広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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まこさおなんて書けるわけねぇだろぉえぇー!(熱並感)

どうも井の頭線通勤快速です。パンツァーリートは一番しか歌えません。

質問あればコメントでよろしくお願いします。


広西大洗奮闘記 7 蒲生邸事件

次の日は土曜日、学園は休みだ。船舶科は人員の配置整理がこの前済んだようで、艦長の担当時刻も入れ替わっている。だから今後は前来た時に来てもいないかも、と友人から手紙を貰った。それ以外には何も書いていない。

次に変わる時間が書かれていないところをみると、もうこの件に関して私には聞かないでくれ、ということのようだ。

時計を見ると今は昼の12時だ。頭がいつもの朝より軽い。最近早く起きれるようにはなったが朝は辛い。やはり時間を気にせず眠れる休日は素晴らしい。

また瞳を閉じる気も起きないので私は身を起こし顔を洗いみずを一杯飲み干すと、何かを食べようと冷蔵庫を開いた。が、

「あ……全部食べたんだった。」

私の遅刻記録はちょくちょく増えている。まあ連続にしない様には気をつけているのだが。昨日は夜遅くに出かけたせいか、本当に朝がきつくて遅刻した。

そのため私は朝の配給を昨日も今日も、それ以外にも何日か受け取れていない。昨日の夕方に貰った分は夜でなくなった。

まいった。このまま夕方まで何も食べられないのは苦痛だ。だが現在食べ物を売っている店はこの学園艦上にはない。仕方なく私はもう1杯水を飲み上下の寝巻きを着替えることにした。私服に着替えが済むと机に向かい、読書灯をつけ昨日借りた『蒲生邸事件』続きを読み始める。

黙ってページをめくっていたが、いくらか読んだところで彼女は手を止めた。中に栞を挟んで本を閉じる。本を机の端に寄せると彼女は例の件について考えを巡らせ始めた。

(まず状況を確認しよう。まず目が痛くなるほどの光が襲って、エルヴィンさん曰く雲が急激に増えた。そのあとケータイとテレビが通じなくなって、食糧が配給制になり、あそういえば1回五十鈴さんが来たな。あの時勉強に誘ったがやけに暗かったな。

で、この学園艦が西南西を向いていて、山本さんそのことを聞いたら2つヒントを貰ったな。ここが私達がいたはずの伊豆諸島沖ではないということ、それとどうやっても文科省からの援助は貰えないということ……文科省か。

伊豆諸島から移動した、そして現在西南西を向いている。で、現在テレビとケータイが繋がらない。ということは、私達は日本からかなり離れた太平洋上にいるのか?いや、これはこの学園艦が日本に向かっているとしたらだ。それに伊豆諸島沖からそこまで移動した説明がつかない。

要するに、問題なのはどうやってそう急に伊豆諸島沖を離れたか、だ。この学園艦は動いているようだからどこにも行けなくなってしまった可能性は低い。どこにも行けるのに、寄港できない。つまり港がないか港に寄れないか……)

麻子はこんがらがった頭を整理すべく紙に要項を箇条書きする。

(……ヒントはかなりあるんだが、それが1つに繋がらない。)

いきなり腹がなる。やはり朝起きて何も食わないのは厳しい。だが満腹では頭が働かないので今のうちに水で耐えながら思考を続けた。

(光……急激に増えた雲……確か青空が見えていた状態から一気に空が灰色になったんだよな。一気にか……)

ふと机に視線が向く。そしてさっきまで読んでいた『蒲生邸事件』の雪を被った洋館の屋根と割烹着姿の女性の姿が目に入る。箇条書きにしてもまだ少し頭が混乱しているので、気晴らし気分でシナリオを思い返してみる。

その時思い返したそのシナリオが彼女に一筋の光を生じさせた。しかし彼女は頭を左右に振り回す。

(ばかな!ばかな!私は狂ったのか!なぜそんなことを思いつく!これは空想!これは小説なんだぞ!)

