広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。

アンツィオ&イタリア特別編です。気楽にどうぞ。

イタリア語はあってる保証無し、悪しからず




広西大洗奮闘記 特別編2 ナポリタン

ドゥーチェの先にはドゥーチェが居た。

 

文字に起こせばその通りなのだが、そのドゥーチェらは完全に異なるものである。一人はえらくカールのかかった長い銀髪の巻き髪を顔の両柄にぶら下げ、座りながら生まれたての子鹿の如く震えている。

しかしもう片方は帽子をかぶっている為分かりづらいが、ひたいの目立つ中年であり、奥で机を前に堂々と椅子に腰掛けている。

サヴォイア=カリニャーノ家のヴィットーリオ・エマヌエーレ3世の治めるイタリア王国首都ローマ。バチカン市国からテベレ川を渡り東にあるヴェネツィア宮殿。今回の部屋とは異なるが、この宮殿の世界地図の間が男のドゥーチェの執務室である。ヴェネツィア広場を挟んで向かい側にはヴァレンティーニ宮殿があり、北西にはパンテオン、南東には本物のコロッセオ、北にはトレビの泉がある。

彼らのいる縦に長いこの部屋の奥に机があり、背後には円柱状にフレスコ画と思われる壁画、そしてその上は半球状に曲がり、円柱状の天井が女子のドゥーチェとその金髪の副官の上を過ぎる。

昼間のはずだが、その割にはあまり明るくない。それが寧ろ彼女らの恐れを助長させている。

さてこの後この堂々としたドゥーチェの方に食事が提供されるのだが、少々時間が空く。それまでこの一人だけ寒空の下にいるようなドゥーチェがここに来た経緯について述べておこう。

 

このドゥーチェが乗るアンツィオ学園艦がこの世に現れたのは、西にコルシカ島、サルデーニャ島、南にフランス領チュニジアとシチリア島、東から北へイタリア半島が横たわるティレニア海の中央、東経12度、北緯40度付近であった。

もっともそれがはっきりと分かったのはもう少し後、北東に進んでガエータ湾沖のポンツィアーネ諸島に接近した時である。

アンツィオ学園艦は入ってきたラジオなどを通じて情勢を把握すると、イタリアと関係を持てないか探り始めた。、指導層の一部はここから離れてフランスと提携するよう提案したが、それは除外された。

理由としてはコルシカ海峡やサルデーニャ島南方を航行可能か不明瞭であることもあるが、何よりアンツィオの廉価な食糧供給体制を維持する為にも、早急に食糧を購入出来るようにして学園都市住民の不満を抑えたかったのである。

これに対しイタリア側もイタリア空軍の偵察により存在が確認されたことを受けて交渉に応じ、その前段階としてジョヴァンニ=ジェンティーレを中心としたローマ大学の教授陣によって視察が行われた。彼らは視察後の報告書の一節に

「Roma è stato completato nelle Isole Ponziane.

(ローマはポンツィアーネ諸島で完成した)」

と書いたことで知られている。

もっともイタリア側もただで受け入れたわけではない。エチオピア侵攻に伴う国際連盟の経済制裁は国内経済に影響を与えており、政府は自給自足体制の構築を進めていた。安価な食糧供給の為に学園艦内での穀物生産を重視していたアンツィオ学園艦の技術などが、その構築を早めるとみなされたからである。また諜報機関SIMを通じて他国の一部が同様の学園艦と接触していることを掴んでいたのも要因として挙げられる。

こうしてこの地に現れてから1月弱、11月2日。ガエータ湾内の都市テッラチナにて協定が結ばれた。これにより学園艦内の物資供与、ポンツィアーネ諸島の対岸のラツィオ州で進められている農地開発への人員と技術の提供、イタリア政府官僚への学園都市運営権の移譲、軍備のイタリア軍編入。それと引き換えにイタリア国営企業との交易が認められ、学園艦はイタリア王国に編入されることが定められた。のちにこれはファシスト大評議会で承認され、施行された。

これによりイタリアは元々イタリア化していたようなところを、エチオピアよりも先に実質的な植民地として獲得したのである。

実際にドゥーチェ本人が総帥警護大隊数名と学園艦を訪れ、黒服を着てローマ式敬礼をした学園艦の住民の男性の間を歩き、学園都市中心部の学園長の執務室のバルコニーから住民に向けて演説をした。この演説の一節に

「Coloro che parlano italiano e seguono lo stile di vita italiano, accettano come un italiano.

