ガールズ&ユンゲ   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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ドライ

 

「…………」

 

「…………」

 

 思いもよらなかった再会に、六人掛けのはずのテーブルを二人だけで対面しながら一緒に黙ってしまう。

 西住みほ。

 俺、日向直の幼馴染。まほさんは俺に取って年上だがみほは同い年。

 前に最後に会ったのはいつのことだったかと、少し考える。

 去年の全国大会、みほは一年生ながらも黒森峰の副隊長として決勝に臨み、フラッグ車まで任された。その抜擢はまほによるもので当然姉妹の贔屓によるものではない。当時みほとまほさんはまさしく以心伝心というやつで少し視線を交わしただけで互いが何を考えているのか全て理解しあう、そんな間柄だった。

 少しだけ羨ましいと、思ったことがある。

 けれど彼女はその決勝において――自らの役目を放棄した。

 過程には様々なものがあり、彼女の気持ちも解らなくもなかったが――それでも彼女の行いは戦車道の家元である西住流では受け入れられなかった。

 結局の所、彼女は黒森峰を離れて、茨木の大洗、その学園艦へと転校していった。戦車道そのものから離れようとして、戦車道のない学園に転校したはずなのだがどういうわけだか大洗でも戦車道は復活していたらしい。

 しかし何故戦車道を再開したのだろうか。

 

「……」

 

「……」

 

 ……が、聞きだしにくい。

 二年前自分がやったことと、転校に際して碌なことも言えなくて、何を話していいのか解らない。

 向こうもそれは同じようで注文された飲み物へと視線を落とすだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかみぽりんに男がいたなんて……! というかこんなに男友達がいたなんて! あ、ども武部沙織でーす、得意料理は肉じゃがでーす、彼氏募集中でーす!」

 

「おいなんだこの婚活戦士」

 

「ていうか武部殿、この人聖グロ戦で戦闘区域生身で突入してきてダージリン殿に野次飛ばしてた聖グロの蛮族モンスターのジャバウォック殿ですよ」

 

「――――ひぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!」

 

「うるさいぞ沙織」

 

「ダージリンさんの格言に一々突っ込み入れてた殿方……」

 

「ジャバウォック、噂広がりすぎてない? いいのそれで?」

 

「俺はダー様涙目にさせられたら満足なんだよ……!」

 

「というかなんだ直のあの様子は! 日本男児ならばちゃんとエスコートをせねば!」

 

「神風丸のJapanese Boy imageはちょっとMistakeじゃないかい?」

 

「離れている時間は関係に大きな影響を与える、良い悪いは別としてね」

 

「カチューシャ様ぺろぺろ」

 

「あ、西住殿が口を開くようですぞ!」

 

「ここからじゃ聞こえないよ……ゆかりん、頼んだ!」

 

「はい、任せてください!」

 

「あ、俺らは読唇術できるからお構いなく」

 

「なにそれすごい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……久しぶりだね、直君」

 

「……あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

「あぁって! アホかアイツは! 無駄に固いんだから―――くそうける!」

 

「この人ほんと怖い!」

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしてここに? 直君は戦車道やってなかったよね? ……おねーちゃんの付き添い?」

 

「いや、そういうわけじゃない」

 

「あっ、そうなの?」

 

 ()()っと、本人も無自覚だろう、そんなレベルで小さなため息を吐く。

 それに対して自分も思わず息を吐き、

 

「……あそこで聞き見立ててる馬鹿共な。孤児院の馴染みなんだよ。あの連中は戦車道やってる……ていうか応援団とかバックアップとかしてて各高の戦車長と一緒にくっ付いてきて、ここで同窓会だ」

 

「ぁ……あのジャバウォックさんは前にも見たよ。聖グロと模擬戦してたらなんか戦闘区域にも割り込んできて……地味にダージリンさんが砲撃狙ってたけど上手く避けてた人」

 

 当たればよかったのに。

 パヴロフほどではないにしても頑丈だしどうせ死なない。

 

「直君はあぁいうことしなかったよね」

 

「まぁそりゃあな。仮にも西住の分家の養子だぞ。あの蛮族みたいな戦車鼻で笑う真似なんかできるかよ」

 

 いや、そもそも素手で砲身歪める奴と一緒にされても困る。

 

「分はわきまえてる……わきまえてるつもりだった。ま、今更だけどな。……俺も、聞いていいか?」

 

「あ、うん」

 

「……戦車道、再開したらしいな。正直意外だったよ」

 