だが、すぐにもう1つのことも分かってしまった。箇条書きと何度も見比べる。

(これも、こうなって、これが、こうなる……矛盾が、ない。だが、安易にこれに頼る訳には……この世界が、我々のいた世界では、ないなんて……)

彼女は席を立った。衝動だった。寄港日は来ない。つまりあいつは家にいる。確かめられるかはつゆ知らず、水を飲み干した彼女は家の鍵をかけて暖かく照らす太陽の下を走り出した。

真昼間のせいか、土曜日にもかかわらず街に人はいない。この時間になれば身体も目覚める。たどり着いた学生寮の階段を数階分駆け上り、彼女はその部屋の前にたどり着いた。呼び鈴を鳴らすとやはりあいつは家にいて、鍵を開け扉が、それは彼女にとっては希望か絶望、どちらかにつながる扉だった。

「あ、麻子。何かあったの?」

「沙織!無線機貸してくれ!」

「えっ?いいけどどうしたの、そんな慌てて。」

「いいから!失礼する。」

「あ、ちょっと、麻子。」

「ベランダ入るぞ!」

「話聞いてよぉー。」

制止も聞かずに家に靴を脱いで上がり込み、奥の大きな窓を大きく開く。沙織の部屋は一度行った廃校から戻る際に無線使用のため階を上げてもらったそうだ。熱心なのは試験勉強に協力した麻子からしてもありがたい。

しかも窓の外を眺めると北のほうに見えた、海岸線だ。つまり向こうには陸がある。

「……よかった、陸が見える。距離も遠くないな。」

「え?本当?」

隣で沙織が目を凝らしているが、よく見えていないようだ。

「……コンタクトしてても見えないのか?」

「視力2には敵わないよ。」

「よし、無線機をベランダに出そう。」

「あ、うん、わかった。」

重い機械を外に運び出し、コードが繋がったままであることを確認してダイヤルをゆっくり回す。雑音が長く続く。それが一瞬途切れた。左右に回しながら麻子はその一点を探す。それがやっと繋がった時、声が聞こえてきた。

『……ガ……ピー……じつありましたイタリアのエチオピアしんこ……に伴う国連の制裁ですが……かはあるのでしょうか?』

『いえ、この決議は……か的に英仏が侵攻を容認……たと考えて差し支え……いだろう。というのも……』

ここで麻子は無線機のスイッチを切った。ただ呆然自失として腰が抜けたように座っている。

「え……今の何言ってたの?」

「……」

「国連が何とかがどうとか言ってたけどあれは何?」

「……」

沙織は麻子の体を揺さぶるが反応はない。次は首が折れんばかりに力強く揺さぶられると、やっと麻子は自我を取り戻した。

「……なんで、だ。」

「えっ?何を言ってたの、あのラジオ!」

麻子は1つ深呼吸し、自分を落ち着かせると素早く言い放った。

「沙織!世界史の教科書か資料集あるか?」

「世界史の教科書?あ、あるけど、それが」

「いいから見せてくれ!」

「さっきから麻子どうしたのよ。」

「早く!」

「分かりましたよー。」

沙織はむくれた顔で机を少し探して教科書を取り出す。それを奪うように受け取った麻子は後半の方を開き、そこからしばらく無言でめくり続けた。

そしてそれはあるページで止まった。そのページに指を走らせ、間も無くそれは止まった。

「……1935年10月……」

「だーかーら、麻子何があったのよ!」

「第二次エチオピア侵攻だ。」

「は?」

「さっきの無線はそれを伝えていた。恐らく日本の放送を拾ったんだろう。くそっ!何でこれで論理が成り立ってしまうんだ!何でなんだ!」

「で、そのエチ……何ちゃらというのは何よ。」

「……すまない沙織、世話になった。」

「だから何なのよー!話聞きなさいよー!」

麻子は教科書を机の上に置いたままさっと立ち上がり、部屋を出ようとドアノブに手をかけた瞬間、間の抜けた単一音調の低音が少し長めにその部屋に響いた。

「……」

「……」

ゆっくりとだが麻子のほおが紅に染まり始めた。

「麻子、ご飯食べてないんじゃない?」

麻子は沈黙し、沙織に背を向けたまま気恥ずかしそうに頭を下げた。

「やっぱり。遅刻減っているとは言ってもまだまだあるし、昨日も遅刻してたから朝の配給貰えてないし、麻子は休日起きるの遅いから今朝も貰えてないだろうし、ご飯なくなってる頃だと思ったよ。話も聞きたいし、何か食べてってよ。私はまだ備蓄があるから。」

