分社は虎呑神社と言うもので、かつては違う派系だったらしいが、今は南賀ノ神社系列だ。
幾十年か前に一度赫映様が訪れて以来なんも交信もしていなかったらしく、全く信仰の教えといったものが届いていない。
境内に生える大きなブナの樹、白蟻にやられてぐらつく鳥居、屋根が半分抜け落ちた小さな拝殿。御手洗も淀み水さえ出ておらず賽銭箱は燃やされ、黒く焼け焦げていた。
壁には落書きさえある。
酷いものだ。管理は虎呑の者共に任せたと言っていたけど管理さえしていないじゃない!
「石碑があるぞ。」
サスケの声を聞いて、その方に向かってみると狼と虎のようなものが戦っている石碑がある。
「誰もいないね。」
「夜中だからな。」
「でもこの私を呼びつけたのだから、出迎えがあっていいはず。」
神社の裏手に回ると下に降りることができる石段があり、家の屋根が見える。
明かりは灯ってないが関係ないね。
「れんなんとかどう?」
「連翹堂だ。」
「レンギョウ……ああ植木の。」
「あぁ。取り敢えず今日は出直して……宿は?」
「分社よ。」
「………。」
「こんなボロだとは思わなかったけどね。」
サスケが絶句していると、下の方から足音が聞こえてきた。その方を見れば一人、年の近い男が提灯を持って立っている。
「あの、もしかして神主長?」
「まぁ、そうだけど……連翹堂の虎呑の者?」
「はい。虎呑レイシと言います。あーと、取り敢えず家に。」
「すまないな。」
連翹堂に、正確にはレイシの家に私たちは招かれた。
客間に通され、レイシは小声で弟が寝ているので声はおとしてもらえるとうれしいです。と言ってお茶を取りに行った。
この家の中の気配は3つ。人間二人と大きな獣のようなものが一つ。サスケもそれを感じ取っているようであたりの気配を探っている。
しばらくしてレイシが戻ってきて、夜中にも関わらず事情を説明してくれた。
「弟のキナというんですが、キナには∣嚥狼《えんろうと呼ばれる化物が封印されてるんです。その封印が弱まってきていて。封印したいのですが一人では難しく手伝ってほしいのです。それに、キナには知られたくない。」
「あー、それはなんで?」
「キナの中の嚥狼が寝ているキナを時々操って人からチャクラを奪い取るのです。はじめの数度はキナがそれを覚えていたのですが、あの子には辛すぎる。だから記憶を悪い悪夢として消しているのです。」
「まぁ、わかったよ。そうだね……火の国に来てくれるなら協力してあげる。」
私がそう告げると、レイシは少し考え、決意したようにお願いします。と頭を下げた。
何を覚悟したのか知らないし知りたくもないけど、弟の
ための決意だと私は信じたい。
ふと、サスケの方を見るとサスケも私と同じ顔をしていた。
サスケは旅の疲れか、深く眠りについていた。
私はというと、囁いてくる虫や植物の声でなかなか眠れないでいる。
随分と面白い話を聞かせてくれているし、レイシの事も教えてくれている。
神社の荒れ方から何やら訳有とは思っていたけれど、かつて狼は神社に封じられてて、レイシのお父さんが解いて操ったそうな。特別な術が不測の事態で解けて、レイシの両親は絶命。かろうじてキナに封印したって、それで里の者達から嫌がらせを受けてる。
両親は自業自得。その子供に余波が行くのも仕方がないのかも。
私が被害を受けた立場だったら生き地獄を味合わせてやってるもの。
でも、嚥狼を操れるような術があるならなんとしても支配下に置かなくては。あんなものが中立国にあるなんてとんでもない!幸いこの狼吠の里ではそれを知ってるのはレイシだけ。
さっきは帰りの雑用要員にしようと思ってたけど兄が来るなら幼いであろう弟も来るだろう。玄関にあった靴を見て、12かそこら。この里じゃ生き辛いだろうしね。
……外に、誰かが。
そっと私は戸を開けて除く。
見えたのは三人の男。手には丸いものを持っている。
それをこちらに投げてきたので、とっさにクナイでそれを壊そうと当てたのだが、そこで爆発した。
奴ら、家を!
