「おはよー!起きなさい!」
「………あぁ」
相変わらず朝から元気だな…。
始めの頃は、こうして起こされるとうるせぇなと思いつつも不思議な胸の高鳴りで目が覚めたもんだが、しばらく続けばうるせぇなしかない。
ベッドに乗り出して覗き込んでくるハクアをしっしと手で払い除け、俺はのそのそと身体を起こした。
俺が起きたのを確認すると、ハクアは満足顔で部屋を出ていった。
ハクアが我が家に住み着いて1ヶ月近くになる。
今ではだいぶ慣れたが、悪魔との同居は簡単ではなかった。
何かと口うるさいし、着替えとか洗濯物とか気使うし、風呂上がりに良い匂いするし、クラスメイトの女子と同居とかやっぱりいろいろ困る。…悪魔要素がどこにもねぇな。
そんな俺の思春期事情はどうでもいいとして、ハクアとしても中々大変だったように思う。
人間の生活に慣れていないというよりも、単に家族として馴染むのに苦労していた。
じいちゃんの隠し子で日本に身寄りがない(という設定らしい)ハクアを不憫に思った俺の親は、手厚く迎え入れて親切に接した。どうでもいいけど、親父は何も知らされてなかったらしい。地獄の根回しにもハブられるとかさすが俺の親父。
そんな親切が段々とハクアに罪悪感を抱かせたようで、最初の勢いもどこへやら、しばらくは申し訳なさそうに過ごしていた。どうやらこいつは、悪魔の割に人を騙すのが苦手だったらしい。なんでこんなやり方したんだ…もう少し考えろよ。
「さっさと朝ご飯食べさない。洗い物したいから」
「…はいよ」
うるせぇと思いつつも働いているハクアに働いてない俺が文句を言えるはずもなく、大人しく従う。
最近のこいつは、毎朝早起きして掃除に洗濯にと忙しなく働いているのである。
いつまでも辛気臭い面をしていたハクアに、俺は「悪いと思ってんならお手伝いでもしてやれ」と養われる身の在り方を説いてやったのだ。まあ気休め程度だが。
それからというもの、ハクアは小町に教わりながら家事を手伝うようになった。なんなら生き生きしてるし、こいつ本当仕事好きだな。どうなってんだよ。悪魔って社畜なの?それとも労働の行き着く先が地獄なの?だとしたら俺は絶対に働かない。
悪魔が本来そういうものなのかはともかく、やると決めた以上はきっちりやる、こいつはそういうやつだった。
まったく良く出来た悪魔である。
良く出来すぎて、おかげで俺の立場はない。「八幡にも見習って欲しい」と口を揃えて家族に言われるし、小町も「ハクアさんハクアさん」と妙に懐いて兄の立場すら奪われ、もはやこの世に存在する意義すらなくなっていた。
おい、お前ら騙されてるぞ。こいつ地獄の悪魔だぞ。大鎌隠し持ってるぞ。
とは言え、悪巧みをしてるわけでもないハクアに悪魔染みた素行など見受けられるはずもなく、こうして我が家に馴染むのにもさほど時間がかからなかったわけである。
まあ、ひとえにハクアの努力があってのことだろう。
俺とてその努力の恩恵を受けている家族の1人であり、家族として認めざるを得ないということだ。
朝食を摂りながら、登校の支度をする小町とハクアを見て「似てない姉妹だな」と寝ぼけた頭で俺は当たり前の事を考えていた。
「あれ、八幡のお弁当は?」
「…さあ?忘れたんじゃない?」
「俺が認められてないのかよ…」
…兎も角。
悪魔が住み着いても、比企谷家は平和に回っている。
× × ×
「八幡、おはよ」
「…お、おう。うす」
教室でかけられた挨拶は、決してやかましさなどなく、爽やかな朝を迎えるのに相応しいものだった。はにかんだ笑顔も、小さく上げた手も超ポイント高い。できれば毎朝起こしてほしい。
「今日も朝練か?」
「うん。みんな参加してくれるようになったんだ」
「そうか。がんばってんだな」