そう言って沙織は返事も聞かずに冷蔵庫を探し始めた。確かに麻子は半日以上水以外口にしていない。そして夕方まで貰えないのは厳しい。仕方なく麻子はその誘いに乗ることにした。

 

麻子が机に座らされている間、眼鏡をかけた沙織が鼻歌を歌いながら手持ちのものに調味料を加えフライパンを振っている。十分も経たずに麻子の前の机の上には皿に乗ったチャーハンが乗っていた。

「さぁ、はやく食べて!」

「……美味そう。」

「でしょ!」

皿の上のチャーハンは湯気を立て、白米の白さを見せながら唐辛子の赤みとキャベツ、ピーマンの緑が負けないくらい主張する。麻子はまた腹のなる前にスプーンでそれをすくって口に運んだ。胡麻油の香ばしい香りと唐辛子の辛味、野菜の優しい甘みが同時に口に広がった。麻子は無言で次、またその次とチャーハンをすくい続ける。

「それで、」

チャーハンを口に頬張る麻子の正面に座った沙織が口を開いた。

「無線機貸してご飯も作ったんだから麻子が何を知ったのか、私にも知る権利があるでしょ?」

麻子は口のものを飲み込んでから話を始めた。

「……本当に聞くか?この話は絶望しか生まない。お前がただの興味でこの話を聞こうとしているなら、私は絶対に話さない。」

「麻子は絶望しているの?」

「もちろん。今のこの世界に絶望している。何もかも、な。」

「……?」

沙織は机の上に置きっ放しだった世界史の教科書をめくり始め、麻子がさっき見たページを開いた。そのまま沙織は黙読を続ける。

「……えっと、さっき言ってたのはエチオピア侵攻、これ?」

「そうだ。」

麻子は最後の一口を放り込む前に答えた。

「…うーん、何でこんな昔のことをラジオでやってたんだろう。しかもここら辺まだ授業でやってないから分かんないよ。というより、本当にこれのことやってたのかな?」

「……やはり教えられないな。それに山本さんとの約束もあるからな。」

「山本さん?ああ、麻子の船舶科の知り合いか。その子がどうしたの?」

「山本さんと誰にも言わないと約束したんだ。例えそれがお前であっても。」

「何で山本さんが関係するの?」

「山本さんがいなければ今回のことは分からなかった。船舶科は情報統制を行っているが、それを侵して罰則覚悟で教えてくれたんだ。これに報いないわけにはいかない。」

「……麻子は何をする気?」

「生徒会の皆さんと五十鈴さんを助ける。恐らく生徒会の皆さんはこの話を分かっているはずだ。」

「分かった。もう私の分かる話じゃない。華が楽になるよう助けてあげて。」

「もちろん。それじゃあ、ごちそうさま。またいつか今日頂いた分返す。」

立ち上がって皿を流しに入れる。

「いいよいいよ、気にしないで。」

「必ず返す。失礼する。」

玄関での沙織の見送りに答えた麻子は、再び絶望の扉を開け帰っていった。沙織は麻子の背中を遠くに見ながら何かにひびが入ったような感じがした。しかし、沙織はその音に気付かないふりを自分にしながら流しの皿を細く出した水で洗い始めた。

 

2012年10月13日 日本戦車道連盟本部

「……どういうことでしょう。」

「どういうこととは?こちらが聞きたい。」

その部屋では窓の側に立った小太りで紋付袴を着た親父が扇子片手に直立して、席に座った女を見下ろす。

「とぼけないでください。なぜ、来年度のこの8校の補助金停止及びその他の戦車道を導入している学園の予算削減に同意しているのですか!戦車道連盟会長!」

女は勢いよく席を立ち、親父と目線を合わせる。

「君は昨今のニュースを知らないのかね。それを考えれば自ずと答えは分かるだろう。」

「ええ知ってますとも!ですが、まだ行方不明になってから1週間も経っていません!」

「1週間も、だ。蝶野君。あれからあの8校の消息は少しもない。微塵もない。海上保安庁が全力で操作しているにもかかわらずだ。仮に沈没しているとしたら、もう乗員の生存の可能性はない。

