俺は何も考えられず廊下を歩くと、曲がり角で人とぶつかってしまった。その人は何冊のものの本を持っていたようで、廊下に散らばっていた。
「すいません」
そう言って、俺はあわてて本を集める。そして、この本の持ち主に返す。この時 、俺は初めて本の持ち主を見た。本の持ち主は女子生徒だった。黒髪のセミロング。端正な顔立ち。清楚な佇まいさを感じさせる。
「その……大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です。それと、本を拾ってくれてありがとうございます」
ありがとうか………自分のやったことで感謝されるのはいつ以来だろう。感謝の言葉で戸惑っている俺に彼女は言う。
「あの……すみません。部室に本を持って行くのを、手伝ってくれませんか?やっぱり、1人で持って行くには多すぎてしまって………」
「ありがとうございます。二人で運べば楽ですね。あと、もう少しで着くので頑張って下さい」
二人で本を運ぶ。でも、どうして俺は彼女を助けるんだろう。彼女とは何の関わりもない。感謝の言葉を言われたから?いや 、違うな。そうじゃない。けれど、どうしてかわからない。その答えは、今の俺には到底わからない気がした。
「着きましたよ。ここが私の部室です」
考えているうちに着いてしまったようだ。教室を見回す。どこかあの場所に似ているような気がして、ドアの前に立ち止まってしまう。その時、彼女と目があった。彼女は教室に入らない俺を不思議に思うのだろう。だけど、彼女は優しく笑った。そして、俺の背中を押し前に進ませた。
「本はそこの机に置いて下さい。今お茶を出すので、てきとうな所に座ってくつろいでいて下さい」
「いや、もう帰るk……」
「ダメです」
「まだお礼もしていません。それに……今の貴方を帰したくありません。比企谷君……自分の顔わかりますか?今の貴方はとても悲しい顔をして………今にも消えてしまいそうです」
彼女の言葉に俺の身体に衝撃がはしる。今の俺はそんな顔になっているのか。鏡がないからわからない。けれど、彼女が嘘を言っているとは思えない。だが俺はある事に気付いた。
「どうして、俺の名前を知っているんだ?」
「………あの…覚えていませんか?」
「えぇと………すまん、覚えていない」
「……では、自己紹介をしましょう。私の名前は藤咲 礼美(ふじさき れみ)です。文化祭実行委員で貴方に会いました。そして、この文芸部のただ1人の部員であり、部長です。次は貴方の番ですね」
「…………比企谷 八幡だ」
「……それだけですか?まぁ、いいでしょう。はい、お茶です。熱いので、気を付けて下さい」
そして彼女はお茶を出し座った。出された物を残して帰るのは、罪悪感を感じてしまう。だから俺は帰ることが出来なくなってしまった。
「では、少し話をしましょう。相談したいこと、自分が好きなもの、何でもいいです。話したい事をどうぞ」
「………何で話さなければならないんだ。話したいようなこともない。それに、俺達は今あったようなものだぞ」
「それは……あったばかりだから客観的に聞くことが出来るんです。文化祭の件で、貴方は悪人です。でも私は、そうは思いません。だから、話を聞いて判断します。貴方がどういう人なのか。それに……辛いことはためない方がいいですよ。ためすぎたら、潰れてしまいます。だから、話をしましょう。些細なことでいいんです。自分の気持ちを話すことが大事なのです」
彼女の真っ直ぐな言葉に、俺は別の事を考える。裏に何かがあるんじゃないか?そして、耐えられなくなる。だから、また逃げ出す。お茶を飲まずに、帰るためドアに手をかける。
「私は放課後ここにいます。何か話したくなったら、いつでも来てください。待ってますよ。比企谷君」
俺は逃げ出すように出ていく。彼女は善意で言ったのだろう。だが今の俺には、素直に信じることはできない。だから、俺は変われない。
書くのは難しいですね。自分の思った通りに書けません。次は、三日後に投稿する予定です。