部活の朝練を終えてジャージ姿のまま俺に声をかけてくる彼女…じゃなかった彼は、クラスメイトの戸塚彩加。
その可憐な姿からは信じられないことに、歴とした男である。男なんだよなぁ…。
戸塚からは以前、テニスが上手くなりたいという依頼を奉仕部で受けている。絶対に俺が助けてやるとハクアに告げると、「は?男じゃないの。私には関係ないわ」と冷めた目で言われたのは記憶に新しい。
初めてハクアが悪魔に見えた瞬間だった。
なんて冷たい目をしやがるあの悪魔…生まれ変わったら戸塚のような天使と契約したい。
「ハクアさんとは一緒じゃないの?」
「ああ、あいつはバスで通ってるからな」
最初の頃は自転車で送っていたりもしたが、さすがに俺の体力が持たんし、いつまでも透明になってこっそり来るわけにもいかない。空を飛んだとしても同じことだ。
「そうなんだ。自転車じゃないんだね」
「あいつ自転車乗れねぇんだと」
「へー、意外。あんなに運動できるのに」
「あーいや…まあ、お国柄じゃねぇの。知らんけど」
こういうふとした所で誤魔化さなきゃいかんのが面倒だ。おかけで俺も咄嗟の嘘になれてしまった。これ、地獄に落ちないよね?
まあ、あながち嘘でもないだろう。地獄で悪魔が自転車乗る練習してるってのもなんかシュールだし。
「そっか。ハクアさんにも出来ないことあるんだ」
「…結構あるぞ」
空気は読めないし、協調性もないし、あと手加減も出来ない。あいつにど突かれたとこ未だに超痛い。
とは言え、戸塚がそう言うのも不思議ではない。
学校でのハクアは、普通に優等生をしているのである。
編入当時の騒ぎなんてものは一過性にすぎず、程なくして落ち着いた。ハクア自身でもその程度なら、俺なんかは当然話題に上がるはずもない。なんなら既に存在を忘れられている。
しかし騒ぎがなくなったその後も、勉強も運動も抜群にできたハクアはそれなりに目立っていた。さすが、地獄の学校の首席と言うだけのことはある。よく知らねぇけど。
目立つと言っても、派手な学園生活を送っているというわけではなかった。
なんせこいつは、とにかく真面目なのだ。仮に入学しているだけのはずなのだが、授業は真剣に聞いてるし、行事にも積極的に参加するし、なんならクラスメイトに「真面目にやりなさいよ!」なんてことをガチで言ったりもする。
始業日から在学していたら絶対委員長になっていた。
そういう目立ち方こそするものの、馬鹿騒ぎもしなければもちろん悪さもしない勤勉な生活態度は、決して派手とは言えないだろう。
そんな今時珍しい生真面目なやつではあるが、幸いにもクラスで浮くような事はなく、どこぞの友だちグループに入れてもらえている。
クラスの中心人物である葉山隼人や三浦優美子、由比ヶ浜などのトップグループではなく、程よく目立たないグループだ。誰さんかは知らんが、ハクアと上手くやれているのだからたぶんいい人だ。協調性のないハクアが器用に立ち回れるはずはないし、きっと空より広い心で受け止めているのだろう。こいつがクラスに馴染めているのも案外その人たちのお陰かもしれない。
ていうか俺より馴染んでるじゃねぇか…お陰で俺は静かに暮らせてるからいいんだが。
真面目で成績優秀、素行も良くて交友関係にも不自由なく。側から見れば問題などあろうはずもない。
ゆえに、ハクアは普通の優等生なのである。
閑話休題。
クラスメイトと挨拶を交わすハクアから視線を戻すと、戸塚は出し抜けにあはっと笑って(超可愛い)あらぬ事を言った。
「八幡とハクアさんって似てるよね。やっぱり姉弟だからかな?」
「……は?どこが」
義理どころかそもそも血も繋がってないし、なんなら種族すら違うんだけど…。まあ協調性ないのは似てるかもしれない。もっとも俺の場合、誰からも協調しようとしてもらえないまであるが。
