広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。

昨日まほ姉の誕生日だったそうで。
お誕生日おめでとうございます。

あ、開票速報始まった。


広西大洗奮闘記 72 支援物資

11月20日、空に浮かぶは雲。余り良い天気ではないが、これ以上は崩れまい。波も高くはないし、空気もそう告げていない。

無線の中継所試験機によって島と学園艦が接続可能かどうかを確認し、積み荷の水と仮設住宅をゴムボートで島に下ろした後、これまで行ったことのある古賀に指示を仰ぎつつ、湾内の奥へと船は進む。

珠江河口には大きく東江と西江があり、その境目にあるのがマカオである。黄埔の港に入るには東江に進み、一番大きな水路を選んでいけば良い。

所々に島があり狭隘な海峡も多いが、この規模の船が進める航路はそう多くない。周りに浮かぶジャンク船も余り大きくないのもそれ故だろう。湾の北端に到達したところで船長である私が直々に舵を取り、左に舵を切って奥に進んでいくと目的の港に辿り着く。いくつかの船着き場には船が停泊しているが、空きも多い。

大洗の校章と信号旗を掲げさせると、チャーリー、間を空けてユニフォーム、ウィスキー、2と返ってきた。港湾案内人による手旗信号に従い指定された岸壁に船を接岸させる。いつも船の舷側どころか錨泊地そのもの見えないような学園艦を泊めているのだ。この位はお茶の子さいさいである。

錨を降ろし係留ロープをボラードに掛けて固定する。そしてタラップを降ろさせてから操舵室の外に出ると、船着き場にはすでにスーツを着た人と、その周りに4〜5人の軍人らしき人が細長い銃を携えている。思わず怯むが、銃はこちらには向けられていない。一つ息を吐いてから膝を揃えて敬礼すると、スーツを着た初老の男は和かに敬礼を返してきてくれた。

乗せて来た英語教師を呼ぶよう頼んでからハシゴを伝って降り、取り敢えず挨拶する為にと用意された紙を取り出す。そしてそこに並べられた言葉を話し始めた。

「えーと……Thank you for coming to meet. I'm Inoue, one of the captain of Oarai school ship. I would like to ask you about our relief supplies.

(迎えに来て頂きありがとうございます。私は大洗学園艦の艦長の一人、井上といいます。我々への支援物資について伺いたいのですが。)」

「I'm Lin, President of Guangdong Province Government. We have started to load them into the transport ship. Can you look at it?

(広東省政府主席の林です。既に輸送艦に積み始めています。ご覧になりますか?)」

「……Y, yes!

(は、はい!)」

何を言っているかの詳細は分からなかったが、取り敢えずプレジデントと言っていたから偉い人だろうとは読めたうえ、何よりこちらに案内してくださるようなそぶりである。

船から降りて来た英語教師の小原と合流し簡単な通訳を依頼して、他の船舶科の者を船で待たせた後、その者についていく。

周りを軍人に囲まれながら話を詳しく聞いてみると、この人は広東省政府主席という立場であり、今回の支援物資の管理も担当しているらしい。昨日学園艦を受け入れる為の最終手続きが完了し、物資を乗せて明後日には輸送艦を出港させる予定だそうだ。

こちらからはそれに関する感謝と、今回の支援物資の量について伺った。その量を小原先生から伺った時はもう一度聞き直した。

 

・米50トン(籾殻付きのまま)

・船舶用燃料450L

・サツマイモ80トン

 

思ったよりももらえるものだと思い、再び片言にも程がある英語で感謝を述べたが、通じたようだ。

米が籾殻付きというのは、量は減るがそのまま植えることが可能という点でありがたい。種籾とする分を残しても住人一人につき10合は手に入る計算だ。燃料も生徒会が倹約させているとはいえかなりギリギリだった。ここで貰えるのは非常にありがたい。サツマイモは島に最初に植えるには丁度いいのだろうか。細かいところは農業科に任せよう。

これ以上を望むならここ黄埔に来て広州市商会を通じて取引せよ、とのことだ。そしてその為には金が無ければならない。それは商業科がなすべきことだ。

案内された先には細長い船が一隻停泊していた。その人が言うには、これは海軍の輸送艦『福安』で、これでまずは燃料とイモの一部を輸送してくださるという。残りの物資は『福安』も手伝うが、こちらの輸送船で多くを運んで欲しいとのことだった。勿論貰えるものを貰わぬ道理はない。総動員体制が導入されたお陰で物資を貰っても生徒会による管理体制を解除する必要性が無くなったのだ。おまけに受け取れるなら受け取るように、というのが小山副会長からの指示である。

