広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速。

繁体字は漢文の読み方と固有名詞に気をつければ一応分位は取れるみたい。


広西大洗奮闘記 85 ひこうき

貴州省

…………………湖南省・・・・・・・・・

・・・⑤・…・・・・・江西省・・・・

広西省・・………………………………福建省

・④・・…・・・・・・・・・・…・/

・・・…・・・・・・・広東省・・ー==

…………・・・・①・・・・・・・/===

・・・・・・・|\・・・・・ー=====

ーーーーーーー⑥==③ーーー/======

===========================

============②==============

 

①広州

②万山群島

③香港

④柳州

⑤桂林

⑥マカオ

 

・・・陸

=====海

…………省の境界線

上は参考までに製作した広東省、広西省西部の概略図だ。縮尺などがあってる保証はないことをご理解頂きたい。

 

航空学校が併設された柳州の飛行場は町の中心街の南方にある。柳州は広西省の中心に近いところにあり、市内の真ん中を蛇行する西江の支流柳江が通過する。それ故広西省周辺の交通、物流の拠点となっており、ここから多くの農産物が消費地広東に向けて下っていく。

かといって政治の中心はかつての省都南寧か両広政務委員会移行時に中心となる桂林であり、文化的な中心地は桂林である。私たちがここに来るのはこの先も交通の中継地点としてだろう。

白雲飛行場よりもさらに揺れる滑走路に身を委ねた後、飛行機は段々と速度を落としていった。そこから誘導に従いある場所で停止する。

制服が引っかからないように気をつけてながら飛行機から降りると、飛行機の足元に脚立を出していた若い訓練兵が敬礼を示してきた。降り終わった私も足を揃えて返す。

どうやら軍務関係者には一応私が新たなトップになることがそこそこ受け入れられているようだ。もっとも軍の指揮に私が関われるはずもないが。

私は冷泉ちゃんと共に、その襟があまり固くなさそうな軍服を着た訓練兵に連れられて施設に誘導される。まずは広西空軍施設の視察を行うのだ。周りには複葉機が多く見える。というより飛行機はそれしかない。

誘導された先には他の者とは少し違う、自動車部を思い起こさせる服を着た人が待っていた。その者は私の姿を捉えると、持っていた手袋を外す。

「你是角委員長嗎?

(あなたが角委員長ですか?)」

「這位是那個人。

(この方がそうです。)」

向こうが差し出して着た手に私も応じる。

「我是角。請多關照。

(角です。よろしくお願いします。)」

この程度なら私でも対応できる。しかしこの程度だ。これまでに何十回と人と話してきたのに、現状此れに毛が生えた程度しか話せない。故に隣の人に頼ることになる。

「我是朱。廣西航校柳州機械廠總工程師。因為此次有李先生的請求,我引導這裡。

(朱と申します。広西空軍柳州機械工場の総工程主任を務めています。今回は李さんの要請により、ここをご案内します。)」

案内に従って格納庫や整備施設などへと足を運ぶ。周りを山に囲まれた中の片隅にある平地。この取り残されたような地では、北からの敵機来襲には不利ではないのだろうか。

この施設は1年前に完成したばかりだが、設備としては広東のものにすら見劣りするうえ、機械は既に中古品の雰囲気を漂わせている。仮に戦争状態に入っていたら、損傷機体が続発し、その整備に時間がかかってしまうだろう。その間に空爆されたら終いだ。

辺りを見回すが、機体が多様だ。銀色のものがあるかと思ったら茶色のものまで。大きさも大小様々で、展覧会だって開けそうだ。そのことについて冷泉ちゃんを通じて伝えてもらう。

「機體的種類為使多能看到,不過?

(こちらも機体の種類が多いように見受けられますが?)」

「是。我們的空軍主要從英國和日本導入機體,英國人和德國人的顧問的指導一邊受到持續訓練。機體的種類從學生用的訓練機到戰鬥機,計50架也備齊。

(はい。我々の空軍は主にイギリスと日本から機体を導入し、イギリス人とドイツ人の顧問の指導のもと訓練を続けています。機体の種類も学生用の訓練機から戦闘機まで、計50機ほど取り揃えてます。)」

「戰鬥機的細目變成怎樣?

(戦闘機の内訳は?)」

「是來自日本的九一式戰鬥機9架,甲四型戰鬥機10架,來自英國的Armstrong・WhitworthA161架20架。前和牛虻俄626存在,不過,現狀只是這個。

(日本からの九一式戦闘機が9機、甲四型戦闘機が10機、イギリスからのアームストロング・ホイットワースA16が16機の35機です。前はアブロ626とかも有ったのですが、現状はこれだけですね。)」

日本に抵抗するには心もとないが、地方の軍閥が形の上で揃えているだけでもマシなのだろうか。というよりかなりが日本機なのだが、これは兵士の心情から考えて良いのだろうか。

「因為以此次的協定來自日本的支援斷絕,日本的機體的零部件不足被預料。即使進行了生產,如果戰爭開始全然也不夠。

(この度の協定で日本からの支援が途絶えた影響で、日本の機体の部品が不足することが見込まれます。生産を行ったとしても、戦争が始まれば全然足りません。)」

「與日本和中國的開戰想儘可能推遲。機體與廣東聯合,儘可能統一想形式導入,不過,壞,不過只是我的權限沒辦法。那麼說來那個幾?