「私もね、自分でやる気はなかったんだけど……なし崩しというか気づいたらというか。結構今は楽しいよ?」

 

「そうか」

 

 楽しいと小さくはにかむみほを見て少しほっとした。転校の時はほとんど喋れなかったが、彼女の母との確執は耳に届いてた。もっと言えば西住みほという少女は基本的にドジというか抜けているというか、戦車に乗れば観戦している俺がぞっとするくらいに冷静なのに、戦車から降りればなんともとぼけた天然少女だ。人見知りもするし、付き合いそのものも苦手なのだ。

 だから転校してやっていけるかは心配だったが、先ほど店にはいる時は友達と一緒だったし大丈夫のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうかってそれだけぇ!? そんなんじゃ女の子はがっかりしちゃうよ!」

 

「Uh – huh.ナオはshyだからね。思ったことはそのまま言えないんだよ」

 

「顔も完全真顔なんだが」

 

「直は恥ずかしがり屋つーか、口に出さないのが美徳だと思ってるフシあるからな。つまり古いんだよ。男は黙って行動で示すべきとか考えてるだろうぜ。多分あの一言のそうかも心配してたけど元気そうでよかったとか友達出来てるみたいで安心したとか込まれてる」

 

「でもそれって旦那さんとしては最高じゃない!?」

 

「今はそれはいいから婚活戦士ゼクシィ武部」

 

「何その名前!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……聖グロの模擬戦見たよ。なんつーか意外な戦い方だったな。俺の知っている西住流とは違った感じだった」

 

「うん。……大洗は黒森峰とはかなり違う感じだからね。あの模擬戦もほとんど初心者だったんだよ」

 

「へぇ……」

 

 それでもあのダージリンに紅茶を零させたとは流石というべきなのだろうか。俺にとってみほの戦車道は西住のそれであり、同時にまほさんのサポーターでもあったから彼女本人があぁいう柔軟、或は型に囚われない戦い方は意外でもあった。

 

「……」

 

「……えっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで黙るんでありますか!?」

 

「みほさん困ってますわね」

 

「ていうかさ、直と西住さん何があったの? ジャバウォックは知ってるんだよね?」

 

「あぁディアボラ。知ってるよ、良く知っている――面白いからまだちょっと秘密ね!」

 

「こいつ分かってはいたが下種か?」

 

「否、これは蛮族である」

 

「カチューシャ様ぺろぺろ」

 

「しっかし当たり障りのない話しかしてねーなぁ。もっとこうぶっこんでくれねーかなぁ、その方が面白いんだけどなー、無理かなー、直頭ガチガチだからなー」

 

「あの、仮にも幼馴染への扱い酷いでありますね……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……ぁぅ」

 

 会話が止まる。

 いや、うむ。日向直という男は会話が苦手なのだ。受け身がちというか馴染み連中が昔から狂っていたからそれのストッパーで精一杯なのだ。そうなると自分から何かをするというのは不得手になってしまって――唯一、自分から動いた時は酷い結果だった。

 ただ彼女に言いたいことがないわけでもなく、

 

「――副隊長? ん、それに――――げっ」

 

「あっ」

 

「……逸見……っ、まほさんも――」

 

「……みほ、直」

 

 黒森峰戦車隊長西住まほと副隊長逸見エリカが店に現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大洗――弱小高ならば貴女でも隊長になれるのね?」

 

 悪い顔をしながら銀髪を揺らすエリカは、悪い笑顔で、嫌味を吐く。

 

「……」

 

「……」

 

「黒森峰から逃げ出したかと思えばまさか別の学校で戦車道を初めて、その上リーダーもやっているとは驚いたわ。てっきり辞めたとばかり思っていたのだからね」

 

「……はい」

 

 店に入ってきたエリカとまほさんが俺とみほの対面に座っている。

 二人は何故か俺たちに相席にしてきて、何故かついでに席の移動までして、そうしてそこまでしてから飛び出したのはエリカの嫌味である。

 

「ま、別にいいのよ? 貴女がいなくても黒森峰の強さは変わらないんだし。去年はあぁだったけれど今年こそは優勝を取り戻して見せるんだから。勿論、貴方達と当たっても全力で叩きのめしてあげるわ。それが黒森峰流で貴女の知ってる西住流でしょう? ……って貴女たち大洗とは決勝じゃないと当たらないわけでまぁ無理でしょうけどね?」

 

