「しかし雄二君遅いですね」
最後の坂本君がなかなか来ないまま時間だけが過ぎていた
「そうだね、このまま待ってても時間が過ぎるだけだし先に食べてようよ?そのうち雄二も来るだろうし」
「…そうですね。坂本君には悪いですけど始めましょうか」
そう言い姫路さんが重箱を開けるとそこには見るからに美味しそうなおかず達が姿を現した
『おおおお!!!』
その見栄えにその場にいた一同は声を揃えて驚いていた
「凄い美味しそうだね!雄二には悪いけどさっそく…」
「……(ヒョイ)」
「あ!ムッツリーニ!ずるいよ!」
「私も頂いちゃいますね~♪(ヒョイ)」
「もう!永姫ちゃん!お行儀よく…」
『(パク!) バタン!!ガクガクガクガクガクガク!!!!』
「ない…よ?……」
素早い動きでつまみ食いをした土屋君とその混乱に乗じて同じくつまみ食いした永姫ちゃんの二人が同時に口に入れた瞬間二人共倒れガクガクガクと震え出していた
「………」
その光景を前に残った四人は顔を見合わせていた
「土屋君!?永姫ちゃん!?」
驚きの余り持っていた箸を落とす姫路さん
すると倒れた土屋君がムクリと立ち上がると姫路さんに向かってグッと親指を立てる。美味しかったと伝えたいのだろうか?しかし伝えようにも足がガクガクと真実を語ってしまっている
一方永姫ちゃんはというとズルズルを身体を引きずりながら座っている私の膝の上まで頭を持ってきて顔を私の膝の上に預けると姫路さんのほうに向けるとニコッと笑いながら土屋君と同じくグッと親指をたてると
「とっても美味しかったですよ姫路先輩♪あ、でも私ちょット…キノウ…オソクマデ…オキテ…イタノデ…チョットネマ…スネ…」
途中言語がおかしくなりながらもそう伝え墜ちた永姫ちゃん。それはもはや芸人魂すら感じるものだった
「そうだったんですか、早く寝ないとだめですよ?でもお二人のお口に合って良かったです♪」
二人の言いたいことを良いように解釈したのか喜ぶ姫路さん
「良かったらどんどん食べてくださいね」
そう笑顔でお弁当を勧めてくる姫路さんを残された四人の目にはきっと死神に見えたに違いない
(…ねえ?あれどう思う?)
(ウチの目にはとても美味しそうに食べた人間とは思えないわ…)
(うむ、あれは絶対演技ではなかろうに。…うん?どうしたのじゃ?姉上)
(…………)
しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!
そうだった!!姫路さん+お弁当=デスイベントだった!!
にもかかわらずこうして自分からこんな恐ろしいイベントに参加してしまうとは!!何忘れていたんだ私は!!
ステンバーイ、ステンバーイ、落ち着け私……。起きてしまったものは仕方ない、あとはこれ以上の被害者を出さないようにしなければ…
「おう、待たせたな。へーこりゃ結構旨そうじゃないか!どれどれ?」
パクッ!バタン!!ガクガクガクガク!!!!!
って!そう思っているうちにはやくもまた新たな犠牲者出てるし!
遅れてやってきて何も知らずにお弁当を食べ倒れた坂本君を見て四人は確信する
こいつは…凶器だ…と
「だ、大丈夫ですか!?坂本君!」
「だ、大丈夫だ。ちょっと…足を…くじいて…な?」
姫路さんを傷つけまいと懸命に嘘を付く坂本君。しかし今の坂本君の状態を見れば明らかにそれは嘘だと分かりそうなのだが
「な、なんだそうだったんですか♪良かった♪皆さんも遠慮せずどうぞ♪」
それに気が付かず凶器と化した弁当を勧める天使の笑顔を持った死神が迫る
(ど、どうするのよ!アキ!)
(ど、どうするって言っても断っちゃったら姫路さん傷つくかも知れないし)
(あ、姉上!何かいい手はないかの?)
(…手なら一つだけならあるけど任せてもらえる?)
(本当!?お願い!木下さん!)
坂本君のあの姿を見ても嘘を信じてしまう所を見るとちょっとじゃなくかなり、そうド天然に入るのだろうこの子は。このまま放っておけば彼女はこの凶器と化した弁当を何の疑問も持たず作り続けるだろう
そうなればまたこうして何人もの犠牲者が出るのは火をみるよりも明らかだ
なら打てる手は一つしかない。…やれやれ優等生も辛いわね
「…姫路さん、一つ質問するんだけどこのお弁当にある肉じゃが隠し味に何か入れてる?」
「あ、はい♪隠し味に濃硫酸を入れて甘味を出しているんです♪あと色んな所にも入ってますよ」
予想を斜め逝く発言だったのだろう吉井君達は暫し呆然としていた
もしかしたら調味料を色々入れすぎてああなったのかもと原作とは違うことを祈ったがどうやら原作通りらしい
「そう…。姫路さん悪いんだけどそのお弁当頂くわけにはいかないの」
「え?どうしてですか?」
「…分かりやすくはっきり言うわね。そのお弁当
とても食えた物じゃないと言ってるの」
私がそう言うと辺りは何もなかったかのように静まりかえっていた