救われる話   作:高須

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最終話

あれから季節は流れ、春になった。

高校受験で総武高校を目指していた小町は、藤咲から勉強を教わったおかげで、無事に入学することができた。

俺も三年生に進級した。進級しても大して変わることはない。変わるとしたら、クラスだ。三年生になると、大学受験のため理系と文系にクラスが別れる。もちろん、俺は文系だ。さらに、藤咲も文系を選んだ。そして、俺達は同じクラスになることができた。他にも、戸塚や川崎、葉山が同じクラスになった。今まで休み時間は机に突っ伏していただけだったが、藤咲と話すようになった。それから、戸塚や川崎とも話すようになり、休み時間は机に突っ伏して過ごすことがなくなった。その結果、クラスメイトから話しかけられたりする機会が増えた。今まで一度も誘われたことがないクラス会にまで誘われた。ちなみに、クラス会はカラオケだった。初めて大勢の前で歌うのは恥ずかしかったが、なんとか歌いきりことができた。その後に、ちょっとヤバイことがあった。隣に座っていたクラスメイトの女子にしつこくベタベタとしてくる。その時に、どこからか強い視線を感じた。そちらを見ると、藤咲がいた。顔はニコニコと笑っていたが、目が笑っていなかった。俺は急いで藤咲の隣に座って説明をしようとしたが、藤咲から腕をつねられた。予想以上に痛かった。必死に謝ると、今度は腕に抱きつかれた。甘い香りと柔らかい感触を感じる。藤咲の顔を見ると、顔を赤く染めていた。俺はあいている左手で、藤咲の頭を撫でた。一瞬、びくっと動いたが受け入れ気持ち良さそうにしている。結局、俺達は終わるまでずっと一緒にいた。

ぼっちであった俺が、ここまで人と関われるようになるなんて思ってもみなかった。これも、藤咲のお陰である。

そして、問題であった葉山に関しては、あれから一切関わっていない。というよりは、あの時の約束を守っているようだ。マラソン大会で俺が勝ったことで、葉山に命令する権利を得た。そこで、俺は『俺達に関わるな』と命令した。葉山は悔しそうにしていたが、約束だから了承した。だから、クラス会でも葉山は来なかった。

 

 

 

 

まどろみの中、誰からから身体を揺さぶれられる。

 

「………八幡、起きていますか?」

 

誰かから呼ばれる。気だるげだが、身体を起こす。

 

「……あぁ、今起きたぞ。礼美」

 

俺達はある時から名前で呼び合うようになった。それは、小町から言われたからだ。もう付き合ってるんだから、名前で呼びあったらと。最初はお互いに照れくさかったが、徐々になれてしまった。

返事を返すと、礼美はあきれた顔になった。

 

「もう、まったく……今は放課後ですよ」

 

時計を見ると、確かに放課後だ。辺りには俺達以外誰もいない。どうやら授業中に寝てから、今起こされる前まで寝ていたようだ。

 

「では、行きましょう。私たちの部室へ」

 

俺達は二人仲良く部室へと向かった。

 

 

 

 

廊下を歩いている途中に黒髪の男子生徒とぶつかりそうになる。俺は避けると、その生徒は顔をふせ、小走りで去っていった。

 

「……あいつもずいぶん変わったな」

 

「……そうですね」

 

黒髪の生徒。その名前は葉山隼人。金髪であった髪を黒に染めている。さらに、少し痩せて暗い感じになっている。なぜこうなってしまったのか。始まりはグループの崩壊だった。

マラソン大会が終わった後、葉山が卑怯なことしていたのを見ていた三浦が幻滅した。さらに、他の生徒も見ていた。そこから、葉山の悪い噂が広がった。もともと、葉山は人気があったため、噂はかなりのスピードで広がった。なんとか噂を消したかった葉山はいろいろとした。奉仕部にも頼ったようだが、雪ノ下に却下されたらしい。なんせ、噂は事実であったためだ。その事実を多くの女子が見ている。それなのに関わらず、噂を否定していたのが、余計に悪い噂が広げさせた。

