やはり俺の駆け魂狩りはまちがっている。   作:リルラ

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FLAG.9 夢をのせて、悪魔のお仕事が舞い降りる。

 

 

 

視線を逸らしてなるべく悟られないよう、俺はハクアに言葉を返した。

 

「あー…それ、駆け魂な。忘れてねぇよ、うん。まあなに、前向きに検討してやれたらやるわ。そのうちな」

「全然やる気ないじゃない!」

 

即バレだった。さすがにこいつでもわかるか。

いや、ほんとに忘れてたわけじゃないよ?頭の片隅にはあったよ?まあやる気はないんだけど。

しかしこちらとしても致し方ない理由がある。

 

「…一応聞くが、残りの駆け魂は何匹になった」

「6万匹ぐらいよ」

「変わってねぇじゃねぇか…」

 

以前、ハクアにこの契約がいつ終わるのかを聞いた。その答えは「人間界の駆け魂をすべて捕まえたら」という至極簡潔なものだったわけだが、そのすべての駆け魂の数がこれである。

 

終わるわけねぇだろ…6万匹って数もそうだが、ぐらいとか言っちゃってる辺りがもうやばい。絶対把握できてないだろ地獄…。

大体こういうのって、一人頭何匹とかノルマがあるもんじゃないの?全部終わるまで解放されないとか缶詰かよ。

駆け魂隊の数も「それなりにいる」とか超曖昧だし、たぶんこれ一生終わんねぇ。

そう悟った俺は、早く終わらせて日常を取り戻すという目標は諦め、この生活を日常と思い込むことにした。

 

「お前みたいなやる気のないバディーがいるから減らないんでしょ!」

「俺一人ぐらい変わらんだろ。だから俺は働かない」

「私は働きたいのよ!」

「家で働いてるじゃねぇか。掃除とか洗濯とか。あとは料理でも覚えれば立派な専業主婦だぞ。よかったな」

「私の仕事は駆け魂を捕まえることなの!!」

 

ハクアは声高に叫びながら、「お手伝いも好きだけど…」とぼそぼそ付け加えた。どんだけ働くつもりだお前は。やっぱり地獄は社畜養成所なのかもしれない。正しく地獄だな、それ。

 

こいつの労働欲は満たされていないようだが、別に俺たちはこの1ヶ月何もしてなかったわけではない。

 

「奉仕部の活動はしてただろ。お前との約束通り、一応悩みも解決してきたし」

「…誰の悩みよ」

「材木座に葉山に…あとは戸塚だな」

「男ばっかりじゃないの!」

 

はっ…何言ってんだこいつは。ちゃんと話聞けよ。そんなんだからコミュ障だと思われんだよ。

 

「戸塚がいるだろ。戸塚だぞ、戸塚彩加。わかってるか?」

「まだ言ってる…彩加は男でしょ。駆け魂の反応もないわ」

「センサーに反応しないよう隠れてるかもしれないだろ。油断するなよ。戸塚の駆け魂は俺が出してやるからな!」

「…無駄なやる気ね」

 

戸塚の心の隙間は俺が埋めるんだ…!

まあ戸塚が男だとかいうのは些細なことだとしても、戸塚は天使なので悪魔に取り憑かれることはないのかもしれない。

 

「せっかく活躍できると思ってたのに…どうして奉仕部に男なんか来るのよ。意味ないじゃない!」

 

無茶苦茶言ってやがる…。別に奉仕部は女子限定の相談所じゃねぇんだから、そりゃ男だって来るだろ。まあ男の悩みがどうでもいいのには同意だが。男の悩みなんて大体はモテたいだし。

 

「お前も結構乗り気でやってたじゃねぇか」

「そ、そんなことないわよ!」

 