輸送艦には物資の他に視察団も乗るそうだ。簡単に言えばここ広州が誇る大学の教授たちである。大洗がいかなる学園都市なのか、そして本当に使える人材がいるのか調査する為だという。これもわざわざ断るような話ではない。

考えてみれば人材がいるか確かめる前に支援物資を送ることを決めるというのは不可解な話ではあるが、恐らく向こうもそこまで期待してないのだろう。我々が存在していること、それが向こうの利益なのかもしれない。これは生徒会が関わる話だ。

さっきからずっとどこかに任せているので、私らも自分から行動する。こちらも今からでも支援物資を輸送船に積み始めたいと伝えると、人員は送れないが構わないか尋ねられた。今回は船舶科の者も多く乗ってきている。そんな荷物も運べぬほどひ弱な人間を乗せてきたつもりはない。勿論yesと返した。倉庫で持ってきた箱の中に芋やら米やらを移し、それを船までリレーする。夜になって船の中で寝る頃には予定の8割積み終わっており、向こうには結構驚かれた。

会長が戻られるのはまだ先になるそうなので、予定通り向こうの『福安』と共に学園艦に入ることになる。

 

 

それまでの袋入りのものが減った代わりに、配給に魚が混じるようになった。部位も種類も様々であるが、少なくとも毒になる部分は混じっていない。赤身の時もあれば白身の時もあるし、脂が乗ってる時もあればさっぱりとしている時もある。これらを捌くために生徒会はさらに住人を動員したらしく、学園艦にも緊張感がいっそう漂ってきた。

学園艦では引き続き服の生産と鉄鋼切り出し、商品の回収などがそれぞれの学科の主導で行われている。私たちも自宅から棚などを提供した。こうしなければ飯がないというのなら仕方ない。

この日の夕方、4人分の配給を受け取った私は仲間と共に家路についた。もう夕方である。そして帰った後も私には勉強がのしかかる。いやそれどころか授業が終わった後の帰りである現在でさえ、私の手には単語カードが握られている。

繁体字は日本の現在の漢字と一番近い文字だと言われている。だが細かいところで異なっている。例えば『楽』は『樂』になる。だがそれらと日本語と漢字が異なるものを覚えるのが非常に面倒くさい。私たちの今後に関係する軍事で例を挙げるなら、『銃』は『槍』となる。因みに日本語の『槍』は『矛』となる。訳がわからん。文法がほぼ漢文と同じなのが救いであろうか。

「……エルヴィンさん、真面目だね。」

隣から単語カードを覗き込む者がいる。私たちの隊長である。

「まぁ、向こうの軍人になるからには、出来るだけ向こうの人と話せたほうが良いだろうからな。ドイツに行きたいならこっちで優秀でなくちゃならない。」

「軍人かぁ……正直実感湧かないなぁ。日常的に何しているんだろう。」

「訓練とか演習とかだろう。あとは地位が上がれば政治関係のことも出てくるな。」

「それは嫌だね……」

「確か軍事学校に行くって話だったよね。」

「南京には確か陸軍軍官学校があったはずだが、広州にも陸軍軍官学校があるのかもしれない。どっちに行くのかは分からないな。」

「中国語も難しいですが、軍事ではとにかく戦車道で学んだことも使いつつ、頑張るだけです!」

磯辺さんは見る限り自分から軍人になることを了承したのか疑わしくなる時があるが、澤さんは教室でも言っていた理由からかかなりやる気がある。士気があるのは望ましいが、無駄に命を張ろうとしたりしなければ良いのだが。

さてこの4人は軍人として大陸に行かねばならないというだけで、自宅がそれぞれ近いわけではない。では何故一緒に歩いているかというと、今夜私のシェアハウスで一緒に食事をしようという話になったからである。明日は7日間続いた繁体字の授業も休みとなる。また明後日から7日間授業は続けられるが、それでも折角だから集まろう、と隊長が提案してくださったのだ。

玄関に踏み入れると、カエサル、左衛門佐、おりょうの3人が入り口で待っていた。各々の分も含めて配給された食糧を手渡すと、今日は3人で食事をするから待っていろ、とのことで居間に4人揃って通された。低めの机を前にしてそれぞれ腰を下ろす。

「いやぁ、済まないな。あまり綺麗な家じゃなくて。」

「いえ、エルヴィンさんありがとうございます。わざわざ自宅をお借りしてしまって。」

「あ、いや、隊長に謝ってもらう程では……まぁ、くつろいでください。」

「ではお言葉に甘えて。」

やはり名家の出身ゆえか、隊長はとても礼儀正しい。その後は4人でたわいのない話をしつつ、料理が出来るのを待った。

 




次回予告

軍人として

正直英語の部分は手を抜いた。

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