広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。

未来など、必要ない。


広西大洗奮闘記 82 太陽光発電

12月に入った。日本では初の年賀郵便切手が発売されているというが、こっちは年賀ハガキを送る必要のある人間もいないのだから大したことではない。ただ生徒会は本日も住民の安全、安心と配給や動員の管理に気を配っている。

昨日夜、航海を経て輸送船が多くの情報を携えて広州から帰還した。会長と面会出来たというし、更に現地の情報も得られたので何よりだ。

取引の結果は、持ち込んだ商品の8割5分以上を裁くことが出来たという上々のものだった。それだけこちらの商品が相手の気を引いたと見て良いのだろうか。

それによって獲得した食糧は我々の命を繋ぐに十分なものである。これから暫くは米とサツマイモと魚以外は貝とか野草になるかもしれないが、無いよりはマシだ。我々生徒会はサーカスが提供出来ない以上、パンを途絶えさせる訳にはいかないのだ。

もちろんすべてがうまく成功した訳ではなかった。丹波さんの発案で試された取引の中での外貨獲得は、全額燃料購入に注ぎ込まざるを得なかったそうだ。まずは相手の信用を得るべきだ、という商業科の伊藤さんが言うことも最もであるし、燃料も確保しなくてはならないものであるから、そこまで落ち込むことでも無い。

さて、今日の天気は晴れ。窓の外では見事に空が海より明るく見える。その昼にある二人組が私のもとを訪ねてきた。工学科の鹿島さんと船舶科の大橋さんである。彼らは間違いなく学園艦と学園都市の生存に欠かせない存在である。

「鉄鋼の切り出しの状況はいかがでしょうか?」

「はい。これまでの総生産量は約600t。内訳は硬鉄が400t、軟鉄が200t程となっています。まだまだ予定の10万tには程遠い状況ですが、作業への慣れも見えますので、生産効率を上げることは可能です。」

鹿島さんが書面を手にかなり上から話す。

「ありがとうございます。学園艦が骸骨のようになろうとも、続けてください。信用を損なってはなりませんから。」

「しかしこの度初めて広州に鉄鋼が送られましたが、船に積みきれず現在400t以上がまだ学園艦の倉庫に残されています。」

「本当ですか?」

「本当です。現状は今年中の新学園都市の建設が第一ですから、輸送においてその為の物資が優先されるのは当然のことです。しかし我々としても出荷されないまま磨かねばならないのは心苦しいのです。

こちらの生産技術の高さは以前の視察団を通じて把握されていると思いますし、鉄鋼の生産量を減らしても宜しいでしょうか?無論技術維持の為少量は生産しますが。数にしますと人数は1/4、生産量は1/5程です。」

「船舶科の方からも、認めてやってくださいませんか?」

「……そうかもしれませんが、人員は如何するのですか?確かに技術力は島の開発でも有用でしょう。しかし工学科のその余剰人員全てを送って、受け入れられるほどの準備は整っていません。」

「はい。その為我々の新たな仕事の草案を持ってまいりました。」

私の目の前に鹿島さんが持っていた書類が置かれる。手書きであるが枚数は少なく、読むのに苦労はない。こちらが一枚目を見ながら向こう話しかけてくる。

「学園艦がここから移動しないことが決定しました。またこの先の学園艦からの人口の減少により、原子力エンジンにより学園艦内の電力を持続させることは十分可能と判断しております。また淡水化装置の移設後の動力も詳細が決まっていないとのことでした。