 すらすらとエリカの口から嫌味が飛び出てくる。いや、嫌味というかある意味で事実ではあるのだろうが言葉にみほに対する攻撃の意思がにじみ出ているのだ。基本的に思っていることがそのまま出るような少女なので解りやすい。

 

「…………」

 

 そしてそれ以上に傷つくみほのことも解ってしまう。

 けれどエリカの言い分も解らなくもない。みほが去った後、エリカが副隊長に就任するにあたって、彼女にも色々あった。多分それは去年の決勝戦とその結果をみほと同じくらいに気に病んでいるのがエリカなのだから。

 だからこそまほさんも何も言わずに聞いているのだろう。妹思いの彼女であるが同時に部下思いであり、白黒はっきり付けるタイプの人なのだから。

 ……が、それはそれとして。

 些かみほへのダメージが大きい。

 あとエリカが調子に乗りだしている。

 なので、

 

「まぁ貴女がいなくなっても? 貴女にできることは私に出来て当然だし――――」

 

 意気揚々と言葉を吐きながら自分で頼んだ珈琲を口に含み、

 

「――――さすがみほの戦車映像データをぶっ壊れるくらいに見てるだけあるな」

 

「ぶっっっーーーーーーーーー!?」

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ! 勿体ない! 食べ物は粗末しちゃだめだよ!」

 

「……なぁ、今私の目にはあの仏頂面が珈琲が吹きだされてからメニューでガードしたように見えたんだが。どういう反射神経だあれ」

 

「あいつ拳銃なら見てから回避余裕だからな」

 

「もうそれ人間じゃなくない!?」

 

「というか……勉強熱心なんですね副隊長さん」

 

「なるほど――ツンデレという奴であるな!」

 

「口にしたことが全てとは限らない」

 

 

 

 

 

 

「ごほっ! ごほっ! ちょ、アンタなに言って――」

 

「副隊長なってからみほの実戦模擬戦構わずに全部見たんだろう。逸見副隊長がみほさんのデータがクラッシュするまで見ててもう見れないとか資料室の奴が泣いてたし、購買部のが同じ日に逸見副隊長が文房具大量に買っていたなんて話も聞いてるしな」

 

「嘘よー! そんなの嘘よー! 私そこまでしてこの子の勉強なんてしてないしー! てかなんでアンタがそんなの知ってるのよ!?」

 

 顔を真っ赤にしながら語るに落ちている女であった。

 

「詭弁は毒、雄弁は損――語ることは苦手だが、聞くのは嫌いじゃない。聞き手に徹するだけで噂っていうのは色々来る。色々来ていればそれぞれをすり合わせて真贋を見極めるのも難しくない。特にお前は目立つからな」

 

「どういう意味よそれ!」

 

「まほさんの忠犬いつm――」

 

「ああぁぁああああああああああああ!! 聞こえないーーーー!」

 

 周囲の視線根こそぎ集め乍ら、しかし逸見は顔の真紅の染め上げ、

 

「か――勘違いするんじゃないわよっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツンデレテンプレェーー!」

 

「おい誰かこのボケ侍黙らせろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、は……はぁ……?」

 

「確かにアンタの資料を見まくったけれども! 別にそれはあくまで勉強よ! ふ、深い意味なんてないんだからね!」

 

「……は、はい」

 

「……?」

 

 あれこれ謎の良いわけを並べる逸見にみほとまほさんが同じような表情で同じような角度で首を傾げる。こういう所はよく似ているものだ。

 

「と! に! か! く! そういうことだから!」

 

「……はぁ」

 

「解ったならいいわ!」

 

 何もわかっていないようだが、気付いていないらしい。

 

「行きましょう隊長! よく考えれば何故この二人と呑気に珈琲を飲んでいたんでしょうか!?」

 

「……いや、エリカが先に座ったんだが」

 

「――あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど――あれもダー様と一緒で弄ると輝くタイプだ!」

 

「西住殿完全にぽかーんとしてるでありますね。……あ、帰ってしまいましたよ? 日向殿は置いてかれてるんですが……?」

 

「ナオは俺がMy Jetで送るつもりだったからね! 外泊許可はmaybeとってあるはずだよ!」

 

「各学園艦回るですの?」

 

「Yes! ――最も全員NonParachute Diveだけどね! その方がSpeedyだし!」

 

「ちょっと待て聞いてない!」

 

 




逸見エリカ
ツンデレ、かわいい。

日向直=???
頑固、前時代的、神風丸よりよっぽど日本男児。
拳銃とか避けられるらしい。
結局核心に踏み込めない人。

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