういうのやったことなくて……」
「・・・最初のうちは私達がやりますので。慣れてくれば木下さん一人でもできるようになるので安心してください」
雅さんはそう言うとメイク室にある沢山あるカツラの中からロングヘアーのカツラを取り出した
「ショートヘアーの木下さんには逆にロングでどうでしょうか? クリス」
「そうだね。その上にリボンを二つ左右に付けてツインテールなんてどうかな?」
あれよあれよと二人にメイクなどされしばらくして二人の手が止まった時ふと鏡をみるとそこには
「……誰?(驚」
見知らぬもう一人の自分が映っていた
「凄いでしょ♫ いつもとは違う自分になった感想は?」
「えーと、なんというか凄いです」
私だって女の子なんだから化粧とか少しはするけどなんかそれとは次元が違っていた
なんというか他人になった気分だ
「これならお友達にバレずに済みそうですか?」
「あ、はい。……たぶん」
「木下さん?」
「あ!? いや、なんでもないです。アハハ……」
一人はバレずに済みそうなのだが問題なのはもう一人のほう
普段はぼーっとしてるのにここぞという時の勘の良さは凄いのよね。 代表は……
「それではあのお客様達のオーダー、お願いできますか?」
「は、はい。 行って来ます……」
うう、やっぱり行かないとダメよね。 もう! 女は度胸だ!!
私は覚悟を決めると二人が座っている席に向かった
店長さん達 side
「ユーコやっぱり緊張してるんだね。 足元ガタガタしながら行っちゃったよ」
「それは仕方ないと思いますよ。 初めてのバイトだと言ってましたからね」
「何だか初々しいですね~」
三人は初めてのバイトで緊張気味の後輩の後ろ姿をこっそり観察していた
「まあ何かあればいつでもサポート出来るようにしておきましょうか、クリス」
「そうだね! せっかく出来た可愛い後輩のためにガンバルよ!」
そんな時だった
♫~♫~♫~ お帰りなさいませ!お嬢様!
「頼みましたよ二人とも。 ……あら?」
他の店員が新たに来店してきたお客の対応を様子見していると何かを発見する店長
「どうかしたんですか店長?」
「何かあったの?」
「いえ、そうじゃないんですけど。
木下さん、下に妹さんでもいるのかしら?」
店長さん達side end
「ご、ご注文はお決まりでしょうか? お、お嬢様方」
じーーーーーと視線が突き刺さる。 前から、そして後ろからも……
じーーーーーー
どうしてこうなった!?
それは今から数分前のこと。 いざ覚悟を決め友人達が座っている席に向かう途中のことだった
店の入口に付いているベルが来店を知らせる音を鳴らせ、他の店員さん達が出迎えたのだが
「わ、わしは女ではないのじゃ!! 男じゃ!!」
ものすご~く聞き覚えのある声が聞こえたので思わず振り向くとそこにはやはりうちの弟がいる訳で
「・・・ん?」
「あ・・・」
しかもその上目が合っちゃうし。それ以降ずーとこっちを監視するかのように見てるし……
こっちはこっちで何か感じ取る所でもあったのかオーダー聞きに来たときからずっと代表こっち見てるし
バイト初日にいきなり一人で接客やるわ、友達来るわ、身内来るわとここまで有り得ない偶然が重なるともはやこれはこうなる運命だったと思わず……に……
運命?……まさか……
運命というフレーズに優子の頭の中にある人物が浮かび上がってきた
それは自分がこの世界に転生することになった原因のあの天使
あの紙袋の仕業か!?
同時刻 とある場所にて
「うわ………またやっちゃったよ。で、でもこれは本気の失敗だから価値のある失敗。決して無駄じゃない、うん」
優子の予想が的中してたりする
「うわ~どれも美味しそうで迷っちゃうね。 代表はどれにするか決まった?」
「………私もまだ迷ってる」じーーーー
愛子はメニューを見ながら迷っているが代表はメニューそっちのけでこっち見てるし……
秀吉の方は先ほど注文したのかコーヒーを飲みながらこっちを凝視してるし……
視線突き刺さりまくりでもう逃げたい!と思った時だった
「お母さんお母さん!! 早く! 早く! ケーキ♫ ケーキ♫」
「はいはい。 そんなに慌てないの。 足元気を付けないと転ぶわよ?」
小さい女の子とお母さんの親子が来店した
女の子はケーキがすごく楽しみなのか母親に早く席に着こうと足を速めるが母親の忠告通り転けてしまう
「う、ううう、うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「だから言ったじゃない。 いい子だから泣き止んで、ね?」
店の中で大泣きしてしまった女の子にお母さんは泣き止むようになだめようとするが泣き止まずおろおろしていた
それを店の奥で見ていた雅達は収拾をつけるため出ようとするが二人より先に動いた者がいた
「大丈夫だよ。 もう痛くないよ」
優子だった。優子はやさしく声を掛けると女の子に目線を合わせるように座り込んだ
「泣かないで。 泣いてばかりだとせっかくのケーキも美味しく食べてもらえないってケーキ屋さんが泣いちゃうの」
女の子の涙をハンカチで拭いながら女の子の目を見ながら話しかけた
「…ケーキやさん、ないちゃうの?」
「うん。ケーキ屋さんはね食べてくれるみんなに喜んでほしいと心を込めて作ってるの。 だからほら笑って笑って♫ 女の子は笑顔が一番!」
ね?と笑顔でそう言うと女の子もつられて泣き顔から笑顔になった
「……うん!」
その後その子の母親からお礼を言われ恥ずかしくなってその場を離れるとオーダーを取っている途中だったことを思い出す
「す、すみません!! お客様!! あの……オーダーはお決まりでしょうか?」
優子は慌てて愛子達がいる席に戻り恐る恐る聞いた
「それじゃあ私はこのモンブランとコーヒーのセットで。 代表は?」
「……私はチーズケーキと紅茶のセットでいい」
そうオーダーを取っているとき優子はこちらに向かっていた視線が変わっていたことに気が付いた
先程まであんなにじっとこちらを見ていた翔子の目が少し優しい目に変わっていた
一方秀吉のほうは言うとこっちも優しい感じにはなっているのだがやれやれと思っているようにも感じられる物だった
その後は注文した品を持って行っても問い詰めれれる事もなく淡々と時間が過ぎていき代表達と秀吉は会計を済ませ店を出ていった
色々ドタバタが起きたが何とかバイト初日が終了した
「あ、茜さん。 お疲れ様でした」
「ああ、木下さん。お疲れ様でした。 まだ慣れなくて色々大変だと思いますが頑張って下さいね」
「は、はい! ありがとうございます!」
従業員用の出口から出ると周りはすっかり暗くなっていた
「やば!? 早く帰って晩御飯作らないと!」
「ただいま!!」
「お帰りなのじゃ、姉上」
「ごめん、帰るの遅くなっちゃって。 秀吉晩御飯どうしたの?」
「それなら今日は外で済ませてきたから問題ないのじゃ」
「そっか~。なら良かった」
「ところで姉上」
「ん?」
「次のシフトはいつじゃ?」
……え?