(日中開戦はできるだけ遅らせたいですね。機体は広東と合同で、形式を出来るだけ統一して導入していきたいですけれども、私の権限だけではどうにもなりません。そういえばあれは何ですか?)」

私は少し離れたところにある機体を指差す。機体といっても他と異なり、木製の枠組みだけで、色も塗られずに外晒されている。

「那是我們的新型機的模型。為參考設計著九一型,不過,為能實戰投入是還前頭吧。

(あれは我々の新型機の模型です。九一型を参考に設計していますが、実戦に投入出来るのはまだまだ先でしょう。)」

「作為暫時那個完成了,能提高那個機體的生產率嗎?

(仮に完成したとして、機体の生産性を高めることは出来ますか?)」

「嚴厲。機器也不夠,如果即使能增加生產量,使用那個的飛行員的數也不夠。

(厳しいですね。作る機械も足りませんし、なんとか増やしたとしても、それを使うパイロットの数が足りません。)」

「是那樣嗎……

(そうですか……)」

そこからは航空学校の校舎などを視察した。広東のそれがコンクリート造りだったのに比べて、こちらは木造。環境的にも恵まれているわけでもないだろう。その中でも時々すれ違い敬礼する兵士の目には、確実に光が見えた。鏡を見たい。

この視察中に別の飛行機が同じ滑走路に着陸したような音がした。訓練機かと尋ねたが、どうやらそのような予定はないそうだ。だがここに来るのは我々だけではないだろう、とあまり気にしなかった。

 

道に面した出口で見送りを受ける。用意された車に乗り込み、冷泉ちゃんを引っ張り上げると、手を振りながら別れを告げた。車は市街地の東を通って迂回し、山の中を川に沿い、ときに離れつつ北東へ登っていく。

桂林までは約180km。だが道は曲がりくねっており、おまけに整備も万全ではないので、時間がかかる。平地の直線道路で40km、山道だとスピードが落ちるし、窓から枝が入りかかる。初老の白髪の運転士から、乗る前に外に手を出さないようにとは言われたが、そんなに子供ではないし、何より出す気にもならない。

私は暫く枝に注意を払いつつ、広東語の教本に目を投じていた。隣はただ漫然と窓の枠に肘をつき、外を眺めている。車はかなり揺れる。日常的に船の上であったことを、密かに感謝した。

だいぶ走っていると、暗くなった空を背後に町が浮かび上がってきた。

「那個是桂林的街。如果已經暫梳子增加到達李閣下的貴府。

(あれが桂林の街です。もう暫くしたら李閣下のお宅に着きますよ。)」

運転士へ尋ねさせると、そう帰ってきた。これまで見てきたのか上海、広州という大都市だったからか、そこに僅かに漏れ出る光はとても小さかった。

そこへ続いているであろう道から外れ、北へ進んでいく。左手に池を見て、それを見送った後、車はスピードを落とし始めた。着いたころには完全に陽が沈んでいた。広州を出てから半日以上が過ぎていた。

正面にそびえ立つは巨大な灰色の石の壁。高さは10メートル近いだろう。窓はその壁の真ん中やや上に、高さ1メートル、幅は50センチほどと思われるものが入り口を挟んで左に2つ。あとは右の長い壁の同じ高さに延々と付いている。日本の城の狭間を彷彿とさせる。

運転士が扉を開け、冷泉ちゃんから先に降りる。扉の前には出迎えと思われる使用人がおり、運転士と話をした後我々を手で奥へと案内した。

入り口を通り抜けると中庭があり、赤く塗られた柱と、石と木が備えられた庭が光に照らされている。その回廊を通り抜けると、ある部屋に案内された。客間のようで椅子が用意されている。背負っていた荷物を胸元に抱え、ご主人の来訪を待った。

直ぐに例の方が目の前に現れた。李さんである。

「Chairperson Jue, welcome to my home.

(角委員長、ようこそ我が家へ。)」

「I'm bothering you. I'm not a chairperson yet.

(お邪魔しております。まだ委員長ではありませんが。)」

お互いに握手を交わす。李さんとは通訳なしで話せる為、少しは話しやすい。

「I visited an astronautics school in Liŭzhōu and spent very meaningful time.

(本日は柳州の航空学校を訪問しまして、非常に有意義な時を過ごせました。)」

「That's above all. Now, it's before time of the dinner, but Xià, he is my subordinate and was going to Guangdong, has brought something fascinating home. You wouldn't see yet. Do you see it?

(それは何よりだ。さて夕食の前に何だが、広東に行かせていた部下の夏が面白いものを持って帰ってきたのだが、あなた方はまだ見ていないだろう。見るか?)」

「What is that?

(それは何です?)」

「That's candidate draft beer of military personnel's evaluation table from your school.

(あなた方の学園から来た軍人候補生の評価表だ。)」

「I see, it seems fascinating. I don't have a mind to interrupt, so may I show it to me?

(なるほど、面白そうですね。口出す気は無いので、見せていただいてもよろしいですか?)」

「Please follow me. It's in my office.

(付いて来てくれ。執務室にある。)」

今度は冷泉ちゃんも一緒に李さんの背中に続く。廊下を歩いて直ぐ、鍵のかかった扉を開いて中に入ると、正面の大きな机が我々を出迎えた。

「That is this.

(これだ。)」

李さんは厚い紙の束を手に取った。




次回予告

成績と肉

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