広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。

遅れてすみません。


広西大洗奮闘記 81 取引

11月29日夕刻、漁船代わりの輸送船Bは明日の配給の為の魚を取りに行った。釣らねば明日は干物の配給になるだろう。そして少し遅れて同じドックから、輸送船Aと福安は多量の荷と人を積んで出航した。積載量は規定を突破しつつあるが、それでも行かねばならない。生きる為に。

人は最早すし詰め、または荷の隙間に載るような形式となっている。現に我々もそうである。きっとこれから出航する船もそうなるのだろう。

学園艦に残された燃料は言うほど無い。生徒会によって許可のない学園艦内での石油の取引は禁止されているが、漁船としての運用は食糧と引き換えに確実に燃料を消費しているに違いない。

船は上下に揺れながら進む。学園艦との交信と星を頼りに行われる夜間の航行の末、翌日の早朝大万山島近海に到着。ゴムボートを呼び出し、人員と食糧の一部を届けた。金属質の仮設住宅と共に木造の平屋の家がちらほら見えており、建設は順調だと思われる。

こっちでも地引網や釣りなどで食糧は得ているそうなので、渡す食糧は全員の2日分のみだそうだ。水は昨日の午前中雨が降っていたから、恐らく大丈夫なのだろう。今日のこの後雨が来ないことを祈る。

船は北へ、そして広い川の中を奥へと進み、両岸の島と木造ジャンク船の間をすり抜けて、目的地の黄埔港に到着したのは昼過ぎ。最早12月目前なのにこの暖かさ。もう慣れてしまった。

ここ黄埔港は実は未だ建設途中である。今回我々はここの完成している一部の施設にて商取引を行うことになる。

黄埔といえば軍官学校をイメージされる方が多いと思われるが、ここが選ばれたのには理由がある。まずは初期に交渉されていた珠海の立地が悪かったこと。鉄道もまともに通っておらず、広州からも遠いことを理由に、今回の取引先の広州市商会から猛反発を食らって改訂したらしい。

そして移した場所がここ黄埔。広州市街中心部から15kmほど離れたところにある。香港と広州を結ぶ九広鉄道が近くに通っており、物資の般若搬出に有利な上、広州市街中心部からは多少離れている。来年開通予定の寧漢鉄道とも接続する予定なのは幸いだ。

広州市商会も西南政権も我々が商業網を広げ、権益や思想を広げることを警戒しているようだ。現に我々もここ以外に上陸、または移動することは認められていない。

 

私は船舶科の許可を得た後、タラップにて船から降りて、待っていた軍人に身体検査される。嫌だが致し方ない。その後その軍人に連れられて一人の男の前に来た。

「How do you do? I'm happy to meet you. I say Hung, Guangzhou city commercial firm chief.

(初めまして。お会い出来て光栄です。広州市商会主席の熊と申します。)」

「How do you do? I'm Ito, the Oarai female school commercial department chief. I'm sincere and expect dealings with a profit of both today. This is the fee which established this place.

(初めまして。大洗女子学園商業科代表の伊藤と申します。本日は誠実で、双方に利のある取引を期待しています。こちらは今回の場を設けてくださった御礼です。)」

私は生徒会から預かっていた金の装飾のされた器の入った箱を手渡す。その中年の小太りの男はそれを受け取って、中身を確認してから握手に応じた。

「Oh, thank you very much. I'll move to dealings right away. What did you have this time?

(これはこれは、ありがとうございます。早速取引に移りましょう。今回はどのようなものを持っていらっしゃったのですか?)」

「Clothes, tableware and furniture. And the part of the offered steel is also brought.

(服、食器、家具などです。それと提供する鉄鋼の一部も持って来ました。)」

「Clothes and furniture……I leave them to Tung and Jyun. Steel to Kau.

(服と家具ですか……童と袁にやらせましょう。鉄鋼は仇ですな。)」

「We don't have money by that about dealings, so is it told to take an exchange with a food?

(取引に関しましては、こちらはそちらでの金を持っていないので、食糧との交換の形を取ることは伝えられていますか?)」

「Of course. We have prepared rice and sweet potato this time. I'll pay you the shortage from our pound making funds.

Then the respective dealings in a decided place, please. You'll talk with us about future's contents of transaction and frequency at that building.