学園都市の配置先の島の数は確か4つありますが、現状はその一つの大万山島にしか都市を建設していません。一つお願いです。小万山島をください。」

思わず手元の水を噴き出しかけた。

「娘さんをくださいみたいに言わないでください。」

「事実ですから。」

二人とも無表情。何を言っているか分からない。

「太陽光発電の設置先として、小万山島をください。」

「……えっ?大万山島北部の未開発の地域に作るんじゃなくて?小万山島に?」

「はい、その通りです。」

「……如何やって大万山島に送るの?」

「海底ケーブルを設置して、それで送ろうかと考えています。」

「出来るの?」

「はい。大万山島と小万山島の間には約1.2kmの海峡がありますが、学園艦中に張り巡らされている電線網を取り外して転用すれば、繋ぐことはできます。電線の周りに加工を施せば、海底ケーブルとすることも可能と思われます。」

「でも、なんでわざわざ……」

「それに関しては私から。今後の開発において、必ずや小万山島を使わねばならない時が来るでしょう。その時にどう運用するかが問題になります。仮に小万山島を農地にした場合、その農産物は全て船などで都市に運ばねばなりません。都市にしたら食糧を分散して届けねばならず、燃料消費が増えます。

それに比べて、小万山島で発電に重点を置いて、電力のみを都市に送った方が遥かにコストが掛かりません。水もこの地は雨水が豊富なので、若干の補充で足りるでしょう。

しかし電線網からの電線の回収時間を縮小し、早期に淡水化装置を稼働させる為には、それらの距離はできるだけ短い方が望ましいので、小万山島が適当となるわけです。

また太陽光発電の為の伐採により材木も増加が見込めます。」

「……確かにそうかもしれませんけど、発電量はどれ位になりますか?」

「それは私から。日本での発電量は通常のモジュール20枚あたり5500kwh、船舶科のデータによると広州は日照時間が日本の約4/5ですが、北回帰線に近く夏場の日光が強いのでそれを考慮して約4800kwh。学園艦内で太陽光発電が設置されている住居は約4000件、他にも学園校舎やその他施設に取り付けられていることを考慮すると、その全てを一年間フル稼働させた場合、約3100万kwhの発電量が得られます。

設置出力に換算すると約3kw。火力発電所や原子力発電所と比較すると微々たるものかもしれませんが、用途を淡水化装置に限定するならばかなり有用だと思われます。

必要な面積は太陽光発電同士の間隔も考えますと、0.28㎢。土砂流出を防ぐ林を残すとしても、十分とれる敷地面積です。

日差しによって発電量、ひいては淡水の生産量も変わる可能性がありますが、ある程度備蓄しながら運用すれば安定供給が望めるでしょう。」

「……この資料は残しておいてください。生徒会の人たちと相談して決めます。本日中にお返事しますのでお待ちください。」

「より良いお返事を期待します。」

二人は私に礼をすると、即座に立ち去った。工学科の手が空くというのはとても良い話だし、島の開発に有利なのは間違いない。おまけに淡水化装置の動力源を確保できるというのは魅力的だ。

しかし問題もある。海底ケーブルが整備できる代物なのか、というのもあるし、その為に学園艦から電線を取るということは、学園艦での生活を完全に捨てるということ。たとえあの鳥の言う通り戻れたとして、その場で廃艦にされ得るということ。

午後に生徒会の人を集めて今回の件及び商業科が持ち帰ってきた情報などについて議論の場を設けた。学園艦が帰れる可能性は伝えていたので議論は紛糾したが、何よりも我々が今日を、明日を新学園都市で生存していくことが重要とされ、工学科と船舶科合同のこの企画は認可された。

それと共に一つの案が浮上した。世界情勢を正確に掴む為、言語的に支障のない日本にスパイを入れようというものだ。確かに我々は現在聖グロリアーナと知波単しか存在を把握できていない。他にいるならば、それは安心感を与えるだろう。これは認可され、その為の要員も全会一致で決まった。

また島の人口が増加するにつれ、現地から生徒会の者をさらに派遣して欲しいと要望が度々来ていた。これにも高校2.3年生の数名を派遣して暫く対処することを決定し、夕方に島の者らに伝達した。




次回予告

軍神の上陸

比較対象
関東最大の火力発電所 鹿島火力発電所
総出力 566kw

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