ハクアは奉仕部に所属こそしていないが、依頼があれば手伝いに来ていた。もちろん勝手にだ。

材木座の小説擬きを読まされた時には悪魔について熱く語っていたし、戸塚のテニス特訓では「人間は中々面白いこと考えるわね!」と初めてのテニスをただ楽しんでいた。

葉山の友達に対するチェーンメールには、その汚い行為に腹を立て、クラスで大っぴらに犯人探ししようとするのを俺が何とか止めた。

…こいつ何にもしてねぇな。役に立ってないどころか邪魔してるまである。材木座の時とか庇うの超面倒だったし。

 

ハクアの言う通り駆け魂狩りとしての成果は当然なかったわけだが、その代わり、こいつ実際の駆け魂攻略でも役に立たないんじゃないの?と俺が疑いを持つには十分だった。

やっぱりやりたくねぇ…。

 

「まあ奉仕部に駆け魂が現れない以上、俺にはどうしようもない」

「少しはお前も探しなさいよ!」

「いや、センサーもないのにどうやって探すんだよ…」

「明日から私と行動しなさい」

 

…意味あんのか、それ。

奉仕部員でないハクアは、どうやら放課後は駆け魂を探して校内を回っているらしい。それでも見つからないということは、学校に駆け魂がいる可能性は低い。ハクアが勝手に探すのは構わんのだが、俺がいたところで何か変わるとは思えない。

しかしまあ俺に本気で探すつもりもないので、特に進言しないでおく。ハクアを納得させる妙案もないし、従った方が早い。こいつとの言い合いほど面倒なこともないのだ。とりあえず一緒に学校回ってやれば文句も言わんだろ。

 

「わかったわかった。少しだけな」

「約束よ」

 

「おやすみ」と呟いて部屋を出ていくハクアを見ながら、軽くため息を吐いた。

働きたくねぇ…どうかこのまま駆け魂に出会いませんように。

 

 

× × ×

 

 

「行くわよ!」

「…早ぇよ」

 

明くる日の昼休み。

いつも通り昼食場所に移動しようとする俺を、仁王立ちするハクアが遮った。

おい、探すのは放課後じゃなかったのかよ。昼休みは休むから休みって言うんだぞ。なんで働かなきゃいかんのだ。

 

「放課後になると帰る生徒もいるでしょ。だから今探すの」

 

…意外と正論だ。

こいつも一応考えてるんだな、感心した。えらいえらい。だが今はやりたくない。なぜなら休みだからだ。ていうか昼飯ぐらい食わせろ。

何が楽しいのか目を輝かせてわくわくするハクアは、俺の話など聞きそうにもない。こいつは納得させるには…と逡巡した後、俺は口を開いた。

 

「…わかった。思い当たる場所があるからついて来い」

 

黙って頷くハクアを引き連れて、目的の場所へと向かう。

 

 

「どこに行くの?」

「屋上だ」

「…は?そんなとこに人がいるわけないでしょ!」

 

ちょ、やめろ。近いっての。人いるから恥ずかしいだろ。

掴みかかってくるハクアを払いのけ、俺はゆっくりと説いてやる。

 

「…いいか。お前が探してるのは心に隙間があるやつだろ」

「そうね」

「なら、闇雲に校内を回るより、そういうやつがいそうな場所を探した方が早い」

「…その場所が屋上?」

「昼休みは普通のやつなら教室で友だちと飯食ってるだろ。その時間に屋上とか人が少ない場所に居るってのは、それなりに悩みとか事情があるやつだ。…クラスに居場所がなかったりな」

 

例えば俺とか。いや、別に悩んでもないし心に隙間もないけど。

 

「…それ、お前のことじゃない」

 

…わざわざ言うなよ。哀れんだ顔やめろ。俺は違うから、1人超好きだから。だからお前も近づくな。

ハクアを納得させるために敢えて断定するよう言ったが、俺のように好んで1人になろうとするやつだっている。

しかしそれでも確率は高いだろう。誰しも考えごとがある時は1人になりたいものだ。或いは、友だちとうまくいかずに悩んでいるやつだっているかもしれない。人間関係の悩みは心に隙間を作るのには十分に思える。

 

ハクアは俺をまじまじと見て、得心したように深く頷いた。

 

