広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。

うーむ、思うように筆が進まぬ。


広西大洗奮闘記 75 案内

輸送船が姿を見せると同時に、指揮者である吹奏楽部の部長が吹奏楽部が演奏を開始させた。先に姿を見せたのは輸送船。ドック中に入ると、こちらへとゆっくりと進んで来る。船の上では船上に掲げられている他に、こちらに向けて大洗の旗を振っている者がいる。流石に大漁旗を振るのは妥当とはいえないからだろう。

そしてそれから距離を開けること100m程、一回り小さな輸送艦が警笛を鳴らしてゆっくりと付いてきた。船舶科の者による手旗信号によって予定された場所に誘導され、二隻の船はドックの内に収まった。そのタイミングで私は右手を掲げる。それを見た指揮者は演奏を区切りの良い所で、最後に一際強く音を鳴らさせて止めた。

錨を下ろしタラップが用意され、学園艦に踏み入り、戻る準備が整った。艦の中から英語教師の小原の案内で、銃を抱えた軍人で挟まれたスーツの男たちの集団が現れる。先にタラップを降りて来るのは軍人のみ、残りはまだ船の上にいる。

その中でも軍服がやけにしっかりした者、恐らく将校だろう、が小山と長坂の前に立つ。その両脇には銃を片手で握り、もう片手には拳銃を用意した兵が並ぶ。

地位は高そうだが、会長もこれに抗い、あの内容を勝ち取られたのだ。私も無用意に下手に出てはいけない。

「Nice to meet you, I am Yuzuko, Yuzuko Koyama, Vice-president of Oarai student council. I am going to show you to Oarai school ship instead of Annzu Kadotani, president of Oarai student council.

(初めまして。私は大洗生徒会副会長小山柚子と申します。私がこの度は生徒会長角谷杏の名代として、大洗学園艦をご案内いたします。)」

右手を差し出すと、兵の銃がこちらを向いた。思わず両手を挙げる。何か間違えたかと不安になったが、幸い引き金に指は掛からなかった。その後向こうの3人が少し中国語で話した後、例の将校が声を掛けてきた。まだ銃口はこちらを見ている。

「You guide us, don't you?

(お前が案内するのか?)」

「Yes, I do.

(ええ。)」

「Search you in order to confirm that you don't have any weapons.

(武器を持っていないか確認する為調べさせてもらう。)」

「……」

成る程、私が安全な人間であることを確約せねばならない程の重役が来ているということか。なら尚更向こうの機嫌を損ねることはしてはならないだろう。

「OK. 」

私は両手を挙げたままその場に立ち尽くした。銃を降ろした兵2人が柔らかい身体のあちこちを叩いて調べる。金属探知機でもあれば楽だが、そういうものも手元にない。

「I'm Lei Baa Hou. Lieutenant General of Guǎngdōng Army. Mr. Chen, First class general of National Revolutional Army, told me to investigate your power of military.

(私は李伯豪。広東陸軍中将だ。大洗学園艦の軍事面での調査を陳一級上将より依頼された。)」

「Our president told us about Mr. Chen. She said that he was a suitable man to protect our school ship.

(陳閣下については会長より伺っております。我が学園艦を保護して頂くに相応しい方だと聞いております。)」

叩かれながら挨拶を返す。へそより上と下の確認する時間の比率が2:1なのは気にくわないが、暫くして兵が手を離し、少し李と話す。

「Who is she next to you?

(隣の者は?)」

「She is the captain of the school ship.

(彼女はこの学園艦の艦長です。)」

「Though I heard that your school is girl's high school, do you even carry its management?

(あなた方の学園は女子の学校とは聞いていたが、その管理まで担っているのですか?)」

「Yes. When there is need, it's guided by a teacher, but this school is managed by a student basically. She stays here, and take charge of carrying goods I received from you in.

(はい。必要とあらば教師による指示が入りますが、基本的には学生を主体に学園は運営されています。彼女はここに残って、頂いた物資の搬入を担ってもらいます。)」

「OK. We leave our Infantryman in this transport, so don't behave stupidly.Search her, too.

(そうか。輸送艦には兵を残すので、下手なことはしないように。彼女も調べるぞ。)」

「Sure. We do not injure you, who support us, of course.

(勿論。無論支援してくださる方を傷付けるような真似は致しませんがね。)

長坂さん、両手挙げてもらえる?」

そう訊くと隣の艦長は顔を歪ませ半歩後退した。

「わ、私もですか……」

「こちらに不安を抱かせない為に、どうかお願いします。」

「というかさっきSureって言っちゃってるじゃないですか。ええぃ、後は野となれ山となれ!」

私の近くにいた兵が長坂さんの方に移り、また身体を叩き始めた。向こうの目には疑いが残っているが、長坂さんも調べ終わると、どうやらかなり少ないようだ。私が調べられた時間よりも短かったのは、恐らく地位に差があると見られたからだろう。

「Thanks to your cooperation.