そして8校がなくなったと思われる時間より少し後に日本各地で微弱な津波を観測している。それは学園艦があった所に近いほど強い。

すなわち何らかの理由で8校の学園艦が同時に沈没したと考えるのが自然だ。」

「そんなことがあり得るのでしょうか?8校同時になんてほぼ起こり得ないでしょう。それに沈没していながら近くの港に一切、SOSさえ無線を送らない、挙句には住民からの連絡も誰も受け取っていない、これは異常ではないでしょうか?」

「1つだけ可能性はある。テロだ。まあ、爆破を目的にしたハイジャック、と言ってもいいかな?」

「テロ、ですか。」

「そう。まず学園艦というのは基本的に管理体制が甘い。この前の大会でもサンダース大付属に大洗のスパイが進入したという報告が入っている。あの金が有り余っているサンダースでさえ一介の学生に進入を許す有様なのだ。進入準備万端のテロリストが進入しても不思議はない。

船内の警備体制も甘い。なにせ船内を含めれば平面にしてかなりの広さがある。警備も行き届かなくなるだろう。

そして準備が整い次第同時に何十箇所も爆破する。あの小さい大洗学園艦でさえ船底250メートルもあるんだ。水圧で早急に傾くくらいはするだろうな。」

「しかし、学園艦はブロック工法のはず、どこかで水は止まるのでは?」

「そいつも含めて爆破するのさ。だから今回テロで沈没したとしたら、相当の手練れを使い、かつかなりの予算と準備期間をとっただろうな。

とにかくこう言うわけで、沈没の可能性はある。そして現在これが最も有力であるのもまた事実だ。

で、だ。国は存在しない学園に金を出すわけがない。そして現在の高校の戦車道を考えてみよう。まともな学園が残っているか?いなくなったのはまず4強の黒森峰、プラウダ、サンダース、聖グロリアーナ。そして今回の優勝の大洗。そのほかの有力校の継続、知波単、アンツィオだ。これらがいなくなってまともにやっているのなんてマジノくらいなものだ。そんな所に金は出ない。

そしてプロ選手候補が今回ほぼいなくなった。プロリーグの成立を目指す文科省としてもこうなっては高校生戦車道を支援する理由がない。だから減らすことに合意した、というわけだ。」

「それはあなたが合意した理由ではないでしょう。なぜ、彼女らを信じないのです!仲間のために国に抵抗した彼女らを!」

「そうは言っても存在しないものはしない。そんな物のために金をとっとくくらいなら国債を1円でも返した方が何倍も得だ。」

「とうとうあなたまで国の犬に成り下がりましたか!戦車道連盟も落ちぶれたものですね!」

「何とでも呼びたまえ。私は元来戦車道の拡大に反対だった。戦車道連盟はバブル期の借金を現在も返済し終わっているわけではない。

そんな中戦車道を拡大したらどうなる!試合の増加!補償金の増加!この前の大学選抜との対決は廃遊園地だったから良かったものの、その前の大洗のエキシビションマッチなんぞ補償金だけて何百億とか吹っ飛んだんだぞ!おまけに修理してすぐのところを吹っ飛ばしおって!そんなことが続いてはまた戦車道連盟が何も出来なくなる時が来る。

スポンサーだって今で大口のところは決まっている。これから先大幅な収入増は見込めない。補償金の出ない状況が起こったら、2度と戦車道は出来なくなる。私はそれを避けたいのだ。

少なくとも戦車道を拡大するのは今ではない。無論、彼女らが生存しているならばこちらとして最大限の援助はしよう。」

「……」

「蝶野君、今日は帰ってくれ給え。捜索は海上保安庁の仕事だ。そういえば、西住の師範は体調が優れないそうだ。見舞いにでも行ったらどうだ?」

「……失礼します。」

蝶野は底知れぬ怒りを押さえつけながら、連盟会長の言うことに従い背を向けて、扉を大きく音を立てて閉じて去っていった。

 




最近ニコ動でガルパン&hoi2の新動画が出てたんですよね。完結してもらいたいと思いつつ、私もこれを完結させようと思います。だってアカ娘もダージリン国王もチョビinイタリアも失踪しちゃってるんだもん……事情はあるんでしょうが、頑張ってもらいたいと思います。

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