今更ながら前回次回予告し忘れてたことに気づいた。
ゴモヨは生徒会長室の小山の横で無線機を耳に当てた。
「C班班長ヤボク、配置は問題ないっす。」
「了解。いつ来ても良いよう待機し、来た時は鎮圧に全力を尽くしなさい。」
「あと偵察から続報で、向こう動いたっす。配給所に集まった者らはほんの一部を除いて学園に向かってるっす。
それと風紀委員以外の者が合流しているという情報も来ているっす。数は多くないようですが。」
「……支持者が付いているって事かしら?まぁ、特に訓練はされていないだろうし、大した脅威にはならないでしょう。」
「ですが捕らえられる者も多く、いずれは向こうの様子が探れなくなるやも……」
「分かったわ。取り敢えず最後の一人まで偵察を続けさせなさい。C班は一人として校舎内への侵入を許さないように。窓から来ることも考慮に入れなさいよ。」
「了解したっす。」
無線機を耳元から外し、机の上に置いた。
「……来ます。」
「そうですか。向こう側の人間は必ず捕らえるようにしてください。それが会長の指示ですから。」
「分かりました……」
「小山副会長。」
先程のヤボクからの情報を他の班に伝達している間に、近くにいた生徒会の者が小山の左手に無線機を乗せる。
「こちらIV号に繋がっています。」
「ありがとう。こちら小山です。武部さん、聞こえますか?」
「はい。こちらあんこう。」
「西住さんに繋げて頂けますか?」
「分かりました。」
受け答えする声が一段低くなる。
「西住です。」
「小山です。西住さん、今回の件に関してお伝えします。蜂起勢は現在こちらに向かっています。西住さんは風紀委員と共にこれを退けてください。
まずは渡した拡声器で警告、退かなければ次いで威嚇射撃をしてください。流石に戦車から撃たれれば生身の向こうは引き下がると思います。その後の追撃は風紀委員に任せてください。」
「……もし……万が一、それでも退かない時は?」
「……機銃も砲弾も人を殺さないように出来ていますよね?」
「勿論です。戦車道はスポーツですから。砲弾は人には当たらないようになってますし、機銃も非殺傷弾を使用してます。」
「でしたら、向こうが威嚇でも退かない際は機銃による戦闘を許可します。撃退してください。」
「……え?」
「戦闘を許可します。残念ながら、向こうが想定しているのは戦車道でもスポーツでもありません。学園の命運を賭けた、ルールの無い戦いです。」
「いや……でも……」
「いつ撃つか、その判断はお任せします。なんなら撃たなくても構いません。学園校舎内に蜂起勢を入れない手段があるならば。」
「……」
「校舎内にいる風紀委員は、数も練度も外より劣っています。突破されたら厳しい、と後藤さんもおっしゃっていました。必ず外で食い止めてください。以上です。まぁ来ないとは思いますが、皆さんの武運を祈ります。」
「あ、ちょっと……」
返事を聞かず、小山はスイッチを切った。音を立てて椅子の上に乗る。
「……副会長、大丈夫ですか?」
「……次を。」
「は、はい。ええとM3Leeですね。ただいま……」
さっきの者に突き返された無線機は、新たな繋ぎ先を探す。隣のゴモヨが、首を一段階前方に下げた。
「……そう……分かったわ。偵察の情報は無しで、指揮に専念しなさい。」
「どうなさいました?」
「……ヤボクから、偵察の者全員からの連絡が途絶えた、とのことです。」
「相手がこちらに向かっているというのは変わりないのでしょう?」
「それはその通りです。」
揃ってひたいの汗を拭う。小山の前に、再びさっきの無線機が現れた。
「副会長、こちらM3Leeに繋いであります。」
「ありがとう。宇津木さん、聞こえますか?」
「聞こえてますよー。今梓に繋ぎますね。」
戦闘。ルールのない戦い。そう、それは正にみほが心底避けて来た、避けようとした戦争そのもの。私が、その指揮をとるのか。
