ガールズ&ユンゲ   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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ゼクス

 

「……根性ある奴だなぁ」

 

「あ、あははは……」

 

 もじゃもじゃ頭を掻きながら照れている秋山に思わず嘆息する。

 無力化してひっとらえようとしたら、侵入者は大洗の秋山優花里であった。はっ倒したが、しかし思いもよらぬ相手で少し困り、思わず割り当てられた自分の部屋へと引き連れてしまった。まぁあのまま放置してたら彼女がどんな目に合うかも解らないし。ルールとか大丈夫なのだろうか。

 しかして変に目立つのが嫌でフードを目深にかぶり、相手の顔を確認するよりも先に手足の挙動だけで動きを判断して急襲したのが間違いだった。

 いやとうか単純に舐めてかかったのがいけなかった。

 体のメンテナンスはしていたが、それでも勘が鈍っているらしい。

 いや、それを差し引いても、

 

「……お前、強いのな」

 

「これでも装填主ですから! 体は鍛えてます! あとムックとかで格闘術覚えたであります! テレビとかも録画してよく見てました!」

 

 それであれなのか。

 襲撃に反応されて軽く驚いてそのまま拳を受けた瞬間後ろに飛び退いたが、想定以上に彼女の腕力が強かったから十メートル以上も吹き飛んでしまった。その分反動で加速できたわけではありが、地味に末恐ろしい。

 

「しかしどうして日向殿はサンダースに? 黒森峰の生徒でしたよね?」

 

「ちょっと思う所があってな。知り合いのいる学校に旅行中だ」

 

「ほえー……自由でありますな!」

 

「……」

 

 自由。

 そう言われてもピンと来ない。寧ろ自分からすればそんな言葉ほど遠いとすら思える。

 

「ていうか日向殿お強いんですね、私びっくりしました!」

 

「……いや、俺も吃驚だよ」

 

「歩兵道やられてたんですか!?」

 

「ん、いや……昔訓練はしていたかな」

 

 歩兵道。

 神風丸が言っていたが、孤児院では日々の生活の中にそれが取り組まれていた。

 女子の嗜み、伝統武芸としての戦車道。

 それに対する男子の嗜み、伝統武芸が歩兵道だ。

 戦車道は女子が戦車に乗るが、歩兵道は当然違う。裸一貫、その身一つでぶつかり合うことになる。基本的なルールは戦車道と変わりはない。歩兵道試合では戦車内部のコーティングにも使われる特殊なカーボンと同じ素材でできたボディスーツやプロテクターを装備し、模擬弾を使えば実銃の使用も可能となる。刀剣類に至っては真剣すら認められているのだ。

 ただそのせいか戦車道よりも競技者は年々少なくなっていて、規模も縮小している。

 実際怪我人も多く、古い時代では死傷者も多く出たらしい。戦車道のように銃弾一つ一つまでに判定チップを仕込めるわけではないので安全面ではあまり期待できないのだ。

 

「歩兵道……いいですねぇ。資料はあまり多くないですけど、偶に見てますよ。戦車道との合同試合など非常に見ごたえがあるものですし!」

 

「何年前のだよそれ」

 

 戦車道と歩兵道の混合試合。

 それもないわけではないが、しかしもうかなり昔の話だ。一番最近でも入手は難しいものだろうに。

 当然ながら戦車の中に歩兵が混じると安全の保障などというものは捨てられている。戦車道では威力の低い機銃でも歩兵道では即撃破レベルなのだから、仮に砲弾に命中したり、巻き込まれればどうなるかなど言うまでもないだろう。

 近年では特殊カーボン装備により昔に比べたらマシではあるだろうが、それでも怪我の危険は大きい。

 

「ここ数年で公式戦車道歩兵道混合戦は行われていないはずだろう」

 

「いえ、そうでもないらしいですよ? 社会人チームや大学選抜では模擬試合では極々稀に行われているそうです。なんでも、二年後のプロリーグではエキシビションとかでやることを期待されているようで」

 

「へぇ……詳しいな」

 

 普通に知らなかった。

 黒森峰では西住流には長く見ていたが、戦車道そのものには目を背けていたのは否めない。歩兵道も学校になかったから情報を集めるということはあまりしなかった。

 世間知らずな我が身を恥じ入るばかりだ。

 

「ただ……私たち高校生がやる機会はないと思いますけどね。あはは」

 

「やられても困るだろう。下手に怪我人が出てもな…………ぁ」

 

 というか普通に話しこんでしまっている。

 一応ヒロに借りを返そうと思って、久しぶりに出張ったのだが思わず匿ってしまった。サンダースに置いてもらってる身としては一応引き渡したほうがいいのだろうが、

 

「…………みほの指示か?」

 

「まさか! これは独断専行であります!」

 

 ()()()()と勢いよく首を振り、

 

「西住殿はサンダース勝利に向けて心血を注いでるであります! ……ですが、いかに西住殿でも相手の戦力が解らないと作戦の立てようもなく……なので不肖秋山優花里侵入したのであります!」

 

「……大した根性だ」

 

「……まぁ結果はお察しですけども」

 

「………………はぁ」

 

 息を吐き、スマートフォンを取りだす。

 

「!」

 

 秋山が体を固めたが、構わずにダイヤルし、

 

「……ヒロか。俺だ」

 

『Oh,ナオ! 大丈夫かい? 中々帰ってこないから心配したよ! Spyはどうなったかな?』

 

