市街地に戦車が入る。
つまりそれは分断作戦の開始であり、大洗・知波単連合の戦車がそれぞれ街の中を別れ聖グロ・プラウダ連合を引き裂きに行くが、
『フラッグ車だけを狙いなさい』
『挑発に乗らない! フラッグ車だけを狙いなさい! 他は無視無視!』
ダージリンとカチューシャの指示がそれを許さない。聖グロとプラウダ、どちらの戦車も分断作戦には乗らず、フラッグ車のあんこうだけを狙いに来ている。歩道を行進するが、しかしあんこうの後をダージリンやカチューシャたちが直接迫り、その上で
……みほの動きが読まれてるな。
行進中のアンコウの車体に起立しながら直は考える。ローズヒップから逃げつつ、大洗街中の路地を縦横無尽に駆け巡るアンコウだが、どういう反射神経なのかそこに直接仁王立ちして腕を組んでいる。隣でみほの若干の呆れを含んだ視線を受けつつ、
「……ダージリン、流石だな」
「そうだね、やっぱり上手だよ」
互いに小さく頷き合いながらも戦車は進む
その間に無線からうさぎさんチームされOI-12防衛線を超えてカバさん、アリクイさん、あひるさん、レオポンチームが足止めする。その間にアンコウが距離を取るが、
「……また来た」
『おーっほっほっほ!』
足の速い
車道を互いに高速で接近しているが、クルセイダーたちの方が速度は非常に速い。げんなりとぼやいた麻子からすればしつこく追ってきてプレッシャーを掛けてくる彼女たちは鬱陶しくて仕方ないのだろう。
だから、
「直君」
「――ヤ・ヴォール」
すれ違う瞬間、直は車体を蹴って飛び降りた。
●
『えぇぇぇええええ!?』
無線からアンコウチーム四人の絶叫が響き、それに空へ飛んだ直は微かに眉を潜める。慣性の法則に従いそのまま空中に放り出され、
「――ふっ」
呼気と共に丁度通りすぎて行った先頭のクルセイダーへとククリを投擲する。空中での投擲、足場にする箇所はないが、それは体を振り初速を生みそれをさらに連動、同時に両足の鋼鉄を仕込んだ軍靴を振って勢いを生み出し、全身の関節部分で調整生み出した勢いはククリの切先に水蒸気の尾を引かせ飛翔し、
『なんですのぉ!?』
駆け抜けた
『え、えぇなんですのこれ!? なんか壁から生えてますけど!? 刃物生えてますけど!? ホラーですかぁ!?』
戦車道の戦車は車内を特殊カーボンで加工されていて、例え大口径の砲撃が直撃されようとも車内の生徒は無事である。この特殊カーボンは本当にたまげたもので、一種オーバーテクノロジー感すらある。砲撃の直撃すら耐える耐久力に加えて、歩兵道におけるスーツへの応用性。上げていけば切がなく、様々なことに利用できる。
故に、
「このナイフはカーボン製だからな」
音速突破で車体に放てば特殊カーボンを突き抜ける。
勿論これで走行不能はできない。
驚きはあったがそれは向こうも理解していて、
『あのジャバウォックの旧友ですのよ!? これくらいしても驚きませんわ! 寧ろ殺す気で行くんですの! ていうか蓑虫にくっ付いているんですから適当に駆け巡って壁にぶつければいいんですわ! どうせ死にませんし!』
『また本人が聞かせたら怒られそうなことを――あとでジャバウォックに言っておきます』
『あ、ちょ、ま!』
ローズヒップの未来が悲惨さが確定しながらもクルセイダー四輌が高速ドリフトを決め、そのままアンコウを追うと共にクランベリー車にくっ付いた直も振りきろうとして、
「――」
振り回されながら――軽い動きでクランベリー車に着地する。
『あれ? 今の音――?』
着地の瞬間には直は動いている。右膝と左手を車体に接触していたからその状態から左手を軸にしてブレイクダンスのような動きで体を回転させ――砲身に刺さったククリに踵落としを叩き込み、折り砕いた。
『―――え?』
車内の生徒に聞こえたのは鈍い音だけだった。
まさか自分が乗っている戦車の砲身が半ばから折れて空を舞っているなんて考え着くはずもない。
……常夫さんならすれ違っただけで戦車解体だし先生も一瞬大破なんだがな。
記憶にある埒外の人間共を思いだしつつ、しかし動きは止めない。砲身を折り飛ばしたのと同時にその際に生じた運動エネルギーを反動として使い、後方宙返り。
その回転のエネルギーも手にしたククリに繋げつつ、
「――エンジンはそこだったな」
優花里から事前に聞いてたクルセイダーのエンジン部分に音速超過の一撃を投擲する。
戦車道の戦車の撃破判定は基本的に弾頭や車体に備え付けられたセンサーによって判断されるのが基本だ。ただし戦車の一部が故障しようともそれだけでは撃破判定にならず、その場で修復して再び走行できる。履帯などは頻繁に壊れ、試合中に修復する姿もよく見る光景だ。
ならば何が撃破判定の鍵となるかというと、
……エンジンの状態だ。
走行の要であるエンジンが壊れれば走行不可能となり白旗が上がる。
直には装甲の上から直接打撃で白旗を上げるほどの膂力はないので狙い目の一つとしてまずはエンジンなのだ。