(勿論です。今回こちらでは米とサツマイモを用意してあります。足りない分はこちらの資金からお支払いしましょう。

それではそれぞれの取引は決められた場所にてお願いします。貴女は私たちとあちらの建物で今後の取引内容や頻度などについてお話ししましょう。)」

「I see. We'll begin to carry goods out immediately.

(分かりました。早速商品の搬出を始めます。)」

船に戻って荷物の持ち出しを指示し、それに合わせて商業科の部下たちが輸送船から商品の入った段ボールや緩衝材で包まれた物、ひいては商品をそのまま持ち出す。家具と食器、そして衣服はそれぞれ別の場所に分かれるよう案内され、レジャーシートの上に並べられた。

箱を開けたりして商品を並べ、学んだ中国語をノートに書いて見せて商品の概要を説明する。集まってくる商人たちは商品をじっと見つめながら、場合によっては詳細な説明を求めてくる。

「I want you to teach me humidity management on this shelf about a durable period.

(この棚の湿度管理及び耐用年数を教えて欲しい。)」

「What is the material of these clothes?

(この服の材料は何だ?)」

鉄鋼は市商会の専門の人と工学科の者がそれぞれ話を進めている。どうやらこっちは船の中で鉄鋼の内容を確認した上で、別の船に積み替えて、鉄などを管理する集団の本拠地に運ぶようだ。金が絡まないからややこしくはならないだろう。

対してこちらは将来的に売る予定の物と、この取引の頻度について、熊氏と同席する数人と私たち商業科幹部が交渉する。こちらとしては一月に2度ほど開催して食糧を確保していきたいところだか、向こうはあまり高頻度での開催に乗り気ではない。理由は恐らく前述したものと同じか、またはこちらを富ませたくないからだろう。

 

話し始めてから少しして、ノックの後に軍服の男に連れられて、久々に見た顔とまた別に立派な服を着た男が現れた。

「角谷会長!」

「どもどもー。久しぶりー、伊藤ちゃん。」

「お元気ですか?」

「何とかね。」

この人はきっといき続ける限りこんな生き方をしていきそうな気がする。付いてきた男は熊氏と話をしている。余り喜ばしいことではないのか、表情は固い。

「こちらの方は?」

「ウチらの親方。」

「へっ?」

「西南政務委員会執行部の陳さんっていうんだけど、まぁ学園都市を管理する組織のトップになる人。」

「そんな方がなぜこちらに?」

「ウチらの初取引の視察というのと、取引の詳細を現地を見て決めるため。後は市商会の人との人脈作り。」

「なるほど。」

「Nice to meet you, Mr. Hung. I'm Jue,Jue Dian.

(初めまして、熊様。私は角杏です。)」

「Oh, you are…….

(ああ、貴女が……)」

「There is no time. We'll discuss a main subject right away.

(時間もない。早速本題に入ろう。)」

その後数時間の議論の末、これからは毎月20日に黄埔での取引が行われることが決まった。その間に港内のあちこちで取引が進み、持ってきたものの大半と引き換えに当座の食糧の確保に成功した。服1枚とサツマイモ50g交換、まぁ大体服4枚でサツマイモ1本などレートは決して良くはないが、向こうの金もイギリスポンドや法幣という新通貨で確保できたので、魚を取ることも考えれば何とかなっただろう。

これから十何年と相手にしていくのだから私たちが商品を取引する中で信用を勝ち得ていけば良いだけだ。あとは得たものをそれぞれ持ってきた箱などに詰めて船に積み込んで行く。力仕事で飯も水も僅かに持ってきた分しかないが、耐えてくれている。

船に運ぶのを見つつ、闇の中角谷会長に近づく。

「本日は冷泉さんに取引を手伝っていただいたそうで、ありがとうございます、角谷会長。向こうに伝えることはありますか?」

「うーん、そうだ。新生徒会長は?」

「峠さんで決まりました。生徒会による運営体制は今後も揺らがないでしょう。」

「それを聞いて安心したよ。こっちからは一つだけ。来月の10日に、戦車道の人たちをこっちに派遣するよう伝えてくれる?そう言えば小山たちには分かるはずだから。」




次回予告

計画の深化

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