(イタリア語を話しイタリアの生活様式を踏襲する者は、イタリアの民として受け入れよう。)」

とあるように、彼自身の思想が反映されたものだった。

これを高名な映画監督アレッサンドロ=ブラゼッティが撮影し、国からのさらなるイタリア国立映画実験センターへの助成金と引き換えにプロパガンダ映画を製作し、大規模な学園艦という未知の物体をかなり有利な条件で屈服させたドゥーチェへの個人崇拝をさらに強固なものとした。

 

アンツィオ学園都市はラツィオ州ラティーナ県のコムーネ(地方自治体)としてイタリア領にされ、官僚などは即座に担当者が派遣されてさらなるイタリア化政策が進められたのだが、テッラチナ協定の条件の一つである軍備の提供はあまり重要視されなかった。

学園艦に陸海空軍などあるはずもなく、警官隊は学園都市警備の為動かせず、風紀委員に至っては報告書にアスカリ(伊領アフリカの現地民兵)以下の士気と武装であると酷評されていることからもわかる。

唯一可能性があったのがこの女子のドゥーチェ、本名安斎千代美率いる戦車道部隊であった。安斎千代美を中心に統率が取れており、CV33を中心とした戦車の編成はイタリア軍でも活躍可能だと見なされたのだが、ドゥーチェ自身が黄禍論的思想を持っており、バドリオ元帥を中心とした陸軍が女子を編入する事に反対したことで、流れることが九分九厘決定していた。

しかしこれを聞いて怒りを覚えた人間が一名。彼女はペパロニと呼ばれている。戦車道部隊の未編入はドゥーチェアンチョビとその補佐官カルパッチョの有能さを無碍にするものだ、として輸送船を経由してローマに向かい、何とムッソリーニに対し直訴を行うという暴挙に出たが、その場で取り押さえられた。

もっともこれはその場で警護大隊によって銃殺されかねないことであるのだが、自らと同様ドゥーチェと呼ばれ、しかも部下が命を賭けてまで能力を訴えるその人柄に興味を持ったムッソリーニによってその場での銃殺は取り止められ、ペパロニは監禁された。

ムッソリーニは陸軍のエチオピアでの統治権限強化と引き換えに、アンチョビとカルパッチョが学園艦からイタリア北部、ヴェネツィアとジェノヴァの中間あたりの町モデナへ呼び出された。ここには名だたる陸軍軍人を輩出した歴史あるモデナ陸軍士官学校がある。ここの試験を受けさせることを認めさせたのだ。

急遽イタリア語の試験を受ける事になったアンチョビとカルパッチョであったが、試験の結果はアンチョビは英語以外は、カルパッチョはほぼ全て入学要件を満たしている、ときた。おまけに2人ともたった数日の試験期間中に士官候補生数名と友好関係を築くなど、コミュニケーション能力の高さを発揮した。

しかしあくまで陸軍の要人には軍人としての採用に反対する者が多く、ムッソリーニ自身も彼らに対する黄禍論的意識は薄まっていたものの、実際に入学させるかどうかについては慎重だった。

そこで最後に機会を設けることにした。ペパロニの解放とアンチョビ、カルパッチョの士官候補生としての入学許可の条件として、ペパロニが何かしらでムッソリーニを納得させること。これをペパロニとアンチョビ、カルパッチョに通達したのである。そしてその為の場が、ここヴェネツィア宮殿というわけである。

 

考えてみれば唯でさえムッソリーニ次第で全て解釈可能な課題なうえ、イタリア人を料理にて納得させようなどとという行為を選んだのだ。それには疑問点しか湧かないが、ペパロニはそれを選んでしまったのである。

アンチョビは軍人となることを心から望んでいるわけではない。しかし自分の腹心たるペパロニの為には動かざるを得ないのである。

 

白く身を包んだシェフにより、料理が運ばれ、机の上に置かれる。その皿から鳴る水が即座に蒸発する音、それによって運ばれる香りによって、離れて座っていた2人にもそれが何なのかすぐに分かった。

「あのバカ……イタリア人相手に鉄板ナポリタン出す奴があるか……」

ナポリタンはイタリアのナポリのトマトソースパスタがアメリカ、日本でそれぞれ独自に改変され生み出されたもの。本場のイタリア人からは偽物と罵倒されても仕方ないものである。

「いえ、ドゥーチェ。寧ろ有りかもしれません。単なるイタリアンパスタなら本場の人間には敵いませんから、珍しく比較対象が少ないところにチャンスがあるかも……」

説明を受けた後、机に向かうムッソリーニは暫くじっとその鉄板を見つめた。フォークを手に取り、巻きつけて口に運ぶ。咀嚼。そして嚥下。しばしじっととまっているムッソリーニを前にアクションを取れる者はいない。

「...... Cosa vuoi convincere?

(……これで何を納得させたい?)」

まだ2人は何も反応できない。

「Certamente come questo non ho mangiato. Non male. Tuttavia, cosa vuoi convincere?

(確かにこの食べたことのない感触。悪くはない。だが、これで何を納得させたい?)」

カルパッチョは少し隣を見た。その表情は緊張により歪んでいた。一つ息を吐いて、カルパッチョは口を開いた。

「La nostra nave scolastica è scarsa. Penso che fosse impossibile consegnare merci in modo soddisfacente. Pertanto, lo studente vive in qualche modo facendo affari con i turisti.