「んー、真面目なところとか。八幡も一年生の頃からちゃんと授業聞いてたから…あ!い、いつも見てたわけじゃないよ?た、たまにっていうか、八幡目立つから、その…」
頬を染めて上目遣いでジャージの裾をギュッと握りながら、戸塚は恥じらうように言葉尻をすぼめていく。
やだ何この気持ち。戸塚がもし男じゃなかったら、これもう絶対俺のこと好きでしょと決めつけて告白して振られてるまである。振られちゃうのかよ。
斯くして、悪魔に騙された可哀想な俺の下には、神の憐憫なのかこうして天使が舞い降りたのである。
欲を言えば神様、戸塚の性別もどうにかなりませんかね。なりませんか、そうですか。
× × ×
1日の授業を終え、帰りたい気持ちをそのままに俺はいつも通り奉仕部で読書に勤しんでいる。
この部活は依頼さえ来なければこうして時間を潰しているだけで終わるので、さほど嫌な時間でもなくなっていた。今は家にも騒がしいやつがいるし、静かなこの場所は居心地がいいとも言える。
室内には、俺と同じく文庫本に目線を落とす雪ノ下と、だらんと腕を投げ出して携帯を弄る由比ヶ浜がいる。
あれから由比ヶ浜はしれっと部室に居座るようになり、そのまま奉仕部の部員となった。…なったんだよな?入部届けとか有耶無耶になっているが、入部届けが悪魔の契約書だった俺も部員にされてるし、たぶん部員だ。
あの一件以来、由比ヶ浜はすっかり雪ノ下にお熱であり、戸惑う雪ノ下に構わずスキンシップを続けている。戸惑いこそすれ、頬を染めて恥じらう様子を見ていれば、雪ノ下も満更ではないのがわかる。昼休みも一緒に過ごしているようだし、こいつらもう完全に百合ってる。実に尊い。
依頼を通じて雪ノ下が得たものは、雪ノ下自身がその手で受け止めたたからこそ意味を持ち、価値のあるものとなったのだろう。
であるなら、俺が得るはずだったものがあったのだとしても、手にしていないそれに意味はないと言える。
とはいえ俺も雪ノ下も参照するサンプル(友だち)を持っていない以上、結局は憶測でしかない。だからこそ、たとえ得るものがあろうとなかろうと、由比ヶ浜との出会い自体には意味があるのかもしれない。
そんな答えの出ないことを考えては打ち消し、文字を追っていく。
すると静寂を破るように勢いよく扉が開かれた。
「入るわよ」
偉そうに入ってきたのは、俺の家族であり、部外者のハクアだった。
「…ノックをしなさいといつも言っているでしょう。いい加減日本のマナーも覚えなさい」
「いいじゃない。私もここの関係者なんだから」
「あなたは部員ではないと言ったはずだけれど…それの身元引受人ということであれば、無関係とは言えないわね」
「…ちょっと?勝手に犯罪者にするのやめてくんない?」
なに、ここ刑務所なの?強制的に収容されてるし、恐い看守もいるし、あながち間違ってねぇな。いや犯罪者じゃないけど。
「あはは…ハッちゃん、やっはろー」
苦笑しながら迎え入れる由比ヶ浜に、ハクアは「結衣」と軽く手を上げて答えながら、今や定位置となっている俺と由比ヶ浜の間に座った。部外者のくせに手慣れている。
上から目線で「手伝ってあげる」などと宣言していたハクアだが、雪ノ下が言ったようにこいつは部員ではない。この組織のトップである雪ノ下が入部を認めていないからだ。最初から拒否ってたしな。
なにせ雪ノ下とハクアは相性が悪いのである。
共に負けず嫌いの2人は事あるごとに言い争い、そしてその度ハクアは負かされている。雪ノ下の罵倒は俺の折り紙付きだ。ハクアが勝てるはずもない。ていうかこいつちょろいし。
最初の強気は見る影もなく、ハクアは精々「お前きらい!」と捨て台詞を吐くぐらいのことしかできないのであった。子供か。