「確かにお前の腐った目は駆け魂がいてもおかしくないわね…。わかった、屋上に行くわよ」

 

俺の目を説得材料に含めたつもりはないんだが…納得したようだし、まあいい。

それっぽいことを言ったがほとんどでまかせだ。そもそも屋上には入れないし。

屋上までの距離はそれなりにある。そこまで行けばハクアも納得するだろう。今日のところは、とりあえず探した事にしてやり過ごそう。

明日からは…明日考えるか。働かないためなら俺は何だってする。

 

× × ×

 

 

屋上へと続く踊り場には、使わない机が乱雑に積まれており、人1人通るのがやっとという状態だった。

「本当に人なんかいるの?」とハクアは疑ってくるが、もちろんいないだろう。…と始めは俺も思ったのだが、扉に目をやると普段は施錠されているはずの南京錠が外れてぶら下がっている。どうやら本当に人がいるらしい。

ここまで来てしまった以上無視して帰るわけにもいかず、俺とハクアは机の隙間を通ってなんとか扉の前にたどり着いた。

もしかして不良の溜まり場なのかしら…と内心びくびくしながら扉を開ける。

 

人がいると思われたそこには誰の姿もなく、澄んだ青空だけが広がっていた。

 

「…やっぱり誰もいないじゃない」

「そうみたいだな」

 

横目で睨んでくるハクアから目を逸らして、もう一度注意深く周囲を見渡してみる。すると、屋上よりさらに一段上に続く梯子がかかっているのに気づいた。梯子を登らせるようにして視線を運び、高台の上へと目を向けた。

 

そこには、給水塔にもたれかかる女生徒の姿があった。

彼女は覇気のない瞳で、気だるそうにぼんやりとこちらを見下ろしている。

 

思わず目を合わせてしまったもののかける言葉もなく、直ぐに目を逸らそうとするが、しかしそれさえも叶わなかった。

 

いつかのように突風が吹き付けた。

風と共に現れたのは、悪魔のような漆黒ではなく、夢と希望に満ちた繊細な黒。

時間にして一瞬、されどその光景はしっかりと目に焼き付いている。

他の何を忘れても、きっとこの瞬間の出来事だけは忘れない。

 

この熱い気持ちを表す言葉を俺は知らないが、起きたことを端的に言えば、スカートがめくれたのである。

 

「……どこ見てるの」

「い、いや、待て、誤解だ不可抗力だ。俺は悪くない。社会が悪い」

 

ハクアの声で現実に引き戻された俺は、責められる前に咄嗟の弁明をしていた。

いや本当マジでわざとじゃないから。そんな目で見るな。でもよくやくったこの風。

 

「…バカじゃないの?」

 

夢に思えた彼女は紛れもなく現実だった。

俺たちの側まで来ると、ややハスキーな声でやはり気だるげに吐き捨て、青みがかったポニーテールを揺らしながら通り過ぎていく。

彼女は一切振り返ることなく扉の向こうへと消えていった。

 

「黒のレース、か…」

 

ため息混じりの呟きは、「ドロドロドロ」という奇怪な音にかき消されて霧散した。

 

 

× × ×

 

 

川崎沙希。

それが、黒のレース…いや、駆け魂が憑いた彼女の名前である。

 

ハクア曰く、彼女は俺たちと同じ2-Fに所属しているらしい。こいつは俺と違ってクラスメイトの名前覚えているようだった。

ていうかクラスメイトならわざわざ探さなくても出会ってたんじゃねぇか…まあ、来てよかったとは思っている。何がとは言わないけど。

 

「…それで、どうするつもりなのよ」

「いや、どうすると言われてもな」

「何よそれ!お前が止めるから残ったんじゃない!」

「そりゃ止めるだろ…」

 