「あー、それなんだが――すまん、取り逃がしたわ」

 

『……Opus』

 

「……!」

 

 秋山の顔が一気に輝く。

 それを横目で見つつ、

 

「すまんな、借りを返すとか言って。なまってたみたいだ。処分は甘んじて受け入れよう」

 

『HAHAHA! 何を言っているんだい! 君は僕らをhelpしてくれただけだろう? 処分なんかあるわけないじゃないか!』

 

「寛大痛み入る」

 

『ま、後は任せよう。Good ruck!』

 

 通話が切れる。

 

「……気づいているか、まぁそうだよな」

 

 気配りができる上に、察しのいいやつだ。

 借りが積もるばかりで、どうやって恩を返せばいいのやら。

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「その、なんで見逃してくれたのでありますか?」

 

「……別に大した理由はない」

 

 そう、大した理由ではないけど、

 

「――みほが世話になってるんだろう」

 

「と、とんでもない!」

 

 とんでもないらしかった。

 

「て、ていうかその、西住殿にはいつもお世話になりっぱなしというか……っ! 私もう西住殿がいないと生きていけないというか……! もう正直一生ついていく覚悟ができているというか……!」

 

「お、おう」

 

 なんだか随分な慕われ方をしているらしい。あまりカリスマのイメージはなかったから結構以外である。子供の頃から俺やまほさんの後ろを付いていくイメージが強かったのだから。

 

「……というかだな」

 

「はい?」

 

「みほは……」

 

 一つ間を置き、

 

「みほは大洗で上手くやれてるか?」

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……」

 

「……」

 

 問いかけに優花里は少し首を傾げた。

 正直な所日向直がこんなことを言うのは意外だったのだ。 

 そもそも目の前のこの少年と敬愛する西住みほとの関係がいまいち解らない。

 ……恋人関係とか言われた自分パンツァーファウストぶっぱしそうでしたが……。

 そういう解りやすい関係でもないらしい。というのもみほは彼に関することは一切口を閉じている。或は問い詰めれば聞きだせるのかもしれないけれど誰もそんなことをしない。何度かあの喫茶店のことを知らないうさぎさんチームとかが恋バナ振ろうとするがそこは沙織が上手く受け流している。

 ……婚活戦士ゼクシィ武部とか言われてますが……

 そのあたりの空気の読み方が彼女は本当にすごい。あれで彼氏がいないのは本当に不思議である。

 いやそうではなくて。

 日向直。

 気難しそうな人だと、優花里は目の前の少年のことを思っていた。

 そもそも表情に感情が出ていないから容姿以上に恐怖を与えるし、決して愛想がいいとは言えない。喫茶店で少しだけ喋った時は正直交流しにくいと思ったし、実際彼はあのやたら濃い面子の中では聞き手に徹して会話はほとんどなかったわけだし。 

 ただ、今は少しだけ印象が変わる。

 ……この人は、本当に西住殿のことを心配しているのでありますな。

 素直にそう感じる。みほが自分に世話になっているから――優花里的にはとんでもない話だが――なんて理由で優花里を匿ってくれた。それも自分に不利益を被るかもしれないのに。

 そして今、直から発せられたのはみほを気遣う言葉だった。

 どういう関係なのかは解らない。

 でも彼がみほのことを心配しているのは確かであると確信する。

 察するに少しだけ不器用なのかなと考える。いや、自分が言えたことではないだろうけど。

 

「……はい」

 

 小さく、けれど確かに頷く。

 

「西住殿は大洗で上手く……いえ、上手くというのがどのことを指してるかはともかくとして、楽しんでいると思います。少なくとも武部殿、五十鈴殿、冷泉殿、他の戦車道の仲間たち、それに僭越ながら自分、秋山優花里も西住殿のことが大好きであります!」

 

 そして、

 

「西住殿もきっとそうであると私は信じています。……いえ、勿論自分が西住殿に好かれているなんておこがましいにも程がありますが」

 

 それでも、

 

「きっと西住殿は大洗の生活を好んでいるはずであります」

 

「……そうか」

 

 直が小さく頷く。

 表情は読み取れないが、しかし優花里には少しだけほっとしたようにも見えた。

 

「……秋山」

 

「は、はい」

 

「――みほを頼む」

 

「――ふぇ!?」

 

「……いや、俺がこんなことを頼むというのはおかしな話だが、まぁ言わせてくれ。あれは戦車に乗らないと抜けてるからな。正直俺もまほさんもいない学校生活っていうのは大分心配だったんだが……秋山のような友達がいるなら心配なさそうだ」

 

「――西住殿の友達……うへへへ……!」

 

「…………」

 

「こ、こほん――任せてください日向殿!」

 

「……まぁ男に二言はない。とりあえず三十分くらいはここで大人しくしてろ。コンビニ艦で帰るにしても少し落ち着いてからの方がいいだろうさ。精々持ち帰ってアイツを助けてやってくれ」

 

「はい! 任せてくださいであります!」

 

 




日向直=???
不器用。

秋山殿
ひゃっほう最高だぜ!

歩兵道
特殊なカーボンスーツ着るから死ににくいよ!
特殊なカーボンすげぇ!

歩兵道×戦車道
基本的に、原則、よっぽどのことがない限り行われない。
いやほんと、基本ないよ。

ちょい短めなのは本当は前回くっ付けるはずだったんじゃ。
というわけでサンダースはここら辺で終了。

次回、アンツィオ。
ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!

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