まあそういうわけでハクアは部員ではないのだが、こうして勝手に入ってきては雪ノ下とやり合ったり、由比ヶ浜とお喋りしたりと、この部屋をやかましくしている。女3人寄れば姦しいとはよく言ったものである。ハクア1人でも十分うるせぇけど。
由比ヶ浜との雑談に一区切りつくと、ハクアは身を乗り出して雪ノ下を見据えた。
「雪乃。もうすぐテストがあるわね」
「そうね。それが何か?」
「私、勉強には自信があるの。勝負しなさい!」
負けっぱなしのハクアは、どうやら今度は自分の得意分野で勝負を持ちかけるらしい。学生の鏡だな。悪魔なのに。
「あなた、マナーだけでなく身の程も知らないのね」
「でも、ハッちゃんすごい頭良いよねー」
息巻くハクアをまるで相手にしていない雪ノ下だったが、由比ヶ浜が何気なくこぼした言葉を受けてすぅっと目を細めていく。そんな雪ノ下の様子をすぐに察した由比ヶ浜は、わちゃわちゃと手を動かしながらすかさずフォローに入った。
「や、そ、そりゃゆきのんもすごいけどね!?えぇと、なんていうか……うん。2人ともすごい!」
「…由比ヶ浜さん。この無作法者と私を一まとめにしないでくれるかしら。心外だわ」
「ちょっと結衣!私が雪乃に負けるっていうの!?」
「い、いやー、そういうんじゃないんだけどー…ひ、ヒッキー!」
2人の間で責められて困り果てた由比ヶ浜は、泣きそうな声で俺に助けを求めてきた。俺に投げんな。
ていうか雪ノ下さん。ハクアの味方されて怒るなんて、随分由比ヶ浜のこと好きになったんですね。
「…まあなに。勝負してやれよ。減るもんもねぇんだし」
「そうかしら。少なからずハクアさんの虚勢は減ると思うのだけれど」
「どうして私が負けることになってるのよ!」
小首を傾げて事もなげに言う雪ノ下に、ハクアはガタッと立ち上がって噛み付くように大声を上げた。
お前、皮肉も理解できるようになったんだな。伊達に雪ノ下の罵倒を受けてきていない。
そんなハクアに褒美というわけでもないが、俺は軽く援護してやることにした。
「まあ、そうなってくれると俺も助かるんだがな」
「…引っかかる言い方ね」
「別に雪ノ下ともあろうものが負けるとは思ってねぇよ。ただ、他人は信用しない主義なんでな」
「虚言は吐かないと言ったはずよ。私が勝つと言ったら絶対に勝つわ。…どんな手を使ってでも」
ニヤリと笑みを浮かべてこちらを睨む雪ノ下から、俺は反射的に目を逸らしていた。
恐すぎる…何するつもりだよ。雪ノ下なら不正を働くことはないだろうが、勝負の前に相手の戦意を奪うぐらいのことは普通にやりそうで恐い。
まあとりあえず煽れたことだし、あとはお前次第だ、とハクアを見るとこちらの負けず嫌いさんはジト目で俺を睨んでいた。
「…八幡も私が負けると思ってるの?」
…なんだよやっぱりお前察し悪いな。もっと勉強しろよ。他人は信用しないって言っただろ、家族なら察しろ。
ハクアは拗ねるようにふいっと俺から目を逸らし、立ち上がって雪ノ下の側へと歩み寄る。
「私、絶対負けないから。勝負よ雪乃!」
「いいでしょう。その安い自信を打ち砕いてあげるわ」
互いを睨みつけるハクアと雪ノ下は、自信に満ちたそっくりな表情で勝ち気に笑い合っていた。
顔を突き合わせればやり合っている2人だが、要するにこいつらは似た者同士なのだ。
負けず嫌いなのはもちろん、嘘がつけず、人付き合いが下手で、正しさを貫くその姿勢。おまけに声まで似てる。
「お互いの正義がぶつかった時は勝負で決めるのが習わしだ」とどこぞの少年漫画好きな教師も言ってたし、こいつらが正しいのなら争うのはきっと必然なのだろう。
まあ、正義がどうとか言えるほど高尚なものでもなく、やってることはじゃれあい程度だが。こいつら実は仲良いんじゃないの?