今、俺たちはそのまま屋上に残っている。

「川崎沙希!」と名前を叫んで一目散に追いかけようとするハクアを、なんとか宥めてここに留まった。

こいつこそ絶対なんも考えてなかったし…いきなり詰め寄ったら怪しまれるだろうが。

まあクラスメイトということなら声をかけるぐらいは問題なかったのかもしれないが、さっきのこいつの勢いだとその程度では済まなかっただろう。「お前の悩みを解決してあげるわ!」とか言い出しかねなかった。

 

バディーに任せるって話じゃなかったのかよ。どんだけ駆け魂待ち望んでたんだお前。

しかし悪いがこっちは違う。働くなんて真っ平御免だ。

まったく、なんで早速出会っちゃうかね…。

 

「…とりあえず、あいつの悩みを探らないとな」

 

働きたくはないのだが、見つけてしまっては攻略せざるを得ない。

…別にパンツ見た後ろめたさからじゃないよ?あれは不幸な事故、もとい運命の悪戯だ。

全然マジで後ろめたくはないんだけど、俺は施しを受ける気はない。よってラッキースケベも受け取らない。なら、せめて駆け魂攻略でお返ししなければ俺の主義に反するのである。

それにまあ、ハクアから駆け魂の危険性とやらも聞いてるしな。由比ヶ浜の時に実際にこの目で見ているし、それを知りながら見て見ぬ振りをするのも後味が悪いというものだ。

 

「クラスメイトなんだろ。何か知らねぇの?」

「お前も同じクラスでしょ…。私もよく知らないけど」

 

何だよ使えねぇな。しかしそれについては、顔すら知らなかった俺には何も言えるはずもなかった。

 

「なら、誰か仲良いやつとかはどうだ」

「知らないわ。あいつほとんど人と話してなかったし…お前と一緒ね」

「余計な情報挟むんじゃねぇよ…」

 

雪ノ下みたいにいい笑顔するのやめろ。あいつと違って捻りがない分普通に腹立つ。

 

とにかく、今の所ほとんど手がかりはないに等しい。

しかしそれでも、どことなく不良っぽさを感じさせる見た目の雰囲気から、川崎の攻略が難題であろうことはわかる。

不良少女の悩みとか絶対厄介でしょ…。これ、更生させないと駆け魂出ないとかなの?何八先生だよ。腐った目の俺が腐った蜜柑に何を説くって言うんだ。

 

まあ、見た目だけで決めつけるのもよくない。何事もやってみてから諦めるもんだ。「押してダメなら諦めろ」って言うしな。

 

「悩み以前に、あいつ自身を知る必要があるか…」

「私が接触してみるわ」

「…大丈夫か?」

「私、駆け魂隊よ?それぐらいできるわよ」

 

関係あるのかそれ。それともそういう教育でも受けてるのか…普段のこいつを見る限りそれはなさそうなんだが。

半信半疑でハクアを見やると、「あのタイプのスキマのでき方は…」と何やら反芻しながらブツブツ呟いている。

 

まあいいか。俺がクラスの女子に話しかけるなんて無理だし、その点ハクアなら遥かにハードルは低い。駆け魂隊としての実力なんざ知らんが、同じクラスの女子というアドバンテージを利用しない手はない。

 

「じゃあそれで」

「…投げやりに聞こえるわね」

 

何だよ、一応お前の案に乗ってんだからいいじゃねぇか。

べ、別に働きたくないわけじゃないから。これはあれだ、ワークシェアリングだ、アウトソーシングだ。ほら、俺たちバディーじゃん?助け合わないと。

 

「いやまあ…なに。無理はすんなよ」

 

がしがし頭を掻きながら、世話の焼けるバディーに言葉をかけてやる。

 

「…任せなさい!」

 

みるみるやる気に満ちていったハクアは、胸を張りながら腰に手を当て、堂々と言い放った。

何よりそのやる気が心配なんだよなぁ…。

 

 

× × ×

 

 

うん、知ってた。そんな上手くいくわけないよな。今回はちゃんと慢心してなかった。

 