追い打ちでクナイを投げる。学んでよかった。
お兄ちゃん直伝のクナイ術で首を掻っ攫うと、私は静かに部屋を出て、タスを口寄せする。
タスはクルマほどの大きさで現れて、3つの死体を見ると静かに丸呑みにした。
・・
今日の朝は久しぶりに屋内から始まった。
シャワーを借りて髪を乾かし、身支度を整えて。
部屋に戻るとサスケが寝ていて、お腹を晒して寝ている。お腹冷えるでしょうに。
「サスケ!いつまで寝ているつもりだ。」
ここは少しイタズラで、パパの真似をして起こしてしまおう。
ねこっかぶりサスケはしばらく見れていない。
「あ、はい!ごめんなさい父さ……ハッ!」
「おはよぉごぜぇまぁす。素晴らしい演技力だよ。私もサスケも。」
「おま、お前ー!」
「キュアサスケ、お腹出して寝てるとぽんぽんがポンポコリンになっちゃうよ。」
「そのキュアサスケってやめろよ。ここに来て取り返しつかなくなってるんだから。」
「パパだって知ってるよ。パパも言い出せなくなってる。パパはもうすでにサスケ純粋無垢で愛らしい少年とは思ってないよ。はっちゃけちゃいな。」
サスケの身支度が整って数分後、レイシが私達を呼びに来た。
居間に案内されて、弟を紹介された。顔からしてヤンチャさが抜けていない少年だ。
朝食はすでに出来上がっていて、おにぎりに味噌汁といったものだ。おにぎりは昆布らしく、キナのお手製で少し味が濃かった。
「はーん、レイシってくすしなんだぁ。初めて知った。で、くすしってなに?」
「薬を作っているんです。薬と師匠の師でクスシ。
風邪薬とか頭痛薬、鎮痛剤とか。ここら三狼は薬草やらたくさんありますからね。」
私のささやかな疑問が解決したところで、キナが首を傾げて、何やら不思議そうな顔をして私を見上げた。
「んん?なら二人はなんでこんなところまで来たんだ?火の国は遠いだろ?」
「ノブレス・オブリージュ。火の国の特権階級身分として、他国の地にある国教従事者との対談と交流、場合によっては保護のために来たの。」
「国教従事者?」
「今回の場合、虎呑神社が分社扱いになってるから、虎呑一族が対象ね。」
キナは全くわからない。と言った表情で私の話を聞いている。せめて苗と名前が一緒ですぐ近くにある神社のことは知っててほしいんだけど。まぁ、詳しくは私も知らない。
しばらく雑談をしたり、キナと遊んだりしていると、レイシがカゴを持って何処かに行こうとしていたので、キナをサスケに丸投げしてレイシに付いていくことにした。
「あら?レイシこんな美人をほっといて逢引?」
「はは、買い物ですよ。家にいてもいいんですよ?」
「あらあら、さっきの話聞いてなかった?私は保護しに来てるのよ?あなたにもサスケにも行ってないけど昨日、家に火をつけようとした人がいたの。一応護衛としてついていってあげる。」
「ですが……。」
「武器ならあるし。」
ちらっと拳銃と打刀を見せてみる。拳銃は赫映様の知識の賜物。どこでどう学んだのか知らないが、作り方から撃ち方まで記録しているらしい。また私以外が使えないように私のチャクラを弾丸に変質させて撃つので装填の必要性がない。
「特別に私の観光のお供にさせてあげるわ!何軒かぐらいなら好きなところに行っていいのよ。」
「ですが、いつ命を狙われるか。」
「あぁ、大丈夫。私達のどちらかが死んでもどちらかが帰還すれば体を作り直すことができるし。魂もミオヤ様がちゃーんと保護しててくれるから。」
そういうわけでは……と口ごもっているレイシだけれど、このやんごとなき身分の私に護衛がついてないとか、そういうのはないからね。
「そーんなことより、何を買いに?」
「昼食と夕飯、薬の材料です。昼食と夕飯何かリクエストはありますか?」
「特にないわね。あぁ、でもサスケがキナに稽古をつけると思うから疲労が取れやすいようなご飯がいいかも。」
双子だもの。ちゃーんと役割果たすし、そっちも話しなさいな。サスケちゃん。