そして、ついにあることが起こってしまった。それは、海老名さんが修学旅行のことをばらしてしまった。そのことで、自分達の問題を他人任せしたことに三浦は激怒した。さらに、戸部も激怒して葉山に絶交を宣言した。その流れに乗るように、モブ二人も絶交を宣言した。そこにいた由比ヶ浜はオロオロとしていたが、三浦と海老名さんが葉山のもとから去っていくの見て、二人についていった。残された葉山はもう一度やり直そうと説得を試みるが、誰も話を聞かなかった。ついには、葉山は諦めてしまった。リア充から一転、一人ぼっちになってしまった。さらに、悪い噂のせいで葉山に、誰も近づかなかった。

葉山は部活を辞めてしまった。悪い噂で居場所がなくなってしまったためだ。それからは、髪を黒にして静かに過ごしている。

 

「もしかしたら、俺もああなってたかもな……」

 

今は葉山の悪い噂が流れているが、前は俺の噂が流れていた。もしも、礼美と合う前に、人の悪意に耐えきれなくなって、人を信じなくなって、そしたら俺は葉山のようになっていたと思う。

 

「……大丈夫ですよ。例え、貴方が一人ぼっちになっても、私だけはずっと側にいますから」

 

面と向かって言われる。そういってくれるだけで、救われる。

 

「そうだな……俺には礼美がいてくれる」

 

そうだ。俺はもう一人ぼっちじゃない。葉山にはいないが俺にはいる。大切な人が。

 

「はい」

 

お互いに笑い合う。嬉しさを共有するように。俺達の間には暖かい空気が流れた。それは、凄く心地よいものだった。

 

 

 

部室につくと、俺達がすることは本を読むか勉強するかだ。今日は勉強するようだ。俺は苦手なところをしている。一人ではなかなか解くのに苦労するので、礼美に手伝ってもらってる。礼美の教え方はうまく、分かりやすい。そのため、少しづつだが解けるようになってきた。

 

「そろそろ時間ですね」

 

俺は時計を見る。集中していたおかげで、かなり時間がたっていた。

 

「じゃあ、終わりにするか」

 

「はい」

 

俺達は後片付けをして、部室を後にした。

今日は礼美の家で夕飯をごちそうになることになっていた。これで、3回目になる。俺は凄く待ち遠しく思う。なぜなら、礼美の料理が凄かったからだ。もともと、礼美の両親はとても忙しく料理を作ってやる暇などなかった。そこで、藤咲は両親に替わりに自分作るようになったらしい。最初は下手くそだったが、徐々に上手く作れるようになった。さらに、努力を重ねることでその腕はプロに匹敵するぐらいの腕になった。

俺達は夕飯の材料を買いにスーパーに向かう。二人仲良くならんで。

 

「……手、繋ぎましょうか」

 

礼美は顔を赤く染めて提案する。まだ、俺達は初なカップルのように過ごしている。当然、一線は越えていない。今の俺達にはキスだけで充分なのだ。

俺は礼美の手をつかむ。柔らかい感触が伝わってくる。

 

「……じゃあ、行くか」

 

礼美は軽く頷いた。

嬉しい。こうしてふれあえるだけで幸せだと感じる。今まで、こんなふうに思えたことはあっただろうか。嫌、なかった。俺は悪意に晒され続け、善意に触れたことがなかった。だからこそ、俺はこの手を絶対に離したくない。

 

 

ふと思う。俺が求めるものについて。今にしてみればバカだったのかもしれない。完全に理解しあえるなんてあり得なかった。たかが、数ヶ月の付き合いなんかでわかるわけがなかったんだ。もっと長い年月を必要とするのだ。その中で、お互いにぶつかり合って理解するのだ。だから、もしかしたらあの時、違う道があったのかもしれない。けれど、それは過去の話だ。今の俺が選んだのは礼美と歩む道だ。後悔などはしない。

 

 

「好きだよ。礼美」

 

今はこれだけでいい。自分の気持ちを伝えるだけで。

 

「私も好きです。八幡」

 

返ってくる返事。

俺達は笑い合う。お互いに幸せを感じて。きっと彼女となら、これから先も一緒いられるのだろう。そして、俺の本物になってくれる。そう、信じてる。




かなり遅れての投稿で、すみません。やっと一段落終わったので投稿出来ました。
これで、最終話になりますが、何か要望がありましたら特別話として出したいなと思います。
今までかなり遅い投稿でしたが、最後まで見ていただいてありがとうございました。

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