任せなさいと言ったハクアは宣言通り、昼休みの残りとその後の休み時間、懸命に川崎と接触を試みていた。

そして、その成果はほとんど出ていない。大体が適当にあしらわれて終わっている。

ていうか色々考えてた割にいつもと態度変わってねぇんだけどあいつ…。「握手してあげる」って久々に聞いたな。

まあハクアの偉そうな声のかけ方にも問題はあるだろうが、川崎自身に取り合うつもりが感じられない。あの様子なら誰が相手でも同じだろう。

 

教室での川崎を観察してみたところ、確かにハクアが言っていた通り、誰とも話していなかった。

ホームルームの今、窓際の席に座る彼女は気だるげにぼーっと窓の外を眺めている。まるで興味なさそうなその態度は、やはり不良少女のそれと言えるのだろう。

しかし授業中はそうではなく、比較的真面目に聞いていた様に思う。

別に勉強好きな不良少女が居てもいいんだが…その辺りに何か悩みを探る手がかりがあるのかもしれない。

 

そんなことを考えている内にホームルームが終わり、教室内には喧騒が広がっていた。

さっさと帰り支度を済ませて立ち上がる川崎の下に、ハクアは性懲りも無く声をかけにいった。

 

「沙希!待ってよ!」

「…なに?忙しいんだけど」

「ちょっと話すぐらいいいでしょ」

「あんたもしつこいね。別に話すことないから」

「こっちにはあるのよ」

 

諦めの悪いハクアに川崎は苛立ちを隠そうともせず、舌打ちをして深くため息を吐く。

 

「…何疑ってるか知らないけど、人のこと詮索するのやめてくれる?」

 

敵意をむき出しに睨みつけられ、ハクアはバツが悪そうに言葉を詰まらせる。川崎はそのままハクアの横を通り過ぎて教室から出て行った。

 

めっちゃ警戒されてるじゃねぇか…。

こんな状態じゃあ悩みを聞き出すどころじゃない。さすがにハクアもそれがわかったのか、少し落ち込んだように俯いている。だから無理すんなって言ったんだ…。

まあ話は聞きづらくなった代わりに、何か警戒するだけの事情がありそうだという情報は得られた。そいつが分かれば川崎の悩みにも近づけるだろう。

問題はどうやって探るかだが…直接当たれないとすると、ハクアの透明化で尾行とか、そんなところか。少々気は引けるがそうも言ってられない。

 

「どうしたの?」とお友だちに心配されながらこちらを窺っているハクアに、俺は目配せして教室から外に出た。

 

「ヒッキー」

 

廊下で少しの間待っていると、声をかけてきたのはハクアではなく由比ヶ浜だった。

何だと目で問うと、由比ヶ浜は顔を下に向けたまま上目遣いで言葉を続けた。

 

「あ、えーっと…部活、行かないの?」

 

そうだった…まあ今日のところは休んだ方がいいだろう。たぶんハクアがうるせぇし。

 

「あー…悪い。用事あるから今日休むわ」

「そうなんだ。ハッちゃんと?」

「ああ、まあそんな感じだ。雪ノ下にも言っといてくれ」

「わかった。伝えとく」

「すまん」

 

由比ヶ浜はぶんぶんと首を振り、まだ話があるのかそこから動こうとはしない。少しの間があった後、俯きがちにおずおずと口を開いた。

 

「そ、その用事って…」

「八幡ごめん!お待たせ」

 

言いかけた由比ヶ浜の言葉は、教室から出てきたハクアに遮られる。

ハクアには適当に返して由比ヶ浜に続きを促すと、首を横に振りながら「なんでもない」とぎこちなく微笑んだ。

そんな由比ヶ浜の様子に俺もハクアも訝しんでいたが、「じゃあ、部活行くね」と小さく手を振ってその場を去っていった。

 

「何か話してたの?」

「…いや、特には」

「そう」

 

後ろ姿が見えなくなるまで由比ヶ浜を見送ると、俺は無意識に小さくため息を吐いていた。

 

とりあえず。

終わった攻略よりも、今は目の前の駆け魂だ。

 

 

 


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