(我が学園艦は貧乏です。そちらに満足に物資をお渡しすることも出来ていないと思います。それゆえ、学生は観光客相手に商売して何とか生活しています。)

Quello che offriamo questa volta è uno di quelli in vendita. Per fornire a basso costo, anche la salsa di pomodoro non è completamente utilizzata. Tuttavia, tra le altre limitazioni, i nostri studenti della nave scolastica stanno facendo il loro meglio per fornire pasti deliziosi al massimo, offrendo piacere alle persone.

(今回ご提供しましたのは、その売り物の一つです。安く提供するため、トマトソースさえ十分に使えていません。しかし制限ある中でも我が学園艦の学生は最高に美味いもの、人に喜びを与える食事を提供しようと、全力を尽くしています。)

La gente non può essere felice senza un pasto delizioso soddisfacente. Questa è la politica fondamentale della nostra nave scolastica. Ma da sola non è felice. Affidabile, se non è un pasto delizioso è solo un piacere temporaneo.

(人は満足出来る美味い食事無しには幸福には成り得ない。それが我が学園艦の基本方針です。しかしそれだけでは幸福ではありません。安心、それが無ければ美味い食事も一時的な快楽に過ぎません。)

Per questo, è necessario che questo regno italiano sia sicuro. Capisco che la conquista dell'Etiopia in questo momento sarà anche il fondamento della sua fondazione. E il regno italiano è il padre assoluto di questa nave scolastica, la mia nave scolastica con il regno italiano.

(その為に必要なのは、このイタリア王国が安泰であること。この度のエチオピア征服もその安泰の基盤となる為、と理解しております。そしてイタリア王国はこの学園艦の絶対的な父であり、イタリア王国あっての我が学園艦です。)

Amiamo la nave scolastica, la cultura italiana. Così per la prosperità italiana, voglio fare la lealtà per amore della pace, anche se divento un soldato.

(私たちは学園艦を、イタリアの文化を愛しております。ですからイタリアの繁栄の為、平穏の為、軍人となって忠義を尽くしたいのです。)

Quando l'Italia perde, penso che la nave scolastica andrà distrutta. Mi scusi per aver dedicato noi stessi.

(イタリアが負けるときは、学園艦が滅びる時と思っています。どうか私たちの身を捧げることをお許しください。)」

ムッソリーニは動かない。次いでそれを聞いたアンチョビが語り始めた。

「Per favore scusi la mia disprezzo dei miei subordinati. È mia responsabilità che non posso smettere di sbagliarmi. Se mi punisci, per favore cambiami. Tuttavia, se lo permetti, mi permetta di mettermi in battaglia per godermi i migliori pasti con i miei colleghi dopo la battaglia. I mali dell'essere una donna sono in mente. A causa della mia amata scuola, per favore lasciami combattere per l'Italia che rispettiamo.

(今回の部下の無礼をお許しください。間違いなく止められなかった私の責任です。罰するなら私に変わらせてください。それでももしお許しくださるのであれば、戦いの後仲間と最高の食事を楽しむ為、戦いに身を投じることを認めて下さい。女であることの弊害は覚悟の上です。愛する学園の為、尊敬するイタリアの為、戦わせてください。)」

ムッソリーニただじっと頭を下げ続ける2人を前に顔を上げるように告げた。

「Puoi scommettere la tua vita per la città, o …... Immagino che tu non sembri avere niente da chiamare a casa e entrare nella tua città natale.

(都市の為に命を賭けられる、か……どうやら君たちに故郷を呼んで乗り込んで来ようとかいう気は少しも無いようだ。)」

もう一回フォークに巻きつけて、最後に卵焼きの切れ端を刺して食べる。今度は咀嚼する速度が明らかにゆっくりだ。

「…… Buono. Antonina, Carmela. Apprezziamo che entrambi i nomi dicano così e che entreranno nell'accademia militare. Ma lo ammetterò. Se vuoi rimanere soldato in futuro, per favore fai la tua fedeltà.Per peperoni, riconosco che non c'é scopo assassinio e lasciatemi liberarlo dopo una breve frase.

(……美味い。アントニーナ、カルメーラ。両名がそう名乗る事、また士官学校入学を認めよう。ただし認めるだけだ。その先も軍人として残りたいなら、その為に忠義を尽くせ。ペパロニに付いては暗殺目的はなかったと認め、短期刑の後釈放させよう。)」

 




次回予告

初の取引

今回の参考資料、ほぼドゥーチェのwikiだけだけど許してね。

ナポリタンといえば、井の頭五郎と化したサーバルちゃんが食べまくる動画がニコニコにあるなぁ。どうでもいいけど。

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