救われる話   作:高須

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19話

あれから合同イベントの準備は着々と進行していく。さぼっていた小学生たちも準備の手伝いをしている。留美もそのなかで一緒にしているが、他の子と仲が良くなったわけではなかった。まだわだかまりがあるようだ。

そして俺の方は、藤咲と上手く話せていなでいた。挨拶などはできるが、深いことは話せない。それに、あの時の会話から見えない壁の様なものができてしまったように思える。それは、俺の思い過ごしかもしれない。ただ、単純に俺の方が無駄に意識して話せていないだけかもしれない。

それでも、少しはわかっているつもりでいた。でも、わからなくなってしまった。藤咲が何を言いたいかを。何を思っているのかを。けれど、わからないのが当たり前なのかもしれない。それでも、俺は理解したい。じゃあ、俺はこれからどうしたらいい?

 

 

 

 

 

「………お兄ちゃん!」

 

小町に話しかけられる。どうやら夕食を食べた後、ボーッとしていたようだ。

 

「……それで何だ?」

 

「何だって、話し掛けているのに反応しないからでしょう。それで…今度は何を悩んでいるの?」

 

また、小町に心配させてしまったようだ。だけど、今回は余り話したくないな。話の内容はきっと恋愛事になってしまうから。そんなの言ってしまったらね根掘り葉掘り訊かれて、恥ずかしすぎる。

でも、こう言う恋愛事は小町の方が詳しい。ずっと一人でいた俺にはわからないものだ。それなら、相談した方がいいのかもしれない。

そう思った俺は小町に相談することに決めた。

 

「そうだな…恋愛事なんだか…」

 

「はぁ?」

 

小町は驚きの表情をみせる。

 

「ごめん、もう一度言ってくれる?」

 

まぁ、こうなるよな。今までこんな話題だしたことないしな。

 

「だから、恋愛事だ。好きな奴ができたんだが、どうしたらいいかわからないんだ。どうすればいいと思う?」

 

「へぇーそうなんだ。やっとお兄ちゃんの嫁候補が確定したんだ」

 

そう言って、嬉しそうな表情をみせる。嫁候補なんて、まだ気が早すぎるんじゃないか。

 

「それで、どうしたらいい?」

 

話が脱線しそうだったので戻す。そうすると、小町は真剣な表情になる。

 

「……お兄ちゃんはどうしたいの?」

 

はぁ?俺が訊きたいのに、まさか聞き返されるとは。問いに戸惑っていると小町から催促される。

 

「だから、どうしたいの。付き合いたいの?それとも、友達のままでもいいの?」

 

その言葉に思考が停止する。確かにどういった関係を望むのは、俺が決めることだ。なら、俺は何を望む?このままの関係?それとも、彼氏彼女の関係?

答えは決まっていた。俺は彼氏彼女の関係になりたいんだ。藤咲と付き合いたいんだ。そして、理解しあえる関係になりたいんだ。それがどんなにも醜いものでも。

だから、俺がすることは告白して自分の気持ちを伝えることだ。

 

「ありがとうな。自分がすることがわかった」

 

「うん。最後にアドバイスね」

 

アドバイスか、何を教えてもらえるんだ。

 

「お兄ちゃんはいつもひねくれているから、自分に素直になってね。それじぁ、頑張ってね」

 

そう言って、小町は自分の部屋に戻る。どうやら小町には俺がすることがわかったようだ。まったくうちの妹は、いつも頼れるな。俺は笑ってしまう。もうすることは決まった。後は勇気を出すだけだ。

俺は覚悟を決めその日を終える。

 

 

 

 

あれから準備はさらに進み、俺も普通に藤咲に話せるようになった。

 

そして当日。

クリスマスが今年もやってきた。といってもまだイブだが。

総武高校では一昨日が終業式で、最後の準備がしっかりできた。さらに、イベントは午後なので、リハーサルなどが十分にできた。

 

「比企谷君」

 

「どうしたんだ、藤咲」

 

声をかけてきたのは藤咲だった。

 