或いは、こんな出会いにも意味があるのだろうか。
無責任にも俺はそんなことを考えてみたりした。やはり憶測でしかないことだ。
「仲良くしようよ…」と力なく笑う由比ヶ浜につられたのか、俺は思わず笑みを溢していた。
× × ×
風呂から上がると、リビングにはくつろぐハクアと小町の姿があった。
ハクアは勉強に勤しみ、小町は我が家の飼い猫、かまくらを抱いてバラエティ番組に笑い声を上げている。
どっちが受験生なんだか…。
「こんな問題100年前に習ったわ。人間のテストなんて楽勝ね」
…お前もう少し気使って発言しろよ。小町に聞かれるだろ…テレビに夢中で聞こえてないようだが。ていうか勉強なら部屋でやれ。
ハクアの側まで近寄って机の上を覗き込んでみる。
「…え、なにこれ。何の教科?」
「数学よ」
「こんな数字は存在しねぇよ…」
広げているノートには、謎の文字がきっちりと整って書き連ねられている。言われてみれば数式に見えなくもないが、内容はさっぱりだ。
こんなんで雪ノ下と勝負になるのか…と疑いの目を向けると、ハクアは得意げに笑みを浮かべた。
「ちゃんと日本語も書けるわよ。獄語を使うのは勉強中だけだから」
「…ならいいんだが」
あれか。暗記する時に殴り書きして覚えるようなもんか。
まあノートなんて自分だけ読めりゃいいしな。
「…お兄ちゃんたちさぁ、時々何言ってるかわかんないよね」
こちらに関心のなかった小町は、いつの間にかソファから身を乗り出して話に入ってきていた。
俺もハクアのこと言えねぇな…。
「いや、まあ…あれだ。人それぞれ勉強法があるってことだ。お前も勉強しろ」
「そ、そうよ!小町も勉強しなさい!」
「うぅ…姉弟揃って嫌なこと言う…」
誤魔化しにお小言を言ったが、小町もそろそろテストのはずだしちょうどいいだろう。
「わからないとこあったら教えてやるから聞けよ」
「うん、そうするー。ハクアさんに聞くね」
「もう。しょうがないなぁ」
しょうがないなんて言いつつ、ハクアは飛びつく小町を受け止めて柔らかく微笑みかけていた。
小町…お兄ちゃんにはもう甘えてくれないの?くっそ、この悪魔早く出てけよ。そこ俺の場所だから。
「…まあ、今日は遅いからもう寝ろ」
「そだね。明日から頑張る」
それはやらないやつの台詞だ。そんなとこばっかお兄ちゃんに似るんじゃねぇよ。
机の上を片付けるハクアを見ながら、小町は感心したように言葉をこぼした。
「真面目だねー」
「ああ。バカがつくほどな」
「…お兄ちゃんもだよ」
ぷっと笑いながら生意気なことを言う小町に、辟易しながら「うぜぇ…」と言葉を返した。
1日を終えた俺は、自室のベッドてぼーっと天井を眺めていた。
平和だなぁ、と口の中だけでつぶやく。
ハクアが来ても変わりなく日々は進み、日常生活に大きな支障もない。悪魔一匹の闖入なんてきっとこの世界には些細なことでしかなく、上手く回るようにできているのだろう。悪魔がいてもいなくても俺がぼっちなのはどうせ変わらないし。
なら、このまま過ごすのも悪くはない。
いやー平和平和と結論付けたところで、ノックもなしに威勢良くハクアが入ってきた。
「ちょっと!駆け魂は!?」