故に続けて狙う。
空中に残ったまま両手でククリを投擲する。
片方は走行して距離を開けていく
「――よっと」
折り砕き、吹き飛んでいた砲身をワイヤーで絡めとり加速連動と共に引き寄せる。
クルセイダーに体は持っていかれるが、しかしそれのエネルギーすら自分のものとして昇華しつつ、
「――フッ!」
引き寄せた砲身を蹴り飛ばす。
当然加速連動込みであり、砲身が水蒸気の尾を引きながら
『きゃぁ!?』
エンジン部分に激突させ、白旗を上げさせる。
「――っと、お?」
同時に身体が持っていかれる
視線を飛ばせばククリを突き刺した
……靴が傷むな。
内心ボヤキと共に水上スキーならぬ地上スキーで路上を滑る。軍靴に仕込んだ鋼鉄プレートが派手に火花を鳴らし、アスファルトを砕いていく。衝撃が派手に全身に響き、身体が軋む。その状態をいつまでも続ける気はなかった。
ワイヤーを強めに引きこみながら地面を蹴る。炭線が撓み、直の身体が跳ねて、
「――ふんっ!」
地面との接触の瞬間に膝を沈め――運動エネルギーを加速連動させながら瞬発する。
白虎の疾走は白い特殊カーボン製のスーツの各部から水蒸気の尾を引かせ、超疾走を実現させる。アンカー代わりに使っていたワイヤーは放棄し、自分の身体一つで駆け抜け、
――
そして白虎が地に降り立ち―――クルセイダーから白旗が上がる。
「……流石に四輌は無理か」
首を鳴らしながら息を吐く。
視線の先、最後に残ったクルセイダーが小さくなっていき、今までの一連の流れで撃破するのは難しかった。それでも足回りの早いのを潰したのだから、みほの助けにはなっただろうと直は判断する。
「……こちらとらさん、クルセイダー三輌を撃破。そっちはどうだ」
『こちらアンコウ、現在|クラーラさん
「合流するか?」
『ううん、それよりもポイントOYからOA地点方面に向かってください。救援をお願い』
「――救援?」
●
「マジですのッ……!?」
遠ざかって行く白虎をキューポラから覗き見て、全身が総毛立っていたのをローズヒップは自覚する。
一瞬で自分の仲間のクルセイダーが三輌とも撃破された。それもナイフとワイヤーしか武器を持っていない男に。
……流石はあの蛮族の旧友ということですわねっ!
ダージリンを除けば聖グロで最も虐げられているのは他ならぬローズヒップだ。だからあの男の理不尽さというものも良く知っている。生身で戦車を正面から倒し、軽戦車ならば持ち上げるような超怪力の持ち主。本人の気質も相まって暴力が服を着て歩いているようなものだ。
だからそのジャバウォックと旧友である日向直を侮っていたわけではない。
事実としてクルセイダーを三輌を一瞬で撃破したわけだが、
……ジャバウォックとは全然違う感じですわね。
あの蛮族はとりあえず周囲にあるものを適当に掴んで即席の武器にしたり、フィジカル任せであるのに対し、その白虎はより洗練され、研ぎ澄まされた武威がある。ローズヒップ自身歩兵道に詳しくないから完全なイメージであるのだけど。
何にしても問題は、
……まじどうしましょあれ。
いや、別に倒せないなんてことはないけど。聖グロ一の俊足の自分が頑張ればジャバウォックだってちょろいし、とらさんだって余裕だけど。でも今はちょっと調子よくないというかタイミング悪いというか相手にするよりはアンコウ狙った方がいいというか―――
……ていうか私が無理に相手することもないですわよね!
事実追ってきている様子はないし、
「ジャバウォーック! 貴方の友人でしょう!? どうにかしてくださいまし!」
『無理!』
無線からの即答であった。
「なんでですのー! 歩兵の相手は歩兵がしてくださいましー!」
『いやだから無理なんだ――だらぁ! こっちもっ! こっちで、忙しい――自分でなんかとかしてくれ、やッ!』
「……何してるんですの?」
●
「――いよっと!」
走りながら道すがらにあった自動販売機を蹴り飛ばす。
鈍い音を立てながら正面へと飛んできた自販機を中空でキャッチし、
「だらっしゃー!」
前方へ走行している中戦車へと投擲する。
「こ、根性ぉー!」
「うひぃー!?」
ジグザグに走行しながら逃げる戦車二台への合間に落下してひしゃげて潰れる。
「シット!」
『今すっごい音聞こえたんですけども』
「あぁ? だから俺は今忙しいんだって――」
走りながら、道端に投げられるものは無いか探しつつ、ジャバウォックは無線を通してローズヒップへと答える。
「――アヒル狩りの時間だからな」
日向直
一秒間にどんだけ動いてるんだろ。
ローズヒップ
虐められてるというか自分から喧嘩売りに行ってるだけの模様。
ジャバウォック
アヒル狩りタイム
リボンの武者、リトルアーミー、マジノそれぞれ読んだけどどれも面白いですね。
個人的にはリボンが好き。
リボンの大洗チームのラスボス観凄い。
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