「今日は楽しい一日になるといいですね」

 

「そうだな」

 

意外に藤咲も楽しみにしていたようだ。

 

「まぁ、出だしは悪かったが、なんとか直せたから上手くいくだろう」

 

「そうですね。比企谷君も凄く頑張っていましたし」

 

そう言って、笑い合う。照れてしまうが、なんだかいい雰囲気だ。

 

「先輩、そろそろ始まるんで準備してください」

 

いい雰囲気のなか、一色に話しかけられる。もうそんな時間か。さて、仕事を始めるか。藤咲に声をかける。

 

「じゃあ、行くか」

 

「はい」

 

俺達は自分の持ち場に向かった。

 

 

 

そしてクリスマス合同イベントが始まった。

舞台袖から見ると、客入りは上々だ。そのなかには、小町に戸塚、何故か材木座や川なんとかさんがいた。さらに、別の場所には葉山グループがいた。そのなかには当然、由比ヶ浜がいた。別にいることには、俺はなにも感じない。他を見ていると雪ノ下がいた。多くの総武高校の生徒がいて、かなりの噂になっているとわかる。

今会場のホールでは海浜高校のプログラムが行われている。内容は海浜高校の生徒によるバンド、そしてクラシックの出張コンサートだった。バンドは余り練習していないのか、言葉にできないほど最悪だった。これなら、しない方がましだと思える。コンサートの方は、さすがプロだなと思える演奏だった。バンドはダメだったが、コンサートで挽回してお客の反応はよかった。

そして、総武高校のプログラムが始まる。留美たち小学生も頑張っている。俺はこの演劇で留美を主役にした。上手くいけば、他の子と仲良くなれるきっかけになればいいと思って。演劇の中盤で園児たちが現れる。園児たちはお年寄りの元にケーキを運んでいく。お年寄りは園児の可愛らしさに顔をほころばせていた。

そして、演劇は終わった。最後に今回の主役を務めた留美が出てくる。他の子と手を繋ぎ、大きく一礼をした。客席からはひときわ大きな拍手がとんでくる。そして、総武高校のプログラムが終了した。

 

俺達の残りの作業は後片付けだ。何故か海浜高校の連中が頑張ってやっている。まぁ、無理もないかもしれない。彼等のプログラムは別に誰でもできるものだった。だから、なにもできていないのを負い目に感じているのかもしれない。自業自得だ、これからはその考え方を改めろよ、そう思い片付けをする。片付けをしていると、留美たち小学生がみえる。笑いあっていた。そのなかには、留美も入っていた。それを見ているだけで良かったと思える。

 

それから、コミュニティセンターの片付けは終わった。イベントに使った道具やなんかを生徒会室に運ぶため、一度学校に戻った。そして、解散し俺と藤咲は部室に行った。

 

「少し疲れましたね」

 

「片付けも意外に量が多かったしな」

 

「それでも、今日は凄くよかったです。演劇もよかったですし、これも比企谷君のおかげてすね」

 

そう言って、藤咲は笑顔をみせる。

 

「やめてくれ、照れてしまう」

 

こうやって、たわいのない会話をする。それだけで、心が安らぐのを感じる。

 

「冬休みの間はお休みなので、次合うときは三学期ですね」

 

そうだ。次合うのに時間がある。それを待っているほど、俺は押さえきれない。だから、今日決める。

 

「それでは帰りますか」

 

そう言って、藤咲は帰る支度をする。

 

「なぁ、藤咲、話がある」

 

「はい、なんでしょう」

 

俺の真剣な表情に藤咲も佇まいを変える。お互いに見つめ合う状態になる。

ふと、あることを思い出す。もしかしたら、戸部もこんな気持ちだったのかもしれない。

そして、今から言うことは今の関係を壊してしまうことかもしれない。でも、もう止まらない。止められない。俺は先に進みたい。だから、真摯にこの気持ちを伝えよう。

 

 

「好きです。付き合ってください」

 




これにて、第二章が終わりました。
次の第三章では新しい人物が登場します。次回もよろしくお願いします。

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