(ご協力感謝する。)」

礼を述べ、その将校は振り返って何か言った。それを訊くと船に残っていた軍人とスーツを着た人々がタラップに足を掛けた。私はタラップの元へ進み、降りて来た一人一人に頭を下げる。全員降り終わって私が下がると、タラップの下に集まっていた人の中から一人こちらに出て来た。

「初めまして。私は視察団の代表の謝進喜と言います。よろしくお願いします。」

差し出された握手に応じようとした私は少しの間動きを止めた。

「……初めまして。私はこの学園艦の代表角谷杏に変わりまして皆さんをご案内します、生徒会副会長の小山柚子です。謝様、日本語お上手ですね。」

「生まれが台湾なもので。」

一瞬頭に疑問符が浮かんだが、間も無く理解出来た。この時代では、台湾はかなり前から日本領なのだ。すぐに差し出された手をとる。首を少し上げると、まだ30にもなっていないかのような若々しい顔があった。

「今回は中山大学と広州市自治会を代表しまして、この視察団に参りました。案内はお任せします。」

「分かりました。案内するのは私一人なので基本は団体で移動して頂きます。」

「承知しました。ではこの度の視察団の方をご紹介します。

まずは先に降りていらした、広東陸軍の李伯豪中将。

次いで広州市商会から銅鉄鉛錫業をやっておられる仇啓光執行委員と、塩業をやっておられる趙静山執行、常務委員。

広東省立勷勤大学(現在の華南師範大学)から李泰初商学院院長。

また広西からは馬君武広西大学学長がいらっしゃいました。後の方々は広東陸軍第2師第6軍の者達です。」

彼は一人ずつ手のひらで示しつつ紹介してくださった。物腰柔らかい人のようだ。

「わざわざありがとうございます。物資は私たちがここを離れましたら、学園艦の運行を担当する者らに運ばせます。」

「こちらこそ、この様な歓迎をありがとうございます。それではこっちも準備が整ったようですので、出発しましょう。」

後ろでは先程の李が兵士を二つの組みに分け、片方を船の方へ戻す。

「分かりました。

Please follow me.

(付いてきてください。)」

 

私は後ろに計17人の人を引き連れて学園艦の旅に出発した。一応小原先生も同行してくださる。まずは再び演奏を始めた吹奏楽部と風紀委員の前を通り過ぎ、ドックから抜ける。

まず向かうは工学科が鉄鋼を切り出している現場だ。用意させたヘルメットを配ってから、火花が飛び散るもと工学科の鹿島を呼んで案内させる。ここでは特に市商会の仇という男が細かい所まで質問してきたが、小原先生の通訳で何とか解決出来たようだ。私も切り出す現場まで足を運んだことは無かったので、実際学べることもあった。

そこから上に行き、たった今育てた魚を網で取ろうとしている水産科の養殖場を見せる。そもそも船内で養殖が出来ていることに驚いているようだったが、ここでの経験は移設先の島で、ひいては広東にもお伝えすると言うと、中々興味深そうな反応が返ってくる。広東料理は何でも食べるというが、あれはむしろまともな飯が足りないからなのかもしれない。

次は地上に出て学園の校舎を案内する。特に理科実験室を見せると、この中でも歳をとったように見える馬が、興味深そうに器具などを眺めていた。この部屋もしばらく使ってなかったので綺麗かどうか気になったが、どうやら印象は悪くないようだ。

もうすでに学園での服の生産はひと段落ついており、学園には見回る少数の警備員のみ。また校舎の中を案内する中で、学園について多くの事を尋ねられたが、答えられる限り答えた。

例えば学園都市の統治機構。

例えば派遣予定人材。

例えば学園艦の食糧事情。

例えば大陸に売却するもの。などなど。

弱味を見せるのは悪いかもしれないが、逆に強みばかり見せすぎるのも疑われる要因になるはずである。

そうこうしているうちに日が暮れてきた。夜は学園艦にたまたまあった空き家を適当に改修させたものをそのまま宿とする。宿では茶の湯、取り敢えず今の所出来る限りのことをした夕食。その後はその家の庭で長刀道の履修者による試合を見せた。反応は悪くない、はずだ。

疲れた。また明日の案内を謝氏に約束して、私は生徒会長室に戻ることにした。明日は、雨が降りそうである。




次回予告

紅白は再び空を飛ぶ

謝東閔(字 進喜)
台湾彰化の生まれ。台湾で学ぶが、日本の支配を嫌って中華民国に渡り、中山大学を卒業。そのまま中山大学で日本文学の准教授として働く。後に国民政府が台湾に渡った先に台湾に渡り、蒋経国政権で副総統を務めた。
2001年、台北で死去。93歳。

馬和(字 君武)
広西省桂林の生まれ。フランス語などを学んだ後、日本に留学し中国同盟会に参加。帰国後、辛亥革命に参加し、臨時約書の起草に参加する。その後ドイツに留学し工学を学び、北京政府に参加。北伐ごろに広西省からの招聘を受けて西南政務委員や広西大学の学長などを務め、学長としては研究機関として発展させるなどの功績を挙げる。
しかし後に李宗仁などと政策を巡って対立し辞めさせられ、後に戻るが、その翌年の1940年、胃病で死去。59歳。

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