「……西住殿、どうなさいました?通信ではなんと?」
「……あ、ええとね……取り敢えずこの拡声器で警告、次いで威嚇射撃……だって。ここの突破させないように言われた……」
「向こうは生身の人間ですからね。撃たれたら身の安全を優先するでしょう。」
「だよね。誰だって痛いのやだし。」
乗員は車長兼装填手のみほ、通信手の沙織、操縦手の華、砲手の優花里と、麻子がいない為、沙織を通信手に付けた以外は初めて戦車を動かした時と同様になっている。撃たないことを望むことに優秀な者は付けない。
「だよね……うん、そうだよね。」
「そうですよ。向こうもそこまで本気じゃありませんって。」
「あ、沙織さん……今の内容、こっち側の各車に伝えてくれる?」
「勿論!えっと、こちらあんこう。あひるさん、アリクイさん、レオポンさん、聞こえますか?」
『問題ありません。』
『大丈夫だよ。』
『OK。』
「小山副会長から伝達。相手が来たらまずはあんこうが警告します。ダメなら各車で威嚇射撃を行なってください。向こうに当てないように。」
『了解しました。』
『分かった。』
『何とかやってみよう。あ、移動に関しては何か指示ある?』
久々に鉄の匂いに囲まれ、少々テンションの上がっているナカジマが聞き返す。
「みぽりん。ナカジマさんから、移動に関しては何かあるか、って。」
「……近くに風紀委員の方もいるので、あまり急に、大きく動かないように、と伝えてください。」
「はーい。」
沙織は乗り出していた半身を戻し、無線をまた弄り始める。
「……」
「五十鈴殿、西住殿の顔に何か?」
「……あ、いえ。ちょっとボーとしてしまって。」
「華さん、大丈夫?今まで生徒会忙しかったと思うし。」
「大丈夫です。あんなことでへこたれてはいられませんから。これからの方が移設関連で忙しくなります。」
「なら良いんだけど……」
「それに今回操縦はあまり必要ではないみたいですので、問題ありません。休息代わりにします。」
「分かった。」
みほの頭上の蓋が数度叩かれ、縁との衝突を繰り返す。震えるキューポラを押しのけて頭を出すと、一人のおかっぱ少女が覗き込んでいた。
「ひゃっ!」
「あ、失礼いたしました。」
思わず縁に腰を当てて仰け反ったみほに対し、風紀委員らしき女は頭を掻きながら謝意を示す。
「私、ここのグラウンド防衛を担当するA班の班長の佐渡と申します。以後お見知り置きを。」
「は、はぁ……よろしくお願いします。」
「早速ですが、今回の防衛に関して確認しておきたいことがありまして。追撃は我々が行う、というのはご存知だと思いますが、向こうが来た際、戦闘の開始の合図は我々が出すかそちらが出すか、統一しておきたいと思いまして。」
「え……えと。」
「こちらとしては、私の声ですと全員に届かないかもしれないので、そちらの砲声を合図にしたいのですが。」
「で、ですが砲撃は威嚇でも使いますし、出来ればそちらで判断していただきたいのですが……」
「戦闘が始まると戦車より前には出れません。戦闘になった際はそちらが主体になりますので、そちらが進めるべきかと思います。
でしたら威嚇後のIV号の砲撃を合図に私が号令をかける、というのはいかがでしょう?」
「ええと……」
「みぽりん。澤さんから通信だよ。」
返答に戸惑っていると、沙織がみほを呼び止めた。それに気を引かれた間に、返事を待たず、ではよろしくとだけ言って、佐渡という女は戦車から飛び降りておかっぱの波の中に消えていった。
「あ、あの……」
「みぽりん、取り敢えず繋ぐね。」
「う、うん……澤さん、どうしたの?」
「西住先輩、先程小山先輩から指示を受けまして、こちら校門側が戦闘する際は西住先輩の許可を得ろ、とのことです。」
「……え?」
次回予告
歩き出した少女