救われる話   作:高須

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15話

全員の視線が俺に向くのがわかる。ここは重要な場面だ。だからこそ、ここで決めてみせる。

 

「例えば小学生に演劇をしてもらったらどうだ?」

 

これが俺の提案の内容。小学生が参加することによって、規模を大きく出来る。これにより、海浜高校側の意見通りになる。

ただ、それだけじゃない。人手と予算がないなか、それを解決するにはぴったりだからだ。人手は小学生から借りれる。それに小学生の演劇は凝った内容にしなくてもいい。拙くても許される。だから低予算で準備できる。だが、デメリットもある。会場のキャパ問題だ。これはなんとかして解決するしかない。

俺はさらに畳み掛ける。

 

「このイベントの目的の対象となる園児やお年寄りに楽しんで観てもらえると思う。園児は演劇とか普通に好きそうだし、お年寄りは自分の孫に近い存在が見れるから嬉しいと思うぞ」

 

「それに、この案は、規模を大きくしたいという意見を入れての案だが、玉縄はどう思う?」

 

ここで俺はだめ押しとばかり玉縄に話を振る。海浜高校の連中は玉縄にかなりの信頼を寄せている。ならば、それを利用するだけだ。玉縄が賛同するだけで、この案は採用される。しかも、あまり難しくはなく、実現可能な範囲だ。さらに、自分等の意見を入れてあるから否定出来ない。

さぁ、玉縄、お前はどう答える。

 

「うん、それもひとつの案として考えていこう」

 

あっさり返される。やられた。俺の案は却下はされなかったが、後回しにされた。これで元通りになった。また、何も決まらない会議が続いてしまう。

もう時間がない。どうする。考えろ。まだ、何かあるはずだ。

 

 

 

 

 

「ちょっといいですかー」

 

 

突然声が聞こえる。俺は声の主、一色の方を見ると、目があった。一色は意味ありげに笑った。まるで、貸し1つですよと言っているようだった。そして、一色は玉縄の方に視線を向ける。

 

「私的に今の案がしたいなぁと思うですけど」

 

「うん、僕もいい案だと思うけど、他にいい案があるかもしれないから、だから別のがあるのか考えてみよう」

 

「じゃあ、何か出してくださいよ。具体的な案を」

 

一色は玉縄だけではなく、海浜高校の連中に向けて言った。周りが静かになる。当然の結果だ。彼等には明確なしたいことはない。だから、何も言えない。

だが、玉縄が慌てて答える。

 

「まずは、イメージを出してから考えていこう」

 

また、一色がそれに反論する。

 

「イメージばっかり言っているから、内容が決まらないんですよ。それに、もう時間がないんで、はっきりとした事を言ってくださいよ」

 

一色の反論を聞いた玉縄は黙ってしまう。他の海浜高校の連中は顔を伏せている。こいつらは、何もしない、出来ない、言い返さない。事実がその通りなのだから。

もし、このままいけば、総武高校が主導権を握り、このイベントは成功するだろう。けれど、両高校間での雰囲気は最悪になる。それどころが、海浜高校には何も出来ないとレッテルを貼られてしまうのだろう。まぁ、自業自得なのかもしれない。そう片付ければ、簡単なのかもしれない。

だけど、もし、俺が何かをして彼等を助けるとしよう。でもそれは間違っている事だと思う。

誰かに頼るのは簡単だ。だけど何も変わらない。変わるには、悩んで、考えて、努力して自分の問題に向き合って、そうやって得ていくもののはずだ。だからこそ、自分の問題は自分で解決しないといけない。

だから、俺は何もしない。

 

 

 

「それでは、こうしましょう」

 

 

全員の視線が発言者に向く。この雰囲気が悪いなか、藤咲は続ける。

 

「総武高校、海浜高校に別れてしませんか?」

 

いきなりの提案に周りがざわめく。それを気にすることなく続ける。

 

「お互いの主張が合わないのなら、別々にした方がお互いに納得出来るようになると思います」

 

ずっと黙っていた玉縄が反論する。

 

「二高合同にやることに意義があると思うんだよね。別々だとシナジー効果が薄れると思うんだけど」

 

「お互いの意見が合わないのに、無理矢理一緒にやって、相乗効果が生まれると思いますか?」

 

すぐさま藤咲が返す。玉縄の顔が歪む。

 

「だからこそ、二高別々にすることで効率化し、競い合う形にしましょう。そうすれば、より良いものになるでしょう」

 

藤咲の提案は両高にとっていいはずだ。総武高校は自分等の好きに出来るし、海浜高校は自分等だけでも出来ると証明することが出来る。デメリットもあるが、メリットの方が大きい。

 

「異議のある方はいますか?」

 

そして、この提案は承認され、二高別々にすることになった。

とりあえず行動方針が決まった。保育園とデイサービスに入場者数の確認をしてから、小学校に協力のお願いをすること。そして、俺達は行動に移した。

 

最終的に参加人数見込みができ、小学校の協力を得られることになった。これでなんとかうまくいきそうに思える。

 

 

 

 

 

そして、翌日の放課後。俺達はまた一色を文芸部の部室で待っている。待っていると、ドアがノックされる。

 

「どうぞ」

 

ドアから意外な人物が入ってくる。

 

「お邪魔するよ」

 

入ってきた人物は葉山だった。そして、その後ろには二人の女子生徒がいた。その人物は由比ヶ浜と雪ノ下だった。




今回は前回と比べ、文字数が増えました。このまま増えていけるように頑張りたいと思います。

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