いつものように藤咲はいた。椅子に座り、本を読んでいる。俺に気づいたようで、こちらをちらりとみたが、何事もなかったように視線を本に戻した。こんな反応されると、憂鬱になる。けど、もう立ち止まることはしたくない。だから、俺は決意する。
「……話があるんだ」
藤咲は机に本を置き、こちらの方を見てくる。まったくの無表情で。
「……なんでしょうか?」
そして、その声はひどく冷たかった。
それは、拒絶を表しているとわかる。俺は怯んでしまうが、なんとか話を進める。
「もう一度聞いてほしい事があるんだ……」
真摯に自分の気持ちを伝えよう。
もう一度、あの時のように。でも、今回は返事を聞くんじゃない。藤咲の気持ちを聞くんだ。
「……言ったでしょう。私にはそんな資格はないと」
藤咲に先回りされる。俺が言うことはわかっているようだ。
それでも、俺は伝えたい。
「……俺は藤咲の気持ちを聞きたい。資格がないなんてじゃなくて、建前なんかじゃなくて、本当の気持ちを知りたいんだ」
藤咲はうつむいてしまった。
もし、今の言葉が心に響いてくれたのなら、やっと進める。俺は藤咲の返答を待った。
「……少し別の話をしていいですか?」
藤咲が提案してくる。
話を変えられると思ったが、藤咲の表情をみたら、大事な話だとわかった。もしかしたら、これは藤咲の抱える問題のひとつだとしたら。これが、俺の告白に関係するとしたら、俺は聞かないといけない。だから、俺の返事は決まっている。
「頼む、話してくれ」
藤咲は顔を上げ、俺を見てくる。そして話始める。
「ある女の子がいました。その女の子は内気で弱虫でした。その上、友達は独りもいなく、いつもひとりぼっちでした。そんな女の子は、いじめっこからすれば格好の的でした。
最初は無視するだけでした。そんなおふざけでした。しかし、女の子はいつもひとりぼっちだったので、たいして変わりがなく平気でした。それを見ていたある人が悔しがりました。まったく効果がないと。そして、無視から別の事に変わりました。それは、悪口でした。最初はいじめっこしか言いませんでしたが、時間がたつにつれて周りも言うようになりました。女の子は最初は気にせず無視していましたが、徐々に心に傷をおいました。表面に出すといじめが更に加速すると思った女の子はじっと耐えます。家でも家族に迷惑をかけれないと思って、一人で抱え込みます。誰も助けてくれない。そういった状況の中、心が傷つき、折れそうになりました。
そして、ある時、ある男の子に会います。その男の子は自分と同じクラスメイトで、自分と同じようにひとりぼっちの子でした。そして、こう言われました。『大丈夫か』と。その気遣いの言葉に、自分を心配してくれる優しさの言葉に女の子の心は癒されました。
それから幾日かたつと、いじめがパタリと止みました。どうしてなのか、疑問に思いました。しかし、その理由はすぐに気づきました。いじめっこ達は標的を変えたのでした。その標的は、自分を気遣ってくれた男の子でした。男の子の悪口を言ういじめっこ達、それを一切気にしない男の子。女の子はただそれを見ていただけでした。自分を助けた男の子ように、今度は自分が助けると思っても何も出来ませんでした。何故なら、女の子は怖かったのです。また、自分が標的になることを。それでも、感謝の気持ちと謝りたい一心で男の子に話しかけようとしますが、話しかける勇気がなかったため、話しかけれないまま時間が過ぎてしまいました。
そして、ある出来事が起こりました。それは、親の転勤でした。当然、女の子は転校することになりました。女の子は男の子に伝えるまでは転校なんてしたくないと思っていました。しかし、女の子は最後まで伝えることが出来なく転校しました。
この事で、女の子は非常に後悔をしました。何よりも、伝えることが出来なかった自分を、嫌いになりました。だから、変わろうと思いました。内気で弱虫な自分を捨てようと。
そして、中学生になった時。彼女は昔の女の子ではありませんでした。容姿も美しくなりました。そして、男子生徒からよく告白されるようになりました。しかし、誰一人いい返事をしませんでした。何故ならば、自分の助けた男の子を思い出してしまうからです。その時、彼女は気づいたのです。自分はあの男の子が好きでいたと。もう叶わない恋だとしても、忘れることが出来ませんでした。
そして、高校生になりました。彼女はまた産まれた土地に戻ることになり、総武高校に入学しました。そして、二年生になった時の文化祭で、男の子に出会いました。男の子はすっかり変わっていましたが、彼女は忘れませんでした。彼女は一刻も速くあの時のことを話したかったのですが、彼の周りには自分よりも素敵な人がいたので、躊躇い近づくことをしませんでした。
廊下を歩きながら、もうこれでいい。あの時のことを保持繰り返さなくていい。そう決めた時、彼とぶつかりました。彼女は彼を見れて嬉しいと思いましたが、その気持ちはすぐに消えました。何故なら、彼が悲しそうにしていたからです。彼女は彼の話を聞き、彼を助ける事にしました。あの時、助けることが出来なかった代わりに……
これが、話の全てです」
息をのむのがわかる。まさか、こんなことがあるなんて知らなかった。いや、忘れていたのだろう。あの時の俺は周りの事が嫌いだったから、気にすることはしなかったのだろう。
「私はただ自己満足で貴方を助けました。ひどい女でしょう。そんな、私が貴方にはふさわしくはない。だから、やめてください」
俺はどうする?
もう、わかっている。こんな話を聞いても俺の気持ちは変わらない。もう答えは出ていた。
「俺は……」
あと少しで終わる予定です。それまで、頑張って行きますので次回もよろしくお願いします。